二次創作小説(新・総合)

ABT⑥『彼女が青龍になった理由』-2 ( No.75 )
日時: 2020/10/25 22:02
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: sNU/fhM0)

 ジンベエにお茶とお菓子をご馳走してもらった2人は、そのままジンベエの装飾品を見せて貰うことにしました。職人を止めてからも趣味で作り続けてはいるようで、気まぐれに誰かの依頼を受けていることもあるそうな。



ジンベエ「売り物としては売ってねえけどな!オイラの気まぐれで、魔物倒してくれたお礼とかに無償で作ってるんだぜ!」

サクヤ「魔物。そういえば先程も言っていましたが…ここいらには魔物が出現するのですか?」

大典太「俺達が店に来るまでに遭遇はしなかったが…」

ジンベエ「お前さんが知らなくても無理はねえ。現れ始めたのは…お前さんが『運営本部』ってのを立ち上げてから随分経った後だ。空中を浮かんでいる奴が魔物を召喚してる、との噂も一時期広まっていたが…。結局原因は分からずじまいで、今も時折街を狙って襲われてな。随時傭兵を雇ってはいるんだが、いつまでも続くと思うとなあ」

サクヤ「成程…。随時傭兵を雇っていてはお金の面で大変ではないのですか?こういうご時世ですし、稼ぐことも困難になっているのでは…」

ジンベエ「あぁ。街のみんなで話し合ってよ、傭兵に渡す用の金を別にとっておいてはいるんだが…。その金も底をつきそうで、無くなったらどうしようかと頭を抱えているのさ」

大典太「その口ぶりだと…。街の連中に戦える奴はいなさそうだな」

ジンベエ「その通りなんだよ…。オイラ達商の才はあっても戦いの才はみーんなすっからかん、ってな。江戸っ子風味の街なのに、頼りないなあとは思うんだけどな」

サクヤ「人には向き不向きというものがございますし、そこは仕方ないと割り切った方がよいと思われます。しかし…魔物の出現が頻発している、という事柄については…こちらに持ち帰らせて、対策を練らせていただきます。
    後日、ゲームが開催していない間に街の長さんと話をつけさせてはいただけないでしょうか」

大典太「…確かに、随時用心棒を雇うよりなら…。事情を知っている者で魔物の討伐に向かえばいい。悪くない条件だと思うが」

ジンベエ「え、ええ?!いきなりそんなことを言われても…。オイラの一存だけでは決定できねえ。町長に話通してから改めて連絡するぜい」

サクヤ「よろしくお願いいたします。…さて、話をずらしてしまいましたし…。ジンベエさん。私そろそろ貴方の装飾品の現在の出来栄えを拝見したいのですが…」

ジンベエ「お、おう!持ってくるから待ってな!」



 うーむ。どうやらオオエドストリートでは、サクヤが『運営本部』を立ち上げた後…半年くらい前でしょうか。魔物が街を襲っているんだとか。幸い現時点では住民への被害はなさそうですが、戦う力を持たない街の人達は、困り果てた末随時傭兵を雇っては追い払ってもらっていたようです。傭兵を雇うお金もただではありません。傭兵にも生活がありますからね。
 それにしても…急に魔物が現れるとは。偶然でないとしたら、誰かが意図的に発生させているのでしょうか。ジンベエの話していた『噂』も一枚噛んでいそうですし…。後々分かってくることなんでしょうね、きっと。

 話をずらしてしまったとサクヤが『そろそろジンベエの装飾品が見たい』と口にしました。元々装飾品を専門で制作していた程の実力を持つ彼。一体どれほどのものなのでしょうかね?
 そのまましばらく待っていると、中くらいの箱を彼は腕に抱え部屋へと戻ってきました。



