二次創作小説(新・総合)
- 第二話「強者」 ( No.43 )
- 日時: 2021/01/03 20:32
- 名前: さぼてん ◆FRQHwFT6AY (ID: ysp9jEBJ)
「ミナ、部外者って何のことだ? ここには俺とリン以外、誰も居なかっただろ」
「うん。それと私を含めて、三人以外は誰も居なかったよ。あの、覗き見しててごめんね……。どうしても気になって、二人のバトルずっと見てたの」
ミナは申し訳なさそうに眉を下げると、そのまま続ける。
「部外者って言ったけど、これは人のことじゃなくて……“ポケモン”のこと。ここには、リングマとピカチュウ以外の“もう一匹のポケモン”がいるの」
ピカチュウを触る手を止め、ミナは立ち上がる。
「……見てもらった方が早いかな。ピカチュウ、“あの街灯”に電気を流して」
そう言われたピカチュウは毛を逆立て、技とも言えない微力の電撃を街灯にぶつける。
照明部分にその攻撃が当たると、先ほどの勝負で偶然“雷”が当たった時と同じように、またも灯りは点滅を繰り返し、周辺全土に電撃を放射させた。
ミナはその状況を見て確信を持ったのか、やはりと言った表情でこちらを向いた。
「今、ピカチュウが流した電気の後に街灯から放たれたのは、決して電撃の余力じゃない。……ポケモンの技“放電”だよ。ピカチュウ以外の何かが繰り出した技。──つまり、そこにポケモンがいるってこと」
そう言いながら、ミナは照明を指差す。
だが、街灯は時折点滅を繰り返すだけで、俺たちに答えを示そうとはしない。
なかなか正体を現さない第三者に対し、ミナは意地悪に独り言を呟いた。
「出てこないね。……じゃあもう一度。いや、出てくるまで“雷”を当てるしかないかな。しょうがないよね」
その言葉が耳に入ったのだろうか。
街灯は黄色く明滅するや否や、一層強い光を周囲一面に放つ。
反射的に閉じた目を開けると、通常通り光る街灯の上に、別の光源が宙を漂っているのが見えた。
その部外者とやらは、遂にその姿を見せたのだ。
オレンジ色の身体に、青く光る電気が身体の周辺を覆っているこのポケモン────
「──ロトム?」
「そう、ロトム。……このポケモンこそ、二人の勝負の最中に入ってきてしまった、いわゆる部外者」
ロトムは俺たちの周囲を高速で飛び回りながら、ニッと白い歯を見せる。
その表情を見て思い出す。……そういえばロトムは、プラズマで出来た体を持っている。
その体で機械に入り込み、悪戯をするのが好きなポケモンだ。
「それじゃあ、まさか。この街灯の点滅も……?」
「うん。この街灯は壊れてるんじゃないよ。ロトムが入って、悪さをしていたみたいだね。当の本人はただ構ってほしかっただけなんだと思うけど。……ほらおいで、ロトム。さっきは“雷”が当たってごめんね。今、治癒するから大丈夫だよ」
ミナは鞄から傷薬を取り出して、ロトムに吹きかける。
ここに、俺たち以外のポケモンが、ましてやロトムがいることに全く気が付かなかった。
ミナは俺とリンの戦いを眺めていたようだが、いつから分かったのだろうか。
彼女が自称していた“戦いの強者”という言葉がさらに信憑性を増す。
とここで、リンとの勝負を思い出し、またも謎が出てくる。
「……いや、待ってくれ。それならばリンこそ被害者だろう。バトルの最中にピカチュウは、ロトムが繰り出した“放電”を食らったんだ。電気技でたとえ効果が今一つでも、ダメージを負ったことには変わりない。要するに、ロトムのおかげで、俺が有利になっていたということじゃないか」
「うん、それなんだけどね……」
ロトムの手当てを終えたミナが、ピカチュウを抱き上げる。
