二次創作小説(新・総合)

ABT②『香る赤い松の気配』 ( No.26 )
日時: 2020/12/07 22:11
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: okMbZHAS)

色々波乱なOPゲームの終焉を迎えましたが、今回も無事に始まった逃走中#CR07。
さてさて、アオイの島へと赴いたサクヤ達の様子を見てみましょうか。

------------------------



~アオイの島 城下町・下町~



サクヤ「……ふぅ。何とか周りに気付かれず到着は出来ましたが…。我々がカメラに写るのも時間の問題なので、後は兄貴がどう説明を遅らせてくれるかにかかっていますね」

前田「わぁ……!これが『アオイの島』なのですね!紅葉やイチョウがとても綺麗です…!」

大典太「……『四季折々の景色が楽しめる』と名打っていた島だったんだよな。そうか、今は秋だから…」

サクヤ「はい。落ちる葉も多いのでそろそろ冬がこちらに顔を覗かせている頃でしょうが」



 紅葉色付くアオイの島へ到着したサクヤと刀二振。目の前に広がる赤と黄色のコントラストに、前田の目が見開かれます。大典太もこんなに美しいとは思っていなかったのか、思わず自分を包み込む景色にうっとりとしてしまいます。
 大典太は長い間蔵に『封印』されていたので物珍しさを覚えるのは納得できるのですが、前田も彼相当にうっとりしていることにサクヤは不思議に思っていました。
 そのことをつい彼に聞いてみると、前田は少し考えた後こう返したのでした。



前田「僕も当時は清い方の守り刀をしていることが多かったのです。その関係で外に出ることが珍しくて…。四季折々の景色をのんびり眺めるなど出来ませんでしたから」

サクヤ「そうだったのですか。ならば景色を楽しみながら任務を遂行しなければ、ですね」

前田「はい!大典太さんも折角の外なんですから、景色を楽しんで帰りましょう!」

大典太「……ふふ。そうだな…。しめ縄で厳重に封印されて、どうせ俺のことなんか誰も気にしてなかったからな…。結局蔵に戻されるんだ。なら…思い出は作っておくに越したことはない」

サクヤ「もう。大典太さん、何度も申し上げておりますが私は貴方を封印したり蔵に保管したりするつもりは毛頭ございませんからね」

大典太「……冗談、だと…。言える日が来ればいいんだがな…。―――主、話を戻そう。逸らしてすまなかった」

サクヤ「おっと、そうでしたね。それでは今回の任務についての説明を始めます」



 話を自分で逸らしてしまったと詫びを入れ、話を戻す大典太。その言葉にサクヤも我に返り、二振に今回エリアでやることについての説明を始めたのでした。



サクヤ「今回我々が行うことは、『ニアの動向の調査』と『グレンさん達5名の陰からの援護』になります。彼女の言っていたことが本当ならば、ニアも既にこの地に到着しているはず。恐らく5名に近づいてくると思われます。彼女が変なことをしないか陰から見張りつつ、彼女の動向を探りましょう」

大典太「……そういや、まだあの連中が来ていないな。『気付かれないように尾行』が主な任務なのだから、遅れては意味がないのも分かるが」

サクヤ「それと、旅行の集合場所だと思われる地点がこの近くにあります。気付かれないように動かなければならないので、先に来て確認を行っておく必要があったのです」



 そう言って、彼女は神の力でアオイの島の全体図をホログラムで出しました。説明を受けながら、どの位置にどの時間移動すべきかを話し合う3人。……そんな折、前田が『つまり、偵察ということになるのでしょうか?』と確認の弁を述べました。
 サクヤがそれに頷くと、彼は自信満々にこう返したのです。



前田「斥候任務ならば僕にお任せください!5名の動向を陰から確認し、主君と大典太さんにお伝えします!」

サクヤ「それは嬉しい提案ですが…大丈夫なのですか?私達と一緒の方が…」

大典太「……主。前田は短刀だ。図体のデカい俺が仮に偵察を行ったとしても、あの5人に察知能力の高い奴がいれば、いずればれる。なら、前田が一振で5人の動向を追って…。俺達が随時援護に向かう形でもいいんじゃないか?」

サクヤ「しかし、それではニアが直接被害を出した時…」

大典太「……仮にもあんたと同じ『世界の守護』を任されている奴が、邪神だとはいえそう易々と事を起こすようには思えない。なら…偵察自体は前田に任せた方がいいと俺は思う」

前田「はい。僕の得意分野ですので。餅は餅屋、これに限りますよ主君!」

サクヤ「……わかりました。それでは、前田くんは5名の後を追い、ニアの動向と5名の監視を陰から行ってください。チタさん辺りが気づきそうな気もしますが…それに関してはなるだけ気付かれないように偵察をお願いします。
    私と大典太さんは、前田くんの報告を元に先回りして行動しましょう」

