二次創作小説(新・総合)
- #CR08-15 村雲物語の後話 -1 ( No.19 )
- 日時: 2021/03/30 22:27
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: n1enhNEv)
~運営本部 パーティ会場~
音無町が無事トリコロシティへと戻り、大きな事件を解決に導くことが出来た運営本部。それを祝して、パーティ会場ではささやかな宴が執り行われていました。
今回は色々大変でしたからね。カービィの執り成しでカワサキに料理を頼み、皆で食事を取り囲みながら今回の快挙を祝っていました。
ルキナ「カービィさん。カワサキさんへのお話、本当にありがとうございます。こういう大変な時でしたが快く受け入れてくださって良かったと皆口を揃えて言っていましたよ」
カービィ「まぁね~。今回ばっかりは協力し合わないとまずいかな~ってマリオと話してたし、カワサキも事情を呑んでくれて張り切って料理用意してくれたんだよ!カワサキの料理美味しいってこっちでも大評判なんだから!」
マリオ「後でピーチ姫がデザート持ってこっちに来てくれるみたいだからね~!楽しみだね~!」
カービィとマリオも宣言通り裏から本部と協力し合っていたようで、今回の影の功労者の1人です。事件解決後、ルキナやごくそつくんと合流し、一緒に宴に参加し快挙を祝っていました。
どうやらマリオ、ピーチ姫にも声をかけていたそうで。後で彼女特性のデザートが届けられる様子。ピーチ姫はマリオに何度もケーキを御馳走する程の腕前ですからね。味の心配はいらないでしょう。
別のテーブルでは、ミミとニャミがMZDと共に美味しい食事を楽しみ、話に花を添えていました。2人共今回は相当とんでもない目に合いましたからね。思うようにやらせるのが一番という訳です。
相当疲れたのか、食欲が刺激されたのか、近くにある料理を少しずつ皿に取り分けては食べる行動を繰り返しています。
MZD「お前らー。そんなに一気に食べると太るぞー。ポップン代表タレントとしての威厳はどうしたの」
ミミ「今日は良いの!それくらい疲れたし、大変な思いをしたんだから!ね、ニャミちゃん!」
ニャミ「そうそう。無事に声が聞けたとはいえ、ヴィルさんもまだ戻ってきてないんだしさ!気持ちを紛らわせる為には食べるのが一番だよ!」
ジャック「いつもに増して食い意地が張ってんな…。上司がくだらない嘘をつく奴じゃないのは分かってるし、必ず戻ってくるとは思うんだが…。それにしても遅いな」
MZD「『仕事』ってのに手間取ってるんじゃない?―――何かは察しがつくけどさ」
パーティ開始から結構時間が経っていますが、ヴィルヘルムの姿は未だに見えません。ミミニャミに『必ず戻ってくる』と約束を果たした以上、それを破るような性格ではない為戻ってくるとは思っていましたが…。こうまでして遅いと、流石に彼とはいえ心配になる男2人。
そんな心を見透かすように―――。音もなく、心配していた人物は姿を表したのですが。
ヴィル「……遅くなった。直接本部に戻ったら誰もいなくてな。受付の者に確認をしたら宴をしていると話を聞いてこちらまで向かっていたのだ」
MZD「あ、そうだったの。あまりにも遅いから何かあったのかとちょっと心配になったよ」
ミミ「あっ、ヴィルさん!良かった…!どこも怪我して無さそうだね!あの時わたし達をかばって本当に消えちゃったと勘違いしちゃって…。凄い、心配したんだから」
ニャミ「いくらメフィストを倒す為だとはいえ、あたし達を騙すなんて酷いよー!心臓に悪い!」
ヴィル「悪かった。……だが、こうして五体満足で戻って来た。何も心配することは無かっただろう?」
ジャック「何が『何も心配することは無かった』だ。お前が突拍子もない行動するから、こっちはメフィストの攻撃ひきつけられて散々迷惑かけられたんだからな!」
ヴィル「そうしてもらわねば『準備』が進まなかったのだ。メフィストの心臓が別の場所にある以上、私が破壊しに向かえば『身体』の消滅を止められない。彼奴の行動を完全に食い止める為、お前達に心臓を破壊してもらう必要があっただけだ」
MZD「……ふーん?」