「普通のピカチュウの特性って“静電気”でしょう? 触れた相手をときどき“麻痺”状態にできる特性。……でも、私のピカチュウは違うの。“隠れ特性”に分類される、少し珍しい特性を持っている。…………その名も“避雷針”。ありとあらゆる電気技を呼び寄せ“無効化”する。それだけに留まらず、そのエネルギーを自分の力に変えて、“特攻”を上げることが出来る特性。つまり──」
ミナが喋っている途中、不意にリンが言葉を被せる。
「……ロトムの“放電”を受けたことによって、ピカチュウは“特攻”が上がっていた。そして、リングマを倒す決定打になった“雷”はその状態で繰り出された」
スッと糸がほぐれるような感覚。
ピカチュウが街灯からの“余力”を受けたときの様子。
あそこで感じた違和感の正体が、今はっきりと分かった。
それならば合点がいく。ピカチュウは突如として特攻が上がったことに困惑していたんだ。
「ということは、その“放電”が無かったら……」
「……イツキ君のリングマが“雷”を耐え、ピカチュウに“シャドークロー”を決めて、勝っていたということになる」
ここにきて初めて、ミナが言った“部外者がいなければ、負けていない”という言葉の真意に納得する。
「……リン。いつからロトムに気付いていたんだ。それともまさか仕組んでいたのか。…………どうなんだ」
リンは、きまりが悪そうに目を伏せた。
「…………あたしも、街灯からピカチュウに電気が当たったときに初めて気付いた。ピカチュウの訴えかける目を見て、すぐに分かった。このピカチュウが電気を食らったということは、“特攻”が上がってしまった、って。その時に、街灯には何か電気タイプのポケモンが潜んでいることも、確証は無かったけど、勘付いた。……ただ、あたしは陰謀なんて企てていない。だって、そうでしょ? この街灯は、昨日も点滅を繰り返していた。ロトムはずっとここにいたのよ。それに、勝負の場所を決めたのはイツキ君、貴方よ」
「なら、なぜ試合を中断させなかった? ……どうしてピカチュウの能力変化を知っていたのに、“雷”を出させたんだよ?」
そう言うと、リンは動きを止めた。
肩を震わせながら、手をグッと握り、喉まで出てきている言葉を必死に抑えようとしているように見えた。
しばらくするとリンは、強張った体を振りほどくように、そっと言葉を紡いだ。
「……そう。……それはあたしが悪いの。…………ごめん、なさい。……もう、どうしていいか分からなくて」
リンは手で髪をクシャッと掻くと、無理やり笑顔を作ってみせた。
「……正直、驚いた。貴方がたった一日で、もう十分に力をつけてきてて。特に後半は、いつも通りの強さのイツキ君で焦った。どうしてたったこれだけの時間でそんなに成長できるの、って妬んだ。だから俄然、どうしても負けるわけにはいかなかった。……こうやって勝っても意味はないって分かってる。…………分かってるけど、昨日、さんざん貴方のこと悪く言ったのに、あたしがここで負けたらあたしっていったい何なの、って思って。そのとき、たとえ正々堂々としたバトルじゃなくてもいいから勝っておきたい、って……。一瞬思った。そしたらもう、気付いたときには遅かった。……不正してまで勝っても、意味なんてないのに。トレーナーとして当然だけど、もう遅かったのよ。……でも、ピカチュウが街灯に“雷”を当てたことと、ロトムの“放電”がピカチュウに当たったことは、偶然だったの。あたしが悪い考えを働いたのは、“特攻”が上がった状態を承知して“雷”を指示したところだけ。…………ほんと、ごめんなさい」
失望感の中に、不思議と同情の念を抱く。
彼女の生温い精神に腹が立ったが、込み上げた思いをぶつけられ、その気持ちを押し殺す。
不正をしてまで勝ちたいとは思わないが、昨日まで棒立ちだった素人に負けることは、リンのプライドが許さなかったのだろう。
当然ながら、俺が一日でここまで成長できたのは、ここまで勝負の勘を思い出せたのは、エイジやソウ、そしてミナたち仲間のおかげだ。
