二次創作小説(新・総合)

打ち上げ ④ ( No.144 )
日時: 2020/11/19 22:33
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: LLmHEHg2)

 こうして、打ち上げパーティの片付けもつつがなく終了したその夜…。
 サクヤの私室にて、彼女と前田は話をしていました。おや、前田がどこか別の場所へ行こうとしているようですが…。何か事件でも発生したのでしょうか。



前田「そろそろ時間なので、僕はこれで」

サクヤ「はい。折角のお誘いなのですから、楽しんできてくださいませね」

前田「ありがとうございます!では、主君。いってきます!」



 サクヤがひらひらと手を振ったのと同時ににこっと笑顔になる前田。彼はそのままウキウキ気分で穴を通って本部まで去っていきました。
 それと入れ替わるように、穴から陰気な大男。大典太が私室へと現れました。彼は前田が嬉しそうに部屋を出て行ったことを不思議に思い、主に問いかけました。



大典太「主。前田はどこへ行ったんだ?随分と楽しそうだったが…」

サクヤ「ミミさんとニャミさんにパジャマパーティに誘われたそうです。年下の男の子なんて久しぶりですし、随分と彼女達張り切っておりましたよ?」

大典太「見た目は子供だがあいつも刀だ…。あの帽子を被った音の神と同じようなものだろう。……だが、前田は前田なりに楽しんでるんだな。ふふっ」

サクヤ「人の身だからこそ味わえることもあるというものですよ」



 そう返して、無意識に微笑んでいた大典太を見ます。彼、威圧的な顔をしているのに表情がとても優しいんですよね。普段滅多に笑わない彼の微笑みを見て、サクヤは目を少しだけ見開いたのでした。



サクヤ「大典太さん…。貴方、そんな風に笑うのですね。驚きました」

大典太「あんたが微笑むよりは珍しくないだろ…。どうせ俺は笑うのが似合わない、陰気でどんよりとした刀だよ…」

サクヤ「そこまでは言っていないのですが。……あ、そうです。大典太さんに少し試していただきたいことがございまして。すっかり忘れかけておりました」

大典太「……『試してほしい』こと?」



 ふとサクヤは何かを思い出したように両手をぱん、と1回叩き、大典太に試してほしいことがあると襖の向こうへと姿を消しました。
 不思議そうに襖を見続ける大典太をよそに、サクヤは2つの紙袋を持って襖から出てきました。



サクヤ「打ち上げ終了後、片付けの合間に異界の『本丸』とやらの調査を行っておりました。この紙袋に入っているものは、大典太さん用の『内番着』と『長襦袢』になります。サイズが合うか試していただきたいのです」

大典太「…………。あんた、まさかさっき宴の時に退室したのって…」

サクヤ「書類の片付けがてら、貴方と前田くんの服を取り寄せていたのですよ。ミミさんニャミさんに頼るのも手だったんですが、流石に貴方程身長が高いとサイズが合わなさそうだと判断したので…」



 そのままずい、と大典太に紙袋を突き出す彼女。一瞬固まった大典太でしたが、すぐに趣旨を理解しその紙袋を受け取りました。
 場所を入れ替わり、今度は大典太が紙袋の中身に着替える為襖の奥へ。―――閉める直前、襖の間から顔を覗かせて一言。



大典太「……開けないでくれよ」

サクヤ「開けませんよ」



 ぼそぼそとした声ではありましたが、彼が自分の意志を主張するようになったのは成長だと言えるでしょうね。
 大典太が襖を閉めそのまま数分待っていると、襖を静かに開ける音が。その向こうには、ジャージ姿になった大典太が立っていました。

 動きやすそうなネイビーのジャージを腰に巻き付け、両肩に白い花と波のような模様の入った黒いシャツを着ています。前髪は邪魔だったのか、中に入っていたヘアバンドでまとめているみたいですね。
 両目が見えたとはいえ陰気な雰囲気が全く払えていない大典太。これはもう生まれつきという事なのでしょうかね。

