二次創作小説(新・総合)
- ABT.ex『秋の夜長と花火と酒と』-1 ( No.150 )
- 日時: 2020/11/21 22:13
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: LLmHEHg2)
やって参りました2回目のABTExtra回。今回も豪華な方とのコラボをお送りする予定です。
もしかしたら、『あいつ』も酒持って現れそうな気配…?
------------------------
~運営本部 メインサーバ~
6回目の逃走中が終了し、一週間が経った頃の運営本部。
次回の逃走中の準備を進める……訳でもなく、サクヤはメインサーバで自分の仕事を進めていました。勿論彼女の刀である大典太、そして前田も一緒です。
手を動かす中、ふと彼女はこんなことを2振に問いかけてみることにしたのでした。
サクヤ「大典太さん、前田くん。この世界には慣れましたか?」
前田「はい。お陰様で。この世界もとても楽しいところだと思うことが出来ていますよ!」
大典太「……前田は前向きで羨ましいよ。俺は……。ぎこちないながらも、少しずつ馴染む努力はしている…気がする」
前田「『気がする』ではないのでは?大典太さん、以前より他人に触れるの怖がらなくなったではありませんか!小動物や小さい生き物に触ろうとしないのは依然ありますけど」
大典太「仕方ないだろう…。俺の霊力で殺してしまっては命が可哀想だ…」
サクヤ「大典太さんはしっかり霊力のコントロールも出来ていると私は思いますし、子犬や子猫を触っても何もないと思いますがねぇ、私は」
大典太「……買いかぶり過ぎだ。どうせ触れたら怪我をする…」
サクヤ「まぁ、同じような人間に関してそういう言葉を発さなくなったのは成長と言えるでしょうね。ふふ、なんだか子供の成長を見ているようです」
大典太「……こんな陰気でデカくて湿っぽい子供なんてどこにもいないと思うぞ」
前田「身長も大きいですしね!主君と並べば、大典太さんの方がお兄さんだと思われてしまうのでは?……あれ、実年齢的にも大典太さんの方がお兄さん…?」
サクヤ「ものの例えですよ」
そんな談笑を続けながらサクヤはカタカタと目の前の電子キーボードを叩きます。画面に映された世界の情景に、前田が首を傾げます。
様子が気になったのか大典太も前田が陣取っている逆から顔を覗かせ、映像をガン見。『これは何なのか』と前田が問うと、彼女は画像に触れて大きくさせながら説明を始めました。
サクヤ「コネクトワールドに『混ざったことによる異変』が起きていないか調査をしているのですよ。私も現地に足を運べればいいのですが、一応ここの組織の長を名乗っているからには『部下を上手く使え』とアシッドさんにお灸を据えられてしまいまして。
ですからこうして時々繋ぎ目がおかしくなっていないか様子を見るのです」
前田「成程です。娯楽の大会を運営するだけではなかったのですね!」
サクヤ「本来の運営本部の姿、ということでしょうかね。逃走中はその一貫で、コネクトワールドに我々組織を認識させる為に行っている娯楽といいますか…。ほら、認知度が上がれば協力者も増えて来るでしょう?」
大典太「……話が大きくなれば大きくなるほど、力を持つ協力者が増えると主は踏んでいるのか。確かにそれは理に適っていると思うが…」
前田「世界が混ぜられて、通常通りに生活出来ていない場所もありそうですもんね…」
サクヤ「はい。そのように困っている方々に支援物資を輸送したりするのも、我々の大事な仕事の1つなのですよ」
大典太「……ふふ。『人助け』か…。悪くない響きだ…」
そう呟いた大典太、ふととある考えが思い浮かびます。―――それは、行方不明の鬼丸と童子切についてでした。
サクヤの近侍として活動する傍ら、そういえば三日月とそういう話をしていましたもんね。あの日、鬼丸と刃を交えたことに今だ心残りが残っている様子。
大典太「……世界の調査、か。もしかしたら…鬼丸や童子切の居場所も…」
サクヤ「2振の行方が気になりますか?」
大典太「……蔵の中とはいえ、共に過ごした仲だからな…。気にならない訳ではない」
前田「天下五剣の皆さんは仲良しだったのですね!」
世界の調査を行っているのであれば、もしかしたら鬼丸や童子切の居場所も分かるかもしれない。大典太はそう考えていたのでした。
そうですよね。鬼丸はあんな言葉を放ったまま行方知れずですし、童子切は未だどこにいるか分かっていません。心配にもなりますよね。
眉尻を下げた大典太をサクヤが宥めていたその瞬間でした。
本部中に鳴り響く、爆発音が木霊したのは。
前田「な、何ですか?!」
サクヤ「音の方向から本部の中での爆発であることは間違いなさそうですが…。何か特別なことをするようなことは聞いていないのですがね」
大典太「……内部で敵襲が発生したのかもしれない。確認した方がいいぞ、主」
サクヤ「はい。戦闘が起きていた場合止めなくてはなりません。行きましょう」
運営本部、かなり防音に優れていた造りになっていたと記憶していたんですが…。それを通過する程大きな爆発音。いつぞやのロボットの怒鳴り声を思い出しますが、今はそれどころではありません。
もし彼らが危惧していた通り誰かの敵襲だった場合、早急に手を打たねば取り返しのつかないことになってしまいます。
摘める芽は早いうちに摘んでおいた方が得策。そう考えたサクヤは、2振を連れて爆発音のした場所まで行ってみることにしたのでした。
~運営本部 住居区 研究部屋付近~
大典太「……あの煙が爆発音の元凶か。戦闘によるものではないようだな…」
サクヤ「はい。火事…という訳でもなさそうです。煙の出所は……『研究部屋』ですね」
前田「『研究部屋』?」
サクヤ「技術者や魔法に優れている方々が、独自の研究を行えるようにと最近増設した部屋なのですが…。まさか……」
大典太「……主、何か思い当たることがあるのか?」
爆発音の元を辿ってやってきたのは住居区の個室が並ぶ廊下。そのうちの1つの部屋から煙が出ているようですね。爆発音の元凶はそこにありそうです。
逃走中の回数を重ねるごとに、優れた技術者や魔力に長けた者も多く本部に集ってきています。そんな彼らの研究を更に加速させる為に最近増設した……らしいのですが。技術のや魔法の進歩には犠牲がつきもの…という事なのでしょうか。
そんな様子で近付く1人と2振。それに合わせるかのように、煙と共に2つの人影が廊下に出てくるのが分かりました。
『げほっ…げほっ…。だから言ったじゃん!あの薬品混ぜたら爆発するって!!』
『出来るだけ爆発の少ないものを選んだつもりだったんだが…すまない…こほっ』
サクヤ「……えむぜさん?ヴィルさん?」
その人影を見てサクヤが真顔で名前を口にします。呼ばれた当の2人は彼女の方向を改めて見て声をかけたのでした。
今だ咳込んでいる2人が心配だったのか、すぐさま駆け寄って背中をさする前田。優しいですね。
前田「大丈夫ですか?」
MZD「あー。大丈夫大丈夫。変なガスとか吸ったわけじゃねーから。魔法の実験の副作用が大きくて…。爆発音でっかすぎた?……けほっ」
大典太「……でかいどころじゃない。本部中に鳴り響いていたぞ…」
ヴィル「そうだったのか、それはすまなかった」
サクヤ「また新しい魔法の開発ですか?……別に構いませんが、他人に怪我をさせるなんてことは止めてくださいね?」
ヴィル「いや、新しい魔法というか…。ほら、以前別の異世界から作者を導いたことがあっただろう。その時に使用したかけらの魔力を改良していたのだ」
どうやらボス2人、以前おろさんがコネクトワールドへと来た『異世界のかけら』の魔力を改良していたようで。確かに現在、異世界とコネクトワールドを繋ぐゲートは逃走中の大会関連にしか使っていません。というか悪用を防ぐ為、使うことが禁じられているんですよね。
確かにゲートの魔力は不完全。それを改良出来たら、悪用を防ぐルールも撤廃することが出来るかもしれません。が……。今だ試行錯誤の段階のようで。爆発音も煙も、実験の副作用によるものだと彼らは答えました。―――これでは前途多難ですね。
MZD「異世界から誰か連れてこられないかなって準備進めてて、やっと魔法を使う材料が揃ったから実験してみたんだよ。で、やってみたらこう。大量の煙は出るわ、異世界から何か引っ張ってこれた形跡もな『な……なななな、な、何ここ?!』―――ん?」
前田「煙が出ていた部屋の中から声がしますね」
『うわっ!なんだここ!けむりくさい!ソニア、どくかもしれないから吸うなよ!!』
『ラグナスさんも気を付けてくださいねっ!走馬燈にはまだ早い年齢です。わたくしはぴっちぴちのナウいヤングガールです!!人生をまだ成就しきれていないのですーー!!』
ヴィル「……ん?」
サクヤ「―――異世界から『物』ではなく『人』を手繰り寄せてしまった、とか…?」
大典太「中に人がいるのなら確認した方がいいだろうな…」
先程2人が出てきた部屋から3つの声色が。どうやら中に人がいるようですが…。まさか、失敗したと思っていた魔法が『中途半端に成功』してしまった…?
