二次創作小説(新・総合)
- ABT⑩『道化師と呼ばれた男』 ( No.103 )
- 日時: 2020/05/15 22:00
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: ACwaVmRz)
~処刑場~
搖動軍が上手く道化師達を引き付けてくれているお陰で、ヴィルヘルム達3人は幸いにも敵に見つからず上手く2人のいる場所まで順調に進んでいました。
『悪魔というものは、こんなにも単純なものだったのか』。思わずベレスが口走ると、先頭を進む男は『血の気の多い輩が多いのだろう』と冷静に返しました。
マルス「2人の居場所はまだ遠そうかい?」
ヴィル「かなり上の方に囚われているからな…。彼奴等、『JOKER』を我々が連れてくるまでは開放するつもりはないらしい」
ベレス「『かなり上』か…。幸い剣を引っ掛けて登れそうな岩が沢山あるからいいけれど、平坦な空間だったら自分達じゃ無理だっただろうね」
マルス「ぼくのファルシオンはきみみたいに伸ばせないから無理かな…?」
ベレス「大丈夫。そうなったら自分がマルスを担いでいくから」
マルス「女性は普通そんなこと言わないんだよベレス?!」
後ろで呑気にくだらない会話を続けているマルスとベレスに、ヴィルヘルムは小さくため息を1つつきます。マルスはともかく、ベレスは相棒といえる存在が囚われているのにどうしてあんなに呑気なんだろうか。いつもと同じ表情を変えない彼女に半ば呆れてしまいます。
…ある程度登ったところで、マルスがついに『あの話題』について触れてきました。
マルス「…ヴィルヘルムさん。そろそろ聞かせてほしいな。貴方の言う『JOKERの真実』とやらを」
ヴィル「作戦会議を行う前、マルス殿が『私がJOKER』だと指摘した件―――。あれは正しい指摘だ。彼奴等が探している御伽話にあった『JOKER』…。かつて『私が呼ばれていた名』だ」
マルス「やっぱりそうだったんだね。やけに古い話について詳しいし、神様が『JOKER』の件について触れたがらないのは…貴方が関係していると思っていたんだけど、間違っていなかったようだ」
ベレス「え?ヴィルヘルムが『JOKER』なの?…それは驚いたな」
マルスの問いかけに、ヴィルヘルムはやけにあっさりと答えました。自分が、『道化師の探し求めているJOKER』だと。マルスは薄々勘付いていたようでなるほど、と納得したような顔をし、ベレスは相当驚いたのか目を見開いてまん丸にしながらヴィルヘルムの方を向いています。
―――しかし、ならば尚の事『JOKER』を探す話になった際に名乗った方がいいのではないか。彼女はそう頭によぎり、その考えをヴィルヘルムにぶつけてみました。すると、彼は少し沈黙を貫いた後―――静かにこう告げました。
ヴィル「貴殿らが知りうる御伽話で、『JOKERの身体』はどうなった?」
マルス「えっと…。確か、『強大な魔法の使い過ぎで、魔法自身が道化師の身体を滅ぼしちゃった』んだよね」
ヴィル「あぁ。―――私は『ポップンワールド』出身ではない。元々はMZDと同じ世界の地下にある、魔界の一角を支配していたのだ。私はその世界で、無数の魔法を開発した。そしてまた―――無数の星々や大地を砕いた。罪なき村を幾つ焼いたのか…罪なき魂を幾つ消したのか。今思えば、貴殿らが言っている『道化師』と同じようなことをしていたのかもしれん」
マルス「…………」
ヴィル「当時は『感情』や『心』などあって無いようなものだったからな。人の命を、魂を奪うことに―――なんの躊躇もなかった。私の興味を尽くしてくれる、『知』の欲を満たしてくれるものであれば…犠牲などいくらあっても関係なかった。
そんな日々を過ごしていた後、私は『人工的に生命を創り出す魔法』を生み出そうとふと思い立った。研究の結果、『新鮮な子供の血液が必要だ』と知った私は、試しに『子供の願いを聞き入れる代わりに、願いが叶った時子供の血液と魂を貰おう』そう思い立ち、地上に噂を流した」
ベレス「人工的な、生命…。レアと、同じようなことを…」
ヴィル「噂というものは実に便利だとその時気付いた。『願いを叶えてくれるピエロさんがいる』私が降り立った『とある街』の子供達はその噂を聞きつけ、次々と私を探し当て、自分達の願いを聞いてもらおうと現れたのだ。その都度、私は願いを聞き入れ…そして、子の命を奪った。魔法の研究に情などいらなかったからな。次々と、私の目の前には屍が増えていった。
