二次創作小説(新・総合)

ABT⑥『全知は語る、全能は悟る』 ( No.72 )
日時: 2020/05/04 22:03
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: ACwaVmRz)

マホロアによる神連れ去り事件で光に影を落とされた運営本部。
しかし、それで折れる彼らではありません。懸命な捜索が続いていました。

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~メインサーバ~



サクヤ「兄貴、察知の方はどうですか」

アクラル「…駄目だ。あのイカサマ野郎、2人の神の力を奪ったせいで全く感知が出来ねえ」

ニア「魔界の方も捜索しておりますが、何人たりとも『見つかった』という連絡はありません、わ。そもそも…神族は単独で魔界に赴くことは不可能なのですから…無駄な詮索だとは思っております、が」

サクヤ「いえ。マホロアが道化師から力を借りていた場合、彼と共にならば魔界へと赴けます。逆もまたしかり。アシッドさんに依頼して、念の為天界も捜索していただいてはおりますが…結果は芳しくないですね」

アカギ「あいつら…『JOKER』の交換材料に神を使うなんて…」



幸いメインサーバの機器はマホロア襲撃で壊れていなかった為、落ち込んでいる暇はないと動けるメンバーでMZDとソティスの捜索に当たっていました。しかし、結果が芳しくありません。捜索対象を地上だけではなく天界、魔界にも広げても『それらしい気配』はどこにもありません。
皆様ならば既にキュベリアの言葉でマホロアが『どこに向かったか』は分かっているとは思いますが、黙っていてくださいね。

それでも、と2人の捜索を続ける4人。そんな折、メインサーバの扉がゆっくりと開かれました。
そこから現れたのは険しい顔をしたゼウスでした。どうやら、アシッドから依頼を受けたことを言伝に聞いたようです。
彼はその顔を崩さぬまま四神へと近づき、こう告げました。



ゼウス「まずいことになったのう。まさか内部に道化師に連なる者を入れてしまうとは」

サクヤ「申し訳ありませんゼウス様。我々の不手際によりご迷惑をおかけしてしまい…」

ゼウス「責めてはおらんよ。お主等…特に青龍は昔から人一倍優しい性格じゃったからのう。翡翠とソティス、2人共失ってはならない『光』じゃ。ワシも捜索に協力しよう」

アクラル「いいのかよ?!確かにジジイが手伝ってくれるなら百人力だけど…」

ニア「私達の力をもってしても、どこにいるのか察知できませんでした…が。ゼウス様。どう察知なさるおつもりです、の?」



緊急事態だとゼウスも手を貸してくれることになりました。『全知全能の神』である彼の力を借りられればもしかするかもしれません。
ゼウスは早速手に持っている杖を前に掲げ、人間には到底理解できない呪文を唱え……彼らの居場所を察知してみました。
するとどうでしょう。彼の目の前に、朧げに何かが映り始めました。



アカギ「ここは…?殺風景な場所だな…」

アクラル「そんな感想を抱くってことは、地上や天界じゃねえってことか。ニアの魔界の捜索は間違ってなかったってことだよな」

ニア「そうなりますけれど…どういうことでしょう…?この場所、『覚えがある』ような気がいたします、わ」

サクヤ「―――もしかして、『処刑場』では?」

ゼウス「そうじゃな。場所は―――現在『逃走中』が行われている会場の真下…地下にあると言ってしまっていいじゃろう。その檻の中に2人は囚われておる」



朧げに映し出されたものには、殺風景な『牢獄』のような広い空間。そして、その一か所に設置されている硬そうな檻の中に、少年の影と少女の影がぼんやりとありました。
テントカントの噂が本当だったという訳ですね。場所が分かれば後は助けに行くだけですが…。ゼウスはしかめっ面をやめません。サクヤが気になり質問してみると、ゼウスは少しの沈黙を続けた後、彼女にこう言いました。



