二次創作小説(新・総合)

打ち上げ ① ( No.169 )
日時: 2020/07/24 22:01
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: Slxlk2Pz)

サクヤ「それでは、以上を持ちまして次回逃走中に関しての発表を全て終了いたします。皆様、ご自由に打ち上げをお楽しみください!」



MVPの発表も無事に終了し、ある種のお約束である打ち上げパーティが始まりました。今だポップン界のM&Wが戻ってきていませんが、彼らのことです。何かしらまた変な企みをしている可能性があるので今は放っておきましょう。
…ジルクファイドのこともあり、一部のメンバーはあまり顔が晴れやかではありませんね。様子を見てみましょうか。



風雅「あいつ、生身の人間じゃないから瓦礫くらいで身体が潰れたり、壊れたりはしなさそうだから大丈夫だとは思うが…。ルカ達の話によると塔が全部瓦礫になって崩れたんだったよな」

烈「あぁ。生身の人間じゃなくても『普通のロボット』程度ならスクラップになってもおかしくねぇだろうよ」

塵「早いところミミにも元気になってもらわないと、次回逃走中も勢いのあるスタートを切れないよな」

烈「だがよぉ。ミミニャミは俺達の比じゃねーくらい傷付いてんだ。簡単にそう言って『はい、元気になりました』とはならねーだろ」

風雅「確かにそうだな。…俺達も様子を見に行こう。心配だ」

塵「あぁ…」



既に全てのプログラムが終了している為、参加者がどう行動するかは自由。烈達は先程から言っていたように落ち込んでいるミミに何とか元気を取り戻してもらおうと、彼女を慰めに医務室へと向かいました。
…そんな彼らの様子を見て、サクヤがぽつりと零します。



サクヤ「ジルクさん。…どんな思いで『宝石の様子を見に行く』と仰られたのでしょうか。人であればこの悲しみも共有できたのでしょうか…」

アクラル「お前が悲しめねぇ分俺が悲しんでやるんだから心配すんな!俺達は『そういう風に出来ている』んだからよ」

サクヤ「―――そうでしたね。えむぜさんとヴィルさんが何やら裏でやっているようですし…。彼らのことです。また『世界の理を覆すような行動』を取ることも考えられます。…彼らは、過去にそうやって何度『他人の消滅』の運命を捻じ曲げてきたんでしょうか」

アクラル「さてなー。ま、俺達には知る由もねーけどさ。あいつら信じて待ってればいいんじゃね?」

サクヤ「―――兄貴の言い分も一理ありますね。それに…私は彼らのことを信じない日なんてありませんよ。兄貴、貴方は私なんだから分かっている事でしょう」

アクラル「しーっ!しーっ、だぜ!地獄耳がこの会場にいるかもしれねーんだから言うなって」



なーんか朱雀と青龍の双子、おかしなことを口にしていますが。『そういう風に出来ている』?『貴方は私』?…ですが、ここで明かす謎ではありませんね。
―――それはともかく、そろそろ会場から戻ってこないボス2人の様子でも見に行きましょうか。何やってるんだか。















~レインボー・ドリーム 天空の塔『だったもの』前~



MZD「わぁ。見事に崩れちゃってる。ジルクが宝石守ってくれなかったらぜーったいに天気がおかしくなってたよ…」

ヴィル「跡形もなく崩れたからな。…MZD。目的は『宝石』ではないのだろう。早いところ掘り起こすぞ。場所は知れているのだからな」

MZD「なんだよーノリ悪いなー。もしかして異世界の運動会で暴れられなかったこと後悔してんの?」

ヴィル「…………。……少しは」

MZD「あの場でお前が暴れた結果世界が滅びたらどう責任とってくれるんですかー?そんなことになったらオレ知らんぷりして帰ってたから!」

ヴィル「昔はもう少し冗談が分かる子だと思っていたのだがな。ラピストリア辺りから冗談が通じなくなったのではないか」

MZD「お前の冗談は冗談に聞こえないの!はい、さっさと探す!」

ヴィル「最初からそう言っているだろう」

MZD「うるせー!」



全く。この2人の掛け合いはポンポンといつ聞いてもテンポが良いですねぇ。2人は現在ゲームが終了した後のレインボー・ドリームにいました。既にスタッフも全員撤収しており、いるのはボス2人だけ。何かを探すような仕草をしているようですが…。
既に勘付いている方もいると思われますが、彼らはジルクファイドを助ける為にここに来ていました。まぁ、ミミのあんな号泣した姿見たら動かないわけにはいきませんよね。既に場所も割れているようで、各々透視魔法を使用し最適に掘り当てられる場所を探知していました。



ヴィル「―――でだ。掘り起こした後はどうするつもりなのだ」

MZD「オレの神パワーを少しだけ解放して、お前の『永久』の力と練り合わせる。そんで…回路を無理やり動かす予定。現代の医学で言ったら…『AED』ってのを魔力で無理やり作って、発動させて心臓を動かす感じ?」

ヴィル「成程、現代の医学をアンドロイドに応用させて魔力で代用するのか。この場に混ぜられなければ思い付かなかった寸法だな」

MZD「だよなー。コハクと蜜柑の医術をしっかり頭に記憶してて良かったとこれほど思ったことはないぜ。……この辺りじゃない?光の槍を爆発させればジルク引きずり出せそう」

ヴィル「身体を傷つけるなよ。古代の技術を結集して創られたアンドロイドだとは聞いているが、外傷が全くない可能性は無いのだからな」

MZD「へいへい分かってますよ。…さーて、それじゃいっちょ『生命創っちゃいますかね』」



そういうと、MZDはヴィルヘルムに少し下がっているよう指示します。彼にかかった呪縛のお陰で光属性の耐性は少々得ているとはいえ彼は魔族の身。元々光魔法は弱点に等しいもの。少しでも被害に巻き込まないように、との彼なりの優しさでした。
彼が下がったのを確認した後、彼はサングラスを光の槍へと変換させ、そのままターゲットにしていた位置へ投擲。そのまま人間には理解できない言葉を詠唱し、そのまま―――槍を爆発させたのでした。



MZD「ちょっと瓦礫跳ねるかも。避けるかマントで防ぐかしといて」

ヴィル「先に言え」



まばゆいばかりの光が爆発し、それに巻き込まれたかのように瓦礫が辺りに飛び散ります。下がらせたはいいが思いの外威力が高かったらしく、わざとらしく彼はヴィルヘルムに忠告しました。それを聞いた彼は呆れたように彼を見た後、跳ねる可能性が低い所へ事前に移動したのでした。

…しばらく光が舞うのを見届けた後、瓦礫があったそこには―――『緑色に輝く宝石を握りしめた右手』が覗いていました。そう、まぎれもないジルクファイドの手です。
そのまま2人がかりで引っ張ってみると、ずるずると瓦礫の中から『彼』が―――ジルクファイドが現れたのです。



MZD「幸い五体満足。ちょっとした外傷だけみたい。さっすが古代の時代に開発されたアンドロイドだよなー」

ヴィル「もう少し損傷が酷いと予想していたがこれほどまでに装甲が硬かったとは…。―――ジャックの強化に使え『使うなよ?』……」

MZD「ともかく!五体満足だったのはラッキーだったな。この調子なら魔法を発動した後ルーファス辺りに修理任せても大丈夫なんじゃない?」

ヴィル「彼の腕を信頼しているのだな。…まぁ、前回の技術を目の当たりにしてみれば彼の知識と技術は目に余るものがあるが」

MZD「だってジルクの傷すぐに理解して修理しちゃうんだぜ?人間の癖にさ。その分野のスペシャリストのその上を行く知識を持ってないと無理だって。―――さて、雑談はここまでにしてちゃっちゃと始めようぜー」



装甲や羽は随分酷い傷がついていましたが、それでも瓦礫の中に埋まったのに五体満足でした。これはラッキーだと思わざるを得ませんね。彼が『古代のアンドロイド』だからこんな結果になったのかもしれませんが…。
時間を無駄にはしていられないと早速MZDはヴィルヘルムに指示を仰ぎ、『永久』を発動してもらう準備を始めました。え?永久を使って彼は大丈夫なのかって?前回のはガチギレして自分で仮面割った結果でのあれですから。少々の魔力開放くらいは大丈夫なんです。…『JOKER』抜きにしても相当魔族カーストは高いですからね彼。

ジルクファイドを瓦礫から離れた安全な場所に移動させ、彼の対角線上に重なるように2人は立ちました。そして―――2人で各々違う詠唱を始め、そのままジルクファイドの魂へと力を注ぎこんでいきます。
白い光と黒い闇―――。双反する2つの力がジルクファイドを包みます。そして―――2つの力が合わさり消えていくように、ジルクファイドの『ココロネ』を青く染め上げていきます。ずっとずっと薄く照らしていた、彼の心を呼び覚ますように…。

―――しばらくした後、淡く光っていた青い光が彼の心臓部分に戻っていきました。それを確認したボス2人は、そのまま魔力の開放を止め安らかに目を閉じている彼の傍へと近づいたのでした。



MZD「なかなかうまく行ったんじゃない?」

ヴィル「後は彼が『目覚める選択』をするだけだが…。それに関しては私達がとやかく手を出す場面ではないからな」

MZD「うん。…外傷の修理の依頼、ルーファスに連絡しておくわ。さ、戻ろうぜ」



背中は押した。後は彼次第。…きっと目を覚ます選択をしてくれると信じながら、MZDとヴィルヘルムは本部への帰路につくのでした。







~運営本部 医務室~



ルーファス「はい、ルーファスです。…えっ?はい、はい!あの、それならばまた魔法工具をお借りしたいのですが…。ありがとうございます!それでは帰還の方お待ちしております!」

シェリル「しゃちょーさん、どうしたの?」

ルーファス「ミミちゃん。ニャミちゃん。神様達がどうやら救ってくれたみたいだよ」

ミミ「………え?」

ニャミ「どういうことですか?」

シェリル「んんんーーー???」



所変わって医務室。そこでは現在ミミが精神的なケアを受けていました。まぁ、そりゃあ目の前で助けようとした相手がいなくなるのを直に見てしまいましたからね…。いくらニャミやMZDの励ましを受けても、深く突き刺さった心の棘は中々抜けるものではありませんでした。
そんな中、ルーファスに通信が。彼の話す様子から恐らく相手はMZD。…先程のジルクファイドの件ですね。シェリルが不思議そうに問うと、彼は3人に向けて優しい微笑みを浮かべながらそう返したのでした。



