二次創作小説(新・総合)

Re: ハリー・ポッターと銀色の精霊使い【ハリー・ポッター】 ( No.2 )
日時: 2020/05/14 22:55
名前: ケルン ◆14iGaWqIZs (ID: 66mBmKu6)

 嫌な夢だ、と子供は思った。それは、この物置にやってきたあの日のこと。

『いいかしら、あなたは呪われているのよ』
『はい……先生』
『だから人に迷惑をかけないために、ひとりでいないといけないの。……あなたは永遠にひとりぼっちなのよ』

 ガタンと扉が閉まる音を聞いた気がして、子供は目を覚ました。
 いつの間に眠っていたのだろう。起き上がると手入れされず、ボサボサな銀髪が肩に垂れた。
 裸電球が照らす室内の外を見やれば、真っ暗だった。
 狭い室内には段ボールが積まれ、そこに子供がいるボロボロになったベッドがある。要するに、本来は物置である場所が子供の部屋だった。

「……怖い」

 冷たい瞳。化物だ、呪われた娘だと罵声を浴びせる先生や孤児院の友達。優しかった人々が手のひらを返すように、子供を突き放した。
 物置に隔離し、食事――と言ってもパンと水だけをくれる以外は会いに来てくれない。来てくれても、言うことを聞かないと罵る。この孤児院に、少女の味方はいなかった。

「でも、わたし呪われてるからひとりでいなくっちゃ……」

 子供は、自分に言い聞かせる。
 この部屋にいるのは、みんなに迷惑をかけない為。自分が全部悪い。孤児院の先生に言われた言葉を、子供は一生懸命に守っていた。
 しかし、外が真っ暗な時間に一人きり。ひとりぼっちなのは慣れてきたとは言え、まだ怖い。泣きたくなる。

「やだ、ひとりはやだ……」

 紫色の瞳を潤ませ、子供はベッドに顔を押し付けた。
 誰も助けてくれないのは、分かっている。
 両親は自分を捨てた、呪われた子供はみんなに嫌われる。自分を助けてくれる人は絶対にいない。
 あなたは永遠にひとりだ、先生はそう言っていた。
 だから、誰も来るはずない。しかしそんな子供の思いと裏腹に、猫の鳴き声がした。

「にゃー」
「え!?」

 びっくりした子供が顔を上げると、ドアの前に黒猫が座っていた。
 毛並みは艶があり、体型はスッとしていた。首には細かな飾りが施され、緑の宝石がついた首輪をしている。お金持ちの飼い猫のような雰囲気があった。

「黒猫さんどこから入ってきたの? 先生、鍵かけてたのに……」

 子供は、眠る前に先生がドアを施錠したのを確認していた。
 この部屋の窓は閉まっているし、猫とはいえ出入りできないはず。黒猫が入ってくる場所が思いつけなかった。

「にゃ?」

 黒猫は灰色の瞳で子供を見上げ、とぼけるように首を傾げた。
 一応子供がドアに近づくと、いつの間にか開いていた。

そっとドアを開け外を覗くと、静まり返った廊下がある。黒猫は、ここから入ってきたらしい。
 先生が鍵をうっかり開けて忘れたのかな、と子供は思った。

「閉めなきゃ。怒られちゃう」

 自室へ引っ込むと、少女は一度ドアを閉めた。鍵は本来中から弄ることはできないが、子供は裏技を知っていた。例の呪われた力である。
 迷うことなく、鍵がある部分に手をかざした。すると鍵が勝手に回り、施錠される音がした。
 一応、ドアを引っ張り閉まっているのを確認すると少女は部屋に戻ってきた。

「にゃー」

 黒猫はいつの間にか移動しており、ベッドの上に我が物顔で座っていた。 
 猫なので言葉は通じないと知っているが、子供にとっては久しぶりの話し相手だ。一方的に話しかける。

