二次創作小説(新・総合)
- ABT⑩『理は人知を超えて』 ( No.90 )
- 日時: 2021/01/10 22:15
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: 6..SoyUU)
ニアと青年を追って大和城へ走るサクヤと大典太。
前田とも合流し先を急ぎますが、彼女達はそこで『邪神』の本気を知ることになるのです…。
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~大和城前~
サクヤ「さぁ、突入いたしましょう」
大典太「人の流れが強まっている…。急がねば間に合わない」
ニアと褐色の青年の後を追って、サクヤ達も大和城の前までやって来ました。未だ人の流れは留まるところを知りません。中に入って元凶を断たねば、この人の波が止まることがありません。
いざ突入しようと足を踏みしめた時、背後からこちらを追いかけてくる影が。駆け足なので操られている人物ではなさそうですが…。振り向いてみると、そこには八重山吹の花を帽子に挿した、真面目な表情の少年が立っていました。
前田「主君!追いついてよかったです。お2人を追ってここまで来たのですが、途中で見失ってしまいまして…。申し訳ありません」
サクヤ「前田くん。いえ、ご報告ありがとうございます。と、いうことは…。グレンさんもクレアさんもこの中に確実にいるという訳ですね」
大典太「仲間を助けに行ったのか…。相手が人じゃないかもしれないのによく突入するものだ…」
サクヤ「本部も人の皮を被った化け物ばかりなんですけどねぇ。まぁそんなことは良いです。急がねば全て後の祭りになります。急ぎ突入し、救助に当たりましょう」
前田も合流し、改めて突入しようとしたその時。大典太がふっと何かに気付いたように目を見開きます。その表情が珍しかったのか問うてみると、彼はしばらく黙った後ぼそぼそとこう答えたのでした。
大典太「……島の外れから感じる悪意ある殺気が消えた。恐らく…あいつらの探していた兄弟の悪意が消えたんだと思う」
サクヤ「と、いうことは…。三つ子さん達は無事におそ松くん救出に成功したということですね」
前田「ふふ、兄弟奪還ですね。……ちゃんと仲直りしてくれるといいのですが」
大典太「……大丈夫だ。ちゃんと話し合ったはずだ。あいつら…やればできるじゃないか」
サクヤ「はい、本当にそう思います。彼らの成功を無駄にしない為にも。我々も急ぎましょう」
まぁ当然なのですが。あのお守りが効力を失ったことへの察知だったようですね。ということは、おそ松も元通りになって奪還成功したということに繋がる訳で。彼らでもやれたのだ、と安堵からか少し微笑みを見せる大典太。
彼女はそんな彼の表情に口角を少し上げながらも、自分達も急ごうとはっぱをかけます。そうです。彼らが兄弟を助けても、ここで立ち止まっていては何も解決しないのです。
彼女らは改めてそのことを心に留め、大和城の中へと入っていったのでした。
~大和城~
サクヤ「―――大勢入っていったにしては。倒れている人物が少ないように思えるのですが」
大典太「……倒れていた人間に少し霊力を当ててみたが、気絶しているだけのようだ。徐々に生気を奪われて、それに身体が耐えられなかったんだろうな…」
前田「もしかしたら、既に入っているグレン殿とクレア殿が先行して避難を促していたのかもしれませんね」
サクヤ「およ、一本取られた形ですか。……まぁ、倒れている方々の放置も出来ませんし…。前田くん。すみませんが見つかった方々を近くの建物まで移動してはくれませんでしょうか。この先に強い悪意を感じます。恐らく……魔力や霊力の低い者では耐えられません」
前田「承知しました。向こうにも倒れていらっしゃる方を見つけたので、近くの建物で看護しますね」
大典太「……すまんな。何かあれば連絡してくれ」
先程グレンとクレアが突入した際、動ける人間に避難を促していた影響か。大和城の中には思った程人がいませんでした。倒れている人に少し霊力を当てて、気絶しているだけだということを見抜く大典太。そこから前田に『倒れている人を近くの建物まで移動してほしい』とサクヤは頼みました。救助も大切ですが、恐らく今頃ニア達が奥の奥でドンパチやりあっている頃でしょうからね。大典太は恐らく断る可能性が高く、前田まで巻き込みたくなかったのでしょう。
