二次創作小説(新・総合)
- ABT⑧『幼き姿の神』 ( No.82 )
- 日時: 2020/05/08 22:04
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: ACwaVmRz)
本部による救出作戦が開始されましたが、その時MZDとソティスは一体何をしているのか…。
そして、『彼女』にもある心境の変化が―――。
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『……―――なさい』
……誰?ぼくは眠いんだ、話しかけないで。もう少しだけ寝かせて。
『……――きなさい』
…うるさいなあ。今日は休みなんだから、もう少し眠っていたっていいじゃないか。
『―――おぬしおぬしおぬしー!いつまで寝ているのじゃ!いい加減起きろ!』
「――――――?!」
~処刑場 檻~
一瞬にして視界がクリアになり、少年は未だぼやけた頭を横に振りながら起き上がりました。目の前には緑色の長髪の少女…。『彼女』の姿を見て、自分に何が起こったのかを少年はすぐに思い出しました。
MZD「―――あっ。オレ達、攫われたんだっけ…」
ソティス「わしより長く眠りにつくとは何事じゃ!…まさかあの小童共を襲うと見せかけて、わしらを攫う算段だったとはのう。今回は一本してやられたわ」
MZD「やべっ。サングラス本部に落としてきちゃった…。あー、あれがないと槍で戦えないんだよな…」
ソティス「『さんぐらす』とやらがあってもこの状況じゃ無理じゃろうて。わしの力が戻っているような感覚がしない。…彼奴等に奪われたままじゃろうな」
悔しがるソティスを見やしながら、MZDは檻の外を遠目で見てみます。両手が自由に動かせないのと、少し足を動かした時に『チャリ』と鎖の音がしたことから、自らが縛られているのだと判断しました。
―――檻の外には、殺風景な空間が広がっています。所々に黒く錆びの様なものがこびりついており、空間の生々しい情景が浮かんでくるようでした。
ソティス「音の神よ。ここは…どこなのじゃ?」
MZD「オレも古い文献で見ただけだから詳しくは話せないんだけど…。多分、『処刑場』なんだと思う。しかも、『地位の高い魔族が使う』レベルの。…まさか、今の時代に残ってるとは思ってなかったけど」
ソティス「『処刑場』…?にしては、何もないのう。あるのは、この地を渦巻く居心地の悪い魔力だけじゃ」
MZD「…やっぱ『純粋な神族』は居心地が悪いって思うもんなのか。魔族の『処刑』ってさ、道具は最低限のものしか用意してなくて…。ほとんど自分にありあまる『過剰な魔力』を放出する為の実験台だったんだって」
ソティス「俗にいう『すとれすはっさん』と同じようなものかのう。…全く、当時の魔族は趣味が悪いことばかりしておったのじゃのう。…して音の神よ。この際だから話しておきたいことがある」
MZD「なーに?『オレの素顔が凄く女顔で幻滅しました』とか?」
ソティス「確かにおぬし、可愛らしい女物の服を着ればよく似合う……って違う!!」
話をはぐらかそうとMZDは別の話題を振りましたが、そうはいきません。ソティスはすぐに彼の話をぶった切り、本題に入ります。
―――本部では絶対に言えないと彼女が思っていた、『あの話題』を彼にふかっけてみることにしたのです。
ソティス「以前わしがおぬしの中で蠢いていると言った『魔の力』の話じゃ。―――『JOKER』の話を聞いた時、わしの中に1つ考えが浮かんでのう。…『JOKER』が『運営本部の中に入り込んでいる』可能性をじゃ。単刀直入におぬしに質問をさせてもらう。『JOKER』は、本部の中にいるのじゃな?」
MZD「……『いない』って嘘ついてもこれは問い詰められるだろうし、外にいる監視も正気じゃなさそうだし。ここいらが隠し通す正念場ってところかな。―――うん、『いるよ』。『JOKER』」
ソティス「サクヤもおぬしも『JOKER』の話題になると途端に話を逸らすからのう。ここいらではっきりできて良かったわ。…して、彼奴等が狙っている『JOKER』が、おぬしにとんでもないことをしでかしたということもな」
MZD「…………。『ポップンの世界が、ここに混ぜられる前の話』をしてもいい?」
ソティス「なんじゃ急に。…じゃが、わしの考えに確信が持てるかもしれぬ。いいじゃろう。聞かせてみよ」
これはソティス、『JOKER』の正体に気付いているっぽいですね。彼女に隠し通すのが無理だと断念したMZDは、軽く息を吐いて昔話を始めたのでした。
