二次創作小説(新・総合)
- #CR09-5 閉じられた本丸 ( No.39 )
- 日時: 2021/04/14 22:08
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: PNMWYXxS)
~???~
ソハヤが主の元へ報告をしに行ってからどれくらいの時間が経ったでしょう。暇だからと足を動かそうにも、大典太の足は枷で封じられており、立ち上がることすら出来ません。仕方がないので大典太はそのままちんまりと体育座り。こんなにこの座り方が似合う190cmも中々いないものですが。
しばらくそのまま待っていると、向こうから再び太陽のような色の髪色の青年が入ってきました。ソハヤが戻って来たのです。その勢いに、思わず静かに後ずさる大典太。彼の反応を見て分かりやすく落ち込んだソハヤは、そのまま彼の目の前にやってきました。
ソハヤ「兄弟!報告したから戻って来た。そんなに縮こまんなって」
大典太「……足が封じられて動くにも動けない。立ち上がることすら出来ないんだ…」
ソハヤ「一応本丸にある一番長い鎖で縛ったつもりだったんだけどなー。わりいな。でも俺は兄弟に何も手出ししねえから。それだけは信じてくれ!」
大典太「…………」
ソハヤはそのまま彼の目の前にでんと胡坐をかいて座りました。どうやら大典太と話がしたいらしく、キラキラとした目をこちらに向けてきています。それでも大典太はまだ尻込みをしている様子に気付いたのか、ソハヤは信用させる為に自分の太刀を腰から外し、畳の上へと置きました。『自分は攻撃しませんよ』というアピールの為に。
そこまでやられては大典太も何もしないわけにはいきません。折れたのか、少しだけ檻に近付くように移動したのでした。
大典太「……話をするならこの鎖を解いてくれないか。蔵に封じられていた時のことを思い出して気分が優れない…」
ソハヤ「んー。兄弟にはわりいんだけど、それは出来ねえ約束だな。勝手に外したってバレちまったら俺はともかく兄弟が何されるかわかんねえし」
大典太「……ここの本丸の主は俺に何をしたいんだ…」
ソハヤ「さてな? ―――でも安心してくれよ兄弟。しばらくは俺が兄弟の『世話係』に任命された!つーか立候補した!から」
大典太「……『世話係』だと?」
鎖はほどけない。つまり、自分はここに封じられたままだと。前田家で蔵に仕舞われていた時を思い出し、少しだけ気分が落ち込む大典太。そんな彼を元気づけようと、ソハヤは『大典太の世話係に立候補して、任命された』ことを話しました。嬉しそうに報告する様子から、どうやら嘘はついていない様子。
彼の言葉を聞いて、大典太は違和感を覚えます。自分は捕虜的な存在の筈なのに、彼は『世話係』と言っている。普通は『監視係』等それっぽい言葉を使うものではないかと。思わず問いかけると、ソハヤは困った笑顔でこう返したのでした。
大典太「……俺はあんた達の敵なんじゃないのか。なのに『世話』、か。……普通は『監視』だと思うんだが…」
ソハヤ「目ざといな兄弟!正確にはそう言われた。でも俺が納得いかなかったから勝手に『世話係』って言い換えてるんだよ」
大典太「……そ、そうなのか。やはり『監視』命令を下されたのか」
ソハヤ「だから!『監視』じゃなくて『世話』だって言ってんだろ!監視ってなんか悪意ある言い方で嫌だからな」
大典太「(……何のために俺を拘束しているのかが分かってるのか分かってないのか、分からん)」
あまりにも自分に好意がありすぎる、と大典太は思いました。彼とは出会って間もない。しかも、政府で一緒だった記憶も無い。ただ『同派の刀』、『兄弟刀』というだけ。……ただ、この場で悪意のある対応をされるよりは余程マシでした。呆れたのか折れたのか、大典太は遂にソハヤと話をする姿勢を取ったのでした。
その反応に嬉しそうに笑顔を綻ばせるソハヤ。もし自分が普通に顕現していれば、彼以外の刀剣男士とも普通に会話が出来ていたのだろうか。ふと、そう思います。
