二次創作小説(新・総合)

第2回演出問題 選択肢【A】の話 ( No.78 )
日時: 2021/08/03 13:01
名前: マーキー・F・ジョーイ ◆Pehab0fcX2 (ID: 3rsK9oI3)

喪黒「私の名前は喪黒福造。人呼んで『笑ゥせぇるすまん』。ただのセールスマンでじゃございません。私が取り扱っているのは『ココロ』。人間のココロでございます…」

【 笑ゥせぇるすまん Dark-A 】

喪黒「この世は老いも若きも男も女も、心の寂しい人ばかり。そんな皆さんのココロのスキマをお埋め致します。いいえお金は一銭もいただきません。お客様が満足されたらそれが何よりの報酬でございます。さて、今日のお客様は…?」

~とある会社の屋上~

ガシャガシャガシャ…ピロリーン!

推ヶ比「あーもう!またハズレか!」

推ヶ比おしがひ けん (24歳) 会社員】

喪黒「ホーッホッホッホッホ…」

写真立しゃしんたて』

~会社の屋上~

佐浜「おいおい推ヶ比、またそのガチャやってんのか?だいぶ課金したって聞いたぞ?」

推ヶ比「当たり前だろ!今回のSレア見ただろ!?俺の推しなんだよ!何やってでも引いてやる!」

佐浜「ちなみにいくら引いたんだよ?」

推ヶ比「もう15万は使ったんじゃないかな…?」

佐浜「15!?お前諦めろって!天井とかどうしたんだよ!?」

推ヶ比「このガチャな、天井すり抜ける時があるんだわ。3回やって3回すり抜けた。お前もわかってるだろ?」

佐浜「いやいや笑顔で言うべきじゃないってそれ…まあ俺も引けなかったけどさ、ここの給料もそんなに高くないんだし、ほどほどにしとけよ?」

推ヶ比「わかってるって!俺だって【ミドリちゃん】が引けたらここまで課金なんかやってねえんだっての!確率渋すぎかよこの!」ガシャガシャ

佐浜「俺は先に戻ってるぞ。午後の仕事に影響させんなよー?」

推ヶ比「おう!…クソッ!」ガシャガシャ

ビルの屋上で昼食も摂らずにとあるゲームのガチャを回し続ける推ヶ比だが、一向に推しの【ミドリちゃん】は引けない…

推ヶ比「クソーッ!弁当代もケチって来たってのに何がダメなんだよ…!」

喪黒「何やらお困りのようですねぇ…」

推ヶ比「うわっ!!?ど、どちら様ですか!?」

不気味な男の急な登場に驚く推ヶ比。それを後目に喪黒はおにぎりを食べている。

喪黒「私はこういう者です」

名刺を差し出す喪黒。それを受け取る推ヶ比だったが、あることに気づく。

推ヶ比「これはご丁寧にどうも…。『ココロのスキマ、お埋め致します。喪黒福造』…ってああーーっ!!?それ僕のおにぎりですよ!!何てことしてくれるんですか!!?唯一の昼飯が…!」

喪黒「おっとこれは失敬。落ちていたので悪くなってはいけないと思いまして…良ければこれからカフェにでも行きませんか?」

推ヶ比「いや、でも…」

喪黒「私に奢らせてください。会社の上役にも客だとお伝えしていますので多少遅れても問題はございませんよ」

推ヶ比「え、良いんですか?」

喪黒「貴方のおにぎりを食べてしまったお詫びです。ささ、行きましょう」

推ヶ比「お、おおお…」

推ヶ比は喪黒にやや強引に背中を押されながらカフェへと向かった。


~カフェ オムレツキャット~

喪黒「…ほほう。推しが引けないと?」

推ヶ比「はい。僕はいろんなソーシャルゲームをプレイしているんですが、【推しキャラ】を引けたことが一度も無いんです。今やってるゲームの『フルブライトワールド』でも【ミドリちゃん】って子がいて…」

喪黒「その子が【推しキャラ】というものですか?」

推ヶ比「そうなんです!ミドリちゃんはおしとやかだけど内には熱い気持ちを秘めていて、マスターの為ならどんな相手でも怯まず戦う正統派な女の子なんです!推しというよりもはや憧れの子でもあるんですよ!それに何と言っても声に癒されるんです。透き通った鈴のような声…あの声を聴くたびに俺は…!」

