二次創作小説(新・総合)
- #CR08-4 かみさまは悪夢を見る ( No.1 )
- 日時: 2021/03/14 23:36
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: bUOIFFcu)
前田の声掛けを皮切りに、『異界』のポップンワールドについての情報を得に書庫までやってきた一同。
しかし、そんな簡単に見つかる筈もなく…。やっと見つけた手掛かりには、残酷な『現実』が書かれていました。
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~運営本部 書庫~
前田「さぁ。この書庫を全部漁って手掛かりになりそうなものを持って帰りましょう!」
ソティス「それにしても…。とんでもない書の量じゃのう。わしがここに来た時はもっと少なかったように思うが」
ベレス「それだけ寄贈してくれる人も増えたってことだよね。この人数でもこの量は…。少し骨が折れそうだね」
大包平「何を言っている。しらみつぶしに探せばいいだろう!!」
クルーク「この人数でも適当に探せば夜中までかかっちゃうよ…」
マルス「だけど、ジャンル分けをしたの随分と前だからね…。完全に、とは言えないけれどバラバラの場所に仕舞ってある可能性もある。ある程度区域を決めて、何人かのグループで探すとしようか」
書庫には、クルークがMZDから過去を聞いた時よりもずっと多い書物が所狭しと並んでいました。アシッドが本部に協力してくれるようになってから、随分と寄贈書も増えたというものです。星の数もある書の数々に少し後ろめたさを感じた一同でしたが、手掛かりを探すには手を動かすしかありません。
早速数人のグループに分かれ、場所を決めて情報を探し始めたのでした。が……。
クルーク「見つからないよー!」
三日月『刀の目線から見てもよく分からんな』
ルキナ「もしかしたら、『異界』に纏わる文献は寄贈の数が少ないのかもしれません。神々ですらよく分からないものだと言っていましたし…」
ごくそつ「なんだよそれー!こんだけゴミみたいに本が並んでるっていうのにさ!そこから数個しかないお宝を探せとかさ!それぼくがやることじゃないよね!手伝うって言った以上やるけどさ!きょひょひょ!
……そういえばさ~。大包平くんは『異界』について知ってることはないの?」
大包平「主。一体どうしたんだ?」
ごくそつ「いや~。前の大会の時に『審神者』っていう職業に就いていた作者がいてね?その人大包平くんのこと知ってたんだよね~。だから『異界』にもきみはいるんでしょ?何か知らないかな~と思ってさ」
ルキナ「確かにアスク王国にも『異界』についての話は有り余るほどありそうですが…。当のアルフォンス王子が逃走者として参加していますし…。シャロン王女やアンナさんも手が離せないようでこちらには来れないそうなのです」
どうやら『異界』に纏わる蔵書は数が少ないらしく、情報の会得には困難を極めていました。メインサーバの一同総出で探しても中々見つかりません。
ふと、手を動かしながらごくそつくんが大包平に『異界のことについて知らないのか』と問いかけました。確かに大包平は本丸ごとに別の大包平が存在しています。であれば、彼が何か知っていてもおかしくはないとごくそつくんは考えたのでしょう。
……しかし。大包平は少し考えた後。はっきりした大声でこう返したのでした。
大包平「知らん!!!」
クルーク「それは元気よく返す言葉なの…?」
大包平「知るも知らんもまずは声を張り上げなければ伝わるものも伝わらんからな。お前もあの陰気な刀のようにはなりたくないだろう!」
マルス「少なくともきみの前では容赦がないようにぼくは思えたのだけれど…」
三日月『はっはっは。あいつは仲のいい身内に対しては特に容赦がない物言いをするからなあ』
ごくそつ「勢いがあるのは裏がないから別にぼくはいいけどね~。きょひょひょ!当てにできるものが無いなら手を動かすしかないね~」
