二次創作小説(新・総合)
- ABT⑪『勝ってくるぞと勇ましく』-1 ( No.109 )
- 日時: 2020/05/16 22:01
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: ACwaVmRz)
~処刑場 搖動作戦場所~
アイク『せぁぁぁぁぁっ!!!!!』
エフラム『…………!!』
ガキン、と鈍く響く金属の音。処刑場の入り口では、未だ操られた3人と本部の搖動軍が戦っていました。
ベレス達がMZDとソティスを救出する為本格的に動き出したとはいえ、彼らがたどり着いたことが知られる訳には行きません。彼らの気を引く為、搖動軍は力の限りを3人にぶつけていました。
アイク「とはいうものの…!流石にこのままだと押し切られるかもしれん!」
エイリーク「アイク殿!私も援護します!」
アイク「下がっていてくれエイリーク。あんたが今出たら怪我をするかもしれない」
エイリーク「し、しかし!このままでは兄上に押し切られてしまいます…!」
後ろでアイクとエフラムの戦いを見守っていたエイリークでしたが、アイクが徐々に劣勢に立たされていることは薄々感じていました。援護するとジークリンデを持ってエイリークも前線に立とうとします。しかしアイクはそれを許しません。実の兄妹が争う光景など、彼は見たくなかったのです。
どうにかしてエイリークに手出しをさせず、エフラムを何とかしようと彼はエフラムに全力で剣をぶつけます。
エフラム『…………!!』
アイク「しまっ―――!!!」
考えているのが見抜かれたのか、エフラムの一撃がアイクの剣を弾き飛ばし、ラグネルはゴトンと重く鈍い音を響かせながら地面へと落ちました。そのままエフラムは彼の、首に、槍を――――――
エイリーク『てやぁっ!!!』(ガキン!)
エフラム『…………!!』
アイクの首を貫きは―――しませんでした。咄嗟の判断でエイリークが間に入り、エフラムの槍を防いだのです。しかし、彼女の力と兄の力の差は歴然。つばぜり合いもすぐに押し切られてしまい、エイリークは吹き飛ばされてしまいました。
エイリーク「ああっ…!」
アイク「エイリーク!だから前に出るなと言ったのに…!」
エイリーク「しかし!たとえ操られている兄上だったとしてもです!貴方を貫く姿は、見たくなかった。それだけです。兄上!正気を取り戻してください!」
エイリークは必死に剣を構えながら、目の前にいる兄に声をかけます。『元の優しい兄に戻ってほしい』そう願いながら。思いは必ず届く。その希望を…彼女は諦めていませんでした。
アイクが止めるのも無視し、彼女はエフラムへと歩み寄ります。
エイリーク「兄上。貴方は誇り高きルネス王国の王子です。こんなところで…敵に操られるようなお方ではありません。勇敢で、勇猛な、一人の戦士。かつて『槍一本で世界を渡る』と言っていたではありませんか。ルネスでは無理でしたが…この世界ならば!『1人の戦士』として認められるこの世界ならば!兄上がかつて夢見ていたものに手が届くのではないのですか?!」
エフラム『…………』
エイリーク「お願いします。兄上。どうか攻撃の手を止めてください。友を傷つけるくらいならば…私が相手になります!」
アイク「やめろ!いくらなんでも無茶だ!くっ…!ラグネルを取りに行っている間にやられてしまっては…!」
エイリークはアイクを守るように彼の前で両手を広げます。アイクは彼女に逃げるように促しますが、エイリークはそこを立ち退きません。兄に槍で貫かれても、友を守る…。今の彼女はその決意が宿っていたのです。