中にいる人物を確認する為、3人と2振はこっそりと研究部屋に侵入。そこには――――――。
サクヤ「…………」
MZD「…………」
大典太「…………」
『…………』
『お、オバケぇぇぇぇぇぇっ?!!!』
~運営本部 メインサーバ~
『すみませんすみません、天悪が多大なるご迷惑をおかけしてしまいまして……!!』
サクヤ「いえいえ、頭を上げてください!元々はこちらの落ち度ですので…」
研究部屋にいた3人をとりあえずメインサーバに連れて行き、話をすることにした一同。頭を下げているツインテールの金髪少女に、大人の姿だけど子供っぽい印象の勇者の青年。そして、彼に寄り添う『正に女王』のような少女。
謝り倒す彼女の声を聞きつけたのか、メインサーバに新たに2人の影が見えてきました。
クルーク「すみません、何かあったんです……あったみたいですね」
石丸「なんだねこれは?!またトラブルでも起きたのかい?!」
三日月『はっはっは。何やら大声が聞こえてくると思えば『とらぶる』か?何やらとんでもないことになっているようだなあ』
大典太「そんな呑気に語っていられる状況じゃない…」
『ぎゃああああああっ?!また来た?!何か来たっ?!』
『天悪さん、落ち着いてください!控えおろう!ちゃんと足ついてます!全員オバケじゃありません!』
『え……オバケじゃないの……?天悪遂にSAN値0からマイナスになってクトゥルフ神の元に行ったのかと……』
サクヤ「確かにコネクトワールドに外なる神は存在しますが、彼らではありません。落ち着いてください」
王女である少女とサクヤの宥めを受け、落ち着きを取り戻す金髪の女性。……ともかく、彼女達3人がボス2人の魔法の実験に巻き込まれて『異世界からやって来た』ことはほぼ確実になりましたね。
そう自覚したボス2人。疾風の如く頭を下げて詫びたのでした。
MZD「まさか成功するとは思ってなくて……本当にごめんっ!」
ヴィル「すぐに元の世界に戻せるよう魔法を再構築する。巻き込んですまなかった」
サクヤ「異世界のゲートの改良実験の不備でこちらに飛ばされてしまったのです…。世界の守護神として、私からもお詫び申し上げます」
大典太「……こちらの不手際に巻き込んでしまい、本当にすまない」
『い、いやいや!異世界トリップなんて天悪楽しそうだからいつかやってみたかったなー、なんて思ってたし!気にしなくていいので……と、とりあえず一斉に頭下げるのやめてもらっていいですか……?!』
お詫び合戦も終了し、3人に状況説明がてら自己紹介。あ、コネクトワールド側は大人の事情でカットです。
天悪「こ、こ、こんにちは……天悪………です。ここではない異世界を管理しています……。よ、よろ、よろしくお願いします……」
ラグナス(天)「こんにちはっ!おれは勇者、ラグナス・ビシャシ!よろしくなっ!」
ソニア(天)「はじめまして、サクヤさんにコネクトワールドのみなさん。わたくしはソニア・ネヴァーマインドと申します!夜露死苦お願いいたします!」
サクヤ「はい。よろしくお願いいたします。ですが驚きました。まさか今まで全く縁のなかった方の異世界と繋がるなんて…」
MZD「そうなんだよねー。前に渡したかけらの時はさ、作者が一回こっちに来てたパターンだから納得したワケ。でも、今回のはレアケ中のレアケかもしんないよ?」
ヴィル「不慮の事故による異世界の転送だからな…。全く縁のない世界と繋がった、ということも可能性としてはあり得そうではあるが」
天悪「えーと。皆さんの話を纏めますと……。つまり、天悪達はお二人の実験の事故に巻き込まれてこっちに来てしまった、と…」
MZD「うん、そゆこと。本当にごめんな?」
ラグナス(天)「いやいや、気にしてないぞ!あのけむりもどくじゃなかったしな!ソニアも元気いっぱいだぞ!」
ソニア(天)「異世界を渡るなんて祖国でも中々経験できませんからね!むっはー!ソニア、興奮しております!」
ヴィル「精神が強い者だらけで安心した、というかなんというか、だが…。帰還の魔法も構築に少し時間がかかるのだ。当日中には出来ると思うが、それまではこの世界に滞在してもらうことになる。申し訳ないが、それだけ了承願えるか?」
サクヤ「構築が出来るまで、この本部でお休みになってください。巻き込んでしまった責任もございますし、お申し付けいただければ我々がきっちり対応いたしますので」
天悪「い、いやっ!そこまでしていただかなくてもいいというか……何といいますか……まさか天悪みたいなやつがこんな世界でこんな扱い受けてしまうとは……い、いいんですか?」
大典太「……あんたは客人なんだ。甘えられることには甘えておけ…」
天悪「なんだか一気に上級貴族になった気分だよ……お腹痛い…緊張する……天悪コミュ障なのになぁ……ブツブツ……」
大典太「『こみゅしょう』とやらが何なのか分からんが…。……他人に中々話しかけづらいのは、俺も分かる」
あー。この世界の作者さん、どうやらコミュ障らしく。サクヤに丁重なおもてなしをされそうだと悟ったのか変に緊張しています。対して、彼女の世界からやってきたラグナスとソニアの2人はメインサーバの設備に興味津々。早速石丸くんと前田の説明を受けていたんだとか。
サクヤ「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。この本部は人外だらけですが、皆優しい方ばかりなので。……折角のご縁です。どうかよろしくお願いいたしますね」
天悪「はっ……はい……。天悪でよろしければ……」
すっと手を伸ばしたサクヤと、ぎこちなく握手を返す天悪。何だか今日は賑やかな日になりそうですね?
- ABT.ex『秋の夜長と花火と酒と』-2 ( No.151 )
- 日時: 2020/11/22 22:07
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: LLmHEHg2)
各々軽い会話を挟んでいた折、大典太が思い出したようにサクヤにこう告げます。
大典太「そういえば……主。あの店主が言っていた『花火大会』、確か今夜だったな」
サクヤ「おや。もうそういう時期でございましたか」
クルーク「花火大会…?秋なのにやるんですか?」
そういえばもうそんな時期でしたね!視聴者の皆様は覚えていらっしゃいますでしょうか。ほら、サクヤと大典太がジンベエの店にお出かけした時です。彼女達はそこで法被姿が似合う江戸っ子口調のキノピオと出会い、近々『花火大会があるから参加してほしい』と言われていたのでしたね。
思い出せない方は、今回の逃走中のABTを見てくださいね。
その言葉を聞いていたMZD。『あ』とこちらも思い出したように1枚のチラシを見せてきたのでした。
MZD「花火大会…もしかしてこれじゃね?今朝本部のポストに入ってたんだよねー」
ソニア(天)「どれどれ……。『オオエド河原 大花火大会』?この世界には『河原』というものがそんざいするのですか?」
クルーク「うん。えーっと…確かここから歩いて30分くらいするけど…。星空が凄く綺麗に見える場所なんだよ!うわぁ、そこで花火大会やるんだ……!」
前田「花火というものは見たことが無いので、僕も一度見てみたいです!」
MZD「そんじゃ行っちゃいます?天悪さん達も思い出作りに一緒に行こうよ」
天悪「えっ?!い、いや……その……。天悪達が混じってしまってご迷惑ではありませんか……?」
花火を見てみたいと興味津々のクルークと前田。彼らの気持ちを尊重するように『みんなで行くかー』と軽くMZDは言ってのけました。勿論、天悪達にも参加してもらうつもりで声をかけました。しかし…。
ここでコミュ障を発動してしまったのか、委縮して無意識に首を横に振ってしまう彼女。天の声もコミュ障に傾いているので分からんでもないですが、ここまでとは。
そんな彼女でしたが、大典太がジンベエの言葉を思い出しサクヤにこう提言します。
大典太「……あのキノコの店主、『運営本部の連中も連れて来い』と言っていたな」
サクヤ「およ、それは丁度いいですね。では天悪さん達も一緒に行きましょう」
ラグナス(天)「おれたちも行っていいのかー?!やったーー!!ソニア、ぜったいきれいだぞ花火!!」
ソニア(天)「ニッポンの花火…。わたくし、こういう祭りごとは中々お目にかかれないのでお誘いをいただけてマンモスうれピーです!天悪さんもご一緒させてもらいましょうよ!」
天悪「い、いやぁ……。でもぉ……天悪コミュ障ですし……。きっと皆さんにご迷惑をおかけしてしまうと思うんですよねぇ……?」
前田「そんなことはありません!『コミュ障』とやらが何なのか僕には分かりませんが、僕は天悪殿と一緒に祭りを回れたらとても楽しいと思います」
クルーク「そうだよ!天悪さん、ボク達と一緒に楽しみませんか?」
天悪「…………」
前田「……天悪殿?」
ラグナスとソニアさんが躍起になって行こう行こうとはしゃいでいる中、未だ首を縦に振る勇気が出ない天悪。そんな彼女を見かねたのか、『一緒に行こう』と両手を前田とクルークが優しく握ります。
その時でした。彼女の目つきが一瞬で変わったのは。
天悪「……ん????今天悪の好きなショタがいませんでした????」
サクヤ「へ?」
前田「あの、どうしたのです『確かにショタ。天悪の大好きなショタですねなんでこんなところにいるんですか?ここは天国ですか?あ、異世界だった。彼らが行くというのならば天悪も行かない選択肢はありませんね行きましょう!』…………」
石丸「……物凄い剣幕だったな」
三日月『はっはっは、彼女にはこんな特技があったんだなあ」
大典太「特技という問題じゃないだろ…。(前田に関しては刀の年齢は伏せておいた方がいいだろうな…)」
サクヤ「では…。天悪さん達3名もご一緒して、花火大会に参加するという事で……」
天悪「是非!!!是非!!!!!お願いします!!!!!」
ソニア(天)「天悪さん、ひかえおろうっ!」
ヴィル「使い方多分間違えているぞ」
天悪、少年少女が大好きな性質のようで。前田とクルークを認識した瞬間人が変わったかのように滑舌になりました。そのあまりの変わりっぷりに、事情を知っているラグナスとソニアさん以外は一瞬身体がすくんでしまいます。
何とか我に返ったサクヤが改めて彼女に『一緒に行くか』と問いかけると、先程とは打って変わって首がもげそうな程縦に振ったのでした。
では準備を始めようか、と解散しようとしたその時でした。
『その言葉を』
『ずっと待っていたよ!!』
MZD「そ、そ、その声は…!」
唐突にメインサーバに鳴り響く声。明らかに今まで話をしていた人物の声ではありません。
そのノリに乗っかるようにMZDが声を発した後、『彼女達』は姿を現したのでした。
ミミ「花火大会だって?!前もわたし達がいない間に海とか行ってたの知ってたんだからねー?コーディネートマスターであるこのわたし達の出番でしょ!」
ニャミ「秋の夜長に花火大会なんて超レアじゃん!だったら!そんなレアな機会にはお洒落しないとねー!というわけで色々持ってきたよー!」
サクヤ「風の噂には少しばかり激しすぎますね…」
MZD「溢れんばかりの着物の数…。お前らしわとかつけてねーよな?」
ミミ「なにをう!人一倍服に気を使ってるわたし達に向かって禁句だよ、それは!」
大量の暖かそうな着物を持ってやってきたのはミミとニャミ。どうやら以前彼らが海に行ったことも噂で聞きつけ、ずっと羨ましいと思ってスタンバイしていたそうなのです。……どこから盗み聞きしていたんでしょうか。
彼女達は早速天悪達の方を向いて、笑顔でこう話します。そしてヴィルヘルムが何故か青ざめています。大丈夫ですか?