大包平も政府の刀であることには変わりないのですが、前田の反応からして何も知らない可能性の方が高そうです。それならそれでいい、とごくそつくんは再び手を動かし始めたのでした。
ルキナが当てにしているシャロンやアンナも今回は手が離せない用事があるそうで。そうなれば、この書物の中からどうにかして探し当てるしかありませんね。
―――更に時間が経った頃、別グループで書物の棚を漁っていたソティスがふと、異質な気配を感じます。気配の先にあるのは……。分厚い本に挟まれた、手帳のようなサイズの本でした。
気になった彼女は取ってみようと考え手を伸ばすものの、いくらジャンプをしても背伸びをしても届きません。ぐぬぬぬぬ、と分かりやすく声を荒げても意味がありません。
それでも諦められない彼女の隣で、いともたやすくベレスが『目的の本』をひょいと取り上げてしまったのでした。
ベレス「ソティス。この本が気になったの?」
ソティス「そうじゃ!……なんじゃなんじゃ!もう少しで取れそうであったのに!邪魔をするなベレス!」
ベレス「いやぁ。いくら腕を伸ばしても届かなさそうだったからつい」
ソティス「むぅ。いつかおぬしの背を超えてその本など容易く手に収めるわ!」
ベレス「まぁまぁ。―――話を戻すけど、ソティス。この本が気になったんだよね?」
ソティス「だからそうであると言っておろうに。どうにもこの本だけ、異質な雰囲気を感じてのう。手にしてみたくなったのじゃ」
ベレス「形状からして誰かの日記みたいだけど…。皆を集めて読んでみる?」
ソティス「汚れはついていないが、少し古めかしいものっぽいからのう。ベレス、疾く皆を集めよ!」
ベレス「分かった。ソティスは先に椅子に座って待ってて」
ベレスが手に取り、ソティスに渡したのは日記のような古めかしい手帳でした。使い込まれた形跡があり、誰かが書き残したもののようです。その異様な雰囲気といい、ソティスにはどうも放置しておけないものだったようです。
ソティスがみんなを集めて読むように提案し、ベレスに一同を呼んでくるように頼みました。そのままベレスは別の書物の並ぶ棚へ。ソティスはそのまま大きな机がある場所に歩いて行ったのでした。
ソティスが椅子に座って待っていると、ベレスが書庫にいた面子をぞろぞろと引き連れて机へと近付いてきました。彼女の持っている古い手記をちらりと覗いては、各々空いている椅子へと座りました。
全員が座り終わったところで、ベレスが周りを見回しながら手記について話し始めたのでした。
ベレス「みんな、来てくれてありがとう。実はソティスが手掛かりっぽいものを見つけてね…。見てもらいたかったんだ」
前田「手がかり…。もしかして異界について記された文献が見つかったのですか?!」
ソティス「そうではない…のじゃが、どうも異様な雰囲気を醸し出していた書物があってのう。ベレスに頼んで取ってもらったのじゃ」
クルーク「それが…。ソティスさんの持っている本ってことだよね?手記か日記のようにも見えるけど」
マルス「手帳のようなサイズだから、スケジュール帳のようなものかもしれないね。セテス殿が持っていたものと似ているよ」
ソティス「とにかく!この中に手掛かりがあるかもしれん。みな、疾く集まるのじゃ。そして内容を目に焼き付けよ!」
ごくそつ「そんなこと言われなくたってちゃんと目に焼き付けるよ~。ソティスちゃんはせっかちなんだから~。きょひょひょ!」
ベレス「せっかちなんじゃなくて好奇心旺盛なんだよ」
ソティス「そこ!!!うるさいわ!!!」
からかわれながらもソティスは手に持っている手帳を開き、みんなに見えるようにひっくり返しました。そこには文字がつらつらと連なっており、文面的に日記のように一同は感じました。
―――内容を頭に叩き込むように、一同はその中身をゆっくりと読み始めるのでした。
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<49ページ目>
ポップンミュージックは終わった。この世界は終わってしまった…。『現』が、ポップンを必要としなくなった。『ポップンパーティ』は25回目で完全に終わる。そう告げられた。異世界のポップンは歴史が続くかもしれないが、少なくとも『この世界』のポップン。強いてはこの世界の全てのものが終わりを告げる。そう未来が告げていた。