ルーファス「ジルクファイドさん、見つかったって。大々的な処置は神様達がしてくれたみたいで、外傷の修理を僕が頼まれたんだよ。もう少ししたらこっちに着くみたい」

烈「なっ?!あいつ、無事だったのか?!」

風雅「良かった…!MZD、普段は神様らしくないが要所要所で神様らしいことするもんだな」

ニャミ「あったりまえじゃん!MZDは神様なんだから!―――それに、ヴィルさんも相当な魔力持ってるからね。2人の力が合わされば怖いものなしなんだからね!」

シェリル「わー!それはすごーい!世界を創り変えちゃうことも出来るのかな?」

ルーファス「今のタイミングでそれは駄目だよシェリル」

塵「……だが、本当に無事でよかったな。後は外傷さえ直れば目を覚ますんじゃないか?」

ミミ「………覚まさなかったら、どうしよう?」

ニャミ「ミミちゃん。マイナスな方面ばっかりに考えてちゃ駄目だって!」



ジルクファイドが救出されたという報告を受け喜ぶ一同。ルーファスに修理を頼んできたということは、完全に壊れていた可能性を撤廃できると確信しその場は明るい雰囲気に包まれていました。
…しかし、ミミの心には不安が残っていました。『助かったとして、目覚めなかったらどうしよう?』と。『目覚めても、自分達のことを覚えていなかったらどうしよう?』と。

―――そんな思いを胸に抱いたのも束の間。2つの足音が近づいてくるのが一同には分かりました。勿論その音の正体は……。



MZD「ちはす!ちゃーんと助けてきました!無事五体満足でーす」

烈「五体満足?!あのデッカイ塔の下敷きになって?!凄い技術なんだな、古代の技術…」

ルーファス「そうなんだよ!彼を構築しているプログラムや設計は現代では使われていない遥か古代の技術がこれでもかと使われてて…それこそ現代よりも文明が栄えているとさえ勘違いしてしまいそうな程に素晴らしいものなんだ!興味があったら今度僕が講習をしてもいいよ!参加する?」

風雅「熱意は伝わったが講習への参加はご遠慮したいかな…」

シェリル「しゃちょーさん!ジルクファイドさんを助けてあげようよ!ごたいまんぞく、とはいえボロボロだよ?」

ルーファス「あっ、そうだった…。それじゃベッドをお借りして、しばらく時間をいただきますね。検査を終えたらすぐに修理を始めますので」

MZD「おっけー。はい、魔法工具。使い方は前教えたから分かるよな?」

ルーファス「はい。神様の使用する工具は使い勝手がいいものばかりですね。こだわってるんですか?」

MZD「まーねー。自作のDJセットもいわばオレが創った『いのち』みたいなもんだし?メンテはちゃんとやらないと錆びちゃうだろ?」

ニャミ「DJセットのメンテが出来るのにジルクファイドさんの修理は出来ないんだね」

ヴィル「根本的に物が違うからな。―――彼の設計は『異界』から流れ着いた技術によるものと確定してもおかしくないくらいだ。我々が手出しできなくて当然なのだ」

ニャミ「そうなんだ…。じゃあ、なんでルーファスさんには簡単に直せちゃうんだろう?」

シェリル「うーん…。もしかしたら、わたし達の世界とニャミさん達の世界がどこかでつながってたりするのかな?」

ニャミ「それはあり得なくはないかもね!エクラルもポップンワールドとは違う異世界だし…」



MZDとヴィルヘルムがジルクファイドを背負って医務室にやってきました。彼から魔法工具を受け取ったルーファスは、早速ベッドに横たわったジルクファイドの修理に入ります。…若干興奮気味なのは気にしないでおきましょう。
彼はその様子を見守った後、椅子に座って落ち込んでいるミミの傍へと近寄ります。



MZD「ミミ。大丈夫だよ、ジルクは起きる!そう信じないでどうすんの?」

ミミ「でも…すっごいボロボロだったよ?そのせいで起きなかったらどうしよう…」

MZD「ルーファスの腕は一流超えてるからそこは心配しなくてもいいの。…ちゃんとお前達の声に反応して、自我を得たんだろ?あいつ」

ニャミ「うん。自分の意志で、宝石を守りに行って…そのまま塔の下敷きになったんだよ」

MZD「ならあいつだってミミニャミに会いたいと思ってるはずだぜ?―――『心』ってのはそんなにヤワに出来てねーの。だからさ、ミミ。まだ諦めないで、もうちょっとだけジルクのこと信じてやってよ。もし起きないのであれば、さ。もう一度お前らが声をかけてあげれば、ちゃんと反応してくれるんじゃない?」

ミミ「うん…」



ミミは横目でジルクファイドをちらりと見やりながら、声を震わせてそう答えました。彼女の恐怖と悲しみがどれだけ大きいものなのか、それをMZDは分かっていました。だから、彼女に語りかけるように…優しく諭すように、そう言ったのです。
―――そのまま彼女の背中をさすっていると、ふとルーファスのため息が漏れます。…どうやら修理が終わったみたいですね!



ルーファス「ふぅ。何とか修理が終わりました。…ミミちゃん。ニャミちゃん。君達の呼びかけで彼は目を覚ますと思うよ。大丈夫。何の能力もない僕がそう思ってるんだから間違いないって」

烈「古代兵器を簡単に修理する腕を持ってるのになんでそんなに謙遜するんだ?」

シェリル「しゃちょーさんのお陰でわたし、色んな場所に職業体験に行けるんだよ!」

塵「この人もよく分からないけど『凄い人』なんだな…」



そのまま彼はミミニャミの手を引き、ジルクファイドの前まで連れて行きます。そして、優しく『彼に声をかけてあげて。彼の名前を呼んであげて』とだけ伝えました。
ミミは不安そうにニャミの顔を見ましたが、彼女は『大丈夫!』と笑顔を作って彼女を元気付けます。もし目覚めた時に不安そうな顔をしていたら彼も心配するのではないだろうか。ミミはそう思い、自分の気持ちを抑え込みニャミと共に彼の名前を呼びました。





『起きて、ジルクファイドさん。もしこの声が届いていたら、目を覚ましてください』



しばらくの沈黙。うまく行かなかったのかな、と不安と恐怖が胸を貫きます。
……しかし、そんな彼女達の不安を吹き飛ばすかのように。






































『ミミ、ニャミ……?』




―――その『青い瞳』は、うさぎと猫の少女を捉えたのでした。

打ち上げ ② ( No.170 )
日時: 2020/07/24 22:08
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: Slxlk2Pz)

―――目の前が、やけに明るい。自分は瓦礫に潰されたのではなかったのか…?『アンドロイド』はそう思っていました。しかし、視界に入ってくる『光』。それは、明らかに自分の思考とは真逆の印象を頭に植え付けていました。
…混乱する最中、思わぬ衝撃が彼を襲います。重くも、暖かな感触。思わずその場所を見てみると、『彼女』達が涙を流しながら自分に抱き着いていました。



ミミ「ジルクさんっ……無事で、無事でよかったよぉ!わたし心配したんだからぁ!!」

ニャミ「ホントだよ~!ミミちゃんの不安に引っ張られてあたしも死んじゃったんじゃないかって思っちゃったんだからね…!う、うわぁ~ん!!!」

ジルク「…………」

MZD「アンドロイドに『死の概念』はないんですけど~?」

ミミ「雰囲気だよ雰囲気!MZDは空気を読まないなぁ!!」

MZD「あのなー。感動的な再会は別にいいですよ?でも、ジルク重そうだからどいてやれよ」

ニャミ「全くもー!MZDったら乙女心がわかりゃしないんだから!はいはい、どきますよ!…急に抱き着いてごめんね?ジルクさん」



MZDが呆れ顔でミミとニャミにジルクファイドから離れるように言います。口をとんがらがせながらぶーぶー彼に反論をしつつ、彼女達は彼から離れたのでした。
…そこでやっと自分がどこにいるのかを彼は認識しました。前回逃げ込んできた運営本部…。確かに、そこで間違いありませんでした。



ジルク「俺は…助かったのか…?」

MZD「助かった、って言い方は半分間違ってるな。幸いにもお前の回路が切れてただけだから、オレらの力を合わせて無理やり繋げて『心』を呼び覚ましました」

ルーファス「修理中も思ったんだけど、奇跡的に内部の構造はほとんど無傷だったんだよね…。これも古代の技術の賜物なのかな?―――前も思ったけど、なんだか見覚えがあったんだよね」

ヴィル「そうなのか?…やはり、異世界の技術がこちらの世界に収束していた可能性は捨てきれないな」

MZD「ま、幸いにもその『技術が伝えられた異世界』とやらも混ぜられてるみたいだし?それに関してはこれから解明していけばいい話だろ?それよりも!ジルク、これからどうすんの?
   …多分、道化師のところには二度と帰れないよ」

ニャミ「ちょ?!道化師の元へ返しちゃうの?!」

MZD「返さないよ。誰が返すかよ!……でも、今のジルクは『主を失った状態』なんだ。こいつはジャックとは根本的に違う種族だからな。アンドロイドは基本的に『主』がいなければ活動が出来ないんだよ」

ジルク「……確かに『主』を失った今、俺に行動命令を起こすことはできない。―――折角助かった命でも、『動くことが出来なければ』意味がない」



ジルクファイドが助かったのも束の間、今度は別の問題が浮上しました。ジルクファイドを含め『アンドロイド』や『ロボット』と言った種族は、基本的に『主』…人間や神、まぁ生けとし生きる者の命によって動くことが前提条件です。
―――メフィストの支配から脱した今、彼は『主を失った状態』にありました。新たな『主』を見定めない限り、彼は動くことが出来なくなってしまいます。…何の目的もない、唯のスクラップとして生きていくことでしょう。
それだけは避けようとMZDは色々と思索を巡らせていました。…しかし、中々いい方法が思い付きません。どうしたものかと首を傾けると、ふとニャミがこんなことを言いました。



