二次創作小説(新・総合)

#CR09-16 世界を巻き込む戦いの前奏曲 -1 ( No.59 )
日時: 2021/05/03 22:04
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: KRYGERxe)

~運営本部 住居区 サクヤの私室~



数珠丸「そうでしたか…。お互いの気持ちがしっかりと伝わったようで私も安心しております」

石丸「いやいや、数珠丸さんの言う通りだな!はっはっは!無事にサクヤさんと大典太さんがお互いに分かり合えて嬉しいぞ!」

サクヤ「数珠丸さんも石丸くんも三日月さんも、今回はご迷惑をおかけし申し訳ございませんでした」

大典太「……すまない。俺が出ていったことでこんなに大事になるとは思わなくてな…」

三日月『話を聞いたところによると、大典太は帰還途中にあの連中に捕まったようだからなぁ。まぁ、不運だったと思うのが筋か。その不運のお陰で青龍殿も自分を見つめ直すきっかけになったのだし、終わり良ければ総て良し、ということだと思うぞ』

サクヤ「今回ばかりはその言葉通りです…」



 ユウリとカブがエンジンシティへと戻ってからひと段落した一同。サクヤは数珠丸達に改めてお礼を言おうと、彼と石丸くんを私室に案内し話をしていました。大典太もいくらか吹っ切れたようで、本部を無断で出ていく前よりも少しだけ…顔の陰りが減ったような気がしました。
 数珠丸も三日月も、大典太が攫われたと分かった時は気が気でなかった様子。霊力の強い刀が悪用されるのもそうですが、彼らは一緒に幽閉され、切り離された空間で一緒に過ごした仲。そりゃあ心配もするでしょう。安心しきったように三日月が言葉を発したのでした。



三日月『実は大典太が悪用される可能性があると数珠丸から話を聞いた時、ひやひやしたぞ。唯でさえ俺達の霊力は他の同位体を凌駕しているのだ。それが原因で世界に悪影響が出てみろ。刀剣男士の肩身が狭くなる。そして……俺達の居場所は、この世界にも無くなってしまう』

数珠丸「恐らく、敵方もそれを分かっての襲撃だったのだと思われます。現に時の蔵から鬼丸殿と童子切殿が奪取されています。……我々の霊力の特異性には既に気付いているかと」

大典太「……そうでなかったら放置しているだろうからな…。主。天界から何振か落ちた、と兄弟は言っていたんだったな?」

サクヤ「はい。確かにこの耳で聞きました。恐らく、その『天界から落ちた刀剣』というのが前田くんと大包平さんのことを指しているのだと思われます。探せばもっといるのかもしれませんが…」

石丸「天界から落ちたから、あの本丸に閉じ込められることも無かったという訳だな?」

大典太「……あぁ。あの幻の空間は消滅した。今、兄弟達の意識がどうなっているのかは知らんが…。せめて、安らかに眠りについていることを俺は祈りたい」

三日月『『れすといんぴいす』というやつだな』

石丸「それでは死んでしまうので駄目だぞ三日月くん?!」

三日月『はっはっは。そうであったか。外国の言葉というものは難しいなぁ。……俺もお前達のように顕現できていたのなら助太刀にも参上できたのだがな』



 会話の折り、三日月はふとぽつりとそんな言葉を零します。語尾が下がっている為、相当気にしていることなのでしょう。数珠丸まで顕現してここにいる今、行方不明の童子切を除けば『完璧に』顕現出来ていないのは自分だけ。そのせいで他の刀剣達や石丸くんに負担を強いていることを悔いていました。
 そんな彼の言葉に石丸くんも続けます。どうにかして三日月を顕現させてあげたい。そんな気持ちがいつしか彼の胸にも湧き上がっていたようです。



石丸「サクヤさん。三日月くんの意識だけが目覚めて結構な時が経ったが…。未だ完璧な顕現には至っていない。何か理由があるのか?数珠丸さんのように『邪神の邪気で妨害を受けていた』とか」

数珠丸「そうであれば…。私が顕現したタイミングで三日月殿も人間の姿を取れていなければおかしいということになりますね」

三日月『あぁ。あの邪神が関係していないとは俺も思っている。原因は別のところにありそうだが…青龍殿と同じような解決方法ではないような気がするのだがなぁ』

大典太「……俺と違って、あんたは既に主と正式な契約をしてそれだからな…。考えられる理由としては、『主の霊力が足りていない』もしくは『顕現するだけの絆が足りていない』どちらかだと思うんだが」

三日月『絆が足りていない、か。やはり俺の中にまだ渦巻いている『人間への疑念や哀愁』が権限を邪魔しているのかもしれんな』

サクヤ「だとすれば、数珠丸さん以外の刀剣は貴方と同じような目覚め方をしなければおかしい。三日月さんのパターンはイレギュラー、レアケースだと思って解決策を練った方がいいかもしれませんね」

石丸「それでも、僕は三日月くんが大典太さん達のようにしっかりと顕現できるまでずっと待っているぞ!なんたって、君の主なのだからな!はっはっは!」

サクヤ「霊力の問題でも…なさそうですよね。光世さんが大包平さんに霊力を送るのに失敗した時、代理で石丸くんを介して霊力を送ったのですよね?」

三日月『あぁ、そうだ。普通の人間では到底無理なことを成し遂げた。『霊力不足で顕現出来ない』という可能性も潰していいだろうな』

大典太「……そうか。どうせ俺は碌な可能性を追えない刀だよ…」

数珠丸「三日月殿の顕現の話に関しては、まだ時間がかかりそうですし…。我々も何か手がかりを探してみます」

大典太「……手がかり、か」

サクヤ「光世さん。何か気がかりでも?」

大典太「……鬼丸のことを、少しな」

三日月『鬼丸かぁ。話によると、あの場から消えるように立ち去ってしまったのだよな』

サクヤ「…………」



 話の道中、大典太は鬼丸が去って行ったあの表情を思い出していました。脳裏にこびりついた、何か覚悟めいたものを見せた鬼丸の顔。まるで『大典太が自分の首を落としてくれる』と期待しているかのような、複雑な顔。天下五剣が全振で過ごす為には、鬼丸の問題は絶対に解決しないとならないもの。しかし……。彼にあんなことを言われた手前、どうすればいいのか大典太には分かりませんでした。思わずしょんもりとしていると、サクヤが心配そうに顔を覗かせてきました。



サクヤ「鬼丸さんも本意ではない筈です。そうでなければ、一緒に酒を呑む約束などしませんでしょう」

大典太「……それは、そうなんだが。―――『時間切れ』だと。あいつは去り際に『俺かあいつ、どちらかの首が地面に落ちるのを覚悟しろ』と言った。俺はそんなことの為にあいつとまた会いたい訳じゃない」

数珠丸「ご自分でも理解されていらっしゃったのでしょうね…。もう、自分には時間が残されていないのだと。それを承知で、我々に協力を申し出た。次に相まみえる時が敵同士だとは…私も考えたくありません」

三日月『ふーむ。俺のことよりまず先に鬼丸を何とかせねばな。俺のことはどうにでもなるが、あいつに関しては…下手をすれば『折れねば』救うことが出来んかもしれん。―――絶対に避けなければならないことではあるが』

大典太「……俺だって折りたくない」

石丸「何とか鬼丸さんの邪気を祓う方法は無いのかね?!勿論……鬼丸さんの刀を折る、以外の方法でだ!」

サクヤ「うーん…」



 石丸くんの必死な訴えに一生懸命案を考えるサクヤ。しかし…鬼丸の場合、大典太やおそ松のようにはいかない。それは彼女も分かっていました。彼らとは根底から条件が違うのだと。それ程、彼を蝕んだ『時間』というものは長すぎました。苦しい顔をしながらサクヤは静かに彼に答えを口にします。



サクヤ「光世さんやおそ松くんのように、悪いものを入れられた期間が短ければまだやりようは充分あります。しかし…鬼丸さんは、アンラの邪気を150年も受け続けた状態。プレロマで一時的に一部弾き飛ばし正気を取り戻すには至っても、完全に邪気を祓うことは出来ないでしょう」

大典太「……現に鬼丸も言っていたからな。『俺が祓う邪気の量が、樹海都市の時よりも減った』と。―――それは、鬼丸の霊力が邪気と混じり合って、完全に染まってしまったと考えてしまってもいいんだろう。
    ……あの場所で正気を失った鬼丸の太刀を受けた時、あの場所で受けた時とは全く太刀筋も違った。完全に呑まれる寸前だったんだろう」

石丸「それは分かっている。だが…!鬼丸さんを完全に救う方法が『鬼丸国綱を折る』ことだなんて…!」

数珠丸「そういう表現をしなかったのは彼が戦に使われた刀であったことが大きいのでしょうが…。鬼丸殿は何を思ってそんな発言をしたのでしょうか」

三日月『それが分かれば苦労はしないのだが…。恐らく、青龍殿と大典太の元を去ったのも…。大典太に刃を振るってしまった罪悪感と、邪気に呑まれた自分がこれ以上お前達を襲わないようにとのあいつの気遣いだと俺は思うぞ。……それでも。俺も考えは主と同じだ。鬼丸を折る以外の方法で、あいつを救いたい』

大典太「……俺も、考えてみる。だが…どうしたらいいんだ」

サクヤ「光世さん。皆さん。私の方でもなんとか鬼丸さんに入り込んだ邪気を他の方法で祓うことが出来ないか探して見ます。光世さんと鬼丸さんは…『盟友』というご関係なのでしょう? ならば、尚のこと光世さんにそんな選択肢など取ってほしくありませんから。
    ―――貴方の主として。そして……貴方の未来を共に歩む者として」