だから、異世界の自分達も同じ道を歩まぬよう。この世界の顛末を迎えないように、『この世界』に何があったのかをこの手帳に残そうと思う。
<50ページ目>
事の始まりは、25回目のポップンパーティが終わった後だった。25回目のポップンパーティは、ポップンミュージック20周年の大事な節目の宴。これからのポップンの歴史を作っていく為の架け橋だった。だが……。その宴は、次に繋ぐことも無く唐突に終わりを告げた。
見たことのない黄金の龍が、パーティ会場を……いや。世界を壊し始めた。その龍は神のように美しかったけど……感情のままに次々と在るものを破壊していく様は、皆が崇め称える『神』等ではなかった。過去に参加した誰かが言っていたような気がする。『竜族は時折は破壊衝動に襲われるのだ』と。龍神は我を忘れていた。その言葉通りだった。だけど……異世界の未知なる脅威に、この世界の常識は通用しなかった。
自分の神の力を最大限使っても、目の前のうさぎと猫の少女しか助けることが出来なかった。音に溢れた世界は、一瞬で音すらもならない『滅び』の世界を迎えてしまった。
<51ページ目>
自分の身体にも異変が起こっていた。全力で少女達を守った弊害で、神の力を使い果たしてしまったのだ。自分を支えてくれた影ももういない。最後は彼女達に襲い掛かる神の力を、自分の身体を持って庇うことしか出来なかったのだ。
身体は消えてしまったが、この世界に1000年以上も根付いた魂がそう簡単に消える筈がない。目の前の少女達は泣いていた。泣いて、泣いて、泣き果てたその向こうに―――。何か『危険なもの』が見えたような表情をしていた。少なくとも、自分はそう感じていた。
嫌な予感がよぎったのも束の間、よろよろと立ち上がった少女達はパーティ会場に残っていた『小さな闇』に向かって歩いていく。その闇を見た瞬間、この世のものとは思えない魔力を感じた。少女達を止めたかったが、止められなかった。
……体が、ないのだから。
<52ページ目>
駄目だ。その闇はこの世の理を覆す危険な力だ。触るな。触るんじゃない。2人の命まで危険に『わたし達が必ず世界を救うから。別の世界のMZDを連れてきて、この世界の神様にしちゃえばいいんだ!』
<53ページ目>
(この世のものとは思えない文面で、何かの呪文が書かれている)
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ごくそつ「きょひょ…。これ、異世界のポップンの世界だよね?」
マルス「この世界もまた、『異世界』からやってきた竜によって滅ぼされてしまったんだね…」
アクラル「(ん?『竜によって滅ぼされた』…?)」
ルキナ「あの!少し気になったことがあるのですが…」
ここではない別の世界のポップンワールドが滅びたと、その手帳には書かれていました。異世界の力に対抗できず、守れるものも守れず、目の前の愚行を止めることも出来なかった…。そんな自分を『愚かな神』と称し、その文は書き綴られていました。
内容に絶句する一同。道を間違えていれば、もしかしたら自分達の知っているポップンも同じ道を辿っていたのかもしれない…。そして、今まさにその『分かれ道』の前にいるのだと、改めて思い知ったのでした。
そんな中、ルキナが52ページ目を指さしてこんなことを口にするのでした。
ルキナ「この文面、途中から別の人物が書き加えたものではないですか?明らかに筆の質が違うというか…」
アクラル「そりゃそうだろうよ。52ページ目の途中までは、魔法で書かれてんだから。それ以降は実筆だ」
クルーク「魔法で書かれてた?ま、まぁ…文を見れば、この手帳に手記を残した人は途中で身体が無くなっているからそう考えるのも普通だと思うけど…」
大包平「いかんせん信じがたいが、途中から文がおかしくなっていることからもルキナ殿が考えていることは合っているのだろうな」
