二次創作小説(新・総合)

#CR09-2 その名は徳川の守り刀 ( No.34 )
日時: 2021/04/11 22:16
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: PNMWYXxS)

 ……身体が重い。最初に感じたのはそれだった。自らを纏う暗く重苦しい空気がそう判断させるのかは分からないが、ここが『外』ではないことだけは分かった。あの邪神に襲われ杖を心臓部分に突き刺された後、何があった?思い出そうとするが、まるで最初から『そんな目には遭っていなかった』かのように頭の中は空っぽだ。
 ―――とにかく、まずはここがどこなのかを確認しなくては。自分は動けるのか。ここから逃げられるのか。それを判断しなくては。そんなことを頭に思い浮かべながら、大典太は静かにその目を開けました。


 見えたのは、見覚えの全くない和室。いつも主と寝泊りをしているあの部屋でも、主が私室にしているあの部屋でもない。それよりももっと広い場所。そして、自分が『檻のようなもの』の中にいることも同時に分かりました。



大典太「(……ここは…?)」



 辺りを見回そうと横になっていた身体を起こし、立ち上がろうとします。しかし、その行動は『じゃらり』という金属の音と共に中断を余儀なくされてしまいました。思わずその音の方向に目を向けると、自分の両足に繋げられた枷と鎖…。自分をこの場に『縛り付ける』もの。大典太は瞬時にそう判断しました。
 『捕まったのだ』。自分に起きている状況から、敵に捕まってしまったことを確信した彼。持ってきていた筈の本体もありません。動くこともままならない今、下手に抵抗をすれば本体が折られてしまう危険性があります。
 大典太は動くことを諦め、静かにその場に座りました。それと同時に、光が差し込んでいた部屋の出入口からこちらに近付いて来る影が見えました。どことなく、服装が自分と似ているような。大典太はそう感じ取っていました。



「おお、気付いたか兄弟!」



 自分を『兄弟』と名乗るその青年は、大典太が起きたことに気付いたのかにこりと笑ってこちらに駆け寄ってきたのでした。かきあげた髪の毛は太陽のように明るい橙色。瞳もまるで日の光を表しているかのような明るさを見せていました。『鬼丸とは別の意味で、自分と対照的だ』大典太はそんな印象を彼に持ちました。
 『誰だ』思わず大典太はぼそりと零してしまいます。その言葉を聞き逃さなかった青年は分かりやすくしょぼくれており、檻を掴んでこちらを見つめて口を開いたのでした。



「そりゃないだろ兄弟!同じ『三池派』の刀である俺のことを忘れるなんてよ!」

大典太「『三池派』…?……まさか」

「思い出したか兄弟!そうだよ、俺が『ソハヤノツルキ』。坂上宝剣の写し。お前とは兄弟だな!」

大典太「……どこかで兄弟刀がいるという話は聞いていたが、まさかあんただったとはな…。俺とは対照的だ…」

ソハヤ「へん!対照的だからこそ『ニコイチ』扱いされるってな!……それで兄弟、気分はどうだ?足は痛くねえか?」

大典太「……そうだ。俺は何故ここに閉じ込められている。―――足のこれは兄弟がやったのか…?」



 目の前の兄弟刀、ソハヤノツルキに詰め寄られるように調子はどうだと聞かれる大典太。言い方からしてこの枷をして、檻に閉じ込めたのは目の前の兄弟だということは何となく察していました。しかし、心配している気持ちは本物。なら何故わざわざこんなことをするのか。確認をする為に、大典太はソハヤに疑問に思っていることをぶつけてみました。
 すると、ソハヤは申し訳なさそうにこう返したのでした。



ソハヤ「兄弟を『逃がさない』ように足に拘束をかけて檻に閉じ込めろって『主』から命令が下されてさ。俺は嫌だって言ったんだけど、兄弟が目が覚めて何をしでかすか分からないからって強く言われちまってさー。他の誰かに任せると兄弟がもしかしたら怪我するかもしれないだろ?
    だから、嫌だったんだけど俺がやるって主に強く言って。すまねぇな兄弟」

大典太「『主』…?……そもそもここはどこなんだ。こんな場所、俺は知らない」

ソハヤ「あぁ、そうか。兄弟はここに連れてこられたばかりだから分からないのは当たり前だよな!」



 どこか、会話がずれているような気がすると大典太は感じ取っていました。目の前のソハヤは自分を心配し、気遣って自分を捕らえる役目を担ったのは事実。ですが…その言葉とは裏腹に、どこか上の空を見ているようにも大典太には見えていました。
 ここはどこかと大典太が問いかけると、それに気づいたようにソハヤは手をポンと叩き、この場所について軽く話を始めたのでした。



