二次創作小説(新・総合)

打ち上げ ③ ( No.116 )
日時: 2021/01/19 22:58
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: 6..SoyUU)

 お風呂をゆっくり満喫した3人と二振は、遅くならないうちに本部に戻ることにしました。
 彼らが帰還する少し前。医務室におそ松を連れてきたサクヤは早速リサに『悪魔の影響が出ていないか』を確認するよう頼みました。





~運営本部 医務室~



リサ「サクヤ。彼が悪魔にされたっていう『おそ松』?」

サクヤ「はい。ご兄弟に許可を取って、一足先に診ていただこうと思いまして。その方が目覚めて、ご兄弟と再会した時に安心して話が出来ると思ったのです」

リサ「成程ね。流石に人外のことを人間の2人に頼むわけにはいかないし。コハクと蜜柑には打ち上げを楽しむよう言ってあるから、一度ベッドに降ろしてもらえるかい?」

サクヤ「了解いたしました」



 コハクと罪木さんではなく、珍しくリサが医務室でスタンバイしていました。どうやらたまには打ち上げを楽しんでほしいと自分が医務室の管理を変わったそうなのです。タイミングが良かったですね。サクヤはおそ松のことについて説明。すると、彼は『診るからおそ松をベッドに降ろしてほしい』と告げたのでした。
 指示通りおそ松をベッドに横たわらせる彼女。こんなに刺激が起きたのに、おそ松はぐーぐーといびきをかいて寝ています。



リサ「随分と気持ちよさそうに寝ているね…。助けた時からそうなのかい?」

サクヤ「実はそうなのです。三つ子さん達と合流した時からすやすや眠っておりまして。悪魔に乗っ取られていた影響が大きいせいなのかもしれません」

リサ「精神が驚いた影響を受けているのかもしれない。……今彼の中に『人外の魔力』が残っていないか診るから、そこの椅子に掛けて待ってておくれよ」



 そう告げると、サクヤを椅子に座らせたリサは早速おそ松が横たわっているベッドへ。そして、彼のお腹辺りを擦って自分の魔力を循環させ、彼の中に不都合なものが残っていないかの確認を始めました。
 リサ曰く、彼に悪い影響が出る魔力が体の中に残っている場合…。彼の魔力が赤黒く光るとのことですが。サクヤが目を凝らしておそ松のお腹を巡る魔力を見ますが、キラキラとした透明な渦以外に見えません。―――しばらくした後、彼は静かに頷いておそ松から手を離しました。



リサ「……大丈夫。彼に残っている悪い魔力は無くなっているようだ。完全に悪魔を祓えているみたいだね」

サクヤ「そうですか…。リサさん、お忙しいのにありがとうございました」

リサ「いやいや。私もかつては本部を襲ってしまった身だからね…。こんなことで良ければ、いつでも手を貸すさ」

『うう……ん……』



 おそ松の後遺症はなし。良かったですね。その言葉を聞いて安堵した彼女の耳に、ベッドで寝ていた青年の声が聞こえてきます。どうやら長い長い眠りから目覚めたようですね。彼は頭を上げた後、きょろきょろと辺りを見回した後目を見開いて叫びました。



おそ松「どこ!!どこここ?!」

サクヤ「落ち着いてください。ここは運営本部ですよおそ松くん。自分に何が起きたか覚えていますか?」

おそ松「げっ……!―――カラ松に殴られそうになったところまでは覚えてるんだけど…。なんかその前も記憶が曖昧でどう説明すればいいかわかんないんだよな…」

サクヤ「そうですか。……まぁ、貴方にも悪い思い出ですので無理に思い出さなくて大丈夫ですよ。もうじきカラ松くん達が本部に帰還しますし、メインサーバでゆっくりとお話ししましょう」

おそ松「っ……。助けられたのには変わりねーし、分かったよ…」



 おそ松はサクヤに気付くなり苦い顔をしますが、自分が何をしたのかは朧気に覚えている為何もいうことが出来ません。そろそろカラ松達が戻ってくるとのことで、今後の話はメインサーバでしようと彼女から提案を持ちかけられました。反論も出来ないので、渋々頷くおそ松。
 サクヤはリサに改めてお礼を言って、おそ松を連れてメインサーバへと向かうのでした。