ソハヤ「折角兄弟に会えたんだからな!知ってることなら何でも話すぜ!」
ふふん、と鼻を鳴らしながらそう言うソハヤ。なら、と大典太はこの本丸について切り込んでみることにしました。
大典太「……なら、単刀直入に聞く。この本丸は何なんだ」
ソハヤ「随分とストレートに聞くなぁ。さっきも言ったけど、ここは数ある本丸の一つだよ。それ以上もそれ以下もねえ。でも……一つだけはっきり言えることは、俺も含めてこの本丸にいる刀剣男士はみんな『別の本丸から移動してきた』奴らが多いんだ」
大典太「……この本丸で顕現した刀剣は一振もいない、のか?」
ソハヤ「ああ。俺が記憶してる限りでは一振もいねえ。それも不思議なんだけどなー。『初期刀』って言われてる奴らも、『初鍛刀』って言われそうな奴らも、みんなここに来る前にどこか別の本丸にいたって言ってる」
大典太「……変だな。本丸には行ったことが無いから分からんが…。政府で拘束されていた頃に聞いた話だと……各本丸には必ず『初期刀』が存在するはずなんだが」
ソハヤ「それも無いってのは確かに変だよな……って、兄弟」
大典太「……なんだ」
ソハヤ「兄弟、まさか政府刀なのか?!」
大典太「正確には『元』だがな…。……言ってなかったk『言ってない!初めて聞いた!!!』 ……そうか」
ソハヤ「流石に前にいた場所を『政府』って答えた奴は兄弟が初めてだぜ…。政府では何してたんだよ?」
大典太「……監禁、されてた。他の天下五剣と共にな…。俺達は他の本丸に天下五剣を始め、貴重な刀剣を安全に顕現させる為の『実験台』だった。だから……他の個体よりも、霊力が異常に高いんだ」
ソハヤ「ほへー…。想像は出来ないけどよ、相当大変な目に合ってきたんだな兄弟」
大典太はソハヤとの会話の中で、この本丸で顕現された刀剣男士が一振もいないということに疑問を覚えました。普通の本丸だと、少なくとも初期刀と初鍛刀の刀くらいは存在しているものです。―――しかし、それすらない。この本丸は……纏っている霊気も合わせて、『どこかおかしい』。大典太はそう確信しました。
いい機会だと、ソハヤにもう少し話を聞いてみることにしました。
大典太「……あんた以外の刀剣男士は今どこで何をしてるんだ。あんたが報告をしに言っている間出入口の方を見ていたが、影すら通らなかったぞ」
ソハヤ「それぞれやりたいことやってんだよ。この本丸相当広いからなー。俺が戻ってくるまで誰も通らない、ってのも不思議な話じゃないぜ」
大典太「……そうか。―――なら、誰かしら気付いているんじゃないのか。この本丸…霊気が邪悪なものに感じるんだが」
ソハヤ「へ?そうなの…か? うーん…。確かに変な感じだとは思うよな。兄弟は霊力強いから、特別そう強く感じるんじゃねえか?」
大典太「……違う。あんただって、徳川の霊刀だろう。……この本丸のことは知らんが、霊力が強いのはあんたも一緒だ。だから…少しは感じるんじゃないのか。この本丸の『悪意』を」
ソハヤ「兄弟、兄弟。怖いだろ? 眉間にしわが寄ってるぞ」
大典太「……はぐらかすな」
目の前の青年が言葉を選んで返していることには薄々勘付いていました。ソハヤの他にも刀剣男士がいるのなら、霊力に纏わる逸話を持つ刀だっているはずだ。彼もその一振。纏う霊気がおかしいとは思わなかったのか。彼は正直に目の前の青年にそう問いかけました。
あまりにも濁す言い方を続けるので、思わずしかめっ面をする大典太。元々美丈夫ではありますが、その顔の怖さは本部でも随一と言われるほど。流石のソハヤも表情をゆがめた彼には引き気味です。
ソハヤ「俺が隠し事してるように見えるか?」
大典太「……見える、かもしれん」
ソハヤ「そりゃないぜ兄弟~!見てみろのこの霊験あらたかな俺の純粋な瞳!!」
ソハヤがずいずいと瞳をうるうるさせて檻まで顔を近付けさせます。ぴえん。流石にそんな表情をされるとは思わなかったのか、大典太は焦って思わず後ろに引き下がります。
彼の反応に傷付いたのか、ソハヤは分かりやすく傷付いた表情を見せました。がっくりと落ち込んだ後、大典太にこう返しました。