ソハヤ「数あるうちの本丸の一つだよ、ここは。で、俺達が仕えている『主』の霊力で成り立っている」

大典太「(『本丸』。政府でも、あの場所でも、本部でもないのか。兄弟の言っている『主』は…。俺の主命を果たす主ではない。これだけは分かる)
    ……兄弟。あんたの言っている『主』は一体誰なんだ」

ソハヤ「それがなぁ。初期刀含めて主の姿を見たことがねえんだよ。主の部屋には結界が貼られた妙な術で仕切られていてな。その向こうに、影の状態でしか見たことがねえ。一応気配はあるし、実際そこにいるんだろうけどよ」

大典太「……初期刀も含め、誰も見たことがないのか?」

ソハヤ「あぁ。俺達全員がそいつを『主』ってことは共通認識してるんだが、主の姿を見た刀剣男士はこの本丸には誰一人いねえ」

大典太「……そうか。そんな奴が俺を封じて何がしたいんだ…?」

ソハヤ「そこは主の考えることだから俺も分かんねえなあ。でもよ、折角こうして会えたんだしさ。兄弟が痛い目に会うの俺も見たくねえし。ここにいる間は少なくとも俺は『味方』だからな!それは覚えておけよ兄弟!」

大典太「……言っている意味が分からないんだが」

ソハヤ「理由なんてどうでもいいだろ!『何を言うか、何をするか』の方が大事なんだからよ。……それじゃあ、俺一旦主に兄弟が起きたこと報告してくるわ。枷を付けた張本人だから、随一報告しろって言われててさ」

大典太「ま、待て…!」



 ここは数ある本丸のうちの一つ、だということがソハヤの口から明かされました。しかし…大典太には妙な違和感がありました。本丸がどんなものかは、元々政府刀であった彼には分かりません。ただ、こんなに淀んだ…悪意のある霊気を纏った本丸が存在するのかと。そう思ったのです。大典太が想像していた本丸は、サクヤの秘密の部屋までとはいわないが…空気の澄んだ、刀剣男士が過ごしやすい場所でした。
 ソハヤが『主に大典太のことを報告しなければ』と、その場に立ち部屋を出ていこうとしました。その行動に驚いたのか、思わず彼に手を伸ばす大典太。檻は腕1本なら伸ばせる程度には間が空いていた為、背中を向けたソハヤの腕を容易く掴んでしまいます。

 がしりと、しっかりソハヤの腕を掴む大典太。それと同時でした。
































『…………っ!!』

大典太「…………?」



 ―――ソハヤの纏っていた霊気が、少し変わったような気がしたのは。



 まるで今まで忘れていた大事なことをたった今思い出したかのような、そんな霊気を彼から感じました。当のソハヤも目を見開き、立ち止まったまま動きません。そんな様子が続く彼に、流石に心配になったのか大典太は手を離し声をかけました。



大典太「……どうした、兄弟」

ソハヤ「―――! い、いや。なんでもねえ!兄弟に急に腕を掴まれちまったもんで驚いただけだ。そうしょんぼりした顔すんなって!報告したらすぐ戻ってくるからよ」

大典太「……いや、その。俺も勝手に腕を掴んだのはすまなかった。―――なんだか、そうしなければならない気がして…」

ソハヤ「そうか。不思議な奴だな兄弟は!それじゃあちゃっちゃと報告して戻ってくるから、いい子で待ってるんだぜ兄弟~!」

大典太「……いい子も何も、俺は動けないんだから待つほかないんだがな…」



 我に返ったソハヤはそのまま大典太に手を振って部屋を後にしてしまいました。先程までの騒がしさはどこへ行ったのやら。残ったのは静けさと、再び戻った悪意の纏った空気だけ。



大典太「……なんなんだ?」



 そう言いつつ、彼は先程まで掴んでいた自らの掌を見つめます。あの時は、自分でも考えるより前に身体が動いていました。まるで『主』の元へ行ってほしくないが故の咄嗟の行動だったような。しかし、ソハヤとはこれが初対面。彼に情けをかける理由となれば、『兄弟刀だから』くらいのものです。ただ、そうではないと大典太は確信していました。
 彼は心で感じ取っていました。『この場に長時間留まってはいけない』と。きっと、長時間出られず彷徨っていたら…。この空気に惑わされるのも時間の問題だ。異界の存在だとはいえ、自分も『刀剣男士』なことには変わらないのだから。
 この場にある全ての空気、霊気が。大典太にとっては『邪悪なもの』に感じていました。



