二次創作小説(新・総合)
- Re: ≪ポケモン二次創作≫ 最期の足掻き ( No.61 )
- 日時: 2022/06/30 16:07
- 名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: XsTmunS8)
ナナー嵐の前の静けさー
「だーかーらぁ!なんでレイはポケモンを一撃で殺すんだ!」
「逆に何故双子は苦しめて殺すんだい?」
タツナ、ミソウ、レイは同室でいつものように喧嘩をしていた。喧嘩といっても可愛いものでなく、ガチの戦闘が始まったのだ。もう1人、同室のシュウはまたアワアワしながらその様子を見ていた。そうしているうちにレイVS双子がドンパチし始めた。最近双子がレイに対して攻撃的だけど、何かあったのだろうか。うーん、確実に脱走計画のせいだよね。ごめんねレイ。
そんな呑気な事を思いながら僕はリーダーを呼ぶために図書室へ走った。正直今の僕だったら2人の喧嘩は止められると思う。それぐらいは強くなった。
けれど今力をレイに見せつけたら計画に支障が出てしまう。仕方ないからいつもリーダーを呼んでるのだ。
「リーダァァァーーー!! またレイとミソウとタツナがぁぁー!!! 」
僕は叫んで図書室の中に入る。するとリーダーは薄黄色のコートーフードを翻して黒電話で何か電話していた。僕は咄嗟に口を紡ぐ。
「え、あぁ、何でもないっす。そうっすか。これからは施設に帰れないんっすね。了解っす。」
そんな会話をした後リーダーはガチャンと電話を切った。僕は息を止めてその様子を見ていた。玄人相手ならば呼吸だけでも相手がいることが分かるからだ。といっても、最初に叫んでしまったため意味は無いかもしれない。
「すまん。仕事の話をしていた。また喧嘩か? 」
「そうそう、助けてリーダー! 」
僕は小説に出てくる爽やかな主人公のような素振りをしてリーダーを見つめた。眉を八の字にして、うるうるとした目で見つめる。こうすれば誰でも落ちる。それは表世界でもそうだった。僕の顔の良さが幸いするのだ。
「はぁ。シュウ、そろそろお前もこちら側だな。」
リーダーが意味の分からない事を言う。僕はカクンと首を傾けるとリーダーは難しそうな顔をする。
「もう、お前の瞳は淀みきっている。俺らと同じ"裏側"に、もう来てるんだよ」
僕はそんなことを言われ『ライトノベルの好青年主人公』の顔を辞めた。もう何も顔に出さない。強いて言うなら僕の険悪な何かを抑えることを辞めた。
「気づいてたんだな。」
「口調まで変わるのか。お前の双子…2代目レイが似たような事になってたからな。」
そういえばリーダーは僕の片割れと深い仲だったね。レイとユウもダミも僕のこの演技を見抜いてるかもしれない。いや、それは無いか。ドクとダミはともかく、レイとユウは僕にゾッコンだからね。気づくはずもない。
何故なら、
"チャーフルの演技にも気づかなかったのだから"
まあ、チャーフルが死んだ今となれば関係ないけど。
「で、リーダー。早くしてくれないと困るんだけど」
「口調までそっくりなのかお前ら双子は」
「何の話?」
「いや、なんでもない。すまないが俺は今から仕事なんだ。」
リーダーは僕から目を背けながらそう言った。チャーフルも僕のようになっていたのだろうか。流石僕ら双子である。チャーフルも色んな人を魅了していたんだろうな。誇らしい。
「仕事って、ピラミッドの? 」
「そうだ。今大きな仕事が来ていてな……正直、施設にいられるのは今日で最後だ。」
リーダーが寂しそうに古びたチャーフルの日記を大切そうに持っている。今日で最後って、どういうこと? 何故みんなにその事を伝えないの? リーダーはどうなるの?
急に衝撃の事実を言われ僕は施設に来た初日のように疑問で膨れ上がった。
「色々聞きたいことがあるんだけど……」
「そうだろうな。最期の仕事だ。遅刻しても文句は言われないだろう。ゆっくり図書室で話すか。」
リーダーは何か取り憑かれたものが落ちたような顔をして図書室の椅子に座った。僕もリーダーが真正面に居るように座った。リーダーは『はぁぁぁ』と大きなため息を着いてダラーッとした座り方をした。
「もう僕も疲れたよ。威厳あるリーダーなんて、チャーフルみたいにしたんだけどさぁ。無理だよ……」
するとリーダーとは思えない口調で言い始めた。初めてこの口調……素のリーダーと対面するけど、ユウやダミから話は聞いていたため特に僕は焦る様子は見せなかった。
「俺が素を見せるなら、自分も素を見せようってこと? 相変わらず情に弱いねリーダーは」
俺ことソレイユ・ジーニアは頬ずえをついてリーダーを見つめる。リーダーは否定が出来ないのか苦い顔をした。
「それで、聞きたいんだけど。今日で最後ってどういうこと? 」
「俺がピラミッドの一兵卒なのは知ってるな」
僕はその言葉で頬ずえから崩れ落ちそうになった。ピラミッドなのは知っていたが一兵卒なのは聞いてないし知らないし思えない。施設で1番強いリーダーがピラミッドの下っぱなんて考えられないのだ。『世界は広い 』俺は今そう知らしめられた。
でもそれを言うと話がそれそうなため取り敢えず頷く。
「それで表世界の組織から依頼を申し込まれた。"イッシュ支配"について。そして、その計画もそろそろ大詰めでそこに僕は行かないと行けないん……だけど。これは確実に負け戦だ。」
またしても俺は目を見開くことになる。情報量が多すぎて追いつけないって。
まずイッシュ支配って、そんな壮大なことが行われていたことに驚きを隠せない。イッシュ地方─俺が牧場で暮らしていた所の西の西にある地方である。そこの支配をするだなんて……どれほど壮大な組織なのだろうか。
裏世界だから、表世界だからという理由で組織の大きさは決まらない。図書室の歴史本を読み感じたことだ。その組織がイッシュを支配したのなら、裏世界にも魔の手を伸ばすかもしれない。
ただ、引っかかるのは"負け戦"という所だ。リーダーがいるというのに負け戦なのは納得が行かない。
「負け戦って? 」
「まあ、表世界の敵が強くてな。力では敵うが、権力と条件が厳しすぎてぶっちゃけ無理なんだ。」
「それと、リーダーが施設に来ることが無い事はなんの関係があるの。」
俺はかなり真剣な顔でリーダーの事を見る。リーダーは少し寂しそうな顔を見せる。本当にこの人はリーダーなのかと疑いたくなる。情に弱すぎるし、威厳もクソもない。そりゃ演技もしなければやってられないなこりゃ。
「今回の仕事は地方支配という大きな仕事だ。なのにそれをファドゥーである僕に依頼。頭沸いてんのかと思ったよ。まあ、それは置いといて。これは僕にとってピラミッドの昇格に関わる……いや、それ以上の依頼だ。それを失敗したら、分かる? 」
俺は勘が悪い訳では無い。逆にビンビンに良い方である。勿論分かった。
「首チョンパ……だね。物理的に」
「That's Right……」
リーダーは僕を指さして勢いよく言ったつもりなのだろうがしおらしすぎて何も言えない。というかこういう所ダミに似ているな。一応リーダーとダミは兄弟だもんね。ダミは死んでるけど。
まあ、大体のことは分かった。リーダーは大きな仕事を任されるが失敗確定のため、自分が殺されるのも確定。
というわけである。可哀想だが裏世界とはこういうものなのだなと割り切った。こんなことを割り切れるだなんて、たしかに俺は裏側に堕ちてるかもしれない。
「じゃあ次の質問。何でそれを俺達に伝えなかったのか。俺はともかく、レイやユウには伝えるべきだろ。」
「少しは僕の心配をしてよ……」
「俺が心配した所で変わらないだろ」
俺があっけらかんと言い放つとリーダーはガックリと肩を落とす。一応俺はチャーフルの双子で顔が同一人物かと思うほどそっくりである。そしてリーダーはチャーフルが好きだった。
好きな人とそっくりな人に心配されなかったらそりゃあガックリするだろう。
「レイやユウに何故言わないのか……だっけ。2人には心配して欲しくないんだよ。裏世界の繋がりはいつかはあっさりと切られるもの。僕はそれに従ってるだけだよ。」
リーダーは寂しそうにそう言った。けど、俺はしっかりとリーダーの目を見ていた。それが違うことぐらい、分かった。いや、半分は本当何だろうけど……
「レイ達にトラウマをもう植え付けたく無いとかは? 」
「……シュウに隠し事は出来ないな」
リーダーがハハハと乾いた笑いをだす。ケラケラと笑うダミと比べたらリーダーは良い人だな。俺はこんな人には慣れそうにないよ。そう考えると聖人だったチャーフルと俺は正反対なのかもしれないな。
レイ達は前に脱走未遂をして、大切な仲間を数人失った。特にチャーフルを失ったのはリーダー含め施設皆のトラウマだろう。リーダーが死んでもチャーフルほど皆にトラウマは植え付けられないと思うけど、リーダーを傷つけて他の質問を聞けなかったら不味いから言わないでおこう。
「じゃあ、これからリーダーはどうなるの? 」