ジンベエ「お待たせー!この箱に入ってるのは、オイラがこの店を始めてから趣味で作ってた装飾品だぜ!だから…3年かそこいらの作品かな」

サクヤ「意外と近年の作品なのですね。職人としての作品はどうしたのですか?」

ジンベエ「オイラ、ここに越してくる前はもっと都会の方で働いてたんだよ。でも…そこの思い出は、その街に全部置いてきた。作品はオイラの実家に仕舞いっぱなしだぜ」

大典太「そう、なのか…」

ジンベエ「ほーら!見て驚きやがれ!これがオイラの『血と涙と汗の結晶』だーい!」

サクヤ「およよ…」

大典太「………!」



 そう言って勢いよく箱を開けた途端、その中で輝いている淡い光が2人を釘付けにしていました。
 ジンベエが箱に仕舞っていたのは、指輪や髪飾り、首飾りや耳飾りなど『小さな装飾品』。しかし、淡いながらも上品で繊細なその出来栄えに、2人の心は奪われます。



サクヤ「これほどまでのものとは…。素晴らしい作品です」

大典太「世の中にはこんなに美しいものがあったんだな…。…初めて見た」

ジンベエ「ん?大典太さん、見たの初めてなのかい?オイラは詳しいことはよく知らねえが、アンタが刀の時に貴族がしている装飾を見たことは無いのかい?」

大典太「……蔵に仕舞われていた記憶が殆ど占めているんでな。悪いな。出されても床に臥せっている姫の病魔を祓う為…。煌びやかな装飾など見たことが無い」

ジンベエ「そ、そいつは悪かったな」

サクヤ「私もお洒落には無頓着な方でして。大典太さんがこれだけ微笑んでくださるなら、少しはお洒落を学んでおくべきでした」

大典太「……主?俺はそんなに微笑んでいたか?確かに、これを見ていた時は心が安らいだが…」

サクヤ「大典太さんは表情が滅多に出ないですが、出る時は凄い素直なのですよ。今のようにね」

大典太「面と言われると恥ずかしい…」

ジンベエ「赤くなりやがって。サクヤさんにホの字か?え?青春だねえ~!!」

大典太「そういう意味ではない…!茶化すな…!」



 あーあ。ジンベエにからかわれた大典太、唯でさえ髪で面積が狭くなったその赤面を両手で覆ってしまいました。それを見てまた豪快にジンベエは笑い飛ばすのでした。サクヤは心配そうに大典太の背中をさすりながらも、その口元は少しだけ緩んでいたそうな。
 ……そんな中、大典太は『とある1つの装飾』に目を奪われていました。指の間からちらりと『それ』を再度覗きます。それは、紅い椿の花の形をした髪飾りでした。



大典太「(主に、似合いそうだ)」



 ふと、そんなことが頭に浮かびます。自分がこの世界に顕現してから、彼女には迷惑しかかけてこなかった。頭のどこかで、彼はそう思っていました。
 だから…この装飾を見て感心した彼女に、髪飾りでもあげようかと考えていたのです。



サクヤ「ふーむ。この桔梗の耳飾りなど、大典太さんに似合いそうですねぇ。色合いも淡いものですし、大典太さんの黒い柔らかな髪に合うと思います。こちらの山吹の髪飾りは、前田くんのお帽子に似合いそうですね」

ジンベエ「あ、でもそれら3年前に作った奴だから傷ついちまってんだ。贈り物にするなら作り直さねえとなあ~」

サクヤ「え?そこまでは言っていないのですが…」

ジンベエ「がっはっはっは!お前さん達と久しぶりに話が出来てオイラは今上機嫌なんだよ!贈り物の1つや2つ、オイラが繕ってやるよ。オイラとサクヤさんの仲だろ」

サクヤ「でも、良いのですか?今から集めるのでは、材料費もかかるでしょうし…」

ジンベエ「大船には乗っとくもんだぜサクヤさん。勿論、大典太さんも誰かに贈りたいものとかあんだろう?」

大典太「お、俺は…」



 その目を見透かしたようにジンベエは続けます。結構勢いで何でもやっちゃうタイプのキノピオなんですかねぇ…。自分の名前を言われた大典太は肩を跳ねさせつつも、覆っていた手を膝に下ろし目の前のキノコの亜人に向き直ります。
 すると、彼はサクヤに聞こえないように彼に耳打ちをしてきたのでした。



