二次創作小説(新・総合)

Re: ≪ポケモン二次創作≫ 最期の足掻き【オリキャラ募集】 ( No.33 )
日時: 2022/06/30 18:24
名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: XsTmunS8)

ゴ─3柱─

今日も僕達は仕事終わりに食堂で食事をしていた。この不味い料理にも慣れてきて、難なく食べられるようになった。といっても、不味いことに変わりない。
それよりも、それよりも深刻なことが今、たった今起きている。

「で?そこの紫髪のアマはなんだい?シュウ。」

レイはニコニコしながらも額に青筋を立て、手、まぶたがプルプルと震えている。笑ってるけど…怒ってるでいいのかな。あ、今レイがフォークを折りました。完全に怒ってますねコレ。
僕はアハハと言いながら目をそらす。
僕は今、リゼを連れて食堂に来ている。なんと対面の比率が2:3と、見事に僕らが責められる側になっている。何故こんなことになったかと言うと…
ダミ、リゼ、僕でこの施設の脱走を試みたは言いものの、情報が足りない。基本的に情報を多く握り、技術力もあるダミ中心に脱走が進むことになったけれど、それまでは僕とリゼはなるべく一緒に居た方がいいと言うことだそうだ。逆に計画の事を知られて僕とリゼのラインが明るみになる方が危ないと思うんだけどなぁ。そう思いながらも指示に従ってはいる。

「……私以外のペットを連れてくるなんて、認めない。」

ミソウもフォークを折るまでにはならないが、目元が暗くなり後ろからゴゴゴというオーラが見えそうである。いや、ミソウをペットにしたつもりなんて無いんだけど。
なんというか…自惚れになってしまうかもしれないけど、レイとミソウは僕のこと好きすぎないか?嬉しいのは嬉しいけど…怖い。特に化け物が集うこんな場所であれば余計に。

「おいおい、レイが困ってるじゃねぇか。話ぐらい聞こうぜ。」

タツナが脂の「a」の字すらない硬い肉を豪快に頬張る。しっかりしてるのはタツナだけだよ…

「まあ、話聞いてやるだけどけどな。」

といい、タツナはリゼにフォークを向ける。あー、タツナはちょっとマシなだけだった…話聞くだけ聞いて殺すやつじゃんそれ。僕はここまで大した言い訳も考えずに来たわけで、というかそんなこと考える頭も無いためこんな修羅場になってしまった。僕はリゼに視線を送る。「何かいい案無い?」という意味で。しかしリゼは首を横に振る。
僕は額に手を添えた。ここで脱走計画は失敗か?まずこの前のことがあるからレイには脱走計画を知られて欲しくない。どうしようか……
するとリゼが急に僕の腕を掴んできた。
慣れてない女性の感覚に僕は固まってそのままリゼを見て動けなくなってしまった。一体どうしたというのか。

「私。シュウの事愛してるの。」

そこで爆弾発言が投下された。腕を握ってきた時点で薄々勘づいてはいたけどこんな無理矢理で、しかも場をもっと修羅場にさせる発言がくるとは信じたくなかった。と言っても棒読みだから、嘘って言うのはスケスケだよね……?どうやらそうでも無いらしい。
ほら、レイなんて顔が赤通り越して黒くなってきてるよ。折角の綺麗な褐色肌が台無しだ。タツナはさっきまで感情を露にしていたのにレイのようにニコニコと笑うようになってきた。
お、お二人共大変恐ろしゅうございますのでその顔を一旦元に戻しては頂けませんか?なんて言えませんしね。はい。

「…シュウは、俺という物がありながら他の女の尻を追いかけるのかい?」

するとレイが片足机に乗っけて、僕の方に身を傾け顎をレイの手によって強制的にレイの方を向かせられた。所謂顎クイってやつだ。
まず僕、レイとはそんな関係じゃないし、それより、僕とレイ同性じゃん?!
僕は一種の気持ち悪さと、謎のドキドキを感じながらレイの顔を見つめるしか無かった。あ、レイって意外と顔が整ってるんだな。細めで鼻筋通ってて、瞳は赤黒く濁ってるけど… 仕事をしてる時もカッコイイし…って、何を考えてるんだ僕は!

「なら、シュウハーレムを作りましょう!」

次に机に片足踏み込んできたのはミソウである。その前に2人共、お行儀悪いから元の場所に戻りましょ?なんて言えないしなぁ
というか、ミソウちゃん!君まだ5歳かそこらだよね?!ハーレムなんて破廉恥な言葉どこで覚えてきたんだ!

「ハーレムか…シュウが中心で、俺らがそれに群がる…悪くない。大人数で乱れられるしな。」

タツナが体の成長具合と全く見合わない言葉を発する。というかどの歳で同性愛に目覚めちゃったんですかタツナさん?!あと乱れるってアレだよね?仕事で役立つとかのアレだよね?決してみだらな行為じゃないよね?
ここの人々は実年齢より精神年齢を重視した方が良さそうだ…

「……作ろう!」

あー、ほらリゼも若干引き気味になってるよ。それでも脱走計画を遂行させるために話を無理矢理合わせたようだ。でも、結構無理あるよリゼさん。僕はこの状況を何とかしようと模索していた…すると。

『ちゅっ』

額に何か柔らかいものを感じた。目の前にはドアップのレイの顔。僕は数秒間フリーズしてしまった。え、この状況を考えると…僕、きっききキス…された?
その瞬間カァッと血が頭に上り反射神経でバックステップをとってしまった。

「ね?シュウは僕が好きなんだよ。」

ドヤっとしたレイの珍しい表情。いつもはカッコイイけど、今は潰したい気分だよ。

「なっ、なんて破廉恥な……」

ミソウが頬を赤らめて口に手を添えている。僕らのせいで変な方向に目覚めちゃったらどうしよう…

「…私はついていけない」

リゼは限界を迎えたのか口を両手でおおい真っ青な顔をしている。リゼは同性愛は無理な人らしい。そりゃ耐性がない人がこの状況見たらそうなるよね。

「こっの、何しやがるんだてめぇ!」

タツナがガラ悪い言い方でレイを襲う。しかし、レイはそれをあしらいながらケラケラとしている。

「…シュウよく耐えられたね。」

リゼが僕に耳打ちをしてくる。

「耐えるって…何が?」

「普通好きでもない人から……しかも同性からキスされるなんて気持ち悪いじゃないですか。」

確かに。その通りである。しかし、僕はさほど気にしては居ない。あれ、それって何でだ?それって僕はレイにキスされても良いってことじゃ…

『バキッ』

僕はそれ以上考えたく無いため机に頭を叩いた。すると力んでしまい机が真っ二つに割れてしまった。
そんな人間離れした自分の力に驚…いてる場合じゃなかった。

「僕が?!僕がレイなんて、いやっいやいやいや!」

と小声でひたすらに頭をぐしゃぐしゃと掻き乱していた。リゼが言ったことを未だに信じられないからだ。

「はぁ…気持ち悪いですね。」

リゼは目を逸らしす。ミソウは黙ってタツナVSレイの喧嘩へと参戦していた。

「はははっ。面白くなりそうだね」

その時、ランキング上位の双子に本気で突っかかられてるのにも関わらず笑いながらあしらってるレイが言った。その顔は、その微笑みは、いつもの硬い微笑みとはまた違った…

「ってことは、私はここに居てもいいってことですね。」

リゼは吐き気が収まったのか一息すると、サーナイトとご飯を食べ始めた。

えっと、取り敢えず喧嘩止めようよ!

思考がバグり、変な方向性に突っ込んでしまった僕であった。

Re: ≪ポケモン二次創作≫ 最期の足掻き【オリキャラ募集】 ( No.34 )
日時: 2022/05/06 07:40
名前: 謎の女剣士 ◆7W9NT64xD6 (ID: b.1Ikr33)

お久しぶりです。

な、何ですかこの急展開!!
しかも…、作られた人たちの重要任務がポケモンを生かす事じゃなくて殺害する事なんて。
うぅ……、久々に読んで見ましたけど何て酷いことに…。
皆が皆、そんな時があったなんて知らなかったです。

私なら殺さず、生かすかも知れませんね。
どうするかは人それぞれですけど、そこは仕方ないんですよね。

これからの展開が気になります、頑張って下さい。
それでは、失礼します。

※あの、こちらの募集とリク依頼に参加を入れて来ました。
まだ描き途中で済みませんが、宜しくお願いします。

Re: ≪ポケモン二次創作≫ 最期の足掻き【オリキャラ募集】 ( No.35 )
日時: 2022/05/06 17:06
名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: xyOqXR/L)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no

>>34
いらっしゃいませ女剣士様。
感想頂けて嬉しいです!

