二次創作小説(新・総合)

Re: ポケモン不思議のダンジョン 虹の姫君 ( No.7 )
日時: 2021/10/21 16:22
名前: アクアマリン ◆GU/3ByX.m. (ID: CqetyqUy)

 どすん、と森の一角で音が上がる。
 嗚呼、駄目か。そう他人事のように思いながら、地面に倒れる。全身に痛みが響くのを感じながら、意識を手放しかけていた。倒れた者は、イーブイと言うポケモンである。兎に似た長い耳、首を覆うふさふさした毛。短い手足。本来なら全身茶色であるが、このイーブイは、薄汚れてはいるが白かった。ごく稀に生まれる、所謂色違いと言われる、通常とは体色が異なるポケモンなのだ。そのイーブイの身体には赤いシミや切り傷が多く見られ、その身体で無理をして、限界を超えてしまったらしいことが分かった。

(いい。私はここで終る運命だったのだから)

 霞がかかる意識の中、全身の感覚が徐々に抜けていくのを感じていると。不意に遠くから声がした。

「ねえ、君。大丈夫⁉」

 心底驚いたような声に、イーブイの意識が現実に引き戻される。微かに残った力で頭を持ち上げると、一匹のポケモンが視界に映り込む。
 人に似た白い身体のポケモン。頭は緑色をしていて、赤い突起のようなものが生えている。
 名はラルトスと言ったか。
 他者の気持ちに敏感な種族であり、世間と距離を置くとは聞くが。タイプ上虫ポケモンを嫌う彼らが、こんな深い森にいるポケモンではない。

「まだ意識はありそうね。動ける?」
(なんだ、このポケモンは……)

 白い手であちこち触れながら、ラルトスは問うてくる。
 イーブイは何か答えようとするが、口は呼吸音を吐き出すだけで言葉にならない。何とか力を振り絞りイーブイが首を左右に動かすと、ラルトスの顔が険しくなる。

「すぐ近くに私の家があるの。そこで手当するわ。行きましょう」

 ラルトスが瞳を妖しく光らせると、イーブイの身体が青い色に包まれる。彼らはエスパータイプと言って、不思議な力を操る力を持っている。例え力がなくとも、大きな荷物を持てたりする。
 そうやって、ラルトスはイーブイの身体を運ぼうとしたらしい。初めの内こそイーブイの身体は持ち上がるが、すぐに落ちてしまった。
 ラルトスは顔を真っ赤にして超能力を使うが、イーブイの身体は持ち上がらなかった。運ぶのは無理らしい。
 やがて諦めたラルトスはイーブイの身体から離れると、ぜえぜえと荒い息を吐く。何度か深呼吸をして落ち着くと、困った顔になった。

「困ったわね、『この姿』だと力が入らないわ」

 ふと、ラルトスは逡巡するように辺りを見回す。
 そして足下で倒れるイーブイに目をやる。それからしばし、困った顔から何か決意したような顔に変化する。

「だけど、君の怪我を治す方が先ね。周りにポケモンはいないし、問題ないわね。よし!」

 掛け声をかけると、突然ラルトスの身体が発光を始めた。強い閃光にイーブイが思わず目を閉じる。光が消えた頃にゆっくりと目を開けると、そこには別のポケモンがいた。

(な、このポケモンは……)

 大きく。それでいてなんとも奇妙なポケモン、それがイーブイの感想だった。
 まず、空を飛んでいるが、イーブイが知る鳥ポケモンたちと特徴が全く違った。
 白く丸い身体に首、手があり、赤い翼は腰の辺りから三角形のものが生えている。
 くちばしもないし、鉤爪もなく、おおよそ鳥ポケモンらしくない。初めて見るポケモンだ。
 驚くイーブイを他所にその奇妙なポケモンは、短い両手を伸ばしイーブイを掴むとそのまま一気に空高く舞い上がる。風がビュン、とイーブイのくすんだ毛並みを逆撫でた。

「待ってて、すぐに助けるから」

 円な金色の瞳を向けながら、奇妙なポケモンはそうイーブイに声をかける。それで緊張の糸が切れたのか。イーブイは、自分の意識が闇の底に沈んでいくのを感じた。

Re: ポケモン不思議のダンジョン 虹の姫君 ( No.8 )
日時: 2021/09/10 17:30
名前: アクアマリン ◆GU/3ByX.m. (ID: 66mBmKu6)

 ——嗚呼、嫌な夢だ。とイーブイは思った。
 酷く体調が悪い時、あるいは自身の心が酷く不調な時によく見る。いつもの夢だった。
 遠い昔のはずの夢、誰かによく似た夢。当たり前の光景。幼く無力だったあの頃のこと。

