二次創作小説(新・総合)

#CR08-9 不思議な九つの音 ( No.7 )
日時: 2021/03/20 22:14
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: bUOIFFcu)

双方本格的に動き始めた中、異世界のミミとニャミはMZDを連れて、無人となった自宅に戻ってきました。
そこには、『あの男』がこの街を変えてしまった『代償』があったのでした。

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~音無町 少年の自宅前~



『……うん。感じるよ。『あのひと』が代償にしたものはここにある』

『あのひとはMZD諸共この世界を壊すつもりだ。そんなことされたら、あたし達の世界も一緒に壊れちゃう。約束破るじゃん。だったら……こっちから動くしかないよね』

「…………」



 異世界の少女達は、少年の自宅の前で何もない空を見ていました。それに続くように、少年も空を見ます。ただただ広がる、雲一つない青空。こんな状況でなかったら、どんなに清々しい気持ちで眺められたでしょうか。
 少女達の表情は、覚悟に満ちていました。もう何者にも従わない。自分達が願いを叶えるのだと。いま地面に立っている世界が消えて無くなっても―――。自分達の世界を救う為に。
 少女達は先程校庭で放った『永久』を、2人でゆっくりと広げていきます。重苦しい闇は、次第に透明になり空へと溶けました。それと同時に、少年の家の付近に『巨大な紫のハート』が現れます。



『あった。やっぱりここだったんだね…。あれが『あのひと』の心臓なんだね』

『街を過去のものに上書きしちゃうのは、『世界を造り替えるのと同じ。……過去に誰かから教えてもらったような気がしたんだけど、何故か覚えてた。他のことは全部忘れちゃったのに。
 ―――誰から教えてもらったんだっけ?』

『そんなことはどうでもいいよ。今のわたし達に必要なのはMZDだけ。MZDさえいれば、わたし達の世界は元通りになる。また、みんなでポップンパーティも出来るよ!……みんなって、誰だっけ。顔も、名前も、思い出せないな』



 『あのひと』の心臓。強大な魔法を使うには、それ相応の『代償』が必要。……彼女達の会話から考えるに、恐らくメフィストの心臓なのでしょう。それを見つめながら、ぶつぶつと少女達は会話を続けます。
 心臓を見つけられたのも、誰かから知恵を教えてもらったから。でも、それが誰なのかを忘れてしまった。MZDさえ自分の世界の神様にしてしまえば、またポップンパーティが出来る。……誰の顔も思い出せないけれど。
 ―――忘れてはいけない思い出まで、彼女達の中からはすっかりと消え失せてしまっていました。残っているのは、ただ『自分達の世界を取り戻したい』、その執着心だけ。



『きっと、世界さえ元通りになれば思い出せるよ。だって、神様もいるんだし。あたし達にはとっても強い力があるんだし』

『……そうだね。思い出せなくても、新しく作っていけばいいか。それじゃあ―――行こうか。ニャミちゃん』

『行こう。ミミちゃん』



 2人はいまだにぽかんとしながら空を見つめている少年の手を引き、家の中へと入っていきます。その足はゆっくりと彼の自室『だった』場所へ。幼い頃、炎で燃え尽きたあの部屋へ。彼女達はその部屋に先に入り、大きな窓を2人で一気に開けます。
 その目の前には、先程露わになった『心臓』が。そして―――。再び、少年の手を握ります。



『さぁ、行こう。わたし達の世界を取り戻す為に』

『さぁ、目覚めよう。あたし達のポップンを取り戻す為に』





『―――しばらくの間、おやすみなさい。次に目覚める時は―――。楽しい音楽で満ちていますように』





 そんな言葉をつぶやきながら、3人は吸い込まれるように『心臓』の中へと消えていったのでした。

















~音無町~



大包平「主!右だ!右から弾が来る!」

ごくそつ「きょひょ~~~!!!旋回するから捕まってぇ~~~!!!」

莉愛「荒々しい運転ね…」

ニャミ「荒々しいどころじゃないんですけど~~~?!」



 一方。ごくそつくんの車に飛び乗り、メフィストの猛攻から逃げているミミニャミ達。随分と変わった形の車だとは思っていましたが、まさか戦闘用だったとは。現在は後方にある広めの板に大包平が乗って、車へと向かってくる魔法を彼が切り崩しながら逃げている状態です。
 ごくそつくんが器用に運転をコントロールしながら、大包平が迫ってくる魔弾を切り伏せる。主と刀の連係プレイのお陰で、何とか全員無事に逃げ続けているのでした。そんな中、大包平がふと思っていたことをごくそつくんに口にします。



大包平「主。少し気になったことがあるんだが、聞いてもらってもいいだろうか」

ごくそつ「なになに~?きみの意見は結構的を得ていることが多いからねぇ!言って~?」

大包平「魔弾を切り伏せてはいるんだが…。『斬った感触がない』。気色悪い程にな。政府で顕現していた頃は、訓練と称して幻想の敵とも戦ったことはあるが―――。その時はしっかりと斬った感触があったんだ」

莉愛「斬った感触…。―――あっ。もしかしたら…メフィストは『街を上書きする魔法』の代償に、自分の心臓を捧げたんじゃないかしら。だから、斬っている感触がないのかも」

ジャック「『心臓』をだぁ?!なんでそんな、自分の命を」

ニャミ「うーん…。多分、それくらい犠牲にしないと使えない魔法だったんだと思うよ。メフィスト、そういうところは他の人の命や魔法を使いそうな性格しているし。自分の心臓を代償にしないと使えない、それくらいとんでもない魔法を使ったってことだよね?」