~運営本部 メインサーバ~



アシッド「おやサクヤ。打ち上げはいいのか?」

サクヤ「アシッドさん。お疲れ様です。兄貴達はまだ会場に?」

アシッド「あぁ。物珍しさを感じた作者達に揉まれて戻れなくなっているところだよ」

サクヤ「そうですか…」

おそ松「(あ、こいつ確か…。一松が電話に出てたって奴?)」



 メインサーバではアシッドが1人で机に向かいコーヒーを嗜んでいました。やりたいことがあるからと、1人打ち上げ参加を切り上げて戻って来たんだそう。……アクラルとアカギが作者のおもちゃになっているところを見ると、1人逃げてきたようにも思えるのですが気にしないでおきましょう。
 アシッドはおそ松を見るなり、じーっと彼の顔を見つめます。何か気にかかることでもあるのでしょうか。



おそ松「……俺の顔見てどしたの?おかしい?」

アシッド「いや。―――完全に悪魔は祓えたのだなと改めて思ってな。この運営本部にいい感情を持っていないことは良いにしても、それをダシにされて兄弟に迷惑をかけたことは許されることではないな」

おそ松「それは、分かってっけど…」

サクヤ「その辺も含めてカラ松くん達が戻ってきてからにしましょう」



 おそ松、やはり本部の面子に良い感情を持っていないのは変わらないようで…。まぁ、カラ松達の気持ちを聞いたとはいえ。一度抱いた感情を中々払拭することは難しいことですからね。
 そんな話を続けていると、彼女の耳元に声が。どうやら近侍が念話で報告をしに来たようです。



大典太『……主。大典太光世だ。本部に到着したんだが…どこに向かえばいい』

サクヤ「おかえりなさいませ皆様。メインサーバにおそ松くんといますので、真っすぐ来てもらえますか?」

チョロ松『えっ?おそ松兄さん起きたんですか?!』

サクヤ「はい。元気です。ピンピンしてますよ」

カラ松『よ、良かったぁ~~~……』

チョロ松『腰を抜かすなバカラ松!!!そういうのはおそ松兄さんを直に見てからにしろ!!ほら、いくぞ!!!』

大典太『……メインサーバに向かえばいいんだな。承知した』

サクヤ「お待ちしておりますね」



 おそ松が起きたことを伝えると、それを聞いた三つ子が安堵したようにため息を着きました。あの後中々起きませんでしたからね彼。そうなるのも無理はない。早めに連れていくと大典太が告げたところで念話は途切れました。とりあえず、今は彼らを待ちましょう。
 ―――しばらく待っていると、向こうから賑やかな話し声が。その数刻後、3人と二振がメインサーバに顔を出したのでした。



前田「主君。只今戻りました!」

サクヤ「お帰りなさいませ皆様。温泉楽しめました?」

大典太「……温かかった」

前田「温泉なのですから温かいのは当然でしょう!凄く気持ちよくて、紅葉も綺麗で…。楽しかったです!」

サクヤ「それなら良かったです。カラ松くん達も……何よりです」



 大典太と前田を迎えたサクヤ。その隣でおそ松に泣きながら抱き着く三つ子を見ながら、そんなことを言ったのだとか。そりゃ本当に心配で心配で、本部の連中に無断でアオイの島まで追いかけるくらいでしたからね。
 検査の結果、後遺症もないということを伝えると、3人は腰を抜かしたように各々椅子に座ったのでした。



チョロ松「全く。どこまでも心配かけるなよな…。まぁ、あの後何もなくて本当に良かったよ」

おそ松「……おう」

十四松「にーさんなんか歯切れ悪いね!どうしたの?いつものにーさんらしくないよ?」

おそ松「いや、だって、曲がりなりにもお前らに怪我させようとしたじゃん?」

カラ松「お前の本心を悪魔に利用されてただけだから気にしてないぞ。ちゃんとお前はこうして元に戻ってここにいるんだから。今はそれだけで嬉しいよ」

十四松「うんうん!」

おそ松「……はぁ~~~。1人で悩んで、病んで、バッカみてえ。松代にも迷惑かけたしちゃんと謝らないとな…」

チョロ松「そうだよ!一番心配してたの母さんなんだから。帰ったらちゃんと母さんと話しろよ」

おそ松「……ここに残ったの、お前らが自分で決めたことなんだよな。松野家を見捨てたわけじゃないっての。その言葉が、現実に引き戻してくれたんだよ。―――俺が大きな勘違いしてたんだって、気付かせてくれたんだ」