大典太「……主。ありがとう」




 大典太を気遣ったのか、優しい声でそう告げるサクヤ。彼はそんな主の言葉に少しだけ肩の荷が下りたような気がしました。しかし…あの鬼丸の覚悟を秘めた表情。やはり、その顔が脳裏から消えることはありませんでした。
 皆と協力して探しても、最終的には鬼丸と斬り合うことになるだろう。大典太は…そんな覚悟をしなければいけない時が近付いてきていると、心の中でそう思ったのでした。

#CR09-16 世界を巻き込む戦いの前奏曲 -2 ( No.60 )
日時: 2021/05/04 22:00
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: KRYGERxe)

~第二鉱山~



 声が反射する程の空洞が広がる第二鉱山。いつもならばポケモンと修行に明け暮れているトレーナーがいる筈ですが、今回の騒動により鉱山には現在人が寄り付いていません。その中をずる、ずると足を引きずりながら歩く男が一振。片側に伸びている角は伸びきってしまっており、肩で苦しそうに息をしながら鉱山の中を歩いていました。
 男―――鬼丸国綱は重い身体を動かし、より早く人のいないところに移動しようとしていました。自らが『鬼』に成り果ててしまったら、きっと誰かを傷付けてしまうから。その気力を支えとし、何とか踏ん張っていました。



鬼丸「(さっき大典太にも話したが…。確かにあいつの太刀でおれの邪気が少し祓われたのは事実だ。だが、その量が明らかに減っている。あいつの霊力が青龍と繋がっていることはおれでも分かる。だから……大典太の霊力が減ったなんてことは考えられない。
    ……おれの邪気が巡り切ったと考えるのが自然か)」



 あの時勢いでその場を去ったのは、サクヤと大典太にこれ以上刃を向けない為の鬼丸なりの気遣いでした。しかし、それは失敗だったかもしれないと彼は頭を悩ませます。
 彼が身体を引きずりながら歩く道には、鉱山で働く作業員とポケモンの姿が点々と存在していました。あんな騒動があっても仕事は仕事。流石に『誰もいないわけがない』ところまでは頭が回らなかったようで。ちらりと作業員がいるであろう場所を見やりますが、そこに見えるのは一緒に働いているポケモンと―――『鬼』。自分が斬るべき獲物。もしポケモンと一緒に仲睦まじく話していなければ、もし人間が単独で仕事をしていたのならば。……自我を次に失った時に斬ってしまう。
 それだけは絶対に避けなければならない。その考えを胸に、彼は人気のいない場所を目指して歩き続けていたのでした。











 ―――しばらく歩き続けた先。鬼丸の目にふと『立ち入り禁止』という看板が見えました。その近くは鉱山の岩や瓦礫が酷く、流石にポケモンを連れている作業員でも怪我の可能性がある為立ち寄れないエリアのようです。鬼丸はそれを逆手に取り、『人がいない』場所だと判断。せめて、鬼になるなら人知れず鬼になろう。そう考え、立ち入り禁止の道の向こうへと進んでいったのでした。



鬼丸「(……あれか。あの瓦礫が道を塞いでいるのか)」



 その道を進んでいると、目の前に瓦礫の山が見えました。道を塞ぐように積み重なっており、確かにこれでは人が安全に通ることが出来ません。鬼丸は看板の意味を理解したと同時に、ここで休むことを思いつきました。看板の向こうならば人が来ることも無いだろう。そう考え、少し身体を休ませることにしたのでした。
 瓦礫の近くまで歩き、岩壁を背にしながら倒れ込むように座る鬼丸。背中にごつごつとした硬い感触が伝わり気分が少々悪いものの、休める場所が見つかっただけありがたいもの。腰を下ろしたと同時に大きなため息が彼の口から漏れ出たのでした。



鬼丸「150年…長かった。おれだって望んでいた。五振と青龍とくだらない話をする未来を。―――少し、変わったのはあいつらだけじゃない。分かっていた筈なのにな。
   たらればの想像だけが浮かびやがる。……おれ達に『幸せ』を望む権利すら与えてはくれないというのか」



 思わず、吐き捨てるようにそう呟く鬼丸。彼も望んでいました。五振で平和な未来を過ごすことを。あの蔵ではなく、美しい世界の縁側で。のんびりと茶でも嗜む『幸せ』を。そんな小さな希望すら望むことは許されないのか、と。
 政府に顕現され、彼らの都合で幽閉され、彼らの都合で捨てられ―――。当時の鬼丸には『怒り』の感情しかありませんでした。もし人間に会ってしまったら、この怒りをきっとぶつけるだろう。憎しみを晴らすかのように。だけれども…時の蔵で老人に助けられてから。あの龍神が落ちてきてから。自分達は少し変わった。それは鬼丸自身でも感じていました。怒りに支配されていた自分が、他を気遣うなど…。前までは考えられないことでした。


 ―――ただ『幸せに過ごしたい』。それだけなのに。何故邪魔をする。……苦しみながらもそう呟く彼の元に……。足音は聞こえてきたのです。









『幸せとは何なのか。刀の付喪神にも考える頭はあるのだから、各々思うことは違うのではないか?鬼丸国綱よ』

鬼丸「―――!!」









 聞こえてきた、聞きたくなかった声。あいつから逃げていたのに、こんな場所で見つかるとは。逃げようにも身体が重く思うように動けない。鬼丸はその声の方向を向くことしか出来ませんでした。
 目線の先にコツコツとした靴音と共に現れる禍々しい気配。鬼丸を見下しながら現れた『邪神』は、滑稽だと苦しむ彼を鼻であしらいつつ言い放ちます。



鬼丸「…………」

『探したぞ鬼丸国綱。我の手をここまで煩わせるとはな。流石は『天下五剣』と言ったところか。しかし―――貴様の友を守る為に、自らが犠牲になる道を選ぶとはな。滑稽で仕方がない』

鬼丸「戯言を言うな。おれは大典太を守る為にあの場に行ったんじゃない。おまえの手先になって苦しまれるとおれの夢見が悪かっただけだ」

『その『夢見』とやらももうじき見られなくなると自分でも分かっていたのに、か?大典太光世が仮に我の手先になった場合、貴様の邪気が完全に染まる速度は明らかに落ちていた筈だ』

鬼丸「どうだかな。その様子だと大典太を邪気に染めた後に、おれを回収しに来そうだったがな。天下五剣とはいえど刀の一振や二振、おまえの手にかかれば堕ちるなんて一瞬だと自分が一番分かっているだろ」

『よく分かっているじゃないか。大人しく我の手先になっていればいいものを、あの天下五剣が邪魔をしおってからに…。お陰でとんだくたびれもうけだった。道化師も大したことが無かったからな。しかし―――こうして貴様を回収出来たことだけは収穫、と言っておこうか』

鬼丸「―――おれが素直におまえの言うことに応じると思っているのか」



 大典太を犠牲にすれば鬼丸は邪気に侵されなかった。そんな甘言にも彼は騙されません。どうせ大典太を邪気に染めた後に自分に止めを刺すつもりだったのだろうと。邪神はそういう考え方をするのだろうと。分かっていました。だから、逃げた。
 せめてもの抵抗に自分の太刀に手をかけますが、それすらも読んでいたのか邪神は表情を変えず冷たく言葉を零したのでした。



『自分でも分かっているんだろう。我を斬る為に次に刀を抜けば、我の邪気が貴様の全てを染め上げるということを。自らが忌み倒すべき『鬼』になるつもりなのか?』

鬼丸「それでも、斬らねばならん障害は斬る。―――おまえのことだアンラ・マンユ。おまえの手で鬼にされるよりだったら、おれ自身で鬼になる。それだけの話だ」

『―――あくまでも主導権は自分にあると思っているのか。……あまり我を見くびるなよ』

鬼丸「………… ―――っ?!」



 鬼丸がアンラを斬ろうと太刀を抜き始めた瞬間でした。彼の視界が歪み、頭に割れるような痛みが襲ったのです。まるで頭を引きちぎられているかのような痛み。折れてしまった方がマシだと思う程の痛み。思わず頭を抱え蹲る鬼丸に、アンラの口角は上がっていました。この反応ですら、自分の掌の上なのでしょうか。
 ―――頭痛と共に襲ってくる黒い靄。鬼丸の記憶、視界、思考。全てを奪い去るそれ。視界が黒く染まっていくと共に、痛みは徐々に強さを増していきます。



鬼丸「ぁ……う、はっ……あぁ……ッ……!!」

『何故耐える。苦しみから解放されたいのだろう?我に委ねよ。闇を受け入れよ。自分を切り離せ鬼丸国綱。そうすれば楽になれる』

鬼丸「おま……え、など……に、ッ……あ、ぐぁ……!!」

『苦しむ姿を見るのも一興だが―――。いささか飽きてきた。貴様との追いかけっこもこれで終わりなのでなぁ。
 ―――せめてこれ以上苦しまぬよう、一瞬で終わらせてやろう』



 全て。全てが黒く塗りつぶされていく。『鬼丸国綱』としての逸話も。天下五剣と過ごした日々も。あの花火の思い出も。……天下五剣と歩んでいきたいと願った『幸せ』も。































 ぱちん。邪神が指を鳴らしたと同時に、糸が切れたように鬼丸は意識を失った。そのまま鬼丸は顕現を解かれ、その場にカランと本体だけが転がり落ちる。
 邪神は退屈そうに横たわる鬼丸国綱を拾うと、鞘に着いた土埃を手で掃った。彼女が触れた箇所から闇を放出していく太刀。鬼丸国綱は彼女の手に堕ちてしまった。それを表すかのように。