大典太「……何にせよ、だ。この場に長時間いるわけにはいかない。従うふりをしながら脱出方法を見つけないとな…」




 ソハヤの出ていった出入り口を見つめながら、大典太はそんなことを考えていたのでした。大典太の連れ去られた場所―――。一体どこなのでしょうか?
 そして、唐突に現れた『ソハヤノツルキ』。一体彼は何者なのでしょうか…。

#CR09-3 熱を無くしたエンジンシティ ( No.35 )
日時: 2021/04/12 22:00
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: PNMWYXxS)

~運営本部 メインサーバ~



 マホロアを連れてメインサーバへと戻って来た一同は、適当なところに座ったところで本題に入ることにしました。最後にアクラルが腰を降ろしたのを確認し、マホロアは自分が見たものの全てを話し始めました。ローアから見えた、あの景色の全貌を。



マホロア「実は…ローアで空を旅していたトキにネェ?見たんダヨォボク。悪魔みたいなハネを生やしたオンナが、カタナを『ベリト』に渡してたトコロ。ローアの中だったシ、遠目だったからどんな話をしてたのかは分からなかったケドネ!」

アイク「『ベリト』…。確か、3回目の逃走中を開催した時に邪魔をしてきた奴だったな」

マルス「うん。デデデ大王に変な壺を渡して彼を操ったことがあったね」

アクラル「あいつ、確かベリアとニコイチだとか言ってやがったが…まぁ、真実は違ったんだけどな。……で。マホロアが言っていたことを纏めると、その取引されてたっぽい刀が光世のように見えたんだな?」

マホロア「ウン。『タチ』ってカタナにしては妙に刃渡りが短かったヨウナ気がするカラネ!あのセイリュウの持ってたカタナで間違いないヨォ!」

鬼丸「それに関してはおれも肯定せざるを得ない。―――大典太の霊力が途切れたところで、これを見つけた」



 マホロア曰く、大典太らしき刀をベリトに渡している光景を見たのだということらしく。ローアの中だった為声は聞こえる筈がなかったのですが、動きから『取引をしていた、もしくは命令を受けていた』のではないかと彼は考えを述べます。
 それに続くように鬼丸が赤い耳飾りを取り出します。大典太が刺された場所に落ちていた、あの紅梅の髪飾りでした。現物を見て、前田が驚いたように目を見開きます。



前田「それ…!大典太さんの耳飾りです!僕の帽子についている飾りと一緒に主君にいただいたものです」

アクラル「それが、光世の霊力が途切れた場所に落ちていたってことは…。マホロアの話は信じるに値する、って判断していいんだろうなぁ。光世は鬼丸が見つけた耳飾りが落ちていた場所で羽根の女に襲われて、刀の状態でベリトに引き渡された。これで話は繋がるな」

マホロア「ナンダイナンダイ!折角ボクが時間を割いテ情報を提供してやってるノニ!ボクはこういう大事な時に嘘はつかないモン!」

アカギ「どの口が言うんだよ…。ここにカービィがいたら即座に吸い込まれてるぞお前…」

ニア「ですが…。魔術師様の仰られることは、信じてもよろしいのでは?私も、今回はそれに至るまでの『根拠』がございますもの」

数珠丸「『根拠』ですか?」

ニア「えぇ。魔術師様のお話を聞いて1つ、確信を持ったことがございますの。彼は、刀…天下五剣様をお渡しになった人物を『羽根の生えた女』と仰っていましたわ、ね?
   ―――一つ、確認をしてもよろしいでしょうか?……その人物、『少女』のようには見えませんでした?」

マホロア「『ショウジョ』?」

アクラル「……ニア、オメーまさか」

ニア「えぇ。その『まさか』です、わ?私の推測が正しければ―――。もしサクヤと天下五剣様がすれ違いを起こしていなければ…。その手に持っている刀は、『鬼丸国綱』でなければならないのですから」

鬼丸「……おれが、か」

マホロア「ンー。確かに、『オンナ』っていうにはチョット背が低かった、ヨウナ…? いや、背が低いしなんだか『オンナノコ』のようにも見えたネェ」

ごくそつ「……きょひょ?あれあれ?あれあれあれあれあれ~~~? ってことは?でんくんを連れ去った犯人って……『邪神』なんじゃなぁ~いの?」

ニア「仰る通りです、わ。特徴的な悪魔の羽を生やした少女…。私の知る限り、その条件と一致する人物は『アンラ・マンユ』ただ一柱だけですもの。それに……彼女は鬼丸様を探しておられるのでしたわね?」