ニャミ「―――『主』ってのは、誰でもいいんだよね?」

MZD「うん。ちゃんとした『心』を持つ持ち主であれば、基本的には誰でも」

ニャミ「じゃあさ!あたしとミミちゃんがジルクさんの新しい『主』になれないかな!…確かにあたし達『マスコット』としては顔が知れてるけど、MZDみたいにリーダーシップが取れてるわけでもないし、ヴィルさんみたいに知識が豊富な訳でもない。…でも!ジルクさんと仲良くなりたいって、守りたいって思いだけは同じくらいあるからさ!ね、ミミちゃん!」

ミミ「わたしも出来るならそうしたい。ジルクさんは今まで沢山辛い思いや悲しい思いをしてきた。その痛みを、わたし達ちょっとでも分かりあえたらなって思ってたんだ。…これをきっかけに、わたし達ジルクさんともっと仲良くなりたい!サニパで戦って仲良くなったように、この世界でも…『主』と『機械』としてだけど、そんなの取っ払って友達になりたい!」

ヴィル「……だが、アンドロイドやロボットの『主』として行動するということは…責任も生じる。彼は『古代兵器』なのだ。―――その責務を背負う覚悟はあるか、少女共」

ニャミ「うわぁお、ヴィルさんに『共』って言われるの貫禄あるなぁ~…。そんなことはいいとして、覚悟はあるよ。軽い気持ちでこんなこと口にするわけないじゃん!」

ミミ「わたしも。生半可な気持ちじゃないことは本当だよ。ジルクさんを…ちゃんと『主』として守ってみせるよ」



なんと、ミミニャミがジルクファイドの『主』になると言い始めたのです!戦闘用ロボットやアンドロイドでなければMZDも軽くOKを出したのでしょうが、彼は『古代兵器』。以前のようにトラブルを起こしてミミやニャミに怪我でもされたらたまったものではありません。迂闊に首を縦には触れませんでした。
それでも、と自分の気持ちを伝えるミミニャミの元に、医務室に入ってくる『助け舟』が現れました。
























『良いではないですか。彼女達の純粋な心ならば、彼を暴走させることもないでしょう』

MZD「サクヤ!お前さんいつから…!」

サクヤ「連絡を受けたはいいものの、中々戻ってこないので心配になりまして。こうして様子を見に来たのです。…えむぜさん。貴方がミミニャミさんを心配する気持ちは痛いほどわかります。現にジャックさんを護衛に付けたのも貴方のお人好しで心配性なところからでしょう?
    …ですが、彼女達は思った以上に成長しています。ここは、『保護者』として見守ってあげてもいいのでは?と、私は思うのです」

ミミ「サクヤさん…」

ルーファス「彼のメンテナンスは僕が引き続き担当します。彼女達とも密に連携を取って、彼を暴走させないよう…ちゃんと、『人間』として暮らせるようサポートします。―――僕も、彼女達を信じてもいいと思っています」

ニャミ「ね!みんなこう言ってるんだし!許してよMZD~」

MZD「うーん…」



あらら。サクヤにも聞かれていたようで後押しされています。ルーファスも自分がメンテナンスを行うと彼女達に味方します。これは否定する術を失ってしまいましたかね?
―――しばらく眉をひそめていたMZDでしたが、諦めたように『いいよ。お前達の純粋な心は誰にも負けてねーし。ジルクもちゃんと導いてやんな』と、主になることを認めたのでした。



ミミ「ところで…わたし達が『主』になる為にはどうすればいいの?」

ジルク「―――『プログラムダウン。再起動を開始します』」

シェリル「わわっ!本当のロボットみたいな喋り方になっちゃった!」

ルーファス「本当のロボットなんだよ?」

ジルク「『再起動 正常終了。『マスターの名前』を音声認識してください」

ヴィル「ミミ、ニャミ。彼に向かってゆっくり自分の名前を認識させなさい。それで…『主』と彼に認識させることはできるだろう」

ミミ/ニャミ『……うんっ!』



ジルクファイドが自らプログラムに再起動をかけ、マスター…『主』を認識できるようにしてくれました。ヴィルヘルムに促されるように再度座ったまま動かない彼の元へ向かう少女達。
そして―――ゆっくりと、はっきりと。自分達の名前を告げたのです。



『ミミ。あなたとこれから友達になる『主』だよ!』

『ニャミ。あなたの『主』になるよ。でも、友達として接してね!』





『『マスターの名前 ミミ。ニャミ。インプット 完了。これより、貴方達を『主』と認識します。プログラム起動中 ―――』』



無表情のまま、抑揚も無くそう告げるアンドロイドに2人は一瞬不安を覚えましたが、それもすぐに取っ払われ。
青い目に光を指した『ジルクファイド』が、すぐに戻ってきたのでした。



ジルク「―――ミミ。ニャミ。これからはお前達が『主』だ。お前らを…そして神を。幽玄紳士を。暗殺者を。『守る』」

MZD「あれれ?ちょっと?守るのはミミニャミだけでいいんだよ?」

ジルク「以前の俺ならばそうだったかもしれない。が…不思議と自然にお前達も守らねばならないと思ったんだ」

ヴィル「まさか…彼奴にも『自我』の影響が出たのか…?!全く、この世界に来てからは理解が及ばぬ事象に巻き込まれるばかりだ」

サクヤ「まぁまぁいいではありませんか。ミミさんニャミさんのおつきということは、彼もこれから本部の仲間として一緒にお仕事をしていくということで…それで、よろしいんですよね?」

ジルク「端的に言えばそういうことになるか。―――迷惑をかけた分、しっかりと働いて返す。これからよろしく頼む」

サクヤ「はい。こちらこそよろしくお願いいたしますね」



軽く握手を交わした彼の手は―――どことなく『暖かい』ような。サクヤはそんな感触を覚えていました。
…そして、改めてジルクファイドの様子を見守ったサクヤは、ふとMZDの方を向いてこう告げました。



サクヤ「そうでした。えむぜさん、そろそろメインサーバへと来ていただきたいのですが」

MZD「ん?どーしたの?」

サクヤ「また通信が来ているみたいなんです。何でも、『逃走中に興味があるから橋渡し役がてら仕事を手伝わせてほしい』という方がいるらしくて」

ヴィル「はぁ…。人手は幾らあってもいいが、一体誰から来ているんだ?」

サクヤ「―――『クッパ軍団』からですよ」
























『―――ええーーーーーーっ?!!』










~運営本部 メインサーバ~



クッパ『ガッハッハッハ!マリオと名勝負を繰り広げている間に通信が切れてしまったようでな!先程は急に通信を切ってしまい申し訳なかったな!』

アカギ「あ、いや、それについてはいいんだが…。『逃走中に興味がある奴ら』って誰のこと…?」

クッパ『無論、ワガハイの部下であるぞ!2人とも初回から噛り付くようにテレビから目を離さないでな!ワガハイが話を聞いたら『興味がある』と言ってな!よくマリオも遊びに行っているようだから、敵場視察がてら仕事を手伝うようにワガハイから提案したのだ!!』

ニア「敵場視察って…。我々の前で告げる発言ではないのではなくて…?」

konakun.「敵の前でペラペラ弱点を喋る辺り何も成長してないよね…」

クッパ『なっ!ふーんだ!!責任者はまだ戻らないのかー!!そいつのOKが出ればワガハイの勝ちも同然だもんねー!!』

はなこ(k)「(なんだか初期のマ○オパーティのクッパを思い出すなぁ…)」



所変わってメインサーバ。話の通りクッパが通信を繋げてきていました。どうやら部下の中に『逃走中に興味がある』者がいて、仕事を手伝わせたいと依頼が来ているようですね。…あくまでも彼の大義名分は『マリオの弱点を調べる』ことらしいのですが。
どうやらマリオに本部に入られていることは筒抜けの様です。スマブラに参戦しているFEメンバーから情報を提供してもらっているのでしょうか。
まぁ、それはともかくですね。しばらく話を続けていると、サクヤが戻ってきました。



サクヤ「戻りました。…どうやら通信は戻ったようですね。良かったです。それで、誰を派遣していただけるのですか?」

クッパ『おお!それでは受け入れて貰えるということでいいのだな!それならば紹介しよう!2人共!自己紹介するのだ!』

サクヤ「手伝っていただける人手を断るわけがないではないですか。…知名度、実力共にお墨付きのクッパ軍団であれば猶更です」



サクヤは既にクッパの要請を受け入れる気満々だったようで、すぐにOKを出しました。まぁ、助けはいくらあっても困りませんからね。肯定的な答えを貰えたクッパは満足そうに自分達の部下の紹介に移ります。モニターには緑色のコウラを背負った黄色い亀と、彼を骨だけにしたような亀が移動してきました。



ノコノコ『初めまして!ノコノコといいます!クッパ軍団の一兵士ではありますが、この世界に飛ばされてから始まった『逃走中』にハマってしまって…。これからお手伝いが出来るということで嬉しいです!これからよろしくお願いします!』

カロン『オレは…カロンだ…。ノコノコと同じ…クッパ軍団の…一兵士だ…。オレも…『逃走中』が…好きだ…。出来ることは…頑張る…。よろしく…頼む…』

ミミ「え~!かわいい!ねぇねぇニャミちゃん、こっちに彼らが来たら何かプレゼントしてあげようよ!プレゼント!」

ニャミ「いいねー!何がいいかな~、今から考えなくっちゃね!」

ジャック「早速盛り上がってる…。ジルクファイド、だったか。―――一応俺もこいつらの護衛を命じられているんだ。目的が同じということで敵とは認識しない。俺はジャック。改めてよろしく頼む」

ジルク「こちらこそ。彼女達は賑やかなんだな」



どうやら次回から手伝いをしてくれるのはノコノコとカロンみたいですね!クッパの言葉だと彼らは『一介の兵士ながら実力者』とのことですが。普通の彼らとは何が違うのでしょうか?それは次回以降のお楽しみですね。
今回は彼らの紹介でお開きということで、クッパは豪快に笑い声を響かせながら『次回が始まったらまた連絡するのだ!』と言い残し通信を切りました。
何はともあれまた仲間が増えましたね。…おや、どうやらジョマンダ達の会話にも進展があったようで。



