二次創作小説(新・総合)

#CR09-7 邪神の魔の手はすぐそこに -1 ( No.42 )
日時: 2021/04/17 22:00
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: PNMWYXxS)

~エンジンシティ~



 話を途中で切ってしまい、鬼丸は単独で街を調査していました。元々団体行動は苦手なタイプだ、と数珠丸が言っていましたが、協調性がない刀剣男士ではないようで。そもそも本当に無いのであれば大典太を救う為に本部にすら来ませんものね。
 街では観光客らしき人物や、住人であろう人々が歩いている様子が見て取れました。しかし、そのどれもにポケモンの姿はありません。―――ポケモンバトルがウリの地方だというのに。やはり、話の通りポケモンの元気がない為モンスターボールに仕舞っているのでしょうか。



鬼丸「あの場では控えたが、確かに大典太の霊力をこの街から感じるには感じる。そうなると、どこかに捕らえられているはずだが…」



 わき目もふらずずんずんと進んでいく鬼丸。大典太の霊力は街中にうっすらと感じている為、どこかにいることは鬼丸にも分かっていました。しかし、どこかに集中的にあるわけではない。その為、どこにいるかまでは察知することが出来ません。
 彼は歩きながらも察知を続けます。自分の容姿についてすれ違いに何か言われようとも気にせず、大股で過ぎ去っていこうとしたのですが……。唐突に、彼の足が止まります。



鬼丸「―――ッ……」



 立ち止まったと思ったら、彼は急に眼帯で覆われていない方の目を手で塞ぎました。その表情は何かをこらえているようにも、苦しみに耐えているようにも見えます。……鬼丸の目には、一瞬すれ違った人々が『鬼』に見えました。自分が斬るべき敵。実際にはそうではないのに。
 ―――邪気の影響が強まっている。鬼丸は目を塞ぎながら、そう考えます。



鬼丸「またか…!」



 どうやら一振で逃げていた時も、時折こういう事象が起きていたようで。彼は塞いでいる右目をぎゅうと強く瞑って理性を保ち、何回か深く深呼吸を始めました。気持ちを落ち着かせる為に。鬼でない者を、鬼だと勘違いしない為に。
 ―――しばらくの深呼吸の後、鬼丸は静かに目を開けました。先程まで鬼に見えていた街の人々は普通の人間に見えていました。鬼丸はその様子に安堵した後、即座に眉間にしわを寄せました。



鬼丸「時間も猶予も残されていないのか。くそっ…」



 そう吐き捨て大典太の霊力の察知を続けようとしたその時でした。ふと、視界の隅に見覚えのある道化師が映ったような気がしました。見つからないように物陰に隠れ、気配を消しその人物の様子を見ます。



『メフィストさま…メフィストさまを蘇らせなくては…。そうすれば、ベリアも帰ってきてくれる。みんな、みんなバラバラだったのが1つになるんだ…!!』

鬼丸「(あいつはあの道化師を蘇らせる為に邪神と取引をしたのか?)」



 目線の先にいた派手な服装の人物―――。確かに、マホロアの話であった『ベリト』でした。どうやらベリアに続き、メフィストを失ったショックで自我を保てなくなっているようで、彼を救う為になりふり構っていられない状況のようです。
 鬼丸は大典太が行方不明になったのを自覚した時の自分を思い出しますが、状況が違う。その前に、彼奴等は世界を滅ぼそうとしている奴らに手を貸している。その時点で叩かなければならない組織だと覚悟はしていました。
 脳裏によぎった『可哀想だ』という感情を抑え込み、ベリトの様子を見ます。



『アンラさまは言っていた…。あの刀剣の邪気が全て溜まれば、『永久』に負けないくらいの力になるだろう、と。あれは普通の天下五剣じゃないと。あの刀剣だから出来ることだ、と。
 ……様子を見に行かないと。ポケモン達の犠牲はメフィストさまの為の必要な犠牲だ…』

鬼丸「あの卵の話だと、あいつが大典太を受け取っていたという話だったな。……つけてみる価値はあるか」



 突如、ベリトが移動を始めました。彼を尾行すれば、もしかしたら大典太を見つけられるかもしれません。鬼丸は意を決し、隠れながら彼の追跡を始めることにしました。太刀って偵察と隠蔽低いですが大丈夫なんですかね…?
 しかし、相手は周りが見えていない様子。……意外とうまくいくかもしれませんね。
