鬼丸「そうだな。おれが戻らないことに不審を募らせ、探すのは既に想像ついている」

アクラル「オイ。ってことは…。アンラのヤローは道中光世を見つけて、鬼丸の代わりをさせる為に襲って連れ去ったんじゃねーか?」



 マホロアから話を聞いたニアは、その取引をしていた人物が『アンラ・マンユ』ではないかと推測を立てます。自分の知る限り、そんな特徴を持った人物は自分の知る限り一柱しかいない、とも。そして……アンラは鬼丸を捜し地上まで降りてきていた。彼を探している道中で大典太とばったり会い、『彼の代わり』に連れ去られてしまったのであれば―――。
 大典太が行方不明になった原因に自分が絡んでいるかもしれないことを知った鬼丸は思わずばつの悪そうな顔をします。そもそも彼女から逃げる為に単独で行動していたんですもんね。それが、自分のせいで大典太が『代わり』にされそうなのであれば…。彼でも気分は悪くなるのは当然です。
 そんな彼を心配しつつも、マルスは話を纏めます。



マルス「何はともあれ、大典太殿を助けないこと大変なことになってしまうことに変わりはない。そうだよね?」

アクラル「そうだなー。マホロア、その取引場面を見た場所は覚えてんのか?」

マホロア「そこまでは覚えてないヨォ。あてのない旅を続けていた途中だったカラネェ」

アカギ「そうなのか…。なら、まずは光世が連れ去られた先を特定しないとな…」



 大典太がアンラに連れ去られたことまでははっきりしましたが、具体的な場所は結局分からずじまいのまま話は終わってしまいました。彼を救出する以上、まずは場所の特定をしなければなりません。
 早速他の支部に連携を取ろうとした矢先、十四松が部屋の入口にいた大包平に突っ込んできました。相撲か。



十四松「どーん!よいしょー!はっけよーい、のこった!」

大包平「相撲か?ならば相手になろう。お前などすぐに場の外に蹴落としてやる!」

十四松「のこったのこった!のこったのこ『十四松、僕達はお客さんをここまで案内しに来ただけだろうが!!』 あはは、そーだったね!」

ニア「お客様…ですか?」

チョロ松「お話し中ごめんね。どうしてもここの主さんに話を聞いてもらいたいって必死だったからさ。連れてきちゃった。サクヤさんは……話せる状態じゃなさそうだから、アクラルさんに話を通してもいいかな?」

アクラル「あぁ。構わねーぜ。話によっちゃ後回しになりそうだがな」

チョロ松「ありがとう。えーと、こっちに主さんの代理の方がいます」

『あぁ、わざわざ案内ありがとう』



 十四松の後ろからチョロ松がひょこっと現れました。曰く、『サクヤにお客さんだからここに連れてきた』とのこと。当のサクヤがとても話が出来る状態ではない為、アクラルに代理を頼むチョロ松。それをアクラルは快く引き受け、来客を部屋の中に通します。
 彼の案内の後に現れた人物は2人。炎を表しそうなスポーツウェアに身を包んだ初老の男性と、ショッキングピンクのワンピースが目を引く、可愛らしいセミロングで茶髪の少女でした。



ユウリ「慌しい中急に来てしまってすみません。私はユウリ。ガラル地方のポケモントレーナーです」

カブ「ぼくはカブ。ガラル地方のエンジンシティで『ジムリーダー』を務めているんだ。大変な中、話を聞いてくれて本当に感謝するよ」

マルス「ガラル地方…。スマブラの大会には顔出しはしてなかったけど、レッド達に聞けば何か分かるかな?」

アイク「『ダイマックス』とやらで戦うポケモンバトルが特徴の、ポケモンバトルが他の地方より盛んな地方…だとは聞いたことがあるが。スマブラでその地方のポケモンがファイターになるとは何も聞いてないしな」

カブ「ああ、違うんだ。勘違いさせてすまないね。スマッシュブラザーズの大会は、今度ポケモンくん達と見に行こうとしていたところさ。
   ―――すまない、本題に戻そう。実は…君達に相談があってここまで来たんだ。今日の朝から、エンジンシティ中のポケモンくん達の元気がなくなってしまったみたいで。その解決方法の助言をいただけたら、と相談しに来たんだよ」

アクラル「街中のポケモンの元気がない?」



 軽く自己紹介を終えたカブとユウリは、早速本部に来た目的を話します。それは、『エンジンシティのポケモンの元気が今朝からなくなってしまったから、対処法を相談したい』というものでした。唐突な話にアクラルが首を傾げていると、彼に続くようにユウリが口を開きます。



ユウリ「混乱させたならごめんなさい!私がカブさんに相談して一緒に来てもらったの。エンジンシティのホテルに泊まっていたんだけど…。今朝、起きたらメッソンがぐったりしていて…。昨日、寝るまでは具合が悪そうに見えなかったし、私が看ても状態異常にかかっているような様子はなくて…。ただ、元気がなくてぐったりしているだけなんですけど…。熱とかも無いんです。
    それで、変だと思ってカブさんに相談したんです。そうしたら、この本部の話をスタッフさんから聞いて。何か手助けをしてもらえるんじゃないかって」