『もう少し頑張れば逃げおおせたのになぁ?あの青龍についていけば貴様も助かったかもしれんのに。―――まぁ、その時は彼奴の本拠地を襲撃して他の天下五剣諸共奪取する予定だったが…。残念だったな鬼丸国綱。
 貴様が望む『幸せ』『未来』。来ないさ。未来永劫。貴様がこれから見る未来は―――。友を斬る悪夢。そして、世界の破滅だ』



 そんな言葉を零した邪神の口元は笑っていた。これも計画のうちだ。天下五剣が斬り合うことを彼女は望んでいる。その結果、折れてしまっても構わなかった。彼らは『掌の駒』に変わりないのだから。
 ……その場から去ろうとする邪神は、ふと鬼丸が座り込んでいた場所に何か落ちているのに気付く。興が乗ったのか拾ってみると、微かにそれから『青龍の加護』を感じた。各々生き生きとした表情で写った、1枚の写真だった。
 写真を手に取った邪神の顔が歪む。いくら探しても鬼丸国綱が見つからなかったのはこの写真のせいだったのか。そして―――この写真が、彼が邪気を抑え込み正気を保つ『依り代』になっていたことにも邪神は気付いた。



『―――くだらん抵抗をしおって』



 忌々しそうにぱちんと指を鳴らすと、宙に舞った写真は端から黒い炎で燃えていった。跡形もなく塵になったそれは、宙に飛んでいくうちに鉱山の空気に溶けてなくなってしまった。思い出を自ら踏み荒らしていくように。次に目を覚ます時は、完璧に自分の傀儡として動かす為に。



『……この世界を守る四柱の神、か。―――その均衡が崩れる時…。この世界の人間どもはどんな悲鳴を上げてくれるのか。楽しみだ。―――この世界も、我が世界の礎となる時は近い』




 そんなことを呟きながら。邪神は静かに鉱山を去って行った。その場には最初から何もなかったかのように、静けさだけが残っていたのだった。

#CR09-16 世界を巻き込む戦いの前奏曲 -3 ( No.61 )
日時: 2021/05/10 00:20
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: xXhZ29pq)

~天界 オリュンポス大神殿~



 ―――ここは、神々が集う場所。『オリュンポス十二神』と呼ばれる位の高い神々が過ごしている場所。そんな場所に、その場には似つかわしくない怒号が鳴り響いていました。








『……ゼウス様!!!どういうことですの?!』








 玉座に座る老人に怒号を響かせている、金髪をシニヨンヘアに纏めている女性がいました。彼女の名は『ヘラ』。ゼウスの正妻であり、結婚や出産を司る女神です。彼女が夫にぷりぷり怒っているのは実は日常茶飯事なのですが……どうやら今回怒っている原因は『いつもの』ではないようで。
 ちなみにゼウス、かなりの浮気性でよく地上に降り立っては可愛い女の子を引っかけて遊び倒しているんだとか。そりゃ怒るわ。



ヘラ「ゼウス様。貴方様が顕現の手助けをなさった刀剣男士達に危機が訪れていたとは何事ですの?!だから言ったではありませんか!!わたくしは付喪神を外に出すなど反対だ、と!」

ゼウス「落ち着くのじゃヘラ。お前がここで怒っていても我々が手出し出来る問題ではない。アンラ・マンユが直接動き出したとはいえ、まだ天界自体が損害を受けたという訳ではなかろう」

ヘルメス「しかし…。まさか鬼丸国綱が単独で地上に逃げ出していたとは…。無事に邪神から逃れられているといいですけどねぇ」

ヘラ「一時的に逃げ出せたとしても、あの邪神が放置するはずありませんわ。頃合いを見て回収しに向かった道中で今回の騒動が起きてしまったのです。最初から顕現の手助けなどしていなければこんなことにはならなかったのですわ!」

ゼウス「しかしのう。邪神の力は侮れぬ。いくらあの場に人外が多く集おうとも、『異世界』にまで手を伸ばせはしない。常識の外から攻撃をしてくるような輩じゃ。―――手駒は多いに越したことはない。
    ……それに、顕現したお陰で青龍も自分を受け入れることが出来たのじゃからな。悪いことばかりではない」



 アンラが大典太に手を出したことは既に伝令の神、ヘルメスによってゼウス側に知らされていました。ヘラはそのことで自らに被害が及ぶと思い、付喪神の顕現をするべきではなかったとゼウスに進言していたのでした。
 しかし、そのお陰でサクヤが過去を受け入れられたのも事実。刀剣男士達も各々考え、前を向き始めている今。ゼウスは顕現の手助けをしたのを『間違った選択ではない』と思っていました。



ヘルメス「結果的には青龍殿が、その奪取された刀剣と『本来の契約』を果たしたことで事なきを得ましたが。あの刀剣と青龍殿に何か繋がりがあったんでしょうかねぇ?」

ゼウス「―――あったんじゃよ。あの幼子が時の狭間から戻ってこれたことも奇跡じゃが、まさか時の狭間で生きているいのちがいたと知ったことも驚いたもんじゃ。……ノーデンスに拾われたからこそ、神々にも様々な者がいるということを知ったのじゃろう」

ヘラ「ふんっ。いくら当時世界を滅ぼしたといえど、彼女はわたくし達よりとても若い神。その成長の芽を詰むことなどあってはなりません!―――もしそのことを、あの刀剣達が再び気付かせてくれたのであったら……。ま、まぁ。ゼウス様の選択は正しかった、ということになるのかしら?」

ゼウス「正しかったかどうかは今でも分からん。結局は戦いにまた巻き込もうとしておるんじゃからのう」

ヘラ「ところでゼウス様。アンラ・マンユは今どちらにいらっしゃいますの?地上で最後に見かけてから随分と時間が経ったようにも思えるのですが。拉致していたものが奪還されて、彼女も黙っていないと思いますわ」

ヘルメス「いえ。斥候の者からは連絡は何も。もし天界に戻って来たのであれば、彼らから一報来るはずですからね」

ゼウス「邪神…。今まで様々な異世界を自分の手で滅ぼしてきた、という話は聞くが…。この世界もその『ひとつ』に過ぎんのか。自らの欲を満たす為、どれだけの罪を犯すつもりなのじゃ…」

ヘラ「ゼウス様…」



 アンラはまだ天界には戻ってきていないようです。鬼丸国綱を回収した後、まだ用事が残っているのでしょうか。そんな彼女の不可解な動きを読むことが出来ないゼウス。実際に世界が滅びていくのを目の当たりにした訳ではないので、アンラがどれだけの世界を自らの手で崩壊させたかは伝承での話でしか知ることは出来ません。
 しかし―――。彼女に好き勝手させておけば、この世界もいずれその『ひとつ』となってしまう。それだけは分かっていました。もしアンラが近々天界に戦を仕掛けるのであれば、地上にも間違いなく影響が出るだろう。―――サクヤ達を巻き込んでしまうことを、ゼウスは憂いていました。彼にとっては『手駒』でも、愛すべき子供達の一柱。平和に過ごしてほしいと願うのは当然のことです。



 ゼウスがため息をついたと同時でした。扉が勢いよく開かれる音が耳に入ってきました。思わずその方向を見て見ると、そこには槍と大きな丸い盾を持った、栗色のストレートの髪が特徴的な若い女性の神が立っていました。
 その表情は随分と卒倒したものであり、何かこちらに急ぎで伝えたいことがあるかのようでした。すぐに彼女を通し、ゼウスは話を聞くことにしたのでした。



ゼウス「何事じゃ、アテナ。お主は斥候の者とアンラの拠点を調査していたはずではないか」

アテナ「ゼウス様!邪神がたむろしているねぐらから―――巨大な『門』が現れ出でました。そのことを一刻もお伝えしたく、こうして参った次第です」

ヘラ「門…。もしかして、この世界と『異世界』とを繋ぐものですか?」

アテナ「そこまでは分かりかねますが…。もし邪神の手の者が準備を進めていたのであれば、その可能性は高いかと。そして、繋がっている『先』の世界は―――」

ヘルメス「アンラ・マンユが元々いた『悪の世界』でしょうねぇ。彼女が大々的に仕掛けてくると考えれば頷ける話です」

アテナ「門はまだ閉ざされていますが、その向こうから邪悪な力が漏れ出ています。少々の量でも位の低い神が活動を停止してしまう程の強さ…。もし『門』が開かれ、邪気が天界を覆ってしまったということになれば……。天界は瞬く間に邪神に情勢を許してしまいます」

ゼウス「天界から堕ちた邪気が地上を支配するのも時間の問題、か。……自らの考えで動いている『悪』に属する者共への影響も免れんであろうな」

ヘラ「ゼウス様。その『門』とやらの状態を見に行きましょう。アンラが戻ってくる前に先手を打てるよう調査をするのです!」



 女性の神―――『アテナ』の話によると、アンラがねぐらにしている場所に巨大な『門』が現れたのだと。門からは邪悪な力が漏れており、もし『門』が開かれてしまった時には天界を邪気が蹂躙するのだと。そう結論を付けました。
 一刻の猶予も許されない状況。ヘラはすぐに『門』を見に行こうとゼウスに進言しますが、彼はヘラが同行するのを拒否しました。



