二次創作小説(新・総合)

ABT②『刀剣の契約、それは―――』 ( No.21 )
日時: 2020/10/03 22:06
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jWLR8WQp)

混乱が続く中何とかOPゲームを最後まで導いた運営本部。
唐突に現れた少年の正体は…?!

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~運営本部 メインサーバ~



『あの…。皆さん固まっているようですが。どうしたのですか?』

マルス「…………。はっ。いや、固まるよ!だって見たことも無い男の子が目の前に急に現れたんだから。きみ、幽霊だったりするのかい?」

ソティス「ゆ、ゆ、ゆゆゆゆゆゆゆ幽霊じゃとぉ~?!わしは!わしはそんなもの信じぬぞ!絶対に!信じぬぞぉ~~~!!!」

ベレス「ソティス、落ち着いて。ちゃんと地面に足付いてるよこの子」

ヴィル「(どこかで見たようなやりとりだ…)」



 混乱の最中、何とかOPゲームを終わらせた運営本部は目の前に現れた軍服の少年を囲んで何やら話をしていました。
 少年は不思議そうな顔で辺りを見回しています。……しばらくざわざわと話が続く中、ふとぽつりとか細い暗い声が彼の名を口にしたのです。



大典太「……まさかあんた、『前田』か?」

前田「はい!『前田藤四郎』です!大典太さん、お久しぶりです!」

リピカ「前田…藤四郎?どっかで聞いたような…。―――あっ」

サクヤ「……成程。そういうことですか。納得しました」

アクラル「サクヤ1人で納得すんな!!俺にも分かるように説明してくれ!!」



 大典太がぽそりとその名前を言った瞬間、前田と呼ばれた少年は明るい顔をして大典太に近付いてきています。彼と会えて嬉しいのでしょうね。その言葉を聞いたリピカとサクヤは少し考え込み、すぐに『成程』と状況を理解したのでした。



ゆめひめ「まえだ…まえだ…あっ!あの顔文字から預かったやつ!!」

リピカ「私が拾った短刀さ!……あれ?ってことはこの子も大典太と同じく『付喪神』?」

リピカ(Y)「この世界には神が沢山いると聞いていたが、付喪神までいるとはなぁ。これは研究のし甲斐があるのさ」

ジャック「研究しないでくれないか」

前田「あぁ。自己紹介が遅れて申し訳ありません。僕は『前田藤四郎』と申します。藤四郎の兄弟の、末席に座すものです。その節は助けていただいてありがとうございました」

サクヤ「いえいえ。実際に助けて下さったのはゆめひめ様とリピカさんですので。お礼を言うなら彼女達にお願いします」

大典太「俺と三日月以外にも顕現が成功していた刀があったなんてな…」

サクヤ「本当に驚きですよ。いや、大典太さんが顕現していることにも驚いているんですけどね」

大典太「(そう言うにしては、主の表情が動いていない様にも見えるが…)」



 前田、改めて自己紹介。ゆめひめも自分が拾ったことを思い出し、改めて深く綺麗な礼をされたことに照れていましたとさ。
 そういえばサクヤの懐にずっと仕舞われていたんですよね。預かってから。もしかしたらゼウスの力の影響が彼にも及んだのかもしれませんが、決めつけてはなりません。サクヤは前田にそのことを聞いてみることにしました。



サクヤ「前田…くん、でいいですかね。あの…ここは『どこかの異界』のように、刀の付喪神を顕現させる力を持った存在は、この地上には存在しないのです。どういった経緯でお目覚めになったのか、もし知っていたら教えていただけないでしょうか?」

前田「…実は、僕にもよく分からなくて。貴方の懐で大典太さんらしき気配を感じたんです。そうしたら…いつの間にかここにいました」

大典太「……俺の?」

アクラル「類は友を呼ぶ、っていうし、もしかしたら光世の霊力に釣られて顕現したのかもしんねーな?」

マルク「いやいや。そんな芋づる式みたいに顕現って簡単に出来るのサ?」

サクヤ「うーん。大典太さんがゼウス様の影響で顕現したのなら、彼以外の刀がゼウス様の影響を受けて目覚めている可能性も十分あり得ます。全く、彼は何がしたいんでしょう…」