アカギ「この本部はどうも『何でもやってくれる便利屋さん』として認識されているらしい…」

アクラル「実際、調査の傍ら混ぜられて不便になった場所に支援物資送ったり、困ってる奴らいねーか確認したり、結構慈善事業になっちまってるからなー。そう思われるのもしゃーないというか」

ニア「えぇ。その話は結構、ですわ? それで…カブ様。貴方のお話によると、その街の中のポケモン様は皆一律に具合が悪くなってしまわれたそうなのですが…。何か、心当たりはないのですか?」

カブ「それが無いんだよ。昨日までは街中のポケモンくんが元気いっぱいだったからね。今朝、様子がおかしいことはぼくも認識していてね。ユウリくんから話を聞いた時、大事になっているんじゃないかという予感はしていた。
   ダンデくんにもすぐ連絡して来てくれるはずだったんだが…」

ユウリ「ダンデさん、方向音痴でエンジンシティまでこれてなくて…。すみません」

アカギ「…昨日まではみんな元気だった。今日になっていきなりぐったりしてしまった、か…」

アクラル「それに『街中』ってのが気になるな。もし自然現象だったりしたなら街にとどまらないで、他のエリアのポケモンにも影響が出ているはずだからな」



 どうやらこの件、チャンピオンであるダンデにも相談はしていた、のですが…。案の定方向音痴を発揮しエンジンシティまで辿り着けていないそうで。待っている時間もなく、カブと2人で本部を訪れたそうなのです。話を聞いたアクラル達は、彼らが『町中』と範囲を限定して言っていることがどうにも引っかかりを覚えました。
 ―――彼は少し考えた後、意を決したように一つ頷き口を開きました。



アクラル「……調査、してみよう。もしかしたら光世がいるかもしれねえ」

前田「それはどうしてなのですか?もしかしたら…大典太さんとは関係がないかもしれませんよ?」

アクラル「ない、かもしれない。確かにそれはそうだな。でもよ、『今朝』『急に』『町中の』って言葉がどうにも引っかかってな。ポケモンの元気がないことに気付いたのは、ユウリ。オメーが起きてからだったよな?」

ユウリ「はい。起きてからです。カブさんもそうですよね?」

カブ「ああ、そうだな。気付いたのはぼくが起床してからだね」

アクラル「それに、もし街中『だけ』のポケモンの元気がないんだったら、何か人為的なものが街に仕掛けられている可能性は高い。それに光世が利用されてるかもしれないから調査しようぜ、ってことだ」

大包平「大典太光世は元々霊力が高い刀。それに、貴様らの言う通り『政府の刀』なのであれば、その範囲が街を覆ってしまってもおかしくはないのではないのか」

三日月『そうだなあ。普通の本丸に顕現する大典太よりも遥かに霊力が強いからなあ、あいつ。街の中をすっぽり覆ってしまう程に霊力を溢れさせることだって出来るのだろうよ』

石丸「聞けば聞くほど、君達がとんでもない刀だということを思い知らされるな…」

数珠丸「可能性が0ではない以上、もしかしたら大典太殿がどこかに捕らえられている可能性も否定できない。……我々も調査に協力しましょう。その足で大典太殿を見つけて、再び顕現してしまえばいいのです」

鬼丸「……顕現『できれば』な」



 ポケモン達の影響が限定的である可能性がある以上、人為的に元気を奪っている可能性も否めません。それに大典太が利用されていた場合、彼は確実に『エンジンシティ』のどこかにいるということでもあります。彼がいるかもしれない以上、『調査をしない』という選択肢はありません。
 調査をする方向で話は纏まった一同。話し合った結果、エンジンシティにはアカギ、数珠丸、鬼丸、マルス、ごくそつくんと大包平がユウリとカブについて向かうことになりました。