カラ松「そうか…。―――だが、おそ松」

おそ松「?」



 虚空を見つめるようにおそ松がそう呟きます。カラ松はそんな彼を見守りつつ、彼の目の前に仁王立ち。何をするかと思えば……。思いっきり、『ゴチン』と頭をげんこつで殴ったのでした。
 あまりの音に近くで見守っていたサクヤと刀剣男士達も驚きを隠せません。



おそ松「いってえ!何するんだよ!!」

カラ松「愛のゲンコツだっ!!本当はチョロ松の分や十四松の分、一松やトド松、母さんの分もやってやりたかったがお前が耐えられないと思うから一発で済ませてやる。
    ―――お前、自分がどれだけ松野家に愛されてるかこれで分かっただろ?」

大典太「……愛の鞭、というやつなのか」

サクヤ「驚きましたが、美しき兄弟愛ですね」

おそ松「勝手に母さんに迷惑かけて、お前達にも危険晒して…。ごめん。悪かった」

チョロ松「いいよもう気にしてないし。その代わり。もう二度と変な誘いには乗らないでよね。次こんなことがあったら兄さんのケツ毛燃やすだけじゃ済まさないから」

おそ松「チョロちゃんケツ毛は勘弁して~?」

十四松「兄さん?兄さん燃えるの?」

サクヤ「燃やしては駄目です」

前田「主君。それは言葉のあやだと思いますよ」



 おそ松もばつが悪そうに謝罪の言葉を述べ、お互いの気持ちが分かったところで仲直り。これで一件落着ですね。
 ……タイミングのいい頃合いを図ったのか、アシッドがいつの間にか松野家の後ろにスタンバイしてこんなことを告げてきました。流石に背後から急に声がかかったのにはおそ松も驚いた様子。



アシッド「いや。驚かせるつもりはなかったんだ。すまないね」

おそ松「な、何だよ…」

アシッド「そう。君…Mr.オソマツ、だったかな。君に用があって声をかけたんだ。君……これから
どうするんだい?ニートに戻るのかい?」

十四松「おそ松にーさんは多分家に戻るだろうし…。ニートに戻るんじゃない?」

チョロ松「でもなー。母さんに事の顛末話したところで、『そろそろあんたも働いたらどうなの』っていうと思うからなー。そろそろ兄さんも覚悟決めた方がいいかもしれないよ?」

おそ松「えー?!やだやだ働くとか絶対に嫌だ!!!」

カラ松「ある意味わかり切っていた答えが聞けて安心したぞ」

アシッド「そうか…。社交的で他人とのフットワークも軽い君に、是非私の秘書をこれから頼もうと思っていたのだが…」

サクヤ「……ん?」

大典太「………?」

チョロ松「待って。アシッドさんもう一度。ワンモアプリーズ」

アシッド「Mr.オソマツを『私の秘書』として雇おうと言ったのだが」





『…………』


































『……えええええええっ?!』



 なんとアシッド、おそ松を自分の社長秘書にスカウトする為に声をかけたのです!なんのつもりですか貴方!邪神も神様も腹の内が読めない奴ばっかりだとは思っていましたが。アシッドも例に漏れず、です。
 直接その言葉を聞いたおそ松よりも、傍でそれを聞いていた3人の方が驚いているではありませんか。



チョロ松「ちょっと待って?!こいつ小学5年生のまま大人になってんの!!そんな奴が働けるわけないでしょ?!何言ってんのアンタ?!」

おそ松「チョロ松!!俺の悪口を言うなよ!!それに俺は働くつもりなんて毛頭…」

アシッド「完全週休2日、有休も可能な範囲であれば好きに取ってもらって構わない。福利厚生も会社に言ってしっかりと君にも適用しよう。
     ……サクヤと刀の彼とのやりとりを見ていたらね。少数の人数で会社を立ち上げたことを思い出して、ね。あの時も…。働くことに意欲を見いだせなかった人間を今のように説き伏せて、社員として雇ったな」

おそ松「じゃあ、会社を立ち上げたのもニートだったってわけ…?」

アシッド「あぁ。今でこそ大きな会社として名が知られているネクストコーポレーションではあるが…。その始まりは、唯の人間に興味を持った神と、そんなことも知らない働くのが嫌な『ニート』で始まったのさ。Mr.オソマツ。嫌になったら私の元を去ってもらって構わない。……私は君に、ポテンシャルがあるのを感じているからね」