喪黒「しかしそれならゲームでなくても色々なグッズなどもあるのではないですか?わざわざゲームに拘る必要も無いでしょうに」

推ヶ比「わかってないですねぇ喪黒さん!こういうのはグッズだけじゃなくてゲーム上でも揃えておきたいんですよ!彼女の戦う姿とか素敵なんですよ!特に薙刀を振るう姿はもう格好良くて…!薙刀が姫カットな髪型の彼女によく合うんですよ!それにやっぱりね、自分の手中に収めてゲーム内での彼女のストーリーとかを見たいじゃないですか!………でも、未だにその子は来ないんですよ…もう15万以上は課金したというのに…!」

喪黒「なるほど、それでゲームへの課金で生活をひっ迫させているというわけなんですね?」

推ヶ比「アハハ…恥ずかしながら…」

喪黒「良いでしょう。私がその手助けをしてあげましょう」ガサガサ…

推ヶ比「手助け?手助けって…これはゲームのガチャですよ?軍資金とかそういうのですか?」

喪黒「いいえ違います。貴方にはこれを差し上げます」コト…

喪黒が差し出したのは少し変わったデザインの写真立てのような置物だった…
写真立ての上部はどことなくオシドリのような鳥が二羽向かい合っているようにも見える。

推ヶ比「これは…写真立て?」

喪黒「これは意中の人物が必ず手に入ると言われている【推し取り写真立て】です」

推ヶ比「オシドリ写真立て?」

喪黒「はいそうです。この写真立てに自分の好む人物やキャラクターの写真を入れると必ず手に入れることができるようになるのです」

推ヶ比「なんだか胡散臭いな…まさかそうやって悪徳商法でもやろうってんじゃ…!」

喪黒「まあまあ落ち着いてください。こちらはタダであげちゃいます」

推ヶ比「た、タダ!?でも貴方、セールスマンじゃ…」

喪黒「ええ。私は確かにセールスマンですが、報酬はお客様が満足していただけることなのです。ホーッホッホッホ…」

半信半疑ながら、推ヶ比は喪黒から写真立てを受け取った。
そして午後の仕事を終え、家に帰ると早速【ミドリちゃん】のアニメ画像の写真を撮り、魔法の写真立てに入れて、自身のテーブルに飾った…

そして翌日…

~会社の屋上~

佐浜「…お前、また課金したのか?」

推ヶ比「ああ。でもな、これを最後の課金にしようと思ってるんだよ」

佐浜「ええっ!?お前、熱でもあるのか?」

推ヶ比「失礼だな!?でも良いんだ。俺、なんだか今日は引ける気がするんだよ!」

佐浜「どうだかねえ…確率渋すぎだし、そもそも会社内でもお前、【推しが引けない推ヶ比】って揶揄されてるくらいなんだぜ?本当に大丈夫か?」

推ヶ比「う、うるせえ!ここで引いて、その変な二つ名を帳消しにしてやるんだ!」

推ヶ比は緊張した面持ちでガチャのボタンを押した…

佐浜「…お?月が白く光ったぞ!?Sレア確定じゃないか!?」

推ヶ比「ミドリちゃん…!!!」

ガシャガシャガシャ…ピロリーン!