ジョマンダ「…は?親父達もここで働くって?」

リサ「あぁ、そのつもりだ。一度は本部を襲った身故、あまり自分から口に出したくは無かったのだがね。しかし…他に行くところも無い。それに、ここにいた方がジョマンダの成長も見届けられるだろう?」

リピカ「随分と虫のいい話さ。ま、ジルクも本部で働くみたいだから別に問題ないとは思うけど…。お前らの実力は私がよく知ってるからな」

ヴァリス「(ジョマンダのビビり解消も任せろー!)」

マモニス「BEMANI支部に行ってもキュベリア様にこき使われるだけですからねぇ…。本部に移籍した方が精神的にも安心だと思いますよ」

ヴィル「それは貴殿だけだろう」

マモニス「私にとっては死活問題なんです!…リサさん程の実力者がこちらにいてくれればキュベリア様にも強く出れそうですし…」

MZD「あ、その言葉そっくりキュベリアに伝えてあげよっか?」

マモニス「やめてぇーーー!!!」

リサ「流石の私もキュベリア殿にはかなわないよ…。ともかく。これから世話になる以上、私にも医務関係の仕事を割り振ってくれ。元々回復魔術を専門に扱っているからね。知識が役に立つこともあるだろう」

罪木「ほ、本当ですか?!ふわぁ…!治療できるメンバーが増えて嬉しいですぅ!」

コハク「正直2人だけじゃ手一杯なところあったかンなァ。たーだーし、医務関連の仕事に就くってことは俺様のいうことを聞くってことだからなァ?覚悟しやがれよ?」

リサ「分かっているさ。あくまでこれからの私は『一運営メンバー』に過ぎない。手伝えることがあったら何でも言ってくれ」



リサとヴァリスも運営本部に力を貸してくれることになりました!ジョマンダの成長を見守りたいといいつつ、2回目の時に本部を勘違いで襲ってしまったことに負い目を感じていたようです。
崩れる前の塔でも話し合った通り、味方になってくれればこれほど心強いものはありません。存分に役立ってもらいましょう!
―――そろそろ解散してもいいだろうとサクヤが口を開こうとした瞬間、『あ』と思い出したようにコハクが告げました。



コハク「ワリィワリィ思い出した。キリノからオマエに伝達あったンだわ」

サクヤ「私に?何でしょうか」

コハク「『13班』ってさァ、俺等3人だけじゃなくてもっといンの。今後に備えて13班の待機メンバーを増やせって命が総長直々に来ましてねェ。次の回からメンバー増えっから。そのつもりでよろしくゥ」

サクヤ「はぁ。それは構いませんが。…どんな方なんです?」

コハク「片方は『引きこもりの凄腕ハッカー』。もう片方は『現役アイドル』だなァ。アイドルに関しては『IKE☆MENS』のリーダーって言えば分かりやすいかァ?」

ミミ「えっ?『IKE☆MENS』って……。あーーーーっ!!!」

ニャミ「あーーーっ!!この前ダーリンとコラボで曲出した超有名アイドルグループじゃん!!そのリーダーが『13班』のメンバーだったの?!」

MZD「……世界は見かけによらないねぇ」

ヴィル「全くだ」



―――なんだかもっと賑やかになりそうな予感がしますねぇ。
そんなことを思いつつ、メインサーバにいた一同は各々打ち上げ会場へと戻っていくのでした…。

打ち上げ ③ ( No.171 )
日時: 2020/07/25 22:02
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: gKP4noKB)

~魔界 道化師のアジト付近~



べリア「なんで、なんでアタシはアイツらに…?」



ここは魔界。地下に位置する、人ならざる生命が生きる土地。―――以前も魔界での出来事の様子を見たと思いますが、その時べリアに何かおかしなことが起こっていましたよね。
…どうやらそれが強まっているようで、彼女はあの場から逃げ出した後魔界で一人考えていました。何故、彼らに『助け舟』を出したのか。



べリア「アタシは…アタシはアイツらの敵なのよ?!逃走者もろとも崩れ去るならそれでいいじゃない!敵が…減るんだから。逃走者にも傷がついて運営本部の信用はもろ崩れ。アイツらに反撃が出来たじゃない!なのに…どうして…」

『おやおやァ~?随分とお困りのヨウですが、ドウカされたんですか?』

べリア「アンタ…」



そう。魔族…『道化師側』からしてみれば、あの場で放置して自分だけ脱出した方が被害が大きく鳴る可能性は高かったはずです。まぁ、あの場での生き残りの逃走者が揃いも揃って運動神経抜群な人物ばかりが残っていた為、忠告せずとも全員大きな怪我無く脱出できたとは思いますが。
―――頭では分かっていました。しかし…彼女の『心』。なかったはずの『心』で、彼女は塔にいた逃走者達に忠告をしたのです。
訳も分からず自分に言い聞かせるように叫ぶべリア。そんな彼女を嘲笑うかの如く、『新たな道化師』はその場に現れたのです。



エピタフ「ア、ボクちゃんとしたことが自己紹介が遅れて申し訳ありまセン♪ワタシの名は『エピタフ』。闇纏う影の一族、あるいは………『道化』。なァ~んか面白そうな展開になって来ちゃってるんで、ちょっと手を貸しに来たただのピエロさんデス♪」

べリア「確か…『白猫の世界の道化師』ヨネアンタ?『JOKER』と同程度、或いはそれ以上の能力、そして残忍さを持つ『闇の勢力』…だったカシラ」

エピタフ「おやおや!まさかワタシのコトをそこまで良く知っておいでとは!ワタシの名がそれ程までに広く知れ渡っているなんて至極光栄でゴザイマス♪ま、自己紹介に関してはこれくらいでいいデショウ。アナタ、『メフィスト』というオトコの部下デショ?ボクちゃんこの場初めてデスノデ、右も左も分からないのデス…。どうにか案内をお願いしては貰えませんかねェ?」

べリア「癪に障る喋り方ネ…。アンタ程の力を持つヤツが、メフィストさまに何の用ナノヨ?―――別に案内くらいはいいけれど…」

エピタフ「単に『暇つぶし』ですよ『暇つぶし』♪それにィ、中々面白い『記憶』も分けられたことですしィ。それを利用して一度面白いアイデアを提供しようかと思いまして」



彼の名は『エピタフ』。白猫プロジェクトに登場する悪役であり、『闇の勢力』の幹部を名乗っている道化師姿の男です。こいつもまぁ残忍な性格で色々ゲーム内でも暴れてますよね…。
そんな人物がメフィストに用事とは。ただならぬ気配を感じます。しかし、案内するわけにもいかず。べリアは渋々メフィストのいる拠点まで彼を案内することに決めたのでした。










~魔界 道化師の拠点~



メフィスト「……ン?よーやく帰ってきたのかべリア。で、そこの男は誰?」

べリア「『エピタフ』ヨ。別の世界線の道化師名乗ってる男。……アンタに用事があるみたいなんだけど」

メフィスト「俺にィ?何のマネだ?オマエに従えってんならお断りだぜ?」

モノクマ「わぁ、随分と厄介な人連れてきちゃったねオマエ。敵味方これからどうなっても知らないよボク?」

べリア「フン。アタシはただ案内をしただけヨ。アイツの企みなんて微塵も興味がないワ」

ベリト「…………」

エピタフ「べリアチャンのご紹介に与りました、『エピタフ』デス。なぁんか神々に全面戦争仕掛けそうだって噂を聞きつけたのでェ、異次元から飛んできちゃいマシタ♪これからどうかごヒイキに~♪」

タナトス「…よろしいのですかメフィスト様?彼の内に秘める闇…あの『JOKER』である男と同一の強さに感じます」

メフィスト「―――ハっ。んなんどーでもいいんだよ。…エピタフとか言ったな。つまり、俺達の計画に協力してくれるって魂胆だよな?」

エピタフ「ハイ、もとよりそのつもりデス♪アナタ達の邪魔をするつもりは毛頭ございませんので、命じて下さればなんでも担当させていただきますよ~?……丁度『闇の王』もどこにいるんだか分かりませんし、『アノ女』も行方不明。これだけ有利な条件はままありませんからね…」



べリアがエピタフを連れて拠点まで戻ると、既にメフィスト率いる道化師達が帰りを待ちわびていました。彼女が逃走者達に忠告をしたことは知らないようで、単に彼女が帰還したと認識している様子。
そして、エピタフが改めてメフィストに自己紹介をし『道化師に助力する』と言いました。そりゃまぁそれが目的で来ましたからね。あーあ。厄介な人物が敵に回ってしまいました…。タナトスは彼の内に秘める闇についてメフィストに次げますが、彼は『関係ない』と一蹴。利用できるものは利用するみたいですね。足元を掬われないといいんですが。

彼の返答に満足そうに、わざとらしく喜んだエピタフは早速彼と次なる作戦に向けて打ち合わせを始めるのでした。―――最後ら辺にぼそぼそと何かを言っていましたが…。もしかして赤髪達みんな行方不明だったりするんですかね?