俺一人では出来なかっただろう。リンにそのことを認められたようで、少しばかりの達成感も抱いた。
「……リン。お前の気持ちは何となくだが分かる。お前は勝ちに拘るあまり、間違った考えに舵を切った。だが、それを伝えてくれたんだ。…………なら、もう俺は何も言うことはない。……ただ、それとは別にまだ疑問が残っている。どうしてミナのピカチュウで勝負したんだ?」
先ほどのバトルの最中では、答えてくれなかったことを訊く。
リンは不意の質問に目を泳がせながらも、軽く深呼吸をすると、落ち着いて喋り出した。
「…………意外と単純な答えよ。ミナのピカチュウを使ったのは、貴方がピジョンを出す、と予想したから。……バトルの初めに呟いた通り“読みを外した”のよ、“あたし”は」
リンはその後も、淡々と言葉を連ねていく。
「イーブイはまだ進化前だから選ばない。ゴーゴートは、あたしの主戦力のゲンガーに不利だから選ばない。そして、リングマは昨日の戦いの痛みが残っているから選ばない。……だから、消去法でピジョンを出してくると思った。でも、あたしにはピジョンに有利なポケモンはいない。……従って、ミナからピカチュウを借りた。ただそれだけ。…………痛恨だった。まさかイツキ君がリングマを出すなんて。ほんとに予想外だったのよ」
「なるほど……。確かにそう捉えればピカチュウを出したことにも納得がいく。でも、その…………。二人はどういう関係……なんだ?」
記憶のせいで、リンとミナの関係性が掴めない。
ただただ純粋なる疑問に、リンが少しだけ顔を赤らめているように見えた。
「か、関係って……。その、……えーっと。……ただの、ともだ──」
「親友だよ、親友! 私とリンは幼馴染なの。記憶喪失だから、覚えてないよね?」
間に入ってきたミナがそう言うと、リンは顔を後ろに向けた。
「これで、万事解決ってところかな? ……リン、イツキ君は許してくれたよ? ならさ、リンも言わなくちゃいけないことがあるでしょ?」
ミナが諭すようにリンに語りかける。
リンは頷くと、ぎこちなくこちらに目を合わせた。
「イツキ君。結果こそ違ったけど、勝負に関しては貴方の勝ち。なら、約束は果たす。……もはやあたしが言うことじゃないけど、クラスBの代表として戦ってほしい」
「……良いのか、本当に。リンが昨日言った通り、戦力外だったのは事実だ。もしかしたら、また足を引っ張る可能性もある」
「それは昨日のお話。……もう忘れて。あたしが馬鹿だった、ほんとに。…………それで、もし良かったら。……良かったら、あたしも一緒に戦わせて。不正を隠蔽しようとした愚か者だけど、力になりたい。……イツキ君とタイガ君とあたしで。これまで通り、決闘試合を一緒に戦いたい」
リンから出た、決してぶれることのないような、芯のある言葉が俺の脳を揺さぶる。
犯した過ちを悔い改めたのち、頂という目標に向かって突き進もうとする、非常に頼もしい発言だった。
「何を言ってるんだ。端からリンの代表入りを決める戦いではなかった。俺の有無を決めるためだけの勝負だった。それに、俺に練習のきっかけを与えてくれたようなものだ。むしろ感謝している。……この勝負での過ちを反省しているんだろう? なら答えは一つだ。もちろん、一緒に戦おう。戦って勝って“英傑”になろう」
「…………貴方って、ほんと不思議ね。でも、だからこそ、なんだろうね。……ありがとう。あたし、もうこんな愚弄な考えは二度と起こさない。チームの力になってみせるから。絶対に」
俺たちは握手などはしなかった。
リンが元々そういう性格じゃないということもあるが、そんなことをしなくても彼女の思いは十二分に伝わってきたからだ。
「お二人さん。何だか結束が高まってるところ悪いけど、他のクラスも忘れないでね? 英傑はクラスFが戴くんだから」