~エンジンシティ ホテル『スボミーイン』~



ユウリ「ホテルの周辺は特におかしな点はありませんでしたし、ホテルを調べてみましょうか」

マルス「もしかしたら、きみが泊まった部屋周辺が原因の可能性もありえなくは無いからね。分かった、行こう」



 一方、エンジンシティで調査をしていたユウリとマルス。ホテル周辺では特に異変が見当たらなかった為、ホテルの中を調べることにしました。人数も少ない為、もしこちらの方に大典太絡みで面倒なことが発生した場合、対応が遅れてしまいます。そうならない為にも素早く調査を終わらせることが先決だと結論を出した2人は、素早くホテルの中へと入っていきました。
 ホテルの受付には所々にぐったりとしたポケモン達がおり、事件の悲惨さを物語っています。自分のポケモンだけではない、と改めてことの大きさを実感し眉を下げるユウリ。そんな彼女に、マルスは『彼らの為にも、必ず事件を解決しよう』と勇気づけてくれるのでした。
 改めて気持ちを切り替えたユウリは受付へと向かいます。



ユウリ「すみません!昨晩ホテルを利用させていただきましたユウリですが…。私の泊まっていた部屋ってもう誰か入っていますか?」

受付「ユウリ様、ですね。只今お調べ致します」



 受付で事情を話すと、女性は微笑みを浮かべすぐに部屋のことを調べてくれました。少し待っていると、女性が部屋のことについて教えてくれました。



受付「本日宿泊のお客様はございません。どうかなさいましたか?」

ユウリ「昨日私が泊まった部屋を念の為調べたいなと思って。入っても大丈夫でしょうか?」

受付「忘れ物でしょうか?それならばお部屋にあったものは一旦受付にて預かっておりますが」

ユウリ「えーと、そうではなくて…。受付でぐったりしているポケモン達の原因について今調べてまして。カブさんからスボミーイン周辺を調査するように頼まれて来たんです」

受付「成程、ジムリーダーからのご依頼でしたか。こちらが鍵になります。お帰りになる際にご返却ください」

ユウリ「ありがとうございます!部屋の中を軽く調べたらすぐに返却しますので!」



 カブからの依頼だということを伝えると、女性はにこやかに鍵を貸し出してくれました。誰も入ってなくてラッキーでしたね。ユウリは鍵を受け取った後丁寧に礼をした後、マルスと共に自分の昨晩泊まっていた部屋へと急ぐのでした。











 エレベーターを使い4階へ。ついた場所から左に進み、3つ目の扉の奥の部屋がユウリが昨晩泊まっていた部屋になります。マルスはその間にも、何かおかしな点はないか周りを注意深く見ていましたが……特に変なものはありませんでした。いたって普通のホテルです。



マルス「もし、何かアイテムを仕掛けているとすれば…。スタッフの方々が回収している可能性は高いだろうね」

ユウリ「ベッドメイクの時に掃除も一緒にするはずですからね…。とすると、何もないかもしれませんけれど…。一応、行きましょう」



 話しながら歩いていると、ユウリが泊まっていた例の部屋の前に着きました。鍵を開けて中に入ると、既に掃除が終わった後なのか、シーツも綺麗に整えられておりさっぱりとした印象を部屋の中から受けました。特におかしなものは見受けられません。
 早速部屋の中の調査を開始しますが、やはり異常は見当たりません。やはり、ホテル側に問題はなさそうだという感想をマルスは抱きました。



マルス「特におかしな点はないね…。やはり、こちら側に原因はなさそうだ」

ユウリ「人通りも端にしては多いところですし、敵方も何かを仕掛けにくいんじゃないでしょうか」

マルス「そうだね。何かを仕掛けるとしても、見つかって解除されてしまえば意味がない。……そうだ、ユウリ殿。確認なんだけど…。ポケモンの様子がおかしくなったのは、きみがこの部屋で起床してからだったんだよね?」