大典太「……承知した。俺はあんたの近侍なんだ…。俺なんかの力が役に立つのなら、力を振るうさ」



 どうやら前田、自分が短刀で守り刀をしていた経験を活かし偵察任務を自分から買って出たのです。確かに室内戦だと短刀の方が有利ですからね。それに夜目も利きますし。……何のことを言っているかって?原作をやってみてね。
 それは置いといて、大典太の助言も受けサクヤは前田に自分達でやろうとしていた『偵察』部分を一任することに決めました。彼からの報告を元に、先回りして5人を援護するという方向性で決まったようですね。

 一連の流れを決めた後、前田はサクヤと大典太に向かってこう言ったのでした。



前田「それでは行って参ります、主君。何かありましたらすぐに連絡しますね!」

サクヤ「はい。お願いいたします」



 その言葉と共に、前田は一瞬でその場から姿を消してしまったのでした…。



サクヤ「刀ってこんなことも出来たんです?」

大典太「俺に聞くなよ…。少なくとも俺には出来ない」

サクヤ「もしかしたら、短刀だけの固有能力だったりして…」

大典太「……斥候が得意なのだとしたら、確かに頷ける話だ。ふふ…前田も張り切っていたしな。主、そろそろ俺達も動いた方がいいと思う」



 そうサクヤに言いつつ周りを見た大典太。ふと、遠目に『援護をする5人ではない人影』を遠目で見ます。
 影は3つほどであり、広い道を『誰かを追いかけている』かのように走っているのが見て取れました。そのことをサクヤに報告しようとしたその時。自分達の耳元で勢いのある声が聞こえてきたのです。



アクラル『おうよ。風の音が聞こえるってこった、もうアオイの島に着いてる頃合いか?』

サクヤ「兄貴。どうしたのですか?OPゲームの様子はこちらでも確認しましたが、特に進行に支障はなかったように思えるのですが…」

アクラル『あー。違う違う。エリアの確認してたらよ、逃走者でもグレン達でもない人影を見つけて。それをお前達に教えてやろうと思って念話繋げたの』

サクヤ「―――『人影』?」

大典太「……あぁ。俺も見かけた。明らかにあの5人ではない、もっと人数の少ない影が『何かを追いかけている』光景を遠目でな…」

アカギ『光世も見かけたのか…。その身長がうらやましい…』

大典太「……デカくて陰気な奴なんて羨むものじゃない」

アクラル『話をずらすな!!―――んでよ、その人影…。松野家の三つ子だ。間違いねえ』

サクヤ「……カラ松くん達がこの島に来ているのですか?」



 なんと。アクラルからとんでもない報告が。どうやらカラ松、チョロ松、十四松の3人がアオイの島に無断で来ているようなのです。それを知ったサクヤは目を丸くします。
 何か目的があって来た。ならば―――『おそ松』が関わっているかもしれない。そう判断した彼女は、アクラルに自分の考えを述べます。



サクヤ「あの3人が無断でこの島に来る、だなんて…。おそ松さんもこちらの島に来ている可能性が高いでしょうね」

アカギ『あ…そのことなんだけど。多分サクヤの考えで合ってると思う…。おそ松の方は邪悪な気配を察知しただけだが…。多分、あの3人もその気配に気付いて、『自分達で何とかしよう』って3人だけで来たんじゃないかと思っている…』

アクラル『今のあいつ、話ができねーような状態なら3人束になっても適わないんだぜ?ったく、心配かけさせたくないからって黙って向かったら余計に心配かけるだろ!な、サクヤ!!』

サクヤ「ふむ。そうですか…。ならば、私と大典太さんでカラ松くん達を追います。恐らく…『彼』と接触するつもりであれば…。生身の身体では恐らく体力も、精神ももちません。3名にも危害が加わる可能性がある場合、より可能性が高い方に直接行った方がいいと思うのです」

アクラル『俺も今まさにそのことをお願いしようとしてた。察せるなんてさっすが俺の妹だぜ!!―――頼む。カラ松達を―――出来れば『おそ松も』。救ってやってくれ』

大典太「…………」

サクヤ「―――わかりました。こちらで何とか策を練ってみます。ご報告ありがとうございました」

アカギ『あぁ…。俺達もゲームの進行頑張るから…。みんな無事で打ち上げしような…』



 そうアカギが返したと同時に、念話がぷつりと切れました。さてさて。松野家の三つ子がおそ松を何とかする為に自分達だけで行動している可能性が高いと分かった今、彼らと『今のおそ松』を直接対峙させてはならないことは目に見えています。
 おそ松は現在、メフィストのせいで人ならざる者になっています。どう考えても怪我をしてしまう可能性の方が高い。ならば、5人はとりあえず前田に任せ、三つ子を追った方がいいとサクヤは判断したのでした。
 大典太にもそれでいいかと判断を仰ぐと、彼は無い眉をひそめながらこう返します。