前田はサクヤの意思を素直に受け止め、自分にやれることをやると返してくれたのでした。
前田と別れ、少しずつ奥へと突入する1人と一振。歩けば歩くほど、『悪意』は徐々に強まっています。そして、身に覚えのある悪意も…。前田に見えやすいように奥まったところに倒れている人を出来るだけ遠くに移動させつつ、彼女達は先へと移動をしていました。
そして……。例の襖のある部屋に辿り着きます。
大典太「……主。この先から強い殺気を感じる。恐らく……この先が一番奥の部屋だ。何者かがやり合っている」
サクヤ「グレンさんもクレアさんも見当たりませんでしたし、この先にいるかもしれません。用心して行きましょう」
襖の奥から感じるいくつかの悪意と殺気。タケモトとニア、青年が戦っているのでしょうか。少しでも気を抜くとこちらにまで悪影響を及ぼすと思ったのでしょうが、そんな泣き言は言ってられません。この先で何が起こっているのかを確認せねばなりません。この先にグレンとクレアがいるかもしれないんですから。
意を決して襖を開くサクヤ。彼女の目の前には―――。
ニア「……うふ?邪神を甘く見ないでほしいものですわね?」
『あ~あ。ニャルったら最近全然鬱憤晴らせてなかったんじゃん。あの『本部』ってトコロで探索者探せば良かったのに』
ニア「合格点をあげたい方は沢山いらっしゃいますが、彼らを廃人にしても面白くありませんもの。それに…鬱憤を好いている方にぶつけるなんて、ご法度ですわ?」
タケモト「何を呑気に喋っているんだ…!我々の神を騙る者よ!!絶対に許さんぞ……!!」
サクヤと大典太に強い圧が襲い掛かります。素早く襖を閉め、他の部屋への影響を少なくします、が……。彼女も大典太も自分を支えることで精一杯。そんな彼女らの目の前では、本体であろう職種を背中から出してタケモトに高速で詰め寄るニア。そして、パーカーのフードを目深に被り何かを唱えている青年の姿がありました。
サクヤ「圧が凄い…!近づくなということでしょうか…っ」
大典太「主、大丈夫か。……あんたならこんなの余裕だと思ったんだがな…。やはり、力を分けた影響が出ているのか?」
サクヤ「そうかもしれません…。それに、圧から『近づくな』という意思を感じます。我々の介入は嫌だそうですね」
大典太「そう、か……。―――!主。倒れている人間がいる」
サクヤ「どこですか?」
圧を感じながらも軽口をたたき合うとは、流石守護神と霊刀といったところでしょうが…。壁の方を見た大典太が一言、『人間がいる』と告げます。サクヤも同じ方向を見ると、そこには―――。壁にもたれて気絶しているグレンとクレアの姿がありました。グレンの方は怪我をしているようですね。
壁伝いに移動し、彼らの近くまで移動し彼らの容態を確認します。大事でなければいいのですが。
サクヤ「どうです?」
大典太「……桃色の髪の方は眠らされているだけのようだが…。赤い髪の男は壁にぶつかって身体を打っているな。何者かに強い衝撃で壁に叩きつけられた可能性があるな…」
サクヤ「ありがとうございます。とりあえず、グレンさんとクレアさんを担いで入口まで戻りましょう」
大典太、素早く状況を説明。クレアはともかくグレンは本当に怪我をしているようなので早くこの場から立ち去らねばなりません。相手に見つからないように気配を消して入口まで戻ろうとする彼らですが―――。『男』はそれを見逃してはくれません。
タケモト『私がお前達に気付いていないとでも思ったのかね?!』
大典太「―――!主!!」
サクヤ「?!」
こちらに向かって突進してくる影―――。大典太はとっさにサクヤの前に出て、自分が盾になろうと身体を乗り出しました。確実に傷付くと覚悟したのですが―――。来るはずの『痛み』が来ない。恐る恐る目を開けてみると、そこには……。
ニア「うふ?よそ見をしてはいけません、わ?」
『全く~。相手はこっちなんだから集中してよね~?』
サクヤ「ニア!それに貴方も…。これは…」
ニア「随分とのんびりした到着でございましたのね…。思わず触手を仕舞うのを忘れそうになっていましたわ」
