二次創作小説(新・総合)

ABT⑥『彼女が青龍になった理由』-1 ( No.72 )
日時: 2020/10/24 22:32
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jtELVqQb)

サクヤの提案で『オオエドストリート』という街にやってきた2人。
どうやらそこには『彼女の古馴染み』という人物がいるそうなのですが…。

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~オオエドストリート 仁兵衛商店~



サクヤ「お邪魔します」

大典太「お邪魔、します…」



 戸を丁寧に開けるサクヤと、ぼそぼそと消え入りそうな声で遠慮しつつ店の中へと入る大典太。どうやらここ、万屋のようです。
 懐かしみのある木で出来た壁といい、並べられている品物の雰囲気といい、大典太はどこかあの隠し部屋で感じた居心地の良さを感じていたのでした。

 サクヤが戸を閉めたと同時に、奥ののれんのかかった通路から『いらっしゃい』と、小さな亜人がトコトコとこちらに駆けてきました。
 赤と白の斑点模様の帽子に鉢巻を付け、ベストの代わりに水色の法被を着ています。紛れもないキノピオなのですが、彼はサクヤの姿を見た瞬間驚いた顔をして語りかけてきました。



『サクヤさん!久しぶりでねえか!元気だったかぁ?』

サクヤ「お久しぶりです。ジンベエさんもお元気そうで何よりです」

大典太「…………」



 目の前のキノコの亜人が口を開いたことにまず驚いている大典太。固まって動けなくなっているのをサクヤが察し、優しく彼の手を引きながら『ジンベエ』と呼ばれたキノピオの前に立たせました。



ジンベエ「でっけえなあお前さん!いやー!キノピオでもこんなにデケーのは見たことねえよ!」

サクヤ「キノコ族でも最長は私よりも身長が低かったと記憶しているのですが…。それは置いといて。大典太さん、彼が私が本部を設立する前にお世話になった『ジンベエ』さんといいます。現在はこちらで万屋をなされていますが、私と出会う前は装飾の職人さんをしていたそうです」

大典太「そう、なのか…。……紹介に与った、天下五剣が一振。『大典太光世』だ。訳あって隣の主の近侍を務めている」

ジンベエ「天下五剣…。お前さんもしかして人じゃない。刀か!なるほどなあ!いやあ、人生って何が起こるか分からんもんだねえ。
     オイラは『ジンベエ』。もと装飾専門の職人、今はしがない万屋の店主さ。これも何かの縁だし、よろしく頼むぜ大典太さん!」

大典太「あ、あぁ…」



 サクヤに促され、ジンベエと大典太は握手。自分の霊力で相手を傷付けてしまわないかと最初は躊躇していましたが、目の前にいる亜人は主を一時期匿っていた程の度胸の持ち主。更に、相手が真っ直ぐ手を伸ばして来た為…大典太は自然にその手に触れて握手をしたのでした。



ジンベエ「で、サクヤさん。久しぶりにオイラに会いに来てくれたってことは…何かご入用かい?」

サクヤ「いえ、そういう訳ではないのです。大典太さんがちょっと内気な性格で…。お仕事場で色々あって、気分転換にこちらまで来たのですよ。貴方とも久々に顔合わせしたかったですし」

ジンベエ「そうかいそうかい!お前さん、いかつい見た目とは違って繊細なんだな!いやー、人には色々いるねぇ。いや、人じゃねえ。刀か!がははは!」

大典太「好きで陰気になったわけじゃない…」

サクヤ「別に責めているわけではないのですよ、大典太さん」

ジンベエ「まぁ、うちも最近魔物が多くて閉古鳥だったからなあ。今茶と菓子持ってくるから、そこで休んでいきな!」

サクヤ「ありがとうございます。さ、部屋に行きましょう大典太さん」

大典太「あぁ。……主、少し待ってほしい」

サクヤ「?」



 サクヤから事情を聞いたジンベエは、愉快に笑い飛ばし中扉の向こうの畳を指差し『休んでいきな!』と明るく言ってのけました。お茶とお菓子を用意するからとのれんの向こうへと消えていく彼。良かったですね。
 お言葉に甘えることにしたサクヤは、早速大典太を連れて畳の部屋に向かおうとしたところ…。大典太に止められました。
 彼はサクヤの右肩辺りを少しつまんだ後、手のひらの中をぎゅっと握り潰しました。彼の手の中から『ぐしゃり』と機械が潰れる様な音が聞こえてきます。



サクヤ「あの、何をしたんです?」

大典太「肩に埃がついていた」

サクヤ「明らかに埃ではない音が『埃だ』 ……そう、ですか」

大典太「(主の情報でも探ろうとしていたんだろうか。……阻止できてよかった)」



 明らかに埃ではない音がしたものの、大典太は『埃だ』の一点張り。答えるつもりが端から無いと諦め、改めて彼と共に茶室へと向かうのでした。
 ―――大典太が壊した物、前のABTと繋げればその正体が分かるとは思いますが…。今は突き詰めないでおきましょう。












サクヤ「ここも変わっていないですね。間借りしていた時と一緒です」

大典太「あんた…ここで寝泊まりしていたのか?」

サクヤ「はい。ゼウス様に命を受け、四神が一柱『青龍』としてこの世界を守っていくことになったのはいいのですが…。拠点がなく、困っておりまして。流れ着いた先で出会ったのが彼だったのです。器の広い方で本当に助かったのですよ」



 足触りのいい畳の上で、サクヤと大典太はくつろぐことにしました。お互い正座をしてどこか緊迫感が場を纏います。サクヤは『気張らなくても良い』とは言ったのですが、大典太が『主の前ではしたないことは出来ない』と体制を崩すのを嫌がったからなのです。
 ……サクヤの会話をそのまま聞いていた彼。口元は嬉しそうに弾んでいるのは分かるのですが、表情がいつもの時と殆ど変わっていない。本部にいた時に感じたものと同じでした。
 2人きりということもあり、ふと大典太はサクヤにそのことについて聞いてみることにしたのでした。