「ミナ。張り切って空振りしないでよ。……イツキ君、決闘試合まであと二週間。本番まで残り少ない日数だけど、貴方となら何とかなりそうな気がする。タイガ君とも合同で練習して、再来週末からの戦い、一緒に勝ち抜こう」
それは今までの彼女からは想像もつかない、明るい声と優しい微笑みだった。
ロトムはそんな俺たちのやり取りを見届けたかのように、ちかちかと発光しながら街灯の中へと戻っていく。
リングマ。さっきは言えなかったが、お疲れ様。苦しかっただろうに、本当によくやってくれた。
お前が頑張った甲斐もあって、代表に残ることが出来た。ありがとな。ゆっくりと、休んでくれ。
リンが見せた心からの笑顔に、微かな希望が芽生えた。
*
リンと別れた後、話があるというミナと、寮への帰路を共にしていた。
「私ね。今朝、リンがピカチュウを貸してほしいって頼んできて、本当にびっくりしたんだよ? 昨日イツキ君が話してくれた、決闘試合の代表入りを決める勝負の相手が、まさかリンだったなんて。私はイツキ君の練習を手伝うからって言ったら、じゃああたしの力にもなってよ、って言われちゃってさ。結局断れなくて貸しちゃった。……イツキ君、私のピカチュウに負けたらどうしよう、なんて思ったけど。……結局のところ、代表に居続けれて良かった」
昼食後のミナを思い返す。
何故かいつもと違う雰囲気だったのは、俺とリンの試合を心配していたからのようだ。
「そうだな、ありがとう。ミナや皆のおかげだよ、本当に。……礼がしたい。今度、何か奢るよ」
「私なんて大したことしてないよ。……イツキ君、リンのことなんだけど。もう終わったことだけど、責めないであげてね? リンは、不器用だし、思ったことをズバッと言っちゃうから、誤解されやすくて」
「ああ、大丈夫だ。リンの性格は、多少なりとも理解してるつもりだし。それに、彼女なりの優しさも受け取れているつもりだ。心配しないでくれ」
俺はリンとの戦いの中で、一つ気になったことがある。
どうして彼女は自分の手持ちポケモンを使わなかったのか、ということだ。
彼女は、俺がピジョンを出すと思い、それに対する有効打が無かったからだと言っていた。
だが、この大事な一戦にわざわざ使い慣れていない他者のポケモンを使うだろうか。
それに、俺は戦いの時間も事前に伝えていた。
リンはゴーストタイプの使い手。この暗い夜の戦いでは、闇に紛れて遺憾無く実力が発揮できる。
それなのに、光って目立つ電気タイプを使ってきた。
そこが、どうしても引っかかる。
ただただ、そのデメリットを考えなかっただけなのだろうか。
俺には、彼女なりの一種の情け──相手のレベルと同等に合わせ、そこで本当の実力をぶつけ合うために計ったような、そんな気がしてならなかった。
「なら、良かった。……ねぇ、イツキ君。リンとのバトルの終盤、記憶喪失前と同じぐらい凄かったね。あれって、戦いの中で戦術やポケモンバトルの記憶を思い出したからなの?」
「あ。あれは──」
視界が光ると、どうすれば勝てるかが分かるんだ。……なんて言って、信じるだろうか。
そもそも自分自身、意味が分からないのにミナに言うと更にややこしくなりそうだ。
「……たまたま戦法が上手くいっただけだ」
「そうなの? ……うーん、そうなのかぁ」
俺はこの変な力を半ば信じ、半ば幻想と思い、胸の中にしまっておくことにした。
「なぁ、ちょっといいか。どうしてミナは、俺の力になってくれたんだ?」
「えっ、それは……」
ミナはその場で立ち止まり、手を後ろに回して、小石を蹴るような仕草をした。
「覚えてない……? あの“約束”。…………あぁ、やっぱいい。覚えてないよね。えっと、うーんと……その答え秘密ってことで。ね、いいでしょ?」
ミナとの約束……?
