二次創作小説(新・総合)

ABT⑦『生命の輝きは強く、尊いものだ』 ( No.95 )
日時: 2020/11/03 22:03
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: R6.ghtp2)

アクラルから急ぎの連絡を受け、運営本部へと戻って来たサクヤと大典太。
ですが、彼らは全員ラピストリアに赴くことが出来ません。彼らを信じることしか出来ないのです…。

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~運営本部 メインサーバ~



サクヤ「申し訳ありません、只今戻りました」

アクラル「随分と遅かったな。それ程遠い場所だったのか?」

大典太「そういう訳ではない…。これでも急いで帰って来た方だ」

大包平「遅い!!今まで貴様らは何を道草食ってきたのだ!!」

大典太「なんであんたがまだここにいるんだ…」

大包平「困っていそうだったからな。この俺が手伝わないわけがないだろう!」

大典太「……そうか」



 アクラルから急ぎの連絡を受け、メインサーバへと到着した2人。大包平に『遅い』と悪態をつかれてしまうものの、これでも割と急いで来た方なんですよ。
 勿論戻ってきた理由は『ラピストリアでの事件』。ジェイドが放った言葉をしっかり本部の方でもキャッチしており、対策に追われていました。



アクラル「まさか事件の元凶が天界と繋がってやがったとは。まさか…『アンラ・マンユ』とかいう奴の仕業なのかよ?」

ニア「一枚噛んでいる可能性は充分ございます、わ?彼が神になることを生業としているのならば猶更、です…」

サクヤ「それで、ラピストリアの生徒達の状況はどうなっているのですか?」

ルーファス「こっちから見た限りだと…。本部に在籍している学生達は全員無事。まだ『ラピス』とやらも汚染されていないよ。だけど…それ以外の生徒達の被害が甚大だね。急いで対策を立てないと…彼らに被害が及ぶのも時間の問題だ」

カラ松「何か手はないのか?…やはり、オレ達は介入できないから無理なのか?」

チョロ松「無茶言うなよ…。唯でさえ僕達はあの世界に入れないんだ。出来ることなんてこっちからの遠隔支援だけさ」

アクラル「それも限度があっかんなー。一応今エムゼが生徒達に指示をして、ラピスに色を戻すよう頼んではいるらしい。あいつらは今その対応に動いているはずだぜ」

サクヤ「成程。状況の説明ありがとうございます」



 アクラルから大体のことを聞いたサクヤ。彼女は少し考えた後、こう続けます。



サクヤ「昔から『餅は餅屋』と言いますからね。我々は下手に手出しをしない方がいいでしょう」

十四松「それってつまり、ぼく達は何もせずに見守ってろ、ってことー?それでけがしたらぼく悲しいよ…」

マルス「ぼく達が何も出来ない以上、そうするしかないだろうね。下手に支援をして、逆に彼らを追いこんでしまっては元も子もない」

アカギ「心は痛むだろうが…どうか今はこらえてくれ…」

十四松「うん…」

サクヤ「それに、です。今回ばかりはえむぜさんが大きく関わっています。彼はゼウス様にとっても『お気に入り』の存在でしょうし…。彼を傷付けてしまえばゼウス様が直接動くのは明白。今ジェイドくんに『影から』手を貸している状態である以上、向こうも下手に手出しはしてこないと踏んでいます」

大典太「……今最高神に動かれてしまっては、あいつらの『今後の目的』にもヒビが入る…。主はそう考えているのか?」

サクヤ「はい。メフィストのように、直接手出ししてこないのが大きな理由です。それに…ラピスの汚染程度なら、少し本気を出せばえむぜさん1人で全部解決してしまうでしょうし」

アイク「それでも、俺達にも何か出来ることはあるはずだ。……技術的なところは協力が出来ないが」

ベレス「適材適所があるからね…」



 MZDに直接手出しをしてしまった以上、ゼウスが出てくるのは時間の問題。ジェイドの背後にいるであろう『神』は今回出てこないであろうとサクヤは踏んでいました。だから、自分達も下手に支援をせず、ここで出来ることをしようと提案したのでした。
 その後、技術に詳しい人物を中心に逃走者と学生達をすぐに転送できるゲートの準備をしに行きました。様子を見ていたYUMAがぽそり、と口にします。



YUMA「随分と性善説を信用しているんだな。もし裏の裏をかいて、神々が直接出てきたらどうするんだ?」

ヴィル「納得できていないようだな。…確かに、貴殿の言う通り学生達に神が直接損傷を与えに来る可能性もある。しかし…だ。交流祭を始めると手紙が来た時から今まで。―――『神々が直接手を下して来た』確証はあったか?」