「びっくりした、黒猫さん?」

 黒猫の隣に腰掛けながら、少女は暗い顔でうつむいた。不思議そうな顔をして、黒猫は小首を傾げる。

「にゃ?」
「黒猫さん、帰った方がいいよ。……わたし、呪われてるから。ひとりでいないといけないの」
「にゃお?」

 子供は真面目な顔で黒猫に帰るよう促すが、猫は何でと言いたげに首を傾けるだけ。これは、と子供はある期待を抱きながら黒猫に問いかける。

「黒猫さん、わたしの言葉が分かるの?」
「にゃー」

 黒猫は頷いて、尻尾を振った。子供は紫色の瞳を輝かせた。

「すごい! ねえ、わたしとお友達になってくれる?」
「にゃおう」

 もちろん、と黒猫は返事をする。久しぶりに出来た友達に、子供は嬉しくて仕方なかった。

「じゃ、じゃあわたしのお話聞いてほしいな」
「にゃ」

 黒猫が頷くのを確認すると、子供は少し離れた場所にあるテーブルに手を向ける。すると、テーブルの上に無造作に置かれていた木の棒が持ち上がり子供の手の中に収まった。
 黒猫は、その光景を食い入るように見つめていた。

「わたしね、変なの。物が浮いたり、窓割っちゃったり、顔とか目の色とか髪の色が変わったりするの。変なの」
「にゃうー」

 そんなことない、と言いたげに黒猫は首を横に振った。お礼を言う代わりに喉を撫でてやると、黒猫は気持ちよさそうな顔をする。

「みんなと違うとね、みんなが嫌だって先生言ってた。だからね、迷惑かけちゃいけないからここにいないといけないの……でも、ひとりはやだ。怖くて寂しいよ、黒猫さん」

 話している内に悲しくなった子供は、紫色の瞳を潤ませていた。猫に話したところで何にもならないと分かっていたが、聞いてくれるなら人間でなくてもよかった。それ程に、子供は孤独に怯えている。

「大丈夫」

 突如、明らかに鳴き声と違う声が聞こえ子供は固まった。いたずらっぽく微笑んだ黒猫は、驚く子供を前に人間の言葉を紡いでいく。

「僕が一緒です」
「く、黒猫さんが喋った!」

 流暢に人間の言葉を話す黒猫を、子供はまじまじと見つめる。よくできたおもちゃかと思ったが、普通の黒猫にしか見えない。

「え、電池入ってるの?」
「おもちゃではありませんよ。僕は、特別な黒猫なのです」

 大人びた笑みを見せる黒猫に、子供は紫色の瞳を輝かせる。

「特別なの?」
「ええ。僕は魔法が使える黒猫です」
「魔法? すごいね、みたいな!」

 魔法。おとぎ話でよく出てくる不思議な力だ。
 この黒猫はしゃべるのだ、それくらい出来てもおかしくない。子供は未知への恐怖より、好奇心がまさっていた。単に話し相手になってくれるのが嬉しい、と言うのもあるが。

「いいですよ」

 黒猫が前足を軽く振ると、辺りに銀色の煙らしきものが現れる。煙はみるみる内に膨らみ、一体の動物を形作る。立派なたてがみに、威厳あふれる顔つき。百獣の王たる獅子――ライオンの姿がそこにあった。

「銀色のライオンさんだ!」

 目を輝かせる子供の前で、銀色のライオンは辺りを自由に跳躍しやがて、彼女の前に降り立つ。
 恐る恐る子供が手を伸ばし、触れるとガラスを撫でたような感触と共に冷たさが指先にしみる。ライオンの身体は透き通っているが、実体はあるらしい。

「それはパトローナスと言いまして、動物の形をした守護霊……まあゴーストみたいなものですね」

 黒猫が前足をもう一度揺らすと、銀色のライオンは消えた。

「あ、消えちゃった」

 もう少し堪能したかったのか、子供は残念な顔をする。

「とまあ、これが魔法です」

 すごい、と子供は拍手を送るが悲しげな顔になる。自分の力は、呪われた力。魔法と違い、人に迷惑をかける嫌なものだ。

「すごいね、魔法。……わたしも、魔法ができたらよかったのに」
「あなたもできますよ、魔法」

 え、と子供は瞬きをした。

「あなたが言っていた物を浮かせたり、窓を割ったりするのは全て魔法の力です」
「呪いじゃないの?」

 黒猫の言葉に、子供は衝撃を受けていた。あの銀色のライオンと自分の呪われた力が同じものだと言われ、信じられなかったのだ。

「確かに魔法は時に人を傷つけたり、迷惑をかけることがあります。子供は魔法の力を上手く制御できないので、みんなをびっくりさせてしまいます。そのせいで、呪われていると言われてしまうのですよ」
「わたし、呪われてないの?」