ミドリ『初めまして。ミドリと申します』

推ヶ比・佐浜「「き…きたあああああああ!!?」」

推ヶ比「やった…!ついに引けたんだ…!」

佐浜「やったな推ヶ比!」

推ヶ比「ミドリちゃん…!(あの写真立て…本当に効果あったんだ…!)」

佐浜「まさか本当に引くとは思わなかったぞ…これなら今日は仕事も捗るんじゃないか?」

推ヶ比「ああ!勿論さ!今の俺は絶好調だぞ!」

推ヶ比・佐浜「「あははははは!!!」」

さらに翌日、推ヶ比の家に1つのお届け物がやってきた…

推ヶ比「何だろう………!?『フルブライトワールド公式』………まさか!!?」

ハッとして箱を開け、推ヶ比はその中身を見て目を丸くした。

推ヶ比「うおおお!!?これ、ミドリちゃんがプリントされた限定マグカップじゃないか!!あの懸賞当たったんだ!!?やったー!!!」

その後もミドリちゃんに関連するグッズが大量に当たり、彼は幸せを噛みしめながら一日一日を過ごしていった…

そしてしばらく経った日、仕事を終えた推ヶ比は1人嬉しそうに帰路についていた…

喪黒「推ヶ比さん。どうです?調子の程は?」

推ヶ比「喪黒さん!いやーありがとうございます!本当に効果があったんですね!おかげでミドリちゃんに囲まれて幸せな生活が続いてますよ!」

喪黒「そうですか。それは良かった…ですが1つだけ約束してください。あの写真立ては意中の人物を1人に限った前提で作られたものなのです。ですから【飾った写真は絶対にその写真立てから取り外さないでください】」

推ヶ比「アハハ!当たり前ですよ!俺にはミドリちゃんしかいませんから!」

喪黒「くれぐれも、よろしくお願いしますよ…?」

不敵な笑みを浮かべる喪黒は静かに去って行った…
推ヶ比の幸せな日々は続き、最初にミドリちゃんを引いてから1ヶ月が経った…

~会社の屋上~

佐浜「…ん?どうした推ヶ比?」

推ヶ比「聞いてくれよ佐浜…佐浜は最近出てきた【コノハちゃん】って子知ってる?」

佐浜「当たり前だろ?俺もフルブラやってるんだからわかるに決まってるじゃないか」

推ヶ比「俺さ…コノハちゃんが結構ストライクなんだよな」

佐浜「おいおい…あの子も確かに可愛いけど…」

推ヶ比「だろ!?やっぱ片目隠れってサイコーだと思うんだよ!」

佐浜「あー…お前そういえば片目隠れのキャラも好きなんだっけか…」

推ヶ比「それでもって性格もちょっと臆病だけど戦う時は勇猛果敢に戦うってのが結構キュンとくるんだよ」

佐浜「わかる。わかるぞ推ヶ比………あれ?まさかお前それでまた課金してるのか?」

推ヶ比「そのまさかなんだよ!かれこれ20万以上課金しててもう昼飯が塩舐めるくらいしかできねえんだ!」

佐浜「お前なあ…ミドリちゃんでやめるって言ってたんじゃ…」

推ヶ比「そのミドリちゃんがさ、さっきからガチャで大量に出てくるんだよ!Sレア確定は絶対にミドリちゃんなんだ!」

佐浜「ハハハ…推しに好かれたな推ヶ比…」

推ヶ比「ぐぬぬ…これ以上は課金できないし…頼む!昼飯代だけでも奢ってくれ佐浜!」

佐浜「仕方ないなあ…今日だけだぞ?」

推ヶ比「あ゛り゛が゛ど゛う゛!!」

佐浜「ハハハ泣くな泣くな。でも俺も金ないからのり弁な?」

写真立ての効果が強いのか、推ヶ比はSレアのガチャを始めとして、色々なグッズもミドリちゃんに関連するものしか当たらなくなっていた…
そしてその晩…

~推ヶ比宅~

推ヶ比「………」

推ヶ比は写真立てを見て悩んでいた。

推ヶ比「ミドリちゃん………」

彼の推しだったミドリちゃんの写真をじっと見つめていた。しかし、あの時のような憧れの目ではなく別の感情が入り乱れているような目をしていた。

推ヶ比「ごめんよミドリちゃん…人って変わるものなんだ…」

そう言って彼はミドリちゃんの写真を写真立てから取り外し、新たにコノハちゃんの写真を入れたのだった…

推ヶ比「…本当にごめんね。ミドリちゃん。しつこい君がいけないんだよ?」

喪黒「………」

翌日、推ヶ比はいつものように会社へ向かおうと駅までの道を歩いていた…新たにセットした【コノハちゃん】を手に入れるのを楽しみに鼻歌を歌っている…

推ヶ比「フンフンフーン♪…(ドンッ!)いてっ!すみません!………!!?」

何かにぶつかり、咄嗟に謝った後、顔を上げた推ヶ比はギョッとした。

喪黒「推ヶ比さん…貴方、写真を取り外してしまいましたね?」

推ヶ比「な、なぜそれを…あっ!?」

喪黒「あれほど言った筈です。【絶対に写真を取り外してはいけない】と…」

推ヶ比「し、仕方なかったんです!いくら推しだった子でも、しつこいぐらいに出たら飽きが来るに決まってるじゃないですか!それに人はいずれ変わるものなんですよ!?一途なのが珍しいくらいだ!」