ニャミ「天悪さん達の着物のコーディネートならあたし達に任せてよ!ふっふっふ、正にこの時の為に日頃から服屋さん漁って買いだめてたもんね~?」
天悪「えっ?あっ、いや、天悪そこまではやってもらわなくても…」
MZD「服屋に迷惑かけてオレのカードの残高すっからかんにするくらい買い込むからなお前ら。オレは金の成る木じゃないっての」
ミミ「んもう!そこまで大げさに使ってないよ!それはともかく!サクヤさん、折角だからわたし達もその花火大会に参加させてよ!天悪さん達をとびっきりお洒落にしちゃうから!」
ラグナス(天)「おおー?!おれもおしゃれさせてくれるのかー?!」
ソニア(天)「花火大会に参加させていただけるだけではなく、着物まで着付けていただけるのですか?!むっはー!ソニア興奮してきました!」
サクヤ「……まぁ。これも貴重な経験ですし…。折角なので試してみればいかがですか?」
天悪「そ、そこまで言うなら……。た、試してみようかな……」
ミミ「良かったよー!勿論ヴィルさんもおっしゃれ~にコーディネートしてあげるからね!ささ、それじゃフィッティングルームへいきましょ……」
天悪がぼそっと肯定の言葉を口にすると、彼女達は早速彼女とラグナス、ソニアさんを連れてメインサーバから一旦去ろうとしました。
しかし―――彼女達が振り向いた瞬間。MZDの左隣で魔力の循環を感じました。気配がした場所を少女達は見やります。しかし、誰もいない。
大典太「……逃げた、か?」
MZD「逃げたな」
彼が『逃げた』ことを確信したミミニャミ。顔つきが先程と変わるのに時間はかかりませんでした。そして、相方にこう一言。
ニャミ「ミミちゃん。あたしは先に3人をフィッティングルームに連れていくから…」
ミミ「分かってる。とっ捕まえて来るね」
少ない言葉で意志を通じ合った彼女達は、早速『獲物』を捕まえる為猛スピードでメインサーバを後にしたのでした。
その変わりようにはMZD以外の本部の面子もびっくりです。
天悪「……あれっ?あの白い肌の人…強いんじゃなかったの?」
MZD「うん。強いよ。片手間に世界ぶっ壊せるレベルには。でもねー。ファッションに関してのミミニャミに勝てたとこ一度も見たことないからなぁ」
サクヤ「お洒落に関しての彼女達は本気ですからね…。逆らわない方が賢明です」
大典太「(音の神や主をもってしても敵わない相手なのか、彼女達は…)」
ソニア(天)「思いの力とは素晴らしいものですね、ラグナスさん!」
ラグナス(天)「そうだな!」
そう談笑しつつ、ニャミは天悪側3人とクルークを連れてフィッティングルームへ。MZDはその『獲物』の様子を見にメインサーバから去ったのでした。
その場に残ったのはサクヤ、大典太、前田、石丸くん、三日月のみとなります。―――しばらくの静寂の後、ふと三日月がこう言葉を発します。
三日月『花火大会かぁ。俺も完璧に顕現できていたら花火を見て、酒でも嗜んだんだがなぁ』
石丸「三日月くんは刀のまま意識だけが浮上してきたような状態だからな…。診ることは出来ても、味わうことは出来ないのは辛いだろうな」
三日月『んー。確かに人の身でのみ出来ることが出来ないというのは、ちと寂しいな。だが、主がちゃんと現場まで持って行ってくれるだろう。美しい花火が見れないことはない。だから、そんなに心配はしていないぞ』
大典太「……酒、か」
三日月が発した『酒』という言葉に、ふと大典太はとある人物を思い浮かべます。開口一番自分に向かって『陰気だ』と発するも、どこか気が合ってついつい一緒に酒を嗜んでしまう、自分と同じくらい陰気なあの刀を。
思いつめた表情をしたと勘違いしたのか、前田が心配そうに彼の顔を覗きました。
前田「大典太さん、どうかされたのですか?思いつめたような表情をして…」
大典太「……ん?別に思いつめた表情はしていない。勘違いさせてすまない…」
三日月『おや。何か思い出すことでもあったのか?』
大典太「……あぁ。鬼丸のことを少し、な…」
サクヤ「鬼丸さん…ですか」
三日月『成程なぁ。鬼丸のことを思い出していたのか』
石丸「その…鬼丸、という刀とは仲が良かったのかい?大典太さんは」
鬼丸のことを話すと驚く一同。まぁ、彼と接点があることを知っているのはあの時蔵にいた人物くらいですものね。
石丸くんがそのことについて深く尋ねると、大典太は少し考えた後、ぽそりと小さい声で答えたのでした。
大典太「……お互い仲が良かった自覚はないが。顔を合わせる度『陰気だ』とは言われていたが…何だかんだ波長が合う奴だ。天下五剣の中で、一番長く一緒にいたこともあるからな…。その縁もあって、蔵にいた頃はよく一緒に酒を嗜んでいたんだ
端から見れば充分仲が良かったんだろう…」
三日月『龍神殿もよく2人の間に挟まれて晩酌の相手をさせられていたなぁ。はっはっは、あの時の龍神殿は幼子そのものだったから酒なんて飲めぬというのにな』
サクヤ「結構な頻度で結構な品種のお酒を間で嗅いでいましたからね…。お陰様で今はお酒にとても弱くなってしまいまして。3口飲んだらアウトです」
石丸「サクヤさんはお酒にとても弱いのか!いや、それでいいのだぞ。酒の飲み過ぎは身体に毒だからな!」
大典太「……ふふ。酒も適量であれば薬になるんだぞ」
三日月『呑兵衛が何を言うんだ。お前の『適量』は常識的には適量ではないぞ』
前田「大典太さんはお酒にお強いのですね…」
鬼丸国綱と大典太光世。三日月と童子切も含めて足利家にいたことは割と皆様ご存知かと思いますが、足利崩落後、この2振。一緒に別の武家へ預けられたことがあるのです。その他にもこの2振には『鬼丸拵』という拵があったり、妖物斬りという共通点があったりと、何かと共通点のある2振なんですよね。
そりゃあ波長が合っても何もおかしくはない。言葉は少なくとも、心は通じ合っていたのでしょうね。
サクヤが実はお酒に凄く弱いことがわかったり、逆に大典太が大酒飲みだったことが判明したりと色々話している中…。ふと、再び三日月がぽつりと言葉を漏らしました。
三日月『鬼丸もある意味真っ直ぐすぎる奴だからなぁ。もしかしたら噂を聞きつけて、花火を見に来るかもしれないぞ?』
大典太「……まさか。あんたは知らんだろうが、あの時対峙した鬼丸は既に正気じゃなかった。―――花火を見に来るくらいの精神だったら、俺達を襲ったりしないだろ…」
サクヤ「ですが大典太さん…。ごくそつさんやゼウス様の力で貴方達が顕現した件もあります。鬼丸さんがその時に『地上のどこか』にいた場合、彼も影響を受けていて何らおかしくありません。
まだ、希望は捨てない方がいいと思いますよ」
大典太「……そうであれば、それに越したことはないがな…」
随分と呑気な考え方だ、と大典太は呆れた顔をします。彼なりに心配もしているのでしょうが、やはり鬼丸が花火を見に来るとは到底思えませんでした。
しかし、自分や三日月、大包平や前田が顕現したのは『ゼウスがきっかけ』ということは明白。鬼丸にも影響が出ていておかしくないと語るサクヤ。
せめて正気でなくとも、無事であってほしいと心のそこで大典太は思ったのでした。
サクヤ「……さて!我々も話し込んでいる場合ではありません。お祭りに行くのであれば、それまでにやることを終わらせておきませんと、ね」
サクヤのその言葉で一同は解散。その場に残った彼女と刀剣2振は、仕事をいつも以上のスピードで終わらせたのでした。
- ABT.ex『秋の夜長と花火と酒と』-3 ( No.152 )
- 日時: 2020/11/23 22:17
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: okMbZHAS)
フィッティングルームへと連れられてきた3人ろクルークは、早速ニャミがお勧めする服を何着も試していました。
色とりどりの綺麗な着物の数々に圧倒される3人。まぁそりゃそうなるくらい日々買い漁ってますもんね貴方達。言われるがままに次々と着替える天悪でしたが、意外と楽しいようで。ソニアと共にどれにしようかと会話に花を咲かせています。
ニャミ「色々着て貰っちゃったけど、気に入ったのある?」
ソニア(天)「わたくしは、この袖にレースが付いたお着物が気に入っています!色もわたくし好みでぴったりだと思います!」
天悪「えーと……天悪は……。この黒いのかなぁ……。ほら、クトゥルフみたいで素敵な色だと思うし……。で、デザインがかわいい……!」
ニャミ「く、クトゥルフ?」
ラグナス(天)「天悪はクトゥルフがみえるらしいんだぞ!」
ニャミ「へ、へぇ!凄い特技を持っているんだね!……ラグナスくんはその金ぴかのが気に入ったの?」
ラグナス(天)「きんいろとくろでおれににあうと思ったんだぞ!」
ニャミ「ふふふ~。それ裏地がもこもこの奴だからあったかいよ~?―――そういえば、ミミちゃん遅いなぁ。捕獲に手こずってんのかな?」
各々着たい着物を選び、それに見合う帯をニャミが選びながら彼女はそんなことをぽつりと呟きました。そういやミミが逃げたであろう『獲物』を捕まえる為に別れてしばらく経ちましたが、中々この部屋にくる気配がありません。
MZDがその『獲物』の様子を見に行ってはいるでしょうが…。そういう意味で彼に助太刀は絶対にしないでしょうし、そろそろ捕まってる頃合いだとは思いますが。そのまま帯や小物を選ぶために移動したと同時に、『おまたせー!』と威勢の良い明るい声が部屋に響いたのでした。
ミミ「今回意外に手こずっちゃってさ。久しぶりだったからかな?」
MZD「フィッティングルームの攻防戦、負けたけど逃げた距離と時間最長記録じゃん。次回も頑張れヴィル」
ヴィル「私は記録を伸ばす為に彼女と追いかけっこをしている訳ではないのだぞ?!ハァ…。今回は上手く行くと思ったのだが」
ミミ「ふっふーん。ヴィルさんやジャックの逃げ場所なんて大体把握してるし。ならあとはどうとっ捕まえるかだけだよね!」
ニャミ「本部全体追いかけた感じかな~?ミミちゃん、あっちの更衣室開いてるよ。今のうちに閉じ込めちゃえ」
MZD「あ、逃げ出そうとしても安心安全オレ様の拘束魔法で遠くに行けない呪縛一時的にかけたから、逃げる心配はしなくていいぜ」
クルーク「ミミさんとニャミさんが弱点だったのかな…?」
MZD「いや、そういう訳じゃない。アイツはこの部屋が大嫌いなだけなのさ」
ソニア(天)「こんなにも素敵なお洋服が揃っていますのに、それを嫌うとは勿体ないですよヴィルヘルムさん!」
天悪「この世界のミミちゃんとニャミちゃん、何者なの…」
ミミ「さーさ、MZDのバックでの支援があるから思う存分試着できるねヴィルさん!更衣室行こう行こう!」
どこから彼女達のそんな力強い腕力が出て来るのか。相手は仮にも『世界を割る』魔力を持つ道化師です。その魔力を8割封じているとはいえ、それでも生命を片手間に滅ぼすことのできる存在です。本当にミミニャミは何者なんでしょうね。
笑顔のミミに引っ張られながら、彼は渋々更衣室まで歩いていったのでした…。そんなやりとりを横目で見ながら、3人に小物と帯を渡して『着替えよう!』と元気よく喋るニャミ。……もうそろそろ、祭りの足音が聞こえてくる頃でしょうかね?
