二次創作小説(新・総合)
- Re: ポケットモンスター 異界のトレーナーと呪われし姫君 ( No.1 )
- 日時: 2020/10/22 23:42
- 名前: アイシス ◆cW98CwF.kQ (ID: 66mBmKu6)
その日、冷泉 礼桜 は我が目を疑っていた。
自宅で帰宅後、うっかり遅い昼寝をし目が覚めたら知らない場所にいた。何ともホラーな現象である。
目の前には広大な草むら、そこを我が物顔で歩くのはゲーム機の向こうで見たことがある連中ばかりだ。
「な、なんでポケモンが……」
空にはヤヤコマがいて、目の前にはコラッタとかジグザグマがいて。
幼い頃より遊んできたゲームに出てくる、ポケモン達が何故かそこにはいる。
夢かと思い頬をつねったら、すごく痛かった。
「た、助けてくれー!」
(なんだ?)
悲鳴を聞いた礼桜が駆け寄ると、中年の男性がジグザグマに追い回されていた。
男性は白衣を着ており、なんとなく博士っぽいなと思っていると礼桜はうっかり目が合ってしまう。
「そ、そこの君! 近くに私の鞄の中に、モンスターボールがある! そこからポケモンを出して、バトルするんだ!」
助けを求められ無視するのも悪いと思い、礼桜は博士の元に近づく。
確かに、草むらの中に革の鞄が放置されていた。
中を確認すると、一つのモンスターボールが入っている。
(……なんかゲームでこんな展開、あったよな)
ゲームのような展開に戸惑いながらも、礼桜はモンスターボールのスイッチを押して見る。
すると、ボールが開き中から赤い光が飛び出してきた。
見た目は二足歩行をする、獣人のようだった。身体は青いが、足や目の側にある房のようなものは黒かった。
(お、リオルか)
礼桜がじっと見つめると、リオルは何かを感じ取ったのか見返してくる。ややあって、張り切るように鳴いた。
「よし、頼むぞ。リオル。そうだな、あのジグザグマに『でんこうせっか』はできるか?」
うろ覚えの知識で技を指示すると、リオルは目にも止まらぬ速さでジグザグマに突っ込んだ。
博士を追うのに集中していたジグザグマはもろに吹っ飛ぶが、上手く受け身をとって着地した。そして、敵意をリオルへと向ける。
後ろ足で砂をかけようとするが、そのすきを礼桜は逃さない。
「リオル、『でんこうせっか』だ」
リオルは砂をかけられる前に、素早く行動。ジグザグマに、思い切り体当たりをくらわせた。
軽く悲鳴を上げると、ジグザグマはその場から逃走していく。
バトルが終わり、礼桜はほっとしていた。
そこへ、リオルが駆け寄ってくる。
「ありがとうな、リオル。助かった」
そう礼桜が声をかけると、リオルは手を差し出した。そのまましばらく固まったかと思うと、やがて嬉しそうな鳴き声を上げる。
「いやあ、見事だったよ!」
拍手の音に振り向くと、例の博士が鞄を手に立っていた。
「私のリオルを使い、ジグザグマをあっさり倒すとは。素晴らしいトレーナーだよ」
「トレーナーって……私、ポケモンは持っていませんが」
そう礼桜が伝えると、博士はぎょっとした。
「な、君! まさかポケモンを持たずに草むらに入ったのか! 危ないだろう!」
「す、すいません」
そういえばゲームの序盤で、ポケモンを持たずに草むらに入ると注意されていた。
この世界でも、そうらしい。
「とりあえず、話は私の研究所でしようか。すぐそこだからね」
それから礼桜は、博士――シラカバと言うらしい、に研究所へと案内された。
帰る場所もないので、とりあえず情報収集の為なすがままにまかせていたのだ。
高台の上に建てられた研究所は、遠くからでもよく目立つ。
「礼桜君、このサクタウンはちょっとした観光地でね、すごく坂が多いのは難点だが……温泉と海が名物なんだよ」
「確かに、この高台の下は温泉街のようですね。遠くに見える海も綺麗です」
高台の上からは温泉街、遠くには青い海が一望できる。中々の絶景だ。
坂が多いのは気になるが、礼桜にはちょっとした運動でちょうどよかった。
やがて坂を登りきると、シラカバ研究所にたどり着いた。
円形型が特徴的な建物で、隣には色々なポケモン達がいる牧場に似た場所が隣接している。
「さあ、ここが我がシラカバ研究所だ! どうぞ、入ってくれ」
「お邪魔します」
シラカバ博士に促され、礼桜は中へ足を踏み入れる。
ゲームだったら、主人公が博士から初めてのポケモンを貰うシーンだ。自分も先程のリオルを貰えるのか、と淡い期待を懐きつつ礼桜は進んだ。
しかし、研究所の中はめちゃくちゃになっていた。家具が横倒し、ひっくり返り、床には書類や本が散乱している。強盗にでも入られたかと錯覚してしまう。
「な、これは……」
「シラカバ博士!」
シラカバ博士が呆然としていると、同じく白衣を着た女性が駆け込んで来る。恐らく、この研究所で働く助手と言ったところか。
「この状況はどうしたんだ!」
「そ、それが突然強い風と大量の葉っぱが飛んできて……」
強い風と葉っぱの単語に、礼桜はある技をイメージする。
(風と葉っぱと言えば、草タイプの大技リーフストームか? 犯人は草タイプのポケモン……?)