「僕は死んでなんの記録にも残らないだろうね、強いて言うなら歴代リーダーとして、歴代ピラミッドの一兵卒として名は残りそう……かな。心残りはレイとユウを置いておくことかな」
「あー違う違う。リーダー……ドクの心情なんて興味無いから。施設のリーダー役はどうなるのかって話」
またしても俺はリーダーを傷つけてしまった。もうリーダーは涙目になっているが質問は返してくれそうなので知ったこっちゃない。
「……リーダーはレイになるだろうな。柱も双子が成り上がりでなるかもしれない。そして、レイは結構強いから俺の代わりのピラミッドになりそうだな」
俺はその言葉が聞き捨てならなかった。レイがリーダーになる? 冗談じゃない。ピラミッドは聞いた限り基本的に汚れ仕事を受け追う組織だ。そこにレイを入れるだなんて俺が許さない。余計計画を成功させなければならない。
「次は僕から質問だ。シュウ達は脱走計画を企ててるだろう? けど、普通の脱走じゃない……」
その瞬間。俺の肝が冷えた。脱走計画がリーダーにバレていた。全て筒抜けという訳では無いのだろうが、『普通の脱走じゃない』と言われてる時点でかなりの情報を掴まれてる。流石元情報屋と言うべきか。
しかし、考えろ、考えるんだソレイユ・ジーニア。それを、分かった上で俺に聞いている。ということはだ、俺たちを捕まえて拷問をするつもりはないという事だ。リーダーの情の弱さに救われたよ。
「俺の口からは何も言えない。」
「僕に弱みを握られているんだよ? 今拷問しても問題はない。」
「それは出来ないんじゃない? 情に弱いリーダーさん。」
「っ……この双子は……」
リーダーは図星だったのか苦い顔をして俺の事を見る。この双子は、何だい? 何を言われようとも俺らにとっては褒め言葉だね。流石チャーフルだ。
すると廊下から軽く、早い足音がする。これはリゼだ。
「リーダー! シュウ! 何してるんですか! 本当にレイとタツナとミソウが施設を壊しますよ! 」
リゼは、はあはあと息を切らしながら俺らにそう言った。僕はいつもの『ライトノベルの好青年主人公』の顔を浮かべる。リーダーもいつもの圧を取り戻す。
「すまない。今行く。」
そう言ってリーダーは全速力で走り出した。本当にリーダーは凄い。足音なんて全然聞こえないんだもの。僕達もリーダーに続こく。
「リゼ。さっきの話聞いてたでしょ」
「……まぁ」
僕はニコニコしながらリゼに、言うとリゼは目を逸らす。ダミの部屋といい、今回のことと言い、本当に、リゼは運が悪いね。けど、僕の素を知られようとなんて事ない。計画に支障は出ないのだから。
ーーーーーーーーーーー
《ドク》
恐ろしかった。本当に恐ろしかった。捧擲 寿という人物は、素を出したとしても心の内を全く開けず、情等虫けら程度に思っている様子で、溢れ出る圧も物凄かった。さっきは俺が居なくなったらレイがピラミッドになると言ったが、下手すればシュウがピラミッドになって、最悪裏の頂点に立つかもしれない。そうならない為の計画となると、ダミは本当に賢い。
普通じゃない計画。それだけは何となく脱走計画者の行動を見ていたら分かるが、内容はまだ分からない。もし、俺達と似たような計画だったら……
それが1番良いのかもしれない。まあ、脱走が始まった時には、俺はもう死んでそうだがな。
「お前ら! 仕事人同士の争いは辞めろと言っただろう! 」
俺はそう言ってレイの襟を掴む。レイは俺を睨みつけながらじたばたするが途中で諦めてしおらしくなる。双子に関しては俺が来た瞬間から何も言わなくなった。
今回も喧嘩を止められたが、今後の喧嘩は俺が居ないため他の人に任せるしかない。リョクとユウ辺りに頼むか。
そう思いながら仕事へ向かおうとするが……
「リーダー」
廊下でレイに呼び止められる。レイの顔を見るのもこれで最後か。せめてフジの頃の顔をまた見たかったが、無理なようだ。せめてレイには、幸せになって欲しいものだな。
「なんだ」
「……リーダー……」
レイは要件を言わずにただ下斜めを見て唇を噛んでいる。俺はレイの勘の良さを舐めていたかもしれない。これから俺が居なくなることを察してしまったようだ。それでも、それでも。
「明日も、喧嘩したら容赦しないからな」
俺はそう言った。レイはもう泣かない。レイは感情を表に出さない。そんな奴だっただろう。なんで、今更そんなへしゃがれた顔を俺に見せるんだ。
俺は何も言わずにレイに背を向けて廊下を歩き始めた。
まあ、例え負け戦でも。
最期まで足掻いてやろうか。
- Re: ≪ポケモン二次創作≫ 最期の足掻き ( No.62 )
- 日時: 2022/07/06 00:57
- 名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: PNMWYXxS)
いつもの仕事場、いつもの風景。人外が人外を殺しあってゆく様子に微動だにしない木々達。この森が夜になると無機質な迷路になるなんて、到底考えられない。まあ、自分は行ったことないし、行く気もさらさらないのだが。
「やーやー。待ったー? 」
すると物音をたてずに自分の背後に回る人物が1名。ボサボサとしたどす黒い黒髪に濁りきり、ギリギリ青色が見えるという瞳。
ダラッと立っているように見えて隙のない体勢に、片手にはメモ帳。
3柱のユウである。
「近況報告をしろ。」
「あのさー。リーダーなら分かるし、1柱のレイもギリギリ許せるけどさ。何で2柱であるリョクに情報渡さないといけないわけ? 」
ユウは飄々として、誰をもおちょくり情報を手に入れるのが得意な性格だが、やはり自分こと、2柱リョクの前だと警戒してるのか声が座りふざけた様子など無い。
まあ反抗はするがな。しかし、所詮ユウは情報屋としての権力が上がった故に3柱にギリギリ入れてるだけで、ロリースしなければ自分にとって敵ではない。まあ、その肝心のロリースも使いすぎて力は無くなってきてるがな。
「自分も柱の一角だ。3柱で結束する時に無駄な話をしないで済むだろ」
「私にとってはこの時間すごーく無駄なんだけど? 」
「殺すぞ」
ユウは伊達に3柱でないため頭はかなり切れる。先代情報屋と比べたら劣るが、自分ではユウは手に負えない。そのため実力行使で黙らせた方が楽なのだ。
自分は本気とも取れる脅しをユウにかける。ユウだけではないが、施設の生き残りは皆この脅しには慣れたものだが、自分とユウのように実力離れしてる際の脅しはもう半ば実行できる状態である。
ユウは流石にそこで口を閉じた。
「はぁ、頭脳で力が決まる世界とかあったらいいのになー……」
とかぼやきながらメモ帳をめくってく。頭脳で力が決まる世界等存在しないだろう。異世界とか異次元に行かない限り。表世界だって、行ったことは無いがきっと実力行使の弱肉強食の世界だろう。
「今回のランキングは1位 レイ、2位リョク、3位タツナ、ミソウ……5位 シュウ……10位リゼ
まあ、こんな所かな? 」
ユウはふぅと言いながらメモ帳を閉じる。相変わらずランキングにユウは載っていない。それが、どれ程情報屋の権力が凄いかを物語っている。というかランキングは俺も見れるから要らない情報なのだが。しかし、また今回も1位はレイか。数回前はレイのお気に入りの双子に抜かされたが、今回は定位置の2位につくことが出来た。
あとは大体いつも通り出ないだろうか。1人を除けば……
「そのシュウというやつは何者だ」
自分が言うとユウはさぁと首をかしげる。絶対何か知ってるだろう。自分はそう確信していた。何故ならユウは知らない時は素直に『知らない』と言う。言葉を濁すということはそういう事だ。例外もあるがな。
しかし、気になる。自分が聞いた話だとシュウという人物は奴隷市場出身の、定期的に肉壁として連れてこられる奴隷の1部であったはずなのに。生き残れること自体がおかしい。それだけで十分なのにランキング入りを果たし、そこからずっと5位を保っている。重要なのは『一定の順位を保っている』ということだ。奴隷市場から来たただの人間のはずなのに生き残り、ランキング入りを果たすだけでリーダー並に化け物なのに、これ以上人外要素を増やさないで欲しかった。
基本順位はかなり変動するものなのだ。新たなキメラ失敗作が毎度暴れたり、ランキング入りをしたものは大体他の奴には目をつけられ殺される等。レイ……は元々2代目のお気に入りで育てられた為ずっと1位なのは把握してる。そしてレイのお気に入りとして育てられてる双子が自分と2位争いをしてるのは悔しいがまあそういうものだと飲み込もう。リゼは毎度ランキング入りを果たしているが殺してる数が多いだけでランキングに、入ったり入らなかったりだ。
なのに、シュウは1回ランキングに入ってからずっと5位を保っている。成長も退化もしてなければ殺されてもない。微妙に保つのが難しい5位を保っているのだ。
おかしい、おかしい! 普通の人間がそんなこと出来るはずがないだろう! 身近に例外は居るが、そんなのがポンポン表れてたまるか!
