二次創作小説(新・総合)

ABT③『折りに折られぬ心意気』 ( No.39 )
日時: 2020/08/15 22:12
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: UruhQZnK)

本部の皆さんがプレロマでメフィストの場所まで急いでいる最中―――。
メインサーバでも色々と動いていました。そんな中、ノルンはサクヤに『とある頼み』をするのです。

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~メインサーバ~



サクヤ「成程。プレロマの全域が少しずつ分かってきました。彼奴等、北エリアに障壁を張ってこちらが近付けないようにしているみたいですね」

ヴィル『あぁ。しかもだ。障壁がどうやら『自然の魔力』を応用して創られている厄介なものでな。読み解くのに少々時間がかかりそうだ。…彼奴等、あんなに私を散々コケにしておいて私の創り出した魔法を利用しているではないか!』

MZD『突っ込むところはそこじゃないでしょー?逃走者側にジャックがいるから、誰かと連携して障壁のことを伝えてられればいんだけど…。ま、そこは逃走者の判断に任せるしかないからな』

ニア「こちらも神の行動に変化が無いかを察知中ですわ。…今のところはなんともありませんが…。エクラ様を『邪神』にする可能性がある以上、彼らの介入がないとは思えません、わ」

サクヤ「エクラさんを救出するにも、メフィストを叩くにもまずは障壁をどうにかしないとお話にならない、ということですか…。分かりました、ありがとうございます。こちらでも何か策を練ってみますので、とりあえずは道化師を逃走者の皆様に近づけさせないよう動いてください」

MZD『おっけー。また何か分かったら連絡する。こんだけ骨が折れるんだったら終わったらみんなでパーッとマリパでもしたいよなー』

ヴィル『こちらでも障壁の魔力の解読を進めてはいく、が…。ニアの言っている通り『神の力』が混ざっている可能性も無きにしも非ぬ。時と場合によっては『永久』も使用させてもらうぞ』

MZD『あ、暴走しそうになったら殴ってでも止めるから!安心して!』

サクヤ「安易に殴らないでくださーい。…まぁ、それだけ緩い会話が出来るなら大丈夫でしょうね。それでは、一旦通信を切りますね」



 メインサーバでもプレロマで今何が起こっているのかが少しずつ分かってきていますね。しかし、メフィストが張った障壁が中々厄介なものらしく。魔力の解読にはもう少し時間がかかりそうだとヴィルヘルムは答えました。魔力が魔族のものの為、やはり繊細に解読するには彼の力が必要不可欠みたいです。
 彼が『もう少し時間が欲しい』と言っているのならば仕方がありません。解読は彼に任せ、とりあえずは道化師の魔の手から逃走者達を守るようにと指示し、通信を切りました。どうにかゲーム中には解読が終わってほしいものですが。



サクヤ「彼がかつて魔族の頂点に立った男なのは立証済みです。大丈夫ですよ、彼を信じましょう」

ニア「それにしても…サクヤ、貴方は随分と雰囲気が変わりましたのね…。昔はもっと…荒々しく、破壊衝動に満ちていたお方だったでしょう…?」

サクヤ「龍本来の衝動のようなものですからね。私にも守るべき世界が出来たことで、色々と心変わりがあったんですよ」

ニア「うふふ…。思考回路も随分と成長したものですわね…?やはり、社長が貴方を『おきにいり』としたのは間違っていなかったようですわ…」

サクヤ「後はアシッドさんの腹の中を読めるようになればいいんですがねぇ。笑いながら無茶入ってくるんですよねぇあの人」

ニア「神様って、そもそもそういうものではないのですか…?」

ノルン「あ、あの!お話中すみません。今いいでしょうか?」



 あらら、仕事中に私語ですか?しかし、ニアからしてみれば今のサクヤは随分と『雰囲気が変わった』とのこと。成長したとでもいうのでしょうか。昔は破壊衝動に満ちていたんだとか。おー怖。…種族や部族によっては元々備わっていたりするので、それをコントロールできるようになったといえば成長なのでしょう。
 そんな雑談を続けている最中でした。ノルンがトコトコとこちらにやってきて、サクヤに声をかけてきました。ちなみにカノンは戦闘ができますが、ノルンは自分を『戦闘音痴』と名乗るくらいには戦闘が苦手です。なので、今回もメインサーバでサポートを担当。…クッパ軍団で何をしていたんだか。



サクヤ「ノルンさん。どうかしたのですか?はっ、まさかここに来て日が浅いから緊張しているとか。それは大変です、すぐにリラックスさせなくては」

ニア「あら…そうなんですの?それではわたくしがとっておきのゲームをご用意しますw『SAN値を削りにかかる行動はおやめください』…つまらないですわ」

ノルン「いえ!来たばかりなのでちょっと緊張はしてますけれど…。皆さんいい人ですし、大丈夫です。お気遣いありがとうございます。それで…気にしているのは他のことなんです」