今度から作戦を練る時は必ずわたし達にも言ってよね!と、どこかずれた指摘を受けるヴィルヘルム。それ程心配をかけたのは事実。このことの埋め合わせは必ず後日行う約束をし、その場の会話は流れたのでした。
ミミとニャミから解放されたヴィルヘルムも宴の雰囲気を楽しむ為グラスを手に取り飲み物が置かれているテーブルへと足を運ぼうとします。しかし―――一歩を踏み出そうとした時、その腕を掴む人物がいました。
MZD「……ねぇ。ちょいと、言いたいことがあんだけど」
ヴィル「どうした?宴の時間は有限だ。私も楽しみたいのだが」
MZD「その時間を奪っちまうのは申し訳ないけど…。1個だけ質問してもいい? ―――その身体、オレがポップンワールドに魂を引き寄せた時にあげた『入れ物』じゃないよね?」
ヴィル「…………」
振り向いた当の相手は既にサングラスをしており表情は見れませんでしたが、サングラスの奥の瞳が何かを物語っているようにヴィルヘルムには感じ取れました。まるで、全てを見透かしているような―――。
……確かに、メフィストを喰らい魔力の性質がいくらか変わってしまったことは事実。彼はそのことを言っていたのでしょうか。はぐらかしてもすぐに問い詰められると悟った彼は、『他言無用』と約束させた後、トリコロシティでの顛末を口にしたのでした。
MZD「……なるほどね?メフィストの『身体』と『神の力』喰ったんだ。お前。ここに来る前と後で魔力の性質がおかしくなってるとは思って聞いてみたけど」
ヴィル「醜い魂だったよ。最後まで利己のことしか考えぬ…『愚者』そのものだった。だが、一度は『邪神』の力を注がれたのだ。研究の役に少しは立ってもらった方が世界の為にもなるだろう」
MZD「あのねぇ。お前が『正義』の為に動くことは1ミリもないことは承知してますよ?ええ。でもねぇ。―――仮にも邪神を喰ったことで、ヴィル自身がこの世界からつまはじきにされるってことはないの?」
ヴィル「あの男がこの世界にいれたのだから、それはないと考えているが。それに……あの男に注がれた神の力は『異世界の力』。―――もしかしたら近い将来、お前の呪縛を解く鍵となるかもしれぬ。そう考えれば、我が魔力と混ざることは悪いことだけでもないと思わないか?」
MZD「―――呪縛、か。……別に。オレは解いてもらわなくてもいいけど。この世界に縛られたままでいいよ。呪縛を解く為に、また沢山の犠牲を産むんなら…。オレは過去の過ちを受け入れる。……ま、お前を永遠に巻き込んじゃうのは気が引けるけどさ」
ヴィル「……そうか。お前はそういう選択をするのか。―――『過ち』を犯したのは、お前ではないというのにな」
そう。ヴィルヘルムがメフィストを喰った理由。異世界の力が研究材料になると思ったのが大元なのですが、突き詰めれば『MZDにかかった呪縛を解けるかもしれない』という期待を込めてのものでした。その為ならば、自分が何者になってもいい。そういう覚悟が彼にはありました。
しかし、MZDはその考えに否を唱えました。自分の呪縛1つの為に、沢山の犠牲を生む必要はないと。それくらいなら、自分がこの世界に縛られる選択を取ると。そう答えたのです。……冗談かと思ったヴィルヘルムでしたが、サングラスの奥の瞳は冷静そのもの。『覚悟』を決めた目でした。
そんな反応を見せられてはこれ以上は何も言えません。ヴィルヘルムは小さく『すまないな。過去の贖罪は、永遠に果たされそうにない』と呟いたのでした。
そんな彼らにぱたぱたと近付いてくる2つの影が。彼を魔導士として素直に尊敬し、心配していたクルークでした。前田と一緒にテーブルを回り、飲み物を配っていたところでした。
ヴィルヘルムが空のグラスを持って立ち止まっていたので、飲み物が必要なのではないかと気にかけ声をかけてくれたのですね。
クルーク「ヴィルヘルムさん!無事でよかったです。ボクも映像で一度見た時は心臓が止まるかと思いましたよ…」
ヴィル「そうだったのか。後で本部の連中にも声をかけに行かねばな…」
前田「今、飲み物をお配りしていたところなのです。お二人もどうでしょう?」
MZD「ん?いいの? って!2人の持っているそれは―――ポップンワールドでも滅多にお目にかかれない高級ドンペリニヨン『女神の雫』……!!」