一旦この場は解散ということで皆各々去る一同。べリアも一旦は自分の部屋に戻って、自分の感情に整理を付けようと考えその場を去ったのでした。









べリア「(顔でも洗って頭を冷やした方が良さそうかもね…)」



自分の部屋に戻ったべリアはそう考え、髪飾りを取ろうと鏡を見ました。そこに映っていたのは―――。自分の姿ではありませんでした。
…自分と瓜二つの顔をした、『黒髪の少女』でした。



べリア「なんでっ…!こんなの、こんなの知らない!こんなのアタシじゃない!!」

『…本当に?』



鏡に向かって叫ぶと、帰ってこないはずの声が帰ってきました。聞き覚えの無い自分と同じ落ち着いた声に恐怖するべリア。思わず鏡を破壊しようと拳を振り上げると、『待って』と落ち着いた声は述べます。



『あんたが激昂するのも分かる。あたしが誰なのか分かんないのよね?』

べリア「そうヨ!!アンタの声が聞こえてきてからなんかおかしいノヨ!!頭では分かっているのに、心が拒否してんの!!だから…だから敵である運営本部達に助け舟を出した!!」

『そう。それなら…もう少しであたしのことも思い出せる。―――あんたはあたしだから』

べリア「前も言ったワヨネそれ。『あんたはあたし』。どういうことなのよ?!」

『言葉通りの意味よ。あんたは『記憶を捻じ曲げられてる』。それを…もうすぐ思い知るわ。その時にどちらを信じるべきかは…あんたがその眼で見て決めて』

べリア「―――ハァ?それ、ヒント?全く以て分からないんだけど?」

『大丈夫。あんたなら正しい選択をしてくれるとあたしは信じてる。―――『道化師』に、その心まで捻じ曲げられないで。お願い…』

べリア「何を言ってるの?何を―――。!!」



まくしたてるように鏡の中の黒い少女は自分に向かって言いました。自分の記憶が捻じ曲げられている?今記憶している『自分』は―――真実ではない?彼女はそう言っていました。
もっと詳しく聞こうと鏡を見ると―――そこには、随分と顔を歪ませた『見知った自分』が映っていました。黒い少女は、そこにはいませんでした。



べリア「何なのよ一体…。『記憶を捻じ曲げられてる』?『真実がもうすぐ分かる』?―――アタシ、は…?」



何の変化もない鏡に映る自分の顔を、彼女はその指でなぞることしか出来ませんでした。
―――何かが変わる。もうすぐ、真実が見える。どういうことなんでしょうね?
















~運営本部 打ち上げ会場~



十四松「にーさーん!そろそろサクヤさんにお休み貰うお願いしに行こうよ!ご飯ばっかり食べてたらタイミング逃しちゃうし!」

チョロ松「そうだね。幸いカオス軍団のみんなもしっぽり絞られてるみたいだし、今のうちにやることをやるべきだよ。ね、からま……そのお肉消化してからにしようか」

カラ松「ほうは?ほれはへんへんははいひょうふはほ?」(肉を頬張っている)

チョロ松「仮にも上司に肉頬張ったまま話しできるか!!さっさと食い切れ!!!」



所変わって打ち上げ会場。ジルクファイドや新しく本部入りするメンバーも含め、一同は打ち上げを楽しんでいました。
ふと十四松が兄2人に『休暇を貰いに行こう』と提案をします。そういや五つ子でランチをした時にそんなこと言ってましたね。未だに肉を頬張っているカラ松にさっさと飲み込むようツッコミも忘れずに、保留組は早速サクヤの元まで急ぐのでした。



チョロ松「サクヤさん、すみません。次回の逃走中のことなんですけど…」

サクヤ「はい。どうかなされましたか?」

カラ松「最近松野家に帰れてなくて。母さんに一度直接近況報告もしたくてな。…その、休暇を貰いたいんだが。1週間くらい」

チョロ松「え?!僕てっきり2、3日だと思ってたけど…。やっぱりニートの血が騒いだりしてる?」

十四松「ニートの血?ぼくは騒いでるよ!いまはたらいてる毎日もたのしいけど、やっぱりリフレッシュ期間も必要だよね!」

アクラル「休暇にかこつけて二度と戻ってこない、なんてねーよなー?お前らのことだからあり得そうなんだよな…」

チョロ松「とんでもない!せっかくいただいた職場を無下にすることはありません!もしニートに戻ろうとしようもんなら僕が責任を持ってケツ毛燃やしてでも帰ってこさせますから!」

カラ松「1人だけまともぶってるがお前にもちゃんと松野家の血が流れているんだからな。同罪だぞチョロ松」

チョロ松「なんの罪だよ!!!…まぁ、この調子なら大丈夫だと思いますが」



サクヤとアクラルがいる場所まで到着した彼らは、早速休暇がほしい旨を彼女達に話します。アクラルが『ニートに戻るつもりじゃないか』とカマをかけてきますがその言葉をチョロ松が一蹴。カラ松のボケを華麗にツッコミ返しながらもちゃんと戻ってくる気は満々のようで。それならば心配ないとサクヤも安心していました。



サクヤ「今の彼らならばちゃんと戻ってきていただけると心配はしてませんよ。…実は次の予定地すら決まっていない状態なので、次回の逃走中開催までに期間が開いてしまう可能性の方が高いのです。ですので、休暇を取っていただいても構いませんよ。その間のお仕事の割り振りはこちらで行いますので」

カラ松「本当か?!ありがとうございます!良かったなぁチョロ松、十四松!」

十四松「うん!かーさんにお土産もってかないとねー!」

チョロ松「じゃあさ、帰る前にチューンストリートのお菓子屋さん寄って行こうよ。『超美味しい』って評判のお菓子があるんだって!ミミちゃんとニャミちゃんが言ってたよ!」

十四松「おー?!いいですなー!さっそく準備ましょーやにーさんたちー!」

カラ松「それじゃあ早速準備するので、オレ達はこれで。本当にありがとうございました!」



…実は次回の逃走中、スペシャルなものではあるのですが計画も何も立ててない状況でして。場所のアポイントメントも取れていない状況なのです。寧ろ今休暇を取る、と言ってくれてタイミングが良かったのかもしれませんね。
あっさりとOKをくれたことに保留組は喜び、早速松野家へ帰宅する準備をする為打ち上げ会場を後にするのでした。
―――そんな彼らを優しく見守りながら、双子の神はこんなことを言い合ったのだとか。



サクヤ「―――松野家のお母様にも連絡をしたほうがいいでしょうか?」

アクラル「いいだろうなー。急に帰ってこられても驚かれるだけだし。寧ろ『何してるのニート達!仕事は?!』って言いそうだな」

サクヤ「それ程心配されているというものなのですよ。…恵まれた家族です、本当にね」

アクラル「家庭環境あんまりよくねー…つーか、家族奪われたり敵陣として戦ったり、って奴等がごまんといるからな、ここ。―――ちょっとの幸せでもしっかり噛み締めねーと、だよな」




松野家の平和が、幸せが。いつまでも続きますように。影になっていく3つのいのちを見守りながら、彼女達はそんなことを思ったのでした。

打ち上げ ④ ( No.172 )
日時: 2020/07/26 22:00
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: gKP4noKB)

こうして、今回は何事も無く終わりを迎えた逃走中#CR04。
打ち上げパーティの数日後、早速休暇を取った保留松は自分達が生まれ育った故郷、赤塚の松野家へと帰ってくるのでした。





~赤塚 松野家前~



カラ松「いや…何か月ぶりだ?家に帰ると決めたはいいが、緊張するな…」

チョロ松「いや家に帰るだけだから。緊張する必要性ないから。まぁ、僕も緊張してるんだけど…」

十四松「きんちょー?蚊をぶっとばーす!やつ?」

チョロ松「そうそう今の季節は蚊がうっとうしいからね…って違う!!それは『キンチョール』!!とにかく!ここで突っ立ってても意味ないし、早いところ入ろう!」

カラ松「そ、そうだな!」



いざ松野家を前にしてみると、いわれのない緊張感が3人を襲います。別に家出をしたわけでも、悪いことをして帰ってくるわけでもないのに。やはり一度『家を出た』という事実が3人がこんな気分にさせているのでしょうか。
いつものやり取りを終えた後、彼らは意を決して自分達の家の戸に手をかけました。すると…?
カラ松が戸を開けるよりも早く、その戸がガラガラと音を立てて開きます。彼らを見たその『人物』は、嬉しそうに3人に駆け寄るのでした。



松代「あら3人共、お帰りなさい。アンタ達のことはちゃんと本部の総長さんからお話し聞いてるわよ。ここまで遠かったでしょう。早く入んなさい」

チョロ松「母さん!僕達が帰ってくるの知ってたの?!」

松代「ええ。総長さんが気を利かせて私に連絡を寄越してくれてね?急に帰って来たら『仕事が嫌で投げ出したんじゃないか』って勘違いしそうだから、って」

十四松「さっすがサクヤさん、わかってるー!」

カラ松「いや、『分かってちゃ』駄目だろ。…ただいま、母さん!」



3人の元気そうな姿を見た松代はにっこり。家から逃げ出す前に見た顔よりも随分と成長したのだと感じていたのだそうな。
いつまでも玄関で話をするのもなんだと松代は3人を迎え入れ、居間へと通しました。遠かったのだからとトランクも彼女が片付けようとすると、3人は『自分達がやるよ』とそれを断ったのでした。

荷物を部屋に置き、居間へ入ってみると、そこにはオフ中だったのか一松とトド松の姿が。松代から知らされていなかったのか、3人が部屋に入ってきたことに驚いています。



トド松「えっ?!なんで3人が帰って来てるワケ?!まさか仕事クビになった?!」

チョロ松「なんで初っ端からそういう発言が出るんだよ!休暇を取って帰ってきたの!」

一松「……そっか。おれらと一緒だね。オーナーが『最近親御さんに会えてないから1週間くらい休んでいいよ』って休み貰ったんだ」

十四松「わー!そっちのオーナーさんもホワイトだね!」

トド松「仕事内容はだんだんブラックになって来てるけどね…。3人じゃ回すの大変になってきたからさ、新しい従業員を募集しようかなってオーナーと話してるんだ~」

カラ松「へぇー。料理が美味いから繁盛してるとは思っていたが、そこまでだったとはな!」

一松「おれもまさかあんなに繁盛するとは思わなかったし…。今度猫カフェデーの時に来てよ。おれの友達紹介する」

十四松「うん!いくいく!かーさんも一緒にいこ!」

松代「あら?私が行っても問題ないのかしら?」

トド松「当たり前じゃん!今なら家族サービスでお安くしとくよ~?」

松代「息子たちの仕事ぶりもちゃんと見に行かなきゃだし、今度暇な時にお父さんと一緒に行ってみるわね。私の好きそうなメニューあるかしら?」

十四松「やったーー!今度かーさんと一緒にカフェだー!!」

チョロ松「ちょっと。僕達には僕達の仕事があるんだからね!そこちゃんと覚えといてよ十四松!」



5人が各々自分達が仕事で何をやっている、だのこんな活躍をしたよ、だのニートであったならば絶対にしないような話を自分にしてきてくれる。松代はその話を聞くだけで嬉しい気持ちで一杯でした。
…そんな楽しい話を続けていた折、ふとカラ松がこんなことを切り出します。



カラ松「母さん。聞きたいことがあったんだ」

松代「あら、何かしら?」

カラ松「おそ松は今どうしているんだ?オレ、母さんに近況報告もだけど。おそ松とも話が来たくて休暇を貰ったんだ」

一松「……あ。おれも気になってたんだ。あの後兄さんおかしいところはなかった?」

松代「いいえ?ぜーんぜん。いつも通りニート生活を謳歌しているわよ。―――でも。そうねぇ。最近おそ松と全然話さなくなったわ」

トド松「母さんがおそ松兄さんと話さない?どういうこと?」



カラ松が聞きたかったのはおそ松のこと。一松とトド松から『おそ松の様子がおかしい』と話を聞いてからずっと気にかかっていた様子。それは一松もだったようで、彼の話に乗っかる形で松代へ質問を切り出します。
当の松代は『いつも通りだ』と答えました。しかし…おそ松と最近滅法言葉を交わさなくなったのだとか。どういうことでしょう?