サクヤ「成程。『他のこと』とは?」

ノルン「ボク、本当に『本名を教えてしまって大丈夫だったのかな』と…」



 ノルンが気にしていたのは『本名を教えてしまって本当に良かったのか』ということでした。最初にアイラやヴィオラと一緒に自己紹介をした際は、アクラルの背中を押す言動もありつい言ってしまったわけですが。やはり彼はクッパ軍団に所属する一兵のノコノコ。クッパ軍団に向けての罪悪感があったのでしょう。
 しょぼんと眉を下げるノルンに、サクヤは優しく甲羅をさすりながらこう返します。



サクヤ「ノルンさん。最初に兄貴が言っていたことは、私も同じことを思っています。ここはクッパさんのお城ではないんです。私も貴方のことは『クッパ軍団の一兵』としてではなく、『1人のノコノコさん』として認識しています。ですから、自分のやりたいようにやっていいんですよ?」

ノルン「でも…クッパ様怒ってないかなぁ…」

ニア「あら?心配成されていますの…?ならば、クッパ様にご連絡してはいかがでしょうか。ここに電話もございますので…」

サクヤ「随分用意がいいですね?―――およ、留守電が入っています。誰からでしょうか?」



 アクラルの言ったことにはサクヤも同意見。そのことを伝えますが、ノルンはまだ不安そうに眉をひそめています。ならばクッパに直接聞けばいいとニアが電話を取り出します。彼女も上司の口から直接聞けば気が晴れるだろうとニアの提案に乗ろうと用意してもらった電話を取りますが、そこには留守電が。一体誰からでしょうか。
 通話ボタンを押してみると、ノルンにとって聞き馴染みのある声がその受話器から聞こえてきたのです。



『サクヤ!電話をしたから出ないぞ!カメックが『留守電』を使えと言ったからメッセージを残すのだ!ノルンよ!カロンよ!別に本名のことで悩む必要はない!あれは部下達が勝手にやっていることだからな!ガッハッハ!寧ろワガハイも本名で呼びたいと思っているから、お前達がこっちに帰って来たら思う存分本名で呼んでやるのだ!!ワガハイや軍団のことは気にせずそっちで頑張るのだぞ!それではな!!』



ノルン「クッパ様…」

サクヤ「さてと。『暗黙の了解』というものは、部下達が勝手にやっていたとご本人からの証言がありましたね?悩みの種、最初から悩む必要が無かったということになります」

ニア「あら…なんともつまらない顛末です、わ?わたくし…もう少し面白い展開を期待しておりましたのに…。例えば…ルイージ様に植物が寄生しておられますとか…」

サクヤ「絵本の世界のマリオさんの物語を滅茶苦茶にしないでください。ノルンさん。クッパさんがこう言っているのですから。悩む必要はないのではないですか?」

ノルン「…ボク、みんなが黙って掟を守っているから『クッパ様が作られたんだ』って思い込んでました。でも、違うんですね。これをみんなに言ったら…あっちでも本名で呼んでくれるのかな?」

ニア「それは分かりませんわ…?長年根付いた習慣というものは、中々抜けないものですの…。ですが、貴方様がそれを『解消する』第一人者には、なれますわよ…?」



 留守電の主はなんとクッパ。ノルンの気持ちを察していたようで、本名で活動することを気にするな、と。あれは部下達が勝手にやっていることだと言って自信を付ける為に電話をかけようとしていたようです。最後には彼とカノンを激励する言葉まで。なんて理想的な上司なのでしょうか。
 悩みの種が消えましたね、と彼を勇気づけるサクヤ。長年根付いた習慣は中々直らないとは言いつつも、背中を後押ししてくれるニア。彼女達の言葉を聞いたノルンは、『とりあえずやってみよう』と自信をつけたのでした。



ノルン「ボク、頑張ります。いつか部下達も本名で呼べる世の中にする為に、まずはここから頑張ってみます!1人のノコノコとして接してもらえるなら、ボクも精一杯こっちでのお仕事も頑張ります!いや、もとから頑張るつもりでしたけど…」

サクヤ「それは頼もしいですね。悩みは解決できましたか?」

ノルン「はい、1つは!…実は、もう1つ悩み、といいますか…。『お願いしたいこと』があるんです」

ニア「お願いしたいこと…?なんですの、それは…」



 悩みの1つは解消したみたいでしたが、彼はそれとは別にサクヤに『お願いしたいこと』があるとういうのです。質問を投げ返してみると、ノルンは少し下を向いて考えた後、ぽつぽつと話し始めました。



ノルン「カロンくんの記憶喪失を元に戻してほしいんです」

サクヤ「カロンさんの?」

ニア「そういえば…最初に『記憶喪失だ』と、貴方様は仰っておられましたわ、ね?」

ノルン「はい。まず、カロンくんは他のカロンとはちょっと違うんです。カロンって普通、『カタカタ』と身体の骨を揺らして、自分の感情や気持ちを伝えるんですけど…。カロンくんみたいに喋ることが出来ない種族なんです。
    でも…サクヤさん達も知っての通り、カロンくんはつたないながらも『普通に喋ることが出来る』。だから、サクヤさん達に記憶を取り戻してもらったら…もしかしたらカロンくん、普通に喋ることが出来るようになるかもしれません!」