カラ松「……どうするんだおそ松?」



 おそ松を、そしてサクヤと大典太を見て。アシッドは自分が会社を立ち上げた頃を思い出していました。かつて、1人だった自分を支えてくれたのは『ニート』だったということも明かして。その彼…いまどこで何をやっているかは分からないそうなのですが、彼らの助力が無ければ『ネクストコーポレーション』はここまで大きくなっていなかったことを明かしました。
 その上で、自分の秘書をやってほしいと頭を下げるアシッド。あまりにも丁寧なお願いに、おそ松もおし黙ってしまっていました。―――しかし。このままニートに戻る選択肢と、目の前に転がって来たチャンスを拾う選択肢。社長秘書ということですから、お金もたんまり貰えそうですよね。

 いつでも辞めてもらって構わないという言葉。そして、真摯なアシッドの頼みに…。遂に、おそ松も折れる決心をしたのです。



おそ松「……わかったよ。でも、1日やって嫌だったらすぐにニートに戻るからな!」

チョロ松「それじゃ仕事したってことにならないだろ!!社長秘書だぞ?!覚えること沢山あんだよバカ長男!!」

カラ松「ま、まぁまぁ…。だけど、アシッドさんなら大丈夫だとオレは思うがな?」

アシッド「あぁ。嫌だったらやめてもらって構わない。今まで私1人でやっていたことを少し、君に手伝ってもらうだけだからね」

サクヤ「昔から何でもお1人でこなしてしまってましたからね…。道のりは困難だとは思いますが、我々も助力いたします」

おそ松「それに!ここにいることでなんでカラ松が残る決心をしたのかを知りたい。それもあるし」

大典太「……そうか」

十四松「本部のみんないいひとばっかりだよ!おそ松にーさんもすぐに仲良くなれるよ!」



 と、いうことは。アシッドは今本部に住み込みでいるので、実質おそ松も本部に住み込みで働くということになるんですかね。『やる』という返答に三つ子は驚いたものの、彼が自分で決心したことだから応援することを決めてくれました。
 そんな彼らの様子を見て、サクヤは満足そうに微笑んでいたんだとか。




 こうして、松野家は無事に仲直りをし、今回の打ち上げパーティもつつがなく終了したのでした…。

打ち上げ ④ ( No.117 )
日時: 2021/01/20 22:01
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: 6..SoyUU)

 打ち上げパーティも終了し、後片付けに入った運営本部一同。
 家族水入らずの邪魔をしないようにとサクヤ達も素早く会場の片付けに入っていました。MZDからは『参加してないんだからやらなくていい』と言われたのですが、それでも主催している身である為仕事をサボるわけにもいきません。無理を押し通して彼女は片付けに参加していたのでした。



ミミ「あ、そうだ!サクヤさん、そういえば次の逃走中の会場って決まってるの?」

サクヤ「はい。それに関しましてはもう決定しておりますよ。次回の会場は『トリコロシティ』の予定です」

ニャミ「わーっ!キュベリアさんが今管理してるあの街だよねっ!弐寺にお邪魔したのも懐かしいな~」

ミミ「ねーっ!てか、キュベリアさん逃走者として4回も引っ張り出されてたのによく引き受けてくれたよね」

サクヤ「逃走者としては論外だが、場所を提供するくらいならOKを出してくれました。なんだかんだあの方も逃走者達がハンターから逃げ惑うのを『見る』のは好きなんでしょうねぇ」

ミミ「キュベリアさんらしいというか、なんというか…」

ニャミ「あ!ってことは。もしかしたら次もラピストリア学園みたいに音ゲーが関わるミッションが来るかもしれないねミミちゃん!」

ミミ「そーかもー!サクヤさん、わたし達次も楽しみにしてるからね!」



 あらら。ここでやっと次の逃走中のエリアのお披露目ですか。そう。某お皿と7つのボタンを押して演奏する音ゲーのシリーズから、次回の逃走エリアは『トリコロシティ』。なんかここ、前にもどこかで話題が出てきたような気がするのですが…。まぁ、今は気にしないでおきましょう。
 サクヤからそのことを聞いたミミニャミは、もしかしたら6回目以来の音ゲーにまつわるミッションが来るかもしれないと大興奮。そんな彼女達を優しく宥め、サクヤは片付けへと戻るのでした。



 日も傾き、進んでいた片付けもつつがなく終了し。サクヤは私室へと戻ることにしました。ちなみに、付き従っている大典太と前田は一足先に私室へと戻ってくつろいでいます。誰もいない静かな廊下を歩き、彼女は何もない壁に手を当て扉を開きます。
 和室の奥の壁かけをどかし、そこに開いている穴を潜ると……。澄んだ空気と、机に向かって座っている大典太と前田と遭遇しました。