ユウリ「はい。そうですが…。なにか引っかかる点でもあるんですか?」



 ふと、マルスがユウリにポケモン達の様子がおかしくなったことについて聞き始めました。確か、その話はメインサーバでもした筈ですが。何か引っかかる点でもあるのでしょうか?
 ユウリがそうだと答え、自分の疑問をぶつけてみます。すると、マルスは少し考えた後こう返したのでした。



マルス「いや、ジョーイ殿の言葉が妙に引っかかってね。『体格の大きいポケモンは元気になった』と言っていたよね?」

ユウリ「そうですが…。最初は連れていたメッソンが朝ごはん食べないのがおかしいなと思って…。念の為に他の子達を出してみたんですけど、みんなぐったりしていたんです」

マルス「そうなんだね」

ユウリ「……あっ。そういえば」



 そこまで言ったところでユウリはハッとします。彼女も何かに気付いたらしく、そのまま言葉を続けます。



ユウリ「『最終進化』をしている子や、『身体の大きなポケモン』はそれほど元気が無かったようには見えませんでした」

マルス「最終進化…。身体の大きなポケモン…」

ユウリ「私、最初のポケモンにヒバニーを選んだんです。あの子はもうエースバーンに進化してて、具合の悪くなったメッソンの面倒を見るように頼んだんですけど…。メッソンは、元々はダンデさんに貰ったポケモンなんです」

マルス「(確か…大典太殿の逸話に『鳥止まらずの蔵』の話があったよね。それは確か…)」



 ユウリの言葉を受け、マルスは大典太に教えてもらった彼の逸話について思い出していました。大典太光世は霊妙な逸話を持つ刀。その中の1つに、太刀の霊力が強すぎて、封じられていた蔵に止まった小鳥がボトボトと地面に落ちてしまったことから『鳥止まらずの蔵』というものがあります。
 ―――ユウリの話と合点してみると、1つ見えてくるものがありました。



マルス「具合の悪さについては『進化前のポケモン』や『身体の小さなポケモン』…。つまり、未熟なポケモンの方が影響が強いということだ。……大典太殿がこの街にいるのは間違いなさそうだね」

ユウリ「何か分かったんですか?!」

マルス「うん。きみの話のお陰でね。この街を探せば、必ず大典太殿はいる。そう結論付けられる証拠に気付けたんだよ」

ユウリ「なら、早くカブさん達に合流しないと!もしはずれに原因があったら…。カブさん達がもしかしたら危険な目に合っちゃうかも…!」

マルス「アカギ殿や頼りになるみんなもいるから大丈夫。心配しないで。でも……この話は共有する必要があるね。ぼく達も外れに急ごう、ユウリ殿」

ユウリ「はい!」




 大典太は確実にこの街にいる。そう結論付けたマルスは、特に情報も得られそうにないとホテルを後にしカブ達に合流することを提案しました。
 ユウリもそれに賛成し、鍵を受付に返却したあとホテルを去り急いではずれへと足を急ぐのでした。

#CR09-7 邪神の魔の手はすぐそこに -2 ( No.43 )
日時: 2021/04/18 22:00
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: PNMWYXxS)

~エンジンシティのはずれ~



 マルスとユウリがカブ達を追いかける為ホテルを後にしたほぼ同時刻。はずれを調べることになったアカギ達は鉱山の近くへとやってきていました。栄えた街並みを背景に、自然豊かな遊歩道が続きます。
 普段ならポケモンがのびのびと過ごしている穏やかな環境の筈なのですが、今はどこか冷たい空気が流れる場所だと思っていました。サクサクと草の音をかき分ける中、アカギがこう零します。



アカギ「ここ、街っぽくないな…」

カブ「ここは野生のポケモンも多く出る場所だから、トレーナーの修行場にもなっているんだ。ポケモンくんを持っていない人達が勝手に入って襲われないように、こんな感じの造りになっているんだよ」

大包平「ほう。修業の場として使われているのか。……それにしては、空気が淀んでいるような気がするんだが」

ごくそつ「う~ん。そう感じるのも無理はないかもねぇ。ほら、あれ見てよ」



 大包平が『空気が淀んでいる』と口にしたと同時に、ごくそつくんは彼の意見に賛同しある一点を見るように指さします。その場所は草むらの中。結構深い草むらでしたが、もぞもぞと何かが動いています。そのまま様子を見てみると、そこから1体のポケモンが姿を表しました。
 しかし―――そのポケモンは話の通りぐったりとしており、歩くのも辛そうに表情を歪めています。



