二次創作小説(新・総合)
- 第一話「忘却」 ( No.4 )
- 日時: 2020/12/13 13:10
- 名前: さぼてん (ID: ysp9jEBJ)
*
イツキ、十六歳。
少し茶色がかった短髪の黒髪に、母譲りの緑の瞳がチャームポイント。
整った顔立ちも母譲りで、笑うとえくぼが出来るのもまた、母譲り。
母は帰りの車の中で、俺のことについて色々と話してくれた。
……まぁ、自分の容姿は見れば分かるんだけどな。
「母さん、俺のポケモンって?」
俺が覚えていることは、自分の名前ともう一つだけある。それはポケモンの存在のこと。
ポケットモンスター、縮めてポケモン。この世界にいるちょっぴり不思議で、とても魅力的な生き物の総称。
肩に乗れるくらいの小さいやつから山ほどあるデカいやつ、空を飛ぶことができるやつや海を泳げるやつなど、とにかく色んな種類がいる。
ここでは、そんなポケモンたちと人間が互いに協力しあって生活している。
家族として日常を一緒に過ごしたり、戦わせて強さを競ったり、時にはポケモンで思いもしなかった発明を生み出したり、と。
一生一緒に過ごしていく、そんな人が大半だろう。
そのぐらい俺たち人間にとってポケモンはかけがえのないものなのだが────
「俺、自分が何のポケモンを持っていたか思い出せないんだ」
悔しい。ポケモンの存在は覚えているのに、自分の手持ちポケモンについては忘れてしまっているのだ。
「心配しなくて大丈夫。あなたの記憶も戻る可能性はあるって言ってたから。そんなに気になるなら見てみるといいわ。ほら、あなたのポケモン出してあげて」
そう言われたので、おもむろにボールを一つ取り出してみた。
甘い鳴き声を出しながら中から出てきたのは、茶色い小型のポケモン──イーブイだ。
イーブイは出てくるや否や、サッと俺の顔に寄ってきて頬ずりをしてきた。
つぶらな瞳で見つめてきて、毛はふわふわで気持ちいい。
「イーブイだ。ははっ、かわいいなこいつ」
思わず笑顔になった。なんだか懐かしい気もした。
「イーブイはイツキの一番のパートナーね。赤ちゃんの頃から一緒だったから」
残りのモンスターボールも調べてみる。中にはピジョン、リングマ、ゴーゴートが入っていた。
みんなどこか古い友人のように懐かしくて、記憶を失くして落ち込んでいる俺を励ましてくれているみたいだった。
「ねぇ、そろそろよ」
「何が?」
母が運転をしながら左のほうを指差す。
この辺りについての記憶ももちろんない。すべて初めて見る景色で、何もかも新鮮だ。
中世のような街並みには幾つもの建物が連なっていて、人通りやポケモンも多く、だいぶ栄えているみたいだ。
「ほら、見えた」
そんな趣のある景色の中に突然現れたのは、一際大きい建物。
厳格ある佇まいは、その建物がかなり昔に建てられたことが窺える。
「あれがあなたが通っていたところ。数ある名門校の内の一つ。“トヤノカミ中央トレーナーズスクール”」
俺が通っていた学校……。
何だか城のようにも見えるし、なんなら小さな街にも見える。
あれを学校と呼ぶには大層過ぎやしないか。
そう思っていると母はまた色々と話してくれた。
トヤノカミ中央トレーナーズスクール。
そこは学問やポケモンについて学び、人として、はたまたトレーナーとしての正しきを知る場所。
どうやら俺は入学して一ヶ月の間はそこで学んでいたらしい。その直後、意識を失った状態で発見されて今に至る。
「母さん、俺またあそこに行ってみたい。……学びたい」
あの学校を見ると何だか胸が高鳴るようで落ち着かない。
いつの間にか口に出していた俺を、母はミラー越しに見て「大丈夫よ」と言った。
「退学にはなってないから。スクールに問い合わせてみたら一応明日からでも行けるみたいだけど、どうする?」
「明日から行くよ」
間髪入れずに答えた。
「そう言うと思った。まだ体調が心配だけど、あなたの意志を尊重するわ。それよりもイツキが変わってなくて安心した」
俺はどういう人物だったんだろう。
あそこに行けば何か記憶の糸口が見つかるような気がした。
イーブイも喜んでるみたいだ。
今夜は早く眠ろう。
#2