落ち着け、落ち着くんだリョク。結局何が言いたいのかと言うと、5位を、保ち続けられる実力を持ってるということは、5位以上の力を持っていると言うわけだ。
「シュウ……か。」
「シュウの情報欲しい~? 」
自分が口を塞ぐとユウがここぞとばかりに自分に聞いてきた。さっきとは打って代わり自分の方が立場が下になるためユウはものすごくニヤニヤしていた。
「お前……やはりシュウの事を知ってるんだな」
「対価は前のランキング入りの報酬」
自分の質問には答えずユウはニッコニコしながら自分に要求してきた。前のランキング入りの報酬といえば……服か。コイツはランキング入りは果たせないため物資をランキングで調達出来ない。やはり生き方が賢い。
「……分かった。それで手を打とう。」
「まいどありー。シュウ、本名 捧擲 寿 カロスの高原で貧しく暮らしているところを捕獲。そこからは奴隷市場に売られ、ここに来たよ。性格は好青年の、まあ表ではよくいる性格らしいよ。あ、ここリーダー情報ね。そのせいか結構な人たらしでね。レイ、タツナ、ミソウ、その他施設の奴隷もやられてる。これぐらいかな。」
ユウはシュウに関しては詳しいのかメモ帳を見ずにスラスラと答えた。表世界のカロスという所で育ったのか。そして、人たらし……もしかしてユウもそのシュウの人たらしにやられて、ランキングの改ざんをやっているのか? いや、それは無いか。ユウは生まれてこの方リーダー一筋である。なら、シュウは何者だ。
「そのホウチャク シュウは人間か。どことなく2代目に似ている気がするのだが。」
自分はユウにそう問いかけた。雰囲気が、見た目がどことなく2代目に似ている。いや、どことなくというレベルじゃない。そっくりである。まるで2代目がそのまま成長したような見た目だ。そしてリーダー並に人外離れしている能力。リーダーと同じ人が現れたと言うならば納得がいくが、さっきも言った通りリーダーみたいな化け物がポンポン現れる訳が無い。
「気の所為じゃない? シュウは人間だよ。あ、報酬よろしくー」
ユウはそう明後日の方向を見て呟くように言いながら消えてった。情報屋……それは力が無くとも移動の早さと賢さがあれば出来る。逃げ足は流石と言ったところか。
「シュウ……」
レイが気に入ってるのも、もしかしたら2代目との関係があるからかもしれない。そして、2代目レイと繋がっているということは……もしかしたら
「スイさん」
スイさんとも繋がりを持ってるかもしれない。自分は10年前にスイさんに貰って以来1回も開けてない赤い錠剤を握りしめ、曇天の中、颯爽とかけた。
- Re: ≪ポケモン二次創作≫ 最期の足掻き ( No.63 )
- 日時: 2022/07/19 15:53
- 名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: pUqzJmkp)
番外編 腐れ縁のユウとレイ、リウとフジ
「……リョク来ないな」
仕事場、仕事中。柱とリーダーの集会にレイとユウは来ていた。
仕事人は仕事中は建物に入れないため集会は大樹の元と決まっている。
2人は特に話そうともせずに明後日の方向を向いて何か考え事をしていた。
レイはシュウの事を。ユウは脱走のことを考えており、お互い話そうともしなかった。
「ねぇねぇ。レイはシュウの事好きなの?」
「あぁ。そうだが」
「本気かい?」
「悪いか」
そこで会話は止まる。レイは正直ユウと1対1で対面するのは好きではない。相手は情報やの為口が回る。そのため自分の情報を取られないように気をはらなければならない。
しかし、今回の話は情報を抜き取られても問題ないと踏んだレイは涼しい顔で言った。
ユウは考えた。腐れ縁相手だからこそ覚える違和感。"本当にレイはシュウの事が好きなのか"
傍から見たらシュウとレイは両想いに見えるが、レイからシュウへの対応が違和感あった。
「じゃあ質問を変えよう」
「余計なことは答えないぞ」
ユウが人差し指を宙でクルクル回しながら言った。レイは普段よりも警戒した声色で言った。
「2代目が生きていたら君はシュウと2代目。どっちを取る?」
ユウの質問にレイはピクッと動いた。そして虚ろな目で下を向き始め、ユウは少し意地悪をしてしまったと後悔する。
ユウはレイをからかうのが好きだが、レイの過去を抉るような一線は超えるのを躊躇った。赤の他人なら抉るのは躊躇わないがレイとリーダーだけは躊躇ってしまう。
レイはユウに質問された瞬間頭が真っ白になった。何と答えれば良いか、何を言えば正解なのか。
しかし黙っているだけだと、弱い質問をユウに知られてしまう。
「2代目はもう。居ない」
レイは答えた。2代目が、初恋の人が居ないのは分かりきってるし、そんな世界あるわけが無い。
その事実を再確認するとレイはいつになく心が抉られる感覚を覚えた。
「仮にだよ。仮に」
「……お前はリーダーとダミならどちらを取る」
レイは答えられず質問を投げ返した。ユウは眉をピクっとさせ明らかに不機嫌な顔をした。
レイもユウに対しては一線を越えないつもりだが今回ばかりはやり返したかった。
「私はリーダーもダミも取らない。ドクを取る」
「ダミはドクと全く性格が違うから分かるが、リーダーとドクは同一人物だろ」
「全く違うよ」
ドクは、リーダーの昔の名前で、ダミは今は亡きリーダーの弟である。
2代目とシュウも兄弟なため、ドクとダミの話をレイは振ったが、ユウは即答だった。
「ドクとダミはあの通り性格が真反対。ドクとリーダーは確かに同一人物だが、違う。分かるかい?」
「分からん」
ユウがそう言うとレイはすぐ言った。
レイにとってはリーダーもドクも変わらなかった。確かに対応は変わったが、根は変わらず、逆に2代目の背中を追いかけ合っている同士と思っている。
「……フジとレイは違うだろう? それと同じだ」
「なるほど」
ユウが少し考えていうとレイは直ぐに納得した。
フジとは、レイの昔の名前だ。レイは昔、今とは真反対の弱虫な性格であった。それを知るものは昔からの知り合いのリーダーとユウだけである。
「で、話は戻るが、シュウと2代目どっちを取る?」
「……」
ユウの言葉にレイは再び黙ってしまった。
レイにとって、2代目は今は亡き初恋相手だ。シュウは2代目の双子であり、世界で唯一2代目の面影を持っている人物である。
レイにとってはどちらも手放せなかった。
「迷うかい?」
「……当たり前だ」
レイはムスッとしながら手に顎を付けた。時間をかければかけるほど、ユウの目は鋭くなっていく。その目は嘲笑ってもなく、バカにしてるようでも無く。ただ、答えを先延ばしにしているレイを厳しく見ていた。