エフラムはそんな彼女の決意を嘲笑うかのようにゆっくりと近づき、彼女を真っ二つにしようと槍を振りかざします。思わず目をつぶるエイリーク。しかし…襲ってくるはずの『痛み』は、彼女に降りかかっては来ませんでした。
代わりに彼女が目にしたのは―――
エフラム『う……ぐあぁぁぁぁあぁ……!!!』
エイリーク「兄上?!どうなされたのですか?!」
エフラム『えい、りー、く……。おれから、はなれ、ろ……!』
エイリーク「兄上?!私が分かるのですか?!」
アイク「あいつから紫色のもやが?…まさか?!」
地面に落ちる槍の音。そして、頭を抱えて苦しむエフラムの姿でした。頭上からは紫色のもやが飛び出ています。あれ?これってまさか。
どうやらエフラムだけではなく、フェルディナントやマリアンヌにも同事象が起こっているようです。
フェル『ぐ…ぐぅぅぅぅ…っ、せ、せんせ……!』
クルーク「様子がおかしいよー!どうしちゃったんだろ?」
カラ松「もしかして、逃走者が『壺』を壊してくれたのか…?!」
アカギ「自我を取り戻しているみたいだ…。様子を、見よう…」
マリアンヌ『せ、せんせ…ベレス、せんせい…たすけて……ぁぁ……!』
リピカ「ぎゃーーっ?!ペガサスから落ちそうさー!!」
マルク「いいから彼女を支えるのサーーー!!!」
そうです。逃走者が『封印の壺』を壊してくれたおかげで、エフラム達3人にかかっていた洗脳も一緒に解けたのです!
苦しんでいた3人の様子を見る一同。しばらくのたうち回った後…ぱたっと、操り糸が解けたかのように同時に倒れてしまいました。
エイリーク「兄上!!大丈夫ですか?!兄上!!!」
エフラム「…………」
アイク「…安心しろ。気絶しているだけのようだ。命に別状はない」
エイリーク「兄上…!良かった…!」
張りつめていた緊張が解けたのでしょう。穏やかな表情で眠っているエフラムを前に、エイリークは膝から崩れ落ちます。
フェルディナントとマリアンヌもどうやら気絶してしまったようで、アイク達の元に彼らを背負ったメンバーが徐々に集まってきます。
アカギ「アイク、エイリーク。大丈夫か…?」
アイク「ああ。何とかな。逃走者達がやってくれたらしい」
マルク「ベレスの生徒達も無事なのサー!本当、骨が折れるかと思った…」
カラ松「あとは下っ端の道化師を何とかしてエレベーターに戻ればオレ達の役目は終了だ。神様とソティスの救出がどうなっているかは知りたいが…」
チョロ松「そこは僕達が手出しできる領域じゃない。無事に救出できることを祈ろう。…とにかく、僕達の目的は達成できたんだし、そろそろ本部に戻ろうよ」
エイリーク「はい。これ以上の長居は無用ですから…」
サクヤの指示通り、3人の保護に成功した為搖動軍は本部へと戻る決断をしました。…MZDとソティスを無事救出できることを祈りながら。
~処刑場 檻~
MZD「なんだか周りが騒がしいな。何かあったのか?」
ソティス「うーむ…。力が奪い取られているせいで察知も何もできぬ。敵だったらまずいのう」
べリアによる思わぬ発言の後、大人しく助けを待っていたMZDとソティス。何やら周りが騒がしいことに気付きます。
檻越しに外を見てみます。…どうやら監視にあたっていた道化師がほぼ全員出払っているようですね。それもそのはず。本部の面子が派手に暴れていた為、道化師の殆どがその戦闘に割かれていたのです。
MZD「監視の人数が減ってるみたい。多くて1人、2人って感じだな」