私もシュウたちの世界に行ったらどうなるでしょう…奴隷市場から買われると思うので初日で死んでしまいそうです(笑)

クロスオーバーについてはリク依頼掲示板にてお話しましょう!ご提案ありがとうございます!

Re: ≪ポケモン二次創作≫ 最期の足掻き【オリキャラ募集】 ( No.36 )
日時: 2022/05/11 14:15
名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: 7hcYnd26)

「やあやあこんにちはシュウ、リゼ」

いつもの隠し部屋にはダミが謎のフラスコを持ってさわやかに笑った。相変わらずそのフラスコの中身なんだろう…めちゃくちゃ不気味なんだけど…?

「やぁ、ダミ」

僕はそう挨拶した。ダミはいつものように謎のフラスコを片付け、大きな画用紙を取り出し、机に開いた。
そこには円が書いてあり、その中は迷路のような見取り図が書いてあった。
これは僕らが脱走する際の第難関の見取り図である。まず、ここから脱走するための出口は僕たちが普段仕事をしているガラスドームの天井の奥である。そこまで、なにかロープを使って行けたら良いのだが、施設側もそんなに甘くない。夜は仕事場にはポケモンがいなくなり、迷路のように壁と天井が設置される。ガラスドームのてっぺんに行くためにはその迷路をくぐり抜けてちょっとづつ上がっていくしか無いのだ。
そしてもちろん、その間に何も無いわけが無い。それを今調査中である。

「ここから僕は毎晩ガラスドームを見ている。すると、迷路は昔から変わってないことが分かった。僕は元々脱走してる身だ。脱走経路は完璧に分かる。ただ、問題は脱走経路に立ちはだかるワナだ。ただ、これに関しては僕に任せて欲しい。それより問題は戦力だ。この間、正規品ギリギリのポケモンのキメラがいると言ったね。」

「……その正規品と戦うことになるのよね。」

リゼは俯いて考える。
ー正規品ー この施設で人間とポケモンをかけて作られるキメラの正規品の事である。ポケモンを処理してるのはその実験で生まれた失敗作と、奴隷市場等から買われた奴隷である。
正規品といっても、失敗作ギリギリらしいけど、リーダーと同格らしい。そう言われてもあまりピンと来ない。僕の心情を読み取ったのかダミはこういった。

「リーダーは…そうだなぁ。レイが5人束にかかっても勝てないって感じかな。リーダー単体だけだとレイ単体で殺せるけどね。 」

レイ5人でも……勝て…ない?!
その時初めてリーダーの強さにゾッとした。

「リーダー単体だったら私達でも殺せますかね…」

リゼが俯く。ダミはケラケラと笑う。

「無理無理。純粋な力比べだったらたしか、タツナ、ミソウだっけ?その双子と同じぐらいだけど、経験と知識、知能が違う。リーダーはその頭脳で、レイにギリギリ勝てる位まで強いんだから。」

どうやらリーダー単体は弱いらしい。それでも…タツナ、ミソウと同じぐらいか…僕もリゼが束でかかっても勝てないかもしれない。

「でも、それならリーダーはポケモンが居なかったらかなり弱体化するのでは無いですか?」

リゼはハッと閃く。確かに!リーダーからポケモンを奪えればリーダーは強いままだが、かなり弱体化する!

「それは無理だね。リーダーはポケモンをいつも手放さない。リーダーはピラミッドの1人でもある。いつ襲われるかも分からない立場だから、ポケモンを奪うことは不可能に近いと考えた方がいいだろう。」

リゼと僕は歯ぎしりする。なら僕らはレイ5人分の化け物を相手にすることになる……無理だ。どうしても。僕らの力では…!

「さて、ここで2人にいい情報と悪い情報がある。どちらから聞きたい?」

さっきからダミはずっと微笑んで僕たちの事を見る。さっきから情報で絶望に落とされまくりの僕らは顔を見合わせた。 なら……

「「いい情報
  悪い情報 からで。」」

僕とリゼの声が重なる。僕達は顔を見合わせると、リゼがどうぞというように手を差し出した。これは僕の意見でいいということだろう。

「じゃあ悪い情報からで。」

僕はダミにそう言った。ダミは表情筋を1ミリも動かさなかった。

「正規品の数だが、12程居る。」

僕らはゾッとした、僕に関しては脱走が絶望的すぎて涙を浮かべている。リーダーが12人分…?レイ36人分…だなんて?無理だよ。無理だ……

「無理だよ、無理……無理だよ!」

僕は泣きじゃくりながらダミの肩を掴む。その肩はあまりにも固く、まるで金属を触ってるようだった。

「まあまあ、それに関しては僕に策がある。けど、念の為ということもあるから、特訓に励んでくれ。そして、良いニュースだ。」

ダミは淡々と言う。ダミが動揺してないということはそれほど問題ないということだろうか…?僕は少しの不安を抱きながら良いニュースを聞くことにした。

「脱走に協力してくれそうな人を見つけた。」

僕とリゼはハッと顔をあげた。一筋の希望を見つけた気持ちである。しかし、協力してくれるかどうか…そして、協力してくれたとしても戦力になるかどうかも分からなかった。 でも一応聞いてみることにしよう。

「その人はどこにいて、どんな人なんですか?」

リゼがダミに聞く。するとダミは1枚の紙を取り出した。

「施設の3柱の1人。ユウだ。」

その紙にはユウと、15という年齢と女という情報と、写真を見せた。黒髪にアイスブルーの瞳。しかし、この施設の人々のようにハイライトがなく濁っている。

「…会いに行けばいいんだね。」

3柱の1人…戦力はかなり高い筈だ。そして失敗すると弱い僕らは確実に殺される。

「あぁ。僕らの脱走計画を赤裸々に話して協力を仰いでくれ。」

「それって、大丈夫なんですか?」

リゼが恐る恐る聞く。ダミはうーんと唸る。

「多分大丈夫だと思う!」

その時、ダミがいつになくキラキラとした笑顔でそう言った。その笑顔で余計僕らの不安が煽られた。とりあえず…会いに行ってみようか……

僕とリゼは期待と不安に満ちた気持ちで『仕事』に向かった。

Re: ≪ポケモン二次創作≫ 最期の足掻き【オリキャラ募集】 ( No.37 )
日時: 2022/05/11 00:06
名前: 謎の女剣士 ◆7W9NT64xD6 (ID: b.1Ikr33)

どもです。

ついに強力な戦力が現れますね。
しかし、正規者がそんなにいると確かにいくらレイたちでも時間が掛かりそうですね。
ポケモンの強奪は無理、どの世界でも手放したくないポケモンがいるんですね。
そのトレーナーによって、大事にされてますから流石に強奪は可哀想…。
後は、タツナとレイの闘いはこのままだと長引きそうだなぁ。

Re: ≪ポケモン二次創作≫ 最期の足掻き【オリキャラ募集】 ( No.38 )
日時: 2022/05/11 14:14
名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: 7hcYnd26)

>>37
そうですね……リーダーのポケモンを奪うのは難しいですね。ここで久々にポケモン二次創作感が出てきました(笑)

正規品はもう本当に強いですよ!()
でも、物語に出てくるチャーフル・ジーニアとスズランにかかれば雑魚同然なんですよねまあ故人ですから……
あれ、スズランって作中出てきたっけ?名前は出てきてないけどまあいいよね!((((

強奪は可哀想……ですよね。家族同然の物を奪われるなんて… そんな胸糞展開を次々と出るのが最期の足掻きです()

感想ありがとうございます!とても嬉しかったです!