ゼウス「ヘラ。お主は言ってはならぬ。門を即時調査することは必要だが、それはワシとアテナ、ヘルメスで向かう」

ヘラ「どうしてですか?!わたくしも門の邪気に耐えられる位の神ですわ!ゼウス様、それは貴方様が一番お分かりになっているでしょう?!」

ゼウス「お主が行ってはならぬ。恐らく―――。このオリュンポス大神殿も近々戦場となる。天界の神々もいくら犠牲になってしまうか読めぬ。
    ヘラ。お主は青龍達の元へ赴き『近々天界で戦争が起きる』ことを伝えに行ってくれんか」

ヘラ「嫌です!!!わたくしの命はゼウス様と共にある、貴方様と婚約した時にそう誓いましたわ。わたくしも共に参り『ヘラ。行け。これは全てを司る神からの『命令』じゃ。逆らうことなど許さぬ』 ……くっ!」

アテナ「ヘラ様。申し訳ございません。貴方様のお気持ちは察するに有り余ります。しかし―――どうかゼウス様のお気持ちも汲み取ってくださいませ。あの方は無策でそんな言葉を口にするようなお方ではありません。
    ―――オリュンポスの神々が全滅などあってはならない。あの方はそうお考えなのでしょう」

ヘルメス「調査をしに行った足でそのまま帰らない、なんてことはないと思いますので心配はいらないと思いますよ。もし何かあっても我々がゼウス様をお守りしますので」

ヘラ「そんなの…そんなの……!」

ゼウス「十二神ですら全柱生き残れるか分からぬ。読めぬのだ、あいつの力は。大丈夫じゃ。調査をしたらすぐに戻ってくる。こちらから仕掛けることはしない。―――じゃが、彼奴は確実に動く。地上へ影響が出るのも時間の問題じゃ。
    ……地上の生命と力を合わせ、『邪』を退ける局面に立たされておるのじゃ」



 ヘラはそれでも自分もついて行くと言いましたが、ゼウスに『命令』されて言葉を噤んでしまいました。この天界での絶対神はゼウス。彼に逆らうことは出来ません。アテナもヘルメスもゼウスを必ず守ると進言しますが、ヘラの心の中に渦巻いた『不安』が消え去ることはありませんでした。
 そのままゼウスはアテナの案内に従い、大神殿を去ります。いつの間にか大神殿の大広間には、ヘラがぽつんと取り残されていました。



ヘラ「あの言い方…。まるで『自分達が犠牲になります』とでも言っているようなものですわ…。気に喰わない!どうしてわたくしはいつもいつも……!」




 歯を食いしばっても誰にもその怒りは届きません。胸に渦巻いている不安を抱えながら、彼女はゼウスの言伝をサクヤ達に届ける為大神殿を出ていき、地上へと向かうのでした。

#CR09-16 世界を巻き込む戦いの前奏曲 -4 ( No.62 )
日時: 2021/05/10 22:05
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: xXhZ29pq)

 大典太がアンラに捕まった騒動から2日後。いつもの日常を取り戻した本部。各々それぞれやるべきことの為に動いており、今日も平和な昼下がりが続いていました。
 ―――そんな中、『神の足音』が本部へと向かって近付いてきていました。







~調査本部 エントランス~



チョロ松「早いところこの書物さっさと倉庫に仕舞いに行こう。まさかエンジンシティの騒動の報告書、ここまで膨れ上がるとは思わなかったな」

カラ松「仕方ないだろう。それくらい大ごとだったというだけの話さ。―――ま、オレ達は出来ることしか出来ないけどな!」

十四松「ぼく達戦えてもまだまだ足手まといの域だからねー!はやく強くなって一松にーさんやトド松まもりたい!」

チョロ松「そもそもそれに巻き込まれないような動きをしないと…。いやここで働いている以上絶対に無理な話なんだけど。なんか最近立て続けに大きい事件起きて流石に疲れるよね…」

おそ松「とは言っても、俺らが直接関わったのアオイの島の時くらいじゃ~ん?」

チョロ松「その時はお前を助けに行ってたんだよ!!」

おそ松「いだだ!いだだだ!!チョロちゃん話の流れぇ~!!」

カラ松「おそ松、ふざけている暇があったら書類の箱1つ持て。十四松ばかりに持たせすぎじゃないか」



 現在、エントランスでは今回の騒動の報告書が書かれた紙を倉庫に運んでいる松野家の四つ子が歩いていました。一松とトド松は今日もカフェでお仕事です。一応電子ファイルにも議事録は保存してあるらしいのですが、やはり紙媒体として残しても置きたいらしく。大きな物事が起きた時は必ずこうして形に残しているんだそうです。それにしても多いな。
 現在運んでいる報告書が入っている段ボールは4つ。チョロ松が1つ、カラ松が1つ、十四松が2つ抱えていました。おそ松は理由をつけて自分は持ちたがらない。流石に堪忍袋の緒が切れたのか、カラ松は自分の持っている段ボールを無理やりおそ松に持たせます。



おそ松「重ッ?!カラ松お前自分だけ楽しようとしやがって!!ずるいぞー!!」

チョロ松「どの口が言うんだよクソ長男!カラ松が持ってたの一番重い奴なんだぞ。大人しく十四松から1つ貰っておけば楽できたのにさ」

カラ松「せっかくアシッドさんの計らいで社長秘書に出世したんだから少しは働け!」

おそ松「なりたくてなったんじゃありませ~ん。あの社長も俺がサボっても文句言わないし好き勝手やってるだけで~す」

チョロ松「……お前、それアシッドさんに期待されてないんじゃないの?」

十四松「おそ松にーさんのサボり癖と飽き性なところは最初にせつめーしたけど、想像以上に酷かったみたいだね!あはは!」

おそ松「ちょっとちょっと!寄ってたかってお兄ちゃんにだけ言い方酷くない?!ず~る~い~!!」

カラ松「話してる暇があったら運べ!倉庫でファイリングする仕事も残ってるんだからな!」



 実はおそ松。アシッドの社長秘書になったのはいいものの…彼のいらぬ気遣いによりカラ松達と一緒に仕事をしていました。どうやら彼、『兄弟と一緒にいた方がオソマツの気も楽だろう』との思いで彼の仕事の割り振りをしつつも、行動についてはおそ松に一任していたのでした。
 その結果、おそ松はニート生活を本部で押下するかのようにマイペースに動いていました。まぁ雇っている側が側なので仕事には何の支障もでなさそうではありますが…。流石にサボりまくる彼にしびれを切らしたのか、保留組がつきっきりで一緒に仕事をしていたんだとか。
 出世コースと聞いてもっと派手な仕事を任されると思っていたおそ松。日々の仕事が雑用に近いものであり、結構不満気の様子。



おそ松「確かに俺出世したよ?でもなんで雑用なんか…」

チョロ松「雑用だって立派な社長秘書になる為に必要な下積みなの!……ん?」

十四松「チョロ松にーさん、どーしたの?」

チョロ松「んー。入口の方からこっちに歩いて来る人が見えた…ような」



 ふと、チョロ松が入口のガラス戸の方をじっと見ます。不思議に思った十四松が問いかけてみると、彼の目には『こちらに向かって歩いてきている人物』が見えたとのこと。影の形から女性なのではないかと推測を立てた瞬間、その言葉に反応したおそ松が我先にと段ボールを床に置いて走り出しました。



おそ松「チョロ松。美女?美女なの?」

チョロ松「美女…かどうかは知らないけど。女の人だとは思うよ……って、オイ!!!」

おそ松「美女ちゃんなら俺のターゲットぉ!!ちょっくら声かけてくる~!!」

カラ松「まごうことなきクズニートだな」

十四松「でもカラ松にーさんもちょっと反応してたよね」

カラ松「なっ……!このパーフェクトボーイに美女がなびかないわけがないと少し思っただけだ!少し!」

チョロ松「ケツ毛燃えて死んじまえ」

カラ松「チョロまぁーつ?!」



 カラ松とチョロ松のコントじみたやり取りも気にせず、おそ松は自分の仕事を放り出して近付いて来る女性の方まで全速力で走っていきます。もし本当に美女ならあの3人に絶対に渡すものか。そんな思いを抱いて。
 しっかり視認できる場所まで近づいたおそ松は、その『シニヨンヘアーの金髪美女』に向かって口説き始めたのでした。



おそ松「わ!本当に美女じゃん!ねぇねぇおねーさん、これから俺とデートでもしな~い?あ、いきなりしっぽり夜を過ごしても俺は全然構わないけど!」



 そんな言葉をぶつけられたのが原因なのかは知りませんが、金髪の女性の表情は歪んでいました。おそ松の口説きにもなんの反応も見せず、彼女は目の前の元ニート達に大声で叫んだのでした。








『青龍殿に会いに来たのですわ。早くお通しくださいまし!!!』








~メインサーバ~



サクヤ「……さて。ファイルの整理もこれでよし、と。光世さん、前田くん。お手伝いありがとうございました」

前田「主君。『お手伝い』ではありませんよ!僕達はれっきとした主君の方なのですから!主命があればお伝えください。それを果たすのが僕達の役目です。ねっ、大典太さん!」