―――彼女達が着替えを始めてから1時間後。様子を見にサクヤと大典太がフィッティングルームに入ってきました。
サクヤ「もう少しで出発時間にしようと思うのですが…。皆さん着替えは終わりましたか?」
大典太「……残りの連中は既に玄関で待っている。後はあんた達だけだ」
ニャミ「ありゃ?もうそんな時間?!流石にいっぱい試してもらっちゃいすぎたかな~。でも、こっちは準備万端だよ!見て見て~、皆似合ってるでしょ~」
ミミとMZD、ヴィルヘルムの姿は未だ見つかりませんでしたが、ニャミの近くには既に暖かそうな着物に着替えた3人の姿が。
天悪は黒が基調の、差し色に金が使われたラグナスともクトゥルフともとれる落ち着いた着物。ソニアさんは王女様らしく深緑の着物……ですが、振袖部分にレースがあしらわれています。もしかしなくても『モダン着物』と呼ばれるものでしょうか。ラグナスは天悪とは逆で、金が基本カラーで差し色に黒があしらわれています。金、といっても眩いばかりの感じではなく。彼によく似合っていました。
ニャミが自慢げに3人のコーディネートに鼻を鳴らします。そんな様子を見て、サクヤはうんうんと小さく頷いたのでした。
サクヤ「よくお似合いですよ。流石はニャミさんですね」
ニャミ「ふっふーん。ポップン界のファッションリーダーとも呼ばれたこともあるんだからね、当然だよ!そろそろミミちゃん達も戻ってくると思うんだけど…」
ミミ「お待たせー!じゃーん!どうかなぁ?どうかなぁ?」
MZD「試着中もヴィルが逃げ出そうとするので拘束のコントロール大変だったよ」
ヴィル「…………」
大典太「……よく印象を崩さない着物があったもんだな」
MZD「でっしょー?俺も光世と同じ感想抱いたんだよ。よくミミニャミこんなシックな着物持ってたなぁって。現物見たら諦めたのか大人しくなったよコイツ」
ミミ「ふっふーん!わたし達の情報網舐めないでよね!」
ヴィル「逃げても結局捕まるだけだからな…。まぁ、奇抜な格好をさせられないと分かったなら逃げる必要もあるまい」
ニャミ「えーっ?!そんな理由で逃げてたのー?!流石にヴィルさんにMZDみたいな衣装着せたりしないって!」
ヴィル「そんな甘言で誘惑し現代のチャラチャラとした服を試着させようとしてきたのはどこのどいつだ。それが嫌で私は逃げてるのだぞ…」
MZD「ストリートDJの格好にサングラス無理矢理付けられた時は笑った」
サクヤ「程々になさってくださいね?怒って世界壊されると面倒なのはこちらなので…」
着替え終わったのか、待っていた3人も更衣室から姿を見せてくれました。さぁ、これで準備万端ですね。このまま談笑していても、エントランスで待っている残りの面子に悪いと早速合流地点まで移動することにしたのでした。
~運営本部 エントランス~
石丸「おお、ようやく来たか!」
三日月『既に日は傾きかけているぞー。もうそろそろ祭りの気配も近付いてきたという感じだな』
前田「道順の確認もしっかりしましたし、準備万端です主君!」
サクヤ「ありがとうございます。―――そうですか、もうそんな時間なのですね」
天悪「ここに飛ばされてきてから時間が経つのがあっという間だよ…」
ソニア(天)「ふふふ、天悪さんがこの世界を自分なりに楽しんでいる証拠ですよ!」
エントランスでは既に石丸くんと前田が待っていました。前田が地図を見ながら祭りの会場である『オオエド河原』の場所を確認しています。刀で表情は分かりませんが、どことなく三日月の気分もウキウキです。
本部の外では既に夕焼けに差し掛かっており、もう少しで夜の来訪を告げそうになっていました。
サクヤ「遅くならないうちに会場に向かいましょう。遅くなってしまいますと、人がごった返してしまいますからね」
大典太「……この時期にやるのは珍しいと、あの店主も言っていたからな。物珍しさに来る客も多いだろう」
これは早く行った方が吉だ。誰もがそう思ったのか、ずんずんと進む足は軽やか。そんなことを思いながら、一同はオオエド河原へと出発したのでした……。
~オオエド河原~
ソニア(天)「……むっはー!!これがコネクトワールドの『河原』というものなのですね!とても美麗でソニア、感動しました!」
ラグナス(天)「みろよソニア!おさかながたくさんおよいでるぞ!!みんな元気そうだなー!」
天悪「……あったかい格好してきてよかったかも…。結構風が冷たい…」
前田「11月ですもん、当然ですよ。それにしてもお三方、着物とてもお似合いです!」
徒歩で30分程進んでいると、目の前に透明な川が見えてきます。その向こうには数件お店が立ち並んでいるのが見て取れました。この季節ですし、蜻蛉が河原の近くを飛んでいます。
人生で初めてそういうものを見たのか、ソニアさんは大はしゃぎ。ラグナスも透明な水の中に魚を見つけ、興奮しています。
サクヤが露店の方向を見つめると、既に何件か明かりがついています。どうやら既に営業を始めている店がいくつかあるようですね。もしかしたらジンベエが既に来ているかもしれません。
ミミ「こんなに大勢ぞろぞろ行動してて、はぐれて大変なことにならないかな?」
サクヤ「そうですねぇ。それでは、私とえむぜさんで2つのグループに分けて行動しましょうか。そちらの方が人員管理も行いやすいでしょうし…」
三日月『あい分かった。主、俺は露店を見て回りたいからウサギの娘と一緒に行動したいぞ』
石丸「…ということは、僕は神様と一緒に行動した方がいいのだな」
MZD「ん?サクヤ達と一緒に行動していいんだよ?」
大典太「……俺達は露店を回る前に少し用事があるんだ。積極的に回るならそっちについたほうがいいだろう」
天悪「……天悪達は前田くんと一緒のグループがいいかなぁ」
前田「僕は主君と一緒に行動しますので、主君のグループですね!」
クルーク「じゃあ僕もサクヤさんと一緒に行動しようっと」
軽く話をし、2つのグループに分かれた一同。こちらに手を振るミミニャミ達を見送った後、サクヤ達も逆側から露店へと歩いていくことにしたのでした。
―――しばらく歩いていると、美味しそうな食べ物の香りが広がってきます。人も増えてきたようですね。
そのまま歩みを止めずにいると……ふと、サクヤに声をかける人物が1人。
ジンベエ「おいおい!サクヤさん、大典太さん、こっちだこっち!通り過ぎようとするたあ人情味がないねえ!がっはっは!!」
サクヤ「すみません。人が多かったので見失ってしまうところでした」
大典太「……小さかったから見えなかった。すまんな」
声の方向に顔を覗かせると、白い鉢巻きに水色の法被を来たキノピオが威勢よくこちらに笑顔を見せていました。もしかしなくとも、サクヤと大典太があの時出会った『ジンベエ』ですね。
どうやら今回は焼きトウモロコシ屋をやっているようで、目の前の銀板にはおいしそうなトウモロコシがずらり。バター醤油でしょうか。食欲をそそる香りがふわっと広がります。
彼はサクヤと大典太の顔を見るなり、引き連れている全員をこちらに来るよう招きます。
天悪「キノピオがべらんめぇ口調で話してる……」
ジンベエ「おっ?見たことねえ顔だな?新入りか?」
サクヤ「違います。こちらの実験の不手際で巻き込まれてしまった方々なのです…。帰る方法を構築するのに少し時間がかかるそうなので、お祭りに誘った次第なのですよ」
ジンベエ「がっはっは!そうかいそうかい!いやあ、お前さん達と話をしていると愉快な話題が尽きないねえ!」
前田「この快活なキノコの亜人さんが、主君の話していた『古馴染み』なのですか?」
大典太「……主があの建物を建てる前、世話になっていた奴らしい。こんな俺にも甲斐甲斐しく世話を焼いてくれたから、相当なお人好しなのは俺でも分かる…」
クルーク「こんな小さな人でも頑張ってるんだなぁ…」
ジンベエ「おやおや?オイラ、こう見えて結構歳食ってんだぜ!がっはっは、見た目は子供っぽいが中身はおっさんってな!」
ジンベエ、サクヤと大典太がちゃんと来てくれたことに嬉しそうに笑顔を綻ばせています。その勢いのまま、彼は天悪に焼きたてのトウモロコシを渡したのでした。
ジンベエ「焼きたてだぜ。食ってけよ!」
天悪「えっ?あの、天悪お金ないんですけど……」
サクヤ「お金ならば私が払いますよ。ジンベエさん、あと2つください。いくらですか?」
ジンベエ「ん?1つ100円だが…。これはオイラの好意だ好意!オイラなりの挨拶代わりってもんだい!」
天悪「好意、って……。この世界の人ってお人好しだらけなの…?」
ラグナス(天)「せっかく『ごこうい』をもらってるんだからえんりょしちゃだめだぞ天悪!おれも食べたい!」
ソニア(天)「わたくしも……トウモロコシに『かぶりつく』という食事の仕方をしたことが無いので、やってみたいです!」
ジンベエが差し出した焼きトウモロコシの香りに釣られ、つい受け取ってしまいそうになる天悪。しかし、異世界からやってきた自分が受け取る資格はないと首をぶんぶん横に振ります。
すかさずサクヤが2つ追加注文し料金を払おうとしますが……。ジンベエはその小銭をサクヤに突き返したのでした。
サクヤ「しかし、ジンベエさんの材料費の元が…」
ジンベエ「いいんだよ!そっちの3人、次会えなくなるかもしれないんだろ?ならオイラのおごりだ!トウモロコシの2つや3つ、オイラの商才テクで売り捌いて元取ってやるからよ!