Re: ≪ポケモン二次創作≫ 最期の足掻き【オリキャラ募集】 ( No.39 )
日時: 2022/05/11 22:17
名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: 7hcYnd26)

次の朝。僕はいつものように起きて、仕事場に放り出された。いつもなら僕とリゼ、レイ、タツナ、ミソウで行動するところなんだけど……

「あのさ、レイ。今日はリゼと別行動してもいいかな?」

僕は恐る恐る言う。レイは微笑みを絶やさない。何考えてるか分からないが確実に怒ってるだろう。

「は?ダメに決まってる。」

「そうよそうよ。」

タツナとミソウが僕にそう言う。やっぱりそうだよね…危険だし。けど、別行動じゃないと3柱の1人に会えないし…どうしようとリゼに目配せする。リゼは肩を竦めたため、ノープランということだ。

「……今日だけだよ。」

レイはそう言うと双子の襟を掴んだ。

「ちょっま!俺らは許してねぇぞ!」

「離してっ!」

その言葉を最後に、レイは双子を連れて消えてしまった。

「…どんな風の吹き回しでしょうか……」

リゼは呆気に囚われている。僕もである。僕とリゼを2人きりにさせるだなんて何かあったのか。それとも、ただの気分が…
レイはいつも微笑んでるため何考えてるか分からない。

「取り敢えず好都合だ!行こう!リゼ!」

「……はい。そうしましょう。」

そう言うと僕らはダミに言われた通りの場所へと走った。

ーーーーーーーーーー

僕らは木々を伝いながら、なるべく早くその場所へと足を進めた。といっても、仕事を放置することも出来ないため、小さいポケモンは殺して回ってはいる。相変わらず断末魔がこの世のものとは思えないもので、度々不快感に苛まられる。しかし、当初は気が狂いそうだったため、成長したとも言えるのだろうか?いや、どんどんレイやミソウのように狂ってる側に引っ張られてる気がする。完全に狂う前に…早く行かなければ…!
チャーフルは、こんな過酷な環境下でも耐えて皆を救ってたんだな。僕は…ちっぽけだ。

「ぼさっとしないでシュウ」

リゼがキツく僕に言う。僕はギクッとするが、直ぐに整える。

「ごめん。早く行こうか。」

僕らは脚力を上げた。

ーーーーーーーーーー

そこには大樹があった。木には沢山傷が付けられており、それでも尚立っている大樹は大きな存在に見えた。すると、後ろからなにか、ゾワッとしたものを感じる。これが俗に言う殺気だ。ポケモン達からいつも殺気を当てられているが、いまの殺気は何か違う。桁違いに強い『何か』である。
僕は瞬時に前にジャンプし、後ろを振り返っていた。

「そんなに警戒しなくてもいいじゃないか。」

その『何か』はケタケタと笑いながら僕らを見る。それは黒髪でアイスブルーの目をした…人間だった。けど、人間にだせる殺気じゃなかった。こいつ…何者だ?

「あなたが…ユウ、さん?」

リゼが警戒しながら言う。このただならぬ殺気に素人とは思えない、隙がない立ち姿。間違いなく3柱の1柱である。

「そうだよ。私はユウ。君たちと同じ。自由を目指すものだよ。」

ユウ…さん?はそう言うと僕らに近づいてくる。けど、今回は殺気も何も感じなかったため、警戒を解く。

「ぼ、僕はシュウです。」

「私はリゼ」

「知ってる。」

ユウさんはケラケラと笑いながらそう言った。この人。よく笑う人だ。とても豪快に。狂った人しか居ない施設では珍しいな。けれど、その人は決して狂ってないという訳ではなかった。濁った瞳。狂った人に共通している瞳だ。

「私はこの施設で情報屋みたいなことをしてるんだ。だから皆の名前は大体知ってる。」

ユウはフフフと笑うと小さいメモノートを取り出す。まるで何もかも見通しているような態度で、正直怖かった。未知のものに触れるような恐怖が僕の体を這い回った。

「……ってことは、キメラの事も…?」

僕は恐る恐る聞く。

「もちろん。ここはポケモン×人間のキメラの実験場だということも知ってる。ロリースの事もね。」

「「ロリース……?」」

僕とリゼの声が被る。ユウはキョトンとする。

「あれ?ダミから聞いてないの?」

ダミの事も知っているのか…?!
3柱っていうのは…こんなにも偉大なのか。
僕達は首を横に振る。

「じゃあ、その事は後で話そう。まずは自己紹介だね。私はさっきも言った通り情報屋をしていて、基本仕事での情報をリーダーに伝えている。ランキングを作ってるのも私だ。君たちの事は知ってるからいいや。ダミに言われて来たんだろ?取り敢えず話してみて。」

ここで僕らは驚く。だから名付けたばかりのタツナとミソウの名前がランキングに乗っていたのか。合点が行くか、こんな広大な施設の情報を握り、ランキングを書いているだなんて…ユウはどれほどの情報を握ってるんだ…

それよりも、話さなければ。僕達は今まであったことを赤裸々に話した。
ここは表世界でも孵化余りポケモンの処理をする施設であること。人間にポケモンの能力を付与する実験をしていること。過去に2回脱走があったこと。

「うん。間違いない。全部正解だよ。」

ユウは最初から全て知っていると言うふうに言った。そして…

「私の力が必要なんだろう?戦力と、情報も。」

さっきユウは『君達と同じ。自由を目指す者』と言っていた。確実に僕らの同士である。そして、ダミを知っているということはユウは脱走に加担しており、確実に僕らの仲間になってくれるということ。そして、リーダーと強い繋がりがあるということ。
ここで僕らのことをリーダーにバラされたら一貫の終わりだったが、ダミの『大丈夫』とはそういうことだったのだろう。

「私を仲間にするためには、私を気絶させてからだけどね。」

前言撤回。そういえばダミは『多分、大丈夫』と言っていたな。忘れてた。

「な、なんで」

僕はそう言った。ユウはさっきのような笑顔ではなく、レイのような微笑みを顔に出して。

「弱いやつに加担すると思う?」

と言った。その通りである。僕とリゼは顔を見合わせるとユウに攻撃を仕掛けた。

まず、リゼが足払いを決める。しかしユウはジャンプして軽々とかわす。リゼは足を透かしてかわされたと分かったのか直ぐに下がり、拳を突き出す。しかしユウは軽々とその拳を右手で受けてリゼの手を反対側に曲げる。すると『ゴキッ』という音がする。

「がっ、ぐっ……!」

リゼが苦い顔をするが、そんなに声は出さない。普通の女の子ならキャーキャー騒ぐ所だけど、この環境下だと身体ダメージは慣れたものなのだろうか。どちらにしろリゼの片手は使い物にならない。けど、十分だ…!
リゼとユウが戦っていた間、僕は何をしていたかと言うと、大樹に登っていた。
そして、ユウがリゼに集中して隙ができた時に僕は思いっきり大樹から降りてきた。空中で数回転し、ユウに蹴りを入れた。
ユウは受け止められると思ったのだろう。片腕で僕の蹴りを受け止める。『ボキッ』その嫌な感覚は僕にもしっかりと伝わっていた。

「なっ!」

そのまま僕はユウを蹴った。流石に宙に吹っ飛びはしなかったが、後ろにズサッと衝撃を受ける。

「あー、これは片手1本持ってかれたね……」

ユウは苦笑いしながらそう言う。僕が蹴りでユウの腕を折ったのだ。リゼは手首をぐるぐるとして、立ち上がる。どうやらリゼは関節を外されただけだったらしい。いや、それはそれで大変だけど、感覚が麻痺した僕らはそれを軽傷と認識していた。もちろん骨が折れることも軽傷である。

「…フフッ。流石、ヌメルゴンのキメラだ。頑丈だね。」

ヌメルゴンの…キメラ?それってもしかして…

「私の事も知っているのですね。」

リゼがそう言う。リゼって、ヌメルゴンのキメラだったの?!そう言えば、あの資料をあさったとき、リゼのことは調べてなかったな…
リゼはその時自分のことを知ったのだろう。

「私はインテレオンのキメラなんだけど、そのためか、素早さが高いんだよね。」

ユウは居られた片手をぶらーんとさせながらそう言った。

「さすが、キメラの子。」

ユウが僕に向かって言う。…僕も人間じゃない。資料をあさったとき分かったことだ。僕は、

「ガブリアスのキメラと、ミュウツーのキメラの子。実質この世界最強の生物だ。2匹のポケモンの遺伝子を持ってる上に、片方は伝説のポケモン。潜在能力は異常だ。」

ユウはふふふと不気味に笑いながら何か錠剤を取り出した。赤色の錠剤で、それをのんだ。
というか、僕ってそんなに貴重な存在だったの?!通りで資料は僕とチャーフルについて細かく書いてあったのか…

「けどね、私もそんな簡単に引くつもりはないんだ」

ユウはそう言って錠剤をしまった。すると、ユウの肌は青くなっていき、しっぽも生え、顔半分は、まるで、『インテレオン』のようになった。

「これが、ロリースだ。」

すると後ろから声が聞こえた。嫌な予感がして後ろを振り返ると、ユウが片手で鉄砲の形をもして、人差し指を僕の額に向けていた。

「ロリースをするとね、技も使えるようになるんだよ。」

そう言うと、ユウさんの人差し指の先端に水の玉が集まってくる。狙い撃ちである。

「めへへへっ!」

すると僕の後ろに隠れてたモココがユウさんにぶつかった。あれは、スパーク…?