大典太「……本来の契約を果たしたとしてもあんたは変わらんな。俺達にまるで仕事を振らない…」

サクヤ「それは…。いやほら、お二振が疲れ果てて倒れられても困りますし…」

大典太「……あんたが倒れて寝込まれる方が俺は困る」

前田「過去を受け入れた次は他人を頼ることを学んでくださいね、主君!」

サクヤ「はーい…」



 一方。メインサーバではサクヤと彼女の刀達が仕事をしていました。こちらは議事録の電子ファイル版の整理をしていたのですね。彼女の『お手伝い』という言葉に自分達はサクヤの刀なのだからもっと仕事を割り振ってほしいと告げる前田。サクヤは過去を受け入れたとはいえ、まだまだ他人を頼ることに関してはまるで初心者。説教じみた前田の言葉にたじたじになりつつも、少しずつ仕事を割り振っていこうと心に決めたのでした。
 そんな日常を過ごしていたその時でした。バタバタと走ってくる足音が5つ。一瞬見えた金髪を取り押さえながらやって来たのはカラ松でした。その焦り様に何事かと真面目な表情になって問いかける彼女に、カラ松は答えました。『サクヤに会いたいと人が訪ねてきた』と。
 通すように告げると、後ろに構えていたチョロ松と十四松の案内で見覚えのある金髪の女性が現れたのでした。



カラ松「仕事中すまない。サクヤさんに会わせろと言って聞かなくて…」

ヘラ「青龍殿。どうしてわたくしが直々に来てあげたというのに誰も歓迎してくれないんですの?!」

サクヤ「うちは慈善事業ではないので…。オリュンポス十二神はみなアポなしで来るんだよなぁ…」

前田「この方は…。もやもやしてて思い出せませんが、天界で会ったことがあるような…?」

ヘラ「あら、天界から落ちた刀剣もいらっしゃったのですわね。それならば話は早い。わたくしは『ヘラ』。ゼウス様の正妻で、結婚や出産を司る女神ですわ」

大典太「……結婚と出産、か。白山吉光を思い出すな」

前田「彼も粟田口の刀剣ですから、少しではありますが僕も分かります」

サクヤ「随分と焦った表情をしていらっしゃいますがどうかなされたのですか?」

ヘラ「どうもこうもありませんわ!わたくしの話をお聞きになって、青龍殿」



 現れたヘラの表情はかなり切羽詰まったものでした。そりゃあ天界が大変なことになって、急ぎで地上にやって来た背景をサクヤ達は知りません。まずはその話をせねばならない、とヘラは近くの椅子に座るように進言します。
 その場にいた一同が椅子に腰を掛け終わると、ヘラは即座に本題に入ったのでした。



ヘラ「ゼウス様から言伝を預かりましたの。それでこちらにお邪魔させていただいた次第ですわ」

サクヤ「ゼウス様から…?天界で何かあったのですか?」

十四松「てんかい?てんかいってなーに?」

前田「神々や天使の類が住まう領域です。地上に降りて活動をしている者もいますが、それは稀だと以前主君が仰っていました。魔界に魔族の類が、地上に人間が住まうように、神々にとっての『地上』なのですよ」

ヘラ「ゼウス様は仰っておりました。『近々天界で戦争が起きる。確実に地上へと影響が出るだろう』と。―――天界に突如『門』が現れたと報告を受けまして。現在ゼウス様が直々に門の調査に向かっているところなのですわ」

前田「『門』…ですか?」

チョロ松「門、かぁ。僕達がこの世界に混ぜられた時に壊しちゃったアクラルさんのゲートとは違うものなの?」

サクヤ「いえ。兄貴がここに設置している『ゲート』も門の一種です。『門』とは、この世界と異世界とを繋ぐ『橋』のようなものです。本来ならば絶対に手繰り寄せられない『縁』を繋ぐもの。門があるからこそ、異世界との繋がりを得ることが出来ると言っていいでしょう」

大典太「……前に花火大会に行った時、帰りに霊力を弄ったのもそれが関係していたのか」

サクヤ「まぁ、あの時はかなりイレギュラーでしたからね…。ここにあるゲートに関しては、使えなくなっていたものを兄貴が勝手に改造して使えるようにしていたようなのですが」

カラ松「サクヤさんの兄貴、一体何者なんだ…」

大典太「……主の、片割れ」

チョロ松「真面目に答えんでいい」

大典太「…………。……その『門』とやら開くことに何の問題があるんだ。俺達がいつも使っているものと一緒なのであれば、何も問題はないはずだが」



 大典太のその言葉に、ヘラは机をバンと叩いて『今回は繋がっている世界がまずいのです!』と声を荒げました。急な態度の変わりようにビクリと固まる彼でしたが、サクヤの執り成しで落ち着きを取り戻したのでした。
 ヘラも品のないことをしたと咳ばらいをし、先程の言葉の続きを話し始めました。



ヘラ「確かに天下五剣殿、貴方の言うことは正しい。ですが…。今回は『繋がっている世界』が問題なのです。天界に唐突に現れた『門』は―――。『アンラ・マンユが元々いた世界』に繋がっているのです」

サクヤ「アンラ―――!」

カラ松「アンラ・マンユ…。確か『邪神』だったんだよな。そいつが元々いた世界って…どんな場所なんだ?」

ヘラ「生きとし生けるものが全て滅びた『死の世界』。天界ではそうお話が伝わっておりますわ」

前田「……『死の世界』」

サクヤ「天界―――強いてはこの世界を侵略する準備が整った、とでも言いたいのでしょうか。ヘラ様の仰る通り、もし天界で実際に戦争が始まってしまった場合―――。地上にも、魔界にも影響が出かねません。確実に我々は巻き込まれるでしょうね」

大典太「……だが。止める手立てはないんだろう?」

ヘラ「えぇ。門が現れた場所はアンラが根城にしている場所。―――そう易々と近付ける場所ではありません」



 そこまで言って、ヘラは静かに立ち上がります。そして……サクヤに向かって深々と頭を下げました。まるで、自分達の戦いに巻き込んでしまうことを申し訳なく思うかのように。そして…彼女はその状態のまま、はっきりと口にしました。



ヘラ「青龍殿。貴方がたの腕を見込んで頼みがあります。我々と共に、アンラの軍勢と戦ってはいただけませんか」

サクヤ「…………」

前田「―――我々に、戦に加担しろというのですか」

ヘラ「無理を承知でお願いしているのは分かっています。しかし…ゼウス様はこうも仰っていました。『戦争が起きれば、最悪オリュンポス十二神が全滅する』と。相手はそれくらい得体のしれない軍勢。わたくしも身内を犠牲にしたくないのです!」

チョロ松「だからといって僕達に戦争に加勢しろだなんて…!この世界、戦争とは無縁な世界も混ぜられてるんだぞ?! ここで手伝いをしている人にも何人か、そういう人達がいる。……僕は反対だよサクヤさん。いくらなんでも身勝手すぎる願いだ!」

十四松「せっかくみんな仲良くなれたのに…。せんそうなんて嫌だよ!」

大典太「……『門』が開くのを阻止すれば…いや、無理か。あくまで門の開閉に関しては邪神側に主導権があるんだったな…」

ヘラ「えぇ。『門』が出現してしまった以上、開くのを阻止するのは不可能。ですから…我々が出来ることは、如何にして天界で邪気を最低限に抑え込むかということ。地上まで流れ込んでしまったが最後―――。この世界も、崩壊への一歩を辿ることでしょう」

カラ松「この世界が壊れるかもしれないのは話から想像できる。だけど…あなた達のような強い存在が死ぬかもしれないって話を聞かされて、オレ達の仲間が誰も犠牲を出さずに戦争を止められるとは限らない。……オレも反対だ」

ヘラ「それに、青龍殿。仮に我々が天界の防衛に失敗してしまった場合…。貴方がたが愛するこの『コネクトワールド』も滅びてしまう、ということは分かっていらっしゃいますのよね?」

サクヤ「……脅しのつもりですか」

ヘラ「そんなことはありませんわ。わたくしは、事実を述べたまでです」

大典太「……『天界』か」

前田「大典太さん…」



 自分達だけでは天界で被害を抑えられるか分からない。だから、サクヤ達に自分達の加勢をしてほしいとヘラは頼んできたのです。しかし、それは『戦争に加担しろ』と言っているようなもの。混ぜられた世界には戦争とは無縁な世界もある為、そう易々と首を縦に振るわけには行きませんでした。天界の命も大事でしたが―――。サクヤには、それ以上に地上の生命も大事に思っていたのですから。
 今すぐ返事が欲しそうな表情をするヘラに、サクヤは考えた後こう返しました。



サクヤ「……我々だけならばまだしも、地上の皆様を戦争に巻き込みたくない、というのが本音です。―――猶予が無いのは承知しておりますが…。1日だけ、時間をいただけませんか? ヘラ様、本日は本部にご宿泊なさってください。明日の朝までには……決断を下したいと思います」

ヘラ「…………。仕方ないですわね。確かにこんな頼みを急に口にしたわたくしにも責任の一端はあります。―――ですが、長くても1日。最悪でも明日の夜にはお答えをいただきますわよ」

サクヤ「はい。―――この世界を守る為。守護神として私はどういう選択を取るべきなのか…」



 サクヤが返したのは『1日だけ時間が欲しい』という答えでした。時間がないのは分かっていますが、おいそれと『はい』と答えてしまうと被害が確実に出てしまうのも事実。考える時間が欲しかった。その真摯な表情にヘラも折れ、1日だけ待つと答えたのでした。



 保留組とおそ松にヘラの案内を任せ、彼女がメインサーバから去るのを見送ります。サクヤの表情は曇ったままでした。急に現れた世界の危機と選択。正直、どう考えればいいのかすらも分かりませんでした。
 そんな彼女の手に、大典太は優しく自分のものを重ねます。