ソティス「何が起こっておるのじゃ?あの女の言う通り、大人しく助けを待つほか『はぁぁぁぁぁっ!!!!!』―――?!」
突如鳴り響く聞き覚えのある剣の音。その方向を向いてみると、そこには天帝の剣を道化師に向けて振るうベレスの姿が―――。
思わず彼女の名前を呼ぶソティス。ベレスにきちんと声は届いたようで、剣を振るいながらもこちらを見て小さく手を振ってくれました。
ソティス「ベレス…!来てくれたのか!」
MZD「大切にされてんなぁお前さん。ベレスと一緒に先に逃げ『何が『大切にされてるなぁ』だ。その『大切にされてる者』には自らが含まれていないとでも思ったのか?』 ……え?」
突如檻の近くに優しく響く声。思わず辺りを見渡すMZDでしたが、檻の前に―――。マルスを担いでいるヴィルヘルムが現れました。顔を見られるわけにはいかなかったのか仮面を被ってはいましたが、その金色の眼からは優しさが伝わるのを、MZDは感じていました。
彼は素早くマルスを下ろし、彼に檻を破壊するよう指示します。
マルス「今から檻を破壊する。2人共、下がって!」
MZD「わ、分かった!」
ソティス「こうじゃな」
マルス「―――ふぅ。『シールドブレイカー』!!!」
彼の鋭い一撃は、いとも簡単に檻を粉々に砕きました。先端こえぇ。
その間にヴィルヘルムは檻の中に侵入し、MZDとソティスの手錠を外しました。彼曰く、どうやらこの手錠『魔族の魔法』が使われており、そのせいで神の力が封じられていたんだとか。随分と用意周到ですねぇ。
ベレスも道化師2人を戦闘不能にし、ソティスの元へ駆け寄りました。
ベレス「2人共、大丈夫?怪我はしてない?」
ソティス「特に何もされておらんぞ!神の力が奪われていたのはこの手錠のせいじゃったのだな!随分とてこずらせおって!」
MZD「オレ達が暴れないように、保険には保険を重ねた結果だろ?全く、陰湿ったらありゃしない。まだ本調子じゃないけど、大分神の力は戻ってきたように感じるぜ。ありがと、2人共」
マルス「ううん。お礼を言われる程のことはしてないよ。きみ達が無事で本当に良かった」
ヴィル「全くだ。…とにかく、今のうちにここから退散『させると思うカイ?』」
ソティス「現れおったなイカサマたまご!それに…メフィストもいるのじゃろう?現れ出でよ!」
『い、イカサマたまごとはシツレーな!カービィですら言わないヨォソンナコト!』
『…ククク、ばれてたなら仕方ねぇ。こいつらを渡す代わりに、ちゃーんと『交換するブツ』、持ってきたんだろうなぁ?』
『イカサマたまご』と侮辱されたのかかなり不機嫌な声色を残してマホロアが。そして、コツコツとした靴の音を響かせメフィストが現れました。彼はマホロアとは対照的にかなり上機嫌のようです。
そのまま要求したものを寄越せと手を伸ばすメフィスト。しかし、彼らがその要求に応じるつもりは一切ありません。
マルス「ぼく達は彼らを助けに来ただけだ。きみ達の要求に応じるつもりはないよ」
ベレス「そもそも、勝手に奪っておいて『交換条件』とは。随分と分が悪いね?せめてもう少し対等な条件にしてよ」
マホロア「フン!だからオマエラは甘ちゃんなんだヨォ。ボクに勝てなかったせいで一度さらわれたのモウ忘れちゃったのカイ?」
メフィスト「…まぁ、お前らが素直に要求に応じるとは思ってねぇさ。なら…ちょっと強引だが―――餓鬼共を少し痛めつける必要がありそうだなぁ?」
ソティス「ひっ……!」
ベレス「…………」