ソハヤ「確かに兄弟の言いたいことも分かる。分かる…けどよ。俺も気付いたのついさっきなんだよ」
大典太「……どういうことだ?」
ソハヤ「具体的には…兄弟に腕を掴まれるまで。それまでは、俺も何にも疑問に思ってなかったんだ。この本丸がどこかおかしいってことにさ。気付いちまったら…。俺が、俺でなくなるような気がして、さ。
本体だってどこにあるか主は教えてくれねえ。―――はっきり言う。変なんだよ、この本丸」
大典太「……兄弟」
ソハヤ「俺の他にも、霊力の高い刀は確かに何振かこの本丸にはいる。だけど、その誰もが気にしてないんだよ。そんなことを口にしたのは……兄弟、お前が初めてだ」
大典太「……『誰も』気にしてこなかった…」
遂にソハヤの口から本音が漏れました。自分も大典太に会って、彼に腕を掴まれるまではそんなこと微塵にも疑問に思っていなかったことを。思えば、この本丸はどこか変だ。彼はそう言ったのです。
そして、霊力の高い刀は彼の他にもこの本丸にはいる。その誰もが『気にする素振りすら見せない』。―――この言葉に、大典太は引っかかりを覚えました。
『誰も』気にしていない。この言葉は……言い換えれば、この本丸の『主』によって『気付かせられない』状態に出来るのではないか、と。
大典太「……本当に誰も、なのか」
ソハヤ「ああ。俺ですらたった今、なんだからな」
大典太「(……やはり、この本丸に長居は出来ない。長居すれば…きっと俺も、この本丸に『染まってしまう』。―――『染まる』?)」
ふと頭の中に浮かんだ『染まる』という言葉。そこで、大典太は鬼丸の言葉を思い出します。
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『そう、だろうな。おれの頭の中はすっきりしていない。時折、人間が鬼に見えることもままある。―――完全に祓えていないことには同意する』
『違う。すぐに陰気になるな大典太。おまえも分かっているだろ。おれがこうして理性を保っていられるのは『一時的なもの』だ。いつまた理性が邪気に覆われておまえ達を襲うか分からない。
―――被害を出さない為にも、おれは『運営本部』とやらには行けない。皆が皆、おれに抵抗できるわけじゃないんだろ。だったら…おれは『今は』そっちにいない方がいい』
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考えて、考えて、噛み砕いて。
―――そこで、彼は気付きます。この本丸の『正体』に。
大典太「(……ここは。『本丸』なんかじゃない。アンラ、もしくはそれに並ぶ力で創り出した『幻』…。―――きっと、俺は。鬼丸と同じだ。きっと……『邪気』を本体に注がれている)」
だから、逃がすまいと拘束をかけられた。確実に邪気に染める為に。『鬼丸国綱の代わり』とはそういうことだったのか。
―――気付いてしまった真実に、ただ言葉を失う大典太。ソハヤに自分の名前を呼ばれるまで、頭の中がぐるぐるとその言葉で回り続けていたのでした。
- #CR09-6 金色の龍は前を向く -1 ( No.40 )
- 日時: 2021/04/15 23:41
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: PNMWYXxS)
~運営本部 メインサーバ~
メインサーバでは、アクラルを中心にエンジンシティに行った面子の報告を待っていました。アイクとエフラムは既に部屋を後にしており、自分達の稽古に向かったようですね。石丸くんも自分達のやるべきことをやろう、とメインサーバを去っています。前田は未だ俯いて表情を見せないサクヤの隣にずっと座っています。その顔は心配そうに歪み、晴れやかになることはありません。
流石に何とかしなければならないと思ったのか、アクラルは前田にサクヤの調子はどうだと問いかけました。
アクラル「前田、サクヤは?」
前田「エンジンシティへと向かった方々を見送った後も俯いたままこの調子です。ずっと椅子に座っています」