「あがっ…ぐ。私は水タイプだから、電気タイプは弱いんだよね…」

ユウはカラカラと笑いながらも、余裕があるように見える。

「めへへへ……!」

するとモココが光出した。光始め、足が伸び、背が伸び、胴が太くなり…

「パルッ!パルルルッ!」

デンリュウへと進化した。

「デン……リュウ?」

デンリュウは自分に任せてというように僕を護るような体制を取った。

「……なら、私もポケモンを出そうかな」

『パチンッ』

ユウが指をならすと、どこからともなくピンク色のポケモンが出てきた。胸と耳にリボンがあり、凛々しい立たずまい。僕はこのポケモンを知らない。

「ニンフィア……」

リゼがサーナイトを出してそう言った。ニンフィア…このポケモンはそういうポケモンらしい。色からしてエスパーか、フェアリータイプであろう。

「少しは、面白くなりそうだね……」

ユウは何か瞳にギラギラしたものを宿し、舌なめずりをした。この施設の人は。何故バトルになるとこんなに目をギラギラさせるのだろうかそんな僕も、目をギラギラと輝かせていたと思う。

「デンリュウ!いくよっ!」

「ぱるるるっ!」

ーーーーーーーーーー

「あ…がっ!」

リゼがそう呻き声を出す。ユウに顔面を掴まれ、そのまま投げられた。伊達にユウは3柱ではない。桁違いに強かった。あの変な錠剤を飲む前は僕らでも倒せそうだったのに…飲んだ瞬間桁違いに強くなった。ニンフィアも強い。
僕は辛うじて立ってるものの、デンリュウも、サーナイトも、リゼも倒れてしまった。

「……楽しかったよ。じゃあね…?」

そう言うと、頭上にユウが居た。片腕は折ったはずなのに、いつの間にか回復して、手を銃の形に模して、人差し指で僕を狙っていた。
さっきよりタメが長い。ハイドロポンプだ。
僕は本能で感じた。これは死ぬ…と
僕の半分がガブリアスのキメラだからであろう。『じめんタイプに水タイプは弱い』

「ポケモンとの連携なら、人間を狙う方が勝てるんだよ」

そう言われた瞬間、そのハイドロポンプが至近距離で……放たれた。

Re: ≪ポケモン二次創作≫ 最期の足掻き【オリキャラ募集】 ( No.40 )
日時: 2022/05/12 18:22
名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: ZFblzpHM)

その瞬間。視界が揺らいだ。
いや、視界が揺らんだんじゃない。ユウが何かしらの衝撃で揺れたんだ。ユウは誰かに膝蹴りを顔面にお見舞され、大樹に吹っ飛ばされた。

「なっ、誰だ!」

ユウはそう言うと僕らの周りに水の玉を浮かべた。ユウに膝蹴りをした人物に向かってその水の玉が向かってくる。しかし、その人物は全てを避けきり、まるで戦闘の模範解答のような美しい挙動と共にユウの顔面を大樹に押さえつけた。
早すぎて分からなかったけど、今気づいた。ユウを瞬殺したのは……レイだ。

「このポケモン弱い」

「滑稽。滑稽。」

すると横ではタツナとミソウが不気味な笑みを浮かべながらニンフィアのリボンを掴んで宙に浮かせている。

「お前。シュウをどうする気だった。」

その言葉で瞬時に場が凍りつく。ケラケラと笑っていたタツナとミソウもゾッとし、声の主の方を見る。声の主は…レイだ。
レイは大樹がミシミシと言ってるのをお構い無しに、ユウの顔面をめり込ませる。

「あぁ、その体制じゃ何も言えないな。」

そう言うとレイは次はユウの首を掴んで上げた。

「やぁ、久しぶり……だねっ、フジ。」

「俺はレイだ。なんだ?殺されたいのか?」

レイは1層怒りをこめてユウの首を絞める。このままじゃ本当にユウが死んじゃうよ?!けど、喧嘩をしてた僕が止めるなんておかしい話だし…

「死ぬっ!死ぬから!ちょっ、やめ……ぐはっ。」

すると次はユウのみぞおちに拳を入れ、大樹にユウの体をめり込ませた。

「さっきよりはマシだろ。シュウをどうしようとした?応えろ。」

レイは低いどう黒い声で木霊するようにユウに問いかけた。

「久しぶりに…強者が…現れたっ、から…手合わせ…を。」

「ロリースをしてまで手合わせしたかったのか。なら俺がしてやるよ。 」

するとレイはユウを宙に投げた。そして、地に落とされたユウはよろよろしながらも立ち上がる。

「いいよ、久しぶりに手合わせをしようじゃないか……」

ユウはもう満身創痍である。主にレイのせいで。その状態で大丈夫…なのか?

「おい!シュウ大丈夫かよ!」

するとタツナにそう言われる。僕はちょっと痛い部分はあるも、軽傷と思い

「う、うん。大丈夫…!」

といった。タツナは『そうか』と安心そうな顔をすると、ニンフィアを取り押さえるのを始めた。

「じゃあ、先手必勝でいくよ。」

ユウはそう言うと指で銃を模した。狙い撃ちだ…!
そう思った時にはもう遅かった。その狙い撃ちは真っ直ぐとレイに向かって飛んだ。しかし、次の瞬間にはそこにはレイは居なかった。

「内臓。潰すぞ。」

微かだが、そう聞こえた。空中にいるユウの背後にレイがいたのだ。
いつの間に……?
そう思ったのも束の間。レイはユウにパンチを食らわした。そのパンチは破壊力が高いことがすぐ分かった。

「がっはっ!」

ユウが大声でそう言うと、地面にぶっ飛ばされた。地面はユウが着地した衝撃でえぐれている。それより、レイはどうやって宙から降りるのだろう。と思ったが、心配無かったようで、クルクルと数回転した後に普通に着地した。

「私…これでも3柱なん……どけど?」

ユウはもう戦闘不能だろう。というか内臓潰すってレイ言ってたけど、ユウさんは大丈夫なの?!
僕はユウさんに近づいて怪我の状態を見る。……これはひどい、ユウの口からは血が出て、レイにパンチされたみぞおち部分は服が敗れ、内出血をしていて、紫色になっていた。確実に内蔵のひとつや2つ潰れているようだった。

「手加減はした。これに懲りたらシュウにはもう手を出すな。次は殺す。」

その殺気は。感じたこともないような物で、殺気だけで気絶してしまいそうだった。ユウさんは『ハハッ』と笑うとそのまま気を失ってしまった。外傷にレイの殺気で気絶してしまったのだろう。そして、気絶すると同時にユウの姿は元に戻った。
それにしても、あんなに強かったユウさん。しかも『ロリース』?だっけ。をしたユウさんが、レイに瞬殺だなんて…しかも手加減はしたって…
レイは底なしに強い。でもリーダーはそのレイの5人分強い。僕らよりも遥かに強いひとばかりでゾッとしてしまった。

「シュウ。行くぞ。」

タツナとミソウはニンフィアも気絶させたのか僕の手を引っ張る。けど…

「ごめん。ユウさんを放っておけないから今日はここでユウさんを守っててもいいかな。」

すると双子は「えぇ?」という顔をするが、レイはフッと笑う。

「相変わらず…レイに似てお人好しだな。」

その言葉。今なら分かる。レイ…2代目レイの事だ。本名はチャーフル・ジーニア。僕の双子の妹である。かつて妹はこの施設にいてみんなを救っていた。それに僕が似てるだなんて…チャーフルに比べたらちっぽけなものだよ……

「双子。行くよ。」

レイはそう言うと、また双子の襟を持つ。

「はぁ?!そんなことさせるわけ……」

タツナが何か言う前にレイはどこかしらへ消えてしまった。

「あー、命拾いしたな…」

すると目が覚めたユウが掠れた声で言う。まさに今、死にそうな時の声である。

「それ以上何も言わないで…!」

僕は必死にそう言った。内蔵が潰れている。その応急処置の仕方など分からない。出血してる訳でもないのに。

「私はポケモンとのキメラだ。3日間は死なないよ。あと、ダミが何とかしてくれるから…… それより、仕事が終わるまで私このままだとポケモンに食われそうだから守っててくれない?勝負を仕掛けた私が言うのもなんだけどさ。」