『イーブイ。聞いているのかい』
『……はい』
『全く、セカイイチ一つとってこいって言う仕事も満足に出来ないのかお前は。使えない』
『でも、あそこは不思議のダンジョンだよ。怖いポケモンがいっぱいいて、セカイイチを取りにいけないよ』
『言い訳は無用だよ。あんたは自由に進化できるだろう。罰として夕飯は抜きだ。それと、セカイイチを持って帰るまで家に入れないよ』
『……ごめんなさい。でも、不思議のダンジョンは怖いよ』
『これだから色違いは駄目なんだよ。見た目は醜悪、出来損ない、全く役に立たない。屑でのろまで生きる価値がないポケモンだねぇ』
『だから、一人でやるんだよ。誰もあんたを助けちゃくれないよ』
(わたしは、色違い。だからダメなんだ)
(だから、誰も助けてくれないんだ。色違いのわたしに生きる価値がなんかないって、思ってるから)

Re: ポケモン不思議のダンジョン 虹の姫君 ( No.9 )
日時: 2021/10/21 05:44
名前: アクアマリン ◆GU/3ByX.m. (ID: 66mBmKu6)

 イーブイの意識は、深い眠りと浅い眠りの狭間にいた。
 時折意識が覚醒しかかるのだが、すぐに熱に溶かされて深く沈んでいく。怪我のせいで、熱が出たらしかった。意識が浮上しては、沈んで。それを何回繰り返しただろうか。不意に、イーブイは目が覚めた。
 身体をゆっくりと起こすと、ワラがやたら身体にまとわりついてくる。足下に目をやると、ワラが寝床となるようびっしりと敷き詰められていた。どうやら、寝かされていたらしい。

(知らない家だな)

 嫌な夢を見たので、ここがいつもの家かと思ったが。違う。
 木製で、丸い形の部屋。色々なものが並んだ棚に、暖炉、テーブルに椅子。水を貯めた大きな石の入れ物が近くにある。どう見ても、知らない家だ。ここはどこだろう、と首を傾げていると背後で物音がした。
 身構えて振り向くと、木の実が乗った皿を持つラルトスがいた。イーブイと目が合うと、破顔する。

「ああ、良かったわ。気がついたのね!」
(何者だ?)

 ほっとした顔になると、ラルトスは皿を地面に置き、イーブイの元に近づいてくる。
 笑顔のラルトスと対照的にイーブイは目つきを鋭くした。威嚇するように全身の毛が逆立つが、相手は気にせず寄ってくる。

(動けない私をどうするつもりだ)
 
 知らないポケモンは、何をするか分からない。 何をされるのかと身がまえるイーブイ。片手をゆっくりと伸ばすラルトス。
 反撃しようとしたイーブイだが、身体が言うことを聞かない。だるくて、動かせないのだ。ラルトスは、そのままイーブイの額に触れた。
 思わず目を瞑るイーブイだが、額あたりにひんやりとした手が当たっただけ。
 目を開けてみると、ラルトスは反対の手で自身の額に触れていた。どうやら、イーブイの体温を測っていたようだ。

「熱、すっかり下がったみたいね。水は飲める?」
(ヨルのように、毒や麻痺になるものを入れている可能性がある。無闇に口には出来ない)
 
 ラルトスは水瓶から水をすくうと、木の椀に入れてイーブイの前に置く。
 熱があったせいか、喉はカラカラ。当然、目の前の水はイーブイにとって大変魅力的なものである。が、イーブイにとって他者から差し出される水は、得体が知れない。危険なものだ。
 何度も水を見ては神経質に匂いを嗅いでいると、ラルトスが声を出して笑った。

「やだ、変なものは何も入ってないわよ。私が証明してあげる」

 お椀を両手で持つと、ラルトスは少しだけ水を飲んだ。
 まさか自分で毒味をすると思わなかったので、イーブイはくりくりした目を見開いた。ラルトスは特に倒れる様子もなく、ピンピンしていた。唖然とするイーブイに向け、ラルトスは微笑む。

「ね、大丈夫でしょ? ほら、イーブイ。君も飲むといいわ。喉、乾いてるんでしょ?」

 改めてイーブイの前に椀を置き、ラルトスは水を勧めた。
 目の前にある椀にじっと目を落とした後、しばらくイーブイは椀と睨み合う。
 ラルトスが毒味をしたのだから大丈夫と思う気持ちと、やはり信じられない気持ちとが拮抗し、どうするべきか悩んでいたのだ。
 結局、水を飲みたいと言う生理的欲求に負けイーブイは立ち上がる。
 そして、いそいそと前足で椀を手繰り寄せる。こちらに微笑みかけるラルトスを見ていると、居心地悪いので背中を向けたのだった。顔を傾け、舌を伸ばして水をすくい、飲み込む。ひんやりとした心地よい冷たさが、喉を潤していく。

(……美味しい)