レイは普段とは違うユウの目に焦りを感じながら頭を回していた。
「……選べない」
「所詮はその程度かい」
レイがボソッと呟くとユウは余計その顔を冷たくさせた。レイは冷や汗をかいてユウのことを見る。
「何が言いたい」
「所詮、レイはシュウを2代目の代用品とでしか見てないんだよ」
ズドン
レイは片足を地面に踏みつけ勢いよく立った。その力で地面が少し揺れる。
その力はリーダー以上の代物でユウなど到底敵わない力であった。それでもユウは怯まず鋭い眼光をレイにとばす。
「なんだい? 言いたいことがあるなら言ってみなよ」
レイは何かを言おうとするが言葉が詰まる。喉から出かかっている言葉はレイ自信認めたくないものであった。
「君は2代目が好きなんだ。シュウに惑わされるな」
ユウが真剣な顔でいうとレイはもう何も考えずユウを殴ろうとした。ユウはレイを怒らせすぎた。しかしユウ自身は後悔して居ない。
いずれはぶつかる物だから。踏ん切りがないとダミ達の犠牲が無駄になるから。
ユウは甘んじてその拳を受け止めようとしたが……
「リーダーはもう来ないそうだ」
すると横から別の男性の声が聞こえた。その男性はレイの拳を片手で受け止める。
「やーやー遅いよリョク君。私殺されかけてたんだから~」
ユウはそこでいつものように飄々でヘラヘラした顔になる。 レイはここで頭が冷えてユウを殴るのを辞める。が、八つ当たりでリョクにタックルをした。
リョクはふらつきながらもしっかりと立つ。
「また喧嘩してたのか。リーダーが不在なんだから辞めてくれよ」
リョクが呆れながらユウとレイに言った。2人とも不機嫌そうにするが黙って席に座る。
「リウが余計な質問を……」
「フジ君が優柔不断だから」
『あ"ぁ"?!』
レイとユウのいつもの煽り合いが始まるとお互いキレてしまい、殴り合いが始まった。
その様子を見てリョクは安心した。傍から見たら危険な殴り合いだが、さっきのお互い本気のやり取りでなく、いつもの冗談のようなやり取りだったため、いつものようになったためホッと息をついた。
「早く始めるぞ」
『こいつぶん殴ってから!』
レイとユウの声が見事にハモる。仲が良いのか悪いのか。それよりもこれはこれで大丈夫じゃないだろう。
そんな事を思いながら、リョクはいつものレイとユウの喧嘩を見守り始めた。
◇◇◇
《レイ》
「レイ! どこ行ってたの?! 心配したんだよ!」
仕事終わり、食堂へ行くとシュウを先頭にリゼ、双子が俺の元へ走ってくる。その様子は2代目達と重なる所がありつつ、レイとして築き上げた関係と思うと胸が暖かくなる。
「レイが3柱の寄合に行くと聞いてずっと待ってたのに来ないから。心配してたんですよ。シュウが」
リゼが『シュウが』の部分を強調して言う。シュウは否定せずただニコニコしていた。
「そうだぞ。心配してたんだぞ。シュウが」
「シュウがだぞ。シュウが」
双子も『シュウが』の部分を強調している。リゼと双子の様子を見ていると本当に俺の事を心配してなかったのは分かる。しかし、それが施設の関係で、シュウと2代目が特殊なだけだ。
それにしても、双子は素直になった気がする。俺がシュウにちょっかいを出すと双子はかなり攻撃的になっていたのに、最近俺がシュウに関わっても何も言わない。
逆に応援しているような生暖かい視線を感じる。それが少々気持ち悪い。
「ほらっ、レイ! 早く行くよ!」
シュウは上目遣いで俺の片手を両手で握る。
その様子は2代目そっくりで、そして、俺が昔から夢見ていた光景であった。『2代目を俺が守る。』
ずっとこの日々が続いたら良いのに。俺はそう思いながらシュウに引っ張られた。
ふとユウの質問がよぎる。
『2代目が生きていたら君はシュウと2代目。どっちを取る?』
もう2代目は、2代目レイはこの世に居ない。それに俺はもうフジではなく3代目レイである。
今更そんなこと考えても腹も膨れなければ娯楽にもならない。
それから考えることを辞めようとしたが、どうしても胸騒ぎがする。
バカバカしい。俺は、3代目レイはシュウに連れられ食事を取り始めた。
終
- Re: ≪ポケモン二次創作≫ 最期の足掻き ( No.64 )
- 日時: 2022/07/26 21:59
- 名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: oBSlWdE9)
「あんた……邪魔何だけど」
スイさんと初めて会ったのは、自分が瀕死になっている時だった。慣れないポケモン狩りをさせられ、まともな食料にもありつけず、そのまま餓死するはずであった。
そんな中、踏みつけてきたのはスイさんであった。
「ぁ……うぁ」
もう言葉もでなかった。ここで終わるのかと、諦めていた。スイさんが尖った石を自分に突きつけると……
「こら、スイ!」
黒髪の少女がスイさんの手を掴んだ。スイさんはプクッと頬を膨らましたが、直ぐにそっぽ向いた。黒髪の少女は片腕をバキッと折った。そこで、自分はもう意識が薄れてそこで気を失ってしまった。
自分が目が覚めると大岩が重なり合った間の空間に居た。そこには葉の絨毯や すり鉢、木の実等様々な道具が揃っていた。数年この施設に居るのだから知らない場所は無いはずだが、ここは見たことない景色の場所であった。確か、当時のリーダー……2代目レイがナワバリにして誰も近づかない場所があった気がする。そこだけ知らないため多分そこだろう。
「あ、目が覚めた? これ、食べなさい。」
そして水色がかった白髪のスイさんに何かの腕を差し出された。白い肌にプリプリの腕のような肉。凄く食欲をそそられた自分はすぐさまその腕を食べ始めた。肉は弾力があり、とれたてのように新鮮な肉は人生で食べた中で1番美味しかった。何の肉だろうか、ポケモン? いや、ポケモンの肉がこんな白く綺麗なわけが無い。ならばスイさんの肉だろうか。にしては小さい気がするし、スイさんの両腕は健在だ。きっとさっき死んだ奴隷市場出身の人間の肉だろう。外の世界から来ただけあって肉質が良かった。食堂の肉も奴隷市場の肉を使えばいいのに……
そう思っていたらあっという間に食べ終わってしまった。骨は流石に残して、スイさんに私た。スイさんは溜めていた水で洗い流し
『ボキッ』
骨を喰らい始めた。スイさんもお腹すいてたのだろうか? 今ではそう思うが、当時の自分でもその様子に引いてしまっていた。
「ん? あぁ、これ。レイの骨だから食べてるのよ。」
意味が分からない。え、レイって、あの2代目レイ? リーダーで裏の頂点に立ってるあの恐ろしい2代目レイ?!