大典太「……1人で考えるな。役には立たんと思うが…俺もいる」

前田「僕もです。1日猶予をいただいたのですから…しっかり考えて、答えを導きましょう」

大典太「……あんたがどんな選択を取ったとしても。ここの連中は納得してくれると思うがな」

サクヤ「光世さん…。前田くん…。ありがとう、ございます」




 暖かく支えてくれる二振の刀剣男士に感謝をしながら、サクヤも今日のところは仕事を切り上げることにしたのでした。
 ―――近々、コネクトワールドは大きな『選択』を迫られる。そんな未来が、待っていそうです。

#CR09-16 世界を巻き込む戦いの前奏曲 -5 -1 ( No.63 )
日時: 2021/05/11 22:00
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: xXhZ29pq)

~天界 アンラ・マンユの根城~



 コツ、コツと鈍い靴音が鳴り響く。大理石の床を歩くその少女の片手には、闇に完全に染まった刀剣が握られていた。『邪神』の帰還に、その場にいた神々が全員通り道を開け、跪く。
 彼女が通った道に咲いていた花が、瞬く間に枯れていく。『悪』を司る邪神。いのちを終わらせることを使命としているのを象徴するかのように、枯草の道を彼女は歩いていった。



『お帰りなさいませアンラ様!』



 跪いた神々や魔族が一斉に声を放つ。彼女はそれを気にする素振りもせず、道の先にある神殿に入っていった。そして、その中に鎮座してある黒い玉座に腰を降ろす。ゼウスが座っていたものとは正反対の、真っ黒な玉座。彼女が座ったことに気付いた神々がぞろぞろと神殿に入って来た。
 彼女の前で横一列に並び、再び首を垂れる。その様子を確認したアンラは、ようやく口を開いた。



アンラ「門はどうなっている?我の予測だと、もうじき開けるところまで来ている筈だが」

部下A「門の出現は確認いたしました。アンラ様の直属の部下の魔力をこのコネクトワールドに馴染ませることに成功したようです」

アンラ「そうか。我が世界とこの世界を繋ぐ準備は着々と進んでいる、という訳だな」

部下B「はっ。アンラ様の命ですぐにでも門を開くことは可能でございます」



 やはり唐突に現れた『門』はアンラが準備したもののようだった。この世界とアンラの世界を繋ぐための橋……。会話から、その門の向こうにアンラの直属の部下が多数待機しているように思える。
 彼女は門が無事に出現したことを聞き少し嬉しそうに反応した後、こう続けたのだった。



アンラ「貴様らの言っているように、門の向こうは我の世界と繋がっている。―――我の世界で、既に我の部下が門の開放を今かと待ちわびている。しかし……門を開くタイミングを見誤れば、我らにも甚大な被害が及ぶ。それは嫌であろう?
    神々を裏切ったとはいえ、大切な『いのち』なのだからな?」

部下C「は、はぁ…。しかし、アンラ様は『死』をも司る邪神。我々のいのちに興味などはないのでは?」

アンラ「そうだな。貴様らが塵になろうがどうということはないが…。必要以上に騒ぎを大きくしたくない。我らの目的はこの世界を壊し、我が手中に納めること。その為には最低限『ゼウス』と『柱』さえ壊してしまえばいいのだ」

部下B「『柱』…。この世界を守護する『四神』と呼ばれる四柱の神ですね」

部下A「確かにこの世界をアンラ様が蹂躙する為には、五柱の神を滅ぼすことは必須かと思われます」

アンラ「だが…。我の想定外のところで力をつけておる。当然ゼウス側も『門』のことには気付いて四神に話を通しているだろう。……好都合だ。まとめて潰す機会が出来たというものだからな」

部下C「ならば今すぐにでもオリュンポス大神殿に侵攻して神々を捕えましょう!オリュンポス十二神を捕虜にして脅せばいくら四神でも取引に応じることしか出来ない筈…!」

部下B「馬鹿か!不必要に俺達が暴れて相手に勘付かれて対策されたらどうするんだ」

アンラ「侵攻するタイミングは……明日の昼。『門』を開いた直後だ。それまでは皆英気を養え。―――全力でこの世界を『叩き潰す』」

部下A「はっ!それでは我々は一旦失礼いたします。アンラ様もお早いお休みを」



 アンラは『明日『門』を開く。その時に天界の侵攻を始める』そう部下達に伝えた。恐らくゼウス達も動いていると推測しての明日だった。―――潰さねばならないいのちを潰すなら、まとめての方が好都合。そして―――四神を潰すのに厄介な天下五剣もまとめて折ることが出来る。そう考えての決断だった。
 彼女の言葉に部下達は一例をし、神殿を去って行く。しばらくした後、残ったのは彼女と数柱の神と魔族だけだった。神々がいなくなったのを確認し、その残っていた神々も神殿を去った。
 ―――アンラはタイミングを見計らったように、とある『道化師』に話を振ったのだった。



アンラ「タナトス。何故貴様も戻ろうとしている?話がある、残れ」

タナトス「……ベリトを見殺しにしておきながらよく言う」

アンラ「あいつがあの邪神もどきを未だに崇拝していたからお灸を添えたまでよ。メフィスト亡き今、貴様らの主導権は全て我が握っているのだからな。それをゆめゆめ忘れるな」

タナトス「承知しておりますとも。……もう、私しかいないのですがね」

アンラ「我の話はこうだ。貴様に1つ選択肢をやろう。今ここで『我の近侍』に斬られるか、我の頼みを聞くか。どちらか好きな方を選べ」

タナトス「…………」



 そう言いながら、彼女は刀剣を前に突き出した。これがアンラの言う『近侍』なのだろうが…。タナトスにはその気配が邪悪なものとしか考えられなかった。刀剣は闇に染まっており、彼女が握っているところからもあふれ出ている状態。これに『斬られる』か、彼女の『頼み』とやらを聞くか。
 どちらにしろ、タナトスの命はもうないと思うほか無かった。



タナトス「……『頼み』とは」

アンラ「この神殿から少し離れた場所に、1つ大きな蔵がある。そこに、今まで我が奪取してきた刀剣が全て仕舞われている。刀剣に宿る付喪神の心を壊す為、幻の本丸と偽って闇を注いでいたが……。それが、最近何者かに破られてな。
    ―――貴様に、蔵の管理を任せたい。出来るか」

タナトス「私にベリトが担っていた役割を引き継げということですか」

アンラ「貴様らの崇拝する道化師は既に『JOKER』に喰われ、身体も造り替えられてしまったのだろう?魂も無い、身体も無い。最早この世には存在せぬ。ならば……せめて、我の役に少しでも立ってから死ぬべきだとは思わぬか?」

タナトス「…………」



 幻の空間でソハヤや秋田が言っていた通り、刀剣はまとめてアンラが所持していた。その蔵の管理を今までベリトに任せていたが、彼が消滅してしまった為タナトスに引き継いでほしいというのが彼女の頼みだった。
 ベリトが自我を失ってしまうまでに心を壊した蔵。タナトスも分かっていた。引き継げば、自分の心も壊れてしまうだろう、と。しかし、拒否すれば即座に彼女が握っている刀剣に斬られる。―――少しでもいのちを生きながらえる為、選択肢は1つしかなかった。
 タナトスが渋い顔でこくり、と一度首を縦に振ると、アンラは興味無さそうな面持ちで彼を見たのだった。



アンラ「断らなかっただけ良しとしよう。断っていれば、即座に我の近侍に斬ってもらっていたからな」

タナトス「アンラ。さっきから言っている『近侍』とはその握っている刀剣のことなのか?」

アンラ「あぁ、そうだ。いい具合に我の傀儡となった。見てみるか?」



 そう言うと、彼女は刀剣から手を離し空中に浮かばせた。その中心から淡く黒い光が広がる。タナトスはその光景をただじっと見つめることしか出来なかった。
 しばらくした後、刀剣は人間の姿へと形を変えたのだが…。それと同時に、タナトスは背中に寒気を覚えた。それもそう。目の前に顕現した刀剣男士は―――。


































鬼丸『…………』



 既に『この世のものではない』霊力を纏っていたのだったから。片側に生えた角は戦闘時よりも伸びきっており、目には光が宿っていない。元々の白い肌も病的に青白く、正に『アンラの傀儡』と呼ぶに相応しい邪気が巡り切っていた。
 彼は刀剣男士ではない。『化け物』だ。タナトスはそう感じていた。



アンラ「どうだ?我の『近侍』は。地上では最近刀剣と人間が力を合わせて障害を乗り越えるという話で持ちきりではないか。……その流行りに乗ってみただけのことよ」

タナトス「―――これだけの邪気を…。もう、この刀剣男士の自我は…」

アンラ「あぁ。無い。我の近侍…既に我の『傀儡』なのだからな。いくら仲のいい刀剣男士に説得されようとも目覚めることはない。心は既に死んでいるのだからな」

タナトス「……そう、なのですか」

アンラ「もしかしたら我の命が無くとも首を斬られるかもしれんなぁ?『鬼丸国綱』は、元々戦に使われた刀だ。―――今でも貴様を獲物として狙っているかもしれんぞ」

タナトス「―――私は蔵に向かいます。その頼み……引き受けましょう」

アンラ「物わかりの良い道化師で助かる。……刀剣を集めるのも楽ではないのだ。くれぐれも、『蔵』を壊すなど考えないことだな。貴様程度の魔力では耐えきれんからな。我の邪気に」