サクヤ「成程。カロンという種族を私はよく知らないのですが、ポケモンの皆さんやヨッシーさんのように鳴き声で意志や気持ちを伝える、という解釈でよろしいのですね?」

ノルン「はい。それで合っています。本当はボク達の世界でのことなので、ボク達自身が解決すべきだとは思っています。でも、カロンくんはいつまで経っても記憶が戻らなくて…。こんなに実力者が集まる場所なら、何か解決の糸口が見つかるんじゃないかなって思うんです。だから、お願いします!カロンくんの記憶喪失を元に戻してください!!」

サクヤ「うーん…」



 目の前で深く頭を下げられたサクヤは困ってしまいました。そりゃそうです。突入し礼をする前、彼女はその『カロン本人』…。カノンに『自分は記憶喪失ではない』と言われていたのですから。そして、それを周りには黙っていてほしい、とも。
 いずれクッパに話を聞かなければならない案件だとは思っていましたが、まさかノルンから頭を下げられてしまうとは。…まぁ、勘の鋭い輩にはすぐに気付かれてしまいそうですが。
 
 頭を抱える彼女に、ニアは不思議そうに…いや、『心を見透かしたように』こう助け舟をしました。



ニア「…うふふ。心配なさらなくても大丈夫ですわ。ここにはクッパ様のように人外染みた強力な力を持っている輩が多く在籍しておりますの。ですから…今すぐに、とは無理ですが…。いつか、記憶を戻る手立てはきっと見つかるでしょう、とだけ申し伝えておきますわ…」

ノルン「本当ですか!」

サクヤ「ニア…。分かりました。私達も出来るだけのことはやってみます。けれど…いくら『神』なる我々でも、流石に異世界の事柄までに深く首を突っ込むことは出来ないのです。ですから…あまり期待をしないで待っていてほしいのです」

ノルン「はい!ボク、カロンくんともっと色んなお話がしたいんです!だから、いつまでも待ちます!だってカメですもん!ありがとうございます。本当に、本当にありがとうございます!!」

ニア「それにしても…貴方様は随分とあのカロン様を気にかけていらっしゃるのですわね…?お友達、なのですか?」

ノルン「そういう訳ではないんです。何というか…『死んでしまった親友』に雰囲気が似ていて。放っておけないというか…」

サクヤ「(『死んでしまった親友』ですか)」

ノルン「あっ!こっちの話なのであんまり気になさらないでください!それじゃボク、まだ仕事が残ってるので夕さん達の場所に戻りますね!それでは!」



 サクヤは今精一杯言える言葉でノルンの気持ちを落ち着かせた後、彼が自分の持ち場まで戻っていくのを見送っていました。しかし…『死んでしまった親友』に雰囲気が似ているカロン、ですか。
 これからどうしたもんかと頭に手を置くと…ニアが薄ら笑いをしながらこちらににじり寄ってきます。彼女が問い詰める行動に出るのは火を見るよりも明らか。サクヤは諦めたように『口外しませんね?』とだけ尋ねました。



ニア「…やはり知っておいででしたのね?」

サクヤ「口外しないように言われているのです。ですから、ニアがもし他人へこのことを話すつもりであれば…私は何をされても口を開きません」

ニア「あら、随分と強気に出ますのね…。わたくし、そこまで信頼されておりませんの?悲しいですわ…。ですが、そこまでの事情が彼らにあるのでしょう…?―――口外など致しませんわ。そちらの方が『面白そう』ですもの…」

サクヤ「邪神がにじみ出てますよ、ニア。貴方もそろそろ天界の邪神共に位置が割れるのではないですか?まぁ、それは置いといて。…最初に貴方が危惧した通りです。あのカロンさん…『記憶喪失などではありません』。何らかの理由でクッパさんに口止めを食らっているようなのです」

ニア「あら、そうでしたの…。やけに記憶の回路が正しいのに『記憶喪失』だと言っているのがおかしいとは思っておりましたが…。…しかし、何故クッパ様はそこまでして彼を『記憶喪失』だと思わせているのでしょう…?」

サクヤ「そこまでは分かりません。ただ、『クッパ様に記憶喪失として振る舞え』と、そう言われたと。分かっているのはそれだけです。―――もしかしたら、ノルンさんとカノンさんだけではない。『クッパ軍団』をも巻き込んだ何かが、過去にあの城で起こっていたのかもしれませんね」

ニア「―――うふふ、先程の言葉を撤回いたしますわ…。これは…中々に闇が深そう。面白そうですわ…」

サクヤ「お願いですから首は突っ込まないでくださいね?」

ニア「…………。うふ?」

サクヤ「冗談で言っている訳ではございませんので本当にやめてくださいね?」




 クッパ城で過去に一体何が起こったのでしょうか。こっちも後々一筋縄ではいかない問題になりそうです。
 …いずれ、ノルンとカノンも『覚悟』をしなければならない時がくるかもしれませんね。