数珠丸「カブ殿。あの『ぽけもん』殿は何という種類なのですか?」

カブ「ミブリムくんだよ。頭の突起で生物の気持ちを感じ取る、とても繊細な性格のポケモンくんだ。心優しい、穏やかな人間にしか心を開かないと言われているね。
   ―――ミブリムくんだけじゃない。この草むらにいるポケモンくん達みんながぐったりしているんだ」

アカギ「確かに…。ミブリムっていうポケモンの他にも数種類別のポケモンが見えるが…。みんな元気がなさそうだな…」

ごくそつ「ポケモンセンターからここまで来るのに結構歩いたけど、こんな所にまで被害が広がっているだなんてねぇ。早いところ解決しないと大変なことになっちゃうかもねぇ~?きょひょひょ!」

大包平「―――カブ殿。あの穴の向こうは『第二鉱山』というところなのか?」

カブ「そうだよ。この地とはまた別の種類のポケモンくんが暮らしているんだ。あの場所も、ポケモントレーナーの特訓場としてよく使われているね。……第二鉱山のポケモンくん達は元気いっぱいなんだけどね」

数珠丸「やはり…。呪力のようなもので獣達の生命力が削られているのはあくまでも『街の中』だけなのですね」



 はずれの遊歩道をまっすぐ進んだ先にある穴。その向こうには鉱山になっており、カブはいつもそこで炎ポケモンを鍛えているのだとか。彼の話によると、鉱山のポケモンに謎の現象が起こってはいないようです。……やはり、ポケモンの元気がなくなってしまう現象はあくまでも『エンジンシティ』の中のポケモン達だけに起こっている様子。
 そのままはずれの中原辺りまで移動したアカギ達。そこで、背後から自分達を呼ぶ声が聞こえてきます。振り向いてみると、こちらに向かって走ってくるマルスとユウリの姿がありました。



マルス「みんな!何か見つけた?」

アカギ「特に何も…。随分と早かったんだな…」

ユウリ「こっちは人通りも多いし、隠せそうな場所も特になかったから辺り一面とホテルを調べて合流しようって話になったの。収穫は特になかったよ」

大包平「そうか。ならばここを重点的に調べる必要がありそうだな」

マルス「……うん、そうだ。大典太殿はこの街のどこかにいる。それは間違いないことだからね」

ごくそつ「あれあれっ? まるすくん、随分と言い切るねぇ~。自信あったりするの?」

マルス「うん。ユウリ殿がポケモン達の状態を話してくれたおかげではっきりしたんだ」



 そういうと、マルスはユウリが『図体の大きなポケモン、最終進化系のポケモンは比較的影響が少なかった』と話していたことから、大典太の逸話を思い出したことを話したのでした。
 そして、その逸話通りなら―――。ポケモン達に悪影響を与えているのも、大典太なのではないかと。そう結論付けたのです。その話を聞いていた大包平は最初は反論しようとしていましたが、彼があまりにも的確に説明する為反論が出来ませんでした。
 マルスの話が終わると、数珠丸は納得したように口を開きます。



数珠丸「成程。理解しました。確かに蔵の中でも、大典太殿は小さな命に自分から近付くことはしませんでしたね。……龍神殿がこちらに落下し、人間の姿を仮に取って生活をする時も…最初は狼狽えていました」

カブ「『鳥止まらずの蔵』かぁ。実際にそんな逸話が街に影響を及ぼしているなんて信じがたいけど…。なんだかきみ達の話を聞いていると、真実のように聞こえてくるよ」

大包平「刀剣の逸話自体、何百年も前の話が多いからな。貴殿がそう思うのも不思議ではない。……しかし。今はその逸話を元に彼奴を探さねばならん。自分がどれだけ迷惑をかけているかしっかりと身に刻んでもらわねばなぁ!!」

アカギ「とりあえず…。第二鉱山の近くまで行ったら、草むらを調べてみよう。大きな収穫はなくとも、何か手掛かりくらいはあるかもしれない…」



 話をしながら第二鉱山付近まで足を進めた一同。到着した後は、アカギの指示通り各々近くの草むらを調べ始めました。何か小さな手がかりでもいい。大典太に繋がるものが見つかるのであれば、何でも。
 一刻も早く彼を見つけ救出し、彼もエンジンシティも元通りにしなければなりません。