タナトス「…………」



 もう、逃げ道などない。タナトスはそう決断し、早く彼女の元から離れようと蔵へ行く旨を伝えた。その言葉を聞いた彼女は、再び表情を失ったようにタナトスを一度見た後、玉座へと再び座り直したのだった。
 タナトスが無言で神殿を出ていってからしばらくした後。アンラは鬼丸の方を向いてこう口にした。



アンラ「―――この世界も、あと数刻の命よ。我の手で滅びを迎えられること…。せめて楽しみにしながら『終末』を待つがいい。
    未来も。希望も。明日も。―――我が直々に潰してくれる」




 その言葉を聞いても、傀儡と化した鬼丸の表情は何一つ動くことは無かった。

#CR09-16 世界を巻き込む戦いの前奏曲 -5 -2 ( No.64 )
日時: 2021/05/11 22:08
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: xXhZ29pq)

 ヘラが唐突に本部に現れて一夜が明けました。あの後、足早に仕事を終わらせ自室で彼女の言葉について返答を考えていたサクヤでしたが、どうにもいい言葉が思いつきませんでした。『1人で考えるな』とは言ったものの、こういうことに慣れていない為大典太も前田も彼女にどう言葉をかけていいか分からず、結局は見守ることしか出来ませんでした。
 そして、早朝。彼女はひんやりと静かな空気が流れるメインサーバにて、再びヘラの言葉の返答について考えるのでした。





~本部 メインサーバ~



サクヤ「……この世界に脅威が迫っているのは分かっている。ですが…。どう判断を下したら良いのやら」

前田「主君。やはり答えは纏まりませんか」

サクヤ「そう、ですね。一日寝れば考えも整理できるかと思いましたが、どうやらそうではないようです」

大典太「……急にあんなことを言われれば誰だってそうだ。一晩で考えが纏まるわけがない…」

サクヤ「―――そういえば、です。光世さん。貴方を助けに向かったあの場で、貴方の兄弟刀に『天界の蔵に刀剣が仕舞われている』と言われたことを覚えていらっしゃいますか?」

大典太「……あぁ。確かに言っていた。―――兄弟と秋田を含めた刀剣を助ける為には、天界に行かなければならない、が…」

前田「秋田…。主君。大典太さん。もしかして僕以外の藤四郎兄弟とお会いになったのですか?!」

サクヤ「光世さんが捕らわれていた世界―――。あの世界の中で少しだけお話を。……彼らは『心を無くす』為、あの空間に意識だけが飛ばされていたようです」

大典太「……だが、あいつらは『心』が死んでいなかった。あの白い布の連中だってきっとそうだ。自分を取り戻して、刀の中で深く眠ってるんだろう」

前田「そう、だったんですね…。僕以外の兄弟が、全て天界に」



 見かねた前田がサクヤに話を振り、そこから話題は刀剣の話へと移りました。大典太を助けに行ったあの空間で、ソハヤと秋田に言われた『自分達は全振揃って天界の蔵に仕舞われている』と。助けるならば、ヘラに加勢し行動した方が好都合ですが…。前田も他の藤四郎兄弟が蔵にあることを知り、『助けたい』という気持ちが募り始めます。
 ―――しかし。まだサクヤの心に引っかかるものがありました。もしヘラの頼みを承諾してしまったら、確実に地上のいのちを巻き込んでしまうことを懸念していたのです。



サクヤ「もし我々がヘラ様のご依頼を承諾した場合…。きっと、光世さん達だけではない。この本部の、いや…。他の支部の皆様を始め、コネクトワールド中の方々を巻き込んでしまうことになります。
    ……正味、どう答えればいいのか迷っています」

大典太「……主」

サクヤ「光世さんと前田くんの気持ちも痛い程分かります。天界に行けるチャンスが目の前に来た。ならば、彼女に協力した上で他の刀剣男士を助けたい。私もそうしたいのは山々です」

前田「…………。でも、もし戦う選択をした場合…。確実に地上への影響は免れない。最悪守れない命も出てくることを主君は懸念されているのですよね」

大典太「……俺達は『神』と呼ばれる存在ではあるが…。全てが守れる訳ではない。それは、主も分かっている筈だ。しかし…。あんたの言いたいことも分かる。俺だってそんな選択、即決できない…」



 大典太も前田も、刀剣男士を助けたかった。しかし、サクヤはこの世界の守護神。彼らが思っている以上の命を背負ってこの地上に立っている。だからこそ…決断が出来ないことを分かっていました。
 ……そんな彼女達の元に、優しく響いて来る声が2つ。













MZD「おっすサクヤ。1人で悩みに悩み抜いて答えが出ないとはお前さんらしいけど。迷う必要はない。オレ達の決意は既に固まってるよ」

ヴィル「この世界を見守っていくと決めた矢先に別の者に滅ぼされる可能性が出てきたとはな。……『監視』していく者として、そう簡単に滅びる様を許す訳には行かないからな」

MZD「こっそり支部の方に連絡取ってさ。みんな手伝ってくれるってよ。オレ達の世界を守る為に」

サクヤ「えむぜさん、ヴィルさん…!」



 なんと。入口から現れたのはMZDとヴィルヘルムでした。どうやらサクヤがとんでもない選択を突きつけられ悩んでいるのを聞きつけ、秘密裏に行動を開始していたのでした。彼女は唐突なその言葉に驚くも、2人の決心は揺るがない様子が表情から読み取れました。
 彼らの後を追うようにかけてくる3つの足音。息を切らしながらその少女の声は発されます。



ミミ「んもう!MZDったら勝手にサクヤさんに話に行くとか言ってー!確かにテントさんには『早くサクヤさんに協力することを伝えてください』とは言われたけどさ!」

ニャミ「あたし達神様でもなんでもないんだから身体能力について行けるわけないじゃん…ぜぇ…ぜぇ…」

MZD「ジャックとジルクついてんだからいいだろ」

ジャック「そういう問題じゃないんだよ!!ったく…」

ジルク「俺もこの世界を守る為。ミミとニャミを守る為。力を奮おう。皆、そう思っている」

ヴィル「そういうことだ。ポップン支部一同。お前達に協力することを約束しよう。……この世界を守る為に」



 その言葉に続くように、次々とメインサーバには人が集まってきました。まるで彼らの言葉を待ちわびていたかのように。……サクヤが心配しなくとも、皆心は決まっていたのかもしれません。
 ヘラが頼んで来た時の大典太の言葉が本当になりましたね。



マルス「自分達で解決しようとするなんてみずくさいじゃないか。ぼく達も勿論協力するよ。既にガルク=マクやアスク王国にも話は付けてある」

エイリーク「はい。皆共に戦うと仰ってくださいました。私達も、この美しい世界を守る為。尽力致します」

エフラム「やっと俺達の本領発揮という訳だな。稽古の成果を見せねば」

アイク「奪う為の戦いじゃなくて、守る為の戦い。そうであれば、俺は何度でも力を貸す。必ず勝つぞ!」



 奪う為ではなく、守る為に剣を取ることを選んだ者達も。



カラ松「あれから考えたんだ。オレ達がどうあがいたって世界が滅びる未来が待っているんだって。六つ子で話もしたさ。……滅びる未来を変えられる可能性があるなら…。怖いけど、オレ達はその可能性に賭けてみたい」

チョロ松「本当は勝率が低い方になんて賭けたくないんだけどね。そんな悠長なこと言ってられないってトド松に説教されてさ。それで気付いたんだ僕。目の前の現実から逃げてるんじゃないかって。だから……僕も、出来る分でだけど戦う。1人じゃないならきっと大丈夫だよね」

十四松「ぼくはもうじゅんび整ってマッスル!またみんなでおいしいご飯を食べる為、戦いマッスル!」

おそ松「ま、俺はこいつらみたいに戦えるわけじゃないから後方支援だけど~。長男様なりの知恵で気が向いたら助けようかな。ハタ坊達に連絡してみたら全面協力してくれるってさ!」

チョロ松「気が向いたらじゃねえ積極的に知恵を絞れクソ長男」



 一度は現実から目を背けた六つ子も、自分達の明日をを守る為。美味しいご飯を食べる為に戦うことを選んだ者達も。



リピカ「キュベリアがやけに張り切ってたのさ。『鬱憤晴らしがやっと出来るー』って。……プレロマの屈辱かなり根に持ってたみたいだな…。あ、魔導騎士アイテール隊も私の命令でいつでも出撃できるようにはしておいたのさ!」

ジョマンダ「天界、か…。親父とヴァリスが酷い目に遭った場所だし、俺も良い感情は持ってない。今までの気持ちをまとめてこの戦にぶつけるつもりだ」

リサ「天界の知識ならば少しは残っている。役立ててくれ。少しでも…この世界の贖罪となるのなら」

マモニス「キュベリア様に足手まといと言われてしまいました、が!!私だってハイパーマモニスドリンクを飲めばパワーアップできるんですからね!この為にストック貯めておいたんですから。明日のご飯と作物を守る為、私も戦いますよ!」



 各々目的を持ち、戦うことを選んだ者達も。



バンワド「大王さま達にも協力を取り付けてきました~!みなやる気充分です!勿論ボクもです!」

ノルン「クッパ軍団も全面協力します!二大『悪の巨頭』が揃ったんですから絶対に負けませんよね!」

マルク「クッパはともかくデデデってヴィラン扱いになるのか…?まぁいいのサ。あいつに恨みつらみ全部ぶつけられるならマホロアごとぶつけるのサ。最近魔法ぶっぱなてなくて鬱憤がたまっていたからな!」