アシッド「全知全能の考えることなど我々の理解の外、さ。とにかく、だ。天下五剣の一振り以外にも顕現に成功した刀が存在した。ということは、だ。
     『彼ら以外にも顕現している刀が地上にあるかもしれない』という可能性は考えられないだろうか?」

ヴィル「いや、しかし。彼の言うことを信じるとなると…。『刀剣』とやらは、現在悪神の親玉に奪われているのだろう?顕現が成功してしまっていたらまずくないか?」

リピカ「そーいや、灼熱が『前田は道端に落ちたから拾った』って元々前田を拾った奴から聞いたんだっけな」

ニア「……ふむ。と、いうことは。管理しているのは空の上…。『天界』になりますわね。それならば、数振程『アンラ・マンユ』の影響を受けずに地上に落ちてきていても違和感はないのでは…?」

サクヤ「考えたくないですが、その可能性もあり得ますからね。地上に落ちていたとして、心無い人間が拾っていないことを祈るしかないものです」

大典太「……刀は結局は『物』だ。どう使われるなんて、使う人間に委ねられるからな。俺みたいに蔵に封じられていないといいんだが…」

前田「大典太さん。蔵に封印されていたのは遥か昔の話ですよね?」

大典太「……ふふっ。すぐに分かるさ…。どうせすぐ俺の霊力を怖がって近付かなくなる…。みんなそうだったからな…」

アクラル「仮にも人外だらけの本部でそれ言うか?」

大典太「…………。こいつもそうなのか?」

マルス「ぼくは普通の人間です!!!」

アイク「立ち振る舞いとか放つ雰囲気は完全に神のそれだがな」

マルス「こらー!勘違いを助長させるようなこと言わないでーーー!!」



 どうやら前田も何故自分が目覚めたのかはよく分かっていないようです。十中八九ゼウスの力の影響だとは思うんですがね。その言葉を聞いて、ニアは『前田のように他にもアンラ・マンユの影響を避けた刀が地上に落ちているかもしれない』という可能性を提示します。
 …確かにあり得るとは思いますが、コネクトワールドは広い。落ちたかもしれないたった数振りを探す手間も暇も本部にはありません。



サクヤ「誰か心優しい方が拾ってこちらに届けてくれればいいのですが」

ジョマンダ「交番じゃないんだから」

ニア「…まぁ、私は唯『可能性』を提示しただけです、わ。どう考えるも皆様の解釈次第で変わります…。物である以上、生きとし生ける者に拾われなければそのまま放置されるのでしょうが…」

前田「天界とやらに封じられていた記憶についてもよく覚えていないのです。どこかから連れ去られたような感触はあったのですが、それを思い出そうとすると…記憶にもやがかかったようになってしまって。有益な情報を渡せず申し訳ありません」

サクヤ「いえ、いいのです。思い出せないのならば無理に思い出さなくても。影響はかなり少ないと思いますが、多少の記憶操作は受けているでしょうね」

大典太「俺と三日月が全ての記憶を覚えていたのも…。『アンラ・マンユ』に連れ去られなかったから、なんだろうか」

ジャック「十中八九そうだろ。コイツの反応見るに」



 どうやら前田、天界にいた記憶も少々曖昧になっているようで。重要な情報はアンラによって隠されてしまっているみたいです。無理に思い出させても酷だと判断したのか、サクヤは質問をさっと切り上げてしまいました。
 ……これから仕事を始めようかと各々解散し動き始めた最中、前田くんがサクヤに向かってこう言いました。