MZD「ソティスはオレの呪縛が『JOKER』によるものだって気付いてるんだよね?」
ソティス「そうしないとおぬしの話や行動に辻褄が合わなくなるからのう。…それに、呪縛があったとはいえおぬしと彼奴に『敵対していた時期』があったとも話を聞いておる。それとも関係しているのじゃろう?」
MZD「正しくは『向こうから一方的に煙たがられていた』って感じだけどなー。ゼウスのヤツ、あいつがオレを殺しかけた記憶を『曇らせやがって』。思い出してもらうまでに1回ガチで死にかけたし。…いや、死ねないんだけど」
ソティス「『忘れていた時期があった』…?どういうことじゃ?」
MZD「オレの創った『ポップンミュージックの世界』では、数節に1回『ポップンパーティ』っていう大きな世界的な音楽の催しを主催として開いてたんだよね。世界中の音楽をもっと知りたいっていう欲があったのも事実だけど、今ここで本音として言えば…『どこかで生きているJOKERを探したかった』ってのが根底にあった。
そして、14回目のパーティを開くにあたって…とある噂を聞いた。『魔界の奥地に大きな城があって、そこに仮面姿の恐ろしい魔王がいる』というものを。御伽話になってた『JOKER』の話に似てるなって思ったオレは、すぐに魔界に向かってその『仮面姿の魔王』を探しに行ったよ」
ソティス「おぬしが魔界へ自由自在に行けていたのは当時からじゃったのか…」
MZD「『JOKER』に呪縛付けられたのが人間だった時からだから、ポップンワールドを創った時から行き放題だったよ?…それはいいとして。数日に分けて探していた末、オレはついにその『魔王の城』と呼ばれる場所に辿りついた。…で、忍び込んだのはいいんだけど―――案の定城の主に見つかってオレは捕らえられた」
ソティス「馬鹿かおぬしは?!本来ならば我々と相容れぬ存在である魔族の城に、しかも『魔王』の噂のある城にずけずけと忍び込むとは!!」
MZD「当時はまだヤンチャしたい頃だったからねー。あいつにも同じこと言われたっけ。…で、オレはその城の主の魔力の波長で気付いた。『こいつが探していたJOKERだ』って。でも、言えなかった。…あいつは、『JOKER』としての記憶を一部失っていた。失っていたっていうか、さっき言った通り『ゼウスに曇らせられていた』ってのが正しいんだけど…。そのせいでオレのことも覚えてなくて。
相手からしてみれば勝手に自分の城に忍び込まれた不審者だろ?しかも自分が忌み嫌う『神』。オレにとっての再会の第一印象はあいつにとっては最悪で、しばらくは目を合わせる度に不機嫌になられてたなー」
ソティス「そのまま交流を続けようとしたおぬしもおぬしじゃぞ…」
そう言うと、MZDは当時を思い出すように目を細めます。本当に思い出深い事柄なのか、その言葉1つ1つを噛み締めるように…彼は大事に話してくれました。
しかし、そこでソティスに1つ疑問が湧いてきます。彼女の思っている『JOKER』は、現在はMZDととても仲のいい印象しか持っていません。寧ろ、彼を最優先に守護する為に動いているような…。そう思ったソティスは、MZDにこう聞いてみました。
ソティス「しかし妙じゃのう。ならば、なぜ覚えていないはずの記憶を彼奴は取り戻しておるのじゃ。今の彼奴からは当時の関係など想像できぬ」
MZD「話の続き聞けば分かると思うよ?そんじゃ続きな。
最初は断られ続けていたパーティの誘いも、粘りに粘って何とかOK貰ってな。かなり渋々って感じだったけど。そして、パーティ当日―――。イベントで『ヒーローvs悪者』ってのを企画していて、オレはあいつに『ラスボス役』をやってくれってお願いしていたんだ。…それで、イベントも最終局面。ラスボスであるあいつとイベントの主役であるヒーローがガチでバトルをしていた時…とんでもないことが起きた。
ヒーローのレッド役が、力の加減を誤って『仮面を粉々に砕いてしまった』んだ。…あいつの仮面が有り余る魔力の封印先だってことは知ってるよな?」
ソティス「FE30周年の宴の時にも言っておったからの。覚えておるぞ。そんな大事な仮面が壊れてしまうとは…相手の者の力が余程強かったのじゃな…」
MZD「…まあ、それも一つの原因ではあるけど。仮面が砕けて、仮面に封じられていた魔力はあいつの中に戻ってしまった。それで…ポップンワールドは、1回『破滅の危機』に瀕したんだ。みんなは今でも知らないけど、かつて『JOKER』と呼ばれていたあいつの魔力が完全に戻っちゃえば世界がどうなるか―――ソティスには想像つくよね?」