あ、忘れないうちに頼まれてたブツ渡すな。これな!」
大典太「なんなんだその妙な自信は…。……そんなさらっと渡される代物じゃないんだが」
ジンベエ「気にすんな!オイラはカラッとしたのが好きなんだよ!」
前田「商売の才に自信がおありなのですね!藤四郎兄弟にもそんな短刀がいますので、少し貴方には懐かしさを覚えてしまいます」
ジンベエ「お?そうなのかい?商才に優れた短刀、かぁ。いつかサクヤさんと大典太さんみたいに、オイラもあやかってみたいもんだねえ」
天悪「あっ…あの……。本当に、いいのですか…?」
ジンベエ「おう、いいぜ!美味いもんは美味いうちに食う!さあ、食ってくんな!」
ラグナス(天)「おー…!うまそう……!!いっただっきまーす!!」
ジンベエの言葉に折れた天悪、遂にトウモロコシを受け取ります。ラグナスとソニアさんもその後に焼きたてを貰い、ぱくりとかじりつきました。
絶妙に絡まったバター醤油の香ばしさと、トウモロコシの甘みがマッチして口の中で踊っています。言葉にするまでもなく、天悪は発していました。
天悪「美味しい…!」
ラグナス(天)「うまいなソニア!!これならいくらでも食えちゃうぜ!!」
ソニア(天)「かじりつくという行為はこんなに素晴らしい文化だったのですね…!トウモロコシも美味しいです!」
美味しい美味しいと食べ続けている3人を見守る中、ふと大典太は遠目で河原の方を見ます。ジンベエと話している間にすっかり月がお目見え。夜が更けてきましたね。
―――そんな中、彼はふっと『見覚えのある影』が遠目に映ったのを見逃しませんでした。それは、川の方に向かって歩いている『白い角を生やした白い髪の男』でした。記憶違いで無ければ彼は……。
大典太「……まさか」
サクヤ「どうしたのですか大典太さん。河原の方を見つめて…」
大典太「……鬼丸が、来ているかもしれない。もしかしたら俺の勘違いかもしれないんだが…。一度、確かめたい。一緒に行ってくれるか、主」
サクヤ「ええ。構いませんが…。しかし、彼女達はどうしましょうか」
前田「―――何かご事情がおありのようなので、天悪殿達のお見守りは僕にお任せください、主君!」
サクヤ「前田くん…」
鬼丸がここに来ているかもしれないから確かめたい、と河原に行くことを提言する大典太。しかし、MZD達と離れている以上天悪達だけを残していくわけにも、彼女達を自分達の用事を巻き込むわけにもいきません。
困り果てていた彼女にそっと手を差し伸べるように、前田は『天悪達は自分が見るから行ってほしい』と告げたのでした。
前田「ご友人との再会ならば、会える時に会わねば後悔すると思うのです。それに…河原の近くから粟田口の刀の気配がします。―――大典太さんが思っている『彼』、きっと来ています。大丈夫ですよ」
大典太「……そうか。あんた、同派の刀だったな…」
前田「はい!」
サクヤ「前田くんが言うなら大丈夫でしょう。さぁ、行きましょう大典太さん。彼の言う通り、今を逃してしまえば二度と会えなくなってしまうかもしれません」
大典太「……あぁ。礼を言う、前田」
前田「いえいえ。僕は主君と大典太さんにしたいことをしただけですので!」
そう言ってニコッと笑った彼を背に、白い角を生やした男を追いかけて2人は河原の方向へと走って行ったのでした。
- ABT.ex『秋の夜長と花火と酒と』-4 ( No.153 )
- 日時: 2020/11/24 22:38
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: okMbZHAS)
オオエド河原の川が流れる付近。露店から遠のいたその場所に、1人と1振は向かっていました。道中、同じ目的であろう石丸くんとばったり鉢合います。
石丸「サクヤさん!もしかしなくとも大典太さんの用事かい?」
サクヤ「石丸くん。もしかして貴方達も…」
三日月『そう急がずとも良いではないか。鬼丸はしばらく動かんだろう』
大典太「……あんたも姿が見えていたのか?」
三日月『いや?俺の目線だと人がまばらで何も見えんからな。しかし、鬼丸の気配がしてな。主に頼んで人の波から外れて貰ったのだよ』
三日月、刀の身でありながら鬼丸の気配を察して石丸くんに河原に向かう様頼んでいたのでした。流石は天下五剣。
彼の『急がなくても良い』という言葉にどっと焦りが出ていたサクヤと大典太は落ち着きを取り戻します。そして、改めて歩いて鬼丸がいるであろう場所まで向かって行ったのでした。
―――その道中。ふと石丸くんがこんなことを訪ねてきます。
石丸「そういや…僕達は君達の知っている『鬼丸国綱』をよく知らない。話を聞いても君達との関係性だけだな。この際だから聞いておきたいのだが…。鬼丸さんはどういった人物なのだ?」
三日月『おや。そういえば言ってなかったか。鬼丸はなぁ…。俺から見れば、主のように真っ直ぐすぎる奴だな。自分を『不吉な刀』と称し他人から遠ざかるが、実のところ面倒見もいいしさり気ない援護も出来る。真っ直ぐで感情移入しやすい方なのだよ』
サクヤ「私が覚えている鬼丸さんもそう変わりません」
石丸「そうなのか…。僕は本部からしか見ていないが、あまり表情の変わらない人だと思っていたぞ」
大典太「……寧ろ逆だ。開口一番『陰気だ』と言うならば、俺なんか放っておけばいいのに…あまり他人と話したがらないあいつが、俺には自分から話しかけてきたんだ。―――正直、その時は頭でも打ったのかと思ったよ。ふふ…」
石丸「頭を打ったって…。だが、君達の話を聞いていると分かる。鬼丸さんは良い刀なのだな!」
三日月『ああ。そうだとも。もし会話が出来たら様子を見るといいぞ。―――おや、そろそろ川が見えてきたな。あのぼんやりとした白いのが恐らく……」
サクヤ「鬼丸さん、でしょうね」
さらさらとした水の音が聞こえ、川が近づいてきたのだと悟った一同。そして、その近くでぼうっと突っ立っている白い影が1人。紛れもなく鬼丸だと思われます。
早速近付いて話しかけようと足を進めましたが―――。しばらくしたところでサクヤが足を止めるように言いました。
サクヤ「待ってください」
石丸「ん?どうしたのかね?」
サクヤ「向こうの人物―――。刀に手をかけています」
三日月『……そう、なのか』
大典太「……やはり、鬼丸はもう…」
白い影が刀に手をかけたと察し、守るように片手を広げるサクヤ。鬼丸はやはり邪気に侵されて正気を失ってしまったのだろうか…。思惑が頭の中をちらつき、暗い顔になる大典太と声色が下がる三日月。
しかし―――彼らのその『思い』は、すぐ払拭されることになるのです。
石丸「サクヤさん!見てくれ、影がこっちに…!」
サクヤ「刀から手を離している…?」
攻撃してこなさそうだと判断したサクヤは警戒を解きます。その『影』は、石丸くんの言う通りこちらに近付いてきていました。ザ、ザ、と草むらを踏みしめる足音だけが近づいてきます。
そして―――。彼らを視認したのか、その『人物』は落ち着いた声色でこう口にしました。
『―――久しいな。その姿では』
―――白い影。『鬼丸国綱』であろう男は、その赤い目で真っ直ぐとサクヤ達を見つめていたのでした。
大典太「……鬼丸」
鬼丸「陰気だな。この世界で顕現してもおまえは相変わらずだ」
大典太「……あんたもな」
三日月『おや、刀に手をかけたから一瞬どきりとしたが。そう心配することではなかったようだな。はっはっは』
鬼丸「三日月……そうか。おまえは新しい主を見つけたのか」
三日月『お陰様でなぁ。まぁ、俺はお前や大典太とは違い完璧に顕現できていないのでなぁ。刀の姿で失礼するぞ』
鬼丸は淡々とした口調で大典太と三日月に向かって話しかけていました。そんな彼の様子を見て、サクヤはふと違和感を抱きます。
……プレロマでつばぜり合いをした時。あの時に感じた『邪気』が、今の彼からは感じられないのです。もしかしてどこかで払拭したか、とも考えましたが…。彼を奪取した相手は強大。そんな簡単に手を離すわけがありません。
つい『どういうことでしょうか』と漏らす彼女に、三日月が気付いたのか彼にこう問いかけます。
三日月『ふーむ。普通に会話が出来たから忘れそうになっていたが、俺が聞いていた話と少し違うぞ。確か『鬼丸国綱は既に邪気に完全に侵されていて、味方と敵の区別がつかずに斬りかかる』という話だった気がしたが』
鬼丸「なんだそれは」
大典太「……そこまでは言ってない。だが、確かに今思えばあんたから邪気を感じない。どういうことだ、鬼丸」
サクヤ「覚えていたらでいいのですが、私と貴方は過去にプレロマで打ち合っています。その時は、誰の目から見ても『邪気』に侵されていた。正気ではなかった。
―――しかし、今の貴方の目は澄んでいる。まるで邪気が『最初から無かったか』のように…。一体何があったのですか?」
鬼丸「なんだ。そのことか。―――確かにあの時のおれは、邪気に完全に呑まれていた。だが…あんたと打ち合った瞬間、自我を取り戻した。それだけの話だ」
石丸「と、いうことは…。鬼丸さんが最初の一撃以降サクヤさん達を襲わなかったのは…。『自我を取り戻していたから』なのかい?」
鬼丸「その通りだ」
どうやら鬼丸、プレロマでの一戦で自我を取り戻していたようで。確かあの時サクヤが使っていた刀って…。確か大典太光世だったはずです。
視聴者の皆様も知っての通り、大典太光世は『病や怪異を退ける刀』として有名ですね。もしかしたら……。彼でつばぜり合いを行ったからこそ、鬼丸が正気を取り戻したのではないでしょうかね?
そんな考えを持ち意見を鬼丸に投げるサクヤ。大典太は少し目を見開いて驚きましたが、概ね鬼丸からは同意の声が帰って来たのでした。
鬼丸「その可能性が一番高いだろう。―――お陰で、今はこうしておまえ達と話が出来ている訳だが」
石丸「そうなのか…。いやしかし、正気に戻っていてよかったな2人共!これで彼が協力してくれれば百人力だ!」
大典太「……思考は正常だが、あんたを纏う霊気が澄んだものには俺には見えない。跳ね飛ばせたとしても、『一部』なんだろう?」
鬼丸「そう、だろうな。おれの頭の中はすっきりしていない。時折、人間が鬼に見えることもままある。―――完全に祓えていないことには同意する」
三日月『そうか…。それは残念だ。だが、こうして話が出来るまでに自我を取り戻していることが知れて安心したぞ』
石丸「……ところで鬼丸さん。今は何をしているんだい?天界で…やっぱり、あのメフィストに付き従っているのかい?」
鬼丸「違う。おれが邪気を注がれていたのはそんな半端物じゃない。―――今は、おれに邪気を注いだ神の連中から姿を消して逃げている」
サクヤ「およ、そうなのですか」
鬼丸「おれが正気を一時でも取り戻したと知れれば、あいつらは放っておかないだろう。気付かれる前に逃げただけだ」
大典太「……あんたが戻らないことに不信感を抱き、探す可能性もありそうだがな」
鬼丸「この河原に来たのは唯の気まぐれだ。風の噂で『花火』を見れると聞いて来ただけだ」
そう呟くと、目の前で真顔になっていた大典太に向かってずい、と酒瓶を突き出します。どうやら彼、花火を見ながら酒を嗜もうとしていた様子。逃げるにしては随分と呑気なものですが…。