そう言って辺りを見渡した礼桜は、床にピンク色の花が落ちているのを見つけた。
ピンク色の花弁が六つあり、その下に緑の葉が二つついた花である。
(花? 何だ、あれ)
考え込む礼桜の横で、助手は矢継ぎ早にシラカバ博士へ現状の報告をしていた。
「幸い機械系統にダメージなありませんでしたが……風のせいで、研究所はめちゃくちゃです! おまけに驚いた初心者用ポケモン達が外の庭園に逃げ出してしまって。もうてんやわんやですよ!」
「初心者用のポケモン達はどうしたんだ?」
「フシギダネは自分で戻ってきて、ゼニガメは先程捕獲しました。けれど、ヒトカゲがまだ見当たらなくて……」
(ここ、カントー地方なのか? けど、ゲームにサクタウンなんてなかったぞ)
ゲームでは初心者用ポケモンがフシギダネ、ヒトカゲ、ゼニガメの三匹なのはカントー地方である。
しかし、ゲームにアサヒタウンなる地名はなかったはずだ。
突然ポケモンがいる世界に来て驚いているというのに、さらに未知の土地に来てどうすればいいか分からない。
「礼桜君」
「あ、はい」
シラカバ博士に名を呼ばれた礼桜は我に返り、返事をする。
「ヒトカゲを探すのを手伝ってくれないか? 隣接している、研究所の庭は広くてね。ニャースの手も借りたいくらいなんだよ」
ちらり、と庭を見るとそこには様々なポケモンがうろついている。多分、襲ってくることはないと思うが一人で外に行くのは恐い。
「けど、その庭ポケモンがいますよね? 私はポケモンを持っていません。もし、襲われたら……」
「それなら、ほら」
シラカバは例の鞄からリオルが入ったモンスターボールを取り出し、差し出してきた。
「このリオルを君に貸し出そう。どうやら、礼桜君のことを気に入ったようだからね」
「ありがとうございます。分かりました、協力させてください」
モンスターボールをしっかりと受け取ると、礼桜は協力を申し出た。すると、シラカバ博士は助かるよと言って微笑んだ。
「危険な場所は私と助手達が探すから、礼桜君は大人しいポケモンが多い安全な場所を探してくれ」
だが、とシラカバは真剣な顔つきになった。
「もしかしたら、この研究所を荒した犯人がいるかもしれない。見つけたらすぐに逃げて、大人を呼ぶんだよ」
「……はい」
礼桜はしっかりと頷き、庭を見つめる。緑や森があるそこには、ポケモン達が楽しく過ごしている姿しか見えない。研究所を荒した犯人など、いそうになかった。
「広いなぁ、リオル」
リオルもそうだね、と言いたげに鳴いてくれた。
研究所の庭、と言うが相当に広い。草原や森がどこまでも広がり、その中を色々なポケモン達が気ままに暮らしている。
礼桜が探索を任された区域は、安全と言うだけあり何とも牧歌的な光景が広がる。
礼桜は改めて広大な草原を見渡した。
この中からヒトカゲ一匹探すと言うのも、非常に骨が折れそうである。
「こんな広い中から、ヒトカゲを探すのか。……参ったな」
礼桜がため息をついていると、リオルは奇妙な動きをしていた。
右手を前に突き出し、目を閉じている。黒い房が微かに揺れていた。
(そうか! リオルは波動が使えるんだったな。それで、ヒトカゲの波動を読み取れば……もしかしたら)
このポケモン世界には、波動なるものが存在している。
確か物体が放つオーラのようなもので、リオルとその進化系であるルカリオはそれを感じることができるのだ。
早速何かを感じたらしく、リオルは駆け出した。その後を追うと、草むらの影になっているところにポケモンがいた。
二足歩行のトカゲのような見た目で尻尾に炎が灯ったポケモン、ヒトカゲである。
怖い思いをしたのだろう、丸くなって震えていた。
「すごいぞ、リオル」
褒めると、リオルは得意気な顔をした。中々可愛げのあるポケモンだ。
「無事か、ヒトカゲ」
礼桜が声をかけると、ヒトカゲはおずおずと出てきた。臆病な性格なのか弱々しく鳴いている。
「怖くない、大丈夫だ」