アクラル「随分と気落ちしてんなー…。今までこんなこと全然なかったから調子狂うわ。……無かったのも仕方ねー話なんだが」
前田「主君が『感情をアクラル殿に渡したから』ですよね。主君の表情の起伏が薄かったのは」
アクラル「あぁ、そうだよ。何がトリガーになってサクヤ『自身』の感情が生まれたんだか知らねーけど…。生まれたモンを受け入れないで、封じ込めようとするのは愚の骨頂だ。俺はそう思う」
前田「もしかしたら、自分のせいで大典太さんが捕まったと、責任を感じているのかもしれません」
アクラル「それもあるだろうなー。サクヤだけのせいじゃねえっていうのにさ…」
サクヤは大典太が拉致された原因が自分に100%あると思い込み、責任を感じていました。今回のことに口出しが出来ないのも、それが一因しているのかもしれません。それでも。大典太が敵方に捕まったのは事実。どうにかしてサクヤに元の調子に戻ってもらわねば、例え彼が奪還されたとしても浮かばれないことでしょう。
そして。アクラルにも何となく分かっていました。前田に口添えしながらも、俯いている彼女の方をちらりと見やります。
アクラル「言葉通り、なんだが」
前田「……主君がこのままでは、僕も浮かばれません」
アクラル「サクヤがとにかく責任感がつえーってのは俺も分かってる。だからこそ、誰も傷付けたくない。誰も失いたくない。そんな気持ちが爆発しちまったんだろうな」
そう言いながら、彼は意を決したようにサクヤの隣にある椅子にドスンと座りました。静かなメインサーバに、彼の座る音だけが聞こえます。そして―――妹に自分の気持ちを伝えることを決意しました。
アクラル「サクヤ。……お前、光世のこと突っぱねたんだってな?前田から全部聞いた」
サクヤ「…………」
アクラル「大丈夫だ。人捌けはしてあるし、情報が集まらねー限り大きく動けねーのは今までと同じだ。清多夏達も今は自分達のことやっててメインサーバにはいねー。ここにいるのは俺と前田だけだ」
前田「主君。貴方がお気に病むことはありません。大典太さんをあの場で止められなかった僕の責任でもあるのですから…」
サクヤ「……それは、違います。前田くんのせいではありません」
アクラル「―――でも、お前のせいでもねー。気持ちがすれ違っただけなんだよオメーらは」
ここには自分達以外誰もいない。その言葉を聞いて、やっとサクヤは口を開きました。前田が『自分が大典太をあの場で説得できなかったのも一因している』ことへの否定。彼女の第一声は、それでした。
それに続くようにサクヤのせいではないとアクラルは続けますが、彼女は静かに首を振ってぽつぽつと言葉を零すのでした。
サクヤ「……酷いことを言ってしまいました。彼が自分の霊力が強すぎて他人を避けるのを分かっていたのに。―――自らの我儘で振り回していたのは私です」
アクラル「まー、な。でも、光世も前田もお前のその我儘に文句1つ言わず従って来ただろ。お前がそんな顔だと、光世が戻ってきてもあいつもっと悲しむと思うんだがな」
サクヤ「そんなことはありませんよ。私の醜態を見たことで、大典太さんも見限ったことでしょう。救出した後は、やはり本来の契約者を探すべきです。きっと、私より心根の良い方が新しい主となり、かの元で主命を果たしてくれることでしょう」
大典太も自分を見限ったから出ていったのだと。彼女はそう思い込んでいました。全ては自分の責任。だから、彼を見つけ出して奪還した後は、彼に相応しい主君を探そうと。そう、口にしました。彼の主でいる自信がない。彼女の言葉の節々からは、そんな感情がにじみ出ていました。
『それはっ 違います!!!』
―――しかし。そんな彼女の言葉に否を唱える人物がいました。
思わず声の方向を向いてみると……そこには、手を震わせている前田がいました。
前田「それは違います主君。大典太さんはそんなこと、思っていません」
サクヤ「前田くん…?」
前田「もしそう思っていたら…僕の前であんなことは言いません。僕の前で泣いたりなんかしません!!!」
サクヤ「え…?」
