二次創作小説(新・総合)
- 打ち上げ ③ ( No.145 )
- 日時: 2020/05/25 22:05
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: ACwaVmRz)
ライブも無事(?)終了後、各々余興のパーティを楽しんでいました。
そんな中、ふとクレアがサクヤに話しかけてきます。何か良いアイデアでもあるんでしょうかね?
クレア「サクヤさーん!今回の逃走中、本当にお疲れ様でした!」
サクヤ「いえいえ。参加してくださりありがとうございます。楽しかったですか?」
クレア「はい!それはとても!…って、そんな話をしに来たんじゃないんです!えっと…折角こんなに沢山の人が集まってくださっているので、これから『ルーントレイン』でこの世界の星空を見せに行きたいなーって思ってるんですけど…どうですかね?」
Ga.「ルーントレインに乗せてくれんの?!」
なんとクレア、これからパーティの参加者を『ルーントレイン』に乗せて夜空を見に行けないかとサクヤに提案してきたのです!
列車の名前を聞いて傍で聞いていたGa.も興味津々に食い付いています。
その言葉を聞いたサクヤはしばらく考えた後、小さく頷いて彼女にこう返しました。
サクヤ「良い提案です。折角の打ち上げなのですから、是非ルーントレインで夜空を堪能してきてください。ステージにあるマイクは使用しても大丈夫ですよ」
クレア「ほ、本当ですか?!ありがとうございます!では早速会場の皆さんにお声がけしてきますね!」
Ga.「ま、待ってクレアたそ~!俺も乗る~!」
サクヤはすんなりと『いいよ』と返しました。これからゼウスと話がある以上、クレアの提案はタイミングが良すぎました。そう判断してのことでしょう。
彼女は意気揚々とステージに上がり、マイクを取って話し始めました。
クレア『皆さん!パーティを楽しんでいる中申し訳ありません。クレア・スチーブンソンと申します!
折角の逃走中の余興、ということで、これから皆さんを『ルーントレイン』に乗せて、夜空を見に行きたいと思っています!もし乗ってくださる方がいらっしゃいましたら、このアナウンスが終わった後私に付いてきてください!』
アミティ「ルーントレイン…?あのおっきな列車のことだったよね?」
アルル「夜空だって!アミティ、りんご、乗ってみようよ!」
りんご「地上ではなく空を走る列車…。どんな構造か気になります。ふむ、乗ってみる価値はありそうですね!」
クレアの提案に興味を持つ参加者もいるみたいですね。彼女のアナウンスが終わった後、ぞろぞろとルーントレインに乗りたい参加者がクレアの後ろに付いていき、会場を後にしました。
一応サクヤも出発を見守る為、会場の入口まで付いていくことにしました。
シャル「いやー、いつ見てもデケーなー」
ルカ「天界にもこれくらい大きな乗り物があれば移動が便利ですよね!」
レクト「(あれ?ルカさんって飛べたんじゃなかったっけ…?)」
クレア「では、ルーントレインにご乗車の方はこちらからお願いします。乗車なされましたら、空いてる席にお座りいただき、しばらくお待ちください!」
クレアが素早くルーントレインの乗車口の確認をし、参加者を次々に乗せていきます。徐々に減っていくたむろしていた人の数。彼女はそれがいなくなったことを確認し、すぐに先頭車両へと向かい乗り込みました。
ポッポー。優しい汽笛と共に、ルーントレインが走り出します!