前田「主君!おかえりなさいませ」

サクヤ「只今戻りました。あぁ大丈夫ですよわざわざ立たなくても。仕事は全て終わっているのですし、ゆっくりくつろぎましょう」

大典太「……あんたは働きすぎだ。雑用は俺がやるといつも言っているのに…」

前田「もう癖のようなものなのかもしれませんね」



 大典太も前田も内番着に着替え、主の帰還を待っていました。まぁ、全て終わったのですから動きやすい服装の方が気持ちも楽というものですものね。
 サクヤも開いている場所に座り、アオイの島での出来事を二振に問いかけてみることにしたのでした。



サクヤ「大典太さん。前田くん。アオイの島はどうでしたか?」

前田「色々ありましたが、温泉も気持ち良かったですし。三つ子の皆さんとも仲良くなれましたし。楽しかったです!ですよね、大典太さん!」

大典太「……この世界にもあんな場所があるなんてな。事態が落ち着いている時に、また行きたい…とは思った。どうせ俺なんかが行っても島の士気が下がるだけだろうけどな…」

サクヤ「アオイの島は四季折々の景色が楽しめる島ですからね。今回は紅葉が広がる秋の島でしたが、今度は桜が舞い散る季節にでもお花見がてら行ってみましょう」

大典太「……花見酒というのも、悪くない」

前田「今度は本部の皆さんと行きたいですね!」



 大典太も前田もアオイの島が気に入った様子。この季節ですら凄い光景だったのに、桜の季節だとまた違う美しさが見れるのでしょうね。『また行きたい』と口にした二振を見て、サクヤもなんだか嬉しそう。
 ……そんな彼女を見ながら、大典太は温泉でカラ松達に言われたことをどう彼女に伝えようか悩んでいました。言うべきか。言わざるべきか。彼の中の覚悟は……まだ、決まっていませんでした。
 前田も何となく彼の考えていることを察したようで、不思議そうに大典太を見るサクヤに『気にすることではない』と告げたのでした。



前田「主君。今日は色々あって大典太さんも疲れただけだと思います。あまり気になさらなくても大丈夫ですよ」

サクヤ「確かに。今回はいつも以上に大変でしたからねぇ。大典太さんも前田くんもお疲れさまでした」

大典太「……あぁ」

前田「今後、今回のような危険な目に沢山逢うかもしれません。しかし、です。何があっても、主君と大典太さんは僕がお守りします!」

大典太「……主は分かるが、俺まで守らなくていい。……あぁ、そうか。俺は前田から見て頼りない刀なのか…」

前田「違います!大典太さんがとても頼りになる刀なのは知っています!それと同じくらい、大典太さんの背中を守れるように僕も強くなりたいのです。いわば僕なりの『今年の目標』ですよ」

大典太「……そう、なのか。……まぁ、前田なら強くなれると思うがな…」

前田「本当ですか!」

サクヤ「……ふふふ。本当ですよ。何をするにしても、気力が落ちていれば身体がついて行きませんからね」



 二振のやり取りがおかしかったのか、彼女はくすくすと目尻を緩めて笑っていました。その表情を……。大典太は見逃しませんでした。『感情を失った』とあの時告げた彼女。しかし、今こうして自分達のやり取りを見て笑った。以前自分の中に出てきた『とある考え』が、また脳内に浮かび上がります。
 ―――いつまでも押し黙っているわけにはいかない。彼は覚悟を決め、主に告げたのです。



大典太「……主。俺達のやり取り…面白かったのか?」

サクヤ「え?」

大典太「……あんた、今。笑っている」

前田「大典太さん…」

サクヤ「……へ?わら、って?」

前田「主君、とてもいい笑顔でし……主君?!」



 大典太が告げた言葉。サクヤは自分が『笑った』ことを自覚していませんでした。言葉としてはっきり伝わり、それまで笑顔だった彼女の表情がぽろぽろと崩れていきます。そして……それがまるで『いけないこと』のように、急に顔を伏せて震えだしました。
 急に様子がおかしくなったサクヤの背中をさする前田。すぐに大典太もサクヤに近付きますが、その震えが止まることはありません。