マホロア「チョットチョット、ボクをダシに使わないでモラエルゥ?デモ、このセカイ滅びちゃっタラカービィと仲良くおしゃべりも出来ないシネェ。ボクも手伝うヨォサクヤ。ボクとオマエとの仲、デショ?」

カノン「クッパ様も…おれも…みんな…信じてる…。だから…迷わなくていい…。だから…おれたちのことも…信じてくれ…」



 勢力を挙げて戦うことを決めた者達も。



罪木「希望ヶ峰学園一同、本部に協力要請は充分ですよぉ!私達も出来る限り頑張りますぅ!」

田中「戦闘が出来る者が必要であれば随時召喚せよ、とのことだった。ククク…俺様の邪腕の本気を見せる時が来たようだな!!」

天海「戦えない人達も地上で色々支援してくれるみたいっす。…大丈夫。みんなが協力すればこの危機もきっと、乗り越えられます」

石丸「三日月くん…。君の仲間を助ける為、今回は僕も共に戦いたい。君が止めても、だ。―――それくらい、今の僕は怒っている」

三日月『……そうか。主がそう言うならば、俺も最大限援助をしよう。……すまぬな、本当に』

石丸「いやいや。もしかしたら天界の力で三日月くんが顕現出来るかもしれないからな!はっはっは!」

三日月『そうであればいいがなぁ』



 いのちを守る為、戦うことを決めた者達も。



キョウカ「ムラクモ機関はこれより本部に全面協力すると指令があった。当然我が13班も今まで通り力を貸そう」

コハク「あのデカブツに貰ったモン返さなきゃなンねェからなァ…?待っていやがれクソ神共が」

ノア「俺に出来ることがあったら言ってくれよな!攻撃の盾になって跳ね返すことが俺の得意技だ」

ヴィオラ「世界が滅んじゃったら引きこもれなくなっちゃうし…。私も、頑張るから」

アイラ「みんなで最高の勝利をもぎ取って、ウィナーライブを開こう!その為に僕も頑張るよ!」



 竜を三度封じ、その悲劇をそっくり返すと決めた者達も。



翔陽「おれ達に何が出来るかは分かりませんが、援助します!がんばります!武田先生もそう言っていました」

赤葦「俺達は皆さんみたいに直接ぶん殴ることは出来ませんけど…。この世界に生きる人間として、黙って見ている訳には行きませんから」

西谷「おうよ!守る拠点があれば俺達に言ってくれよな。アリ一匹通さねえぜ」

黒尾「武力は無理だけど、知恵を出すのなら俺頑張るからさァ。ま、協力関係ってことで」

木兎「力仕事なら頑張る!……きっとこれから大変な戦いに行くんだろ?見ているだけなんて出来ないぜ!」



 戦えないながらも、自分達に出来ることをすると決めた者達も。



クレア「私達が今まで紡いできた絆の力なら、世界の崩壊だってきっと食い止められちゃいますよ!今までピンチになったって、私達そうやって乗り越えてきましたから」

グレン「あぁ。再び得体のしれない存在になった私を受け入れてくれた。それだけで恩義を返さない理由にはならないだろう」

チタ「テンションブチアゲで敵の本拠地までレッツラゴー、的な?マジ卍!」

シェリル「まじまんじ!わたしも頑張るよー!」

ルーファス「槍もバンズ島から持ってきました。……この槍、盾にも使えます。もし戦いに行くのであれば、僕達も誘ってくださいね」



 絆の力を信じ、手を貸す者達も。



ごくそつ「さぁ~て。乗りかかった船だしぃ?最後までやり遂げないとね大包平くん。君のお仲間も天界に捕まってるんだったよね」

大包平「大典太光世の話が本当であれば、のことだがな。しかし。刀剣男士を救うのはこの俺。日本刀の誇りである彼らを勝手に紛い物にされてたまるものか。必ず俺が救ってやる!」

ルキナ「私も同感です。この世界に絶望の未来が近付いてきているというのなら…止めない手筈はありません。運命を変えてみせます!」

マリオ「もちろん、ボクも協力するよ~!カービィと一緒に楽しい明日を迎えるためにね!」

カービィ「おなかいっぱいご飯食べて、気の済むまでぐーぐー眠って、のんびり遊ぶ明日がこないなんて嫌だからね!平和の為ならボク戦っちゃうよー!」



 普段は愉快なことを求める者達も。



サクヤ「皆様…」

アクラル「地上のみんな、オメーが悩んでる顔見てすぐヤバい状況だって気付いて各支部に連絡寄越したんだと。で、みんな協力してくれるってさ。―――今までの努力が身を結んだんだサクヤ。オメーはもう、ひとりぼっちじゃねーんだ」

アカギ「俺達も…この世界を…守りたい気持ちは同じ…。だから…一緒に守ろう。サクヤ…」

ニア「それに、この世界は『四神』が守護神です、わ?貴方様おひとりで悩むなんて野暮なことをなさらずに…私達に相談すれば良かったものを…。それに私、未だこの世界には興味がありましてよ?そんな世界を壊す、だなんて…。いくら邪神とはいえ、お灸を据えてやらねば気が済みませんの…」

クルーク「ここに来てから沢山のことを勉強出来た。だから、ボクはその恩返しがしたい。ボクらしくないって言われてもやるぞ!」



 他の四神とクルークも一緒にやって来て、本部に寝泊りをしている面子がほぼ全て揃いました。皆思いは1つ。この世界を守る為。平和な明日を守る為。戦うことを決意していました。
 各々の表情を見て、サクヤはじんと胸が熱くなるのを感じました。これが……感情を手に入れた末の結果なのか。もし、心を閉ざしていたままならば、こんなに熱い気持ちになれなかったことでしょう。



大典太「……皆、心は決まっているようだな」

数珠丸「えぇ。皆の心は1つ。今ならば、大きな邪神の力にも対抗できるでしょう。地上の者達皆が力を合わせるのですから」

三日月『……恐らく、天界には鬼丸もいるんだろう。―――お前の話通りだと、大典太に邪気を注いでいた神棚と同じ材料で蔵が立てられている筈だ。救うならば…。天界に乗り込む際に、一緒に破壊すべきだな』

大包平「ならば簡単だ。俺達で天界に乗り込み、蔵を破壊し中にいる刀剣男士を救出する。それで済む話だ」

前田「しかし、邪神が長い年月をかけて収集したものであれば…。蔵の守りも硬くしていそうです。乗り込むならば、相当の覚悟をしていかねば」

大包平「誰に物を言っている。この刀剣の横綱である俺が手を貸すと言っているんだ。必ず全振天界から開放する。そして―――一緒に邪気も祓うぞ」

大典太「……そうだな。―――主。改めて俺から頼みたいことがある」



 刀剣男士達の決意も1つに固まったようです。大典太は改めてサクヤに向き直り、深く頭を下げて自分の願いを口にしたのでした。



大典太「……鬼丸を。兄弟…ソハヤを。秋田を。囚われた刀剣男士を。救えるところまで来ている。……手を伸ばせるところに今、立っているのかもしれない。……主。勝手なことを言っているのは自分でも分かっているが…。俺は…皆を助けたいと、思う。
    ―――俺達にも協力させてくれ。この平和な世界を守ること。そして……天界の刀剣男士とも一緒に、平和な明日を迎えること」

サクヤ「光世さん。言われなくても分かっております。こんなに沢山の方々に協力いただけて、『拒否する』なんて私が口にするとでも思いましたか?」



 頭を上げてほしいと口にした後、サクヤは大典太の手に優しく自分の手を載せました。口にするのも緊張していたようで、手が小刻みに震えているのが伝わりました。その恐怖や不安を少しでも拭う為、彼女は大典太の大きな手を優しくさするのでした。
 そして―――遂に彼女は決意しました。『ヘラに協力する』と。



ヘラ「ならば…!」

サクヤ「ヘラ様。我々はこれより、ゼウス様の軍として邪神との全面戦争に加勢することを宣言します。……平和な明日を取り戻す為。私達は戦うことを誓います」



 ヘラが嬉しそうに彼女に向き直った瞬間、彼女の顔が険しいものに変わるのをサクヤは見逃していませんでした。どうしたのかと問うと、ヘラはその表情を崩さずこう口にしたのでした。



ヘラ「『門』が……たった今、開きました。アンラ・マンユの軍勢が天界にこれから押し寄せることでしょう」

サクヤ「調査をしている暇は与えてくれなさそうですね…。至急作戦を練り、天界へと乗り込みます。


    ……皆様。この世界を―――。」





『コネクトワールドの『未来』を、皆様で守りましょう』



















『おーーーっ!!!!!』



 サクヤの号令に、意気込むように一同は声を上げたのでした。




 鬼丸が大変なことになった裏側でとんでもない計画が始動しようとしていました。コネクトワールドでの総力戦が始まりそうな気配。
 このままでは邪神にコネクトワールドが潰されてしまいます。それを阻止し、平和な明日を取り戻す為一同は戦うことを決意するのです。なんだか話全体としてもクライマックスを迎えそうな感じがひしひしと伝わりますが……。1章、最後のページがもうすぐめくられそうですね。

 果たして、サクヤ達は邪神の侵攻を阻止し、平和な明日を守ることが出来るのでしょうか…。
 それでは皆様、次回のお話でお会いいたしましょう。Adieu!


AfterBreakTime#CR09 ~龍神が願う光の世~ THE END.

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