彼らが『JOKER』の首を持ってくるはずがないとメフィストは読んでいました。彼は強引にでも要求に応じさせる為、MZDとソティスに向かって呪いのようなものを飛ばします。
思わずベレスの後ろに隠れるソティスと、彼女を守るように前に立つベレス。しかし―――その『呪い』は……。
メフィスト「んなっ―――?!」
ベレス「消えた…?」
ヴィル「……随分と姑息だな。そんなに『JOKER』が欲しいか」
マホロア「オマエ、何を言ってるんだヨォ?連れてきてるならトットトダセヨォ!」
『男』―――ヴィルヘルムが手を伸ばした瞬間、メフィストが放った『呪い』は彼の手に吸収されてしまいました。『呪い』を吸収できるのは、自らよりも地位の高い魔族のみ…。メフィストはそのことを知っていました。…目の前の男が、自分よりも『格上』だとは想像が出来ませんでしたが。
ヴィルヘルムはそのまま被っていた仮面を脱ぎ、自らの魔力をピストルのように仮面に装填しました。
ヴィル「貴様らには『絶望』よりもっと深い『闇』を見せねばな?」
ソティス「なぬ?!」
MZD「待って!止めて!こんなところで魔法を使ったら―――!」
ヴィル「彼奴等には少しばかり『教養』をせねばならぬ。―――随分と『JOKER』を甘く見られたものでな。非常に腹が立っている」
マホロア「な、ナンナノォ?!コノ『圧』ハ―――!」
メフィスト「テメェ、ただの『魔族』じゃねえな…?」
MZDが止めるのも無視し、彼はそのまま自らの魔力で仮面を『撃ち抜いて』しまいました。打ち抜いたところから仮面がボロボロと崩れていった瞬間に、彼の周りの―――いや、『処刑場全体の空気』が重苦しくなるのを感じました。
彼は今完全に自分のことで怒りのボルテージが最大で、周りが見えなくなっている。何とかしてマルス達は被害から守らねば、と彼らに叫びました。
MZD「…あーもう!周りが見えなくなってる!仕方ない。―――マルス!オレが『いいよ』って言うまで向こうで伏せてて。ヴィルの姿を見ないで!」
マルス「どういうこと?!」
MZD「多分、ヴィル『永久』を使おうとしてる。オレだって死にかけたのに…あれに普通の人間じゃまず耐えられない!死にたくないなら伏せて!!」
ベレス「分かった。マルス、ソティス。しばらく後ろに下がって伏せてよう」
マルス「うん!」
MZDがいつになく真剣な表情をしているのを受け取り、ベレスはマルス、ソティスと共に後ろに下がり彼の姿を見ないよう伏せました。
―――それと同時に、彼は神の力で3人に加護をかけ、どうにかして助けようとやりくりを始めました。…目の前でほくそ笑む男の肌が、指が、身体が。少しずつボロボロと崩れていくのを間近で見守りながら。
ヴィル『憐れで愚かなる道化師共よ。『永久』に溺れるがいい。貴様らが辿り着く先は――――――』
『久遠の闇 だ』
- ⑪『勝ってくるぞと勇ましく』-2 ( No.110 )
- 日時: 2020/05/17 22:01
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: ACwaVmRz)
~処刑場 エレベーター付近~
アイク「はぁっ!!!」
チョロ松「でやぁーっ!!!」
道化師『ぐわああああっ!!!』
ザシュ、という風を切る音と共に、彼らを追ってきていた道化師が次々と倒れます。まだまだ無数の道化師がいるのか、キリがありません。しかし、エレベーターも近い。保護した3人を背負っている面子を優先してエレベーターに乗せ、次々と地上へと戻っていきます。
しんがりを務めているアイク達とエレベーターの距離ももう少しです!