サクヤ「汽笛というものは、こんなにも美しいものだったでしょうか」
MZD「いやー?オレの記憶を辿ってもここまで綺麗なのは早々ないよ。クレアの愛が伝わってんだろうなぁ」
ヴィル「彼女の魂が純粋で、美しいという事の証明だろう。これは…」
その場に残っていた3人を照らし出すように、ルーントレインは星空が広がる闇夜へと走り出していきました。
…列車が見えなくなるまで見守っていた彼女達ですが、『さて』とサクヤが2人に向き直ります。
サクヤ「そろそろメインサーバに向かいましょう。ゼウス様と、アシッドさんからも話がしたいと連絡が来ていますので」
MZD「もしかしなくても『JOKER』絡み?」
サクヤ「はい。ですので、沢山人がいる場所では話したくなかったのです」
ヴィル「ゼウス殿はともかく、あの社長にまで話が広がっていたとは…。何なのだ彼奴は」
MZD「まぁ、『運命の神』だし?」
どうやらアシッドも話に参加する様子。そこまでJOKERの話が広がってしまっていたことにヴィルヘルムは小さくため息を吐きました。
苦笑するMZDを宥めて、サクヤ達は早速メインサーバまで足を運ぶのでした。
~運営本部 メインサーバ~
ゼウス「待っておったぞ。それにしてもこの『キカイ』というものは便利じゃのう!こっそりワシの私物と化しても」
サクヤ「駄目です。ここにある機器は全て逃走中やそれに関連する出来事でのみ使用を許可しております。私用での利用は許しません」
ゼウス「そんなに固くならなくてもええじゃろうがい!リラーックス、リラーックスじゃ!」
アシッド『…相変わらずの剽軽爺みたいだね。サクヤ、今回の逃走中も楽しんで拝見させてもらったよ』
サクヤ「ご連絡ありがとうございますアシッドさん。今回も楽しんでいただけたようで何よりです」
MZD「…で、わざわざオレ達『だけ』を呼びつけたってことは…。アシッドも何か重要な情報を掴んだ的な感じ?」
アシッド『目ざといね。道化師達が『JOKER』の正体を突き止めた。…つまり、君達2人に標的を絞ったということは理解しているね?それ絡みで新しく天界の方で分かったことがあってね」
ヴィル「天界で…?どういうことだ」
やはり、彼も彼らにまつわる正体については知っていたようです。
アシッドは早速天界で得た『新しい情報』についてサクヤ達にこう話しました。
アシッド『例の神々が『約束』を翻されたとご立腹の様でね。どうやら道化師と一悶着あったらしい』
ヴィル「一悶着?…まさか、道化師が『永久』の力も手に入れると言っていたことと関係があるのか?」
MZD「その可能性は充分あると思うぜ。ゼウスの話だと、元々道化師は『JOKER』を、神々は『永久』を狙って結託していたみたいだし。それを道化師が『両方手に入れる』って言っちゃったらそりゃ怒るよなぁ」
サクヤ「近々仲間割れが始まるかもしれませんね。…いや、利害の一致で行動していたのだのだから、仲間意識なんてこれっぽっちも無かったのかもしれませんが」
ゼウス「お互いに消耗して潰れてくれるならそれに越したことはな無いわい。…じゃが、彼奴等が『標的』を抱えておる本部を襲わないとも考えられん。そこも加味してこれからの対策を練っていかねばなるまいぞ青龍よ」
サクヤ「分かっております。…言っておきますがヴィルさん。『貴方がここから出ていく選択肢』は既に全て潰しておりますので、ご安心くださいませ」
ヴィル「お前で5人目だ!何故皆同じような言葉を繰り返すのだ!」
MZD「実際『出て行った方がいい』とか言ってたじゃん」
ヴィル「…………」
ゼウス「ほっほっほ。『JOKER』と呼ばれた男もこんな表情が出来るとはのう。…やはり、主は普通の魔族とは『何かが決定的に違う』。だから、『神の力』まで創り出し…ワシの魔法を跳ね退けてしまったのかもしれんのう」
アシッド『…なるほど。それで、サクヤは2人を匿う選択をしたのか。それもまた運命、か』
サクヤ「そもそも彼らを匿う等と言った覚えはありません。今までと一緒です。仲間として、一緒に働いていただくだけですよ」
ゼウスが来た際に、神の世界で不埒な行動を起こしている神々がいるという話はしましたね。どうやら、彼らとメフィスト達がもめている様子。神々は『道化師が約束を破った』と言っていますが、去り際に彼が発した言葉と関係があるのでしょうか。
今後、2人が狙われることは明白です。それでも彼女は2人を守る選択を取りました。モニター越しからでも分かる彼女の真っ直ぐとした瞳に、彼は小さくくつくつと笑ったのでした。
アシッド『…ならば、私も大きく動かねばなるまいな。―――サクヤ。逃走中の資金の方はどうかね?』
サクヤ「急に何です?話をはぐらかそうとしても駄目ですよ。本題を先に話してください」
アシッド『それも本題の1つのなだが…まあいいだろう。今回の逃走中を見て私は決めた。『君達に全面協力することを公表しよう』。…君達運営本部の『スポンサー』に、我がネクストコーポレーションがつこうではないか、ということだ』
サクヤ「…はい?」
MZD「す、スポンサー?!お前の会社って確か、世界的にも超有名だったよな?!」
ヴィル「そんな会社が協力してくれるならば百人力だが…。本当にいいのか?」
アシッド『社長である私が決めたのだから問題はない。それに、部下達も皆納得してくれているよ。2回目の時から既に話は進んでいたからね』
サクヤ「そ、そんな前から…」
アシッド『私達は基本『天界』の調査を主にしている。君達の大いなる助けになるだろう。どうか、正式にスポンサーとして着くことを認めては貰えないだろうか』
サクヤ「…………。随分と急すぎますよ…」
MZD「サクヤが珍しく狼狽えてら」
サクヤ「そりゃ狼狽えます!確かに双方メリットはありそうですが、どうしたものでしょうか…」
ヴィル「お前の選択ならば皆付いていくだろう。…私は協力することを選んでもいいと思うがな」
なんですとー?!アシッドの会社が逃走中の正式なスポンサーに?!