大典太の目の前で、杖を剣替わりにして攻撃を受け流しているニアの姿がありました。『触手を仕舞うのを忘れそうになっていた』と言っていますが、出てますから。背中からにゅるっとした黒いものが。触手にはそれぞれ意思があるようで、大典太とサクヤに興味津々なのか彼らをガン見。せめて主には見せまいと彼は自分の手でサクヤの目を覆います。
ニアはそんな触手の様子を見て、『よそ見は駄目ですわ?』と指をパチリ。すると、触手は最初からなかったかのように消えてなくなってしまったのでした。彼女の放つ圧倒的な『圧』にタケモトは一瞬で吹き飛ばされます。
ニア「見ての通り、ですわ。あの主催者がこのツアーを利用して、観光客や島の人間から生気を吸い取っておりましたの。そして…その生気を使い、『ハスター』とは言えぬ紛い物をこの世に降ろそうとしていたようです、わ」
サクヤ「あの大きな黄色い球体が…この島や観光客の生命力だとでもいうのですか…。人の知識で得られるものではありません」
ニア「あら、当たり前ですわ?彼は…既に人の精神ではありませんもの。『狂信者』とも呼べぬ…愚かな人の身を被った『化け物』です」
大典太「……それで、あんた達は何故あの男と戦闘をしていたんだ」
『あ、それはね~。ニャルの鬱憤晴らしとこいつ倒さないとこの宝玉壊せないからだね。これ壊さないとオレも力制限されて動けないからさぁ~』
サクヤ「やはり…貴方は…。邪神『ハスター』なのですね」
『ありゃりゃ。そこまで見抜かれてたか。そんじゃもう隠す必要はないか~』
そう軽々しく振り向いた彼は、ひらひらとこちらに手を振って自己紹介を始めました。いや、今やる場面じゃないと思うんですが。どうやら彼もニアと同じく『別に名乗っている名前』があるらしく。
アマリー「ご存じの通り、オレは『ハスター』。『黄衣の王』とかって呼ばれてる邪神だな。でも、普段は『アマリー』って名乗ってる。『アマリリス』って花から取ってるんだ。いつもはこの姿で流れの料理人をしてて、ニアに『料理人を装いながら主催者を灰にするのに協力してほしい』ってお願い聞いてここまで来たんだよね~」
サクヤ「こんな時に自己紹介をするものではありませんが…。こちらこそよろしくお願いします」
大典太「……律儀に反応する主も主だぞ…」
ニア「本当です、わ?天下五剣様の仰る通り…。空気の読まない邪神ですこと…。そんなことをしている場合ではありません、わ。これから貴方様がたにお願いしたいことがございますのに…」
サクヤ「お願いしたいこと、ですか?」
ニア「はい。難しいことではありません…」
アマリーの自己紹介をぶった切り、ニアは自分の『お願いしたいこと』を告げる為話を始めます。サクヤもそっちに集中する為一旦アマリーに断りを入れてから、彼女の方に向き直りました。……ニアとアマリーって腐れ縁的な関係なんですかね。
そんなことより。ニアの頼みたいことって何なんでしょうか。
ニア「私がお願いしたいことは1つ…。グレン様とクレア様を連れて今すぐにこの城から脱出し、この島中に『記憶を曇らせある魔法』をかけてほしいのです」
サクヤ「記憶を曇らせる魔法…?確かにこのことが外部に漏れてしまえば唯事ではすみませんし、このアオイの島の今後の評判にも影響が付くので考え自体には賛成ですが…」
大典太「……待ってくれ。この島は本部で確認している。連中にもこの出来事に関しては知れ渡っているはずだ。そのことに関しては…どうするんだ」
アマリー「あ、それに関しては問題ナッシング!あの球体さえぶっ壊せれば記憶操作はオレが出来るようになるし。流石にあの運命を操る神に関しては無理だと思うけど、本部の人間の記憶を弄るくらいちゃんちゃら問題はないよ!」
サクヤ「……他に影響が出ないように記憶を弄ってくださいませね?流石にお客様におかしなことが起きても責任が取れかねませんので」
アマリー「はいはーい。うまいことやっとくやっとく~」
大典太「(本当に大丈夫なんだろうか…)」
そう言ったと同時に、ニアとアマリーはサクヤと大典太を襖の向こうの部屋に押し込みます。そして、グレンとクレアを移動させたと同時に襖を締め、今度こそ入られないようにきつく封印をかけたのでした。大典太がいくら開けようと力を込めても開かない為、無理でしょうね。
と、同時に―――。タケモトであろう悲鳴が、襖の向こうから聞こえてきたのでした。