前田「それと…。53枚目の文章。見たことのないような文字で書かれていますが…。何かの呪文なのでしょうか?」
クルーク「うん。多分、そうだと思う。前に神様に教えてもらった呪文の式とよく似てるよ」
前田が指摘した呪文にクルークは心当たりがあった様子で、その呪文を指さしながら言葉を続けるのでした。
クルーク「もしかしたら…。神様を攫っちゃったあのミミさんとニャミさん。この手帳の中の2人、なのかもしれない」
ベレス「どうしてそう思うの?」
ソティス「この呪文は…。『幻の不思議の国』を創り出す呪文じゃ。世界を創り出すとも同義。つまり、相当規模が大きい魔法じゃ。使いたい魔法の効力は基本的に大きければ大きい程、支払う代償も大きくなる。
通常の攻撃魔法も、強い魔法を使いたければ、それ相応の魔力を使用するじゃろう?それと同じじゃ。足りない魔力を、何かで補う必要がある。―――世界を造るとなれば、普通の人間には絶対に無理な領域じゃ」
クルーク「多分…。この系統の魔法…。神様や魔族…魔法に長けた人達でも無理かもしれない。理由は分からないけど…そう思うんだ」
マルス「成程。メフィストと彼女達が手を組んでいれば、彼女達は神様を使って自分達の世界を蘇らせられる。メフィストにとっては邪魔者がいなくなるし、『JOKER』を消す手立てが生まれる。そういうことだね」
大包平「回りくどいことはいい。つまりだ。双方潰し、あの少年を救うのが我々の最終的な目的だろう!」
ごくそつ「過程って割と必要だと思うけどねぇ~?きょひょひょ!」
マルス「最終的にはそうなるけど…。街を入れ替える程に用意周到な彼のことだ。何重にも対策をしててもおかしくはないと思うよ」
MZDを連れ去ったあのミミニャミの正体が何となく見えてきたところで、書庫にぼそぼそとしたアナウンスが鳴り響きます。恐らくメインサーバからの放送でしょうが……。大包平、眉間にしわを寄せないでください。
その小さな声は、淡々と要件を伝えます。
『……本部の連中に告ぐ。至急、全員メインサーバに集合するようにと主から指示があった…。音の神の救出、そしてあの道化師を叩く作戦について話し合うそうだ…。時間も惜しい。早く集まるんだな……』
大包平「通信くらいもう少し覇気のある声で話せ!こちらまで士気が下がるだろうが大典太光世!!!」
ごくそつ「一方的な通信だからきみの思いは届かないとは、思うけどねぇ~?」
マルス「あ、あはは…」
ごくそつ「きょひょひょひょひょ~!!!!」
大包平が届かない大声を発している間にも放送は切れて、彼の賑やかな声だけが残ります。何かメインサーバでも進展があったということなのでしょうね。
一同は早速書庫を後にし、メインサーバへと向かいます。
ソティス「この書はわしが責任をもって持っていく!心配することはないぞベレス!」
ベレス「この件を解決する手がかりになるかもしれないからね。勿論。君が襲われないよう私が守るよ」
マルス「流石に本部に直接襲ってくるようなことはしないんじゃないかなぁ…」
どことなく的外れな会話とそれにやんわりと突っ込む声と共に、足はメインサーバへと向かって動いていくのでした。
―――この手記。MZD救出の手がかりになるといいのですがね…。
- #CR08-5 現を取り戻すために ( No.2 )
- 日時: 2021/03/15 22:00
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: bUOIFFcu)
現地に向かっていた面子もメインサーバへと帰還し、いざ作戦会議開始。
ポップンを守る為、メフィストと決着をつける為。各々の思いを胸に、いざ。
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~運営本部 メインサーバ~
ミミ「ミミニャミ、只今戻りましたー!」
ニャミ「MZDを助ける為に、作戦を練るんだったよね?早くやっちゃおう!」
サクヤ「おかえりなさいませ皆様。こちらも会議の準備は整っております故、いつでも始められます」
前田「神様を救う為にも、僕達が全力を出し切らねば、ですね!」