前田「主君!どうかなされたのですか?!主君!!」

サクヤ「ちがう…ちがう…!感情は全部兄貴に渡した筈なのに……!わらっているなんておかしい……!これでは…これではまた壊して……!」

大典太「…………」

前田「大典太さん、主君はどうなってしまったのですか?!」

大典太「……俺のせいだ。すまない。前田、主の布団を向こうの部屋に用意してくれるか。……俺は主を落ち着かせるから」

前田「承知しました。……後でちゃんと説明してくださいね」

大典太「……あぁ」



 慌てる前田に大典太は冷静に指示。そもそも自分が引き起こしたことなのだから、自分が事態を納めねばならないと思ったのでしょう。前田はすぐに我に帰り、言われた通り向こうの寝室へサクヤの布団を敷きに向かいました。襖の向こうへと去ったことを確認した大典太は、かつて自分が顕現したばかりに彼女がやってくれたように、彼女を優しく包むように抱きしめたのでした。



大典太「……俺が悪かった。今のあんたに告げるべき言葉じゃなかった。俺も、前田も、この世界も。壊れていない。大丈夫だ。落ち着いてくれ…」

サクヤ「あの時には戻れないんです…。駄目なんです…。絶対に、壊してしまう…」

大典太「……今、前田が布団を敷きに行っている。あんたが壊すというのなら…俺も、三日月も、数珠丸も、前田も。もう既に折れている筈だ。だが…俺達は今こうしてここにいる。だから…落ち着いてくれ…」

サクヤ「おおでんたさん…」



 よしよしと、子供をあやすように優しく頭を撫でる大典太。きっと顕現したばかりならば絶対に主に自分から触れようとはしませんでした。サクヤの優しい霊力に触れ、彼も近侍として出来ることをやろうと決心した結果の行動なのでしょう。震えていたサクヤでしたが、しばらく彼がそうしているうちに落ち着きを取り戻し、次第にすぅすぅという静かな寝息が聞こえてきました。疲れて眠ってしまったんでしょうかね。
 それを確認した大典太は、彼女を起こさないよう静かに抱きかかえて向こうの部屋まで向かいます。





 襖の向こうでは既に前田がサクヤの布団を敷き終わっていました。静かに横たわらせ、布団をゆっくりかけてあげます。青ざめていた彼女の表情は、眠りの中にいるのか安らかなものでした。
 ―――しばらくその様子を見ていた二振でしたが。しびれを切らした前田が静かに大典太に口を開きました。



前田「大典太さん。主君の表情の起伏が薄いことは何となく察知していましたが…。何か、人為的なものなのですか?」

大典太「……概ね合っている。主は……。感情をあの朱雀に全て渡した、と言っていた。だから、自分が笑ったり泣いたりすることは無いのだと。その感情で、過去…。世界を1つ、破壊したらしい」

前田「世界を…。そう、だったのですか。だから、感情が芽生えてしまうとまた『世界を壊してしまうかもしれない』。主君はそれに恐怖を抱いているのでしょうか」

大典太「……あぁ、そうだ。俺が主と『本来の契約』を果たせない理由だとも言っていた。感情が戻ったことによって、俺や前田を折りたくないんだと」

前田「過ぎてしまったことですが…。僕は主君の何をも知らずに勝手なことをしてしまっていた訳ですね…」

大典太「……それは違う。確実に、前田と契約を果たした時から主の中で何かが変わっている。俺は……『主自身の感情』が芽生え始めているんだと思っている」

前田「僕と契約を果たした時から、ですか?うーん…。なんだかそれは引っかかる言い方ですね大典太さん。まるで自分は蚊帳の外のような…」

大典太「……本来の契約を果たしたのは前田なのだから、そう考えるのが自然なんじゃないか?」

前田「僕達の顕現がきっかけで、主君の感情に何か起こったとしても…。そのきっかけはきっと、僕じゃないと思います」



 大典太がサクヤに万屋で言われたことを前田にそのまま話しました。まぁ、彼にはいずれバレたことでしょうしね。前田は告げられた事実を持って、やっと自分の主が感情に怯えている理由について納得することが出来ました。
 大典太は『前田と契約した時からサクヤの感情が新たに芽生え始めた』と推測しますが、逆に前田はそうではないと言い切ります。理解が出来ていない大典太に向かって、前田は静かにこう言いました。