前田「大典太さんが『これは相当高級な酒だから、飲める連中には一口ずつ回しておいた方がいい』と言っていましたので。クルークさんと注ぎに向かっていたところなのです」
クルーク「ボク未成年だから、お酒飲めないんですけどね…」
MZD「そういやあのでっかわ男、相当大酒吞みだってサクヤが言ってたな…」
ヴィル「我らの知らない間に彼奴はどれだけ酒瓶を開けたんだ…」
前田「珍しいお酒をお給料で買ってはいますけれど、ぐびぐび飲んでいる訳ではないですよ。一口が大きいだけだと思うのです。
―――それはともかく。お二人もいかがですか?あ、神様は未成年の姿ですから飲めないですかね…?」
MZD「んーん。今日くらいは酒飲んでも許されるでしょ。普段周り気にして我慢してるし~。グラス取ってくる」
ヴィル「―――身体的には子供なのに、私より年上なのだがな。不思議だ…」
クルーク「神様って大体そんなものなんでしょうかね?」
そんなことを話している間にも、MZDは近くのテーブルに置いてあったワイン用のグラスをとって戻ってきました。注ぐように前田に頼むと、彼は快く手に持っているドンペリを少しグラスに注いでくれたのでした。
グラスに液体が増えていく間、サクヤにも声をかけておきたいとヴィルヘルムが口にしました。しかし…前田は難しい顔をして、こう返したのでした。
前田「主君と大典太さんは、現在席を外しております。なんでも大包平さんとお話があるとのことで。石丸殿と三日月さんもご一緒について行ったのを見ました」
MZD「もしかしてごくそつがいないのもそのせいかな?やけにあっちのテーブルが静かだとは思ってたけど」
ヴィル「何かあったのか?」
前田「あった、といえばあったのですが…。あまり我々に介入してほしくない事案のようでして。僕も同行を申し出たのですが、やんわりと主君に断られてしまいました。その時の大典太さん…。随分と切羽詰まったような表情をしていました」
クルーク「(そういえば、大包平さんに『霊力』を送っている時にトラブルがあったけど…。それ絡みなのかな)」
MZD「オレ達の知らないところで、別の面倒ごとが起きかけてるかもしんねーなー。けど、オレ達にどうこう出来る話じゃない。介入するなって向こうが言っているなら、無理な介入は事態を悪化させかねないからな」
ヴィル「―――今はただ、事態を見守るのみ…か」
ヴィルヘルムはグラスに注がれたドンペリを見て、そんなことを言います。曇った表情とは裏腹に、ワインは透き通った綺麗な色で彼らを映し出していました。
前田とクルークにも『そんな悲しい顔をしてると楽しい気分が逃げていく』と、今はパーティを楽しむのを優先するように言ったのでした。
まだドンペリを分けていない人物がいることを思い出し、長話失礼しましたとその場を後にする1人と一振。少年達の小さくなっていく背中を見守りながら、少年の姿をした神は零します。
MZD「……オレ、何となく思うんだけどさ。そう遠くないうちにこの世界、『選択』を迫られる気がするんだよね」
ヴィル「『選択』…。世界存続の為の、か」
MZD「そんなとこ?ポップンワールドも完璧に混ざっちゃってるから協力はしなきゃなんだけど…。―――どうにも、嫌な気分が拭えなくてね」
ヴィル「―――その時はその時だ。この世界が下した決断が間違っていた場合は…。私はお前を敵に回してでも『世界を壊す』がな。お前も知っている通り私は『正義の味方』ではないのでな。利害の一致と私の気まぐれでここにいることを忘れないことだ」
MZD「怖いこと言わないで~?……ま、今は考えすぎても仕方ないか。―――悪い方向に進まなきゃいいんだけど」
とりあえず、今は折角の高級な酒を楽しもう。そう言い、話を切り上げるMZD。悪い話題で頭がいっぱいになると、折角の美味しいお酒も台無しになると考えたのでしょう。
ヴィルヘルムも小さく頷き、お互いのグラスは『ちりん』と心地いい音を響かせるのでした。
- #CR08-15 村雲物語の後話 -2 ( No.20 )
- 日時: 2021/03/31 22:12
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: n1enhNEv)