 ―――しばらく草をかき分けていたその時でした。大包平が『主!!』と大声を出します。



ごくそつ「どうしたの大包平くん。なんか見つかった?」

大包平「『何か』どころではない!大典太光世があった!!」

アカギ「……え?」



 大包平から発せられた言葉は『大典太光世を見つけた』というものでした。まさかこんなにあっさり見つかるとは。カモフラージュされた偽物かもしれませんが、掴み取った手がかりの正体は何であれ調べる価値はありそうです。
 ごくそつくんはそのまま彼に近付き、会った場所を見せるよう言いました。彼はすぐさま近くの深い草むらをかき分けます。すると―――。



大包平「茂みが深いからうまく視界から外れていたんだな…。神棚があるぞ」

ごくそつ「うっわ。気持ち悪い色。これなんの木材で出来てんの?」

アカギ「(おどろおどろしい曲を作る作曲者の担当してるのにその言葉が出るのか…)」

大包平「神棚で囲うように大典太光世が中に入っている。それに―――。鎖で巻きつけられているのか?」

数珠丸「……少し、見せていただいてもいいでしょうか?」



 草むらの向こうには、禍々しい色の木材で作られた小さな神棚が覆い隠すように置かれてありました。その中に大典太光世の本体が、鎖でぐるぐる巻きにして封じられています。その気配にピンと来たのか、数珠丸も近付いてきて『少し見せてほしい』と大包平に口を出しました。
 素直に彼の言葉を受け取った大包平は、神棚を数珠丸に見せました。その途端―――彼の表情が曇りました。



数珠丸「これは……!」

大包平「数珠丸殿、何かわかったのか」

数珠丸「禍々しいだけではない。神棚か大典太殿かは分かりませんが…。ここから、邪気を感じます。まるで『生命力を少しずつ吸い取っている』ような…」

ユウリ「『生命力を吸い取る』…。それって、ポケモン達の元気が無くなっていることと関係あるんじゃないですか?!」

カブ「この神棚から溢れる力のせいで、ポケモンくん達の元気が無くなっているかもしれないのか…。エンジンシティにこんな神棚なんて普段はあるわけがない。
   ―――もしこれが原因なら、早急に何とかしないといけないね」

ごくそつ「だけど…。中からでんくんの本体引っ張り出したくても鎖でぐるぐるだし、そもそも神棚の蓋取らないといけないから…確実にぼく達に影響が出ることは免れないだろうねぇ~」

大包平「そもそも邪気が『神棚から』溢れているのか『大典太光世から』溢れているのかはっきりしないことにはどうこう出来ないだろう」



 確かに、よく見てみると神棚から薄く黒い靄のようなものが空に向かって移動しています。もしかしなくても…これがポケモン達の生命力を奪っている―――『元気を無くしている』原因なのではないでしょうか。
 中から大典太の本体を取り出せればいいのですが、しっかり封じられているうえ何も対策せず触ったらどうなってしまうか分かりません。最悪、触ったが最後自分が呪われてしまうかもしれません。
 とりあえず、サクヤに報告して策を練ろう。そう考えたアカギの耳に『一同のものではない』声が入ってきたのでした。



































『なんで…なんでおまえらがそれを……!!メフィストさまの形見まで…壊すつもりなのか……!!』



 声の方向を向いてみると、そこには焦り切った表情のベリトがいました。一同が神棚を発見してしまったことに酷く焦燥している様子。『メフィストの形見』と言っていることから、大典太を閉じ込めている神棚に関しては『邪気』がある可能性はかなり高そうです。
 マルスは即座にファルシオンを鞘から取り出し、ベリトへと突きつけます。



マルス「きみは…。マホロア殿の言った通り、大典太殿の本体を受け取ったのはきみなんだね。―――でなければ、この神棚を見つけられてそんな表情が出来る筈がない」

ベリト「なんで…なんでなんでなんでなんだよお!!!おまえら、メフィストさまの命を奪っただけでなく形見まで壊すつもりか?!僕には…僕にはもう後が無いんだ。メフィストさまを蘇らせなければならないんだ僕は……!!」