ソティス「そうじゃな…。強すぎる力のせいで世界が滅ぶことなど、想像に容易い」
MZD「うん。どうしても世界の崩壊を止めなきゃって思って…それに、パーティに招待して、大事な仮面を壊しちゃった責任もあったから。オレはミミとニャミに観客とパーティ参加者の避難をお願いして、暴走し始めたあいつとタイマンの状況を創って『精神世界』に一旦一緒に堕ちることを選んだ。
その後は大変でなー。こっちも全力で行かなきゃ魂消されるし、相手はフルパワーだしで防戦一方。そして…一瞬の隙を突かれて喉を引き裂かれそうになった」
ソティス「…………」
MZD「だけど…あいつがオレの喉を貫こうとしたけど…出来なかった。あいつも自分が何をしているのか理解できなかったみたいで、かなり焦ってたよ。そして―――オレの心臓部分にある『呪縛』が偶然あいつの目に映った時―――。
あいつの表情が変わるのが分かった。…自分が『JOKER』だった頃にオレに何をしたのか思い出したようで、喉元にあった手を退けた。それから、謝られた。『私は二度も、お前を殺そうとした』と。そこでオレも気付いたよ。あいつが…『ゼウスの記憶を封じる魔法を打ち破った』って。…思い出して、くれたんだよ。オレのこと」
ソティス「…かの全知全能の神が、『ワシの術を打ち破る者がいるとはのう』と以前言っておったのはそういうことだったのか…。それにしても、おぬしも数奇な人生を送っているようじゃの。自身の命が、魂が、何度も狙われてどうしてそこまで前線に立とうとするのじゃ。わしには理解が出来ん」
MZD「…オレが前線に立つことで味方の被害も敵の被害も減らせるならそれに越したことはないじゃん?それだけの話だよ。
それからだよ。あいつがオレに好意的になってくれたのは。元々信頼するヤツには凄い世話好きで献身的だったみたいだから、オレに対する態度がガラッと変わったのには少しビックリしたけどな」
一区切り話し終わったのか、MZDはふぅ、と一息吐いてソティスに向き直ります。
それにしてもゼウス、彼の『JOKERの記憶を一部消す』とは思い切ったことやりますね。…恐らく、お互い再び出会わずに暮らしている方が双方の精神的に楽だとでも思ったのでしょうか。
ソティスは彼の話を聞き終わった後、小さく頷いて彼にこう返しました。
ソティス「…その話を聞くと、余計に『JOKER』は渡せぬな。単なる世界の崩壊を止める為ではない。『JOKER』は、彼奴でなければならない理由がきっとあるのじゃ」
MZD「そう、思ってくれるんだ。ありがとうソティス。その言葉が聞けただけでオレは嬉しいよ。
…交換条件として道化師達が『JOKER』を求めている以上、交換に応じさせることは出来ない。何とかしてここから脱出しないと―――」
『残念だケド、それは無理な話ヨ』
ソティス「おぬし…」
『JOKER』の力を余計に彼らに渡してはならないと改めて思った2人は、どうにかしてここから脱出できないかと考えを巡らせ始めます。
しかし、その声を遮る足音が1つ。MZDとソティスが音のした方向を向いてみると、そこには腕を組んだべリアがいました。
MZD「…何しに来たの?お前さん達が思いっきりやってくれたから、オレ達今何も出来ないの知ってるよね?」
べリア「エエ。抵抗出来ないように神の力を封じているんだモノ。アタシは単に様子を見に来たダケヨ」
ソティス「おぬしの想像ではわしらはもっと絶望に満ちた顔をしていたのかのう?残念じゃったな。力を奪われたとて、心まで奪われるような軟弱者ではないわ!」
べリア「……ソウネ。そうかもしれないワ」
ソティスの威勢のいい返しにもどことなくそっけない返事をするべリア。前回の逃走中とは打って変わって随分としおらしいですね。何か企んでるんでしょうか。
そのまま警戒を解かずににらみ合いを続けていると、ふとべリアが2人にこう告げました。
べリア「アンタ達に良いコトを教えてアゲルワ。セーリュー達が、アンタ達2人を助ける為に動いているソウヨ。…もうすぐこっちに来るんじゃないかしらネ?」
ソティス「えっ…?」
MZD「敵に塩を送るなんて、らしくないな。何か企んでる?」
べリア「…道化師の気まぐれヨ」
何か彼らに言いたげでしたが、彼女はその言葉だけを残してその場を去ってしまいました。
前回との変貌に首を傾げるばかりの2人。べリアの指示なのか、監視が強まり始めた為大人しく本部の助けを待つことにしたのでした。