ユウはそう言うと、バツが悪そうに笑った。僕とリゼは無言です頷いた。

「ありがとう……じゃあ、なんか話そうか。そうだ、君たちは合格だよ。私を満身創痍にしたのはレイだけど、私の腕を1本折ったのは2人だからね。十分強いよ。」

ユウは僕たちにそう言った。ってことは…

「協力してくれるんですか?」

リゼが食い気味にユウに言った。ユウはカラカラと笑う。

「もちろん。協力するよ。じゃあ、脱走するために、ロリースの事を話さないと行けないね。」

そう言ってユウはポツポツと話し始めた。

ーーーーーーーーーー

『ロリース』それはポケモン×人間のキメラの潜在能力を発揮させるというもの。要するにいつもは人間だけど、『ロリース』をすると、ポケモンの姿に近くなり、ポケモンの能力も使えるようになるわけだ。そのロリースをするためには、研究所で作られた注射を打つか、ダミ特性の錠剤を飲むしかないらしい。でも、研究所の注射は打つとあんましポケモンの力を発揮できない上に、その後すぐ死んでしまうらしい。ダミ特性の錠剤は携帯できるし、飲みたい時にすぐ飲めるし、すぐ死なないしのため、ダミの錠剤を飲んでるらしい。つくづくダミは天才だと思う。
でもその変わり、ロリースをしたら寿命が縮んでしまうらしい。そして、元々キメラは寿命が少ない…ということも知った。

「キメラは……寿命が少ない…?」

リゼが顔面蒼白にして言った。

「そう。せいぜい生きれて50年程だ。シュウはキメラの子だから、寿命は人間と同じだと思うけどね。そして、ロリースをすると余計寿命か縮む。私はもってあと4年だ。」

ユウはそう言うと、咳をした。すると手には血が着いていた……

「ユウ…本当に大丈夫……なの?」

僕が聞くもユウはヘラヘラとした態度で変わらない。

「大丈夫大丈夫。レイに内蔵潰されたからね。」

大丈夫じゃないじゃないか…僕は困ったように携帯していたオボンのみとふっかつそうを、取りだし、そこら辺の石ですり始めた。薬を作るつもりだ。

「レイってそんなに強いんですか?」

「あぁ。あいつは化け物だ。私みたいなやつは赤子の手を捻る程簡単だ。」

「なんでそんな化け物に喧嘩打ったんですか……」

リゼは呆れていた。ユウ自身も「耳が痛いよ」と笑っている。

「少し、昔話をしようか。」

Re: ≪ポケモン二次創作≫ 最期の足掻き【オリキャラ募集】 ( No.41 )
日時: 2022/05/14 20:13
名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: ShMn62up)

昔...何年前だろう。気がついたら、私ともう1人、私の妹は何かの培養槽の中に居た。ここはどこ?私は誰?なんてテンプレートな疑問は浮かばなく、只只無であった。
けど、妹は研究者から何か入れ知恵をされたらしく、表世界の事を嬉しそうに話していた。
それは、キメラの失敗作として施設に放り出された後もそうだった。

最初はずっと負けっぱなし。傷だらけだった。だけど、ポケモンとのキメラだからなのだろうか、どれだけ傷だらけにされても死なない体だった。もう嫌だ。もうこんなことしたくない。周りの人はポケモンを殺してる。そうしないと生きられないことなんて分かってる。けど、ポケモンを目の前にすると、罪悪感が勝ってしまう。幼い頃、1人の研究者に私達は気に入られてて、表世界のことを沢山教えて貰ってた。だから、そのせいで、私は生き物の命をとる事は...出来なかった。

妹も同じだった。というか、妹の方が表世界への憧れが高く、私より妹の方が重症であった。
このままでは死んでしまう。表世界へ行くためには数万人もいるこの施設でNo.1を取り、その上『ピラミッド』にも入らなければならない。
表世界に行くためにはポケモンを殺か、このまま野垂れ死にするか。

選択肢は1つしかなかった。けれど、私と妹は躊躇った。小さいポケモンですら殺すことなんて出来なかった。2人で殺す為のイーブイを拾って、束の間の時間。イーブイ達を愛でる程で、殺すなんて考えられなかった。
そうやって後回しにしてたのが悪かったのだろう。妹は死んだ。呆気なく。

私達はかなり衰弱していた。施設の底辺者は貴重な食料すら奪われ、満身創痍な時に、凶暴なポケモンに襲われたのだ。
目の前で流れる妹の鮮血。潰された頭に飛び出す目玉に脳みそ。キメラだからか、無駄に生命力がたく、上半身を潰されても、ギョロッと飛び出した内蔵はドックンドックンと動いていた。
ただ、私はその妹だったものにすら恐怖していた。そこで、あの人が現れる。

黒く濁りながらも美しく輝く紫がかった白髪。長いまつ毛に吸い込まれそうな紫紺の目。
その人は、施設の人々でも有名な...4柱の1人。4柱のドクであった。そう。今のリーダーである。

「あ...え?」

「大丈夫か!」

その時のドクは今の無口で冷徹無敵な性格とは考えられないほど温厚で優しかった。
その時、抑えられないほどの高揚感が私を包み込んだ。吊り橋効果という物だろうか?まあ、簡単に言うと恋に落ちたのだ。

「ドクッ!何してるの?」

すると、長髪ロングの黒髪でどこまでも澄んだ瞳の少女がこちらへやってきた。それは後光がさしているように見え、この世のものではなかった。ただものでは無いとど素人でも分かる雰囲気と、全てを包み込むような優しさが感じ取れた。この施設でこの優しさに当てられると、正気を保てられなくなる。だって、今まで誰も手を差し出してくれなかったんだもの。誰でもこの優しさに当てられたら涙の1つや2つ流すもの。

「あ...ぐえっぐ...」

私は妹が目の前で死んだショックに守ってやれなかった自分への恨み、ドクへの救われた感情に、この少女に救って欲しい気持ち。その他の複雑な気持ちでぐちゃぐちゃにされてただ泣くことしか出来なかった。

「ちょっとドク!この子泣かせたの!」

「いや、僕は何もしてないって!この子が襲われてる所を助けただけで...」

当時のドクは気が弱く年下であるだろう少女に逆らえずに居た。それを見守りながら、私はひたすらに泣いていた。号泣していた。

「なんで...なんで私が、ユウがこんな目に会わなくちゃ...ならないのっ!」

私はそう嘆いた。誰かに届いて欲しい。誰かに救って欲しかった。けど、そんな女神は現れるはずなんてない。そう思っていた。

「...ごめんね。ごめんね。」

そう耳元で囁かれた。私は少女に頭を抱え込まれていた。それはとても暖かく、人生で初めて人の優しさに触れて、余計涙が止まらなくなった。

「うあ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!!!!!」

喉が掠れ、水分が絞り尽くされたよな痛覚を覚えながらも。私は嘆いた。嘆き続けた。
どれぐらい時間がたっただろうか。私は何分、何時間かかったかなんてどうでもよかった。考えられなかった。
それでも、始まりがあれば終わりもある。私はどんどん鳴き声が小さくなった。それを察してか、少女は私から離れた。私の涙と鼻水で服はぐしょぐしょになっていた。この世界で布類は貴重である。それを汚してしまい、今思えば恩人に申し訳ないことをしたと思った。

「私の名前はレイ。この施設のリーダーで、裏世界の柱の一角をやってる。そして...」

「僕はドク。4柱の1柱。」

私は目を見開く。この施設のトップ2人が目の前に居るのだからそれはそれは驚くだろう。

「アタシ...リウ。ユウ。シンダ。カナシイ」

当時の私は言葉すらまともに話せて居なく、カタコトでそれでも今の気持ちをなるべく正直に話した。

「大丈夫。私が、何とかしてみせるから。私が、この施設を...裏世界を幸せにしてみせるから。リウを笑顔にしてみせるから...だから、今は少しだけ我慢して欲しい。」

当時の私はこんな長文聞き取れなかった。レイも私に聞かせると言うより、自己暗示のような物だったのだろう。けれど、断片的には聞き取れた。笑顔、我慢。この2つだけどけどね。そこから分かったよ。もうすぐ楽になるから少し我慢して欲しいと。