いや、もしOKが出たのならもっと大胆なことが出来ると思いますよ。だってネクストコーポーションって、コネクトワールドでとんでもなく有名な会社なんですから。そんな会社が正式に協力するとなれば、逃走中の知名度は更にアップすること間違いなしです。
…しかし、アシッドは腹の読めない男。秘書であるニアをあっさり手放したこともあり、サクヤは彼の真意が読み取れずにいました。
アシッド『それに…サクヤ。私は君を『四神』としてではなく、『1人の神』として素直に評価している。だからこそ自ら交渉しに参ったのだよ。…普通、社長が直々に『スポンサーになる』など、言わないだろう?』
サクヤ「…何を企んでいるんです?素直な時ほど、アシッドさんが信用できません」
アシッド『酷い言われようだな…。まぁ、そういう行動をして来た私にも責任はあるが。だが、承諾してくれたのならば…次回から、私もそちらに住み込みで逃走中の援護をしよう。それに、私も本部にいた方が色々と深く調べられそうだからね』
MZD「社長自らこっちに来ちゃうの?!会社は?!」
アシッド『それについては心配いらない。信頼できる優秀な部下に代理を任せているよ』
サクヤ「…分かりました。こちらとしてもネクストコーポレーションのような大会社と連携できることに越したことはありません。スポンサーとなることを認めましょう。ただし!こちらに来たからには私の指示に従っていただきますからね。例え、『格上の神だったとしても』です」
アシッド『それについては分かっているさ。『運命の神』の力、好きに使いたまえ。ただ…私も全てにおいて協力できるわけではない。自らの目的もあるのでね。それだけは理解しておいてくれ。それでは次回からお邪魔させてもらうから、私はこれで失礼するよ』
しばらく悩んだサクヤ。アシッドと話し合った結果、彼の会社をスポンサーにつけることを決めました。これでもっと逃走中の設備やイベントの規模を大きくすることが出来ますね!