喪黒「やれやれ…『あの時ミドリちゃんしかいませんから!』と言っていたのに残念ですねえ…気の毒ですが、貴方はもう彼女しか愛することはできません!」

推ヶ比「ヒッ…!?」

喪黒「貴方は一生、彼女を愛してあげるのです!」

喪黒「ドーーーーーーーーーン!!!」

推ヶ比「ミ、ミドリちゃあああああああああああん!!?」

喪黒に【ドーン】されてから数日…

~推ヶ比の働いていた会社~

課長「おいおい…推ヶ比はまた無断欠勤か?」

女性社員「佐浜くん、何か知らない?」

佐浜「いや…何度連絡しても電話に出ないんだ…」

課長「心配だね…佐浜君、推ヶ比君の家は知っているかい?」

佐浜「はい。知ってます。何度か訪ねたことはあるので」

課長「なら今日の帰りに、一緒に行ってみよう。何かあったのかもしれん」

佐浜「はい。わかりました」

推ヶ比は会社に出社しなくなっていた。
心配になった課長と佐浜は推ヶ比の家を訪ねることにした…

そして夜…

~推ヶ比宅付近~

佐浜「たしかこっちの筈…で………す!?」

課長「どうしたのかね佐浜く…ん!?」

佐浜「な、なんだコレ!?」

課長「ま、まさかここが推ヶ比君の家だと言うのかね?」

佐浜「え、ええ…その筈なんですが…」

2人が見たのは家一面にミドリちゃんの絵やポスターが貼られた奇抜な家だった…
まさかという表情をする2人に、近所に住む女性が話しかけてきた。

近所のおばちゃん「アンタこの家の人に用かい?気をつけた方が良いよ?この家の人、もう誰とも話そうとしないし、この前市役所の人が何かのお願いに行ったら大声で怒鳴り散らされた上に薙刀で追い回されたらしいのよ!」

佐浜「薙刀…まさか…!!」

課長「何か心当たりがあるのか?」

佐浜「…帰りましょう。課長。今の推ヶ比は危険です」

課長「どういうことだ!?」

佐浜「多分…今俺たちが対話を求めても、【狂戦士化したミドリちゃんになった推ヶ比】は聞く耳を持っていません…むしろ俺たちが殺されかねません!帰りましょう!」

課長「ミド…?なんだって?な、何のことだか解らんが、とりあえずそうしよう…!」

佐浜「(ミドリちゃんはかなり嫉妬深くて事あるごとに薙刀を使うんだ…!そして彼女がが薙刀を使うのは狂戦士と化した時だけ…!その時のミドリちゃんはどんな相手も見境なく斬り殺す【殺人鬼】なんだよ…なんで…なんでそうなってしまったんだよ推ヶ比…!)」

怖気づいた2人が帰るところを、自宅の2階から不気味に嗤いながら見ている【男】がいた…

推ヶ比「ヒヒ…ヒヒヒ………もう誰にモ、ミドリちゃンと僕の仲ヲ邪魔さセたりはしなイよ………!邪魔すルヤツは…皆………みーんな………斬り殺しテやルかラ………ヒヒ…ヒヒヒヒヒ………★」

そこには【ミドリちゃん】の衣装を纏い、髪型もミドリちゃんと同じ『姫カット』に揃えた推ヶ比が彼女の薙刀を構えながら立っていた。
だが、そこに純粋な愛情の目は無く、虚空に渦巻く何かを見つめるような暗い目をして不気味に嗤う男が1人いるだけだった…

彼の机は真っ二つになっていた…写真立ての立っていたところから…。
そして写真立ても、中に入ってた【コノハちゃん】の写真もろとも真っ二つになっていた…。二羽のオシドリを引き裂くよう真っ二つに………

喪黒「愛というものは、足りなくても満ち足りすぎても何らかの歪みが出てくるのですね…一途なものであっても、愛情というものは、結局のところ『ほどほどが一番』なのでしょうねえ…」

喪黒「あ、そうそう。【オシドリ夫婦】なんて言葉がありますが、実はオシドリの仲って実は5か月ほどしか続かないそうですよ?」

喪黒「ホーッホッホッホッホ…」

【終】