リピカ(Y)「た、確かにないけどっ!気分が悪くなったのだってあのジェイドが原因なのははっきりしてるんだし…。でも!来ない可能性が100%じゃないのさ!」

YUMA「そうだ。神にも『ココロネ』があるのなら、お前達が言っている『腐った神々』にもあるんじゃないのか?それが。悪い心にもそれは芽生えるんだろ?」

ゆめひめ「ちょ、ちょっとYUMAさん!そんな喧嘩腰で聞いちゃ駄目だって!みんな仲良く、だよ!」

ヴィル「マルクから軽く話を聞いたようだが。確かに『ココロネ』というものはあらゆる生命に存在する。だが、天界の神々の一部には『それがない』。私はMZDからそう聞いている。だからこそ、人を平気で傷つけられるのだと私は考えている」

ブレディ(ゆ)「心が無いから、簡単に人を傷つけられるってのかよ」

ノワール(ゆ)「絶望の未来にいた…。あいつらを思い出すじゃない…」



 YUMAとリピカは納得できていない様子。1mmでも神が襲ってくる可能性がある以上、ラピストリアに何か支援をするべきだと。しかし、ヴィルヘルムがその考えを一蹴しました。神々が実際に今回のゲームの妨害を『直接』してきていない以上、こちらも下手に刺激するものではない、と。
 ココロネが無いのは魔族だけではありません。神々の一部もまた、心が無いから。MZDを神様に出来たんでしょうね。平気で…彼の『人間としての人生』を奪った彼らには。

 それでもしかめっ面をやめない2人にヴィルヘルムは優しく諭します。



ヴィル「サクヤがまだ信じられないか。だが、彼女はそういう神なのだ。善でも悪でもない。助けを求める生命があったら、誰であろうが手を伸ばす。だからこそ、我々が種族を超えて協力できているのだ。普通ならば魔族が神と交流を共にするなど…あり得ん話だからな」

ノワール(ゆ)「善は善、悪は悪…。普通なら絶対に交わることが出来ないものよね…」

ブレディ(ゆ)「交流祭で事件解決の為に頑張ってる学生の奴らも、同じってことか…。世界は違えども、目的は一緒…。だから、頑張れんのかもな…」

ヴィル「そういうことだ。だから、我々が下手に手を貸す必要はない。…それに、彼らは私から見ても『強い心』を持っているからな。想定外のことに怯える奴らでもあるまい」

ゆめひめ「『強い心』か…」



 ヴィルヘルムもまた、事件解決に乗り出している学生達を信じていました。彼らならばやり遂げてくれる、と。下手に手助けすることは彼らを信じないことになる、と。そう口にしたのでした。
 どことなくピリピリとした空気に耐えられなかったのか、愉快な声がメインサーバの向こうからこちらに向かってきます。



ごくそつ「なんでぼくがいないのにピリピリしてるんだよ~!まったく!魔族の癖にぼくに仕事を押し付けないでよね!」

ヴィル「貴様が適任だからMZDが頼んだまでだ。私が指示した訳ではない。…だが、こんなにも早く戻ってくるとは思っていなかったが。まさかさぼった訳ではあるまいな?」

大包平「さぼって等いない!主の得意分野での技術を存分に発揮したまで。俺も地味な作業は得意だ。だから、見よう見まねで手伝った。そうしたら早く終わった。それだけの話だ」



 ヴィルヘルムの顔面を蹴るかの如く現れたごくそつくんと、彼の後を追うように歩いてきた大包平。そういえば内番でも『地味な作業は得意だ』とか言ってましたもんね。この世界のごくそつくんは武器マニアで、手先が非常に器用なんですよ。ロボットまで自作出来ちゃいますからね、彼。
 ゲートの機能拡張が終わったことに驚いているヴィルヘルムをよそに、サクヤも彼に話をします。



サクヤ「ごくそつさん。ありがとうございます。今回ばかりはとても助かりました」

ごくそつ「きょひょひょ!持つべきものはともだちってね~!ま、ぼくとおまえがともだちになった記憶なんてまぁ~ったくないけどね~!きょひょひょひょ~!!
     でも、おまえはいけすかない奴じゃないのは分かってるよ!5回目の時だって、マリオの助太刀を邪険にしないで素直に受け入れてたじゃないか。だから、おまえたち兄妹のことはぼく、信用してるからね!利用するかもだけど!」