駄目だ、さっぱり分からない。
彼女もはぐらかしたようだし、このことに言及するのはやめておこう。
「じゃあ、私からも質問! イツキ君は退院後、どうしてすぐに学校に来てくれたの?」
「あ……!」
その無邪気な質問で、俺はすっかり頭の片隅に追いやっていた、ここに来た理由を思い出した。
決闘試合の代表入り騒動に気を取られていたせいだろうか。
何故こんな大事なことを忘れていたのか、自分でも恥ずかしいくらいだ。
「そうだ、俺は記憶を取り戻すためにここに来たんだ。どうして記憶を失ったのか、ここに来れば何か分かると思った。……ミナ、何でもいい。何か知っていることはないか?」
「……えっと、何かって。うーん、そうだな。記憶を失ったのは在学中なのに変わりはないけど、そもそもイツキ君はこの学校で一ヶ月間しか学んで無かったから……。何が原因なんだろうね? ……どこで記憶を失ったか、とかは聞いているの?」
「確か…………。そうだ、森だ。担当医が森で倒れていたと言っていた。ミナ、この近くに森はあるか?」
そう聞くとミナは、人差し指を顎に当て、空を見上げるように考え込んだ。
突然「あ!」と叫んだのが思い出した瞬間であることは、誰もが明確に分かるだろう。
「トヤノカミシティで森と言えば、“間の森”じゃないかな?」
「間の森か、ありがとう。……そこに行くと何か思い出すかもしれない。一刻も早く行かないと」
ミナに話したことで、思いもよらない収穫を得た。
間の森。俺が倒れていたという場所。……そこで何か思い出すといいのだが。
胸が高鳴る俺を制すように、ミナが真剣な口調で話し出す。
「イツキ君、落ち着いて。間の森は、トヤノカミシティの中でも最北に位置する場所で、ここから行くとしても、だいぶ時間がかかるよ? 今は決闘試合前の大事な練習期間だし、行くのはそれが終わってからにした方が良いと思う」
「……確かにそうだな。今は少しでも多く練習して、チームの為に、クラスの為に頑張らないといけない。……分かった。行くのは決闘試合が終わってからにするよ。…………そういえば、ミナ。話があるって言ってたよな?」
「あ、いや。それは、もう……いいの。…………ねぇねぇ。それよりも、何奢ってくれるの? 私ね、お洋服とかアクセサリーが良いなぁ。欲しいのが山ほどあるの」
「……か、考えとくよ」
*
寮に戻る道中、事の異変に気付いたのは、生徒たちの騒めきが聞こえたからだ。
もう夕食も済んでいるような時間帯なのに、寮の周りは人々で群がっていた。
「こんな夜中に、一体何だ……?」
少し呑気に呟くと、横でミナが息をつまらせる。
「……まさか」
言葉と同時に駆け出したミナを、追うようについていく。
緊張感のある声色に、ただならぬことが起きているのかもしれない、と憶測を巡らせる。
ミナは、走った先にいた生徒の中の一人に声を掛けた。
「何かあったんですか?!」
「見ろよ、あれを!」
興奮気味に叫ぶ男の差す方向──寮から見た校舎の外壁。
石造りの壁の端から端まで、かなり長い距離を、まるでキャンバスにでも見立てるかのように、巨大な文字が書かれている。
強固な石壁を、鋭利な刃物か何かで削り取ったようだ。
それらはわざわざ照明を当ててライトアップされており、ここからだと際立って目に留まる。
「何だ、あれ……。エイ、エル、ピー、エイチ、シー、オー、ディー、イー、コロン、セブン」
最初は大掛かりで質の悪いイタズラか何かと思ったが、どうしたものか、見れば見るほど体が強張る。
咄嗟に横を向くと、体を震わせてはいるものの、どこか怒りを滲ませるミナの横顔が目に入った。
「ミナ、知っているのか? ……あれは何なんだ?」
「……ALPHCODE:7。…………“アルフコード:セブン”」
突如として現れた、巨大で奇怪な文字群は、これから何かが始まることを主張しているようだった。
それは、ここにいる誰もが同じことを思っていたに違いない。
#8 第二話「強者」END
