二次創作小説(新・総合)
- ABT⑨『松の絆は永遠に』 ( No.83 )
- 日時: 2021/01/06 22:05
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: 6..SoyUU)
悪魔と化したおそ松と対峙する三つ子。
戦闘を続ける中、彼の様子が更におかしくなっていることに気付く3人。彼を救うことは出来るのでしょうか…。
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~城下町・外れ~
カラ松「チョロ松!左に曲がった!」
チョロ松「了解!くっそ…ちょこまかと動いておそ松兄さんらしくないなあ全く!」
十四松「おそ松にーさんならもっと大ざっぱに動くよね!わわわ、よいしょーっ!!」
3人は声を掛け合いながら、素早くこちらに迫ってくるおそ松の攻撃を受け流しながら近付いています。1対3ではありますが、相手は一時的にとはいえ『人ならざる力』を与えられている存在。その人外染みた素早い動きについて行くのが精一杯でした。
1回避けたり受け流したりするので体力が持っていかれます。このままではジリ貧で3人同時に共倒れになってしまう可能性も無きにしも非ずですね。
対するおそ松は、たかがちっぽけな人間が3人ということでかなり余裕を見せている様子。頭痛は収まっていませんが、その勢いは増すばかりです。カラ松達もおそ松の動きが頭痛で少し鈍っていることは見抜いていました。今なら、悪魔に侵されている『おそ松の心』に話しかけられるかもしれないと思ったカラ松は、思いの丈を自分の兄に向かって叫びます。
カラ松「おそ松!聞こえているなら反応してくれ!!オレはお前を倒したいわけじゃない。『お前』と話がしたいだけなんだ!!!悪魔なんかに下るな!!!」
おそ松「だ~か~らぁ~。何言ってんだよお前。今は俺が『おそ松』なの。お前の妄想の『おそ松』なんかどこにもいやしねえ。いい加減理解しろよナルシスト野郎!!!」
カラ松「いや、さっきより声色に動揺が見えているぞ悪魔よ。おそ松の抵抗が強まっているからじゃないのか?つまり……オレ達の声がちゃんと届いてるってことさ!妄想なんかじゃない!!」
おそ松「この期に及んで分かったような台詞いうんじゃねえよクソ野郎!!!」
おそ松とカラ松のつばぜり合いが続きます。助けたいのに目の前の『悪』が邪魔をして助けられない。このままでは本当におそ松が悪魔になってしまう…。それだけは絶対に避けたかったカラ松。悪魔の圧倒的な力に叩き潰されようとも、彼は気力で攻撃を受け止めていました。
―――チョロ松と十四松が加勢に向かおうとしますが、どこからか圧を出され吹っ飛ばされてしまいます。それは、おそ松の『拒否反応』なのか。それともただの悪魔の妨害なのか。2人には分かりませんでした。しかし…その『圧』を身体で受け止めた十四松が、ふとこんなことが頭の中をよぎり、傍にいたチョロ松に口を開きます。
十四松「チョロ松にーさん…。あのね、やっぱりおそ松にーさん寂しいんだよ…」
チョロ松「ん?どうしたんだよ十四松」
十四松「さっき、ぼくたちを近づけさせない為に悪魔がすっげー空気の壁みたいなの放って来たでしょ?その中におそ松にーさんの『寂しい』って気持ちがあって、一緒に伝わってきて。やっぱり寂しかったんだって思って…」
チョロ松「……そうか。じゃあ、その気持ちをちゃんとおそ松兄さんに言葉で伝えなきゃ。『寂しくなる必要なんかない』って。僕達はおそ松兄さんを1人にしたくて離れたわけじゃないからね」
十四松「うん…。そうだね!」
やはりおそ松は寂しさを感じていたのだ。改めてそう確信した十四松は、兄を助ける為、自分の言葉を彼に伝える為。おそ松の元へ駆け寄ります。
そして―――。つばぜり合いで吹っ飛ばされたカラ松とそれを負うおそ松。追い詰めようと彼の首にかけたその手を、十四松は猛スピードで掴んだのでした。
十四松「おそ松にーさん!!」
カラ松「十四松……?!」