自分は何てものを食べてしまったのだろう。多分殺される。というか、何故2代目レイの肉をスイさんが持っていたのだろう。でも、美味しかった。
「で、レイの肉を食べたのだからこの先ぶっ倒れないなんてことはないでしょうね?」
スイさんが刺々しく自分に言う。自分は『はい』と答えた後、スイさんは『着いてきなさい』と言って、外に出た。自分もそれに続く。
「はーい。今から緑の実力底上げ訓練を始めまーす」
するとスイさんが無気力にそう言った。その様子はとても楽しそうには見えなく、まず自分に向けられる殺気量が半端でなく腰が抜けそうであった。現在の3代目レイの殺気といい勝負である。
そして、緑とは、自分の名前だろう。名前なんて持っている人などほとんど居なければ、自分は緑髪だったため、妥当だと思った。
「え、実力底上げ……って、え?」
「は? 聞いてなかったの?」
「聞いてましたが……え、何故実力底上げを?」
「あー、説明めんどくっさ。はい、そこのボーマンダ殺りなさい」
するの目の前には通常サイズとな思えない程の巨大なボーマンダが居た。このサイズは数年生き残ってきたポケモンで、4柱でも協力して倒すレベルのポケモンだ。柱でもない自分が単独で勝てるポケモンじゃない。
「こ、こんなポケモン柱が居ないと……」
「あ、私柱だから命は保証してあげる。3柱のスイよ」
「ええ?!」
その時初めてスイさんに出会った。ランキングで名前だけは知っていたが、同年代でこんな小柄な女子なんて思っていなかった。
というか、3柱とは信じられなかった。何故3柱が自分を助けて実力底上げ訓練をさせようとするのだろう。
「はい戯言は終わり早く殺りなさい」
「えっちょ?!」
そう言うとスイさんはジャンプして一瞬で消えてしまった。え、自分一人で倒せってこと? 無理無理無理! 僕は腰を抜かし目の前のボーマンダに足をガタつかせていた。するとボーマンダは腹に何か力を溜めて宙に放った。その1つの力が幾つもの岩に分かれ雨のように降ってきた。りゅうせいぐんである。
自分は必死でかわした。足に力が入りすぎて転けそうになるが何とか両手を使って逃げた。数センチ後ろに岩が落ちる音がする。それでも必死の覚悟で逃げる。逃げる。しかしボーマンダは懲りずに追いかけてくる。
「くっ、来るなぁー!」
自分はそう叫んでもボーマンダは止まらない。すると横の木々をつたってスイさんが現れる。
「あのボーマンダ殺せないと私が貴方を殺すわよ」
「どちらにしろ死ぬじゃないですか!」
「何言ってるのよ。ボーマンダの相手は命の保証するから」
「じゃあスイさんはボーマンダ殺せるんですか?!」
するとスイさんの目が泳いだ。殺せないのだろう。ふざけるな……自分がボーマンダに挑んで柱は何の得があるのだ。
でも命は保証してくれるのならば……殺るしかない。
自分は振り返りボーマンダと対面した。ボーマンダは目を赤く光らせ突撃してきた。逆鱗である。
自分はジャンプしてかわそうとするが、ボーマンダが早く、低空飛行していたため、ボーマンダの背中を転がる形でかわすことになった。
かわすことは出来たが、次同じことが出来るとは限らない……ならどうしようか。こういう場合は相手の顎を突いて頭の中を潰したら良い。しかし、ボーマンダに近づくことすら出来ないのだから、まずは体の部位を消さなければ行けない。
生憎自分には一緒に居るポケモンは居ない。1人でやらなければならない。
まずは羽を片方もごう。自分は狙いを定めた。
そして、1歩前に踏み出し羽を掴もうとしたが、近づいた瞬間に羽に吹き飛ばされてしまう。
口の中に血の味が広がる。
「グギャァッ!」
怯んだ隙にボーマンダが一気に間合いを詰めて、自分の腕に噛み付いてくる。
腕の肉に無理やり数本の鋭い異物が入り込んでくる感覚と共に激痛が走る。
「うあぁぁっ!」
その後に腕が呆気なく「ポキッ」と折れる音がした。自分は直ぐに距離を取るが立てずに倒れて足と腕、胴を必死にじたばたさせた。
別に腕の中身は痛くない。違和感があるがそんな激痛では無い。しかし、ボーマンダに噛み付かれたことによってえぐれた肉の部分が痛い。
電気が走ったような感覚と、自分の意識を入れる暇もなく襲う激痛。
今の状況等すっかり忘れただ俺は跳ねていた。
次の瞬間。目の前には大口を開けたボーマンダが居た。自分は死を覚悟してもう動かなかった。
「くはっ……」
腹の半分がボーマンダにかじられる。
痛い。熱い物を直接流し込まれているように痛い。しかしもう疲れてかわいた声しか出なかっまた。
スイさんの嘘つき。命の保証なんてしてくれなかったじゃないか。
かすれた景色。そこにはボーマンダの顔がドアップで写っていた。ふと、後ろから白い影が降りてくる。
「ふんっ!」
「グギァヤァァァ!」
ボーマンダが受けた何かの衝撃が自分にも伝わる。ボーマンダはビクンと跳ねた後、自分から離れて、地面でのたうち回る。
よく見ると背中の羽が生えてる部分に1メートル程の裂けた生々しい傷跡が見える。
スイさんは俺の前に立ち、片手には氷の長い何かを持っている。
ボーマンダが腹に力を溜めた後、また空から複数もの大きな岩が落ちてくる。スイさんは自分を片手で抱えて岩を交わしていく。
あっという間にボーマンダの顎下へ来ると、スイさんが持った氷がボーマンダの顎を貫いた。
ボーマンダは、何も言わずに倒れた。
「ふはぁ……」
スイさんは軽く方を回す。スイさんの体は冷たく、まるで死体のようであった。しかし、それが熱された傷口を冷やしてくれるため気持ちがいい。
「意外と強いのね。アンタ」
スイさんにそう言われた。自分は傷を抑えつつスイさんの顔を除く。スイさんは少し微笑んでおり、それをみて胸が熱くなった。
「あ、ありがとう……ございます」
「まっ、柱から見たら? まだまだだけど? 鍛えがいはありそうね」
スイさんのイタズラっ子のような笑顔に自分は惹かれた。ずっと1人で居た、氷った心を溶かされたようだった。
「あ、ありがとうございます……」
「じゃあ次行くわよ!」
「ちょっ、待ってください! 自分もうボロボロで……」
「今柱の中で誰が1番強い子を育てられるか勝負してるの! ここでへばられたら困るわ!」
「……」
スイさんは最期まで自分の事は見てくれなかった。最初も最後も自分は周りと張り合うための道具でしか無かったのだ。
でもそれでもいい。スイさんと一緒に居られるのなら。
「頑張ります」
自分は一部欠けた体にムチを打って立ち上がった。
その後、ボーマンダの時と同じようなことを何回もやらされた。死にかける事もあったけど、今思い出すと楽しかった。
強い子を育てる事は、2代目レイが発端で起こったらしく、いつも2代目を取り合い、喧嘩をしていた柱に呆れた2代目は、『自分の実力でなく、弱いやつを育てて1番強かった者が勝ち』というルールを決めたようだ。
そのため定期的に柱の弟子の自分達が集められた。ユウとフジとはそこで初めて会い、ユウはドクの弟子。フジは何故か参加していた2代目の弟子だった。
昔から力関係は今とあまり変わらなく、毎回1番強いのはフジで、2番、3番を入れ替わっていたのはユウと自分だった。
正直自分は力比べなど興味無かったが、スイさんと一緒に過ごせることが嬉しかった。ずっとこんな時間が続けばいいのにと何回も思った。
─スイさんは死んだ
いつも新人奴隷が送り込まれる際に開かれる適当な集まりで、脱走未遂があったことを教えられた。
自分は他人事かと思っていたが、次の発言で一気に地獄へと落とされる。
「脱走未遂者はレイ、アーボ、ドク、スイ、ダミ、フジの6名だ。死亡者はレイ、アーボ、ドク、スイ。未遂者はフジ、ドク。未遂はこのようになる」
職員が無慈悲に言い放った。自分はその言葉を聞き逃さなかった。2代目レイが死んだと言われた時から他人事ではないと耳を傾けていたからだ。
するとスイさんの名前が出てきた。スイさんが死んだと言われていた。
それだけで思考が追いつかないのに、職員はドクとフジを放り投げた。
ドクは全身青色だったり紫色だったり、腫れていたり、真っ赤だったりと、痛々しいカラフルな肌の色をしていた。笑えない……
殴られた痕跡や骨折した痕跡。赤く晴れているのは火傷だろう。見てるこちらまで痛々しかった。
しかし、問題はフジだった。