「ドク。リウちゃんの世話をしてくれない?」

「世話って...」

「言葉を教えて、戦い方を教えて、生き方を教えて。」

ドクはその時顔を歪ませた。悩んでいたのだろう。私なんてお荷物だ。死ぬはずなのに死ねなかった出来損ないだ。だから悩んでいたのだろう。けれど、決してそんなことではなかった。

「僕...出来るか不安なんだけど...」

そんな事を言うと、レイはドクの手を取り、輝かしい笑顔で言った。

「大丈夫!ドクは4柱でしょ!ドクの優秀さは私が保証するんだから!」

ドクは顔が真っ赤かになっていた。『恥ずかしい』そんな感情は当時も今も持ち合わせてなかったため、その様子をみて何が何だか分からなかった。
ドクはうーんと唸ると、私の手を取り

「来い。教える。」

ドクはそうたった2つの単語を私に言った。私は言葉を半分理解出来ていない。そう思われていたのだろう。まあ、事実だが。
それからはあっという間だった。ここの大樹の下で生きる術、戦い方を教えて貰った。そして、ドクは当時リーダーに施設内の情報を伝える『情報屋』もしていた。私を跡継ぎにしようとしたのか、情報屋としての基礎知識、世渡り、ロリースまで教えて貰った。そうして私はすくすくと育っていったよ。それまでの過程はとても楽しかった。ドクと2人っきりで他愛もない話をしていた時間が特に楽しかった。まあ、ドクは口を開くとレイのことしか喋ってなこったけどね。それでも楽しかったよ。
好きな人と話す時間は。

その楽しい時間が崩れたのは唐突だった。

私が柱になれる直前になる前に...脱走騒動が起きた。柱とその他人物。計6人が脱走を試みたのだ。その中には、レイ、ドク、フジもいた。
私は立派に1人で情報屋をやれるぐらいには成長していたが、それでも脱走なんて情報1つも入ってこなかった。きっとダミの根回しが上手かったのだろうな。そして、ドクもそれを黙認していた。
脱走騒動が起きたあとは私の世界が何もかも変わった。まず私は状況生理をするために情報を集め回った。その結果。脱走を測ったのは
レイ、ドク、ダミ、フジ、アーボ、スイ
の計6人。その中のスイ、ドク、ダミ、アーボが柱で、レイはリーダーであった。
そして、ドクとフジ以外。死亡。

その時私はどう思っただろう?ドクが生きてて良かったと安堵したか?恋敵のレイが死んでせいせいしたか?こんな地獄のような環境でも、明るく皆を照らす存在であったレイが死んで言葉にならぬほど悲しかったか?

全部大正解。その時、妹の他に大切な人を失った気がして、気が狂いそうになったよ。1度しか出会わなかった人物だけどね。けれどね、その1度だけで人生の1ページが刻まれるほど、レイの存在は圧倒的だった。
気が狂いそうだった...私はさっきそう言ったけど、よく考えたらもう狂っていたのかもしれない。心の中では感情がぐちゃぐちゃしてたけど、涙ひとつすら出なかったよ。もう表情筋が死んでたんだ。
当時空気が薄かったフジはかい?今は『レイ』と名乗って3代目レイとして3柱の1柱になっているよ。信じられないよね。あのレイにくっついて離れない大人しかったフジがだよ?今みると笑えるね。

その後、ドクとフジは優秀な人材だっただめ、殺されずに拷問を受けた。拷問の内容は...酷すぎるから伏せておくことにするよ。そうして、2人とも人が変わってしまった。私が恋焦がれていたドクは冷徹になり、私にも冷たくなり、誰もを拒絶した。そして、繰り上がり式でリーダーとなり、今の施設を統治してる。フジは、キラキラに輝いていた美しい紅目は今のように濁りに濁ってしまい、レイと同じ色だった黒髪は、白髪になり、レイがつけていた赤いターバンを着けるようになった。性格はいつもおどおどしてレイのことになったら百面相になってたからかいがいのあるやつだったのに、今のように常に微笑んでいて、ポケモンを殺すことには躊躇いが無くなった。生物兵器へと豹変したよ。

そういう私も変わってしまったのかもしれない。いつも「もう少しで楽になる。」なんて希望を覚えながらひたすらにポケモンを殺していたけど、大切な人が死んで、大切な人が豹変して。初恋も終わり私はいつの間にかこう名乗っていた。

ーーーーーーーーーーーーー
《シュウ》

「ユウってね。」

そう言って、ユウさんの話は終わった。それは、言葉で言い表せないほど過酷極める酷いものであった。2代目レイ...僕の妹はそこまで皆を包み込んでいたと思うと誇りに思う。けど、チャーフルはもう、この世には居ないんだ。

「...なんで...私達はこんな目に合わなければならないんでしょう...」

リゼはそう嘆いた。僕も同感であった。そして、こんな酷い目にあってる人々の屍の上に表の世界が成り立ってると思うと、表世界のせいで妹が死んだと思うと...表世界に住んでいた僕も、表世界全てを怨みたくなった。何もかも、無くなってしまえばいいと投げやりにさえなっていた。けれど、それを引き止めるのはチャーフルだ。悲しそうな顔で、僕の心の中で僕のことを見るんだ。

「裏があるから表がある。表があるから裏がある。コインと同じだよ。」

ユウさんはやや達観したように語る。

「コインは表がなければ裏は出来ないだろ?それと同じだ。」

ユウは濁った水色ともいえなくなった瞳でガラスドームを見つめた。
すると、後ろから何かを感じた。殺気...では無いけど、何かの気配。
僕とリゼはユウを守るように構えた。

「...そんなに構えなくてもいいよ。」

「敵じゃない。」

そこには、タツナとミソウがいた。

「...聞いてたの。」

リゼが双子のことを睨みつける。双子はレイと深く関わっている人物の2人だ。話を聞かれ、脱走のことをレイに告げ口される可能性を考えると僕とリゼは今ここで双子を消さなければならない。
自分の妹弟のように可愛がっていた人物を自分の手で殺さなければならないとなると、力が入らなくなってしまうが、それでも、僕は殺気立てて双子を見た。
しかし、双子は何も構えずゆっくりと僕たちに近づいてきた。
戦闘能力、経験、ここまで2人だけで生き抜いてきた才能の差がここ出る。
相手は余裕だが、こちらはあまり余裕でない。

「聞いてた。わりと序盤から。」

ミソウがそういう。しかし、その言葉にはいつもの冷徹さはなかった。むしろ...

「その話。俺らも1枚噛ませて貰ってもいいか?」

思いもよらぬことをタツナが言ったのだ。
僕らは殺す覚悟で構えていたが、その言葉で拍子抜けした。

「詳しく聞かせてもらう。」

ミソウがそう言うと、僕らは構えをといて、僕、リゼ、ユウ、タツナ、ミソウで輪を作った。
そうして、脱走のこと、僕らのこと、2代目レイの事など、赤裸々に話したんだ。
少しは警戒したら良かったんだろうけど、ユウが「大丈夫」と言っていたため、包み隠さず双子に明かした。

Re: ≪ポケモン二次創作≫ 最期の足掻き【オリキャラ募集】 ( No.42 )
日時: 2022/05/14 09:13
名前: 謎の女剣士 ◆7W9NT64xD6 (ID: b.1Ikr33)

うぅ〜……、今回の回は1番切ないです……。
特にわたし、こういう涙脆いお話は弱いんですよ〜。
原作アプリにも、こういう涙脆いイベントがいくつかあります。
だからかも知れません、見た目では持ち堪えているように思いますが…本当はそんな自分自身を演じているんですよ。
回想シーンにあった、リウちゃんのように。
だけど私の描くピカチュウやイーブイは違います。
ちゃんと自分を受け入れてくれる人がいるから、人は怖くないと認識出来るんですよ。

いつも感想描きに来てくださり、ありがとうございます。

Re: ≪ポケモン二次創作≫ 最期の足掻き【オリキャラ募集】 ( No.43 )
日時: 2022/05/14 15:12
名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: 7dCZkirZ)

>>42
うわぁぁん!泣いてくれたの嬉しいよぉ!(´;ω;`)
元々ユウはオリキャラで、妹と両親を亡くした設定でお願いしますと言われたんですが、物語の都合上両親が居ない試験管ベイビーとなってしまったため、両親の代わりにドクと、2代目レイを、大切な人に置き換えました。
ドクは死んでませんが、昔のドクは居ないため初恋と共にユウの気持ちも死んだ……となりました。

結構文書だけになってしまって……それでも読んで頂いたのならとても嬉しいです!