おそ松「何だよもう少しで首を捻り取れそうだったのに。邪魔すんなよなー」
十四松「にーさん!!ぼくの声が聞こえてるなら話を聞いて!悪魔になんか負けないで!!!」
おそ松「ハァ…?!お前までこいつの肩を持つってのかよ。……ちっ。やっぱりまとめて始末するしかねーのかなー?」
片腕を掴まれながらも、十四松の放った言葉にイラついた彼は開いている手で十四松を振り払おうとします。しかし……。腕を後ろに勢いづけた瞬間、その動きが止まりました。
何事かとその方向を見てみると―――。チョロ松が、もう片方の腕を掴んで動きを封じていたのでした。
カラ松「チョロ松!」
チョロ松「ったく。長男もだけど次男もクソ馬鹿だよね。どっちも一回ケツ毛燃えればいいのに。……十四松。ちゃんと気持ちを伝えろ!!おそ松兄さん、ちゃんと聞いてくれると思うから!!」
カラ松「十四松…お前…」
十四松「あのね!おそ松にーさん!!……おそ松にーさん、寂しかったんでしょ?!」
おそ松「ハァ~~~?!寂しい?そんなわけな……」
カラ松「?」
十四松が『寂しかったんだろう』と口にします。その言葉を聞いたおそ松は、最初は嘲笑おうとしましたが……一瞬でその醜い笑顔が崩れます。自らを纏っていた『圧』もその姿を消しました。そして、代わりに3人が感じたものは……。自分が知っている『おそ松』そのものの感触でした。
カラ松「おそ松!戻ったのか?!」
チョロ松「違う。多分悪魔が想定外のことで動揺して離れかけてるだけだよ。十四松。多分すぐに悪魔に主導権取られる。今のうちに言葉を伝えろ!!」
十四松「わかった!」
一瞬の隙もありません。恐らくこのタイミングを逃せば、いつおそ松『本人』と話を続けられるか分かりません。チョロ松は瞬時に判断し、十四松におそ松に語りかけるよう諭します。彼も強く頷いて、おそ松へ話しかけます。
十四松「おそ松にーさん!にーさんが『寂しかった』って、ぼく分かんなかった。カラ松にーさんをサクヤさんのところにおいてっちゃったあの日。ぼくたちが就職を決めたあの日…。おそ松にーさんは、『ぼくたちが松野家を嫌いになっちゃった』って思っちゃったんだよね?たぶん…。
でもね!それは違うんだよ!おそ松にーさんを、一松にーさんを、トド松を。嫌いになったからぼくたちはいなくなったんじゃないんだ!おそ松にーさんの気持ちに気付けなかったのはごめんなさい!!でも……ぼくたち、おそ松にーさんのこと今でも大事だもん!!嫌いって思ってないもん!!それだけは分かって!!」
上手く言葉が思いつきませんでしたが、一生懸命言葉をおそ松に伝えます。ちぐはぐでもいい。取り繕った言葉より、今は自分の気持ちをストレートにぶつける方が先だ。十四松の頭の中はそれでいっぱいになっていました。
チョロ松もおそ松をその場から逃がさないよう力を沢山込め、腕を離しません。カラ松は十四松を助ける為、彼の身体を支えていました。
―――言葉を伝え続けていたその時でした。十四松が掴んでいたおそ松の手が震えるのがわかりました。
おそ松「…………」
十四松「おそ松にーさんっ!!」
おそ松「うるせえ!!うるせーんだよっ!!!」
チョロ松「うわっ?!」
カラ松「チョロま―――ぐああっ!!!」
腕の震え。確かにおそ松は『恐怖』を感じ取っていました。3人に伝えられた言葉が怖かったのでしょうか。彼は腕に力を込め、三つ子を力いっぱい吹っ飛ばします。
勢いの反動で近くの地面に身体をぶつける三つ子。しかし―――その瞳は、光を宿していました。それをも怖くなったおそ松は、再び自らの力で3人を近づけさせないようにしますが……。
おそ松「な……?!」
3人には、自分の放った『圧』が効かないのでしょうか。次の攻撃が来ると構えていたカラ松もこれにはびっくり。……ふと、彼の握っていた掌が淡く光っているのが分かりました。開いてみると……先程大典太から貰ったお守りが光っています。そして、ほんのりと包み込むような暖かさを感じます。
それは、『太陽』ではない。暗い暗い闇の中で輝く『一筋の光』。言うなれば『星』。そんな感触をカラ松は覚えました。
