二次創作小説(新・総合)
- ABT⑤『鳥をも落とす霊刀でも』 ( No.53 )
- 日時: 2020/12/20 22:33
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: lyEr4srX)
松野家の三つ子を追っていたサクヤと大典太。
何とか合流を果たしますが、既に日は傾いていて…。
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~アオイの島 田園街道付近~
大典太「……主、いたぞ。人間が3人。似たような服を着ている」
サクヤ「間違いなく三つ子さんですね。合流を急ぎましょう」
城下町と田園街道を繋ぐ道のど真ん中。サクヤと大典太は遂に三つ子らしき影を発見。おそ松を追っていたのは会話からして分かってはいますが、どうやらかなりもたついている様子。
このまま放置しておくと後の祭りになってしまうかもしれない。そう思ったサクヤは、大典太と共に彼らの元へと急ぐのでした。
チョロ松「あいつ逃げ足速すぎるんだけど…。どこに行ったか見失っちゃった…」
カラ松「3人がかりとはいえ、オレ達は人間でおそ松は今は悪魔だもんな…。姿を消すことなんて簡単なことなのかもしれないしな」
十四松「それにしても…ここはどこなんですかいにーさん?」
チョロ松「地図持ってないんだから分かるわけないだろ!!!あぁ…ここで立ち往生して野垂れ死ぬのかな僕達…」
カラ松「悲惨なことをいうなチョロ松!いざとなったらオレの『フリーハグ』で金を稼げばいいだろう!」
チョロ松「『フリーハグ』の『フリー』の意味わかってねえだろお前?!金取ったらフリーじゃねえんだよ!!!」
一方。おそ松を見失ってしまった三つ子は、右も左も分からない場所で立ち往生。何しろサクヤ達本部の面子に無断で来たのが仇となり、今現在どこにいるのかも分からない状態でした。
このまま野垂れ死ぬのかと不安視するチョロ松に、またもや見当違いの解決法を提案するカラ松。チョロ松がすかさずツッコミを返すも、どうやら彼には届いていないようですね。
そんな賑やかな声が目印になったのか、彼らの向こうでこちらに近付いてくる影が。小柄な女性と大柄な男性。もしかしなくても1人と一振りでした。
大典太「……あんた達。何やってるんだ」
チョロ松「ひゃいっ?!ちょっと!!僕達今忙し……サクヤさん!それに大典太さん?!」
サクヤ「やっと追いつけました…。立ち往生していたのでどうしたものかと思い、声をかけたのです」
カラ松「え、えっと、それは…」
大典太「……誰にも言わず、ここに来てたようだな。本部でもあんた達の状況を把握してる奴はいるぞ」
十四松「ばれてますがな!」
チョロ松「ひぃぃごめんなさいぃぃ…!!」
サクヤ「大丈夫です、大丈夫ですから落ち着いてください。とりあえずここで立ち止まっていたら他の方のご迷惑となりますし、近くの建物で話をしましょう」
大典太「……主。近くに少し規模の大きそうな茶屋があった。そこがいいと…俺は思う」
サクヤ「ありがとうございます大典太さん。では行きましょう」
カラ松「あ、あぁ…」
既に彼らが来ていることを知られていると話すと、ばれてしまったとカラ松とチョロ松は顔を青くしひたすらペコペコ謝り始めました。そりゃあ本部の総督そのものである彼女の手を煩わせてしまったのがありますからね。そんな2人の様子を見て、まずは『話がしたい』と落ち着かせた彼女。近くにそこそこの広さの茶屋を見つけたという大典太の案内で、一旦人目につかない場所で話をすることになったのでした。
~アオイの島 茶屋~
十四松「うんま~!にーさん!この抹茶クリームあんみつうまいでっせ!」
チョロ松「オイ。遠慮もなしにバクバク食うな!僕達は甘いものを食べに来たんじゃないんだからね!」
サクヤ「いえいえ。緊張したままではお話も聞けませんし、追加で注文があればどうぞ。今回は私が全て代金を持ちます。勿論大典太さんも頼んでいいんですよ?」