大典太「……確かに主の言い分は分かる。だから、俺も否定はしない。だが…もし5人の方に危害が加わると分かったら…どっちを優先するんだ。主」

サクヤ「同時に2つの脅威が迫っている…。ならば、今は『確実に敵対する』方を優先して動いた方が私はいいと思ったまでです。大典太さんも先程仰っていたでしょう?『『世界の守護』を任されている奴が、邪神だとはいえそう易々と事を起こすようには思えない』と。
    その言葉に乗ってみてもいいと思ったまでです」

大典太「主…」

サクヤ「それに、ニアがこんなに早く直接行動を起こすとは思えません。しばらく泳がせても影響はないと思います。もし『この時点で直接的に動いている』のなら―――。彼女の仕業ではないという可能性を、高められます」



 サクヤとニア。四神同士結構な付き合いがありますからね。彼女がすぐに行動はしてこないだろうと悟っていました。ニアという女は、ターゲットを『調子に乗らせた最高潮で絶望に突き落とす』という、敵に回したら迷惑甚だしい寸法を好む邪神。大典太が先程告げたアドバイスで、彼女はそのことを思い出していました。
 そして、大典太の言葉に乗り、ニアはしばらく前田に任せて自分達は三つ子を追おうと言ったのでした。……その言葉を聞いた大典太は、『ならば』と続けます。



大典太「……あの兄弟が兄を追っているんだとしたら…。もしかしたら『元に戻せる方法』を見つけたから追っているかもしれん」

サクヤ「―――確かに。その線はあり得ます。理由もなく突っ走る人達では…あるかもしれませんが。わざわざ無断で出向くということは、彼らに何かしらの思索があってもおかしくはありませんね」

大典太「ならば…俺の霊力が役に立つかもしれない。この霊力のせいで今の今まで蔵に入れられていたわけだが……。『病も怪異も退ける』のは自分自身で分かってるからな…。―――行こう。主」

サクヤ「…………。はい。行きましょう、大典太さん」



 大典太が珍しく『自分の霊力が役に立つかもしれない』とぼそっと告げたのです。その強すぎる力でいのちを殺してきた、と自分で言っていた彼が『誰かを助ける為に』その霊力を使えるかもしれない、と口にするとは。彼の場合、病を治癒する霊力があるという逸話がありますからね。もしかしたら悪魔と化したおそ松にも何かがあると言ってもおかしくはないでしょうね。
 その言葉に少しだけ心が嬉しくなった彼女は、口角を上げて『行こう』と告げたのでした。





サクヤ「前田くん。すみません、作戦変更です。しばらくは前田くんお一振での偵察をお願いしてもいいですか?どうやらアオイの島にカラ松くん達が来ているみたいで…。我々はこれからそちらを追いますゆえ」

大典太「……前田一振に当初の任務を負わせる形になってしまってすまないが、何かあればすぐに俺達に連絡をしてほしい…」

前田『承知しました。こちらはお任せください。こちらに向かってきている船が見えますので、もうじき5名も到着するかと思われます。また何かあれば主君と大典太さんに連絡をいたしますね!』

サクヤ「はい、お願いしますね」

前田『それはそうと。主君、1つだけよろしいでしょうか?』

サクヤ「? 何でしょうか?」



 カラ松達を追うことになったことを前田に告げると、ふと彼からこんな一言が。



前田『主君、なんだか嬉しそうですね!良いことでもあったのでしょうか?』

サクヤ「うれ、しい……?」

大典太「………?」

前田『え、えっと。申し訳ありません、何かお気に障ることでもしてしまいましたでしょうか?』

サクヤ「―――! いえ、何でもありません。それでは、お互い任務遂行頑張りましょうね」

前田『は、はい…』

大典太「…………」




 サクヤが小さく発した『うれしい』という言葉。そこに、震えを含んでいたのを大典太は聞き逃していませんでした。しかし―――その震えが『何を』意味するのかまでは、今のサクヤにも大典太にも想像も尽きませんでした。
 何か気に障ったのかと謝る前田に気にしないでと伝え、そのまま念話を切り影が走っていった方向に走り始める二振。


 ―――どうやら今回、『もう1つ』何かが進展しそうな気がしますね。