大典太「……失礼なことを口走ることを承知してくれ。あんた…さっきから表情が動いていない。本部にいた時からそうだ…。嬉しい気持ちはしっかり伝わって来てるのに、顔に出ない。俺は…表情を表に出すのが得意な方ではないから分かるんだが…。『苦手』や『意識して出している』ようなものではない。
    ―――昔、何かあったのか」

サクヤ「……目ざとい。流石は天下五剣、と言ったところでしょうか?」

大典太「俺じゃなくても気付いてる奴なんて山ほどいるだろう…。俺の知っているあんたは、よく笑っていた。だから……感じる力は同じなのに、どこか複雑な気持ちを抱いている」



 …サクヤは否定をせず、『目ざとい』と答え彼に向き直りました。そして…『何故表情を出さなくなった』…いや、『出せなくなった』のかを大典太に話すことを決めたのでした。



サクヤ「私は…貴方達に天界に帰していただいてから、兄貴…『アクラル』と力を分けました。『力』と『記憶』を受け継いだのが私…。そして、『感情』と『火の力』を兄貴に渡したのです」

大典太「あの朱雀にあんたの『感情』を渡したから…あんたは表情を動かせなくなった。……そういう解釈でいいのか?だが…何故そうなったんだ」

サクヤ「…………」

大典太「言えないようなことなのか」

サクヤ「そういうことではありません。しかし…。昔話をするには、少し長く残酷な話をしなければなりません。そう思ったら、口が噤んでしまいまして」

大典太「俺は構わない。……聞いたことを誰かに話すような性質でもないしな」

サクヤ「そうですか、ありがとうございます。―――このことを他人に話すのは、実は貴方が初めてなのです」



 そう言いながら、サクヤはゆっくりと深呼吸をした後、彼女が『天下五剣と出会う前』の話を始めたのでした。



サクヤ「まず大典太さん。覚えておいてほしいのですが…私を含め、龍族には『どうしようもない破壊衝動』が存在します。高位の神であれば、その気になれば『世界を1つ滅ぼせる』程の」

大典太「…………」

サクヤ「私も例外ではありませんでした。兄貴と力と身体を分ける前。『龍神』だった私は、その『破壊衝動』で…とある世界を滅ぼしています。その世界の名を、『カーディナルワールド』と言います」

大典太「カーディナル、ワールド」

サクヤ「はい。私もゼウス様から聞き及んだ知識でしかないのですが…。別次元にあった、コネクトワールドと似たような世界だったようです。もう1つ別の原因で滅んだ世界、『オラクルワールド』と繋がりを持つ世界だったと聞いております」



 サクヤとアクラルが『元々一柱の竜の神』であったこと。とある出来事から、『力と記憶』、『力と感情』をそれぞれ2つの身体に分けたこと。
 そして―――別れる『前』の龍神だった時代……『カーディナルワールド』という世界を破壊衝動にて滅ぼしていること。彼女は静かにそれを離しました。


 カーディナルワールドと聞いてピンと来た視聴者の皆様、それで合っております。メタ的な話を申し上げますと、このシリーズを書く前に執筆していた逃走中の作品の舞台となる世界が『カーディナルワールド』だったんですよね。アニメ出身の登場人物は一切登場せず、『ゲーム出身の登場人物のみ』が暮らしている特異な世界だったと聞き及んでおります。
 …マルクが言っていた『過去との繋がりを求めるな』と言っていたのはそういうことだったんですね。



サクヤ「破壊衝動の中、世界の人々が嘆き、悲しみ、怒り、絶望する…。その声を直に聞いていました。…全てを後悔したのは、『全てを壊し終わった後』だったのです」

大典太「世界を滅ぼし終えたことで、あんた…龍神の破壊衝動が止まった、ということだな…」

サクヤ「そうです。滅んだ世界は神でも手をつけられません。そのまま廃墟と化し、世界から忘れられていく運命です。―――ですが、その規模が大きすぎた。私は天界に戻った後、その力を恐れた神々によって『時の狭間』に捨てられました。あの場はどの時間からも切り離された場所―――。そこで久遠の時を過ごす、筈でした。
    ―――貴方達のいる『蔵』に落ちてくるまでは」

大典太「そうか。落ちてきた時のあんたがあんなに傷だらけだったのは…。そういう理由があったんだな」

サクヤ「はい。天下五剣の皆さんの助力もあり、天界に舞い戻った私はゼウス様に1つ、お願いをしました。『自分の破壊衝動でまた世界を壊したくないから、感情を消してほしい』と。実際、兄貴に感情を渡してから破壊衝動は一度も起きたことがありませんから」

大典太「……あいつが生まれた、ということは。あの最高神は『分けることしかできなかった』ということか」

サクヤ「そうなりますね。お陰様で…貴方が指摘してくださったように、感情を表に出せなくなったのですよ」

大典太「…………」



 以前アクラルが『俺とお前は1つだった』と言っていたような気がしたんですが、アクラルもうっすらとそれを覚えてでもいたんでしょうかね。
 話し終わったのか、ふぅ、と息を整えるサクヤ。彼女を見て、また大典太の胸に『ちくん』という小さな痛みが。思わずその場所に胸を当てる大典太。



大典太「(先程と同じ…。なんだ、これは)」




 ジンベエがお茶と団子を持ってきたところで我に返った大典太でしたが、一瞬だけ抱いたその『痛み』は…。いつまでも彼の頭の片隅に残っていたのでした。
 ……もう少し、彼女達とジンベエの様子を見てみましょう。