ジョマンダ「もう少しでエレベーターだ!あいつらに追い付かれる前にさっさと乗り込めー!」
カラ松「保護した3人ならば既に本部へと連れて行っているだろうからな。あと少しだ!」
アイク「だが、キリが無い。ここは一気に片を付けて乗り込む時間を稼ぐ!」
アイク、しっかりと最後までしんがり役を引き受けるかの如くラグネルを構えました。カラ松とチョロ松も一緒に残るようで、道化師に向かって威嚇しています。
その間にジョマンダは残りのメンバーを連れてエレベーターに乗り込みます…が、その瞬間。彼の目に『異様な光景』が見えたのです。
ジョマンダ「なんだ…ありゃ…?」
まるで、地下に『空』が。『宇宙』が。『闇』が生み出されたような。そんな感触を彼は覚えました。
灰色一面だった処刑場は、上部分が真っ暗闇―――まるで、『ブラックホール』のようなものが上に渦巻いていました。そして、彼はそれに『悪寒』を覚えます。『巻き込まれたら、死ぬ』そう、決定づけたのです。
その悪寒が現実になるように―――彼の目線の先で、次々と道化師達が『闇』に吸い込まれていきました。
『な、なんだあれはぁぁぁ!!!』
『す、吸い込まれるぞーーー!逃げろ…うわぁぁぁぁぁぁ!!!』
『嫌だ、嫌だ、死にたくない!死にたくないぃぃぃぃ!!!』
道化師達の叫びも無残に響き渡り、容赦なく『闇』は呑み込んでいきます。アイク達もその異様な光景に気付くのに時間はかかりませんでした。
目の前で戦っていた道化師達が…『闇』の引力に逆らえず、呑み込まれていく姿を。流石の彼らも戦っている場合ではないと気付いたようです。
アイク「な、なんだあれは…!」
チョロ松「驚いている場合じゃないよ?!飲み込まれた道化師達が吐き出されるまでもなく闇に溶けちゃってる!…あれに吸い込まれたら終わりだぁぁぁ!!!」
カラ松「世界の裏―――『闇』を生み出しているみたいじゃないか!神の力なのか、これは…?」
チョロ松「考察すんのは後でいいバカラ松!!幸い僕達とは距離が離れてるから影響は少ないみたいだ。早くエレベーターに急ごう!」
アイク「あぁ。巻き込まれたら元も子もない!!」
3人はエレベーターまで急ぎます。既に他の面子は地上へと戻っているようで、周りには誰もいませんでした。そのまま扉を開き、飛び込むように部屋の中に入り、地上へのボタンを押しました。
扉が閉まった瞬間、先程まで感じていた『重苦しさ』が一瞬で消え去りました。
アイク「みんな無事だな」
チョロ松「はぁ…はぁ…はぁ…。何だったんだあれは…」
カラ松「でも…ちょっとカッコよかったな!」
チョロ松「こんな時まで厨二病発動するのやめてくんない?」
目の前でみた『闇』に感動しているカラ松は置いといて、そのまま彼らは地上へと戻って行ったのでした。
~処刑場 『闇』付近~
マホロア「あ、アレが、『トワ』って呼ばれるチカラ…『セカイを手に入れるチカラ』ってヤツなのカイ?」
メフィスト「……クク、ハハハ…。そうかよ。この世に反する究極魔法『永久』。世界を支配するほどの強大な力…!」
ヴィルヘルムが『永久』を使用し闇を創り出した後、部下である道化師が次々と飲み込まれていく様を見てメフィストは確信しました。
『永久』の魔法は強大だと。『世界を支配し得る力を持つ』ものだと。…そして、神々などに渡してはならない程に魅力的な力だと。
そして、そんな魔法を軽々と操るあの男こそが―――自らの求めていた『JOKER』だと。気付いたのです。
メフィスト「…お前が。お前が『JOKER』だったのかよ…。そりゃあ完全にぶっ殺すなんて無理な話だったよなぁ?!テメェの不手際のお陰で無意識に『盾』が出来ちまったんだからよ!!…でも、分かったのなら話は早えぇ。テメェの魂を潰して、あの餓鬼の呪縛を解いちまえばいいんだからなぁ!!!」
メフィストは間髪入れずにヴィルヘルムに向かって仕込み杖からレイピア状の剣を取り出し、貫こうと突進してきました。しかし…彼は表情を変えず、ただ頭上に広がる『闇』を増幅させています。