ミミニャミ率いる音無町に調査に向かっていた面子がメインサーバに戻ってきました。先程の大典太の放送を受け、書庫にいたメンバーも既にメインサーバへと戻ってきています。
彼女達と軽く話をした後、サクヤはパン、と手を一度叩いてから早速本題を話し始めたのでした。
サクヤ「さて。これからえむぜさんを救う為の本格的な作戦を練りたいと思うのですが……。まず、彼を唆したであろうメフィスト関連に関して、何か追加で分かったこと等ありますでしょうか?」
ヴィル「あぁ。そのことなのだが……。恐らく、今あいつはあの子の近くにいる可能性が高い。それだけは確実に言える」
アクラル「メフィストがエムゼの近くにぃ?!何の目的があって……」
ヴィル「彼奴の思考など読みたくはないが……。彼奴なりにあの子を利用しようとしている可能性も考えられる。今、あの子は母親らしき人物と、亡霊のミミニャミと共にいる。軽くだが、母親を見かけた時に魔力を調べてみた。
―――結果はお察しの通り。メフィストの魔力で出来た『紛い物』だったよ」
ルキナ「紛い物……」
ジャック「魔力を近くに循環させてるってことは、近くで監視してる可能性が高いってことか。直接殴れれば、こんな面倒なことしなくていいんだがな……」
ニャミ「出来るならあの時やってるよ!」
ミミ「そーだそーだ!そっちの方がMZD早く助けられるもん!」
アカギ「落ち着け…。それが出来ない以上、こうして作戦を今練っている訳なんだからな…」
サクヤ「はい。逸る気持ちは分かりますが、一旦落ち着いてください。それで……書庫で何かわかったことはあるのですか?」
『回りくどいことをせずに直接助けに行きたい』と、ジャックも本音をポロリ。その言葉に乗っかるようにミミとニャミが自分の気持ちを吐露します。早く助けて、元通りの元気なMZDが見たい。誰しもがそう思っていました。
しかし、相手は街ごと別のものにしてしまう力を使っている以上、一筋縄ではいきません。彼も考えつかないような奇襲を考えねば、こちらにも被害が確実に出るでしょう。最悪、メフィストに直接MZDを消されてしまっては意味がありません。
話を進める為、サクヤは書庫に言っていたメンバーに何か情報が無いか探りを入れました。すると、早速ソティスが自慢げにサクヤに先程見つけた『手記』を渡したのでした。
ソティス「見よ青龍よ!このわしが、あの小童を助ける為の手がかりを見つけてやったぞ!」
クルーク「小童…。……ソティスちゃんっていくつなの?」
アクラル「まー、確実に俺やアカギよりは上だなぁ」
サクヤ「手記……?こちらには何が?」
クルーク「これ……。別の世界の神様の日記なんだ。それで……。文章に、『ポップンは25回目で終わった。世界は滅びた』って……」
ニア「……成程?街で道化師様がお見えになったあの亡霊……。それが、その日記に記載されているミミ様、ニャミ様というお考えですの、ね?」
マルス「多分。日記の文章から考えるに、彼女達は『自分の世界を取り戻すために』この世界の神様を狙っているみたいなんだ」
大典太「『自分の世界を取り戻す』……。……別れが、それほど辛かったものだったんだろうか」
サクヤ「…………」
大包平「だが、これで彼女達が音の神であるあの少年を狙う理由が分かった。―――だが、俺達が何をすべきか、までは見えてこないな」
ミミ「あっ!そのことなんだけど……。このチラシ、見てもらってもいいかな?」
日記の内容を知ったサクヤ、表情には出しませんが苦い顔をしています。内容を聞いて共感したのか、それともそのことについて『何かを知っている』のか―――。その場は流れてしまいましたが、サクヤが何かを隠している可能性はありそうですね。
あの世界に降り立っているミミニャミの正体は分かったものの、MZDを助ける為の策には繋がらないと大包平が一喝。そんな言葉に、ミミは『心当たり』を話すのでした。
サクヤ「チラシ、ですか」
ニャミ「そろそろ戻ろうって時に、急に空から降って来たんだよねー。あの街人なんてMZDを攫った人達以外誰もいないし、なーんか怪しいと思ってさ。持ってきちゃった」