松代「こっちから話しても上の空みたいな感じで。何回か呼びかけるとやっとこっちに気付いてくれるからまだいいんだけどね?なんか…『焦ってる』感じがするの。病気だったら心配だわ、母さん」

トド松「母さんもそう思ってたんだ…。だよね、おそ松兄さんなんか焦ってるよね?」

松代「何があったんだか知らないけれど、一回あんた達、おそ松と話をしてみた方がいいんじゃないかしら?もしかしたらあんた達に会えてないだけで拗ねてるだけかもしれないし」

カラ松「分かった。…みんなで押しかけるとなんか企んでると思われるかもしれないし、オレが話をつけてくるよ。仮に暴力振るわれたとしてもオレなら耐えられるし。みんな、それでいいよな?」

チョロ松「お前…!そうやってまた自分を犠牲にして!そうやった結果過去にあんな事件が起きたんだからな!それは忘れんなよ!」

十四松「そーだよにーさん!おはなしするだけならにーさん一人じゃなくてもいーじゃん!」

一松「……なら、おれも一緒についていくよ。おそ松兄さんに聞きたいことあるし。…それでいいよね?」

トド松「僕は反対したいところだけど…ま、止めても一松兄さんなら勝手に行くだろうし。いいよ。そのかわり!兄さんが拗ねてるだけっぽいならすぐ僕達のことを呼ぶこと。いいね!折角その為にスマホもみんなの分選んだんだからね」

チョロ松「え?一松お前スマホ買ったの?」

一松「うん。……殆ど猫の動画や写真しかないけど。後で見る?」

十四松「見る!見る!見たい!」

カラ松「後でな。母さん、おそ松は2階にいるんだよな?なら話をつけてくるよ」

松代「ええ。呼んで来た方がいい?」

一松「いや、おれ達が行くから大丈夫。…何かあって母さんが怪我したらたまったもんじゃないし」

松代「あら!おそ松はそんな暴力をすぐ振る子じゃありません!…でも、なんかあったらすぐ母さんにも言うのよ。分かったわね」

カラ松「分かったよ母さん。―――それじゃ、行ってくる」



おそ松は2階にいるようです。カラ松が『自分が話をしてくる』と言って弟達を下で待たせようとしていました。仮におそ松が暴力を振るってきても自分ならば受け止められる自信があったからです。しかし、その言葉にチョロ松を始めとした弟達が猛反対。話し合いの結果、弟代表として一松がカラ松に着いていくことになりました。
松代も『何かあったら自分に連絡してくれ』と言い残し、2人は2階への階段を上がって行ったのでした。








~松野家 2階~



カラ松「おそ松?入るぞ」

一松「兄さん。話しに来た。…入るね」



2階へとたどり着いたカラ松と一松。おそ松がいるであろう、六つ子でニートをしていた頃によく使っていた居間の戸を開きます。
すると、そこには窓際で胡坐をかき、煙草を吸っているおそ松の姿がありました。自分ではない人間が発したその音に彼は振り向き、自分が見知った顔に驚きました。



おそ松「……えっ?!お前ら帰ってきたの?!なんだよー!それなら俺にも事前に連絡しとけよなー!」

カラ松「直接連絡をしなかったのは謝る。…だけど、サクヤさんが母さんに俺達が来ること連絡してたぞ。聞かなかったのか?」

一松「おれも…。オーナーが一報入れてくれるって言ってたから、てっきりおれ達が帰って来てるの知ってるかと思ってた」

おそ松「…………。なんでぇ。お前ら仕事辞めてニートに戻るつもりで帰ってきたんじゃなかったのかよ。ちぇ、期待して損したー」

カラ松「まだそんなこと言ってるのか…」



おそ松はカラ松と一松に会えたことが心の底から嬉しかったのか、笑顔で彼らに飛び付きます。そして開口一番『仕事辞めたのか』と。2人が首を振るとつまらなそうに口を紡ぎ、その場に胡坐をかいて座ってしまいました。
彼のそんな子供っぽいところに呆れつつも、2人は話をする為に彼と向かいになる場所へ各々座りました。
―――中々言葉を切り出そうとしません。…その沈黙を破ったのは、おそ松でした。



おそ松「…で?俺に何の用な訳?まさか仕事しろっていうんじゃないよね?」

カラ松「違う。母さんや弟達から聞いたぞ。最近お前の様子がおかしいってな。それで一回ちゃんと話をしようと休暇貰ってきただけだ」

一松「おれはちょくちょく家に帰っては来てるけど…。兄さん、最近母さんにすら返事するの遅いじゃん。…何かあったの?」

おそ松「…………。…どーもしねーよ?まぁ母さんに反応遅くなったのは申し訳なく思ってるけどさ。―――それがお前らに何の関係がある訳?」

カラ松「お前っ…!人がどれだけ心配してると『カラ松、抑えて抑えて』……。お前が何考えてんのか分からないのは昔からだから今更とやかく言わない。けどな。母さんを心配させんな。ただでさえオレ達は母さんに迷惑かけっぱなしなんだから」

おそ松「……なら、『仕事辞めてニートに戻ればいい』のに」

一松「……は?何言ってんのおそ松兄さん?」



ふと、おそ松の空気が重くなるのを2人は感じました。これが彼が今まで隠していた『感情』なのか。まるで、自分達が仕事が順調に進んでいるのが疎ましいような。恨んでいるような。そんな気さえ思い起こさせるのでした。
―――言葉を失った2人を黙って見つめたまま、ぼそぼそとおそ松は続けます。



おそ松「…お前ら、あの変な柱壊してカラ松を置いて帰ってから何かがおかしくなったよな?『いつもの六つ子』が崩れたんだよ。あの『神』とか何とか言ってる奴らのせいで。そのままカラ松は帰ってこなくなったし、チョロ松も十四松もいなくなっちまうし。
    そしたら何だ?『逃走中』に出場してくれ、だぁ?最初はハンターから逃げるだけで金が貰えるってことで弟達と参加した。けどさ!!最初に捕まって、牢獄で弟達が生き生き働いてるの見て…『六つ子が壊された』って。思っちまったんだよ!!」

カラ松「お、おそ松…?」

おそ松「お前達には分かんないよなぁ俺の気持ちなんて!!いつもの光景だった『六つ子の日常』が壊される俺の気持ちなんて!!いつの間にか一松とトド松も就職しちゃうしさ!俺もあいつらのことだからすぐ辞めて帰ってくるんだとばかり思ってた。けど、違った。お前ら今でも働いてんじゃん!!なんで?!おかしいじゃん!!『松野家はニートなのが常識』なんだよ?!どうして辞めないんだよ!!」

一松「…おそ松兄さんの常識を振りかぶられても困るよ。おれ達も…この世界に混ぜられてから変わらなくちゃならなかったんだよ。あの時…『異世界のゲートを壊した』あの時から。だから、兄さんも変わらなきゃ『うるせえ!!』」

おそ松「変わるって何?!六つ子を崩してでも変わんなきゃなんない訳?!俺はそんなの耐えられない。耐える訳にはいかねーんだよ!!『六つ子』を壊すこの世界なんて大っ嫌いだ!!お前らが俺の方を向いてくれないこの世界なんて嫌いだ!!」

カラ松「オレ達の方を向いていないのはどっちだおそ松!!もし仲違いをして就職したってんなら、オレ達は今松野家に集まってないだろう!!それに…お前とも話をしに来ていない!!『六つ子は壊れてなんかいない』!!いい加減現実を見ろおそ松!!」

おそ松「うるさい!!長男に指図すんな!!いらない…こんな世界、嫌いだ…」



おそ松の言葉は感情のこもったものになり、2人に『なんで仕事辞めないんだ』と言いがかりをつけてきます。『六つ子の箱庭を壊した』、そう彼の中では結論づいているのでしょう。いくらカラ松が反論しても聞き入れません。
…いつもの日常が崩された。弟達が離れて行ってしまう。彼はそんな感情に支配され、焦っていたんでしょうね。松代の言葉に耳を傾けられなくなったのも。反応が遅くなったのも。―――様子がおかしかったのも。
そして―――。彼は立ち上がり、大きな声でこう叫んでしまうのです。














『六つ子を壊すこんな世界……いらねーんだよっ!!!』





「……ソウ、か。そうだよなぁ?いらねぇよなぁこんな世界。『六つ子』をバラバラにするこんな世界……消えちまった方がいいよなァ?」



「――――――あッ……?!」



『おそ松!!!』

『おそ松兄さん!!!』



おそ松の、影―――。以前『同じ種族だ』と言っていたとある男が忠告していたのをカラ松は思い出しました。



------------------------

『道化…も含めてなのだが、我々魔族には『他人の影を利用してその姿を潜められる習性』があってな。―――気にしすぎだとは思うが、どうか頭の片隅に入れておいてもらえると助かる』

------------------------



正にその男が言った通り……。おそ松の『影』から。毒々しい紫色の髪をなびかせた男が―――。あの時散々コケにしてくれたあの男が―――。





『メフィスト』が、彼の赤く光るココロネを握っていたのです。





メフィスト「その言葉を待ってたぜェおそ松。お前のその『負の感情』、世界を破壊する同志と認める程に大きくなってたんだなァ…?」

おそ松「な……なん、だ、おま、え……?」

カラ松「おそ松!!そいつから離れろ!!」

メフィスト「1人だけ置いてかれるの寂しいよなぁ?みんな別々の方向向いちまってさ。お兄ちゃんのことなんかなーんも気にしてくれない。そんなん嫌だよなぁ?だからさぁ、壊しちゃおうぜ?