彼女の答えを聞いて満足そうな顔をしたアシッドは、軽く挨拶をして通信を切りました。
果たしてこれでよかったのか、と彼女は今一度悩みましたが…。MZDが『決めたんなら自分を信じて進めばいいんじゃない?』と優しく声をかけてくれた為、自分の言葉を信じることに決めました。
ゼウス「ほっほっほ!良かったのう、心強い仲間が新たに出来て!アリアンロッドはああ見えて、何かと警戒心が強い性格なのじゃ。そんな彼を動かしたと言うことは相当じゃぞ!誇りを持て!」
サクヤ「彼、自分の役に立ちそうなものはどんどん吸収してしまいますからね…。いずれこの逃走中も彼に乗っ取られはしないかと心配です」
ヴィル「流石にあの言葉から乗っ取る計画は立てていないように思えるが。腹の内でそう考えているならば微弱でも表情に出るだろう」
MZD「ヴィルがそう言ってるんだからさ、しばらくは安心してもいいんじゃない?とにかく、これでもっと規模のデカイ逃走中が出来るようになるし、オレ達も気を引き締めていかなきゃな!運営についても、…道化師についても」
ゼウス「お主等ならば大丈夫だとは思うがのう。ワシの方でも神々の動向について何か分かったら伝えよう」
サクヤ「出来れば次は直接ではなく念話でお願いしますね…?」
ゼウス「どうしようかのう?またお主等の慌てた顔が見たいからのう~?」
MZD「ぜーったいこれまたアポなしで来るよ…」
ヴィル「魂に響くから勘弁してほしいものだ…」
次はどんな手で運営本部を驚かせようかとウキウキしている爺を見て、3人は各々反応を見せていたのでした…。
- 打ち上げ ④ ( No.146 )
- 日時: 2020/05/25 22:09
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: ACwaVmRz)
一方、走り出したルーントレインの車内では…。
~ルーントレイン車内~
アミティ「うわ~!見て見てアルル!星がすっごい綺麗に見えるよ~!」
アルル「本当だ~!ボク、星をこんなに間近で見るの初めてだよ…。綺麗だなぁ~」
りんご「あっ、流れ星!お願い事をしないと…って、クルーク、何をやっているんです?」
クルーク「この光景から何か魔法を強めるヒントにならないかと思ってね。メモしているのさ」
アミティ「こんな時くらい羽目を外してもいいじゃん~…」
ルーントレインは現在星々が良く見える場所を転々としながら、適度なスピードでコネクトワールドを一周していました。普段は絶対に見れない光景に、乗車することを決めた参加者も思わずうっとり。
ちなみに現在自動操縦になっている為、クレアも車掌室近くの席に座って列車の旅を楽しんでいました。
グレン「儚くも力強い光…。とても、綺麗だ」
クレア「大成功ですね!みんな喜んでいます!」
チタ「急にチャンクレが言った時はビックリしたけど、ケッカオーライだから良い、的な?オレもテンションブチアガってきたー!」
シェリル「しゃちょーさん!あの星を捕まえて持って帰れないかな?」
ルーファス「それは流石に無理だと思うなぁ…。シェリル、あの光っている星…。君が思っているよりも強い熱のエネルギーを蓄えているんだ。触ったら火傷どころじゃ済まなくなるよ」
シェリル「大丈夫だよ!変身すればそんな熱なんか関係ないと思うし!」
ルーファス「関係あるから言ってるんだけど…。って、そういう話じゃなかった。グレンさん、次から僕とシェリルも本部に移籍する予定だから。これからよろしくね?」
グレン「? それは私ではなく、クレアやサクヤ殿に言った方が…」
クレア「いやいやグレンさん。私は白猫チームのリーダーではありませんよ?」
チタ「つかなんでこっちに来るの?パイセンの言う『代理』がやっと出てきたとか?」
ふと、星空を眺めていたルーファスが『自分とシェリルも次から本部に世話になる』と言ってきました。実質の本部移籍ですね。急な発言に驚く3人でしたが、チタがどうしかと問うと彼は少し考えた後、こう答えました。
ルーファス「君の奪われた記憶に関してだよ。僕の知識が何か役に立てればと思ってね」
グレン「私の記憶に?…申し訳ないが、君にはあまり関係のない物かと思うのだが」
ルーファス「確かに僕自身は君とは全く関係のない赤の他人だ。でも…1度目の記憶喪失とは今回は訳が違う。『人為的に削除された』ということは、消した側にとっては『絶対に思い出してほしくない』と解釈することが出来る。…僕の技術でそれをいくらか解消できないかとは思っただけだよ」