前田は今にも泣きそうでした。大典太がここを『出ていきたくて出ていった』のではないのを知っていたから。このままだと、サクヤが勘違いしたままになってしまうから。だからこそ、真実を話すべきだと。そう思ったのです。
彼が急に大声を出したことに驚き、困ったような表情をするサクヤ。そんな彼女に前田は一度詫びを入れた後、大典太が出ていった夜のことを話し始めました。
前田「大典太さんは確かに昨夜、本部を出ていかれてしまいました。しかし、主君を見限って出ていったのではありません。大典太さんは……泣いていました。このまま自分が傍にいても、きっと主君を傷付けてしまうから。だから、離れるのだと。最後まで主君を思っておりました。
―――そんな方が、どうして新たな主に付くと軽々しく言えるのでしょう?あの涙は……この場を出ていきたくない、精一杯の大典太さんの抵抗のように見えたんです」
サクヤ「…………」
前田「大典太さんは仰られていました。『主はとても優しく、とても純粋だ。だから、人一倍傷付きやすい。他人を失うのを恐れている』と。確かに僕もそう思います。ですが、それは大典太さんも含んでのこと。―――そうなのではないのですか?主君」
アクラル「光世はな。オメーの刀になる気満々なんだよサクヤ。オメーのその苦しみを背負うって、相当な覚悟と決意がなきゃ口に出てこねー言葉だ。人間の一生なら付喪神だとあっという間だが、オメーはそうじゃねえ。俺も同じだけどよ、まだまだ気の遠くなるくらい長い未来が待ってる。
―――その神生をよ、全て一柱の神に仕えるって決めてるんだぜアイツ」
サクヤ「で、でも…」
前田「主君が僕や大典太さんを傷付けたくない気持ちは痛い程分かります。ですが……今、お互いの気持ちのすれ違いを起こしてしまっているのです。もし、気持ちがすれ違ったまま大典太さんが助からなかった場合。永遠に再会出来なくなってしまいます。仲直りをすることも、お互いの気持ちを伝えることも出来なくなってしまいます」
大典太の決意ともとれるあの発言を、前田は一語一句しっかりとサクヤに伝えました。もしサクヤを見限って出ていったのだとしたら、彼は表情を歪ませることなどできやしないのだ、と。
彼の本当の気持ちを知り、サクヤの胸には複雑な気持ちが生まれました。取り返しのつかないことをしてしまった。彼は、相当な覚悟を持って自分に話しかけてくれたのだと。そう、たった今気付いたのです。しかし、彼を突き放してしまったのは事実。どうすればいいのか、分かりませんでした。
サクヤ「……大典太さんが、助からなかったら?」
アクラル「オメーの気持ちを伝えることも、話すことすら出来ねーかもしれねー。最悪、プレロマの時の鬼丸みたいに…、いやそれよりも酷い有様に。刃を交えることすら出来なくなっちまうかもしれねー」
前田「……僕は、これからの未来を。主君と、大典太さんと、皆さんと。本部の人達と歩んでいきたい。そう思っています。
―――主君。主君は……どうしたいのですか?」
前田にそう問われ、サクヤは即答することが出来ませんでした。きっと、これは。過去の自分と向き合うべき時なのだと。そう、確信が持てていました。
理由は分かりません。しかし―――彼女の心の中では、大典太を諦めたくない気持ちが微かに、生まれ始めていました。
『今の自分を受け入れる』。サクヤにとっての大きな壁。言葉にするのは簡単ですが、難しいこと。……決断の時は、今なのかもしれません。目を閉じ、静かに彼女はそう考えていたのでした。
- #CR09-6 金色の龍は前を向く -2 ( No.41 )
- 日時: 2021/04/16 22:06
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: PNMWYXxS)
アクラルの言葉。前田の言葉。しっかりを受け止め、彼女は目を閉じ考えます。大典太が自分の為に泣いたという事実。今まで、彼はそんな素振りを一切見せませんでした。確かに『近侍』だから自分の命は聞いていた。だけど、それだけだ。自分と大典太には何の繋がりも無かったのだから。