大典太「……俺はいい」
カラ松「大典太さんは甘いものが苦手なのか?」
大典太「……俺なんかの為に金を使うもんじゃない」
十四松「でもあんみつおいしいでっせ?」
サクヤ「およよ。まぁいいでしょう。ではキリのいいところで本題に入りましょうか」
茶屋の空いている席に座り、三つ子はサクヤに何故か甘味をおごられていました。『緊張したままだと本当のことを話してくれない』と判断しての行動だったのでしょうが、それにしても食べっぷりが凄いですね。特に十四松。
大典太はサクヤの隣で彼女を守るように座っています。まぁ近侍ですからね、しゃーない。美味しそうに甘味をバクバク食べる十四松の様子を見つつ、彼女は2人に本題を投げかけました。
サクヤ「…存じ上げているとは思いますが、私が質問したいのは1つ。『なぜ独断でアオイの島に来たか』です。一連の流れから、発端は恐らくニアなのでしょうが…」
チョロ松「そこまで分かってたんですか…。確かに、おそ松兄さんがこの土地に来ると情報をくれたのはニアさんです。僕達は彼女の言葉を受けて、この島に無断で来ました」
カラ松「おそ松のことを本部のみんなにこれ以上迷惑かけたくなくて…。それで、オレ達だけで何とか出来るなら何とかしたいと思って。それで…サクヤさん達に黙ってここまで来たんだ。
だが、結局おそ松は見失うし、右も左も分からないところをサクヤさん達に見つかって…。本当に申し訳ない。怒るならオレだけにしてくれ!」
大典太「……怒ってはいない。だが、自分の力量を知らんまま得体のしれないものに接触する姿勢は看過出来んな。それで怪我でもされたら…それこそ迷惑がかかること、だ。自分達で壊せない壁が目の前に出てきたと判断したのならば…他人を、頼るべきだ」
チョロ松「仰る通りです…」
サクヤ「はい。現在のおそ松さんは人間ではありません。いくら戦えるとはいっても、まだ日が浅いのは貴方達三つ子さんも一緒。人外の力がどれ程のものなのかが分からない今、独断で接触するのは良くないことですよ」
十四松「ごめんなさい…」
3人に悪気がないのは分かっていました。ただ、『兄を元に戻せるかもしれない』。その可能性にかけてここまで来たのです。十分にその気持ちも、自分達が動いたことによる危険さも思い知った3人は、ひたすらサクヤと大典太に頭を下げていたのでした。
その後、事情を知ったサクヤと大典太もおそ松を元に戻す手伝いをしてくれることになりました。元々そのつもりで前田と分かれたんですもんね。『さて』と彼女が手を1回叩きます。その頃には、既に日が傾きかけていました。
大典太「……もうじき夜が来るな。主。彼らの兄弟を探すならば、明日にした方がいいと思う。このまま対策を練って夜中に探しても、体力が持つ気がしない」
サクヤ「我々だけならば何とかなりますが、人間は休まねば邂逅する前に倒れてしまいますからね。分かりました。本日は宿を取りましょう」
チョロ松「何から何まですみません…」
サクヤ「いえいえ。これも何かのご縁だと思いますし。トラブルも楽しんだもの勝ちですよ」
十四松「あ、それおそ松にーさんっぽい!あはは!」
このまま夜通しおそ松を探しても、三つ子が倒れてしまうのが先だろう。そう判断したサクヤは今夜は宿を取って、明日の早朝改めておそ松を探そうと提案をしました。
最初は申し訳なく思っていた三つ子でしたが、サクヤの強い念によって首を縦に頷くしかありませんでした。今この状態を突破するには彼女の力が必要だ。そう判断したのでしょう。
では、と移動しようとした矢先でした。前田から連絡が入ります。
前田『主君。前田藤四郎です。三つ子殿達とは合流できましたか?』
サクヤ「はい。滞りなく。日も傾いてきましたので、本日は我々も宿を取ろうかと思っています。前田くんにはそのまま5名の偵察を続けていただきたいのですが…。申し訳ありません」
前田『いえ、大丈夫ですよ。寧ろ僕を頼っていただけて嬉しいです!…大典太さん、この際ですから三つ子殿と仲良くなってみてはどうでしょう?真摯に話を聞いてくれると思いますよ』