フジに関しては名前を言われないと分からなかった。全身真っ赤で目は剥き出し、皮膚らしきものは見あたらず全身爛れている。
足や腕に関しては一部抉れている。
俺らはポケモンと人間のキメラ。そしてドクは人間。それはスイさんから聞かされていた。人間は治りのスピードが遅く、骨折しただけで早くても70回仕事をしないと治らないらしい。
しかし、自分達キメラは骨折しても長くて数時間で治る。皮膚も破れただけではどうってことは無い。痛いが。
それなのに、同じキメラである筈なのに。フジは再生されず、酷い有様でいた。
要するに今見える症状以上のことをされたのだと想像がつく。そう考えただけで手に、足に力が入らない。
スイさんは? スイさんもキメラだ。なのに死んだということは……フジよりも酷い目にあって死んだと言うことでは……
周りがザワザワと騒いでいる。所々では悲鳴や笑い声、怒りの声も聞こえる。
それがBGMのように片耳から持つ片方の耳に抜けていく。
「脱走。それはとても愚かな行為だ。それを踏まえ、仕事場に行け」
俺らは職員のその言葉に絶望しながらも、仕事場へ向かった。
◇◇◇
もしかしたらさっきの言葉は嘘かもしれない。それか、スイさんの事だ。スイさんより圧倒的に強い2代目の事だ。
本当は死んでないかもしれない。もう2代目もダミもアーボも死んでいても良い。スイさんだけなら。スイさんだけ……
そう必死に思いながら仕事場を駆け回った。ポケモンなんて無視して駆け回った。澄んだ綺麗な川。不自然に揃った食べれる木の実が成った木の実林。
ここら辺は環境が良いため強いポケモンが集まる。すると自然にそこに強者の仕事人が集まる。しかし、いつもここに柱とリーダー入るのに居ない。どこにも居ない。
自然と自分の足はリーダーの縄張りに向いていた。大岩が重なり、中はふわふわな藁の塊や木の実、凹んだ石などの不思議な代物が揃っている。
いつもは誰もいない。たまに居る時は誰かを柱が癒しているときだ。だけど、今回は誰か居た。
スイさんか? そう高まる心臓の音を抑えながら全力で走った。しかし、近づくにつれスイさん出ないことがわかった。
居るのは黒髪の少女と藁の塊の上に寝ている白髪の男だ。
「……ドク、ユウ?」
自分は中に入って呟いた。ドクは最初の集まりと変わらず悲惨な姿で横になっていた。
ユウは隣で凹んだ石の中に木の実を入れてすり潰している。
自分の気配に気づいてユウはこちらを向く。ユウとは思えないひしゃがれた目に、涙を貯めている。
こんなユウの顔は初めてみた。
「これ……」
「何の用」
自分が言うとユウが鋭い言葉で自分を刺す。何の用と言われても、スイさんを探してるとしか言えない。
しかし、今のユウにそんなことを言ったら、ユウの何かが溢れ出そうな気がして何も言わなかった。
「リョクか」
ドクは目を閉じてかすれた声で自分の名前を呼ぶ。自分は絞られた声で『はい』と言った。
「フジを……見たか?」
「フジなんてどうでもいいだろう!」
ドクが今にも死にそうな声で自分に聞くが、ユウがヒステリックな声でドクに言った。
「頼む……フジを探してくれ」
「フジなんて死なせてればいいだろうっ!」
ドクはずっと『フジ、フジ』と呟いている。それに対してユウは泣き叫びそれを必死に黙らせようとする。
自分はあんな強かったドクの変わりように、いつもと違うユウの様子。集まりで見かけたフジとは思えない姿。
自分は放って置けなく、すぐ外へ走った。
フジはどこにいる? さっき仕事場を回ってもフジは見かけなかったぞ。というか走れるのか? いや、移動できるのか? もしかしたらポケモンに食われてるのでは……
そんな考えが何回もよぎった。あの状態で移動できるとは到底思えない。なら、入口にいるのでは無いのだろうか?
自分はもう行く宛てが無かったため、入口に走った。思惑通り入口には手足が生えた肉の塊があった。
ついでに言うとキバゴやヤミガラス等の小さいポケモンが肉の塊を貪り食っていた。
自分は慌ててポケモンを追い払い肉の塊─フジと思われる人物を抱えた。
「フジか? 生きてるか?!」
「ふ……はぁいぬあぅ……」
フジは口をパクパクさせ、何かを言っている。口の中を見たら生えかけの歯が並んでいる。
歯も抜かれたのか……?!
確実にフジである。自分はフジを抱え、急いで戻った。
その間ポケモンに貪られていた部分から血液が流れ出し、自分の腕も服もベトベトになった。
それでもフジを離さなかった。今離したらドクが悲しむし、スイさんの事を聞ける人が少なくなってしまう。
全力で走り、大岩の重なる場所に着いた。
「フジ……フジか?!」
初めにフジに気づいたのはドクだった。ドクは立ち上がろうとするが、上手く立てず藁から転げ落ちてしまう。それでも地を這ってこちらへ向かおうとする。
ユウは持っていた石を落として、瞳孔を開いてこちらを睨みつける。
「何 故 フ ジ を 連 れ て き た ?」
唸るように威嚇するユウを見て、本能的に近づいては行けないと感じた。しかし、ドクもフジも悲惨過ぎて離せなかった。
「フ……ジ」
さっきまで閉じていた目をかっぴらきにさせてこちらへ這ってくる。その様子がこの世のものとは思えなかったが、そっとフジを差し出す。
ドクはフジの悲惨な姿を見た後、不気味に笑いだした。ドクとは思えない高音を、叫び声を出し辺りを響かせた。
もうその様子を見ていられなかった。自分達が殺しているポケモンも泣いたり、断末魔を上げたりするが、ドクの迫力は違った。
もうこの場を離れたかった。
「リョク。どけ。殺す」
ユウが奥から鋭い石を取り出すとフジの頭に突き刺そうとする。それを自分は必死に止めた。ユウの力は強く、ユウの腕を止めている自分の腕はプルプルと震えている。
今のユウには話が通じない。なら仕方ないと自分は全力でユウの腹を殴った。
「ぐっ……かはっ」
ユウは口から唾を吐き出しそのまま倒れた。ユウは速さと力は高いが防御力は低い。それを突いた。
「あぁ……ぁ……」
ドクは完全にぶっ壊れている。今声をかけても何も伝わらないだろう。自分はフジの方が重症だったため、ドクが寝ていた藁にフジを寝かせた。
フジは目を剥き出しにして口をパクパクさせている。寝かせたのは良いがこれからどうすれば良いのだろう。
自分はスイさんから生き物の治療法等教えられていない。
「どうしたらっ」
「オレンのみ、カゴのみ……復活草を潰せ」
ドクがもう声にならない声を絞って伝えた。瞳はあちこち向いていて向けることが出来ないだろうという向きにまで向くようになっている。
外見からでも分かるぐらい可笑しくなっていたがドクは必死でそれを抑えている。
ドクの精神力の強さと異常さに気圧されながらも自分は奥から材料を取り出してフジの治療を始めた。
- Re: ≪ポケモン二次創作≫ 最期の足掻き ( No.65 )
- 日時: 2022/08/01 22:42
- 名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: eldbtQ7Y)
ドクがたまに聞き取れない言葉を発しながらも、自分に治療の仕方を教えてくれる。それに従い木の実をすり潰したり、置かれていた塗り薬を塗ったりして治療をしていた。
材料が無くなった時はかなり困った。リーダーの縄張りで誰も近づかないからと言っても、異常をきたしている3人を放って置けないし。途中からやってきたユウの相棒ニンフィアもユウと同じ状態で、フジを襲った。取り敢えず気絶させたが余計その場を離れられなくなった。
ドクの相棒のポリゴン2は姿が変わってやってきた。目が黄色で渦を巻いている。挙動不審でまんま今のドクのようだった。
最後にやってきたのはフジの相棒ゲコガシラだ。ゲコガシラもかなり重症だったが、木の実や水、薬草を取ってきてくれていた。
ゲコガシラは精神的にはまだ動ける状態であったため、五人の患者を二人で介護することになった。
それで仕事が一回終わった。フジは皮膚や歯は生えてきたものの、身体中青、赤、紫とカラフルになり、動けないのは変わらない。
ドクは喋れるようになっているが、挙動不審である。ユウとニンフィアは隙あらばフジを襲おうとするためゲコガシラと何回も止めていた。
─疲れた