では、何故? 何故、彼は自分のことをあんなにも気にかけてくれているのだろうか。考えても考えても分かるのは『自分が過去にしでかしたことに恐怖し、感情を持つことから逃げている』という事実だけでした。
大典太の気持ちが、感情が生まれたばかりの彼女に理解できる筈がありませんでした。
サクヤ「―――確かに、私は逃げている。育ちつつある感情がどのようにこの世界に影響をもたらすのか。過去に世界を壊してしまったからこそ……恐れてしまう。
……何故大典太さんがそこまでして私の刀になりたいのか。そこまでは、やはり分かりません」
前田「大典太さんも、気持ちは僕と同じだと思うのです。主君の為に、主命を果たす。それだけの話です。―――それに、大典太さんは主君の過去を知ったからこそ、『自分が支えなければ』と思ったのではないでしょうか。
……あの方も、優しい刀。自分の力で他人を傷つけないように、自分を封じてしまうお方ですから」
サクヤ「それでも…」
アクラル「でもよサクヤ。世界をぶっ壊しちまった昔とは状況が違う。オメーはもう『ひとりぼっち』じゃねーだろ。オメーの苦しみを一緒に背負って、隣に立つ覚悟が出来てる刀がいる。オメーがどんなに落ち込んでも、残って傍にいる刀がいる。オメーのことを信じて、得体の知れない『神』っていう存在なのに。協力してくれる奴らが沢山いる。力を分けたからこそ、俺も生まれたわけだしな。話し始めればキリがねーよ。サクヤ、オメーを支えてくれる奴は今の世の中にごまんといんだ。
……だからよ。周りをもっと頼っていいんだ。甘えていいんだ。オメーがどんな過去を引きずっていたって、信じてくれる奴は必ず近くにいる。……逃げなくてもいいんだよ、サクヤ」
アクラルがふと放ったその言葉。サクヤは、それに突き動かされるような力強さを感じました。まるで、過去に『同じことを言われた経験がある』かのように。
それと同時に、脳裏に何かがフラッシュバックします。覚えのない―――いや、これは。覚えている。忘れていただけだった『大切な記憶』。……何故、今の今まで忘れていたんだろう。
サクヤ「―――!」
どこの時間からも拒絶された蔵の中。そこに、傷付いた状態で落ちてきた。巨大だが、幼い龍神だった。自分を一番に救ってくれた老人と、黒い髪をハーフアップに結った男の人。老人は自分が何者なのか、既に分かっていたようだった。
それでも、彼らは自分を救ってくれた。黒い髪の男の人はすぐに白い髪の男の人を連れてきて、布巾を持ってこいだの何だの指示をしていた。老人は、ただ『辛かったな』と介抱をしてくれた。
そこで、思い出した。今の自分を形作るもの。全部。全部。大切なものは。
『彼らから貰った』ということに。
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~時の蔵~
「おお。お前さんは今日も元気じゃのう。この蔵での暮らしにも慣れたか?」
「うん!おじいさまもみつよたちもみんなやさしいからとってもたのしいよ!」
「そうかそうか。あいつらは癖が強いが、みんないい奴らじゃ。―――お前さんはどうしてこう優しい、純粋な神なのに……。力さえ無ければ、平和に天界で暮らしておった筈だったのにのう」
そう言いながら老人は幼子の頭を撫でる。腰まで広がる、目が覚めるような金色の髪。老人は龍を人の姿に変えた。その方が力の負担が減ると判断したからだ。老人は、彼女が『世界を壊した龍神』だということを知っていた。
それでも、触れてみないと分からないことだってある。『龍神』と恐れられる神でも、蓋を開けば唯の優しい、純粋な幼子ではないか。それをどうして神々は捨てたりなんかしたのだろうか。老人は、それが納得いかなかった。
「おお、そろそろ奴らが掃除を終えてくる頃じゃろうな。お前さんよ、彼奴等と一緒に食べてきなさい」
「わあ!おいしそうなおもち!おじいさまがつくったの?」
「そうじゃそうじゃ。儂の最高傑作じゃ。今日のは特に自信作じゃから、みんなで美味しく食べるんじゃぞ?」