あと少しで彼の胸を貫こうといったところで、彼のレイピアは光に弾かれました。光の方を向いてみると…そこには、彼を守るように『少年』が浮かんでいたのです。
MZD「まだ理解できない?『永久』ってさ、使い方を誤れば世界すら簡単に飲み込ませるとんでもない魔法なの。それを創り出した『JOKER』本人ですら『『永久』へと辿りつけた者』にしか継承させないって言ってるくらいなんだから。御伽話に詳しいお前さんなら、それくらいすぐ分かるよね?」
メフィスト「だから何なんだよ?あの力さえあれば、人間と神々なんて一瞬で滅ぼすことが出来る。…俺様に仇名する奴もろともなぁ!!!」
MZD「確かに一瞬で滅ぼせるだろうな。でも、滅ぼしたとしてどうするの?自分が神にでもなって世界を支配する?」
メフィスト「…ククク、それもいいかもなぁ。俺様が頂点に立つ世界、実に響きの良い言葉だぜぇ!」
MZD「…お前さんにはぜーったいに渡せないね!…お前を倒すよりヴィルを止めて『闇』を消した方が多くの道化師も助けられるよ」
メフィスト「できんのかよ?あの雑魚魔術師ごときに捕まったテメェがなぁ!…それに、俺はあんな雑魚道化師を部下だと思ったことはねぇ。唯の駒だよあれは」
MZD「お前さん、とんだ荒んだ心持ってんのね。少しでも理解しようと思ったオレが馬鹿だったよ」
話は平行線を辿り、MZDとメフィストの攻防は続きます。その間にも、逃げ切れなかった下っ端の道化師や魔法使いは次々と闇に呑まれ、魂が消えていく…。マホロアは、そんな『圧倒的な力』に、少しの感動と多くの恐れを抱いていました。
マホロア「マスタークラウンの時とはワケがチガウ…。一瞬でも油断したらボクが飲み込まれてしまいそうなほどのチカラ…」
思わず『闇』に近付くマホロア。自分が崖の上に立っていることすら忘れて前に進みます。…その時でした。
マホロア「…ウワッ?!」
MZD「―――!! どけメフィスト!!今はお前に構ってる暇じゃねーんだよッ!!!」
メフィスト「なっ……!くそっ、前が見えねぇ!……うわぁーーーっ!!!」
マホロアの意志に関係なく、急に身体が浮かび上がります。そして、徐々に自分に近付いてくる『闇』―――。
襲い来る闇に耐え切れなかったのだと、マホロアは瞬時に理解しました。急に恐れを抱いた彼は、ひたすら闇からもがこうと空中を移動しようとします。あの闇に呑まれたら自分も死ぬ…。世界を支配したくとも、自らが『死ぬ』ことは魔術師でも嫌でした。急に背中に襲い来る『死』に、彼はいつの間にか恐怖で覆われていました。
死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。
無意識に涙が流れ、雫が空中に浮かびます。無意識に『しにたくない』と口から言葉が零れます。
マホロア「シニタクナイ…シニタクナイヨォ…タスケテヨォ カービィ…!」
闇が眼前に広がり、『もう駄目だ』と思った瞬間でした。
重力に逆らうように『手を引かれます』。
MZD「マホロア!あの『闇』を見るな!全力で別のことを考えろ!!!」
マホロア「ナッ―――?!どうしてオマエが…!」
MZD「いいからオレの言うこと聞いて!死にたくないんでしょ?!攫われたからって、敵だったって、目の前で誰かを失うのはもうウンザリなんだよ!!助けられる命なら助けたい!それがオレの『神のとしての役目』!気持ちだから!!」
マホロア「…………」
自分を助けたのは、攫ったはずであったあの子供でした。必死に自分に『闇を見るな』と呼びかけています。
彼は本気で自分を助けようとしている…。それだけは、真っ直ぐに彼の心に伝わったような気がしました。
マホロアはMZDの手をぎゅっと握り、彼にすがります。『タスケテ』と。
MZD「…よくできました!そんじゃちゃんと捕まっててね!」
『神』は魔術師を優しくなでた後、『闇』に光を打ち込み、一瞬だけ引力を弱らせます。その隙に、マルス達の隠れている場所に向かって彼を投げました!何も投げる必要なくないですか?!