ジンベエ「お前さん、さっきから椿の髪飾り見てたんだろ?オイラにはお見通しだぜ。サクヤさんに渡したいんだろ。いや~。お前さん達、生涯良いコンビになれるぜ絶対!」

大典太「…………」

ジンベエ「あれも傷がついてて渡せねえんだ。だから、頼んでくれればオイラが同じ…いや、あれを超えたものを作ってみせる。どうだい?」



 確かに、ジンベエが持ってきた箱に入っている名指しの装飾品は、そのどれもに小さな傷がついています。それでも2人を虜にする出来なのだから、新品同然だとどうなるのか…。お洒落に無頓着だった彼女に、『彩』を増やすことが出来るのではないか。彼はそう思いました。…近侍だからでしょうか?いや、違う。『彼女の柔らかい表情』を少しでも見てみたい。その気持ちがいつの間にか彼の頭に浮かんでいました。
 大典太の反応を見る前に彼は先程座っていた位置に戻り、胡坐をかいてこちらを見ます。



サクヤ「…では、お言葉に甘えてお願いしちゃいましょうか。私が頼みたいのはこれと、これと……あと、これを。大典太さんも記念に何か創ってもらってはいかがでしょう?これも何かの縁だと思うのです」

大典太「……あぁ。そうだな。俺も依頼することにしよう」

ジンベエ「承ったぜい!あ、お代はいらねえからな。オイラが『趣味』で作ってる物に金は取らねえよ。それで、なんだがよ。近々この近くの河原で花火大会やんだ。本来なら8月くらいに実施予定だったんだが、魔物のことやら何やらで日付でずれにずれて、この日になっちまったんだよ。
     その時にオイラも露店を出す予定なんだ。その時までにお前さん達が依頼した装飾品、必ず完成させて待ってるからよ。来てほしいんだ」

サクヤ「花火大会、ですか。この時期に珍しい…。確かに雪が降る前に行っておきたいですよね。雪景色での花火も儚く、美しいものですが」

大典太「花火、か…。見れるなら、俺も見てみたい」

ジンベエ「よっしゃ!それじゃ決まりだな。最高の一品を作ってやるから、楽しみに待ってろよ?」



 花火大会。そう言ってジンベエは1枚のチラシを見せてくれました。確かに、そのチラシには『オオエド河原 大花火大会』とでかでかと宣伝が書かれています。この時期にやるにはかなり珍しいですが…。まぁ、秋に見る花火というのもまた一興でしょうね。
 ジンベエはその行事に合わせて依頼された装飾品を完成させると意気込んでいます。サクヤと大典太も必ずその祭りに顔を出す、と彼に約束をしました。



ジンベエ「おう!それじゃ、祭りでな!露店もオイラの店以外に沢山出るから、運営本部の連中も連れてこいよ!楽しいぜ」

サクヤ「では、その折には行けそうなメンバーを連れて参りますね。秋の花火というのは私も初めてで。楽しみです。
    …およ、もうこんな時間ですか。長時間居すぎましたかね」

大典太「……あの男、あんたの兄なんだろうから心配はしなくてもいいんだろうが…。俺もそろそろ戻った方がいいと思う」

サクヤ「そうですね。それではジンベエさん、長時間失礼いたしました」

ジンベエ「いやいや!オイラも久しぶりに話せて嬉しかったぜい!それじゃ、また花火大会でな!」

サクヤ「はい。またお会いしましょう。失礼いたしました」

大典太「……失礼する」



 そう言いながら、2人は木の戸を開き帰路へとついたのでした。そんな中……ジンベエは2人の背中を見て、こう思ったんだとか。



ジンベエ「(本当にあの2人、長い間過ごせば『相棒』になれそうな気がすんなあ)」




 一度青龍を居候させた職人の勘なのか。その真意は彼にしか分かりませんね。それにしても花火大会…。どんな出会い、どんな心の変化があるんだか。天の声も楽しみです。