ユウリ「あなたがどんな目的をもってそんなことを仕掛けたのかは知らない。でも、あなたのせいでポケモン達が元気を無くしているの!!1人の為にどれだけの命が迷惑を被っているか分からないの?!」

カブ「ユウリくん。彼は随分と焦燥しているようだ。下手に刺激をすれば君が怪我をしてしまうよ」

ユウリ「でも……!」

マルス「ユウリ殿。きみの言いたいことは分かる。だが…ぼくもカブ殿と同意見だ。きみが怪我をしてしまったら、きみの帰りを待っているポケモン達が悲しんでしまう。ポケモンバトルも、スマブラの乱闘も。本来はみんなが楽しんで行うべきことだ。こんな…命と命の奪い合いをするものじゃないよ」

ベリト「おまえらのせいだ…!おまえらのせいで道化師はみんなバラバラになったんだ!!だから、僕はもう一度!!!メフィストさまを蘇らせて道化師を復活させるんだ!!その為なら他の命なんてどうでもいい……!!」

マルス「……説得は通じない様だ。残念だよ」



 そう言いつつ構えを解かないマルス。相手は人ならざる者でしたが、ここで大包平や数珠丸に鞘を抜かせてはいけないと彼の正義がそう訴えていました。倒さなくてもいい。彼の戦力さえ奪ってしまえば、後は大典太を助ける方法を聞き出すなりなんなり出来る。彼はそう考えていました。
 なんとか彼の隙をついて峰打ちが出来れば。そう考えて、マルスはベリトに集中していました。



マルス「…………」

ベリト「……どかないつもりなら、こっちからいくぞ!!!」



 神棚がある場所から動かないと判断したのか、ベリトは自前の短剣を取り出し目の前にいる『障害』を排除する為動き始めました。まずは、一番前にいる剣を持った男から―――。
 一撃を受け流す為、カウンターの構えを取るマルス。タイミングを窺っているその時でした。



































『首を跳ねられたくないなら しゃがんでいろ』



 ―――そんな声と共に一閃。ベリトの意識はその『刀』に向かれました。
 一同は彼の言葉通りに伏せ、マルスも一瞬驚きましたが彼の影響を受けない為にも構えを解きしゃがみます。ガキン、という鋼の音と共に現れたのは―――。





大包平「鬼丸国綱!!貴様、今までどこに行っていた!!!」

鬼丸「どこだっていいだろ。結果的にこの場所を見つけられたのだから」

ごくそつ「途中でこいつ見つけて尾行でもしてたのかねぇ?」



 単独で行動していたはずの鬼丸でした。ベリトを尾行していた後、この場所に辿り着いたのだそう。鬼丸はベリトの刃を受けながらも、アカギ達にこう告げます。



鬼丸「ここからすぐに立ち去れ。そしてすぐに本部に戻って大典太のことを伝えろ」

大包平「どういうことだ。手柄を一振で横取りするつもりか!」

鬼丸「違う。あの邪神の力をあいつは得ている。その力を―――大典太に流している。今のおれと同じ状況だ、あいつは」

数珠丸「鬼丸殿…。では、あの焦点が合っていないような表情も…」

鬼丸「ああ。邪神の力を真に受けた影響だろう。普通の人間がまともに対峙できる相手ではない」

アカギ「このまま戦っても俺達に勝ち目はない、とお前は言いたいのか…?」

大包平「フン。貴様一振ならそうかもしれんが、俺が加わるのだから『敗北』という文字は認めんぞ」

ごくそつ「……大包平くん。啖呵切ってるとこ悪いけど…今はそこのつのつのくんの言うこと聞いた方がいいかもねぇ。たぶんなんか、あいつ自体に『仕掛け』があるんだと思う」

数珠丸「私もその意見に賛成します。鬼丸殿…。青龍殿にこのことをお伝え次第すぐに加勢致します。それまでどうにか耐えてくれますか」

鬼丸「耐えるしかないだろう。おれが崩れれば、おまえ達も、大典太も。死ぬぞ」

マルス「ユウリ殿、カブ殿、すぐに走って街の中に戻ってください。駅までぼくが先導します」



 鬼丸は今のベリトの身体について、何かに気付いている状態でした。しかし、彼の刃を受け止めていることから詳しく話を聞ける状況ではないようで…。今は彼の言葉に従って、一旦本部に戻った方がいいでしょうね。
 まずはユウリとカブを逃がす為、マルスは先導して彼らをはずれから遠ざけるように動き始めます。しかし……