チタ「確かにチャングレの記憶が戻るならそれに越したことはないけど…。戻ったとして、この世界での思い出が消えちゃうのは…やだな。チャングレ、今まで凄い大変な思いしてきたし…。もし記憶を取り戻せなくても、ここで幸せをつかめるならオレはそれでも構わないと思ってるよ」
クレア「ルーファスさんの気持ちは分かりました。本部には機械に強い面子がまだまだ少ないと聞いていますし、技術は凄く役に立つとは思うんですが…。グレンさんの記憶に関しては、もう少し待ってもらえませんか?記憶が戻って、『狂皇子』になって本部の人達を傷つけてしまっては意味がありませんから」
シェリル「『きょーおーじ』ってなにー?とっても怖い響きだけど…」
グレン「?」
チタ「チャンクレー?」
クレア「あっ。えーっと、ですね…」
ルーファスはどうやらグレンの記憶喪失の手助けを何か出来ないと自分から志望してきたようですね。シェリルは1人残しておくと何をするか分からない為一緒に連れてくるみたいです。
…しかし、彼の記憶に関してはチタとクレアはあまり触れてほしくない様子。さらに、クレアが『狂皇子』と言ってしまったのをシェリルが聞き逃さなかった為、説明をしなければならない状況に追い込まれてしまいました。
彼女は『しまった』と思いましたが後の祭り。諦めてグレンの過去について自分の知っていることを話し始めました。
クレア「ルーファスさんは『紅土の国・ルブラム』という国を知っていますよね?」
ルーファス「ルブラム…。ああ、度重なる他国への侵略で国が疲弊し、内乱で帝国の属国にされたっていう」
クレア「はい。グレンさん…彼は、その国の皇子様『だった』んです」
グレン「…………」
シェリル「『だった』?だったってことは、今は違うのー?」
チタ「さっきパイセンが『内乱があった』って言ってたよね?その内乱を引き起こさせるきっかけになった『狂皇子』…。『他国への侵略』を繰り返していたのがチャングレなんだよ」
ルーファス「成程…。だけど、今はそんな風には思えないな。それも、『記憶喪失』が関係しているのかい?」
クレア「はい。記憶を断片的に取り戻してた時のグレンさんに話を聞いただけなので、私も詳しくは知らないんですけど…。グレンさんの国の皇族は、『蛮勇の貴族』と呼ばれていて…戦うことに、人の命を奪うことに喜びを感じる…そんな先祖さんの血が流れているんだそうです。それで、グレンさんはその血を色濃く受け継いだ結果…。『狂皇子』と呼ばれるようになってしまった、と」
シェリル「あんまりグレンさんを『前線に立たせたくない』って言ってたのはそれが理由だったんだねー?」
チタ「ソユコト。今の落ち着いてる性格が『元々持っていたもの』なのか、『記憶喪失になって新しく作られたもの』なのかは今も分かってないんだよね…。チャングレ、完璧に記憶取り戻さずにまたキオクソーシツになっちゃったし」
クレア「だから、私達のことを忘れちゃったのは凄く悲しいんですけど…。記憶が戻っちゃったことでグレンさんが他の人を傷つけるのも私見たくなくて。だから、戻らないなら戻らないで、新しい思い出を私達と一緒に作れるならそれでいいかな、って思ってしまって…」
ルーファス「ふむ…。でも、それを聞いたら余計に『彼の記憶を取り戻さなければならない』ような気がするなぁ」
シェリル「しゃちょーさん、どういうこと?そんな危険な記憶なら、ずっと消えてた方がいいんじゃないの?」
グレンが内乱が発生した国の皇子だということは以前話したかと思います。しかし…その内乱を発生させてしまったきっかけ―――。『狂皇子』と呼ばれていた男、それが彼だったのです。
本来は戦いを至上の喜びとする性格…らしいのですが、記憶を失ってからのグレンしか知らないクレアとチタにはいまいちピンと来ていませんでした。…一緒に戦っている時の彼を見れば、本来の性格がどんなものなのかは想像に容易いのですが。
そういうこともあり、2人は『グレンの記憶が戻らないならそれでいい』と思い始めていました。しかし、ルーファスは首を黙って横に振り、『ならば余計に記憶を取り戻さなければならない』と定説します。
ルーファス「怪我や病気がきっかけで記憶が消えてしまうならば、それは仕方のないことだと思う。けれど、今回は『人為的な記憶の奪取』の可能性が高いんだろう?それに、取られた記憶がそんな危険なものだった場合…向こうは『いずれ記憶を戻しに来る』と思うんだよね」
チタ「記憶を戻しに来る…?わざわざ記憶を奪ったのに?」