 じーっと自らを見つめるサクヤを不安そうに見る大典太。同じ姿勢をしばらく続けていた彼女は、小さく2回頷き言葉を発したのでした。



サクヤ「きつくはないですか?緩んでたりは…」

大典太「……不思議とサイズがぴったりだ。違和感もない」

サクヤ「それなら良かったです」

大典太「もう1つの方にも着替えたい。……少し待っててくれ」



 そう言った後、再度大典太は襖を閉め今度は長襦袢の方に着替え始めました。あ、勘違いする視聴者の方がいらっしゃる為先回りして言ってしまいますと、『軽装』ではないですよ。
 その間にサクヤは顎に手を当て大典太の服についての考察を始めました。



サクヤ「(個体差はあると思いますが、もしかしたらどの『刀剣男士』とやらも体格は同じなのでしょうか?ならば、前田くんのものも一緒に購入して正解だったという事ですね)」



 まぁ前田の分はミミニャミ辺りが張り切って用意しそうではありますが、彼結構可愛らしい顔立ちしてますんでね。女の子っぽくコーディネートされてしまってもおかしくはありません。
 そう考えると、サクヤの判断はある意味では間違っていなかったことになります。コネクトワールドならではの前田も見たかった気持ちも天の声にはございますが。
 
 そのまままた数分待っていると、再度襖を静かに開ける音が。向こうには、就寝用の着物に着替えた大典太の姿がありました。

 長襦袢は落ち着いた藍色をしており、大典太の黒い髪とマッチしています。足元には白い花のデザインが。桔梗の柄でしょうか。彼も髪を結う必要はないだろう、とハーフアップにしていた髪型を全部下ろしていますね。
 大典太はその長襦袢の裾を掌ですりすりと触っています。気に入ったんでしょうか。

 サクヤがじっと見つめて来るのは分かっていたので、今度はサクヤのいる部屋に移動し襖を閉める彼。そして、こう口にしたのでした。



大典太「……生地が良い、というかこれは。中々好きな触り心地だ…」

サクヤ「急いで通販で買ったので、材質を見ていなかったのですが…。少し触らせていただいても?」

大典太「構わない。……通販だったのか」

サクヤ「服屋さんに向かっている時間が無かったのですよ…。あ、通販といってもミミさんとニャミさんが良く利用しているお店だそうなので安心してくださいませ」

大典太「俺はそういった心配をしているんじゃないんだが…」



 大典太に許可を取り、彼女も長襦袢の裾を掌で触ってみます。どうやら急いでいたようで材質もなにも確認しないで購入したようで。……それでよくサイズ間違い起こしませんでしたね。
 長襦袢は絹のような滑らかな材質で、触り心地がとてもいい。確かに大典太が『好きだ』と言えるのも頷ける気がします。



大典太「それに…足元の花……。桔梗、か?とても好きな模様だ…」

サクヤ「ふふ、喜んでいただけて何よりです。こんなに喜んでいただけるなら、少し期日を送らせてゆっくり吟味するべきでしたね」



 口角が少し上がった大典太を見て、口元に手を添えてくすくすと笑うサクヤ。……あれれ~?感情を渡した彼女、何故か微笑んでいます。その表情を見た大典太は驚きました。まさか彼女がこんな顔をするなんて、と。
 しばらく固まっていると、不思議そうにサクヤが彼の顔を覗いてきました。その表情はいつも通り人形のように変わりません。



サクヤ「どうしたのですか?私の顔に何か付いてます?」

大典太「……いや、いや。何でもない…。気にしないでくれ」

サクヤ「そう言われると余計に気になるのですが…。まぁいいでしょう。問うても言ってくれなさそうですし」

大典太「…………」



 考えを見抜かれたくないのかふっと目を逸らす大典太。190cmの大男、中々可愛いところがあります。そんな彼をものともせず、彼女も襖の奥へ。どうやら自分の長襦袢に着替える模様。
 襖が閉まっている間に、大典太は押し入れから就寝用の布団を取り出し用意を始めます。机を片付け、刀を刀置き場に立てかけ…。2人分の布団を敷き終えたところで、サクヤが襖から出てきました。