Re: ≪ポケモン二次創作≫ 最期の足掻き【オリキャラ募集】 ( No.44 )
日時: 2022/05/15 21:57
名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: ShMn62up)

「ーという訳です」

リゼが一連の流れを説明し終わったところで、僕は心配だった。タツナとミソウは僕達より幼い。このことを知ってこれ以上狂わないか心配だったため、僕は所々端折って言ったのだが、ユウがわざとなのか考えがあるのか端折った部分を詳しく付け加えた。
ミソウは何も言わず黙っている。タツナはぼーっとしているミソウを横目に何か真剣に考えている。その顔立ちがレイに似てきた気がする。

「戦力不足なんだろ。俺も協力出来ねぇか。」

タツナが言った。説得成功である。僕はほっとすると、タツナに向かって頷く。タツナは照れながらニヤリと笑った。
それにしても、こんな幼い歳なのに衝撃の事実を受け止め、自分たちも協力すると言えるのは、本当に凄いことだと思う。

「…この2人。本当に信頼しても良いんですか。」

リゼは僕とはあくまで利害の一致で一緒に居る。そのためタツナ、ミソウに感情移入等してないため、僕より客観的に見ることが出来た。僕は思ってもないことを言われ焦った。タツナとミソウも計画に入れてあげたいけど、レイに告げ口をしないと決まった訳では無い。

「それは大丈夫だよ。私が調べあげた結果だと2人は告げ口なんてしない性格だよ。」

ユウがメモ帳を見ながらそう言った。そんなことを言われても…
リゼの一言ですっかり疑心暗鬼になってしまった僕は1粒の汗をかいて双子を見る。タツナはどうしたら信用してもらえるか考えてるようで、百面相をしている。ミソウに関してはいつもの通り無表情…だけど

「私達はシュウを信用してる。」

ミソウがそう言った。その言葉は重々しく、事実であることが分かった。僕は半分信用したが、リゼはまだ疑いを持っているらしい。
双子はうーんと唸っている。それを見かねたユウが助け舟をだす。

「まず。双子はレイよりシュウの方が好きなはずだ。むしろレイは嫌いなんじゃないか?」

その言葉にタツナもミソウもウンウンと頷く。

「会ったこともないのに奴に俺らの事を把握されるのは居心地悪いが、その通りだ。」

「名前を付けてくれた……受け入れてくれたシュウの恩は忘れたことは無い。」

2人がそう僕に向かって言う。面と向かって褒められるのはなにか心に来るものがあり僕も少し照れてしまった。

「……まるで。シュウは2代目レイのようですね。」

リゼがそう言った。僕がチャーフル?!いやいやいや、チャーフルみたいに大きなこと成し遂げられたことないし…
僕は否定しつつ満更でもない気持ちでいた。

「じゃあ、双子と私が仲間になることで良いね?シュウ、リゼ。」

「「はい。
  うん!」」

するとタツナとミソウがキャッキャとはね回る。ユウもその中に入って笑っている。リゼは遠目からだが、それを見て楽しんでいるとも言える。こうやって皆が人間らしく振る舞えるのは、今があるからかもしれない。これから、死ぬ以上の苦しみが襲ってくるとしても……この束の間の休息を味あわせて欲しいな。

ーーーーーーーーーーーーー

シュウ達が集まっている大樹の下。その様子を遠目から見る人物が居た。

「……止めないのか。」

いつの間にか隣に立っていたリーダー。その様子を見ていた人物は何も言わない。リーダーも同じだ。その様子をみて、止めようともしないし、違反行為のため誰かに報告しようともしない。

「リーダーが違反行為を咎めないなんて。世も末だな。」

「お前も同じだろ。レイ」

自分の名前が呼ばれると、心全てが何かどす黒いもので覆われた気持ちでいる。
もちろん、脱走の計画と行為は違反行為であり、最低拷問を受けなければならない。3柱の一人である俺も、この行為に黙っていいはずがない。もちろん自分自身脱走行為なんて許されざる物を承認してる訳では無い。けれど、シュウの笑顔を見ていると、体が動かないのである。

「僕らは…どうしたらレイに許されるんだろうね。」

ふと、本音が出た。昔、本当に昔に使っていた甘ったらしい言葉だった。けれど、今は、ポロッと出てしまったのである。

「案外レイも同じことを思ってたりしてな。」

そう言うと横のリーダーは消えてしまった。高潔で美しく迷いがない2代目レイが、そんな僕達みたいなことでつまずく訳がないだろう。そう呆れながら僕はその様子をじっと見つめていた。
僕は自分に甘すぎる。いくら努力しても、強くなっても、2代目レイにそっくりなだけで、シュウを止めることが出来ない。しかし、いつか、シュウ達がその計画を実行するならば、僕は相手をしなければならないだろう。
シュウがレイに似ている理由は分からない。しかし、もし、レイの分身とか、レイが生まれる時にたまたま生まれた存在で、潜在能力でもレイに似ていたら、僕は止められる自信が無い。殺せはするだろうが、殺したくはない。

「僕は…どうしたら良いんだ……」

「……コウガッ……」

僕がどんな顔だったかは分からない。きっと昔のように情けない顔でもしてたんじゃないかと思う。ゲッコウガはそれを見かねて僕を抱きしめた。水タイプだから、かつてのレイのように暖かくはない。けれど、僕は相棒が与えてくれた束の間の休息に身を任せることにした。

ーーーーーーーーーーーーー
《シュウ》

僕達は仕事が終わると、いつものようにダミが居る隠し部屋へと向かった。もちろん集団だと目立つからバラバラに行った。

「お、きたきた」

ユウさんの声が聞こえる。なるべく気配を消して来たつもりなんだけど…扉越しで気づかれてしまった。さすが3柱だ。
僕が扉を開けるとタツナ、ミソウ、リゼ、ユウ、ダミは既に集まっていた。

「ここ凄いぜ。」

「くっきーがある。美味しい。」

タツナは洋服でこの施設ではあるはずのない機械や建築に心踊らせている。そして、ユウとミソウはダミお手製の食べ物を食べていた。

「相変わらず…モグモグ……ダミの料理は……モグモグ……美味しいね。」

「ちょっと食べてから話しましょうよ。」

リゼがそれに呆れている。ユウはクッキーを飲み込む。

「いやぁ、それにしても噂には聞いていたけど、まだこの部屋が残ってたとはね。」

ユウが建築を見ながらそういう。ダミは「すごいだろう」というように腕を組んでいる。

「残ってる……て?」

僕はユウの言葉に疑問を覚え、

「あぁ。前の脱走者達もこの部屋を使ってたらしいんだよね。」

ユウが言う。僕はその言葉でこの部屋も安全じゃないと思った。前の脱走者ということは、リーダーもレイもこの部屋を知ってるということだ。僕はレイとルームメイトのため、少しでも怪しい動きを見せたらすぐさまここに来るかもしれない。僕の行動は責任重大である。

「あぁ、大丈夫大丈夫。この部屋は職員が潰してるってことにしてるから。ユウが。」

ダミが僕の緊張した様子にケラケラしながら言う。そう言われ、ユウはてへっと舌を出しておちゃめな顔をする。僕は拍子抜けしてしまった。

「…それにしても、ダミは死んだって筈だよね。ユウは疑問に思わないの?」

次は僕が疑問をぶつけてみる。ダミは2回目の脱走未遂者で、毒に犯され死亡していると研究所の資料に書いてあったし、ユウ自身もそう言った。

「いや、僕も最初ダミが存在してるって聞いて驚いたけどさ。ほら、ダミ死んでるじゃん。」

「え?」

ユウがケラケラと笑いながらダミの腕をとって勝手に手を振る。僕は意味が分からず、頭にはてなマークが浮かんでいる。

「もしかしてシュウ気づいてないのか?」

タツナが僕に言う。
えっ、気づいてないってどういうこと?!
僕は慌ててダミのことを見た。あれ、よく見たらダミの気配が他の人とは少し違う。いや、違うというか……

「ダミ。生きてない。」

ミソウがそう言った。その通り。ダミは一見生き物のような気配をしているがよくその気配を探ると生き物に似せた無機質な気配を放っていた。
例えるなら…アパレルにあるマネキン人形のような気配…

「言ったじゃん。僕は生きてない。詳しく言うとアンドロイドだ。」

ダミはそう言うと手首を1周させてケタケタと笑いながら言った。
え……え?ぇぇぇぇぇぇええええ?!
と、心の中では叫んでいるが、実際僕は口をパクパクさせ、何も言えてなかった。