ルーファス「『人為的』ということは、何か奪った側にも目的があるということだ。その目的が達成された時…。彼らは記憶を戻さない訳が無い。例えば、『彼にとって都合の悪い記憶をわざと追加して、戻す』とかね。そうした結果、記憶が戻った彼が暴れてくれれば世界は簡単に崩壊する。まるで御伽話の『JOKER』のようにね」
クレア「『JOKER』…」
ルーファス「だからこそ、彼の記憶は早く取り戻してあげないといけない。記憶が戻った彼がどうなるかは分からないけど…。最悪の事態に発展する前に行動しないと、『あの時やっておけばよかった!』となってしまうよ」
グレン「『狂皇子』…。記憶が戻ったら、君達も傷つけてしまうのだろうか…」
チタ「いや!いやいやいや!ちょーっとチャングレ!いきなりおセンチにならないで?!パイセンの言いたいことはよーく分かった。でも!急に動いて変に勘付かれてもヤバいから!…もし今後絶対に記憶を取り戻さなきゃいけない場面に出くわしたとしても、最悪の状況だけは回避する!それでいいでしょ?」
クレア「グレンさんの記憶…。いずれは取り戻さなければならないんですかね…」
シェリル「今はどーこーかんがえてもしょーがないとおもうよー?でも、グレンさんの記憶を追って行けばもしかしたら『敵さんの共通点』も割り出せると思うんだよねー?」
ルーファス「シェリル?どういうことだい?」
シェリル「わたしの勘なんだけどさ。多分、『道化師』ってのが絡んでると思うんだよね…」
クレア「道化師さんが、ですか?確かにあの人達は力を求めていましたし、可能性はありそうですが…」
グレンが他人を傷付けてしまう可能性があるなら記憶のことは諦めても良いというチタとクレア。そして、彼の為を思うならば『記憶を取り戻すべきだ』と提言するルーファス。…誰が記憶を奪ったんだか知りませんが、もし道化師が絡んでいるのであれば…。今後彼の身に何かが起こってもおかしくはありません。
話が平行線を辿る中、シェリルの一言で一旦はこの話を取りやめることにしました。
クレア「す、すみません長々と!私、自動操縦の様子見てきますね!」
グレン「あ、あぁ…」
逃げるように車掌室へと向かったクレア。自動操縦の様子を見る、というのは建前であり…彼女は、ルーファスに言われたことが心に突き刺さっていました。
クレア「『記憶が戻った彼が暴れれば、世界は簡単に崩壊する』か…。そんなこと、考えたくないんだけどなぁ…」
ぽつり。誰もいない部屋に声が響きます。落ち込んだ気持ちをどうにか落ち着かせようと窓を見た、その時でした―――。
クレア「……えっ?」
目の前に『巨大な浮かぶ城』が。
クレア『ぶ、ぶつかるーーー!!!』
思いっきりブレーキを踏むクレア。そのお陰で、車内にいた参加者も大きな揺れに襲われます。
十四松「うわーっ!なんだー?!すっげー!揺れてるー!」
チョロ松「はしゃぐな!!机の下に隠れて!!」
カラ松「な、なにが起こっているというんだ…?!」
チタ「チャンクレ!今揺れたよね?!何が起こったの?!」
Ga.「クレアたそ!怪我してない?大丈夫?!」
クレア「大丈夫です!揺れは私が急停車させたからです!…すみません、事前にお知らせする暇がなくて…」
Ga.「クレアたそが無事なら良かったけど…。何があったの?」
心配そうに車掌室に飛び込んできたチタ、Ga.、グレンにクレアは恐る恐る窓から見える『物体』を指差しました。
クレア「『お城』のようなものが列車の目の前を通り過ぎて…。このままだとぶつかると思ったので急停車しました。すみません…。それが、あれです」
チタ「…ん?なんか落ちてるっぽいね?」
グレン「―――待ってくれ。あの方向って…。『運営本部』?」
Ga.「運営本部に城っぽい何かが墜落…?……まずくね?」
思わずその物体に釘付けになる4人。そう。その城が墜落している方向は―――『運営本部』の近くだったのです!そのまま、城は大きな音を立てて地面へと落ちてしまいました。
本部に何か影響があっては意味がない…。そう思ったクレアは、慌てて操縦席に座り舵を取ります。
クレア「星空の旅は申し訳ないですが中止です!とにかく、あの墜落したお城の様子を見に行きましょう!」
Ga.「俺、皆に伝えてくる!」
チタ「あーっ!じーくんパイセン!オレも行く!」
クレア「お願いします!」
地上へ戻ることを伝えに車掌室を出たGa.とチタ。墜落した物体を不思議そうに見つめるグレン。
…クレアは一抹の不安を首を振って振り払い、列車を地上へと向かって走らせるのでした。