マホロア『アァ~~~~~!!!ナンデ投げるノ~~~~~!!!』
MZD「でも、攫われて檻に入れられたのは許さないからな!これでチャラ!」
…彼も少しは怒っていたようですね。マホロアが乱暴にマルス達の隠れている位置の近くの地面にめり込んだ後、彼はすぐさまヴィルヘルムの『闇』を止める為、彼の元へ向かいました。
彼は未だ『永久』の魔法を解放する気はないようで、目の前に現れた『大親友』を見ても表情を変えませんでした。所々が空洞になっている痛々しい姿を見て、MZDの表情は歪みます。そして、彼に向かって告げました。
MZD「…もうアイツらに『永久』の恐ろしさは充分伝わったよ。もうやめよ?」
ヴィル「いくらお前の頼みとはいえども、聞き入れる義理は無い。今『常闇』に覆わなければ、被害が増大する。それに―――お前を一時的にとはいえ傷つけた報い…晴らさねばなるまい」
MZD「確かにオレを攫われて怒る気持ちは痛いほど伝わった。でもやりすぎだよ!どんだけ何も知らない道化師が被害遭ったと思ってんの?!確かに道化師はオレ達の敵だよ?でもさ、だからといって…ここまでする必要ないよ。ヴィルの身体だってギリギリのところで崩壊を免れてんだからさ。これ以上やったらお前も消えちゃうよ!」
ヴィル「…構わない。お前を守れるならば、私の魂など『いい加減にしろ!!!』」
いくら論理的に話をしても、怒りに感情を支配されている今のヴィルヘルムには何も届きません。
挙句の果てに『消えても良い』と言ってしまった為、MZDの堪忍袋の緒が遂に切れてしまいました。
MZD「…オレ、1回もヴィルの事『ただの補佐役』とか『道具』って思ったことないよ?!確かにハテナがまともに動けなくなっちゃって、オレの補佐役として選んだのは事実だ。だけど、オレはお前の事『仲間』だって、『家族』だってあの時から…14回目のパーティの後からずっと思ってる。だから…消えてもいいとか言われるの、嫌なんだよ!!!」
ヴィル「…………」
MZD「お前がどんだけ怒って『永久』を最大火力で使おうと思ったのかは分からない。けど…自分の身をそう簡単に滅ぼすようなこと、しないで?お前が消えて悲しむヤツなんて、『JOKER』時代ならどうだか知らないけど!今は沢山いるんだからな!!
ミミも、ニャミも、ハテナも、ジャックだって、みんなみんな。オレだって。お前のこと大切に思ってるんだから!!!だから…もういいよ。メフィストもオレが気絶させた。マホロアだって地面にめり込ませた。これ以上、お前も含めて無駄な犠牲を創るのは止めてくれ!!!ヴィル!!!」
MZDは必死に怒りを鎮めようとヴィルヘルムに話しかけます。ただ『永久』を止めたいからじゃない。ヴィルヘルムに消えてほしくなかったから。ひとりぼっちだった自分に、時は経過してしまったが『友達になる』と約束を果たしてくれた相手だから。
自分の腕をつかむ小さな両手が震えているのが分かりました。彼は『感情を自分にそのままぶつけているのだ』と、そう感じました。…彼の白い肌に涙が1粒伝った瞬間、処刑場を覆う『闇』が引いていくのが見て分かりました。
そして、かつて『闇』があった場所から…呑み込んだ多数の道化師達が地面へと振り落とされました。上手く着地が出来なかったのか、ドサリという鈍い音が次々と鳴り響きます。
処刑場を覆っていた闇は消え去り、全力での『永久』を使用した反作用でボロボロになっていた身体も魔力が安定したことにより、元に戻りました。直った彼の仮面が再び彼の魔力を封印し、その場から本部の部屋へと転送されます。
ソティス「……む?急に重苦しい空気が消えたぞ?」
ベレス「神様が、ヴィルヘルムを止めたのかな?」
マルス「そうみたいだね。…一応マホロアを地面から抜いておこうか」
よいしょっと、と王子らしからぬ言葉と共に地面にめり込んでいたマホロアを引っこ抜きました。その後、彼の耳を掴んだままマルスはベレスとソティスの元へと掛けていきます。