身を屈め、怖がらせないよう優しく声をかける。するとヒトカゲは警戒を解いたのか、ゆっくりと礼桜の元に歩み寄ってきてくれた。頭を撫でても、逃げない。
「ヒトカゲ、シラカバ博士達が待ってるぞ。研究所に帰ろうな」
そう言うと、ヒトカゲは草むらの奥を不安そうな瞳で見つめた。
気になった礼桜が草むらをかき分けて進むと、草に紛れてボロボロのポケモンが倒れていた。
「おい、大丈夫か!?」
ぎょっとした礼桜が声をかけるが、ポケモンの反応はない。
ポケモンはハリネズミに似た身体を持ち、背中に草を背負ったような姿をしていた。記憶だと、シェイミと言う珍しいポケモンだったはず。
他にトレーナーがいるのか、首輪をしていた。鳥が翼を広げたようなデザインが刻まれた金色のメダルがついている。
「早く、博士のところに連れて行かないとな……」
シェイミの全身はボロボロで、手当をしないとまずいだろうことが分かる。
とにかく博士のところに戻ろうと、礼桜はシェイミをそっと抱きかかえた。
その後、礼桜はシェイミを抱えて研究所に戻った。
ヒトカゲが見つかったことに博士達は安堵するも、ボロボロのシェイミに驚いていた。
シラカバ博士曰く、シェイミはこの研究所のポケモンではないらしい。草タイプであることから、研究所を荒らしたのはこのシェイミではないと博士は考えているらしかった。
それでも、きちんとシェイミの手当はしてくれる。
「あのシェイミは大丈夫だ。薬を塗っで二、三日寝ていればすぐに治る」
「安心しました」
台の上で眠るシェイミは、全身を包帯で巻かれすやすやと寝息をたてている。一安心だ。
「このシェイミには、トレーナーがいるのでしょうか」
「ボールを当てたけど、ゲットできなかったんだ。トレーナーがいるはずだ」
一度ゲットされたポケモンは、他人がゲットすることはできないのだ。
「助手たちと手分けして探したけど、人の姿は見当たらなかった。恐らくトレーナーとはぐれたんだろう」
「はぐれた、ですか」
「逃してない場合は、迷子ポケモンだろうな。何かのきっかけでトレーナーとはぐれ、一匹で探していたらこんなボロボロになった……だと思うな」
礼桜は思わずシェイミを見た。
あの怪我の具合から見て、無理をしてトレーナーを探していたのだろう。よほど懐いていたに違いない。
きっと、トレーナーもシェイミを探しているだろう。そう思うと、何か協力できないか考えてしまう。
「そういえば、礼桜君はどうしてあの1番道路に一人でいたんだい?」
「あー……えーっと……」
上手い答えが見つからず、礼桜は返答に窮してしまう。
異世界から来ました、と言って信じてもらえる訳がないだろう。どんな言い訳がいいか悩んでいると、シラカバ博士は困ったように微笑んだ。
「すまない。言いたくないなら、言わなくていいよ。そういう子、珍しくないから」
「そうですか?」
「親にトレーナーになるのを反対され、黙って家出する子とか色々見てきたよ。でも、そういう子程覚悟ができてるからいいトレーナーになれるんだよね」
そして、シラカバ博士は礼桜の黒い瞳をじっと見つめてくる。
「あえて、礼桜君の事情は聞かない。ただ、私は知りたいんだ。君に、トレーナーとなる覚悟があるかどうか」
「私は……」
「ポケモンとの旅は、とても楽しいよ? だけど、何もかも一人でやらないといけないのは大変だ。現に、旅に出てもほとんどはそれが辛くて止めてしまうんだ。それで最初のポケモンはペットになって、おしまい。それが現実だよ」
これがゲームのような絵空事でないと、礼桜は分かっている。さっきリオルと行ったバトルは、臨場感がありすぎた。
ゲームなら簡単に旅ができるが、この世界で旅をするなら何もかも自分でやらなければならないのだろう。大変なことは重々承知だ。それでも。
「それでも、私は旅がしたいです」
元の世界に戻るためには、旅をして情報を集めなければ。泣いていたって始まらない。