三日月『本当は俺も行きたいのだが、仮に出先で戦闘になった際主に負担を強いることになるからなぁ。唯でさえ先の霊力の件であまり体力を使ってほしくないのだ。すまぬな』

石丸「本当は僕も協力したいのだが…。三日月くんの気持ちを無視するわけにもいかない。僕はここで皆の知らせを待っていることにする」

アクラル「そうだな。ここに残って現地の奴らとの連携は俺とニア、清多夏、三日月、前田、アイク、エフラムでいいんだよな?」

ニア「ええ。構いません、わ? 今の時点で私が現地に向かっても…混乱させるだけですもの」

アクラル「それに、サクヤのこともある。ワリーけどアカギ、今回はお前1人で行ってくれ」

アカギ「お前に言われなくても…そのつもりだ…」

ユウリ「ありがとうございます!それじゃあ早速エンジンシティに行きましょう。ポケモンセンターに預けたポケモン達も心配ですし…」

カブ「協力感謝する。君達の用事にも出来るだけ協力するつもりだから、お互い切磋琢磨しよう。では、出発だ!」



 ユウリとカブが方々にお礼を言った後、現地に向かう面子がメインサーバを後にし移動を始めました。チョロ松と十四松も『カラ松1人におそ松兄さんを任せてたら面倒なことになりそうだから』と兄弟の元に戻ることを選択しました。
 各々移動を始める中、鬼丸がふと振り返りアクラルにこんなことを言いました。



鬼丸「……おい。そこの朱雀」

アクラル「へいへい。なんだよ鬼丸。サクヤ斬ったりはさせねえよ流石に」

鬼丸「そうじゃない。―――そこの青龍。大典太を見つけるまでに何とかしておけ。……あんな状態だと、おれまで心が痛くなってくるじゃないか」

ニア「……あら、意外なお言葉」

アクラル「鬼丸も鬼丸なりにサクヤのこと心配してんじゃねーのか?」

鬼丸「勝手に想像していろ。おれは行くぞ」



 鬼丸も鬼丸なりにサクヤと大典太の仲について心配しているのでしょう。だからこそ、口からそんなことが漏れ出た。彼は天下五剣で一番感情移入しやすい刀ですからね。アクラルに図星を突かれると、彼は会話を断ち切りそのままスタスタとメインサーバを後にしてしまいました。
 いなくなる鬼丸の影を見て、アクラルは『根っこは悪い奴じゃないんだよなあ』と漏らしたんだとか。



ニア「……さて。サクヤのことですが。天下五剣様の仰る通り、このままにしておくわけには参りません、わ」

アクラル「つっても、どうしたらいいもんか…。今の話にも全く入ってこなかったしよ」

前田「お話だけでも聞いていただければいいのでしょうが…。主君に僕がついています。ご心配なさる気持ちは分かりますが、まずは現地の方々の調査の結果を待ちましょう」




 アクラルと前田はそんなことを言いながら、近くの椅子に座って俯いているサクヤを見ました。その表情は最初に鬼丸が本部に来た時と全く変わらず、人形のように真顔を続けたまま。もしかしたら、本当に何も考えられなくなっているのかもしれません。
 そんな双子の妹の様子を見て、アクラルは1つため息をついたのでした。

#CR09-4 いざ、調査開始 ( No.36 )
日時: 2021/04/13 22:02
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: PNMWYXxS)

~エンジンシティ~



カブ「ようこそ。ここがエンジンシティ。ガラル地方で行われるジムチャレンジの開会式もこの街で行われるんだ」

ごくそつ「わぁ~お。なんだかレトロチックでスチームパンクだねぇ~!なんだかテンション上がってきちゃうよっ。きょひょひょ!」

マルス「噂には聞いていたけど、大きな街なんだね…。これは早いところ原因を突き止めないと大変なことになりそうだ」

ユウリ「私のポケモンは今ポケモンセンターに預けています。流石に元気がないまま連れ回すのはどうかなぁって思ってたので…」

カブ「それじゃあ、まずはポケモンセンターに行こう。君達もそれで構わないかい?」

アカギ「…心配だろうからな…。落ち着いて話が出来る場所があればありがたい…」

ユウリ「ありがとうございます!では、ポケモンセンターにレッツゴーです!」



 広大なワイルドエリアの先にある大きな都市、そこが『エンジンシティ』です。街の至るところに水車や蒸気機関があり、なんだかスチームパンクを思い起こさせるようなイメージですね。ガラル地方で人気の『ジムチャレンジ』の開会式が行われる街でもあります。
 大きな街並みに驚いている一同に振り向き、ユウリはまずポケモンセンターに行きたいと自分の考えを述べました。彼女は現在手持ちのポケモンを全てセンターに預けており、心配だから様子を見に行きたいとのこと。
 確かに、こんなに大きな街で調査をするならば、まずは方向性を固めなければなりません。話を落ち着いて出来る場所が欲しいとも思っていたアカギは、快くそれを承諾し彼女達について行くことにしたのでした。














~エンジンシティ ポケモンセンター~



ジョーイ「あっ。ユウリちゃん、カブさん、おかえりなさい!何かわかったことはあったの?」

ユウリ「ジョーイさん!有力な情報は得られなかったんですけど…。協力してくれる人達と一緒に戻ってきました。お話をするよりも前に、ポケモン達の様子を聞きたいんですけど…」