      『六つ子を壊すこんな醜い世界、一緒に壊しちまおうぜ…♪』」



醜く笑う男が握ったココロネからどんどん色が失われていく―――。それは、『心』を奪う行為そのものでした。
カラ松がなんとかメフィストから兄を引き剥がそうと咄嗟に走り出し腕にしがみつきますが―――『予想外』の妨害を受けました。
……おそ松本人が、カラ松の腕を突き放したのです。彼の行動に対応できずカラ松は畳の上に頭からぶつかり倒れてしまいます。
そのまま―――彼の赤いココロネは『色を失い』、消えてしまいました。



一松「おそ松、兄さん…?」

おそ松「…………」





彼の身体にも変化が起きていました。


人間には生えていない小さな角。黒く伸びる尻尾。

人間とは思えないような青白い肌。

こちらを見下すように冷たく光る赤い目。


―――まるで『悪魔』だ。一松はそんな感触を目の前の兄に覚えたのでした。





一松「おい、おまえ何したんだよ…!」

メフィスト「あぁ?お前らがこいつといつまでたっても向き合わねーからこっちから迎えに来てやっただけじゃねェか。…ククク、恨むなら俺じゃなくて自分達の不甲斐なさを恨むんだなァ!!それに、こいつはもうお前達の『兄』じゃねぇ。俺達と目的を同じくする『同胞』だよ」

カラ松「……そうやって……何人も何人も、お前は人間を犠牲にしてきたのかっ…!」

メフィスト「―――『魔族』ってのはそういう生き物なんだよ。お前が信頼し尊敬しているあの『JOKER』だって、腹の内は何考えるかわっかんねぇぞぉ?クハハハハハ!!!」

カラ松「彼は貴様のように悪意を持ってなど……っうう…!」

一松「兄さん!怪我してるんだから黙ってなよ…!」

メフィスト「まぁいいや。俺の目的は果たしたんだし。『本来の作戦』実行の為にこいつを連れ帰んないとなんないんでなぁ?じゃーな。『元』ニート共」

一松「まって、まっておそ松兄さん!!」



そのまま悪魔になったおそ松の手を引き、メフィストはその場から消えてしまいました。
―――一松は兄を助ける為に動くことが出来ませんでした。カラ松が怪我をしたから。それもそうですが…。





自分達を見下すおそ松の目が、嫌に嘲笑っているように見えたからなのでした。

打ち上げ ⑤ ( No.173 )
日時: 2020/07/26 22:09
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: gKP4noKB)

残ったのは、沈黙。我に返った一松は慌ててカラ松の身体をゆすりますが、反応がありません。
まさかさっきの衝撃で死んでしまったのではないか…?!そう思い首に指をあててみるもちゃんと脈はあるようで。気絶してしまっただけだと分かり一旦は安心するのでした。
…しかし、黙ってはいられません。弟達と母に今起きたことを伝えようと襖を開けようとすると、それよりも早く戸が開きました。



チョロ松「一松!大きな音がしたから……ってカラ松?!カラ松!!」

カラ松「…………」

トド松「一松兄さん、何があったのか説明してもらえる?」

一松「う、うん。でも…カラ松にいさんが…!」

十四松「はなしをする前ににーさんの傷を治そう!ぼく、かーさんに伝えてくる!」

チョロ松「カラ松は僕が背負って下まで行くよ。トド松は一松連れて先に下まで降りてて」

トド松「了解!ほら、一松兄さん行くよ!」



やってきたのはチョロ松達でした。大きな音が聞こえてきた為、何かあったのだろうと急いで2階までやってきたのです。
横たわるカラ松と平常心ではない一松を見つけ、素早く今後の対策を練る三つ子。まずはカラ松の治療と一松を落ち着かせるため、一旦松代も交えての話し合いをすることになりました。

すぐに1階に降りたチョロ松達は松代にカラ松の治療を任せ、おそ松に何があったのかを一松に優しく問いました。一松は深呼吸をした後、弟達と松代に事の顛末を話しました。―――語り終えた時の松野家の表情は…各々酷いものでした。



チョロ松「なんだよ…メフィストの愚行もだけど、おそ松兄さんがそんなこと考えてただなんて…!それじゃおそ松兄さんの『様子がおかしかった』のって…」

十四松「にーさんが、ぼく達の仕事をやめさせようって思ってたから、なのかな?」

トド松「『松野家はニートなのが常識』って言ってたのも本心からだったんだね…。だからといって仕事は辞めないけど。折角前を向けたのに、もう一度ニートになんか戻りたくないよ!」

松代「まさか息子達からそんな言葉が出るとはね…。でも、おそ松寂しかったんじゃないかしら。弟達がみんな就職しちゃって、自分だけがそこに取り残されたみたいで。母さんも含めて、誰でもいいからその『寂しさ』に気付いてより添えられてあげてたら…。こんなことにはならなかったのかもしれないわね」

一松「…でも、誰かがそんなことをしたら絶対におそ松兄さん仕事辞めろって言ってくるだろうし。拒否したら『俺の弟を奪うな』って仕事場に乗り込んできそうだし…」

松代「あんた達が前を向いて歩いているから、母さんその邪魔はしたくなかった。それに、ちゃんと就職してくれてるのにおそ松のことなんて頼めないでしょう?…とにかく、その『道化師』とやらに連れてかれちゃったのなら…。ちゃんと話し合うべき人達がいるんじゃない?」

トド松「母さん…。―――チョロ松兄さん。スマホ鳴ってるよ?」

チョロ松「あっ 本当だ。ちょっと出てくる」



松代がおそ松の気持ちに気付いてあげられたら…と悔やむも、それは残された五つ子も同じ。しかし、彼のことを悔やんでばかりもいられません。道化師が関わっている以上、運営本部にも話を通さなければならない問題になっています。
そんな折、チョロ松のスマホが鳴り響きます。誰かから電話でしょうか。彼はその場に断りを入れ、廊下に一旦出てスマホの通話ボタンを押しました。



チョロ松「もしもし、チョロ松です」

MZD『ちはす。良かった、繋がって…。そっち今どうなってる?家族水入らず?』

チョロ松「神様!えーっと…実はそうもいかなくなってしまって…。実は、おそ松兄さんがメフィストに連れていかれてしまったんです。それも…『悪魔』にされちゃったみたいで。一松の話を聞いただけで、僕は実際には見てないんですけど」

MZD『……マジか、もうそこまで行ってんの?―――こっちでもちょっとヤバい事態になってきたんだ。申し訳ないけど、休暇延期にしてすぐ戻ってきてもらえる?サクヤにも了承は得てるからさ』

チョロ松「それは構いませんけど…。おそ松兄さんのことも話さなきゃですし。一松とトド松も連れて行ってもいいですか?」

MZD『勿論。お前さん達の兄貴がとんでもないことに巻き込まれちまったってんなら、関係あるヤツを蚊帳の外にしちゃ駄目だからな。すぐそっちにヘリ飛ばす。―――そんじゃ、待ってるから』



電話の相手はMZDでした。おそ松のことを軽く話すと声色が少し低くなったようにも聞こえます。そのことも踏まえて本部で少しまずいことになったと報告を受け、すぐに戻ってきてほしいとの通達が。直接話もしたかったところだったので、彼は一松とトド松も一緒に連れていくと伝えてMZDからの電話を切りました。

すぐに襖を開けて弟達の元へ戻ると、既にカラ松は起きていました。凄まじい回復力だったようで、松代も驚いています。
MZDから帰還命令が来たことを伝えるとすぐに『もどろう!』と催促する十四松。当事者同士ということで一松とトド松も連れていく、と松代に伝え、彼らはすぐに家を出る準備を始めました。



松代「あらあら、お仕事場が大変なのねえ」

カラ松「そうらしい。母さん、進捗何も話せなくてすまない」

松代「いいえ、あんた達が頑張ってる証拠じゃない。母さんへの土産話は、おそ松がちゃんと帰って来てからで構わないわ。…ちゃんとおそ松のこと、話してくるのよ」

トド松「うん。母さんも気を付けてね。松野家が狙われた以上、何されるか分かんないんだから」

十四松「あぶないと思ったらすぐぼく達に電話してね!ぼく、すぐとんでくから!」

チョロ松「本部と松野家までどんだけ距離あると思ってんだよ?!…十四松なら走れるかなぁ」

トド松「ツッコミ放棄してどうすんだよそれしか取り得ない癖に!!…とにかく、僕達もついていけばいいんでしょ?」

チョロ松「うん。直接見たっていうカラ松と一松の話が一番信用できるからね。さぁ、ヘリがくるまでに外に出よう!」

松代「あんた達!気を付けるのよ!!」

一松「母さんもね…」

カラ松「また絶対くるから!…今度はおそ松も一緒に!」



トランクケースを片手に、松野家の五つ子は玄関を出ます。松代が心配そうに見つめる中、戸を開くとそこには既にヘリが到着していました。中に何人か乗っていたようで、すぐさま彼らの荷物を中に預け入れます。



ノコノコ「クッパ軍団印のヘリコプター到着ですー!五つ子さん、すぐに乗ってください!本部まで飛ばしますからね!」

カロン「ノコノコは…一流の…パイロットだ…。乗り物関連の運転なら…安心して任せるといい…」

トド松「亀と骨が喋ってる?!」

十四松「なんか次からぼく達のお手伝いしてくれるんだって!早く乗ろうよ!」



5人が素早くヘリコプターに乗り込むと、ノコノコが『揺れます!捕まってください!』とだけ告げ機体は空へと舞いました。そのまま猛スピードで本部へと向かって飛んでいくそれを見送りながら、松代はこんなことを言ったそうな。