そのことに気付いた大典太でしたが、小さく首を振ります。呑む気分じゃないのでしょうか。
大典太「……御猪口が無いだろ」
サクヤ「そっちの心配ですか」
大典太「ふふ…。大輪の花火を見ながらの酒は中々に好いものだ。主」
鬼丸「……ほら」
大典太は酒を飲む気分で無かったのではなく、単に酒を飲む器が無かったことから首を横に振っていたのでした。そっちか。
その言葉を聞くと、彼は『ほら』と紙コップを渡してきます。どうやらこれで飲めと言うらしいのですが…。風情が無い、と珍しく文句を垂れる大典太をよそに、鬼丸は無言でコップに酒を注いで彼に渡したのでした。
話の通り、鬼丸に対しては遠慮が無くなるようです。この刀。仲良しなんでしょうね。
未成年である石丸くんは当然拒否。サクヤにも注ごうとしましたが、『お酒に弱いので』とやんわり遠慮をしたのでした。
貰った紙コップにある酒を一気に呑み干す大典太。そんな彼を見て、鬼丸が渋い顔でこう口にしました。
鬼丸「高い酒だ。ちびちび呑め」
大典太「……酒は一気に飲むのが良いんだ。あんた、蔵で散々俺と飲んできていたんだから分かるだろう?」
鬼丸「分からんな。おまえは相変わらず呑兵衛だな…」
余りの遠慮のなさに、主であるサクヤも少しだけたじろぎます。そんな会話を続けていたその時でした。
ドン。彼らのいる場所から、大きく打ち上がった花火が見えたのでした。
三日月『おお。凄く良く見えるな。ここは『穴場』とやらか?』
石丸「この土地をよく知らないから分からないが…。これまで綺麗に良く見えるとはな。知っていたら皆を連れてきたのに」
三日月『はっはっは。そうであれば鬼丸が逃げていたかもしれん。……皆で見るのはまたのお楽しみだな、主』
各々、次々と打ち上がる綺麗な花火を堪能します。
―――そんな中、酒をちびちび飲んでいた鬼丸がサクヤと大典太に向かってこう切り出してきました。
鬼丸「おまえ達に言っておきたいことがある」
サクヤ「はい、何でしょうか?」
鬼丸「俺の理性が残っている間は、あんたと大典太、三日月に力を貸す。もし会えたらそう言いたかった」
大典太「……そうか」
なんと、鬼丸の方から『サクヤと天下五剣に協力する』ことを約束してくれましたよ?!話しているうちに情でも移ったんでしょうかね。
それならば、とサクヤは切り返します。
サクヤ「ならば、運営本部に来ませんか?もしかしたら鬼丸さんの邪気を完全に祓える方法も見つかるかもしれませんし…。三日月さんのように、新たな主を見つけられるかもしれません」
大典太「……いつ見つかるか分からん流浪の旅を続けるならば、事情を知ってる俺達の近くにいた方がいいと、俺も思う。無いとは思うが、道中折れた状態であんたと再会したくないしな…」
サクヤは『運営本部に身を置いて、邪気を取り払おう』と提案してきたのでした。確かに本部にはそういう技術や魔法に詳しい人物が存在しています。彼らの力を借りれれば、鬼丸の邪気も祓えるかもしれません。
しかし…。鬼丸はその提案に首を縦に振ることはありませんでした。
大典太「……何故だ。あぁ、そうか。やはり俺なんかの説得では…」
鬼丸「違う。すぐに陰気になるな大典太。おまえも分かっているだろ。おれがこうして理性を保っていられるのは『一時的なもの』だ。いつまた理性が邪気に覆われておまえ達を襲うか分からない。
―――被害を出さない為にも、おれは『運営本部』とやらには行けない。皆が皆、おれに抵抗できるわけじゃないんだろ。だったら…おれは『今は』そっちにいない方がいい」
大典太「そう、か」
サクヤ「……分かりました。余計な提案をして申し訳ございません。鬼丸さんがそうお考えなのでしたら…私は貴方の考えを尊重します」
鬼丸が来てくれないことに少し残念そうに目尻を下げた大典太でしたが、そんな彼を労わるかのように鬼丸は言葉を続けます。
鬼丸「……だが。今日おまえ達と話が出来て良かった。まだ、しばらくは理性が保ってられそうだからな」
大典太「……俺達との出会いが、あんたを支える糧になるのか?」
サクヤ「鬼丸国綱は『感情移入しやすい刀』…。今日の出会いも、理性を保つ柱と彼はしているのでしょうね」
大典太「……ふふ。鬼丸らしい」
鬼丸「なにがおかしい」
大典太「別に何もない。……あんたらしい理性の保ち方だと、思ってな」
サクヤ達との思い出が彼の理性を保つ柱となる…。自分から他人を遠ざける癖に、天下五剣の中で一番感情移入しやすい彼だからこそのやり方だと、大典太はくすくす笑ったのでした。その行動にむっと眉を顰める鬼丸でしたが、悪意はないと分かったのかすぐに呆れたような顔をしたのでした。
会話を聞いていた石丸くんと三日月も、鬼丸の言葉に続くように言葉を発します。
三日月『鬼丸はそういう選択をしたか。まぁ、こちらでもお前の邪気を取り除ける方法を探してみる。―――200年。長すぎる間、俺達はバラバラだった。この世界で……もう一度一緒に足を揃えられるのならば。その可能性があるのならば。
―――俺は、その可能性に賭けたい。そう思っている』
石丸「うむ。絶対に見つかるさ!そして、天下五剣が全て揃う日も、絶対にくる。僕はそう信じているからな!」
サクヤ「だ、そうですよ皆さん?」
大典太「……あぁ」
三日月の言葉に賛同するように盛り上がる2人と1振。そんな彼女達の姿を見て、鬼丸は呆れたように『お人好し共め』と口にしたのでした。
そんな彼の反応にすぐさま三日月が返します。
三日月『どの口が言うか。天下五剣で一番感情に流されやすい刀だろうお前は。自分から突き放しておきながらさり気なく協力するなんて芸当、お前にしか出来ないぞ鬼丸』
鬼丸「勝手に言っていろ。……おれが『不吉な刀』なのは変わらないんだからな」
大典太「……だが。いつか数珠丸と童子切も揃って…。こうしてまた穏やかに時を過ごしたいものだな」
『いつか五振でまた、穏やかに暮らしたい』。そんな願いを持った彼らを見守るように、どん、どんと花火は天高く花開いたのでした。
- ABT.ex『秋の夜長と花火と酒と』-5 ( No.154 )
- 日時: 2020/11/25 22:25
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: okMbZHAS)
打ちあがっていた花火も次第に少なくなり、長い夜を告げる静寂がサクヤ達に訪れます。
そろそろ元の場所に戻らねば、他の面子を心配させてしまう…。そう思った一同は、名残惜しいですが鬼丸と別れることにしました。
彼もそれを承諾し、一同とは逆の道を歩き出そうとしたその時でした。すっと大典太が彼の酒を持っている左手を掴み、そこから酒瓶を奪い取ってしまいます。……飲み足りないのでしょうか?
鬼丸「……おい。何をする」
大典太「……この酒はあんたが完全に正気を取り戻した時に共に飲みたい。だから…それまで俺が預かっておくことにした。高い酒なんだろ?」
サクヤ「大典太さんが単に飲みたいわけではないんですよね?」
大典太「……自分で買った酒でもないのに1人では飲まないさ…。ちゃんと、然るべき時が来るまで仕舞っておく。俺は…あんたがその妙な霊気を祓ってくれることを信じてるからな…」
三日月『おやおや。そう言われてしまえば何も言い返せないなあ鬼丸。では、その時俺も顕現していれば共に酒を頂こうか』
鬼丸「……はぁ」
なんと大典太、鬼丸が纏う邪気を祓うことを信じ彼から酒瓶を取り上げたのでした。『元に戻ったら、また共に酒を飲みたい』そんな願いを口にしながら。
三日月も大典太に乗るような台詞を発し、鬼丸はしかめっ面。しばらく無言のまま大典太を見ていましたが、諦めたのかため息をついて『分かった、おまえに預ける』と口にしたのでした。
サクヤ「鬼丸さん。本日は貴方と話せてよかったです。―――次に相まみえる時も、こうして話が出来ることを祈っています」
鬼丸「次、がいつになるかはわからんがな。理性が途絶えぬよう、こっちもこっちで何とかするさ」
大典太「……あぁ。そうしてくれ。あんたと手合せ以外で刃を交えるなんてことはしたくないからな…」
三日月『それではな、鬼丸。お前も何とか達者でな』
石丸「いつか本部に顔を出せるようになったら、僕の友人も紹介しよう!皆いい人達ばかりだからな!」
鬼丸「……おまえ達も、達者でな」
そう各々口にし、鬼丸は河原の更に向こうへ。サクヤ達は一緒に来た本部の面子がいる露店へ。それぞれ戻っていったのでした。
~オオエド河原 露店付近~
露店付近まで戻ってくると、こちらの姿を認識したのかミミとニャミが大きく手を振っているのが見て取れました。それぞれ別れていた人達も露店での楽しみを終え、合流したようですね。
ミミ「もーっ!みんな何してたのー?!折角一緒に花火見れるチャンスだったのにー!」
ニャミ「花火が始まる前に天悪さん達と合流できたのは良かったけど、サクヤさん達探しても探してもいないんだもん。まぁ…結構いい場所で花火は見れたから結果オーライだけどね!」
天悪「花火……。凄く、綺麗だったな……。こんな秋の夜長に見れるのはき、奇跡、なんだったよね……?」
前田「大きな花火が沢山上がりましたね天悪さん!……それにしても少し抱きしめる力が強いのでは…」
サクヤ「気に入られたのでしょう。私達も花火を楽しんでまいりましたのでご心配には及びません。こちらも中々穴場な場所で花火を楽しんだのですよ」
MZD「ふーん?……そっちも結構満足気な顔してんじゃん?目的果たせた的な」
大典太「……お陰様でな」
ラグナス(天)「きれいだったぞ!どーんって!どーんって!すごかったぞ!!」
ソニア(天)「花火は我が祖国でも打ち上っていたのですが、同じくらい綺麗な夜空でした…!とても感動しましたよ!」
一緒に見たかった、とサクヤに言い寄るうさぎと猫を何とか宥め、各々花火の感想を言い合います。露店の方を見てみると、既に片付けに入っており、祭りの終わりを告げていました。
天悪は前田のことを気に入ったのか、抱き着いて離れません。ちょっと前田が苦しそう。大丈夫なんですかね?
前田「僕達は刀剣なのでこの程度では折れませんが…。流石に痛くなってきました…」
天悪「はっ!い、痛い……?!ご、ごめんなさい……ショタ好きの血が疼いて力を込めすぎてしまった……」
クルーク「前田くんに抱き着く前はボクに張り付いて離れなかったもんね…あはは…」
天悪「だって!だって!他の世界のクルークとは似ても似つかぬ存在なんだもん!嫌味なことあんまりいわないし!多分アミティ達の前では言うと思うけど!なんかそれがギャップで可愛いんだもん!」
クルーク「そ、そっか…」
MZD「こいつは自分をちゃんと受け入れてくれる存在がいれば素直になれただけだどねー。―――さーて。花火大会も終わったし、そろそろ本部に戻って天悪達が帰る魔法を構築しないとな」
ヴィル「そのこと、なのだが…。1つ、伝えなければならないことがあってな」
サクヤ「どうしたのですか?随分としまりが悪い顔をしていますが…」
夜がやってきたということは、天悪達ともお別れの時間。楽しい時というものは過ぎ去るのがあっという間です。離れたくないのか、その言葉を聞いた天悪は無言で前田に再度抱き着きます。……連れて帰っちゃ駄目ですからね?