サクヤ「およ、布団を敷いて下さったのですか?ありがとうございます」

大典太「あぁ。これくらい近侍なんだから当然だろう…。……あんたの着物は俺のように触り心地は良くないんだな」

サクヤ「私の着ているものは麻の材質ですからね。大典太さんに買ったものよりは材質が荒くて当然です」



 サクヤは青い法被のような着物ではなく、パステルブルーの長襦袢を着ていました。大典太が思わず裾を触ると、どうも自分のものよりも触り心地が悪い。
 訪ねてみると、彼女は『麻の材質だからじゃないか』と答えました。あ、これ自分のは適当で他人のはちゃんと見繕うタイプだ。サクヤが自分で『お洒落には無頓着』と言ったのが何となく理解できました。

 そんなことを言っている間にも夜は更けてきます。そろそろ寝ないと明日に響きますよ。



サクヤ「明日も朝から調査の仕事が入っていますし、そろそろ休みましょう。おやすみなさい、大典太さん」

大典太「……あぁ。おやすみ」



 各々布団に潜り、1人と1振は安らかな夢の世界へ旅立って行ったのでした……。

















 ―――の、ですが。









大典太「眠れない…」



 隣ですぅすぅ寝息を立てているサクヤとは対照的に、大典太は中々眠れずにいました。
 彼は先程彼女が微笑んだ顔が忘れられずにいました。ジンベエの商店で『自分はアクラルに感情を渡した』のにも関わらず、自分の長襦袢姿を気に入る姿を見て微笑んだ…。どうも、彼女のことが腑に落ちず眠りに付けなかったのです。

 そのまま、睡魔が来るまで彼は天井を見ながら少し考えることにしました。



大典太「(……主は、『感情を全て渡した』と言っていた。だが…先程主は微笑んだ。俺の見間違いでなければ、だが…。
     主は完全にあの朱雀の兄に感情を渡したのか。それとも…『主自体の新しい感情が生まれている』のか…)」



 目を閉じ、静かにそのことについて考えます。しかし……サクヤと再会してまだ日が浅い為、どう考えても答えを導き出すことは出来ませんでした。
 しかし、サクヤがあの時微笑んだのは事実。表情の無かった彼女に、『変化』が訪れているのは確実でした。



大典太「(……答えは未だ見つからない。だが…俺が今すべきことは……。近侍として、主を支えること、だ。それが『仮の主従関係』だったとしても。
     ―――俺なんかが『本来の契約』を求めることは出来ない。きっと俺も、この霊力で主を壊してしまう。……なら、仮のままでいい。俺が、主を支えなければ。今は……俺が『近侍』なのだから)」



 ……大典太も三日月同様、この大会でサクヤと行動したことにより気持ちに変化が起きていました。こんな置物である自分にも優しく接してくれたこと。そして頼ってくれたこと。その行動が、彼の気持ちを少しずつ変えていました。
 そしてまた、彼も思っていました。『自分の霊力でいつか彼女を壊してしまう』と。ならば『仮の近侍』でいい、と。奥底にある、お互いに言い出せない恐怖。今はまだ、サクヤも大典太もそれに向き合えずにいました。

 ―――しばらくぼうっと考えていると、ふと視界がとろんとふやけてきます。ああ、やっと睡魔が来てくれたのか。彼はぼんやりとした頭の中でそう考えていました。
 数刻後。眠りについた彼の口から、静かな吐息が聞こえてきたのは言うまでもありません。




 こうして、とある運営本部の6回目の大会は幕を閉じたのでした……。