~運営本部 住居区 サクヤの私室~
一方。大包平に呼び出された大典太は、丁度居合わせた三日月と共にサクヤの部屋まで移動をしていました。どうやら霊力のことで問い詰めたいことがあると言っていたようで、彼らの主も一緒です。最初に大包平に詰め寄られた時に既に覚悟は決めていましたが、大包平は相当怒っているようでした。
出来れば人捌けが出来そうな場所がいいとの彼の希望で、たった今辿り着いた自分の私室に案内するサクヤ。後からついてきた面子を全員中に入れ、傍に置いてある座布団を敷いて座ってほしいと口にしました。
万が一外に声が漏れないように厳重に封をしたのをサクヤは確認した後、自分も大典太が用意した座布団へ腰を降ろします。と、同時に。大包平の怒号が部屋中に鳴り響いたのでした。
大包平「大典太光世!!説明しろ、あれはどういうことだ!!!」
ごくそつ「いきなり怒鳴る必要はないと思うんだよぉ~。どうどう、大包平くん」
大典太「……俺にも分からないから、答えられない」
大包平「なんだその曖昧な答えは?!貴様、それでも天下五剣に名を連ねる刀剣かぁッ!!」
大典太「……そう問い詰められても、本当に何であんなことになったのか分からないんだ。見当が何もつかない…」
アクラル「確か、大包平の刀に霊力を送ってる間に『それが無理やり断ち切られちまった』ってことだよな?大包平が言いたいのは」
大包平「あぁ。主と『正式に契約』を果たした刀剣であれば霊力が途切れることなどあり得んはずなのだ。それに、悔しいが貴様の霊力は俺よりも高い。恐らく……他の世界にいる別の大典太光世よりもずっと、異常にと言ってもいいだろう。そんな貴様だ。『霊力が不足していた』という答えにはどうしても導けんのだ」
三日月『ふーむ。大典太。俺からも1ついいか?お前……よもや『青龍殿と本来の契約を果たしていないのか』?大包平が言いかけていたから、あの場は家に入ることを優先させたが…。
その障害も今やない。―――答えてくれぬか』
大典太「…………」
三日月に図星を突かれ、黙り込んでしまう大典太。その場に張り詰めた空気が漂い始めます。サクヤもばつが悪そうな顔をしている為、部屋にいる全員が『三日月の言っていることは正しいのだろう』と心の中に思い始めていました。
それでも沈黙を続ける大典太でしたが、遂に折れたのか彼は重苦しい表情で、黙って頷いたのでした。
アシッド「その表情からして、余程隠しておきたかった事実に見える。それに―――前々からおかしいとは思っていたのだ。『主と近侍』という関係にしては、双方の力の循環がどこかおかしいような気がしていた。普通主と契約した刀は、Mr.ゴクソツやオオカネヒラのように互いの力が少しは感じられるはずなのだが…。君達にはそれがない。しかし…これで繋がった。
君達は力がそれぞれシンクロしていなかった。だから、全く違って感じられたのだな」
アクラル「つーか、俺もサクヤと光世に関しては本来の契約してるもんだと思ってたぜ。……もしかして光世、サクヤの龍時代の話も聞いてたりしてたか?」
大典太「……あぁ。主と共に出かけた時に、話を聞いた。主が過去に他の世界を破壊していたことがあることも。それがきっかけで『感情を兄弟に渡した』とも」
三日月『やはり青龍殿と大典太は似た者同士ではないか!俺が思っていた通りだったな。お互いに強い力を持つ故に、他の存在を傷付けて仕舞わぬよう自らを抑制する。青龍殿はそのきっかけを他人に渡すことで。大典太は自らを遠ざけ、周りへの影響を減らすことで。
……だからこそ、お互いに補い合えると俺は思っていたんだがなあ』
石丸「僕も三日月くんと同意見だ。……今はサクヤさんと大典太さんはどういう関係なのだ?」
サクヤ「一応私の近侍として活動していただいていますが…。それも『仮』のもの。一刻も早く大典太さんの『本来の契約者』を見つけなければならない状況なのは変わりません」
アクラル「この話の流れで迷わずそれが出てくるのもなぁ。サクヤらしいといえばらしいが。俺も含めてだけど、少なくともここにいる全員は『サクヤと光世は良い相棒になれる。だから本来の契約が出来る筈』って思ってるんだぜ?