そんな中、ヴィルヘルムがそのことについて言わなければならないことがある、と苦虫を嚙み潰したような顔で告げます。何があったのでしょうか。問いかけると、彼は言葉を選んだ後……こう告げたのでした。
ヴィル「実は…。偶然にも成功してしまったあの魔法の構築。元の世界に戻るとなると少しやり方が変わるのがわかってな。確実に今日中に間に合わない。徹夜でやって、最短で早朝だ」
サクヤ「……つまり、天悪さん達が元の世界に戻れるのは最短でも『明日』ということになりそうなのですかね。ふむ、これは一晩本部に泊まっていただくということになりそうですね」
天悪「と、とま……!そ、そんな!寝床まで確保してもらわなくていいですよ……。天悪達どこか宿見つけて泊まります……」
大典太「……その宿に払う金はあるのか」
天悪「ナイデス」
大典太「……気にするな。短期間だが主の近侍を務めて、本部の状況は大体把握している。あんた達を泊める余裕はある。……それに、あんた達をこちらの世界に呼んでしまった俺達にも責任はあるからな…」
クルーク「そうだよ!どこかで泊めてもらうなんて寂しいこと言わないで、本部に泊まっていきなよ!」
どうやら魔法の構築が徹夜でやっても『最短で早朝』との見解をヴィルヘルムは出したようで。天悪達は確実に本部で一晩過ごすことになりますね。しかし、そこまで世話になるわけにはいかないと首を横に振る天悪。
大典太はそんな彼女に優しく『本部に部屋を開ける余裕はあるから大丈夫だ』と言ったのでした。本部に泊まれると知ったラグナスは大はしゃぎ。
ラグナス(天)「お泊まり…。お泊まりかー?!やったぞソニア!ベッドふっかふかかなー?!」
ミミ「お客様用のお部屋はベッドふっかふかだから安心しなさい!それに、丁度今日アフパ扱いでまたパジャマパーティしようと思ってたんだよねー!天悪さん達も一緒にどう?」
ソニア(天)「パジャマパーティ…ですか?面白そうですね!どういう催し物なのですか?」
ニャミ「みんな寝間着みたいな緩い服を着て、楽しい話で眠くなるまで喋るんだよ!楽しいからおいでよ!」
天悪「えっ、えっ、いいんですか……?」
MZD「いいもなにも、前田も参加するつもりみたいだけど?」
前田「はい。前回参加してみて楽しかったので、今日もお邪魔する予定です!」
サクヤ「随分と気に入られたのですね」
天悪「前田くんが参加するなら……天悪も参加しようかな……」
石丸「切り替えが早いな?!」
三日月『はっはっは。随分と前田を気に入っていたようだからなあ。このままでは持ち帰ってしまうかもしれないなあ」
ソニア(天)「流石にそこまでになった場合わたくし達が全力で止めますのでご安心ください!」
本部に戻ったらパジャマパーティだねー、と呑気に喋っている折、ニャミがニヤリと口角を上げてミミに提言。顔が悪どいですよ。
彼女の持っている物を見たミミもニャミと同じ顔。流石にMZDが冷静にツッコミに入ります。
ニャミ「パジャマパーティの前に…あたし達にはやることがあるでしょー?」
ミミ「お?お?ニャミちゃんその懐に持っている物は~?カ~メ~ラ~?」
ニャミ「イエスカメラー!しかもデジタルで一眼レフのやつなんだよー!」
MZD「マスコットにあるまじき悪どい顔やめなさーい」
ミミ「ぶーぶー!わたし達そんな顔してないもーん!折角みんなで河原に来たんだし、記念撮影しようよ!」
ニャミ「ふっふっふー。色々リュックに詰め込んできて正解だったよねー。大事なところで役に立つし!」
ヴィル「収納の必要があるならば私に声をかければいいものを…」
ニャミ「ヴィルさん頼るのは大掛かりなものだけだよ!ちょっとした運べるものに関して圧縮させるわけにはいかないし。
さぁさぁスタンドもあるし、みんなで集まってとりましょー!」
そう言ってリュックから取り出した高性能カメラをみんなに見せびらかし、『記念撮影』をしようと一言。写りたくないのか天悪が逃げようとするも、すぐにラグナスとソニアさんに取り押さえられ前田の隣まで連行されました。
……写る必要はないと思っていたのは天悪ではなかったようで。ニャミにカメラを渡すように小さく声をかける人物もいました。
大典太「……撮る奴がいないだろう。俺は写らなくてもいいからその機械を寄越してくれないか?」
ニャミ「だーめ!セルフタイマー機能もしっかりついている高性能の奴なんだから大典太さんもサクヤさんと一緒に撮る!はい、そっち行って!」
大典太「…………」
サクヤ「私の後ろであれば身長に隠れる方はいらっしゃいませんし、一緒に写りませんか?」
大典太が自分で撮ると言い出すも、ニャミが『セルフタイマー付きだから問題ない』とその言葉を一蹴。サクヤの元まで引っ張ってその場に立つよう指示しました。
彼が写真収まりのいい場所に立ったと同時に、ニャミがセルフタイマーを起動。10秒後にパシャリ、ですね。その間に彼女も急いでミミの隣へ。
そして―――。
『せーのっ
ラブ & ピース !!』
パシャリ。静寂な夜の河原に、明るい撮影音が木霊したのでした…。
ミミ「ニャミちゃん、どう?上手く撮れてる?」
ニャミ「うんうん、もうばっちり!みんないい顔してるしてる!」
ミミ「どれどれ……。う~~~ん、いいじゃ~~~ん!さっすが最新型デジタル一眼レフ!!MZDにおねだりして買ってもらった甲斐があったよ!」
MZD「それ結構凄い値段したもんなー。お前らオレに対しては容赦ないもん」
ニャミ「えーっ。長年のよしみでしょー。ということで、そのよしみでこのデータすぐ写真にしてよ!神パワーならちょちょいのちょいでしょ?」
ヴィル「MZDの神の力をそんなことに使う人間は君達くらいのものだぞ…」
ミミ「便利な力は便利に使う。長年仲良しだからこう出来てるんだよねー!」
MZD「あのねぇ。神パワーはお前らの便利なお手伝いさんじゃないんですけどー?まぁ、オレもどんな感じに写真出来るか見たかったしいいけど」
そう言ってニャミからカメラを受け取ったMZD。そこに優しく息を吹きかけると、カメラがニャミの元に瞬間移動したと同時に、今いる人数分の写真が彼の両手の上にありました。
MZDはその写真を写った人数分、1人1人に渡していきます。
天悪「ほらやっぱり天悪変な顔してる……駄目だ…浮いてる…やっぱり写らないほうが良かったんだよ……!」
ソニア(天)「そんなことはありませんよ天悪さん!いい笑顔ではないですか!」
ラグナス(天)「そうだぞ!天悪もえがおだし、おれたちもえがお!かえったら大切にしないとな!」
石丸「おお、中々に写りがいいものだな!三日月くんもクルークくんもしっかり写っているぞ」
クルーク「良かった、目を瞑っちゃった瞬間じゃなくて…」
三日月『どれどれ。うむ、中々良いなものだなあ。これでまた1つ、俺にも『楽しい思い出』が増えたというものだな』
ヴィルヘルムと大典太にも写真を渡し、残りはサクヤに渡すだけ。サクヤも受け取ろうと手を差し伸べた、その時でした。
MZD「―――あっ」
サクヤ「およ」
ビュン。夜風が2人の間を通り過ぎます。タイミング悪く写真から双方手を離してしまっていた為、風に煽られ写真はどこかへと飛んで行ってしまいました。
しかし、MZDの手元に残る写真はありません。彼は申し訳なさそうにサクヤにこう告げます。
MZD「ごめん。風に飛ばされちゃった」
サクヤ「いいえ、気にしていないですよ。思い出は心の中に仕舞ってありますから」
大典太「……主。俺のを部屋に飾ればいい」
サクヤ「しかし…。大典太さんはそれでいいのですか?」
大典太「構わない。……思い出は、みんなで共有したいからな」
サクヤ「…………。ふふ、そうですね」
大典太の言葉にどこか嬉しさを感じながらも、夜も更けた為もう戻ろうと提言。みんなも頷き、静かな夜の中を一同は帰路についたのでした。
紙切れ一枚。ゆらりゆらりと風に乗る。
揺蕩う空はまるで鳥のようで。ひらひらと舞う様はまるで天使のようで。
闇の中を風に吹かれ、紙切れは『とある男』のそばの草むらにゆっくりと落ちていった。
男は『それ』を拾い―――。
『……陰気なりに馴染もうとしてるじゃないか』
男は写真を懐に丁寧に仕舞いながら、夜の闇の中へと消えていったのだとか。
- ABT.ex『秋の夜長と花火と酒と』-6 ( No.155 )
- 日時: 2020/11/26 22:07
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: okMbZHAS)
賑やかに過ごしていた夜も明け……。運営本部に、朝日が差し込んできました。
来客用のふかふかとしたベッドの上で目を覚ます天悪。ちなみに1人一部屋。ソニアさんとラグナスは別の部屋でぐっすりと眠っています。
部屋まで用意してもらったのに、呑気に寝ているわけにはいかない。すぐに彼女は自分で畳んでいた私服に着替え、部屋を後にしキッチンまで向かうのでした。
~運営本部 住居区 キッチン~
天悪「お、おはようございます……」
ヴィル「あぁ、おはよう。昨夜はよく眠れたか?」
天悪「その節はどうも……。お陰様でぐっすり眠れました」
ヴィル「そうか、それならば良かった。先程サクヤと近侍の刀達が揃って朝食を取りに来た。彼女に会いたかったのならばすれ違ったな。
……さて、立ち話もなんだ。朝食、食べていきなさい」
天悪「えっ?い、いえ!そこまでご迷惑をおかけするわけには……!」
ラグナス(天)「んー?どうした天悪ー?なにぼうっとして入り口ちかくで立ち止まってる……おおっ、おおお?!うまそうなにおいがするぞ!!」
ヴィル「あぁ。貴殿らも起きたか、おはよう。すぐに朝食を用意するからそこに座って待っていてくれ」
ソニア(天)「寝床を確保していただけただけでなく、朝食までいただけるのですか?!ワオ!それはとてもファンタスティックですね!」
ラグナス(天)「なーっ!天悪、えんりょしないでたべていこうよ!」
ヴィル「人の好意には甘えておくものだぞ。―――最も、私は人ではないがな」
天悪「ここはホテルかなんかなのかな……?」
そんな言葉を漏らした天悪、ソニアさんとラグナスに連れられ木の香りがほんのりするテーブルと椅子がある場所へ。ちなみにどうやらこれ、最近DIYに嵌りだしたむらびとからいただいた物であるそうで。
そのまま縮こまりながら待っていると、ヴィルヘルムがすぐに出来立てのフレンチトーストと、取り分けたサラダ、温かい野菜スープを3人分彼女達のテーブルに置いたのでした。そのどれもから美味しそうな香りが漂ってきます。
『いただきます』と各々口にし、恐る恐る彼女はスープの器とスプーンに手を伸ばします。小さく掬い、そのまま口の中へ。スープはほんのりと優しいコンソメ風味で、野菜から出汁を取ったのでしょうか。コンソメと野菜の風味が混じっていて絶妙な旨味を引き立てています。また、中に入っている野菜もとろとろで美味しい。震えていた手も止まり、彼女は黙々と食事にありついていました。
ラグナス(天)「フレンチトーストうまい!おまえ、こんなにりょうりが上手だったんだな!」
ソニア(天)「サラダもドレッシングが絶妙に絡み合ってとても美味です…。まるで王宮の食事のようです…!どのようなシェフから腕を学んだのですか?」
ヴィル「長年趣味として研究を続けていたからこその結果だ。誰かに知識を学んだ、という訳ではない。最初は全て本から知識を得ていたから……。『先生』と呼べるのは書物なのかもしれないな」
ソニア(天)「書物以外では全て独学で学んでらしたのですね…。もしわたくしの世界にお招きできるのならば、ノヴォセリック王国の専属シェフにしましたのに」
ヴィル「それは勘弁してくれ…。私のような得体のしれない者が専属シェフなど、周りから警戒されてしまうぞ」
ラグナス(天)「それならもんだいないぞ!おれもいっしょにせっとくするからな!なー、ソニア!」
ソニア(天)「あらあら、ラグナスさん!お口に食べかすが残っています!め、ですよ!」
天悪「…………」
ラグナス(天)「天悪も美味しそうに食べてるし、やっぱりすわってよかったな!」
ヴィル「お気に召したようで何よりだ」
その後、3人同時に『ごちそうさま』と笑顔で完食。それを見ていたヴィルヘルムも微笑みながら『お粗末様だな』と返したんだとか。
3人が食器を片付け部屋を去ろうとした直後、MZDがひょっこりと姿を表します。
MZD「おー、いたいた。多分この時間なら飯食ってるかなと思って来て正解だったよ。ヴィルの作るご飯、どうだった?」
天悪「と、と、とても……美味しかった……です」
ラグナス(天)「フレンチトーストもサラダもスープも美味しかったぞ!」
ソニア(天)「本人には断られてしまいましたが、ぜひ我が祖国の専属シェフにしたい程のお味でした!」
MZD「一応あいつあんな姿してるけど、オレと一緒に世界の管理してる連中の1人だから連れてくのは勘弁してな。
あ、サクヤ呼んでたぜ。徹夜で構築した帰還用の魔法をゲートに組み込む作業終わったって」
天悪「と、いうことは……。もう、お別れの時間なんですね……」
ラグナス(天)「えーっ?!おれもうちょっといたかったぞ!」
ソニア(天)「しかし、これ以上運営本部の皆さんにご迷惑をおかけするわけにも参りませんし…。わたくし達が来たことで、この世界との『縁』が生まれたのならいつかまた来られる日が来ると思いますよ!」
MZD「そのことも踏まえてサクヤから話があるから、一緒に来てくれない?」
天悪「何言われるかわからないけど…。わかりました」
どうやらサクヤがやっていた作業が終わったようで。ということはゲートの持ち主であるアクラルも一緒にいそうですね。
と、いうことは。天悪達が元の世界に帰る時間も刻々と近づいていました。余程楽しかったのか、帰りたくないと駄々をこねはじめるラグナス。そんな彼を優しく宥めながらも、『きっとまたチャンスは来る』とソニアさんは告げたのでした。
MZDは3人の話し合いをしっかり最後まで見届けた後、一緒にゲートのある控室まで歩いて行ったのでした。
~運営本部 控室付近 ゲート前~
アクラル「おー。やっと来たか!ゲートの構築はすでに終わってるから、いつでも元の世界に帰れるぜ!」
サクヤ「兄貴、ありがとうございます。しかし……やはり、縁の力を利用しても『片道切符』にしかなからなかったのは…どういうことでしょうか」
アクラル「んー。『世界は人の心を映す』っていうからなぁ。この世界をどこかで怖がってるのが原因で繋がりにくいのかもしれないなー」
ソニア(天)「お待たせして申し訳ありません。ワオ!これが『ゲート』というものなのですね!」
ラグナス(天)「おっきいなー!おれのなんばいも大きいぞ!」
ゲートの前にはサクヤとアクラルの双子と大典太が既にいました。前田はどうしたのかと問うと、既にメインサーバで仕事を始めてもらっているそうです。前田に会えないことを寂しく思いがっかりする天悪でしたが、仕事であれば仕方がないと気持ちを切り替えたのでした。
……そういえば冒頭で『片道切符』とか言っていましたが。どういうことなんでしょうか?