「はーい!それじゃいってくるねおじいさま!」
花のように笑顔を綻ばせる幼子に、思わず老人にも笑みが零れる。彼の言った通り、庭の向こうから5人の男性がこちらに向かって歩いてきているのが見えた。幼子は老人から受け取った、皿に乗った餅を持って彼らに駆け寄る。
そんな様子を見ながら、ここが時の蔵でなければな、と老人は頭によぎったのだった。
ぱたぱたと金色の幼子が駆け寄ってくる。愛嬌たっぷりに笑う幼子の笑みが思わず移る。その皿に盛られている餅をしげしげと見つめる三日月に、幼子は『おいしいっておじいさまがいってたよ!いっしょにたべよ!』と笑いかけた。
そんなに美味いのか、と三日月が零す。手は既に餅に伸びていた。
「そんなに美味いというのならひとついただこうか。おお、いつもよりもちもちしているではないか。確かに美味そうだ」
「餅なんだから弾力があるのは当たり前だろ。……童子切。おまえもどうだ。ああ、持っていく」
「それでは私もおひとついただきましょう」
手が伸びる数は増えていく。あっという間に餅の数は減っていき、大典太が手を伸ばす頃には既に餅は1つになっていた。そこで気付く。『一緒に食べろ』と言われた割には、餅は5つしかなかった。
つまり、どう考えても1人食べられない人物が出てくるというものだ。しょんぼりとする幼子に、優しく大典太は語りかける。
「……最後のひとつ、あんたが食べればいい。俺は別にいい」
「どうして? みつよ、おもちきらいなの?」
「……そうじゃない。俺が取ったらあんたの分が無くなるだろう。食べたかったんじゃないのか?」
「たべたいけど…みつよがたべられないのはいやだな…」
「……あんたはそういう奴だったな。失念していた。……なら、半分こしよう。それなら俺もあんたも食える」
おもむろに大典太は餅に手を伸ばし、2つに分けた。それは綺麗なものではなかったが、幼子は嬉しかった。『一緒に食べよう』と言ってくれた大典太の発言が。何より、天下五剣と呼ばれる彼らと食事を共に出来る、という出来事そのものが。
幼子は大きな手でつままれたそれを両手で受け取り、頬張る。いつも食べている食事より何倍も美味しかった。
「おいしい!」
「お。美味そうに食べるではないか龍神殿。はっはっは、その顔を見るとこちらまで元気になってくるようだ」
「辛い過去があったのは我々も一緒。ですが…こうして、龍神殿を救うことが出来たのは。我々のしたことは間違っていなかったという証明ではないのでしょうか」
「世界から爪弾きにされた同士が、こうして手を取り合うとはな。……これが、時の蔵とかいう訳の分からんところでなければ良かったんだがな」
「……だが、ここだからこそ紡げた未来でもある。―――俺達は、やっと知ることが出来たのかもしれん。他人に頼ること。助けを求めること、手を取り合うことは出来るということ。それを…」
「へんなかおして どうしたの?」
「龍神殿にはまだ分からんかぁ。だが、いずれ分かる時は絶対に来るぞ」
「……覚えておいてほしい。遠い遠い未来で、あんたが壁にぶつかったとしても…。あんたはきっと、ひとりじゃない。頼れる連中を、頼っていいんだとな…」
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そうだ。どうして忘れていたのだろう。昔から彼らは、彼は、自分を支えてくれていたのに。どうして。世界を破壊し、自らも壊されると恐怖を覚えた神々によって『捨てられた』あの日―――。自分は、あの五振と優しい老人に出会って今の自分を得たのだと。
そして、とても大切なことを彼らから学んだのだと。
サクヤ「(……どうして、今の今まで忘れていたのでしょう。記憶は全て覚えていた筈なのに。感情と一緒に兄貴に渡してしまった筈はなかったのに)」
思い出と共に、心に暖かいものをサクヤは感じました。今まで冷え切っていた、凍り付いた心が灯火を放っているかのような。……もしかして、これが自分に宿っていた『感情』なのだろうか。今まで忌み嫌っていた自分の感情。