サクヤ「拝借してもよろしいでしょうか?……おろろ、これは」
前田「主君。何か心当たりがあるのでしょうか?」
サクヤ「これを制作したのは―――『ゼウス様』で間違いありません。チラシから、とてつもない神の力を感じます」
ミミ「え、えぇーーーーーっ?!」
アクラル「ジジイもこの騒動知ってたってことなのかよ?!それにしては回りくどいことしやがるが…」
彼女がチラシに触れた瞬間、想像以上の神の力が溢れてきました。明らかに『人の』作ったものではない。更に、こんな強力な神の力をいとも簡単に込められるのは―――知っている限り、ゼウスだけでした。
名前を出した瞬間、一部で驚きの声が上がります。そりゃそうです。騒動を知らなくて当然の人物が関わってきていたのですから。アクラルが悪態をつきますが、それをフォローするようにサクヤは続けました。
サクヤ「メフィストが大胆に動いている以上、神として直接手出しをすることができないのでしょう。しかし、彼を野放しにしておけば必ず自分にも災いが降りかかる……。ゼウス様は、自らが出来る範囲でこの事態を解決する為手を差し伸べてくださったのでしょう」
ニア「―――手を差し伸べてくださっただけでも感謝するべきではありますわ、ね…?もしミミ様がたではなく、メフィストが先に見つけてしまっていた場合……。悪用されてしまう危険性もございましたもの」
三日月『ふーむ。確かにあの全知全能の神の力も感じるが……。俺にはもう1つ、別の霊力も感じるなぁ。これは―――童子切かな?』
大包平「何?!」
三日月『うん、うん。確かに童子切だ。忘れもしない。あの豪傑で勇ましい霊力。酒吞童子を斬った猛勇な刀のものだ』
大包平「そうか……。奴は今天界にいるのだな!俺の見立て通りだ。東の横綱と言われるあの刀がそう簡単に折れる筈がない!」
大典太「……興奮しているところ悪いが。見つかったとして、無事でいる保証はないと思うぞ。……鬼丸のこともある。邪気が童子切にも及んでいないとは言い切れないだろう」
大包平「ふん。貴様も天下五剣と数えられているのだから、童子切の強さについては知っているだろう。あの刀はそんな柔な刀ではない。そう簡単に邪気に呑まれてたまるものか!」
大典太「……あんたがそう思うなら、そう思えばいい。―――俺は無事でいるとは思えんのだがな…」
大包平「相変わらず陰気だな大典太光世。貴様はもう少し前向きに考えることを覚えろ!!」
大典太「……鬼丸の専売特許を取るなよ…」
大包平「何?!貴様、この俺が『はいはい大包平くんそこまでだよぉ~?サクヤ、そろそろ本題に戻ってくれる~?たぶん。あの全知全能の爺がぼくたちだけにチラシを落としてるとは考えにくいんだよね~』」
チラシから感じたゼウスのものとは別に、童子切の霊力も感じると三日月は言葉にしました。そこに興奮する大包平でしたが、行方不明になっていた鬼丸が現在どうなっているのかを目の当たりにしている大典太は『童子切も無事だとは考えにくい』と慎重な考えを持っている様子。
尚も変わらず塩対応の大典太に大包平が掴みかかろうとしたところで、話を戻そうとごくそつくんが無理やり止めました。サクヤはその勢いのまま、彼の言葉に続けて考えを述べます。
サクヤ「恐らく、ゼウス様はえむぜさんの側にもチラシを配っている可能性が高い。となると……。メフィストはこの状況を利用して、我々を叩く為来るかもしれません。えむぜさんと接触をしたい我々にとっても、それは好都合と言えるでしょう」
アシッド「あぁ。この『ラジオ体操』を使わない手はない。ヒスイは絶対に行きたがる。彼を拒否してしまっては、あちらの作戦が総崩れになる可能性も考えられるからね。彼の選択肢は、『家族総出で村雲小学校へ向かう』ことで間違いないだろう」
大包平「それで、どうするんだ。戦える者を総動員し、敵の首領を叩き潰すのか」
大典太「……大勢が同時に動いたらこちらの動きが読まれる可能性がある。怪しまれたら『村雲小学校に来ない』可能性もあるからな」