ジョーイ「ごめんなさいね、心配だわよね。身体の大きな子は…朝よりは大分元気になったわよ。安心して」



 ポケモンセンターの扉を潜ると、こちらに気付いた看護服の女性がユウリに気付き近付いてきました。彼女はここでポケモンの治療を専門に行っている『ジョーイ』という女性。アニポケを見ている方々なら分かりますよね。全国に同じ名前、顔の人物が複数人いるという不思議な人間です。なんかアンナさんみたいですね。
 彼女も朝から町中のポケモンの様子を頼まれており、少し疲れた顔を見せていました。しかし、この街の不可思議な事象を解決してくれるなら、とユウリのポケモンを預かっていたのです。ユウリにポケモンの様子を教えてほしいと聞かれ、ジョーイは今の状態を答えます。『安心して』の言葉とは裏腹に、彼女の表情は晴れやかなものではありませんでした。



ユウリ「身体の大きな子…。それじゃあ、メッソンとか小さな子はまだ元気が無いってことですか?」

ジョーイ「貴方が血相を変えてここに走って来た時よりは元気になったわ。でも…まだまだ動けるようになるまでには時間がかかりそう」

ユウリ「そう、ですか…。メッソン、今の手持ちで一番小さい子だから心配だなぁ…」

カブ「元気になっていないままポケモンくん達に動いてもらうのは愚策だね。ここはジョーイさんを信じて、ぼく達が出来ることをやっていこう」

数珠丸「お言葉を挟んでしまい申し訳ございません。つまり…ユウリ殿のお持ちになっている『ぽけもん』殿の状態はあまり芳しくない、ということでしょうか」

ジョーイ「ええ、そうですが…貴方達は?」

ユウリ「今回のポケモン達が元気を無くしてしまった件に関して、解決に協力してくれる人達です」

ジョーイ「ああ、そうだったのね!見たことのない服の人達ばかりだったから驚いてしまったわ」

マルス「まぁ、そうだよね…。それで…ポケモンセンターに運び込まれたポケモン達も、『今朝から』急に様子がおかしくなったんですか?」



 ユウリがアカギ達の説明をすると、ジョーイは納得したように今朝からのポケモン達の様子を説明してくれたのでした。正にその言葉通りで、今朝から急に運び込まれるポケモンが増えたと話しました。
 そして、彼女は言葉をこう続けたのです。



ジョーイ「それに…。どうもおかしいのよ。確かに元気がないポケモン達が次々に運び込まれてくるのは事実よ。でも、用事があるからってポケモンを連れてワイルドエリアに向かったトレーナーさんがいてね?そうしたら、ワイルドエリアに出た瞬間…。ポケモン達が『何事もなかったかのように』元気になったの」

大包平「……ん?」

ごくそつ「おやおやぁ~?何か考えでも浮かんだのかい大包平くん」

大包平「ああ、そうなんだが…。本部から出る前にした会話を思い出してくれ主。今彼女は『ワイルドエリアに出た瞬間、ポケモンが元気になった』と言ったな。……そんな可能性の話をしていた筈だ、俺達は」

カブ「うん…。君達の言葉通りなんだよ。あの時は慌てて駅から本部に向かったからワイルドエリアの様子を見られなかったんだが、ポケモンくん達の力を借りてエンジンシティに戻って来た時…。ワイルドエリアのポケモンくん達を注意深く見てみたんだ。
   みんな元気いっぱいだったんだ。本部で話したこと…もしかしたら、合っているのかもしれないね」



 ジョーイの言葉から、本部で話した通り『ポケモンの元気が無くなる範囲はエンジンシティに限る』のではないかと気付く大包平。その言葉を聞いて、カブも自分で見たワイルドエリアでの様子を話しました。……エンジンシティ『だけ』で、ポケモンが元気を無くしてしまう現象…。そういえば、そんな逸話がどこかにあったような…。
 『人為的なものかもしれない』可能性が高まったとアカギも持論を述べ始めます。



アカギ「つまり…。この街に何らかの人為的な仕掛けがあって、その影響でポケモンの元気が無くなっているのか…?」

数珠丸「あの魔術師殿の話だと、大典太殿を受け取っていた方は『道化師』だと仰っていましたね。彼がこの街で何かしでかしていてもおかしくはありません」

大包平「ちまちまと小賢しいことをして。やるならもっと堂々とやればいいものを」

ごくそつ「堂々とやったらそれこそユウリちゃんとかカブさんにめっきょめきょにされちゃうからだよねぇ~。ま、気持ちが分からんでもないけどねぇ~。きょひょひょ」

マルス「―――大典太殿がこの街のどこかにある可能性は高そうだね」



 エンジンシティのどこかに大典太はいる。恐らく、道化師…もしくはアンラの影響を受けて。彼らはそう結論付けました。しかし、エンジンシティは広大な街。どこを探すかを絞り込んでから動かないと、とても1日では方がつきそうにありません。
 もし敵方に1日余裕を与えてしまった場合…。エンジンシティへの影響はより強くなってしまうかもしれません。もしかしたら、エンジンシティだけだった範囲が世界中に広がる恐れも…。
 早速調べる場所を話し合おうと向かい合った一同に背を向け、鬼丸は一振去ろうとしていました。