正直フジもユウもドクも放っておけば良いが、死なれたら気分が悪いし、スイさんの事を聞くことが出来ない。
それにいつもの仕事と比べれば簡単である。皆が部屋に戻った後、フジの身体に巻くための布を探すために2代目の部屋にドクと向かっていた。
「大丈夫なのか」
「喋れるし歩ける」
自分が聞くとドクは機械のようにそう答えた。それは見れば分かる。精神的、肉体的にに大丈夫かを聞いているのだ。
しかし、この答え方をするということは大丈夫じゃないということだ。
2代目の部屋を開ける。2代目の部屋は他の部屋より一回り大きかったが、机と敷布団1つという素朴な部屋だった。
敷布団は使われてないぐらい綺麗だったが、椅子はもうボロボロだった。
「レイの部屋に着いたは良いが……何もなさそうだな」
布は貴重だ。柱でもそんなに持っていない。しかし、リーダーなら、外の世界に行ってる2代目ならかなり持ってると思ったのだが、的はずれだったようだ。
するとドクが敷布団をどかす。そして、床の板を1枚づつ触ると、1枚動いた。ドクはそれを無音でスライドにさせると、そこには小さな箱ほどの大きさの穴があり、中には様々なものが入っていた。
しかし、武器等はなく、丸められた草や本、紙などのゴミだった。そこには布がかなり置いてあったため、自分はそれを拝借したが、ドクはゴミを漁り始めた。
何してるんだ とでも聞こうと思ったが、その様子を黙って見ていた。ドクは一通り漁り終えたら、ゴミを元の場所に戻し、数冊の本だけ取り出した。
「なんだそれ」
「……日記」
自分が聞くとドクがボソリとそう答えた。ドクはその日記を大事そうに抱えるが、1冊落ちてしまった。
自分は拾い際パラパラっと中身を見たが、直ぐに閉じた。そのまま本を足に落とした。落としたというか、力が抜けた。
え、今の何だ? 見間違いか? いや、そんなはずが無い。内容は単語数個しか見なかったし文字のかたちも不揃いなだけだった。
けれど、恐ろしかった。
自分の触っては行けない部分を全て逆撫でされるような恐ろしさであった。
『毒』『薬』『実験』そんな非現実的な単語しか並べられていなかったが、文字の形が当時の2代目の気持ちをダイレクトに表していた。
今のドクにこれは見せてはいけない。自分は日記は絶対に見るなとドクに釘をさしてフジの部屋へ向かった。
部屋に戻ると目を閉じて顔がしっかりと見える、肉の塊にからフジに治っていた。しかし、変わった点が1つ。髪が生えていたが、いつもの黒髪ではなく、白髪だった。肌も綺麗な肌色から薄茶色になっていた。
一瞬人違いと思ったが、顔つきがまんまフジであった。
戸惑いつつフジの身体に布をまく。痛そうだが、フジは何も言わず目を閉じていた。
フジの隣には複数ベットがあり、隣りにドクが横になった。自分はこの場から離れる訳には行かないため寝ないでずっと2人を見ていた。
フジがいつの間にか寝ていた。しかし、ドクは寝ていない。眠れていない。
「レイが死んだ」
ふとドクが呟く。ドクも精神は回復してマシになっているが、今そのことについて話したら余計悪化するのでは無いだろうか。
まあスイさんの話を聞けたらいいし黙って聞こう。
「俺は最初で離脱したから、レイやスイ、ドク、アーボが死んだ所に居合わせていない。けど、確実にオレとフジ以外は死んだ」
ドクは瞬きをしない。目が充血していてそのまま淡々と話した。
薄々分かっていた。けれど確信したくなかった。
─スイさんは死んだのだ
その後ドクは徐々に発言が支離滅裂になっていく。それでも無理やりにでも聞き出した。特にスイさんの事について。
そこで知った。計画は元々フジだけを脱走させるための物だったこと。フジの為に全員犠牲になるつもりだったこと。スイさんを犠牲にしたのに、フジは脱走出来なかったこと。全ては2代目の計画だったこと。
それを聞いて、多分生まれて初めて怒りを覚えたと思う。スイさんが死ぬだけでも苦しいのに、スイさんが命をかけてまでフジを守ろうとしたのにフジは脱走しなかった。そして、フジの為だけに他の人も巻き込んだ2代目。
フジも2代目も、心の底から恨み始めた。
「スイさんが死んだ? フジのせいで? 2代目のせいで!」
自分は思わずドクの胸ぐらを掴んだ。ドクは何もしない。ずっと目をかっぴらきにさせて口を一の字に結んでいる。
ムカつく
ムカつく
ムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつく
ドクを殺したい。フジを殺したい。2代目を殺したい。
アーボもダミも、計画に関わったやつ全員殺したい!
自分は自分の中でふつふつと湧き上がる大きな感情に身を任せ拳を振り上げた。
ドクに逃げられないように睨みつけるが……
自分は拳を失敗した紙飛行機のようにヒョロヒョロと落とした。そして、掴んでいた胸ぐらも力が入らなくなり放した。
ドクは何も言わず乱れた胸をただす。
殴れるわけが無いのだ。あんな地の底に引っ張られるような不気味な濁った瞳をされては。何もかも諦めたような力ない顔をされては。
自分は声にならない声を叫び、勢いよく部屋の外へ出ていった。
◇◇◇
「レイ! 見て見て! ボーマンダ殺れたよっ!」
黒髪に女と間違えるような体格をして、2代目がそのまま成長したような見た目をした少年がレイに向かって笑いかける。
レイは微笑みながらシュウの頭を撫で、桃髪と水髪の双子がシュウを称える。紫に琥珀の瞳をした少女は呆れながらその様子を見ている。
『僕は─俺はレイだ。フジでもありレイでもある。恨むなら、俺を恨め』
自分は話そうとしても離れない頭にへばりついている言葉に耳を傾けた。自分も、リーダーも、ユウも、レイも皆大切な人を失った。もう二度と会えないのだ。
なのに、レイとリーダーは2代目に似ているだけのシュウという人物に誑かされている。2代目の代わりとして見ている。
憎たらしい。自分もユウも大切な人とはもう会えないと判断してるのに、2人は……
失うものは何も無い自分達が1番恐れるもの。それは与えられることだ。与えられたら、いずれ必ず失う。
これ以上レイを、リーダーを壊すつもりかホウチャク シュウ
「そんなにシュウを見ちゃって〜 惚れた?」
いつの間にか自分の後ろに立っていたユウが自分をからかう。ユウもヘラヘラとしているが、分かっているはずだ。シュウがリーダーにとって、レイにとって悪影響だということを。
「何故シュウを放っている」
「レイが楽しそうにしてるんだよ? 私もレイからシュウを引きはざすほど鬼じゃないよ」
「前にシュウを殺そうとしてただろ」
「……へぇ。見てたんだ」
前に急にポケモン達が大移動した時があった。何かあったのかと思い探してみると大樹の前でロリースしたユウがシュウ達と戦っていた。『弱いやつに加担すると思う?』そう言ってユウはシュウ達と戦っていたが、ユウぐらいなら見ただけで相手の実力は大体分かる。
なのに戦いを挑み、更にロリースまでするのは確実に殺しに行ってる。
「あれだけ騒いでたら嫌でも目につく」
「迂闊だったなぁ」
ユウはケラケラと笑いながら頭をかいている。それでも目が笑っていない。
「何故今シュウを放っている。泳がしてる訳でも無いだろ」
「んー……レイのガードが思ったより固くてさ。殺せそうにないんだよ」
「レイは殺れなくても、シュウぐらいなら殺せるだろ。そんなに劣ったのか?」
ユウがギロッと自分の方を見る。3柱の中で、昔から1番強いのはレイだ。自分もユウもレイに勝てたことは無いが、レイの目を盗んでシュウを殺すぐらいならできるはずだ。
「私が劣ったことは否定しないけど、レイが思っより強くなってる……」
「どういうことだ」
「私のロリース発動を一瞬で退けたんだよ。無理ゲーって思ったね」
ユウが笑いながら肩を竦める。残念ながら自分はユウとシュウ達が戦闘している一部分を見かけただけで、ユウとレイが戦闘したことを知らない。
そしてユウのロリースを一瞬で退けた? レイが爆発的に強くなってることが分かる。レイがレイと名乗り始めた頃はお互い全力を出し合い、削り合いようやく勝敗ができたぐらいなのに……
いや、振り返ってみると最近俺たちをレイは軽くあしらってる気がする。微笑み、余裕で俺たちをあしらっていた。気づかない間にレイが強くなっていたて……?