チョロ松「あれ?苦しくないぞ?」
十四松「カラ松にーさん。それ、ひかってるね」
カラ松「あぁ…。大典太さんのお守りがオレ達を守ってくれてるのかもしれない」
カラ松は再びそれをぎゅ、と握りしめ、静かにおそ松の元へ歩き出します。自分の攻撃が聞いていないことに再び恐怖を覚え逃げようとするおそ松。しかし、後ろにはチョロ松が構えています。空を飛べば逃げられそうなもんですが、恐怖で頭が支配されている今のおそ松にそんな選択肢を考える余裕はありません。
その間にもカラ松は近付き、遂におそ松の目の前まで歩みを進めました。怯えるおそ松をじっと見つめるカラ松。そして、静かにこう語りかけたのでした。
カラ松「おそ松。オレ達は一度もお前を見捨てたり、離れようと思ったりはしていないぞ。お前の思い込みだ」
おそ松「じゃあ…なんで…なんでみんな出ていったんだよ…。全部…全部…あの運営本部が悪いんだ…。あいつらが俺達の日常を壊したんだ…!!」
チョロ松「違うよおそ松兄さん。それは違う」
頭を抱え、涙を流し、小さく『あいつらのせいだ。あいつらのせいで俺達の日常が壊れた』と繰り返すおそ松。チョロ松と十四松もカラ松の傍まで近付き、『それは違う』と言葉を続けます。
チョロ松「僕達、この世界でやるべきことを見つけただけだよ。僕も、カラ松も、十四松も。一松やトド松だってそうだよ。誰一人お前を見捨てたつもりなんてない」
十四松「おそ松にーさん。もしみんなが見捨てたりしてたら、こんなにおそ松にーさんを心配して何とかしようって思わないよ?一松にーさんもトド松も凄い心配して、いの一番に『おそ松にーさんの様子がおかしい』ってぼく達に伝えてくれて。おそ松にーさんが悪魔にされちゃった時だって、危険を承知で一緒に探すって言ってくれたもん!」
カラ松「おそ松。お前に寂しい思いをさせたこと。それは事実だ。気付けなかった俺達にも非はある。それは謝る。申し訳なかった。だが…俺達はお前を嫌いになったことも、見捨てようと思ったことは一度だってない。
……だって俺達腐っても家族だろ。『松野家の六つ子』なんだから」
おそ松「…………」
ぼやけた視界で目の前の三つ子を見るおそ松。―――あぁ。なんて美しい瞳なのだろう。彼はそう思ったそうな。濁りのない、希望を持った目。自分とは大違いだ。そして、真っすぐと自分を見つめている。嘘をついている目ではない。チョロ松はともかく、カラ松も十四松も嘘が顔に出やすい人間だ。そんな奴らが、自分の目を見て真っすぐ語りかけている。……到底嘘をついているようには思えませんでした。
『(俺、とんでもない勘違いしてたのかなあ)』
―――そう思った矢先でした。その思考を黒く塗りつぶす影が。来てほしくなかった奴が。自分の頭の中を再び支配する。ああ、助かると思っていたのに。
嫌だ嫌だと小さく口にしながら再び頭を抱えるおそ松。そんな様子に三つ子も驚いています。
カラ松「おそ松?!どうしたんだおそ松!!」
十四松「にーさん!見て!!おそ松にーさんの背中からなんか出かけてる!たぶんあいつのせいだよ!!おそ松にーさんがおかしくなっちゃったの!!」
チョロ松「あの黒い靄が、カラ松が言ってた『悪魔』ってやつなのかな?おそ松兄さんが自我を取り戻しかけてるから無理やり戻ろうとしてる、みたいな?」
おそ松「あぁぁ……いやだぁ……いやだぁ……!!」
カラ松「悠長に解説してる場合じゃないぞチョロ松!!くそっ、離れろブラックシャドー!!」
チョロ松「いやそれだと別の意味になるから違う表現してくれる?」
十四松「呑気に突っ込んでる場合ではあきまへんがな!!」
おそ松の背中から黒い靄が現れ出でました。その靄はおそ松の中に戻ろうとしているらしく、必死にもがいているようです。もしかしなくてもこれが『おそ松を支配していた元凶』でしょうね。つまり、こいつを何とかしてしまえばおそ松は元に戻れるでしょう。
カラ松はその靄を何とか引き剝がそうと手を伸ばしますが、実体がないのかすり抜けて掴むことが出来ません。
カラ松「掴めないぞ?!」