鬼丸「大典太がこの街にいる可能性が高いなら話は早い。さっさと見つけるぞ」

数珠丸「鬼丸殿!」



 数珠丸が止める隙も見せず、鬼丸はそのままスタスタと一振でポケモンセンターを去って行ってしまったのでした。協調性がないというか、単独行動が彼のモットーというか。
 そんな鬼丸の様子を見て、大包平もしかめっ面を隠せません。思わず苦言が漏れ出ます。



大包平「何なんだあいつは。大典太光世はあいつの盟友ではなかったのか。今は奴を助ける為の話し合いをしているのだぞ」

数珠丸「はぁ…。蔵にいた頃から単独行動を好んではいましたが、決して協調性がない方ではありません。勘違いなさらぬよう…。
    鬼丸殿も、鬼丸殿なりに大典太殿のことを心配し、考えてくださっているのでしょう」

ごくそつ「そもそも心配してなきゃ本部になんて来ないだろうからねぇ。大包平くん、そこまで怒ることはないと思うんだよぉ」

大包平「逸話や歴史は違うとも、俺達は同じ刀剣男士だ。あいつにもその誇りを忘れずにいてほしいものなのだがな」

ごくそつ「それじゃ、その誇りを持ってでんくんがいそうな場所絞り込みますか~!さ~てカブさん、怪しい場所とか心当たりあるかなぁ~?」

カブ「そうだね…。エンジンシティ全域が範囲だから、本当は隅々まで探した方がいいんだろうけれども。君達も、ぼく達にもに時間がないことは明白だ。
   ……ユウリくんがポケモン達の異変に気付いた『スボミーイン』付近と、エンジンシティのはずれを重点的に調べてみよう。あの場所は街の端同士。何か分かることがあるかもしれないね」

アカギ「…バレずに隠すならそもそも見つけられない場所に隠すのが碇石…。街の端は王道だよな…」

カブ「それに、エンジンシティのはずれは鉱山と繋がっていてね。ポケモンくん達と特訓をするにはうってつけの場所なんだよ。立ち止まって話をするような場所でもないし、何かを仕掛けている可能性も否めないからね」



 何かを隠すなら見つけにくい場所、ということでユウリが泊まったスボミーインがある辺りと、エンジンシティのはずれを分かれて調査をすることにしました。
 話し合った結果、ユウリとマルスがスボミーインを、それ以外の面子がエンジンシティのはずれに行くことが決まりました。少ない人数で大丈夫なのかと数珠丸が問うと、マルスは『大丈夫』と自信を持って答えました。



マルス「元々人通りも多い場所だし、危なくなったらすぐにその場から立ち去るよ。どちらかというと、人通りのより少ない場所に何かが仕掛けられていそう、というのが王道だろう?」

数珠丸「そういうことでしたら譲歩しましょう。何かあればすぐご連絡ください」

ユウリ「はいっ。こっちに何もなければ、私達もはずれに合流します。なんとなく、なんですけど…。はずれの方に何かありそうな気がするんですよね」

ごくそつ「今の状況でそれ言っちゃう~?ぼく、わくわくしてきちゃったぁ!きょひょ!」

大包平「主。くれぐれも大典太光世を見つけても何とかしようと思うなよ。あいつを打ち負かすのはこの俺だ」

数珠丸「あの…。大包平殿。大典太殿が見つかったからといって、すぐ共に帰れるわけではありませんからね」

大包平「重々承知しているぞ数珠丸殿。勿論、大典太光世が元に戻ってから勝負を挑むつもりだ」

マルス「(勝負自体を控えようとは思わないんだね…)」




 恐らくスボミーインの方が早く終わるからと、ユウリは調査が終わったらはずれに合流すると口にしました。ポケモンはいませんが…まぁ、マルスがいますし。人のいる場所で大きなことを起こせないのは敵側も一緒。そうそうユウリに被害が及ぶことはないと、数珠丸はマルスの自信にかけてみることにしました。
 お互いに『気を付けるように』と声をかけ合った後、一同はポケモンセンターを後にし目的地へと出発したのでした。