大典太「……余計な気遣いはいらないんだが…。まぁ、あいつらが悪い奴じゃないのは分かったからな…」
前田『そう思えるようになっただけでも成長ですよ!では、僕はこのまま偵察を続けます。もうじき夕食をとりに旅館へと戻りそうなので』
サクヤ「了解しました。前田くんも何かあればすぐにご連絡くださいね」
前田『了解しました。それでは失礼します!』
現状5人に大きな変化はないようですね。前田はまた何かあったら連絡すると告げ、念話を切りました。前田の念話はしっかり三つ子にも聞こえていたようで、彼の言葉を嬉しく思ったのか十四松が大典太の傍でぴょんぴょんと跳ねています。
そんなやりとりを満足そうに見やった彼女は、早速近くの民宿に彼らを連れて行ったのでした。
~城下町・下町 民宿『桜小鉢』~
サクヤ「あいにく部屋が1つしか空いていませんでしたが…。まぁ大丈夫ですね」
チョロ松「どこが?!サクヤさんそろそろ自覚しようか自分が『女性』だってことを!!僕達松野家は全員揃って『童貞』です!!いやサクヤさんに何かしでかそうとは絶対思えないけど!!!」
サクヤ「神に性別は取ってつけたようなものですよ、チョロ松くん」
チョロ松「え?あれ?僕が間違ってんの?ねえ大典太さん僕が間違ってんの?!」
大典太「……あんたは間違ってないから安心してくれ。流石に主を一緒の部屋に泊めるのは俺も気が引けるんだが…」
サクヤ「およよ。大典太さんまでそう言いますか…。しかし、部屋が1つしか取れなかったのです。仕方ないと思って諦めてください。それでも不安ならば竜の姿に戻りますが…」
大典太「……やめてくれ主。宿が壊れる…」
カラ松「神様ってたまに突拍子もないことをしでかそうとするよな」
十四松「あはは!人間じゃないからよくわかんないや!」
宿について早速何をやっているんですか。一部屋しか借りられなかったのだから仕方ないと割り切るサクヤと、神とはいえ女性の姿の彼女と一緒の部屋に泊まるのに気が引ける三つ子。そして大典太。満室ならば仕方がないでしょうね。
言い争っていた彼らですが結局どうも出来ないということで諦め、素直に早朝の捜索に備えることにしたのでした。
……そんな中。大典太が珍しく自分からカラ松に話しかけました。
大典太「……おい。あんた」
カラ松「ん?それにオレは『あんた』じゃなくて『カラ松』さぁ~!名前で呼んでくれると嬉しいぜ、『sword boy』!」
大典太「そおど、ぼおい…?」
チョロ松「こいつのイタイかっこつけには反応しなくていいですよ。それで…どうしたんですか?」
大典太「……あぁ。役に立つかどうかは知らんが…。これを」
十四松「なにこれー?おまもりー?」
大典太がカラ松に差し出したのは小さなお守りでした。真ん中に彼の刀の紋が描かれていますね。サクヤと彼らを探す前に『自分の霊力が役に立つかもしれない』と口にしていた事例がありましたが、それ絡みでしょうか。
不思議そうに見つめる3人に、大典太は静かに答えました。
大典太「……このお守りに俺の霊力を込めた。俺は…『病も怪異も退ける』刀だ。だから、あんた達の兄弟を元に戻す助けになるかもしれないと思って…。持っておいてほしい」
カラ松「い、いいのか…?!そんな凄いものを…!」
大典太「……例え兄弟を見つけたとしても、その時に俺や主が傍にいるとは限らん。気休めだが…。あんた達を怪異から守れる程度の霊力は込めておいた。……いらないなら別に捨ててもいいんだが。どうせ俺なんて置物だしな…」
チョロ松「ちょっと待って!!ネガティブにならないで!!!相当凄いものであるってのは十分分かってるから!!!―――でも、いいんですか?自分の霊力を僕達に分けるってことと同じなんでしょ?」
大典太「……これくらい、造作もない。鳥でさえ殺してしまう程だからな…。この程度で俺の霊力は尽きない」
十四松「さいでっか!すっげーね、おおでんたさん!」
『自分のような霊力でも彼らの役に立つかもしれない』。彼の思いは続いていました。その証明がこのお守り。そう感じたカラ松は、1つ大きく頷いた後、大典太からお守りを受け取ったのでした。