ベリト『僕がそんなこと許すと思う?生きとし生ける命は全部メフィストさまの糧なんだよ。礎。だから―――『死ね』よ」

鬼丸「…………」



 ベリトは逃げようとするマルス達に狙いを定め、何かの呪文を唱え始めます。それは、以前異世界のミミニャミが使ったような……って、『永久』を詠唱し始めてる?!
 ただでさえ前ヴィルヘルムの身体を消滅させたくらいの威力はあるんです。それがマルス達に当たってしまった場合―――。想像することすらおこがましい!
 ―――しかし。そう簡単に何度も同じ手は通用しません。









『唱えるのが必要なのなら それを断ち切ってしまえばいいだけの話だ』

『―――ァ……?!』









 咄嗟に鬼丸がベリトの首を斬りました。致命傷を避ける為ベリトは下がりましたが、一閃は鬼丸の思惑通り彼の『首』を斬りました。『声』を封じてしまえば、呪文は唱えられなくなる。シンプルですが妨害としては最適ですね。
 ……ただ、鬼丸の表情は険しいまま。ベリトもまたメフィストと同じく『道化師』ではなくなっていることに気付くのでした。



鬼丸「(斬った筈の箇所がもう塞がりはじめてやがる。……クソっ。本体は別の場所にあるのか)」



 鬼丸が斬ったベリトの傷は、早くも塞がり始めていました。このままでは相手に『永久』を詠唱されるのも時間の問題。そう判断した鬼丸は、後ろを振り向いて精一杯の声で叫びます。



鬼丸「今のうちだ!ここから離れろ!!!」

アカギ「…必ず戻る…。だからそれまで…!」

鬼丸「心配する暇があったら本部に戻れ。大典太には指一本触れさせん」



 『必ず戻る』。そう鬼丸に言い残し、一同はエンジンシティのはずれから素早く立ち退いたのでした。
















~エンジンシティ 駅付近~



マルス「ユウリ殿とカブ殿はぼくがついて本部まで行くよ。流石に人が沢山いる場所で派手なことは出来ないだろうからね」

ごくそつ「おっけー。こっちはヘリでちゃちゃっと戻るからしんぱいしないでねぇ!きょひょひょ!」



 マルス、ユウリ、カブは列車に乗って本部の最寄り駅へ。ごくそつくん達残りの面子は彼のヘリコプターに乗って本部まで帰る選択をしました。一般人が乗っているものなら、下手にベリトは動けないと判断したからでしょう。
 一時の別れをしようとしたその時。アカギの耳に声が聞こえてきました。



サクヤ『アカギ。エンジンシティのはずれで戦闘が起きているとニュースになっています』

アカギ「まさにその通り…。光世、そこにいた。鬼丸とベリトがやり合ってる…」

サクヤ『そうですか…。分かりました。戻り次第お話を伺います。その後、至急作戦を練りましょう。無事に帰還してくださることを祈ります』

アカギ「分かった。急いで戻る…」



 どうやら鬼丸とベリトの戦闘、ちょっとした騒ぎになっているようで。下手に近付くと自分の命が危ないことは誰が見ても分かった為、近付く野次馬は流石にいないようですが…。
 時間がないのは明白。サクヤはすぐに本部に戻ることを告げ、念話を切りました。



アカギ「…サクヤがすぐに戻れって…。帰還後光世奪還作戦を練るみたいだ…」

ごくそつ「りょーかい!全速力で飛ばしちゃうからねぇ~!」

アカギ「(それにしても…。サクヤ、声色が戻った。いや、戻ったんじゃない…。『過去を受け入れる』覚悟をしたんだ。…なら、きっと大丈夫、かな…)」




 サクヤの声が以前より凛とした、覚悟のあるものにアカギには聞こえていました。これなら……きっとこれからのことも大丈夫。きっと事態は上手くいく。
 そう思いながら、彼はごくそつ達と共にヘリコプターがある場所まで走って行ったのでした。