サクヤ「皆様、おはようございます。気分もよさそうで何よりです」
ラグナス(天)「よくないぞ!ここでおわかれなんてさびしいぞ!」
アクラル「随分とこの世界を気に入ってくれたみたいだなー。けど、縁の薄い異分子を長時間この世界に留めておくと、何か異変が起こっても仕方がないからな。出来るだけのことはしたんだけどな…」
天悪「あの、どういうことでしょうか……?」
サクヤ「実は……。天悪さん達の世界と縁を繋げて、今後も来やすくする魔法の構築を今朝から行っていたのですけれど…。どう頑張っても『片道』しか縁を作ることが出来なくて。このゲートを通ることで天悪さん達は元の世界に帰れますが、余程のことがない限り『この世界へ来ることは二度とない』と考えていただいたほうがいいと思います」
ソニア(天)「えっ…?」
大典太「……出来るだけのことはした。だが…どうにも世界同士の縁を繋ぐことがが上手くいかなかった。何故かはわからんが…」
アクラル「原因を探ってもダメでなー。こっちにいてもらってゆっくり探ることは出来なくてな。本当にすまん」
天悪「あっ、あのっ、大丈夫です……。多分、天悪が原因だと思うので……」
サクヤ「ん?どういうことですか?」
どうやらコネクトワールドと天悪達の世界の『縁』をつなぐことに失敗し、余程のことがない限り『元の世界に戻ったら、縁が途切れてしまう』ことを3人に話しました。
二度とコネクトワールドに来れないことを察し悲しむラグナス。原因を探ってもわからなかったという一同に、天悪は『恐らく自分が原因だ』とはっきり告げたのでした。
天悪「天悪……。自分の好みではないシリアス展開や人が傷つくこと、推しの扱いが悪くなるものが苦手なんです。一応克服出来るように最近は頑張っているんですが……無意識にこの世界を怖がってしまっているから、世界の縁が繋がりにくいのかもしれません」
ラグナス(天)「えっ?なんでだよー!このせかい楽しかったぞ!うんえいほんぶの人たちもやさしかったし!なんでだよ天悪ー!」
ソニア(天)「駄目ですよラグナスさん。恐らく、天悪さんの心の中の整理がついていないのが原因だと思われます。こうなってしまうことは、わたくしも納得が行きます。なので…受け入れます」
サクヤ「成程。そうでございましたか。まぁ心当たりは色々とあるのですが…。天悪さんがもしこちらの世界を怖がらなくなった暁には、コネクトワールドとの縁が自然に繋がるかもしれませんね。怖がっているのに、無理やり繋げてしまえば悪い方向に繋がってしまう可能性もありますから」
大典太「……他への恐怖が薄れないのは俺も分かる…。正に今までそうだったからな。……だが、いつか克服出来る日は来る。あんたがその気持ちを忘れない限りは、な」
天悪「そう、ですよね……。せっかくの楽しい思い出を台無しにしてしまいたくないので…。天悪、苦手なものを克服出来るよう頑張ります」
そうはっきりと意思表明をした天悪を、見送る側の一同は優しく励ましてくれたのでした。それと同時に、一層輝きを増すゲートの向こうの光。別れの時が近づいてきています。
ソニア(天)「ほら、ラグナスさん!永遠のお別れではないのですから笑顔ですよ、笑顔!」
ラグナス(天)「ぐすっ…。でも、でも、にどとあえなくなるかもしれないんだろ?」
アクラル「そうなるかどうかはそっちの管理者にかかってんだろ?ならその克服を助けてあげるのがお前らの役目なんじゃねーのか?」
天悪「天悪も時間がかかっても……。もう一度楽しい思い出を作りたいって思ってるから……。ラグナス、天悪をこれからも支えてね」
ラグナス(天)「わ、わかったぞ…!ぐすっ…」
MZD「……よし。それじゃ3人とも、ゲートを潜ってくれ」
そう、少年だが少年ではない声が彼女達を導きます。ソニアはいまだ別れが寂しくて泣いているラグナスを引き連れ、一同に一礼をしてゲートの向こうへと去っていきました。ラグナスも泣きながらも笑顔で大きく手を降り、姿が見えなくなります。
サクヤ「天悪さん。我々も、貴方達の世界との縁が繋がること…信じております。それまでには我々も異世界との縁についての調査を続けてまいりますので」
天悪「は、はいっ。それでは…お世話になりました……。またご縁があれば……どうか、また仲良くしてくださいっ!そ、それではっ!」
MZD「達者でなー!」
天悪は深く礼をした後、ソニアさんとラグナスを追ってゲートを潜っていきました。
彼女の姿が見えなくなったと同時に……ゲートは光を失い、門の向こうは真っ暗闇に。門の向こうの世界との繋がりが切れたことを示していました。
大典太「……大丈夫、なのだろうか。自分であんなことを言っておいて何ではあるが…」
MZD「大丈夫なんじゃない?ちょっとずつでも、前を向いて歩ければいいの。例え何年かかったとしても、ね」
そう会話をしながら、彼らは真っ暗闇になったゲートの向こうを見続けていたのでした。
~運営本部 メインサーバ~
サクヤ「前田くん。只今戻りました」
大典太「……戻ったぞ」
前田「お帰りなさいませ主君に大典太さん。こちらで出来る仕事は大体片づけましたよ」
サクヤ「ありがとうございます。それでは、小休憩を取りましょうか」
天悪達が帰ってからしばらくした後、一同も解散。サクヤと大典太は前田が待っているメインサーバへと戻ってきました。
あらかた仕事は終わったと告げた前田に、少し小休憩を入れようとサクヤは椅子に座ることを促します。2振も座ったところで、サクヤがジンベエから貰った紙袋を取り出し、彼らに1つずつ渡しました。
サクヤ「大典太さん、前田くん。これを」
前田「主君。これは何ですか?」
サクヤ「いつも私の仕事をお手伝いしてくださっているお礼です」
大典太「……礼なんて大袈裟だ。俺は近侍なんだから、あんたの命に従うのは当たり前だろう」
前田「そうですよ主君!僕は近侍ではありませんが主君の刀です。主君にお仕えするのは当然のことです!」
サクヤ「まぁまぁそう言わずに。中を開いてみてください」
礼を言われるようなことなどしていないと彼女からの贈り物を返そうとする2振ですが、とにかく開けてみてほしいと逆に説得されてしまい。折れた2振は紙袋を開いてみることにしました。
前田の紙袋から出てきたのは、黄色い花の帽子飾り。どうやらこれは八重山吹という花のようですね。
前田「わぁ…綺麗ですね!帽子に付けたいです。主君、つけてください!」
サクヤ「わかりました。お帽子を借りても?」
八重山吹の帽子飾りを見た前田は早速ぱぁ、とその花のように明るい笑顔を綻ばせます。綺麗だと喜ぶ彼の姿に思わずサクヤもクスリと顔を歪ませます。帽子につけてほしいとせがんだ前田に帽子を借り、サクヤは早速飾りをつけ始めたのでした。
その間、大典太も恐る恐る自分に渡された紙袋を開き、中に入っているものを取り出します。それは商店で見た桔梗の耳飾り……ではなく。片側だけのデザインの、紅梅を模った耳飾りでした。ふわふわとした素材で作られているのか、指先で触れてみるとどうも柔らかい触り心地です。
大典太「……これは」
サクヤ「最初は桔梗のものにしようと思ったのですが、ジンベエさんに『大典太さんなら梅のほうがに会いそうじゃねえか』と提案を受けまして。紅梅は貴方の赤い瞳にも合いますし、そちらにしてみたのです」
大典太「……小さいな。壊れてしまいそうだ」
サクヤ「そんなことはありませんよ?梅はね、大典太さん。肌寒さが残る頃に花を咲かせ、夏が始まる前に丸い実を付けるのです。花も実も、人の心と体を治癒し癒すもの。まるで霊力で人を癒す大典太さんのようではありませんか?」
大典太「……買い被りすぎだ」
前田「そんなことを口にはしていますが、大典太さん口元が上がってますよ?」
大典太「……さて、どうだろう」
そう口にしつつも、どこか嬉しそうな表情を見せる大典太なのでした。壊してしまわないようにそっと懐にしまった彼は、忘れないうちに自分が持っていた紙袋をサクヤに渡しました。
大典太「……主。いらんとは思うが俺からも…」
サクヤ「およ?何でしょうか」
紙袋を受け取ったサクヤは、帽子を前田に返し袋を開けてみます。そこには―――商店で見たものよりも、紅く華やかな椿の髪飾りが入っていました。
まさか彼が自分に贈り物をするとは。彼女の目が少しだけ見開かれます。そんな彼女に、大典太はぼそぼそと会話を続けたのでした。
大典太「あんたに…似合うと思った。……揺蕩う水の底に、静かに揺らめく炎を感じるあんたに」
前田「ん?大典太さん、どういうことでしょう?水の表現はわかりますが、炎とは…」
大典太「……なんとなくそう感じただけだ」
サクヤ「私は水を司る青龍ですので、相反する炎の力は持っていませんよ。ですが…嬉しいです。ありがとうございます」
そう言って微笑む彼女を垣間見た大典太。そんな彼女を見て、彼は『近侍として恥じない刀になろう』と改めて思ったのだとか。
その後、大典太は慣れた手つきでサクヤに椿の髪飾りをつけてあげたんだとか。
一息つこうと大典太が一旦メインサーバを出たと同時に。彼はとある人物に声をかけられます。
天海「すみません。実は先程の話、出入口で聞いてしまいまして…。よければその耳飾り、ピアスタイプのようなので付けて差し上げましょうか?」
大典太「……いいのか?」
天海「はい。お安い御用です」
翌日、大典太の左耳には…。柔らかく揺らめく紅梅の耳飾りの姿があったんだとさ。
今回のお話はここでおしまい。今度こそ、次回の舞台でお会いしましょう。Adieu!
AfterBreakTime コラボ回 with 天悪様
~『秋の夜長と花火と酒と』~ END.