そうして子を滅ぼしているうちに出会ったのが―――人間だった『MZD』…『翡翠』という子だった」
ヴィルヘルムが淡々と事実を述べているその姿に、マルスとベレスはどういう表情をすればいいのか分かりませんでした。どちらも戦争を経験している身の為、命を奪うことがどれだけ辛いことかを身に染みて分かっています。だけど…彼はかつてそうではなかった。『新たな魔法』を生み出す為ならば犠牲などあってないようなもの…。その言葉を聞いた時、マルスの背中に冷たいものが張り付いたような感覚を覚えたのはそう難しいことではありませんでした。
それでも、今の彼は話している『JOKER』であった彼とは全く違う。何が彼を変えたのかは分からないが、話をまだ聞こうと思って耳を傾けるのでした。
ヴィル「当初は他の子と同じように『魔法の材料』程にしか考えていなかった。しかし―――彼が私に放った言葉で、何かが砕ける音がした。彼は…『道化師さんと友達になりたい』と言った。それが願いだと。……彼の心の中に、『底知れぬ光と、それを覆う闇』があったのが分かった。
―――私は、彼に『初めての感情』を覚えた。思えば、あの出会いがあったからこそ…『感情』が生まれたのかもしれない。その時に感じたものは…底知れぬ『恐怖』。目の前に不思議な顔で佇んでいる少年に、私は初めて『恐怖』を覚えた。
その感情を否定しようと、私は彼の魂と血液を奪う為、彼を殺す為魔法を放った。しかし―――それが間違いだった。放った瞬間に気付いた。彼は『神々の候補に選ばれた人間』だったのだ。その道を鎖そうとする私に神々が何も思う訳はあるまい。神々は私の魔力を利用し、放ったはずのあの子の心臓…そして魂に『双方の魂が未来永劫、世界に縛り付けられる呪縛』をかけた。…自らの魂が完全に消滅できなくなったと瞬時で理解した」
マルス「それが、貴方の言っていた『罪』なんだね…」
ヴィル「そういうことだ。呪縛があの子…MZDにかかってしまった以上、私が彼に関わればまた神々からの妨害を受ける。そう思った私は、一旦魔界へと引き上げることにした。…結局、血液と魂を利用しても『人工生命』の魔法は生み出せなかったのだがな。
…そして、御伽話の通り私は『一度目の死』を迎える。自らの魔力によって身体が滅ぼされると分かった私は、この世の理を覆す究極の魔法『永久』の開発に手を出した」
ベレス「『永久』…。道化師じゃなくて、彼らを手を組んだ神々が欲しがっている力だよね。その『永久』って…。どんな魔法なの?」
ヴィル「かみ砕いて言えば―――人工的に創り出した『神の力』だ」
マルス/ベレス『?!』
『永久』って…『神の力』?!確かに魔族が神の力を使うなんて普通ありえないことですが。ヴィルヘルム、貴方それを自ら創ってしまっていたんですか?!
マルスとベレスが驚いたのも無理はありません。だって、神々が求めている『永久』の力が『神の力』だなんて…。滑稽にも程がありますよ。
マルス「じゃあ神々は『神の力』を求めているってことなの?!何とも矛盾した話だね…」
ヴィル「彼奴等が何を目的として『永久』を求めているかは分からん。だが、基本的に『神の力』は人工的に生み出せないものなのだ。それを生み出してしまったが故―――。恐らく、彼奴等も本質が何なのか気付いているはずだ。
…話を続けるぞ。その『永久』を開発するに至って―――『あの子』を殺そうとした時を思い出した。あの子の内なる神の力を模倣すれば、『永久』を開発できるかもしれないと思い…そして、『創り出してしまった』。―――そして、自らの魔力を『永久』に変換したその時…身体の崩壊が始まった。身体が我が魔力に耐え切れなかったのだ」
ベレス「それで、4人の弟子に『JOKERの力を継承するヒント』を与えて、身体が消えてしまったんだね…」
ヴィル「…御伽話での『JOKER』についてはここまでだ。だが、『私』としての物語は未だ続いている。―――あろうことかMZDが『自分の世界に私の魂を縛り付けてほしい』と頼んだらしくてな。彼が用意した『新しい身体』に私の魂は定着して、ポップンワールドで『二度目の生』を与えられたのだ。だが…そこで問題が発生した」
マルス「問題?」