前田「僕じゃない。大典太さんの方ですよ」

大典太「……俺が?それはあり得『あり得ますよ!』 …………」

前田「だって。主君がそんなことをわざわざ大典太さんに言うってことは、自分のせいで大典太さんが折れてしまうのが嫌だからではないでしょうか。本当は大典太さんとちゃんと契約をしたいと主君も思っている筈です!そうでなければそんな言葉は出てきません!」

大典太「……それは前田だって同じだろう」

前田「確かにそうですけれど。僕の場合はもう契約してしまったのですから何も言わないんだと思います」

大典太「……駄目だ。やはり本来の契約を持ちかけるべきではない。きっとこの話を持ちかけたら、主はまた震えて我を失ってしまう。俺も、主を壊してしまう」

前田「大典太さん…。でも。今は無理でも。きっといつしか大典太さんの気持ちを伝えられる日は来ます!絶対、です!
   主君と大典太さんは似ています。自分の力のせいで、他人が傷つくのを恐れています。そんなことないって、僕は…分かってほしいです」

大典太「…………」



 まっすぐな前田の言葉も、今の大典太には眩しすぎました。大典太もまた、自分が関わることで主が壊れてしまうことを恐れていました。だからこそ…『本来の契約』を口に出すことはしない方がいい、と思ったのです。いつか自分が折れても、伝えるべき言葉ではないと。
 前田が『いつかチャンスはやってくる』という言葉も。にわかには信じられませんでした。


 これ以上話をたどっても平行線が続くばかり。大典太は話を切り上げ、自分達も就寝しようと提言しました。心の中に残る『チクリ』という痛みは…。床についても、大典太の心から去ってはくれませんでした。

打ち上げ ⑤ ( No.118 )
日時: 2021/01/21 23:07
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: 6..SoyUU)

 しん、と静まり返った夜中。冷たい風が運営本部にびゅうびゅうと吹いている。勢いが強く、部屋の窓がガタガタと揺れている。
 あまりにも強い音で、眠りについていた少年の眼がゆっくりと開かれた。何かあったのかと寝ぼけた頭で周りを見るも、何もない。強風に揺れる窓の音以外、部屋はしん、と静まり返っている。


 ―――だが、少年には声が聞こえていた。誰かが自分を呼ぶ『声』が。



『だれかが、よんでいる』



 しかし運営本部には一部を除き、『相部屋』は存在しない。少年の部屋だってそうだ。少年が知る限り、自分と同じ世界から巻き込まれた人物で相部屋を希望したのは、うさぎと猫の少女だけだったはずだ。だが、少年の頭の中に聞こえている。自分を呼ぶ声が。どこからだろう。部屋には誰もいないのに。


 少年は声に導かれるように、自室を出た。廊下もしん、と静まり返っている。当然だ。夜中なのだから。冷たい空気が張り付いたその空間を、よろよろとした足で歩く。少年の目には光が灯っていなかった。
 誰かが、呼んでいる。自分の名を、呼んでいる。誰だろう。少年の頭の中は声の主が誰なのか、それを明らかにすることで支配されていた。声についていけば、絶対に主が分かる。自分を呼んでいるのが誰かが、分かる。少年はそんな思いだけで、長い長い廊下をひたり、ひたりと歩いていた。





 エントランスについている大きな窓が揺れている。強風はまだ続いている。それでも少年は歩みを止めなかった。この先にいる。自分を呼ぶ声が、声の主が。いるのだから。月は雲に隠れていた。ああ、明日は雨かな。不意にそんなことを思う。
 ―――よろよろと歩みを進めていた少年の足が止まった。自分を呼ぶ声が大きくなっている。少年の歩く歩幅が大きくなった。少年を導くように、目の前に虹色の蝶が現れた。蝶は少年を待たずにひらひらと入口まで飛んでいく。それを追いかけていくと―――。人影が見えた。誰だろう。


 ぼんやりとしているが、どこか見覚えのある姿だった。うさぎの耳に猫の耳。でも、自分の知っている雰囲気とは違う。だけど。どこか心地が良かった。
 まるで蜘蛛の糸に絡まる蝶のように。少年はその影に手を伸ばした。



『大丈夫だよ。怖くないよ』
『あたしたち、ずっとずっと一緒。一緒だから』
『あなたはひとりぼっちなんかじゃない』



 黒い大きなリボンをつけたうさぎの少女と、小さな黒いシルクハットを被った猫の少女。トレードマークの三つ編みは片方だけだった。知っている筈のに、どこか知らない少女達。まるで自分を待ちわびていたかのように、こちらに手招きをしている。まるで、『不思議の国』へと招いているかのように。
 だけど、それだけじゃない。覚えていないはずなのに、とても懐かしい感覚。少年は少女達がいる場所で、もう1つおかしな感覚を覚えていた。手招く影が大きくなっていく。