チョロ松「実体がないんだから掴めるわけないだろバカラ松!!ああもうなんかないの?!お祓いみたいな!!」
十四松「おはらい…」
カラ松「お祓い……あっ」
そんなことを話している間にも、靄は少しずつおそ松の中に戻ってしまいます。このままでは振り出しに戻ってしまい、今までの努力が全部無駄になってしまう…。言い合っている中、チョロ松の零した『お祓い』という言葉にピンときたカラ松。握っている手の中のお守りを見て、お守りをくれた持ち主の言葉を思い出します。
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大典太『……このお守りに俺の霊力を込めた。俺は…『病も怪異も退ける』刀だ。だから、あんた達の兄弟を元に戻す助けになるかもしれないと思って…。持っておいてほしい』
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カラ松「―――!そうか。『病も怪異も退ける』…。だったら、こいつにも効くんじゃないか?」
チョロ松「何かあの靄を解消するアジェンダ思いついたの?」
カラ松「『あじぇんだ』がなんだかよく分からんが、いい考えを思いついた!あの靄を殴ってみる!」
チョロ松「オイ待てコラさっき掴めなかったの自分で確認したばっかりだろうが!!掴めねーなら殴れねーよ馬鹿かお前!!!」
十四松「チョロ松にーさんどーどー。カラ松にーさんなんか考えあって『殴る』って言ってるみたいだし、賭けてみようよ。ま、失敗したらにーさんのせいになるだけだからね!あはは!」
カラ松「意味の度合いがちがーう!!!……2人共。おそ松が逃げないように両脇を固めてもらえるか?」
十四松「あいあいさー!」
どこの本家のネタを引っ張ってきてるんですか。それはともかく。カラ松は2人におそ松の両脇を掴んで彼が逃げないようにしてほしいと頼みました。靄が中に入り込んでしまうまで猶予は残されていません。素早く移動した2人を確認した後……。
カラ松は、拳をぎゅっと握っておそ松の前に立ちます。気配がしたのか、静かにカラ松を見上げる彼。『殴られるのか』一瞬、そう思いました。靄がかかる思考の中、静かに目を閉じます。
そして―――。
カラ松『―――『悪魔』!!!お前はこれで終わりだあああああっ!!!!!』
カラ松は―――。お守りを握りしめた拳で勢いよく、おそ松の背中から戻ろうとする『靄』を殴ったのでした。霧は殴った右手を中心に、塵となって消えていきます。
両腕を支える弟と、真ん中で目を瞑る長男の耳には―――。
低く、醜い断末魔が木霊していたのでした。
ふと、ぱたりと地面に横たわる音が。思わず瞑っていた目を見開いたチョロ松と十四松の目にとんでもない光景が入ります。
十四松「おそ松にーさん?!」
チョロ松「え?え?まさか失敗した?!ちょっと?!大丈夫おそ松兄さん?!」
カラ松「いや、悪魔は塵になったし失敗してないと思うんだが…」
チョロ松「もしかしておそ松兄さんの魂ごと殴ったなんてことはないよね?!え?おそ松兄さん死んだ?!死んだの?!」
あまりの慌てっぷりに不安になるカラ松。おそ松を仰向けにし、脈を図ってみるも正常。死んでいないことをチョロ松に伝えると、自分もおそ松の脈を測ってどっと肩を降ろしたのでした。
そんな3人の元に、更に気の抜けた音が。
おそ松「……ぐぅ~~~~。……がぁ~~~~」
チョロ松「…………」
カラ松「あまりに衝撃的過ぎて気絶したまま寝たなこれ」
十四松「あはは!にーさんらしいや!」
チョロ松「……僕の心配を返せええええええ!!!!!」
チョロ松の嘆きを背景に、カラ松は殴った右手を開いてみました。そこにあったはずのお守りは……。袋が破け、中に入っていた青と黒の勾玉が真っ二つに割れてしまっていました。先程まで感じていた、暖かな感触も既にありません。悪魔を殴った時に効力を失ってしまったのでしょう。
カラ松は静かにその勾玉をポケットに仕舞い、眠るおそ松を担いで城下町までの道を戻るのでした。