サクヤ「はい。ですので、潜入は引き続きミミさん、ニャミさん、ヴィルさん、ジャックくん、莉愛さん。それと、えむぜさん接触後すぐに彼らから離れられるように、ごくそつさんと大包平さん、ルキナさんが彼らの近くで待機してください」
ごくそつ「おっけ~。このぼくが開発した最高の武装をしていくからね~!」
大包平「少年を救出後、我々が敵を攪乱しその間に帰還という訳だな。その場でねじ伏せられないのはいささか不満ではあるが、そう決めたのならば従うまでだ」
三日月『まぁ、叩いてもいいんだが。逆上されて人質を取られてしまっては意味がないからなぁ』
ルキナ「あくまでも最初の目的は『神様の奪還』。それを忘れないようにしないといけませんね」
ミミ「どんな理由があっても……。わたし達の世界のMZDを絶対に渡すもんですか!ちゃんと話し合って、MZDを返してもらわないとね」
ニャミ「うん。異世界の存在だったってあたし達なことに変わりはないんだし、ちゃんと話せば分かってくれる筈だよ!」
ニア「……うふ?『ちゃんと』お話しできれば、ですけれど、ね?」
アカギ「作戦遂行する前から不穏な発言は慎めよニア…。お前の悪いところだぞ…」
ニア「あら…申し訳ありません、わ? 私、皆様が知っての通り『邪神』ですの。正義の心とは縁離れた存在でして、よ?」
アクラル「バディものだったら絶対に仲間にならないタイプだなオメー」
サクヤの指示で、音無町に明日の早朝向かうのは引き続きミミニャミと彼女の護衛2人、案内役の莉愛。そして、接触後の動きをスムーズにする為に、ごくそつくん、大包平、ルキナが待機することになりました。
MZD達と接触後、素早く彼を奪還。ごくそつくんの武器で錯乱し相手の視界を塞いだ後、本部まで直行で戻る作戦になりました。叩くにしても、まずは敵からMZDを引き剥がさないことには始まりませんものね。
早速、明日の早朝に備え解散した直後でした。ヴィルヘルムが個別に話がしたい、とサクヤと大典太を呼び出します。
ヴィル「あぁ、すまぬな。―――あの子を奪還した後、単独行動を許可してほしいのだが」
大典太「……単独行動?何を考えている?」
ヴィル「一度戻ったとはいえ、結局はメフィストを潰さねばあの街は元には戻らない。彼奴を確実に潰す為……準備がしたい」
サクヤ「準備、ですか。具体的にはどんなものなのでしょう?」
どうやらMZDを救出した後、ごくそつくん達とは別行動をしたいとのことですが……。理由を聞いても、『メフィストを確実に叩く為準備がしたい』としか返ってきません。具体的な内容を伏せる彼に、少し不穏な予感が頭にちらつきます。
他言しないと伝えても、彼は首を横に振るばかり。誰にも話したくない内容そうで……。
サクヤ「―――これ以上問い詰めても平行線を辿るだけですね。分かりました。許可しましょう」
ヴィル「あぁ、感謝する。なに、貴殿らに危害を加えるようなことは一切しない。約束しよう」
大典太「(……『貴殿らに』か)」
サクヤ「ですが、ヴィルさん。今は貴方も我々の仲間です。だから―――。くれぐれも、無茶は絶対にしないでください」
ヴィル「…………。―――仮にも『世界を破壊した』道化師に向かって『無茶』とは。言ってくれるじゃないか青龍」
大典太「軽口をたたくようなものなのか?」
ヴィル「だが、大丈夫だ。肝に銘じている。あの子の為にも。ミミやニャミの為にも。無茶はしないさ。―――それでは、明日早いので私も休むとしよう。貴殿らも遅くならないうちにな」
サクヤ「は、はい」
口が達者なんだか何なんだか。ヴィルヘルムはそのまま言葉を捲し立てた後、休養を取りに自室へと戻ったのでした。
再びメインサーバに取り残された1人と一振。―――お互いに、『嫌な予感』がしたことは理解していました。
大典太「……主。あの口ぶり。あいつには警戒しておいた方がいいかもしれない」
サクヤ「彼が約束を破るような方には見えないので、信じたいところですが……。嫌な予感が、どうにも拭えません」
大典太「…………」
胸の中を渦巻く嫌な予感。本当にならないといいのですがね。
とにもかくにも、明日の早朝。MZD奪還の為本部が遂に動き出します。……無事に、救出できますように!