二次創作小説(新・総合)

ABT④『秋風は優しくそよぐ』 ( No.46 )
日時: 2020/10/13 22:07
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jWLR8WQp)

大包平にメガトンパンチでの勝負には勝ったものの、地面にヒビを入れてしまったせいで落ち込む大典太。
サクヤはそんな彼に、『外の世界』を教えることにしました。

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~運営本部 メインサーバ~



サクヤ「大典太さん、元気出してください…」

前田「誰も貴方のことを責めてないですよ。あの程度のことは大丈夫だと皆さん言っていたではありませんか!」

大典太「いいんだ…。俺のことなんか放っておいてくれ…」



 ゲームの運営管理を続ける為、勝負を終えたサクヤ達はメインサーバへと戻ってきていました。ごくそつくんと大包平も打ち上げまで観戦すると、現在は観客席でゲームを見ています。
 一方の大典太は、メインサーバに戻るなり隅で体育座り。顔を伏せてそのままその場を動きません。地面を割ってしまったことが相当響いているのでしょう。どれだけサクヤと前田が励ましても効果なし。
 これにはその様子を見ていたアクラルも呆れ顔。落ち込む彼を見てこう口にしました。



アクラル「地面割ったくらいで落ち込むなよ…。本部に本気出さなくても地割れ起こせる奴何人いると思ってんだ」

サクヤ「自然の摂理というものは不思議なもので。貴方の割った地面もすぐに元に戻るので大丈夫ですよ大典太さん。現に施設どこも壊れてませんし」

大典太「『現に』だろう?どうせいずれ壊すさ…。今回はたまたま運が良かっただけで…」

アクラル「こりゃ重症だな」

前田「大典太さん、僕の元の主が所持していた際に厳重に封印されていたこともあって、外の世界をあまり知らないんです。恐らく落ち込みやすい性格になってしまったのも、それが大きく影響しているのではないかと」

サクヤ「成程。『鳥止まらずの蔵』の逸話ですね」

大典太「ふふ…。俺が使われたのは誰かが病に倒れた時だけ…。武器として使われていた記憶なんて、足利時代にぼんやりとあるのとあんたに連れ出されてからだよ。……どうせあんたも俺の霊力に耐えられなくなって俺を手放すさ」

サクヤ「全く…。貴方を持ち出して何百年経ったと思っているんですか。現に私がぴんぴんしている以上、貴方の霊力にあてられることはありません」

アクラル「それによ、石丸に三日月を明け渡すまではサクヤ『天下五剣を3本直持ち』してたんだろ?三日月はどうか知らねーけど、数珠丸も相当に法力の高い刀だってこいつ言ってたし…。
     そんな強い力を持ってる刀を何百年も同時に持ち続けてる時点でお前の霊力でおかしくなるなんてないっての」

大典太「…………」

前田「大典太さんがもっと落ち込んでしまわれました」

アクラル「なんで?!」



 3人が精一杯のフォローをするも、大典太は更に落ち込んでしまい顔を伏せてしまいました。
 そういえばサクヤが蔵から3本太刀を持ち出して結構経っていますが、その間ずっとコネクトワールドにいたのですか?コネクトワールドって『新しい世界』だと天の声は認識していたのですが。



サクヤ「異次元で隔たれた世界が『混ぜられ始めた』のはつい1年ほど前です。しかし、『コネクトワールド』自体は1000年単位で存在している世界ですよ」

アクラル「何か昔は神様が住んでいた土地だったとかって話を聞いたことがあるけど、それもジジイの口車だからな…。どこまで信じていいのやら」

前田「僕達を強制的に顕現させるような力があるのに、真実だけを口にするお方ではないのですか?」

サクヤ「いえ。この世界を管理するきっかけを作ってくださったのもゼウス様なので頭が上がらないのは事実なのですが…。正直、私も彼の全てを信用している訳ではありません。―――神様も、本当は信じるべき存在ではないのかもしれません」

アクラル「まぁなー。一言『神』って言っても色々いるからな」

前田「そうなのですか…」

サクヤ「……仕方ない。私もたまには気分を切り替えたいですし。少し大典太さんと共に外出してきます。外の空気を吸ったら落ち込んだ気分も少しは良くなるでしょうし」

大典太「主…。俺なんか連れて行っても邪魔になるだけ『いいから行きましょう。その姿で外に出るのは初めてなんですから。決めつけるのは良くないですよ』 …………」



 ふとサクヤが『外出してくる』とぽつり。勿論大典太の気分を落ち着かせるのも1つの目的ですが、どうやらそれだけではないようで。サクヤが自分から外出したいと言い出すのは珍しいことらしく、アクラルは目をまん丸にして驚いています。
 でもどこに行くのでしょう?ハスノのカフェでしょうか。アクラルがそれとなく聞いてみると、どうやらカフェではないようで。



アクラル「え、カフェじゃねーの?じゃあどこに行くんだよ?」

サクヤ「昔なじみが経営している店がありまして。久しぶりに顔を覗かせようかと。きっと大典太さんも気に入ってくださると思いまして」

大典太「………?」

アクラル「成程な。詳しくは分からんがお前が言うんだから信用できる奴なんだろ。わかった、行って来いよ。ゲームの管理は俺に任せとけ。たまにはお前も休んだ方がいいぜ」

前田「僕もアクラル殿のお手伝いをします。1日でも早く仕事を覚えて主君の助けになりたいので!」

サクヤ「分かりました。では兄貴、前田くんのことよろしくお願いいたしますね」

アクラル「おう、任された!」



 昔馴染みの店…?確かに運営本部を設立する前のサクヤが何をしていたかは天の声も把握しておりませんが。それと関係しているのでしょうか。
 アクラルも事情を理解したようで、仕事を覚えたいと残る宣言をした前田を彼に任せるように話しました。そして、彼女は大典太の肩を優しくポンポンと叩き外出を促しました。それに渋々反応して顔を上げる大典太。眉はないですが、明らかに落ち込んでいる表情でした。