ヴィル「…すまない。お前の言葉…魂に染みた。私は…自分で思ってたよりもお前に大切にされていたのだな」
MZD「ったく。普段冷静なのに怒りのボルテージが妙に低いのは何とかならないのかねぇ。それに、いつも言ってんだろ?オレは『神』としてお前のことを大切に思ってるだけじゃなくて、『オレ個人として』お前と大親友だって思ってるんだから!」
ソティス「のう。闇に呑まれた道化師はどうなったのじゃ?」
MZD「オレの力で闇から引きずり出した。怪我人は結構いそうだけど、犠牲はほぼ0のはずだよ」
マルス「そう、なんだ…。無駄な犠牲を出さないで済んで良かったよ」
生きていると知った道化師達が、お互いを抱擁し喜んでいます。…道化師だって1人の『命』。無駄に奪われることなどあってはなりません。無駄な犠牲が出なかったことを知ったマルスは、安堵したように微笑んだのでした。
『そろそろ帰ろう』誰が言ったのでしょうか。サクヤも心配しているでしょうし、本部に戻った方がいいでしょうね。
そう思って5人が足を踏み出した瞬間。『背後』から、鋭い鉄が―――
ヴィル「―――読めていぬとでも思ったか」
メフィスト「……ククク。流石は『JOKER』。今の俺じゃ手も足もでねぇってか」
神を貫こうとしていたその剣は、ヴィルヘルムによって遮られていました。彼に触れられた場所からパキン、と真っ二つに折れ、レイピアは地面へと転がります。地面に落ちた刀身を見ながら、彼は『ククク』と不気味に笑います。
メフィスト「お陰で良いものが見れたぜ。…いずれ『JOKER』の力も、『永久』の魔法も。必ず『俺のモノ』にする。『JOKER』!それに、『道化に守られし神』よ!!…その魂が潰える時を、待っているんだな!!……ククク、ハハハハハ!!!!」
そう高らかに叫ぶと、マルスが掴んでいたはずの気絶しているマホロアを強引に奪い取り、闇に溶けて消えてしまいました。
マホロアは『永久』に恐怖を抱いていたはず。彼ですら『道具』としか扱っていないことがよーく分かりましたよ。
MZD「去り際の台詞だけ印象的なヤツは小物に見えるって次会ったら教えとこ。…多分、今のアイツじゃお前に敵いっこないって相手も分かっただろうから、今後対策練ってくると思うよ。攻撃、一層激しくなるかも…」
ヴィル「やはり、あの場にいては迷惑になるだけだ。去った方が…」
MZD「だーかーらー!出ていかなくてもいいの!オレがお前の背中守る!お前がオレの背中守る!それでいいの!」
マルス「いて貰わないと困るんだけどな?ぼくも貴方の正直な気持ちを聞いて…もっと貴方と仲良くなりたいと思った。貴方が『JOKER』かどうかなんて関係ないよ。…それじゃ、理由にならないかい?」
ソティス「おぬしの作る料理、まだまだ堪能しきれておらんからのう!それに、おぬし以外の料理上手がこぞって運が最低レベルの奴じゃ!料理が無事に出来ても魔物が襲撃されてもしたら安心して飯が食えんぞ!ふん、わしの舌を唸らせられること、誇りに思うのじゃな!」
ベレス「素直に『本部にいてほしい』って言えばいいのに。自分も…もっと貴方のことを知りたい。だから、一緒に本部で逃走中を盛り上げていこうよ」
ソティス「やかましいわ!!黙っておれベレス!!」
4人の暖かい言葉を受け、ヴィルヘルムは少しだけ…心の中がほんのりと包まれたような気がしたのでした。
MZD「本当にさ。よかった……っ、ぅぅ……」
ヴィル「…な、何故泣いているのだ?何か気に障ることでも」
MZD「だって……本当にきえちゃうかとおもって……!」
ヴィル「…………。…世話のかかる『弟』だ。だが、ありがとう。お前の気持ちは…真っ直ぐ伝わったよ」
あーらら、MZD泣いちゃって。…でも、ちゃんとお互いの気持ち伝えられて良かったですね。
無事作戦大成功!ということで…。終わり良ければ総て良し、ですかね!