―――このまま仮の契約続けてると、光世の霊力だとちっとやべーことになりかねねぇからなぁ」
石丸「どういうことだ?サクヤさんの気持ちが変わらないのなら、仮の契約のままいてもいいのではないのか?」
大典太とサクヤから真実を耳にし、納得がいった表情でアクラルは静かに頷きました。それに続くように三日月が自分の意見を述べますが、彼女はそれを真に受けず『大典太の本来の契約者を探さなくてはいけない』と言いのけました。
そんな彼女に流石のアクラルも呆れ口を開きます。彼の言った言葉が引っかかったのか、石丸くんがこんなことを問いかけました。すると、大包平が食い気味にその質問に答えます。
大包平「大ありだ!仮の契約はあくまでも『本来の契約をする為の繋ぎ』のようなものだ。霊力がない者が霊力が強い刀を顕現させてしまった時、いきなり本来の契約をしてしまうと双方不都合が起こる。それを回避する為、霊力を慣らす為の『準備期間』のようなものだ。俺は政府でそのような話を聞いたぞ」
三日月『そうだな。大包平の話は俺も顕現した時に聞いた。―――その後、五振揃って監禁されてしまった訳だが。このまま仮の契約状態が続くと、霊力が不安定なままこの世界を彷徨うことになる。普通の刀剣であれば世界に影響することはないのだが―――。俺達は霊力が『他の同位体よりも異常に高い』個体だ。このまま放置しておけば―――。大典太の霊力が世界に影響し始めるのも時間の問題だろうな』
大典太「……やはり、俺の霊力が世界に影響を…」
三日月『大典太、それは少し違うな。お前だけの問題じゃない。俺も、数珠丸も、鬼丸も童子切も。同じような問題を抱えている…が、それは刀単独で彷徨っている時だけ。鬼丸と童子切は『邪気』とやらに取り込まれていることでこの世界への影響を抑制しているのだろうし…。お前のせいという訳ではないのだ」
石丸「大典太さんの霊力が世界に影響を及ぼすのも時間の問題、か…。大典太さん本人もサクヤさんと契約したいと思っているのだろうし、尚のことお互い腹を割って話をすべきではないのか?」
大典太「……俺は」
サクヤ「何度話をしても私の答えは変わりません。私はこれ以上、誰かと契約をするつもりはありません。……私の生まれつつある感情で誰かが傷付くなら。それが大典太さんであれば尚のこと。私は彼に申し訳なくなります。
……だから、見つけねばならないのです。大典太さんに見合う契約者を『違うだろ!!!』」
三日月を含む天下五剣は、他の個体よりも異常に霊力が高い。その為、誰かを主としなければ次第に世界にその霊力の影響が出始める…。いいものか悪いものかは分かりませんでしたが、到底碌なことにならない未来が待っていることは目に見えていました。
それでもサクヤの答えは変わりません。誰が何と言おうと、大典太と契約するつもりも、他の刀剣と契約するつもりもないのだと。自分の感情で刀を傷つけたくない気持ちからの言葉でした。しかし……。その言葉に、遂にアクラルは否を唱えます。
アクラル「違う!!お前、なんも分かってねぇ。光世が刀から人間の姿になってから。サクヤの近くにいた時間は短い。正直俺よりも短い。だから悔しいけど―――。俺よりこいつの方がサクヤのこと分かってんだよ!!!
なんでっ……なんで光世の気持ちを考えてやんねーんだよ!!!こいつは悩んでんだよ!!!自分の力で小鳥を殺したこともあるから!!!他人を傷付ける怖さを知っているから!!!お前の気持ちも分かんだよ!!!
お前はっ!!!そんな光世の気持ち考えたことあんのかよ!!!口を開けば『自分が傷つけるのが怖いから誰とも関わり合わない』って!!!感情なんていらないって!!!口癖のように言ってた!!!
でも、そんなん神でもなんでもねー!!!どうなるかわかんねー現実から逃げてるだけなんだよ!!!光世の気持ち考えられるならそんな言葉は出てこねえ。理由をつけて逃げるんじゃねーよ!!!」
大典太「……おい」
サクヤ「兄貴…。好き勝手言わせておけば…。ええ。分かりませんよ。私に分かろうとする感情なんてないんですから。感情は全部、貴方にあげたんです!!だから、分かる筈もない。分かってはいけないんです!!!