大典太「―――っ…。つんざくような醜い声だ…」
サクヤ「人の身から堕ちかけていることは本当だったようですね…。大典太さん。グレンさんとクレアさんを連れて早いところ脱出しましょう。恐らく、この部屋もすぐに危険になる筈です」
大典太「……承知した。彼らは前田に任せるとして、城からでたら『記憶を曇らせる魔法』とやらを島中にかけるんだったな」
サクヤ「はい。本来ならば私1人で充分なのですが…。大典太さん、手伝ってくださいますか?」
大典太「……頼まれなくとも。置物でも、俺はあんたの近侍なんだからな…」
大典太がまた少し微笑んだ。サクヤはその表情に、感じたことのない高揚感を得ていました。それはともかく。急いでここを脱出しなければなりません。外では前田が待っているはずです。
1人と一振は互いに頷き、気絶している2人を抱え部屋を脱出したのでした。
それと、同時に。
サクヤと大典太の去った部屋も、すぐに『黒』一色に呑まれたのでした。
~城下町・下町 民宿~
前田「主君!大典太さん!こちらです」
サクヤ「前田くん。こちらに眠っている方で全員ですか?」
前田「はい。民宿の方に事情を話し、お部屋を借りました。皆さん快く手伝ってくれています!」
大典太「……この島の人間は、暖かい心の持ち主ばかりなんだな…」
サクヤ「アオイの島では過去に色々あったようですからねぇ。それがあるからこそ、人と人とで手を取り合うことが自然になっているのではないでしょうか」
大典太「……そういう、ものなのか」
近くの民宿の前で前田が手を振っていました。どうやら話を付けてくれたようで、大和城から連れてきた人達が部屋で眠っているようです。グレンとクレアもすぐに部屋に横たわらせ、民宿の人に事情を話しました。どうやら後は彼らが『青空館』まで連れて行ってくれるようですね。
サクヤ「……さて、大典太さん。我々も我々の仕事をこなしましょう」
前田「何か頼まれたのですか?」
大典太「……これから『この島の人間の、今回の事柄にまつわることだけを記憶から消す』魔法を島中にかけるらしい。だから…この島の連中からは、俺達がいたことの記憶はさっぱり消えると思った方がいい」
前田「そうなのですか…。仕方がないこととはいえ、少し寂しいですね」
大典太「……別にいいさ。どうせ俺は蔵の中で忘れられる存在なんだからな…」
サクヤ「ネガティブな発言をしている暇があるのならば、早速『記憶を曇らせる魔法』の発動準備をしますよ。民宿の方に迷惑がかかるので、外で行いましょう」
民宿の方に改めてお礼を言ってから、サクヤと大典太は外に出ました。そして―――。サクヤの指示に合わせて、大典太も自分の霊力を練り合わせていきます。一部の地域であれば、サクヤの神の力だけでも十分効力はあるのですが…。島中となると流石に大典太の力も借りた方が安定性はあるというものですね。
手を伸ばす1人と一振の中心から、紋章のようなものが浮かび上がります。それは少しずつ、少しずつ大きくなり……。島一面を覆うドーム状まで広がった後、空に溶け込むように消えてしまいました。
サクヤ「ふぅ。これで準備完了です。ニアかアマリーさんが『黄色い宝玉』を壊したと同時に、この魔法は発動します。その前に、我々も魔法の影響がない場所まで移動しましょう。三つ子さん達も呼びますね」
大典太「……移動といっても、島中を覆っているのだから意味がないんじゃないか?」
サクヤ「そうでもないのです。我々が大和城に移動する前に入った建物には効力を発揮しないよう細工をしておきました。魔法が発動するまで甘味でも味わいませんか」
前田「甘味ですか!主君!僕、甘いものが食べたいです!」
サクヤ「前田くんは本当に今回よく頑張ってくれましたからね。何でも食べていいですからね」
前田「ありがとうございます!何を食べようか決められないです…!」
大典太「……随分と呑気なものだ。だが…。それも、いいのかもしれないな」
とんでもない魔法を島中に設置したにも関わらず自分達は甘味屋で休憩って。どれだけマイペースなんですかこの青龍は。まぁ…それが彼女のいいところでもあるのですが。
甘味屋で何を食べようか色々とわくわくしている前田を見つつ、大典太はまた目尻を下げて微笑んだのでした。