二次創作小説(新・総合)

 第一話「忘却」 ( No.11 )
日時: 2020/11/21 09:57
名前: さぼてん (ID: ysp9jEBJ)

 
 *

 なんとか午前中の授業が終わった。
生態学に、ポケモン史、進化学や捕獲術など色んな授業を受け、物凄く疲れてしまった。
思い出した記憶は何もなく、ただひらすら新しいことを脳に植え付けていく。
名門校と言われるだけあって講義の内容はハイレベル。これはだいぶ自習しないとついていけないな。
運よくクラスメイトでありルームメイトであるエイジには、勉強を教えてもらえるように話をつけた。
 
 午後からは、他クラスと合同で実践のバトルをするらしい。
その時なんだか期待される目で見られたが、気のせいだろうか。
そんなことを思いながらエイジと一緒にカフェテリアに向かう。
しばらく歩くと目の前に丸いドーム状の建物が見えてきた。

「あそこですよ」 

 これだけ大きいと生徒も全員入れるんじゃないだろうか。
デカいとは思ったが、もう大きさだけでは驚かなくなってきた。感覚が麻痺している。
 しかし、中に入ると度肝を抜かれた。

「何だここ…………」

 うんと伸びた木々やゴツゴツとした岩場、揺らぐ水面に乾いた砂場。自然が建物内に形成されているのだ。
それぞれの場所にちゃんと椅子や机も備えられていて、手持ちポケモン達と一緒にご飯を食べている人たちが見える。
ポケモン一匹一匹に適した生息環境を与えることで、ポケモンがストレスなく食事をすることができるという狙いらしい。

「初めてこれを見た人はみんな同じ反応しますね、トヤノカミ中央名物の一つです。お腹空きましたね。さぁ、行きましょう」

 俺達は食事を受け取り、近くの席に着いた。

「なぁ、エイジ。授業中でもポケモンって傍に出してていいんだよな? 他のクラスメイトも出してる人見かけたからさ」

「えぇ、大丈夫ですよ。教室以外は何匹でも、座学の時でも一匹だけなら出してもいいようになってますからね」

「エイジは出さないのか? エイジは何のポケモン持ってるのかな、と思ってさ」

 そう聞くとエイジは立ち上がり、制服のポケットに手を入れる。

「あ……、気になりますよね。一匹なら良いって言いましたが、大きさは一メートル以内って決まっているんです。ボクの相棒は少し大きいですからね。ほらっ、お昼ご飯の時間ですよ」

 空中にボールを二つ投げる。
 中からはメタング二匹が飛び出してきた。青銅色の鋼のボディが特徴で、二本の腕が生えている。

「メタングか。なかなか珍しいポケモンを持ってるんだな」

「あともう一匹います」

 そう言って次はパチリスを出した。
するとすぐにエイジの肩に乗り、動き回る。電気リスポケモンだっけ。大きな尻尾をエイジの顔に押し付けて遊んでいる。

「このパチリスは入学にあたって、父からもらったポケモンです。なかなか抑えがきかなくって、暴れ回るのが玉にきずですがね」

 俺も手持ちを全員出した。ポケモンたちの食事も配り、いざ昼食だ。
あつあつのカレーを頬張る。やっぱり皆で食べると旨いな。
 そうしながら、次の授業について聞いてみる。

「昼からの実践バトルってのは何をするんだ?」

「その名の通り、ポケモンバトルです。しかも他クラスとの。普段の授業では、対戦での戦術や護衛、応用を学ぶのですが、今日からは違います。……迫る夏季行事最大のイベント“トヤノカミ中央決闘試合”の前練習が始まるんです」

 トヤノカミ中央決闘試合。
聞くところによると、クラスを代表した三名の生徒が一匹ずつポケモンを持ち合わせて共闘し、学年内での優勝を目指すポケモンバトルのイベントのことらしい。
なんでも校内外を巻き込んで全生徒が盛り上がるお祭り行事で、優勝したクラスには豪華賞品が与えられるという。
そして頂点の三人は“英傑”と呼ばれるようになり、成績等が優位になるようだ。
 何だよ、ヒーローになれるイベントか……。羨ましいな。
 そう思っていたのだが、

「イツキさん、ボクらの分も頑張ってください!」

 なんて言われるもんだから、思わず聞き返してしまった。

「イツキさんはクラスBの代表の一人なんです。何てったって、守護職にも就いてますし、バトルの強さはお墨付きですからね。優勝はボクらクラスBが勝ち取ってやりましょう!」

 エイジは拳を突き上げる。二匹のメタングも同じように真似する。パチリスはまだカレーに貪りついている。
え、俺って強いのか? それを覚えてないなんてどうかしてる。エイジの言う通りなら、俺にもヒーローになれるチャンスがあるってことだ。
 俺にバトルのセンスがあったなんて…………。

「あぁ、任せてくれ。で、その守護職ってのは何だ────」

 そう聞こうとしたとき、

「あ、もうこんな時間ですね、話はまた後でしましょう。さぁ、その実践バトル、及び試合の前練習に行きましょう!」

 エイジが時計を見ながら言った。もう次の授業が始まる。
話しているといつの間にかこんな時間になっていたらしい。
俺たちは慌てて駆け出した。



 *



 実践授業の場所となる“とこしえのスタジアム”に入る。カフェテリアホールからそう遠くなくてよかった。
本番の決闘試合もこのスタジアムでやるみたいで、ここは数多のトレーナー達が闘い、勝敗を争ってきた歴史ある場所らしい。
 クラスBのみんな、そして他クラスも来ている。相手は胸ポケットにバッジが一つあるからクラスAだろう。
 
 スタジアムの扉が開くと、中から厳しい顔つきの女性が入ってきた。
長い赤毛のストレートで、人差し指の赤い宝石が目立つ。季節外れの真っ赤なコートに身を包み、高いヒールをコツコツと鳴らしながら歩いてくる。

「あの人が実践の担当、ランタナ先生です。……ちょっと怖いので、注意です」
 
 横でエイジが囁いた。続けてそのランタナ先生も腕組みをしながら口を開ける。

「三人の代表、前へ」

 出番です、とエイジに背中を押され、一歩踏み出す。
クラスBの他の二人、クラスAの代表も前に集まる。
ランタナ先生は六人の顔を眺めて少し考えた後、少し声を低くして呟く。

「ではまずイツキさんとムツミさん。使用ポケモン一匹の勝負です」

 いきなり俺か。
ムツミと呼ばれた男は、片方の目が隠れた黒髪で、表情は読めない。
赤い瞳で俺を見つめる。
何を考えているか分からないが、まぁなんとかなるだろう。クラスの皆の応援が聞こえる。
 
 ボールを手に取り、リングマを出す。
茶色い体毛で覆われた、お腹に黄色い円の模様があるポケモンだ。
俺のリングマは通常の個体と比べて少し大きい。体にいくつもある傷跡は、たくさんの敵と戦ってきた証拠だろう。

 ムツミもポケモンを出す。
相手のポケモンは…………。何のポケモンだ? 見たことがない。
翼のようなトサカがあって、尾の部分に当たるのはヒレ。頭に仮面のようなものを付け、別々の形状の前脚と後ろ脚を持った、四足歩行のポケモンだ。
空気が一瞬、止まったような錯覚を抱く。

「それでは、はじめ!」

 両者がポケモンを出したのを見て、先生が高らかに声を上げる。



 ────勝負は一瞬だった。

 #5 第一話「ぼうきゃく」END