ヴィル「貴様…」

アクラル「まぁな。ごくそつがいたからこそこんだけ早く拡張が終わったわけだし。ヴィルも今回ばかりはごくそつに感謝しろよな~?」

ヴィル「グググ……」

大典太「嫌そうだな…」

大包平「俺の主の凄さが分かっただろう大典太光世。貴様も貴様の主の近侍に恥じない動きをしろ。主に相応しい近侍として主命を果たすのだな。俺が言いたいのはそれだけだ。そうでなければ『張り合い』というものが無いからな!」

大典太「……俺は別にあんたと張り合いたい訳じゃないんだが…」

大包平「貴様!なんだその言い草は!!折角この俺が話してやってるというのに…!!」

前田「ま、まぁまぁ。お二人とも、落ち着いてください。僕達に出来ることは全部やりましたし、あとは彼らを信じましょう」



 2人が手伝ってくれたお陰で、ラピスに色を戻した後の事後処理は何とかできそうですね。あとはあの世界にいる学生達に託すしかありません。何とかして頑張ってほしいものですが。
 大包平が張り合うように自分の主を自慢。そんな彼にも、大典太は後ろめたさを覚えていました。……やはり、彼とは違いサクヤと『仮の契約』しか果たしていないことを気にしているのでしょうか。

 各々持ち場に戻った後も、どこかどんよりとした顔が続いています。そんな彼に、サクヤは優しく話しかけたのでした。



サクヤ「大典太さん。大包平さんが仰っていたことを気にされているのですか?」

大典太「……気にしていないといえば、嘘になる。俺は…やはりあんたの近侍に相応しくないんじゃないかと、ふと思ってな。あいつを見ていたら…ふっと頭にその言葉が思い浮かぶんだ」

サクヤ「……そんなことはありません。これは私の身勝手です。大典太さんを振り回しているのは私ですよ。それに…本来の契約が出来ない原因も、私にあるのですから。大典太さんは何も悪くありません」

大典太「謙遜はよせ。どうせ俺のせいなのは分かってる…」

サクヤ「本当に違うのです!ちゃんと聞いてください。……私が元々『龍神』という一柱の神だということは、あの商店で話しましたよね?」

大典太「あぁ。そうだが…」



 やはり大典太は大包平の言ったことを気にしていました。『主に相応しい近侍になれ』と。その言葉が脳裏に引っかかっていました。そのことを小さく彼女に打ち明けると、サクヤは『そうではない』と言い、『大典太と契約が出来ない理由』を口にしたのでした。



サクヤ「私はね。怖いのです。こんなこと、兄貴に感情を渡してから抱いたことがありません。『貴方を壊したくない』という思いが…。つい最近、少しずつ大きくなっているのです。私の感情のせいで、力のせいで、前田くんも…大典太さんも…折りたくないのです」

大典太「…………」

サクヤ「前田くんの気持ちに折れて、彼とは契約を果たしてしまいました。が…。勿論前田くんも折らない様に細心の注意は払います。ですが…。この気持ちが、もっと大きくなってしまったら。結果的に、未来で折ってしまうでしょう。だから、したくても出来ないのです。危険な力には触れない方がいい。貴方が一番良く分かっているはずです」

大典太「……あんた、心の奥底に…。そんな本音を仕舞って…」

サクヤ「―――はっ。すみません、余計なことまで口走ってしまいました。このことはお忘れください。感情を失った神に、余計な感情など必要ありません。ですよね、大典太さん。仕事に戻りましょう」

大典太「…………」



 彼は、サクヤが一瞬だけ表に出した『悲しみ』の色がしっかりと見えていました。あの商店で彼女は確かに『アクラルに感情を渡した』と言いました。アクラルが過剰な程に表情豊かなこともあってか、それは本当なのでしょう。
 しかし…。『何か』をきっかけに、その感情が『新たに生まれてきていた』としたら?それに怯えていたとしたら?また、昔のように世界を壊してしまう程に大きくなってしまうと恐れていたとしたら?
 ……一瞬の『恐れ』。自分が人間に抱いたのと同じ。彼は彼女のそれを感じ取っていました。



大典太「(……今は答えが見えてこない。だが…。主が、1人で相当重いものを抱えていることだけは、分かる。今、俺に出来ることは…。これから、俺がやるべきことは……)」




 彼が『自分なりの答え』を見つけるまで。少しだけ道が開けてきたのかもしれませんね。
 サクヤに一瞬宿った『悲しみの感情』といい…。ゼウスが刀剣達を顕現させてから、少しずつ。少しずつ。何かが変わり始めているのかもしれません。
 自分を…見つめ直す日が来るのも、そう遠くないのかもしれませんね。