ゼウス「助けに行くのはワシも賛同するが、檻を守っている者の中に―――『ここに在籍している者の身内』がおる」

アクラル「それって!30周年のパーティをした時に見たっていう…」

サクヤ「ベレスさんの受け持っていた生徒、そしてエイリークさんの双子の兄…。彼らが守っている可能性は充分高そうですね」

ゼウス「おお。心当たりがあったか。ならば…なおのこと、助けに向かうならば彼女等に忠告しておくのじゃ。『大切な者と戦う可能性がある』とな。ワシが出来るのはここまでじゃ。ワシが地下に向かってしまえば、世界の均衡が崩れ逆に2人を危険に冒してしまう可能性があるからの」

サクヤ「いえ、ご協力感謝いたします。…彼らも、心が囚われている3名も…必ず救助いたします」

ゼウス「期待しておるぞ。困ったらいつでも連絡するとよい」



どうやら檻を守っているのが先に会場をうろついていた3人だということが分かりました。ベレスは色々とメンタルが強いので大丈夫そうですが、エイリークがこれを聞いたらどう思うか…。サクヤは一瞬そう考えましたが、彼女も兄に会いたいはず。最終決定は彼女に任せることを決め、ゼウスに礼を言ってメインサーバを去りました。



ゼウス「沢山の者を纏めるようになり、顔つきが昔と変わったのう。そう思わないか朱雀よ」

アクラル「ジジイ。サクヤに変なこと吹き込んだら焼き焦がすからな?」

ゼウス「フッ。出来るものならやってみい!…その調子じゃと、大丈夫そうじゃな」



ゼウスはアクラルをからかいながら、そんなことを思ったそうな。







~運営本部 控室~



マルス「こっちは大丈夫。蜜柑とリピカはエイリーク達の精神のケアをしてあげて」

リピカ「本当何から何までごめんなのさ…。まさか、神様達が連れ去られちゃうとは…油断大敵さ」

マルス「ううん、気にしないで。ぼくは魔法が使えないから、出来るのはこれくらいだから」

罪木「いざという時に頼りになりますねぇ…。マルスさんが『英雄王』と呼ばれる理由が分かったような気がしますぅ」



控室では、一部のメンバーがマホロア襲撃の後片付けをしていました。
どうやら言伝でエイリーク達医務室にいた面子にもマホロアに2人が連れ去られたことが伝わり、エイリークが更に体調を崩してしまったようで…。残っているメンバーは精神的に落ち込んでいる仲間のケアをしていました。

マルスが『男性陣のケアはぼくに任せて』といつも通りの顔で言った為、リピカと罪木さんは安心して医務室へ戻る選択をしました。ちなみに、医務室は現在エイリークが使用している為男性陣は『控室を使え』とコハクから言い渡されています。
彼が改めて控室に戻ろうとすると、ドアノブが回る音が。扉から出てきたのはヴィルヘルムと、それを慌てて追いかけるマルクでした。



マルス「ヴィルヘルムさん。もう大丈夫なの?」

ヴィル「大丈夫等といっている場合ではない。早く『あの子』を助けなければ…」

マルク「マルスー!ヴィルさんを止めるのサー!神様を助けることばっかり頭が働いてて冷静さを失ってるのサー!」

ヴィル「私だけがおめおめと立ち止まっているわけには行くまい!捕まっている間、彼がどんな拷問を受けているか分からないのだぞ?!」

マルス「落ち着いて!…彼らの居場所は今サクヤさん達が捜索している。無暗に探しに出ても貴方が傷付くだけだよ!」

ヴィル「構わん。元より私はあの子の『補佐代理』。彼の影の力が戻り次第私は用済みになる。…あの子を助けて、仮に私の魂が潰えたとしても問題な『問題あるよ!』」



どうやらヴィルヘルム、MZDが攫われたことで冷静さを失い早く助けようと周りが見えなくなっている様子。彼がここまで取り乱すのはかなり珍しいことですが、それくらい大変なことが起こっているのです。
マルクが必死に彼の足にしがみつき止めていますが、彼は聞く耳を持たず1人でも彼を探しに行こうとしています。そんな彼を見てられなかったのか、自分の魂を犠牲にしてでも助けようという考えで頭の中で一杯になってしまっています。思わず口にしてしまったのか、マルスはヴィルヘルムの腕を思わず掴んでいました。