アクラル「ほら!外の空気吸って来い!!その姿では初めてなんだろ、外」

大典太「……その言葉は否定しないが、どうせ…」

アクラル「サクヤが誰かを連れて外に出ること自体が珍しいんだから黙ってついてけ!本当は俺だってサクヤとデートしたいんだからな!!」

前田「兄妹なのに『でぇと』…?」

サクヤ「今の発言は無視して貰っても結構です。兄貴…前田くんに変なこと吹き込んだら首から裂きますからね。大典太さんを使用するわけにはいかないので…爪の方がいいでしょうか」

アクラル「冗談だから!冗談だよ!!光世も怯えんな!!」



 半ば無理矢理サクヤの背を押しエントランスまで送り出すアクラル。大典太もそれについていきます。そして、改めて『行って参ります』とだけ彼らに伝え、大典太の手を優しく掴み2人は本部を出て行ったのでした。



アクラル「…ったく。サクヤも光世も本音を口にするの怖がり過ぎなんだっての!―――これで、少しはお互いのこと知ってもらえればいいんだがな」

前田「? どういうことですか、アクラル殿」

アクラル「うーん…。よく分からんけど、兄貴の『勘』ってやつかな?」



 頭にハテナマークを浮かべっぱなしの前田をよそに、アクラルは2人の背中を見ながらそんなことを呟いたのだとか。











~オオエドストリート~



サクヤ「うーん。晴れて良かったですね、大典太さん」

大典太「……あぁ。太陽は、こんなにも眩しかったんだな…」

サクヤ「刀の目線で何百年も見てきた景色…。やはり、人の姿で見るのとは違いますか?」

大典太「そうだな。目線も、感じ方も、全然違うよ…。肌に感じる温もりは、刀のままでは知ることはなかったな…」



 散歩の如く歩くこと数十分。2人がたどり着いたのは、昔ながらの景色が広がる昔ながらの街でした。名を『オオエドストリート』と言います。江戸時代の町並みの印象が残る、活気のある商店街が売りの街です。
 どうやらこの街にその『古馴染みの店』はあるようで。大典太はサクヤの歩幅に合わせながら、ゆっくりと彼女に付いていくのでした。



サクヤ「どうですか、大典太さん。貴方が活躍なされていた時代に似ていると思いますし、ここなら気分も落ち着くかなと思いまして」

大典太「確かに外の空気を吸って幾らか気分は落ち着いたが…。俺の陰気を直そうとしない方がいい。……俺はずっと蔵に封印されてきたんだ。江戸の街並みの記憶も、罪人を試し斬りした時だけ…。街の賑やかさなど、俺には分からない」

サクヤ「そういえばそうでした…。配慮が足りず申し訳ありません」

大典太「いや、いいんだ…。主が俺の為を思って動いてくれたのは充分伝わったからな…」



 サクヤが口をすぼめて小さくそう言うと、大典太は慌てた表情で口下手なりのフォローをします。遠ざけたくて遠ざける様な性格ではありませんからね、彼。自分に向けられる好意を素直に受け止められないだけであって…。
 しばらく歩いていると、目の前に他とは大きさが少し違う店が見えてきました。看板であろうものには『仁兵衛商店』と書かれており、彼女は看板を指差して「目的地はあちらです」と話したのでした。
 扉の前に立つ2人。しかし、大典太の足が自然に後ろに下がってしまいます。



大典太「俺なんかがいて邪魔じゃないのか。店員や客に悪い影響を与えてしまうかもしれない…」

サクヤ「大丈夫ですよ。ここの店主さんに、私があの運営本部を設立するまでにお世話になったのです。衣・食・住。全ての面で身寄りのない私に快く助力してくださった、心の広いお方です。心配なさらないでください」

大典太「……昔のあんたの面倒を見た、とはいっても…。あの朱雀と『分かれた』後なんだろう?」

サクヤ「昔、と言っても1年程です。人間の1年は大きいものですが、神にとっての1年は些細なもの。大典太さんもそれは理解できますよね?」

大典太「それは、そうだが…」

サクヤ「それに。大典太さんは力強くも優しい刀です。それは私が保証します。きっと彼も貴方のことを気に入ってくれる筈ですよ」

大典太「……わかった。あんたがそこまで言うのなら…信じる」

サクヤ「ありがとうございます」



 やはりそうでした。運営本部を設立する前に世話になっていたんですね。だから『昔馴染みの店』と。柱の1つとはいえ、この世界を管理する神様に衣食住の世話をするなど、とんだ覚悟を持った人物なのでしょうね。この店の店主は。
 口調は優し気ですが、主の表情が殆ど変わらないことに少しの寂しさを覚えた大典太。そんな彼の気持ちをよそに、そろそろ店の中に入ろうとサクヤが黒いシャツの裾を引きます。



サクヤ「さ、入りましょう。店の前に立っていても他のお客様に迷惑ですしね」

大典太「あ、あぁ…」




 サクヤはそのまま木で出来た戸をゆっくりと引いていきます。彼女の面倒を見てくれた『心の強い』店主とは一体何者なのでしょうか。
 それは……もう少し後に見て行きましょうか。