 少年は自分でも気付かないうちに、少女達の目の前へとやって来た。時を同じくして、導いていた蝶が最初からいなかったかのように空気に溶けて、消えていく。
 少女達はふわりと微笑みながら少年に優しく手を伸ばす。ぼやけた頭で少年はぽつりと呟いた。



『ミミ ニャミ。どうしてここに…』
『あなたに会わせたい人がいるから。ここに来たの』
『会わせたい、ひと?』



 目の前の少女は自分に会わせたい人がいるからここに来た、と言った。しかし、思い浮かぶ節なんてない。何も言えずに首を傾げると、彼女達はその反応を待っていたかのように、自分達の後ろを見るように言った。
 唐突な言葉に表情が固まる少年。しかし、彼女達ははっきりと言った。『後ろを見ろ』と。恐る恐る目線をうさぎと猫から外す。ぼんやりと何かが見えてきた。


 ―――見えてはいけないものが、見えた。いてはいけないものが、いた。はっきりと見えてくる度に、直視してはいけないと脳内が警告を出す。でも、それは。自分がずっとずっと求めていたぬくもり。自分がかみさまになっても、ずっとずっと求めていた『暖かさ』そのものだった。










『   』










 女は、少年の名前を告げた。どうして。どうしてここに。あの時…炎に焼かれて命を鎖した筈なのに。その正体をはっきりと認識したと同時に、口から『おかあさん』という言葉が零れた。すぐにでも抱きしめたくて、走った。その温もりを自分のものにしたくて、走った。
 もう二度と失うもんか。どうして自分に見えているのかは分からない。でも、いるんだ。目の前に自分の母親がいるんだ!母親の元まで走り、勢いよく抱き着く少年。ずっとずっと、失っていたぬくもり。一度は失ったそれを、もう二度と手放さないように。母親はそんな少年の背中を優しく擦った。



 ―――虚ろな目をした少年は、涙を流していた。それが、喜びなのか。苦しみなのか。その正体は、誰にも分からない。





『もう二度と失うもんか』
『一度は消えた音 あたし達が消しちゃった音』
『わたし達で取り戻すんだ』











『どんな手を 使っても。 世界が 滅びても……』





 『おとぎ話』のうさぎと猫は、堕ちた少年の姿を見て……そんなことを零した。少女達の正体は誰なのか。どこから来たのか。それも、誰にも、分からない。
 少女達の口元は笑っていた。これで全てが上手くいく。わたし達の『世界』を取り戻すんだ。そんなことを言って。そのまま、少女と少年は霞のように運営本部から姿を消してしまった。









 その場に静寂が戻る。彼らに何が起こったのかを知る者は―――いない。

































 ―――『トリコロシティ』。かつて『音無町』と呼ばれていたそこは、音が溢れる街へと進化していた。そんな『音』を奪い去るように。過去が。未来が。書き換わる。
 街に黒い霞がかかっていく。全ての過去を塗りつぶすように。全ての『歴史』を変える為。





 全てを…………。『終わらせる』為。





































『全部、全部なかったことにすれば……。俺は神も魔族も……道化師だって超える……。



 全部、全部滅ぼして……。この世界を。










『すべて、おれのものにする』










 かつての『道化師』の面影はもうない。全てを滅ぼし、世界を自分のものにする。
 『邪な神』へと変化を遂げた男は―――。闇に包まれる街を見下ろしながら、そう言った。



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 トリコロシティー?!なんか今回よりもまずいことになってませんか?!てか少年って!!大丈夫なんですかこれ?!不思議の国のうさぎと猫ってあれじゃないですかあれ?!取り乱しました。申し訳ございません。
 おそ松の件が解決したと思ったら。もしかしたらトリコロシティに何かしたのって……。ほら、5回目の時に色々あったではありませんか。もしかしたらここいらで諸々が全部決着つくような予感…?道化師が道化師じゃ無くなってる気はしますけれど。世界にピンチが舞い降りてきている気は致しますけれど!!負けるな、頑張れコネクトワールドの住人達!

 それでは皆様、次回の逃走中でお会いいたしましょう!Adieu!


逃走中#CR07 ~白猫温泉物語 混沌編~ THE END.

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