マルス「問題ある!貴方がそんな考えを持って自分の為に無駄に傷付いたとして、命を失うようなことがあったとして、彼は喜ぶのかな?」

ヴィル「貴様に何が分かる!あの子の苦しみを!!私の犯した『罪』を!!!」

マルス「分からないよ!ぼくは彼じゃないんだから。…でもね、ヴィルヘルムさん。貴方が今まさに神様やミミ、ニャミとそうしているように、『分け合うこと』は出来るんだよ。…みんなの苦しみを知っている神様が、ミミやニャミと同じくらい大切にしている貴方が自分から命を潰えさせようなんて言ったと知ったらどう思うかな?ぼくは…絶対に悲しむと思う」

ヴィル「…………」

マルス「だから、今は周りに任せよう。必ずチャンスは来る。…その時に、思いっきり気持ちをぶつければいいさ」



マルスは掴んでいた腕を離し、そのままヴィルヘルムの白い手を自分の両手で包み、彼の赤い目をじっと見つめて言いました。





マルス『貴方の手は、心は。こんなにも暖かいのだから』





…マルスの発言に彼は驚いていました。『自分の手が、心が。暖かい』と。今までMZD以外に言われたことはありませんでした。
自らの魂を絶やしたとして、残った者がどう思うか。今までならば考えたことすらありませんでした。MZDも、ミミも、ニャミも。今は『守らねばならない』…違う。『守りたい存在がいる』。いつしか、彼はそう思うようになっていました。
頭に冷や水をかけられたように、彼の思考はクリアになっていました。ああ、自分は何故こんなにも熱くなっていたのであろう。らしくない。そんな思いを抱きながら。

ヴィルヘルムがゆっくりと、かつ優しくマルスの手をのけたと同時に、サクヤが控室へと入ってきました。



サクヤ「お取込み中申し訳ございません。えむぜさんとソティスさんの居場所が分かりましたので、準備が整い次第向かってほしいのですが」

ヴィル「分かった。場所は?」

サクヤ「バトルデラックス会場の地下にある『処刑場』。そこに2人は囚われています。ヴィルさん、貴方ならばあの場所をご存知のはず。地下への封印を解いていただきたいのです」

ヴィル「あぁ、承知した。しかし、あの場からどうやって地下へと向かおうか。そこが問題だな」

マルス「(パーティの時には何かはぐらかしていた言い方をしていたけれど…。やっぱり…)」

サクヤ「そこは私にお任せください。…また、捕らえられている2人を監視している者が『以前モニターで確認した3名』だということが分かりました。マルスさん、彼ら『も』救う為にも…ヴィルさんと共に処刑場に赴いてはいただけませんか」

マルス「端からそのつもりだよ。ということは、ベレスも行くんだよね?」

サクヤ「はい。先程医務室にて話をつけてあります。エイリークさんも向かうと言っており、アイクさんが護衛として向かう予定です」

マルス「……え?エイリークも行くの?」



エイリークの名前が出たことに驚いているマルス。
彼女は小さく頷き、『彼女が望んだことだ』と強調して言葉を返しました。



サクヤ「私も一度は止めたのですが、『兄に会えるならばこのように待っているわけにもいかない』と譲らなくて。先にお伝えしておきますね」

ヴィル「…あの娘にもかのような強さがあったとはな。見くびっていた様だ」

マルス「最初からそう言ってるんだけどなぁ…。とにかく、一旦はメインサーバに行けばいいんだよね?」

サクヤ「はい。地下に囚われている者達を救出する為、作戦会議を行いたいと思います。では、私は先に戻っていますので」



サクヤは2人に小さく礼をし、メインサーバへと戻っていきました。
皆を待たせる訳にもいかないと2人も立ち上がり、歩き出そうとします。左足を出した瞬間、マルスがこう呟きました。



マルス「貴方に質問があるんだけど…。いいかい?」

ヴィル「答えられることならば」

マルス「うん。道化師が狙っているっていう『JOKER』の正体……。






















    『貴方ですよね。ヴィルヘルムさん』」





そう言った彼の顔は真剣な眼差しそのもので、『本気なのだ』とヴィルヘルムが思うのは容易いことでした。
そして―――『地下に向かったら、『JOKER』の真実を教えてやろう』と、彼は小さく返しました。