その後、早朝に備え眠った彼らを包み込むように。―――静かに。静かに。夜は更けていくのでした…。
『―――君、主君!聞こえてますか!!主君!!!』
「―――!!」
唐突に耳に聞こえてきた自分のよく知る声。サクヤはその声で目を覚ましました。ガバリという布団の音に、隣で寝ていた大典太も目を覚まします。
何事かと返事をしようとしたところ、声の主―――前田の焦った言葉が耳に入ったのです。
前田『主君!!すみません、睡眠中のところ…。いなくなってしまったんです』
サクヤ「いなくなった?」
前田『5名部屋で就寝するところまでは偵察していたのですが…。僕が仮眠を取って目を覚ましたら、3人がいなくなっていたんです!!』
大典太「……3人?全員じゃないのか」
カラ松「ん……どうしたんだ2人共…まだ朝焼けを迎えた頃だろ…」
様子のおかしい1人と一振に気付いたのか、3人も目を覚まします。前田の言葉をそっくりそのまま話すと、3人の顔つきも変わりました。脳裏に悪魔と化した兄の姿が浮かびます。
チョロ松「もしかしたらおそ松兄さんも動いてるのかも…!」
サクヤ「前田くん。残りの2名の様子はどうですか?」
前田「ぐっすり眠っています…。どうしますか。このまま偵察を続けますか」
サクヤ「はい、お願いします。行方不明の3名の捜索は我々が引き受けます。―――とりあえず外に出てみた方がいいかもしれませんね」
カラ松「オレ達はおそ松を追います!もしかしたらこの混乱に乗じて動いてるかもしれませんし…」
大典太「……あぁ。そうした方がいい。―――この島の……『大きな城』がある方向。そこから殺気を感じる。あんた達はそこに近づかない方がいいだろう」
サクヤ「『大きな城』…。『大和城』か『天守閣』のどちらか…。わかりました。そちらに行ってみましょう」
チョロ松「ということは、ここで別れるんですね…」
サクヤ「大丈夫ですよ。貴方達が道を違えることはありません。己を信じて、その言葉をお兄さんにぶつけてあげてください」
十四松「……うんっ!!」
サクヤと大典太は行方不明になった3人の捜索。三つ子は変わらずおそ松の捜索。お互いにやることは決まりましたね。素早くチェックアウトを済ませ、外に出てみると―――。
そこにはとんでもない光景が広がっていました。
サクヤ「こ、これは―――!」
チョロ松「何が起こってるの…?!」
彼らが見たものは、『黄色い布』を片手に持った人間が『1つの方向』に歩いていく光景でした。大典太が近くを通りかかった人物を止めても、まるで操られたかのように反応はありません。話しかけてみても無駄でした。
―――向かっている方向は。大典太が察知した通り、『大和城』でした。
サクヤ「大和城で何かが起きようとしている…」
大典太「……主。急いだほうがいいかもしれん。城に向かっている連中の生気が徐々に薄くなっている。―――恐らく、いなくなった連中も巻き込まれている可能性が高い」
サクヤ「ありがとうございます。それでは大和城へ向かいましょう。残りの2人に関しては今は前田くんにお任せしましょう」
十四松「……いそいでおそ松にーさんを探して説得しよう、にーさん!きっと繋がってるよ!」
カラ松「―――わかった。オレ達も急ごう」
サクヤと大典太、そして三つ子はお互いに頷き合い、己のやるべき方向へ向き合います。十四松がくんくんと犬のようなマネをし始めました。どうやらおそ松の匂いをかぎ取っている様子。犬か。
―――彼が城下町の方向を指さしたと同時に、彼女達はお互いを向いている方向に駆け出しました。
サクヤ「大和城…。何が起こっているかは分かりませんが、嫌な予感がする。―――心して行きますよ、大典太さん」
大典太「―――承知した」
果たしてアオイの島を取り巻く事件を解決に導くことは出来るのでしょうか…?そして、いなくなった3人の正体ももうすぐ…明らかになるはずです。
みんな、みんな。無事に助かりますように!天の声も祈っています。