分かってしまったらまた私は傷つける。大切な人を、世界を、壊す。破壊する。跡形もなく。それが嫌なんです!!!沢山の人が笑っている笑顔を、壊したくないんです!!!前田くんも、大典太さんも、傷付けたくないから言ってるんです!!!」
アクラル「だったらなおのこと光世の話聞いてやれないのかよ!!!『腹を割って話す』『お互いを理解する』そんな簡単なことが出来ねーのかよ?!光世は今苦しんでんだよ!!!葛藤してんだよ!!!光世が大事なら!!!光世のことも考えてやれよ!!!『仮』でも主なんだろ!!!」
サクヤ「兄貴こそ知った口を……!!」
大典太「……やめろ」
アシッド「2人共。皆の前でみっともない。やめろ」
アクラルの怒りが限界を超え、遂にサクヤに思いの丈をぶつけ始めました。大典太はサクヤのことを自分よりも知っている。悔しいが、それは理解が出来る。だからこそ今葛藤している。サクヤは自分のことだけだ。彼のことを考えていない。そう考えたのでしょう。考えるより先に口が出る彼だからこそのストレートな言葉。
その言葉にサクヤも珍しく声を荒げ、彼に言い返します。理解できない。理解するわけにはいかない。感情を再び持ってしまったら確実に大典太や前田を傷付ける。それは嫌だから最初から選択肢を潰すのだと。
2人の話は平行線を辿り、言い合いから大喧嘩に発展仕掛けていました。流石にまずいと思ったのか、間に挟まれた大典太が止めに入ろうとしましたが……。その手前で、アシッドが2人の間に入り言い合いを止めたのでした。
アシッド「サクヤの言い分もアクラルの言い分も分かる。が、ただ言い合ってどうする?たった2人の兄妹なのに、こんなことで喧嘩をしてどうする。ここで仲がこじれる方が周りに迷惑をかけると分からないのか」
石丸「2人の気持ちは分かるが……。ここで喧嘩することではないだろう。今は頭を冷やした方がいい」
大包平「フン。当の大典太光世に止められかけるとは…貴様らもまだまだだな。神とはいえまだまだ若い。俺でも分かるぞ」
ごくそつ「そういえばきみもでんくんも歴史ある平安刀だったねぇ~。―――きみたちの仲がこじれてると、本部の連中もどんな反応すりゃいいかわかんないよ~?どっちの気持ちも分かるけどさ、わきまえてよ」
アクラル「―――チッ!!」
大典太「朱雀…」
アシッド「放っておけ。あいつは今1人にしておいた方がいい」
周りの説得にも納得できず、アクラルは乱暴に封を解いて、部屋の外に出て行ってしまいました。再び訪れる沈黙。
―――そんな中、気を落としたように石丸がぽつりと零します。
石丸「……三日月くん。大典太さんがこの世界に影響を及ぼし始めるのはいつくらいなんだ?」
三日月『さて、な。具体的な答えは何とも言えんが―――。双方話し合う時間ならばしっかりあると思うぞ。お互いが『話し合う気があるのならば』な。世界に何も怪奇現象が起きていない以上、俺が示唆していることにはならんだろう。
―――青龍殿も、大典太も。一度しっかりと話し合った方がいい。今後の為にも…お前達の為にも、必要なことだ。きっと俺でなくとも、数珠丸でも鬼丸でも。童子切も。ここにいれば同じことを言うと思うがな』
ごくそつ「ま、首突っ込んじゃったら最後まで付き合ってあげるのが『しはいしゃ』ってもんだからねぇ~?きみたちがなかなおりするまでは見届けてやるよ。大包平くん、今日はもう遅いから寝床確保してもらおうか。今から拠点に帰っても朝になっちゃうからね!きょひょ!」
大包平「承知した。では、俺が話をつけてこよう。……玄武殿か白虎殿に話を通しておけばいいのだな?では一度失礼する。―――大典太光世。貴様がそんなにしおれていては俺も張り合い甲斐がないではないか。さっさと立ち直れ」
大典太「……そもそも俺は元々こうだよ…」
大包平「違うな。陰気なのは変わらんが、もっとはっきり言い返してくるような奴だ、貴様は。―――言いたいことがあるのならはっきり伝えるんだな。それではな」
石丸「僕も一旦失礼する。色々と話を整理せねば混乱してしまうのでな…」
三日月『もう宴も終わってしまっているだろうからなぁ。片付けの手伝いをしながら考えればいいのではないか?主よ』
石丸「それもそうだな。身体を動かせば、頭もすっきりするだろうから。……では、お疲れさまでした!」
どうやらごくそつくんと大包平、自分から首を突っ込んでしまったからには最後まで付き合ってくれるつもりの様子。なんだかんだ言って『上に立つつもりの者』ですからね。腹の内で何考えてんだか知りませんけれど。この調子だとしばらく本部に滞在してくれるのではないでしょうか?
アシッド、石丸と三日月も一旦退席するとのことで、3人と二振はそのまま戸を閉め、部屋を去りました。その場にはサクヤと大典太だけが残されます。
サクヤ「…………」
大典太「……主」
サクヤ「……後片付け、しませんと」
大典太「……そう、だな…」
ぽつぽつと交わす言葉にもどこか覇気がありませんでした。しばらくの間、1人と一振の間には沈黙が広がっていたのでした。