こんなにも、こんなにも。やわらかい、暖かいものだったのか。―――サクヤの目には、光が戻っていました。もう、その光は。灯火は。潰えない。そんな決意を胸に宿したかのように。
サクヤ「―――申し訳ございません。やっと、大切なことに気付けた。忌み嫌っていたものは、こんなにも暖かいものだったんですね…。大典太さんに、大変失礼なことをしてしまいましたね」
前田「主君…!」
アクラル「気付くのがスリーテンポくらいおせーよ!だけど…自分の気持ちに整理がついたって顔だな。俺は、今のサクヤの方が断然いいと思うぜ」
サクヤ「確かにそうです。前田くんにも兄貴にも、大変ご迷惑をおかけしてしまいました。申し訳ございません」
前田「いえ、いえ!僕は主君をずっとお待ちしているつもりでございましたので!」
アクラルも前田も、サクヤの瞳に光が、灯火が。戻るのを見逃してはいませんでした。自分の感情と過去を受け入れ、それでも未来に歩いていく。そんな決意をした彼女をどうして否定できるでしょう。
今のサクヤなら絶対に力を暴走させることはない。アクラルは確信していました。―――兄妹だからでしょうか。理由は分かりませんでしたが、彼女の瞳を見てそう思ったのでした。
アクラル「それにしてもサクヤ……!久しぶりに俺の言うことに難癖付けなかったな……!うぅ、お兄ちゃんは感動したぞ~~~!!!抱き着かせろ~~~!!!」
前田「おやめください!兄妹だとはいえ男女での抱擁行為は僕が許しませんっ!」
アクラル「邪魔すんな前田!これは俺の愛情表現のひとつだぁ~~~!!!」
感動したアクラル、溺愛心が復活したのかサクヤに抱き着こうとしました。勿論前田は許すはずがありません。大切な主君を守る為、全力でアクラルの腕を掴み抵抗を見せます。アクラルは体格は良いですが、筋力は確実に前田より下。あっさりと彼に組敷かれてしまったのでした。
そんな彼に冷ややかな目を向けつつも、サクヤは口を開きます。
サクヤ「兄貴、ふざけている場合ではありませんよ。至急マホロアさんを呼び戻して詳細を聞き直します。―――初動に遅れてしまった分、ここで取り戻しませんと。
……それに。大典太さんが行方不明になった背景には、アンラが関わっている。それで、間違いないと思います。前田くん、マホロアさんをここに連れてきてくださいますか?」
前田「了解しました!石丸殿や三日月殿にも声掛けを行った方がよろしいでしょうか?」
サクヤ「お願いいたします。情報を照らし合わせるのは、街に向かった方々の調査が終了してからで大丈夫そうですが…。時間的な猶予はあまり残されていないと思った方がいいでしょう。
時間をかければかけるほど、大典太さんの霊力が邪気に侵されていく量は多くなっていきます」
アクラル「オーケー。そもそも鬼丸を探していたところに偶然光世が出くわしたんだもんな。直接的には関わっていなくても、裏で手を引いている可能性はあるだろうな」
前田「それでは至急行って参ります。しばしお待ちを」
サクヤは前田にマホロアと、メインサーバで話を聞いていた人物を呼び戻すよう指示しました。彼はすぐに承知し、メインサーバから素早く移動を始めます。そんな前田を見送った後、空き時間を無駄にできないと今まで話したことの整理を、アクラルの知恵を借りながら行っていくのでした。
―――こちらで出来た情報の整理が終わったならば、後はマホロアと現地の面子を待つのみ。アクラルはいつでも通信が繋げられるように再び整備を始めました。
アクラル「出来ることはやった。後はマホロアとエンジンシティ出張勢の情報街だな」
サクヤ「はい。情報が揃い次第、奪還作戦を立てるといたしましょう。
……必ず迎えに参ります。それまでどうか持ちこたえてください大典太さん……。いや。
―――『光世さん』」
彼女はそんなことをぼそっと口にした後、前田の帰りを待つことにしたのでした。
サクヤの心が覚悟を決めた今、後は大典太を救い出すのみ!エンジンシティのどこかにいることは明白です。皆で力を合わせ、必ずや平和な未来を掴み取りましょう!