ヴィル「自らが『JOKER』と呼ばれていた道化師だったこと。そして、自らの魔力を『永久』に変換し封じていること。…道化師としての記憶は持っていた。ただ、MZDと出会い、自らが呪縛をかけた記憶『だけ』がすっぽりと頭から消えていたのだ。まるで、もやがかかったようにその記憶だけ思い出せない。恥ずかしいことに、ゼウス殿にその部分の記憶だけ『曇らせられていた』らしい。
そうして、私は彼のことを思い出さぬままジャックの素体に自らの魔力を分け与え手足として世界がどうなっているかを調査させながら、何百年もの時が過ぎて行った…。そして、『彼』…神となったMZDが私に会いに来たのだ」
マルス「あっ、なるほど。神様が会いに来たのをきっかけに、ヴィルヘルムさんは神様のことを思い出したんだね」
ヴィル「…何故知っている?!」
マルス「少しだけ、前に神様が話しているのを聞いたことがあってね。『ヴィルとは一度本気の殺し合いをした上で今の関係にある』って」
ヴィル「あいつ…!私にとっては屈辱以外の何物でもないから話すなと散々お灸を添えたというのに…!」
ベレス「まぁまぁ、落ち着いて。…でも、それだけ神様もヴィルヘルムもお互いを大切に思っているってことは伝わったよ」
ヴィル「今も我が魔力は高まり続けている。以前と同じように全力で魔法を使っていたら、また身体が滅びを迎えるのは想像に容易い。今は『永久』の力を応用し、自らの魔力の8割を『永久』に封じているのだ」
ベレス「は、8割…。ってことは、今は2割程の魔力で運営本部として働いているんだよね?2割であの実力か…。本来の力を出したらどうなるんだろう…」
ヴィル「…何故口角が上がっている?最も、MZDの方もサングラスに8割程神の力を封じているがな」
マルス「…でも、今の話を聞いて確信を持ったよ。『JOKER』…しいては『永久』の魔法。貴方ですら一度身体が滅びたほどの危険な力…敵側に渡ってしまったらどうなるか。制御できずに世界が滅びてしまう可能性だってある。絶対に『道化師』に渡しては駄目だ」
ヴィル「元々捕まるつもりも渡すつもりも毛頭ない。それに、もう既に私は彼奴等の思っているような『JOKER』ではない。それを思い知らせてやらねばな」
ベレス「…うん、そうだね。―――そろそろつきそうな気配してきたけど、これからどうする?」
神の力をも創り出してしまった『JOKER』の知識や力。そして彼によって創り出されてた『永久』。道化師に渡ってしまった場合、彼らがどう使うか、等想像に容易いです。絶対碌なことになりませんよね。
……そんな話をしていると、ベレスが雰囲気が変わったとヴィルヘルムに語りかけてきました。彼もMZDの呪縛の力が近いと思っていたのか、自らの案を2人に提言しました。
ヴィル「マルス殿、ベレス殿。どちらか『檻を破壊した経験』はあるか?恐らく、魔力が通用しないものだと思うから物理的に破壊したいのだが」
マルス「随分と物騒だね…。でも、ぼくも以前アリティアではない別の世界で檻を壊した経験ならあるよ。任せてほしい」
ヴィル「そうか。では、ベレス殿は監視を引き付けてマルス殿が檻を破壊する時間を作ってくれ。私は…マルス殿が檻を破壊した後、影から2人を回収して道化師から引き剥がす」
ベレス「分かった。戦闘関連なら任せて」
マルス「ヴィルヘルムさんは影に潜むことも出来るんだもんね。…あっ、檻が見えてきたよ!警備は…殆ど搖動軍のところに行っているみたいだ。1人か2人か、ってところだね」
ベレス「2人共後ろ手で手錠をかけられているね…。神の力は手錠で封じられているのかな?」
ヴィル「2人ならば、力が使えれば檻などすぐに破壊して脱出しているだろうからな。そう考えるのが自然だろう。…よし、タイミングを合わせてベレス殿は道化師を引き付けてくれ」
ベレス「分かった!」
ヴィル「私達は―――。よっと」
マルス「うわぁっ?!」
どうやら3人で役割分担をして救出するみたいですね。ベレスが天帝の剣を構えると共に、ヴィルヘルムはマルスの腰を掴み担ぎ上げました。案外軽かったらしく、意外にもひょいっとマルスは担がれます。
ヴィル「軽いぞ。しっかり食べているのか?」
マルス「そんな親みたいなこと言わないで!元からこういう体質なんだよぉ!」
ヴィル「ベレス殿。このまま私は彼と共に影に潜む。その間に道化師を」
そう言うと、未だに驚いているマルスと共にヴィルヘルムは闇に溶け込み消えてしまいました。
ベレスは彼がいなくなったことを確認し、天帝の剣を構えたまま道化師に向かって走り始めます!
ベレス『はぁぁぁぁぁっ!!!!!』
一閃。強い思いと決意を剣に乗せて―――。