前田「すみません、サクヤ殿。貴方に折り入ってお願いがあるのですが」

サクヤ「私に?出来ることは少ないですが、何なりとお申し付けください」

前田「僕を…『サクヤ殿の刀』にしていただきたいのです」

大典太「………?!」



 前田の口から出た言葉は『サクヤの刀になりたい』というものでした。あれ?サクヤって前回『本当の主にはなれない』と、大典太と仮の契約を結んだんですよね。前田はサクヤの懐にいたはずなのでその会話を聞いているはず。…どういうことでしょう?
 サクヤも困惑しているようで、答えに戸惑っています。大典太に至っては驚いて目を見開いたまま動いてませんし。



前田「あ、あの。僕、おかしなことを言いましたでしょうか?」

サクヤ「そのお願いなんですが…。私には主になる資格はありません。もっと貴方に相応しい方がいらっしゃ『いえ!僕は貴方がいいのです!』 ……何故?」

前田「僕はサクヤ殿が大典太さんを近侍にする光景を、貴方の懐から見ていました。大典太さんは右も左も分からない世界で目覚めて、相当混乱していたと思うんです。目覚める前の大典太さんに何が起こったか…。僕は懐から話を聞いていただけですので、想像は出来ませんが。相当怖い思いをしたんでしょう。
   でも、貴方はそんな大典太さんに優しく接した。恐怖に怯えていた大典太さんの『心』を動かしたんです!そんな貴方だからこそ、僕はお仕えしたいのです。『今の』主君として!」

大典太「前田…」

サクヤ「…………」

大典太「……主。あんた、なんでそんなに『正式に契約』をすることを渋っているんだ?」

サクヤ「そ、それは…。―――すみません。私の口からは、ちょっと」

前田「お願いします!これも何かの縁です。それに、短刀ですので斥候が得意です。情報の入手や偵察等、僕にお任せいただければ!」

サクヤ「え、えと、あの」

大典太「……あんた。まさか、あんなに人間を抱えてそういうのも一人でやっていたのか?」

サクヤ「―――他人の手を煩わす訳にも参りませんし…。それに、ここに集まる方々は各々事情があります。私1人の都合で動かすわけにはいきません。ゲーム外のことは殆ど私が…」

大典太「大将が言う台詞なのかそれは…」

前田「であれば!僕にその仕事、お任せください!きっと役に立てると思うのです。お願いします!」

サクヤ「う、うぅ…」



 前田、押す押す。最初は『自分なんかに主は出来ない』と渋っていた彼女でしたが、目の前の少年が説得を続けるのに遂に折れてしまいました。…ところで、大典太も言っていましたが。どうしてサクヤは頑なに『正式な主』になれないと一貫して言っているのでしょうね。不思議です。
 深く頭を下げる前田に1つため息をついた彼女は、彼に短刀を出してほしいとお願いをしました。その言葉に素直に自分の短刀を取り出します。
 すると、サクヤは目を閉じて静かに前田の短刀に触れました。触れたところから綺麗な青い光が前田の短刀に移り、しばらくしてその光は刀に溶け込みました。



サクヤ「……これで、契約完了です。これから前田くんは私の刀、ということになりますね」

前田「はい。サクヤ殿の優しい霊力が身体に流れ込んでくるようです。…改めて。これからよろしくお願いしますね、『主君』!」

サクヤ「こちらこそ。未熟者ですが、どうかよろしくお願いいたします」

大典太「…………」



 嬉しそうに握手を交わす前田と、彼に押されて少し疲れ気味に握手を交わすサクヤ。そんな彼らを見て―――ふと、大典太は一瞬、『ちくん』と胸が痛むのが分かりました。思わず痛んだ場所に手を当てる彼。













大典太「(ここが『痛い』。これは……何だ?)」




 大典太がその『痛み』の正体に気付くのには―――もうちょっと時間がかかりそうですね。
 それはともかく!頼もしい短刀がサクヤの刀になったことで、運営本部はもっと賑やかになるでしょう。いやはや、ゲームも気になりますが…運営本部もこれからどうなることやら。