 安全だと分かったイーブイは、夢中になって水にありつく。あっと言う間に椀は空になり、イーブイは水を飲み干した。おかげで、だるさが幾分か和らいだ。

「水も飲めるようなら、大丈夫ね。良かった。ほっとしたわ」

 イーブイの体調が良くなったことを喜ぶラルトス。返事を寄越さなくても、気にせず話しかけてくる。
 相変わらずイーブイは、機嫌が悪そうに顔をしかめてラルトスに背中を向けて座っていた。その時ラルトスは思い出したように、

「あ、そういえば自己紹介がまだだったわね。私はハルカよ。見ての通り、ラルトスね」

 背中を向けて、だんまりを決め込むイーブイに自己紹介をした。
 このラルトスは、ハルカと言うらしい。
 種族など言われなくても分かる、とイーブイは内心で毒づく。

(いちいち言わなくても、見れば分かる)
「イーブイ。君はどこから来たの? なんでダンジョンの入口に倒れていたの?」
(……うるさいラルトスだな)

 黙っているイーブイに、ハルカは遠慮なく質問をぶつけてくる。
 イーブイが黙っていれば、大抵のポケモンは怖がって逃げるか黙って去っていくものだ。
 よほど鈍いのかもしれない。面倒くさそうに立ち上がり、少しだけ振り向く。
 うるさい、と言いたげに目付きを鋭くする。すると、ようやくハルカはイーブイの機嫌が悪いことに気づいたようだ。すまなそうな顔になる。

「ところで、君みたいな美しいイーブイは初めて見たわ。毛並みが綺麗で顔立ちも整っているし。真っ白な身体は、雪の精霊みたいね。毛を汚し、ボサボサにするのはもったいないわ」

 すると、イーブイの片耳がぴくりと動いた。信じられないことを言っている、と言った感じに振り返って呆れた声を出す。

「……キミは正気か」
「あら、ようやく喋ってくれたわね」

 ハルカはどこか嬉しそうに笑う。
 自虐的な笑みを浮かべながら、イーブイは鼻でハルカを笑った。

「分かっている。下手なお世辞は、不要だ」
「お世辞? 面白いことを言うわね。これは私の本心よ?」

 冗談を言っていると思ったのか、ハルカは笑い飛ばそうとする。しかし、イーブイの態度は崩れない。

「内心では、どうせ私のことを怖いとか不気味だとか思っているだろう? 育て親にすら気味の悪い色だと言って、嫌われたくらいだからな。どうだ、笑えるだろう?」
「そんなことはないわよ。その毛色、私は好き。普通のイーブイより、なんというかな。神秘性が増して、目を惹くもの」

 じっと見つめてくるハルカと目を合わせていると、イーブイは何とも言えない気持ちになった。
 育て親のポケモン、ヨルは色違いのこの身体を不気味だ、嫌いだと散々罵ってきた。
 そのせいで、イーブイは自身の見た目を醜悪なのだと思っていた。
 ハルカのように、綺麗だなんて言われたことがない。おべっかと思っていても、見た目を褒められると変な気持ちになる。
 その気持ちから逃げるように、イーブイはまたハルカに背中を向けた。

「キミは、色々とおかしい。気が狂っているとしか思えない」

 醜悪な自身を美しいと評する得体の知れない気味の悪さに、イーブイは突き放すように言う。が、ハルカは相変わらず呑気に笑うだけだ。

「そうねー。私は変わっているわ。兄さんにもよく言われたもの、変なこと言うなって」

 と、ハルカは何かを思い出したように両翼を動かした。

「あっ、いけない! そろそろ、仕事に行かないといけないんだった」
「そうか」

 この面倒くさいラルトスからようやく解放され、ほっとしたイーブイ。
 名残惜しそうなラルトスと違い、イーブイは背中を向けたまま素っ気なく返事をするだけだ。

「近くのダンジョンだけど、依頼が何件かあるから帰りは夕方になるわね。しばらく一人にして悪いけど、先約だもの。まだ怪我は完全に治ってないから、安静にしていてね。家にある水や食べ物は、好きにしていいわよ!」

 手早く準備をすると、ハルカは慌てた様子で家を出て行き静寂が訪れる。 
 色々と張っていた気が緩み、イーブイは微睡みの中に落ちていった。

Re: ポケモン不思議のダンジョン 虹の姫君 ( No.11 )
日時: 2021/11/11 10:57
名前: アクアマリン ◆UaO7kZlnMA (ID: 66mBmKu6)

登場人物
(徐々に更新。ネタバレを含みますので、本編を読んでから読むのをおすすめしています)

主人公
チーム ???
イーブイ ♀
→色違いのイーブイ。白銀の身体に整った顔の美形ポケモン。怪我をしていたところをハルカに保護された。人間不信気味で心を閉ざしている。自力で進化できる不思議な能力がある。ただし三分程度しか持たない上、進化先は八種類の中からランダムである。

ハルカ ♀ (ラティアス)
→普段はラルトスとして生活しているが、それは『へんしん』で姿を変えたもの。本来はラティアスと言う種族。行方不明になった兄、ラティオスを探し救助活動をしている。
 人懐っこく明るい性格。