俺は少しの間考える。楽しそうにはしゃぐシュウ。それを優しい目で見つめるレイ。
きっとこの様子は、フジが、レイが昔から望んでいた光景なのだろう。ずっと2代目を守りたいと言っていたのだから。だとしても、自分がやることは一つである。
レイがシュウにのめり込む前に、やるべき事。
「自分は戻る」
「……何する気?」
「別に、何も」
伊達にユウとは昔から一緒に居なため、察しが良い。けれど、自分ははぐらかしてその場を去った。
◇◇◇
「っと言うことがあったんだよね」
私こと、情報屋のユウは、仕事終わりにいつものようにダミの隠し部屋に居た。シュウ、リゼ、タツナ、ミソウ、ダミが私の話を真剣に聞いている。
勿論。私がシュウを殺そうとしたことみたいな私が不利になることは言ってないし、リョクの2代目とフジに対する憎悪も軽く教えただけである。
「それが脱走と何の関係があるんだよ」
「無駄話は要らない」
タツナとミソウが私に向かって言った。リゼとシュツも同じことを思っているのか、疑問の視線を私に向ける。
しかし、アンドロイドと言っても、さすがオリジナルのコピー。ダミは私の話をよく理解していた。
「いや、これは結構大問題だよ」
「どういうことですか?」
ダミが真剣な顔で言うと、リゼが首をかしげる。私はゆっくりと口を開いた。
「リョクはシュウを消そうとしてる」
『っ?!』
シュウとリゼ、双子はようやく事の重大さに気づいたようで真剣な顔になる。
リョクのはシュウを鬱陶しく思っている。それは、レイとリーダーを思っての事だ。
こんな環境で人の事を思える余裕があるのならピラミッドになることに集中したら良いものの……
リョクはいつまでも愚かだ。
「消そうとしてるって……」
「そのままだよリゼ。リョクはシュウを殺そうとしてるんだ。邪魔だからね」
ダミが言うとリゼと双子に冷や汗が流れる。そういう私も結構焦っている。
リョクは伊達に施設のNo.3じゃない。シュウを殺そうと思えば殺せるし、レイが立ちはだかってもロリースしたらシュウだけなら殺せるだろう。
まず、レイはかなり強くなってることを知るに、リョクはシュウ単独の時だけ手を出してくるだろう。
それに、まだ分からないが、リョクも脱走計画のことを知ってるかもしれない。多分知らないと思うが、知ってる可能性もある。
それをレイに言って脱走計画を潰す可能性もある。
要するにレイ、シュウVSリョクの構図を作ると、結構危ないということだ。リョクが脱走を知ってるかは分からないからこそ、安易にこの構図を作っては行けない。
ならば、作るとしたら タツナ、ミソウ、リゼ、シュウVSリョクの構図だ。しかし、リョクならシュウだけを殺すことは安易にできる。
最悪私が割り込んでも良いが、柱同士の戦いでレイが気づくわけが無い。
リーダーが居ないことが唯一の救いだが、それでも厳しい……
「まあ、好都合じゃない?」
ダミがめちゃくちゃ生き生きした顔で笑っている。嫌な予感がする。この顔はダミのマッドサイエンティストスイッチが入った時の顔だ……
主に新薬開発の実験や、人体実験をする時にこの顔をする。大体被害者は2代目だったが、2代目が死んだ後実験が出来ていなかったのだろう。
めちゃくちゃいい笑顔である。
「こ、好都合ってどういうことだい?」
私はひきつった笑顔を向けながらダミに言う。ダミは頬のニヤニヤを抑えるために手で頬を揉んでいる。
「脱走する時に柱とリーダーが初めの場所で脱走者を取り押さえるのを知っているかい?」
ダミの言葉で皆が頷く。私は勿論。シュウ達も脱走計画の時に聞かされている。
「なら今リョクを殺してしまえばいいんだよ!」
ダミが『名案だ!』と嬉しそうに言った。私は顔から血の気が引いた。
リョクから殺されないための話をしていたはずなのに、リョクを殺せる戦力があるなら最初からそうしている。
ダミもそれを分かっている筈なのにこんなことを言うことは、リョクを殺せる案があるということなのだ。
そして、リョクが殺されると思うと、暗闇の底に叩き落とされた感覚に陥る。別にリョクもレイも殺されようが関係ないと高を括っていたのに……
あぁ、ダメだ。リョクが愚かだとか言ってたのに、私も同じじゃないか。
「殺すって……どうやって……」
シュウが焦りながらダミに聞く。ダミはよくぞ聞いてくれましたという顔をする。
「シュウがリョクを殺すんだよ」
『はぁ?!』
ダミのその言葉に誰もが驚いた。というか何ふざけたことを言ってるんだという顔であった。
「それは、シュウ対リョクのタイマンを貼るということですか?」
「うん。そうだね」
「さすがに無茶だろうダミ!」
私はダミに怒鳴った。というか焦っていた。
確かにシュウとリョクのタイマンを貼れたら必要以上に騒がないためレイも気づくのが遅くなるが、戦力差が大きすぎる。
「そう言って、師に勝った人物がいたよね」
「2代目は別だろう」
ダミはヘラヘラと笑うが私は静かな声で言う。
師に勝った人物……2代目レイの事だ。師はアーボでのことで、当時の戦力差は今の双子とリョクぐらいあったはずなのだが、2代目が勝った。
しかし、あれは2代目がおかしいだけでシュウが同じとは限らない。
「そうだね……あれは2代目がおかしい。けれどシュウは2代目の双子だ。潜在能力はかなりある」
「双子だから2代目と同じとは限らないだろう」
「限る限る。だってさ。表出身のシュウが、生きて、ランキングに載ってるんだよ?」
ダミと私が言い合うが、ダミの言葉で私は口ごもってしまう。
特に考えてなかったが、よく考えると表出身で素人同然のシュウがこんな短時間で生き残り、ランキングに載ることは異常なのである。
シュウの潜在能力は2代目レベルだ。
「……確かに、シュウの潜在能力が高いのは認めよう。だからといってリョクに勝てる理由にはならない」
私は淡々と言った。タツナもミソウもリゼも私と同じ意見なのだろう。冷たい視線をダミに向けていた。
「シュウ。いけるかい?」
「無理無理! 出来るわけ無いじゃんっ!」
ダミがシュウに聞くと、シュウは慌てて否定する。そりゃそうだ。私でもリョクに勝てないのに施設に来て間もないシュウが勝てるわけが無い。
「言い方を変えよう。シュウなら2代目レイを越えられるかい?」
何言ってるんだダミは。私はもう驚きを越えて呆れていた。シュウもすぐ否定するだろう。そう思ってシュウを見たが、シュウは目をまん丸くしながら黙っていた。そして、口元が三日月の形になると。
「勿論」
自信満々な笑顔でシュウは笑った。
その笑顔は恐ろしいほど綺麗で、不気味だった。
終