「私も最初は騙されてましたが、途中から気づきました。」

リゼは面目ないといった顔をしながら手に頬を添える。

「どっどどどど……どういうこと?!」

僕は焦ってダミに近寄ってしまった。ダミはあははと笑いながら僕を椅子に座らせる。

「まず、僕は天才だ。」

「それは知ってるから!」

ダミは僕の前で堂々と自画自賛をするが、僕はそんなことどうでもよかった。それより何故アンドロイドなのか、本物はどこなのかを知りたかった。

「ちょちょ、落ち着いて。僕は天才だ。だからこそ、2回目の脱走を計画してる時に気づいた。
これは死者が出ると。」

……ってことは?ダミは死者が出ると知っていながら脱走を実行させたのか?
チャーフルはダミのせいで死んだのか?
僕は動向を開き、身体中の殺気を全てダミに注いでいた。

「……シュウ落ち着いて。」

リゼが言うが僕は落ち着いて居られなかった。今ここでダミというアンドロイドを粉砕してしまおうかとも思った。

「……もちろん皆にも言ったよ。脱走には必ず死者が出ると。そして、僕はその死者として名乗りを上げた。要するに、皆を脱走させるために自分を犠牲にしたんだ。」

僕の怒りは少し落ち着いた。ダミは自己犠牲をしてまでも、チャーフルを脱走させたかったのだろう。それか、チャーフルの事だから自分から犠牲に名乗りを上げていたかもしれない。

「でも、死者と共に、捕まって拷問を受ける人も分かっていた。だから、僕は第3回の脱走を成功させるために作られた存在。正式名書はB.プラタナス。オリジナルのダミが生み出したアンドロイドだ。」

「だから、ダミはリーダーと血縁関係ではないと言ってたのでしょう。オリジナルのダミとリーダーは血縁者ですが、アンドロイドのダミは生物ですら無いのですから。」

「リゼ君その通り!」

ダミが説明するとリゼが補足する。それにダミはノリノリで正解を出した。
僕は衝撃の事実を知ったが、それでもぶれなかった。

「じゃあ、僕達を脱走するために作られたの?」

「正しくは、『脱走出来なかった人の再脱走を確実に成功させる』だ。そうオリジナルに命令されて僕は動いている。」

その言葉は僕達が今から脱走するのと何の違いがあるのだろう?と僕は疑問に思った。

「まあ、すぐ分かるさ。それより、本当にオリジナルにそっくりだねダミ。」

「そりゃそうだ。僕は1度失敗をしたアンドロイドよりも精密に、オリジナルの狂った部分や難儀な部分も、改善させて作られた成功作。オリジナルの実力の最結集と言っても過言ではないからね。」

ユウが関心しながらダミを見つめると、ダミはそう言って自慢し始めた。どうやらダミはオリジナルの事となると何かしら自慢したくなるらしい。それより、アンドロイドと言っても怖いなぁ…ほら、感情がないとか、プログラムで作られているとか。
今なにか発言しているダミも所詮プログラムに従って言動しているだけだろう?

「さてと…そろそろ脱走のこと、僕の本当の目的について話そう。」

ダミが急に真面目になる。僕はその言葉に真剣に聞く姿勢をとる。

「あ、私は情報屋として情報提供はするけど、実際に脱走者として協力はしないからね。」

「「「「え?!」」」」

ユウの言葉にその場にいた誰もが驚く。ユウは当たり前だと言う表情をする。

「ここはかつてのドクやリーダーだった2代目レイ、妹が眠る場所でもある。思い入れのある旧友に協力するつもりはあれど、ここから離れるつもりは無い。」

ユウがピシャリと言う。流石の天才であるダミもそこまでは予想出来なかったようで、立ち尽くしている。ダミはうーんと唸る。

「戦力不足だね……」

そうダミが呟く。その様子は余りにも人間らしく、アンドロイドとは思えなかった。

「それに関しては私が解決するから、早く計画について話してくれないかい?」

「……分かった。話すよ。 」

その内容は誰もが予想してなかったことで、言われてたこととは違い、只只ショックを受ける他なかった。
人によっては殺気を全開させる者もいた。しかし、ダミは怯まずにポツポツと話して言った。その様子を見て僕らも黙って聞くことしか出来なかった。

「ーという訳だ。」

ダミが説明をし終わったあと、一同は黙っていた。いや、何も言えなかった。そんなことになるならば1人で脱走したい。でも、ダミの話を聞いて1人で脱走できるだなんて思ってなかった。

「…んな……ふっざけんな!!」

最初に口を開いたのはタツナだった。殺気全開でダミの襟を掴みかかる。

「私たちはシュウのために居る。シュウのために生きてる。なのに…なんで……」

ミソウが言うとタツナがそうだというように力を強める。

「……こんな事なら協力するべきではありませんでした。リーダーに報告してきます。」

リゼが初めて会った時のような冷徹な顔で僕らを見ると、足早にここを去ろうとする。

「良いけどさ、ちょっと待ってみない?リゼ。よく考えてみなよ。」

ユウだけはこの話になんの不満もなく、ただ微笑んでいただけだった。

「そうだよ。脱走を報告したら、リゼも、タツナもミソウも脱走計画に加担していた事になる。それを知られると殺されるよ?少なくとも拷問されるしね。」

ダミが悪びれもなくそう言った。死ぬぐらいなら拷問される方がマシだ。しかし、ダミの前回の脱走の全てを教えられ、拷問より死んだ方がマシだと言うことも分かった。死ぬのもまっぴらゴメンだ。
ようするに、海の魚を捕まえるワナのように、1度脱走に片足を踏み込んだら、もう抜けられない仕様になっていた。

「……くそっ…!だからって協力する訳じゃねぇぞ!」

タツナも幼いながら聡い。すぐこれがワナだということも分かっただろう。

「もちろん。脱走計画に関わると抜けられなくなってはいるけど、それでも脱走する時に邪魔されたらこっちも溜まったものじゃない。だから、僕ら側も必死で君達を説得しなければならない。そこで鍵はシュウ。君だ。」

ダミが悪気がないようにさわやかに笑いながら僕の方をみる。僕は、顔の堀を深くし、眉を八の逆方向に曲げ、ただダミを睨みつけていた。
この計画にはもう抜けることなんて許されない。かと言って妨害しても一緒に皆と堕ちるだけだ。でも、こんなこと聞いて気乗りする訳には行かない。

「…僕が素直に聞くと思った?」

僕がらしくもなく過去1番の怒りをぶつける。ダミは微笑む。何か策があるとでも言うのか?

「…図書館にチャーフルの行動日記がある。」

ユウがボソッと呟く。いいよねユウは。情報を提供するだけだし、もし脱走の事がバレても自分は加担してなかったと情報を揉み消せば良いし。
本当に羨ましいし妬ましい。

「その日記を見れば、シュウの意向も変わる。」

ダミが言う。僕は引き下がれない。冷静になろう。立場と身分をわきまえたらもう抜けることは許されないしすることが出来ない。ならばできるだけモチベーションをあげた状態で行くことが僕にとっては幸せだ。

「……分かった。行くよ。」

僕がそう言うとダミとユウ以外は焦った。

「ちょっと…!図書館で本を読むということはリーダーを説得するということですよ?!それこそ脱走がバレかねません!」

図書館ーそこはいつもリーダーが入り浸るところで、何か立派な理由が無ければ本を読むことは許されない。リゼがそう言いながらダミに攻撃しようとするが、ユウに何回も受け流される。

「…くっ!」

リゼは3柱のユウに敵わないと分かると悔しそうに攻撃を辞める。

「…俺はシュウの意向に従う。」

「私も。抜け出せないのなら、もうこの身も心も全てシュウに捧げる。」

タツナとミソウがこの中で1番大人かもしれない。自分の行く末を知っても尚、冷静で居る。そんな2人に僕の哀れな姿を見せる訳には行かない。

「……分かった。見るだけだよ。」

「うん。リーダーには包み隠さず言うといい。残念ながら拷問されないからね。」

ユウが言う。なら、包み隠さず言わせてもらう。僕は表情を固くしながら、心の中の怒りの炎を抑えながら、早速リーダーの元へ向かった。
タツナとミソウ、ユウはここに残るつもりのようだ。リゼも結末が同じならばと僕に着いてきた。

…もう僕はどうすれば良いかも分からない。せめて、チャーフルの意向に添えるようにしたい。







せいぜい『最期の足掻き』をしてみようじゃないか。



      終