松代「…ちゃんとおそ松の心の闇を祓うのよ!『元』ニート達!」















~運営本部 メインサーバ~



カラ松「戻りました!それで『まずいことになった』とは…?」

サクヤ「お帰りなさいませ。軽くはえむぜさんから伺いましたが、おそ松さんが悪魔にされてしまったようですね。―――魔族が同胞を増やす為人間の『負の心』を利用し魔に堕とすという話は聞いていましたが…まさか実際にやる輩が出てしまうとは」

MZD「一部の神も同じような事やるからねー。それはともかく。お前さん達の兄貴が大変なことになってる間、ポップン支部が道化師に襲われてな。エクラが連れ去られた」

チョロ松「エクラ…さん?誰なんですか?」

ヴィル「あぁ、そうか。君達には言っていなかったか。エクラは我々と同じ世界の管理者『pop'n Masters』の一員で、MZDとはまた別の世界の神なのだ」

ミミ「『エクラル』って世界の神様で、何もないところからわたし達が世界創りのお手伝いをしたんだよね!」

ニャミ「そーそー。それが大変でさー。『音のかけら』ってやつを他のみんなからちょっとずつ借りなくちゃいけなくて。エクラルに渡れるのあたし達だけだったからさ、集める為に世界中奔走したよねー」

マルス「大変だったんだね…。でも、どうして今更道化師はポップン支部を襲撃してその…エクラさんをさらったんだろう?」



五つ子がメインサーバへと入ると、サクヤ達が既に対策会議を開いているところでした。彼女達の話によると、どうやらおそ松がメフィストに悪魔にされている間に別の襲撃も起こっていたようで。
ポップン支部が襲撃され、道化師にエクラが連れ去られてしまったというのです。何が目的かは分かりませんが、道化師…魔族は人間だけではなく『天使』や『神』をも魔に堕とす能力も持っています。恐らくそれ絡みなのでしょう。
何故エクラがさらわれたんだろう、とマルスが発すると…ふと、エフラムがこんなことを続けざまに言いました。



エフラム「そういえば…前回俺達が助かった後の打ち上げ。その時にテント姿の男…確か『テント・カント』だったか。そいつを連れ帰る為に来た女性が『エクラ』と呼ばれていたな。それで…その『エクラ』という女性が…俺達が知っている奴に雰囲気が瓜二つだったんだ」

エイリーク「思い出しました!私達が一時期お世話になっていた国…『アスク』というのですが、その時に私達を呼び出した召喚士の名前が『エクラ』だったのです。もしかしたら…私達が知っている『エクラ』と、貴方達が仰っている神様の『エクラ』…。関係があるのではないですか?」

ソティス「なんじゃと?確かに彼奴とわし等にはつながりがある。しかし…どうしてそれだけで音の世界との繋がりを懸念せねばならぬのじゃ。わしがこやつらを知ったのはこの世界に混ぜられてからだぞ!」

MZD「…成程。そういうことね。―――これでなんでアイツが自分の世界について話したがらないのか合点が行った」

ヴィル「しかし、それは―――。話してしまっていいのか?」

MZD「うん。いや、寧ろこいつらには今話すべきだよ。いいよね、サクヤ?」

サクヤ「構いません。―――もしかしたら、話したことによって『彼女達』をおびき寄せられるかもしれません」



そういえば前回ルネスの双子がエクラについて懐かしいような感じがする、とマルスに言っていましたね。そこから推測して、連れ去られたポップンのエクラと、自分達が知っているFEのエクラには関係があるのではないかと話すエイリーク。
それに続くようにMZDも何かに気付いたようでサクヤに発言を求めます。許可を貰った彼は少し間を置き、マルス達に『エクラの世界の正体』の推論を話し始めました。



MZD「恐らく…あのエクラの正体は…。お前さん達が言っている『召喚士』本人だ。で…『エクラル』って世界は…。何かが原因で滅びた『アスク王国』なんだとオレは思う」

マルス「なんだって?!でも、ぼく達が知っているエクラは神様じゃなくて普通の人間だったよ?ぼく達を呼び出す以外に戦う能力は持ってなかったみたいだし…。そもそも女性であるかも定かではなかったような気がするなぁ」

ヴィル「問題はそこなのだ。アスク王国がもし無事であれば、エクラが1人でいる意味がない。そして、マルス殿の話が本当であれば…彼女が『神』と名乗るはずがない。だから私達は1つ仮説を立てたのだ。『アスク王国は何者かに滅ぼされ、エクラが神として背負っていくしかなかった』とな」

ベレス「何者かに滅ぼされた可能性があるのは分かった。…けど、自分達はアスク王国が滅びたなんて記憶なんかない。―――ん?もしかして…『異界』?」

トド松「異界って何?そもそも僕達の世界ってそれぞれ別の次元にあったって話だよね?」

アシッド「そうだ。君達が元々いた世界は『別次元の世界』と呼ばれている。それで…その『別次元の世界』には数多の可能性があってね。今いる君達とは別の性格や技能、役割を持った同一人物がいる『異界』が星の数ほど存在しているんだよ。だから、君達が来た世界と、連れ去られたエクラが住んでいた世界は同じようで違うものなんだ」

アイク「ややこしいな…。それで、道化師はどういう目的があって、どこにエクラを連れ去ったんだ。話の根底はそこにあるだろう」

サクヤ「はい。連れ去られた場所に関しては現在テントさん達ポップン支部の方々が総力を挙げて『サクヤさーん!神様ー!分かりました!分かりましたよエクラさんの居場所!!』」



FE覚醒からの作品をプレイしている方々や、ドラガリアロストや白猫プロジェクトで4周年のイベントをプレイした方々ならば分かると思いますが。世界には様々な『可能性の世界』、すなわちパラレルワールドが存在しています。
もしかしたらエクラはFE世界の召喚士と同一の存在かもしれない、と仮説を立てたMZDとヴィルヘルムでしたが、どうやらその推論に確証が持てずにいたようです。

本題がずれているとアイクが指摘。連れ去られた場所についてはテント達が調べているとサクヤが告げた瞬間、テントから通信が来ました。随分と慌てた様子でしたが詳しい場所が判明でもしたのでしょうか。



テント『いきなりすみません!判明しましたよエクラさんが連れ去られた場所!それと、恐らくそこにいる五つ子さん達のお兄さんも一緒にいると思われます!』

一松「おそ松兄さんが?」

フローラ『あらあら!よくお顔が似ていると噂に聞いていましたが本当なのね!
     えむぜちゃん?一回しか言いませんからよく聞くんですのよ?わたくし、繰り返し物事を聞かされるのが大っ嫌いなんですの』

MZD「それは分かったから早く言ってくれ。一刻を争ってるんだから」

フローラ『まぁ。せっかちですわねぇ。エクラちゃんが連れ去られた場所は―――『学都プレロマ』。『エデン』という世界にある、かつて隆盛を誇った古代文明の研究者である学士たちが集っていたという地ですわ。…まぁ、最も。現在は建物自体が滅び、魔物の住処になっているようですが…』

テント『それに、どんどん生命反応がこの学都に集まっています。恐らく―――メフィストの一味が同志を集めて何か大きなことを仕出かそうとしているのではないでしょうか』

コハク「…『学都プレロマ』?!本当なのかよ?!」

カラ松「知っているのか?」

コハク「知ってるも何も、俺達の意志を受け継いだ『未来の人間がたどり着いた地』って文献に書いてあった。―――そこで俺達の超世話になった奴が『竜』として目覚めちまってンだよ」

マルス「その『超世話になった奴』って…どんな人物なんだい?」



『学都プレロマ』―――って!セブンスドラゴンに出てきた学術都市ではありませんか!どうやら滅びた状態で混ぜられたっぽいので現在は魔物の巣窟になっているようですが…。
コハクの言葉に引っ掛かりを覚え、その人物の詳細を聞こうとするマルス。コハクが言い渋っている中、それを引き継いだかの如くキョウカが口を開きました。



キョウカ「名を『エメル』という。キリノが怪我をし、総長を務められていなかった間―――我々を指揮してくださっていたお方なのだ。しかし…遠い未来『エデン』で彼女は―――





     竜への憎悪で精神を暴走させ、学都プレロマで果てに『帝竜』になったらしいんだ―――」



キョウカがそれを口にした途端、サクヤの脳裏にとある推論が浮かびます。そして…淡々とそれを告げたのです。



サクヤ「―――とんでもないことに気付いてしまいました」

アシッド「とんでもないこと?話してみるんだ」

サクヤ「おそ松さんを悪魔にしたのはメフィストさんの独断での行動…。そう思って間違いなさそうですが。エクラさんの方は厄介かもしれません。





    彼奴等、エクラさんを『邪神、もしくは帝竜にするつもりではないでしょうか』」





MZD「…本当だったらまずいじゃんそれ?!止めないとポップン支部どころか世界が滅んじゃうよ?!仮にも相手は『神』なんだから!」

サクヤ「―――そこで、です。『逃走中』を利用して、大々的に道化師をおびき寄せましょう。我々が介入するとなると、彼らも無視できなくなります。そこを―――叩きます。メフィストを…彼らの背後にいる『神』もろとも、引きずり出しましょう」



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なんかとんでもないことになってきましたよ?!ジルクファイドやリサ、ヴァリスが仲間になったのはいいものの。おそ松は悪魔になるしエクラは連れ去られるし道化師が大々的に動いてくるし!それにエピタフって。原作知ってればヤバい存在なのは明白。
それを利用してサクヤは道化師の背後にいる『神』もろとも引きずり出す決断をしました。…なんか一つの大きなターニングポイントになりそうな次回。どうなるのやら。
それでは皆様、次回の逃走中でお会いいたしましょう!Adieu!


逃走中#CR04 ~虹の夢と王国の絆~ THE END.

NEXT⇒ 逃走中#CR05 ~はじまりの炎と紋章物語~





―――Adieu、する前に何か忘れてないかって?忘れてませんよ。
それでは少し時間を巻き戻しまして、『とある世界』と邂逅したお話を振り返ってみましょう。