莉愛「……恐らくは。街を造り替えるってことは、すなわち『世界を造り替える』のと同じこと。普通は神様がすることよ。―――彼の心臓だけじゃない。入れ替えるだけの魔力を、もしかしたら他の魔族からも奪い取っていたのかもしれないわ」

ジャック「ちっ…。なんなんだよ。そこまでして自分の野望の方が大事なのかよ…」

ニャミ「あれ?でも、メフィストの心臓がないなら―――。いくら大包平さんが頑張っても倒せないよね?」

ごくそつ「そこに気付いちゃう?ニャミちゃ~ん。そうなんだよね~。ぼくたちからは今メフィストの姿は見えていないし、仮に見つけられたとしても~?心臓がないからきれな~い!八方ふさがりだね!きょひょ!」

ニャミ「笑ってる場合じゃないでしょ!!うう、あいつを何とかしないとMZDもこの街も元に戻らないのに~~~!!!」



 そう。現在メフィストはミミニャミ達から姿を消して、こちらに魔法を撃ってきていました。さらに、彼女達も『メフィストが代償に心臓を捧げている』ことに気付きました。つまり、メフィストの身体をいくら切っても、心臓がない為倒すことが出来ないことになります。
 いくら大包平が強い刀でも、倒せない相手に延々と刀を振り続けるのは無謀というものです。自分達がとんでもないことに気付いてしまったと分かっても、ごくそつくんはけらけらと笑うだけ。そんな彼についニャミもつっこみます。



莉愛「メフィストの心臓を見つけて、直接叩くしかなさそうだけれど…」

ニャミ「でも…。そんな簡単に見つかるかな?壊されたら不味いものなんだし、あたし達が想像つかないところに隠してそうだけど…」

ジャック「―――ん?おい、あれを見ろ」

ニャミ「え?どうしたの?」

ジャック「神の家の付近だろあれ。なんか浮かんでる」



 ふと、ジャックが目を凝らしながらある一点を指さしました。その場所を身を乗り出してよーく見てみるニャミ。そこには……。確かに、『紫色の巨大なハート』が浮かんでいるのが見て取れました。
 ―――紫色のハート。その言葉を聞いた莉愛がはっとした表情で口を開きます。



莉愛「あれ、もしかして……。『メフィストの心臓』なんじゃ…」

ニャミ「な、な、ななな、なんですと~~~?!あの紫色のハートが?!確かに遠目から見てもドクンドクン言ってるし、不気味で気持ち悪いけど…。なんであんな分かりやすい場所に…」

莉愛「―――もしかしたら、異世界のあなた達が動き出したのかもしれないわ。メフィストが自分達を助ける理由が無くなった。彼は利用価値が無くなったら、仲間や部下でもすぐに切り捨てる奴よ。
   ……彼女達が独断で動き出していてもおかしくない」

ごくそつ「なるほどね~」

大包平「―――莉愛、と言ったか。その言葉、俺は信じるぞ。何せ今しがたはっきりとした『根拠』をこの目で見たのだからな!!」



 ミミニャミ一同も、メフィストの浮かんでいる心臓を発見!分かりやすい表情で驚きを見せるニャミ。そんな彼女に冷静に莉愛は自分の意見を述べます。それに続いて大包平も『賛同する』と言葉を続けました。
 どうやら彼が『信じる』に至る根拠があるらしいのですが……。



大包平「あの心臓が現れた瞬間、攻撃が緩まった。恐らく―――敵にとっても心臓を晒されることはまずいことなのだろう。あの兎と猫の少女が動き出したことは想定外だったと俺は踏んでいる」

ジャック「じゃあ、あの紫の心臓を破壊すれば……!」

莉愛「魔法の『代償』が消え失せるから、街にかかっている上書きの魔法も解ける。―――元に、戻る筈よ」

ニャミ「よーし!それなら早速MZDの家に……ってミミちゃん!ミミちゃん!しゃんとして!しっかりしてってば!!」

ミミ「で、でも……」

ニャミ「でもじゃない!自分の握っているペンダントをよく見て!!」



 確かに、大包平の指示と車への衝撃が明らかに減っていました。ということは。心臓が視認できるようになったのは彼にとっても想定外。メフィストの心臓そのもので間違いないのでしょう。―――叩くべきところが、見えてまいりましたね。
 早速そこまで車を飛ばすよう頼みかけたニャミでしたが、唐突にミミに声をかけます。そこで、やっと彼女は泣きはらしていた顔を上げながらぼそぼそと『なに…?』と呟きました。未だショックが抜けていないのでしょう。
 しかし、そんなことはお構いなし。自分の手に変化が起こっていることを伝えます。恐る恐るそこを見てみると―――。なんと、ミミの両手が光っていました。



ミミ「……えっ?えっ、な、何ーーー?!」

ニャミ「ミミちゃん、確か車に乗る時にヴィルさんのペンダント持ってきてたよね?」

ミミ「うん。置いてったらまずいと思ったから……。で、でも、なんで、何で光ってるのーーー?!」

ごくそつ「―――う~~~ん。光ってるだけじゃないみたいだね~~~???」



 両手に握っていたのは、ひびの入ったヴィルヘルムのペンダントでした。ゆっくりと開いてみると、淡い、温かい光がペンダントから放たれていました。そして―――それを見た瞬間、ミミとニャミの脳裏に懐かしい思い出が蘇ります。



 14回目のポップンパーティ。テーマは『ディスコ』。懐かしくもどこか新しい、近未来的な宴だった。……そう。『彼』と出会ったのも14回目だった。色んな目に合ったけれど、だからこそ今の関係があるのだと。彼女達は思い出を噛みしめながら、そんなことを思いました。



 はっとして周りを見ると、脳裏に浮かんでいたパーティの光景は消えていました。何だったのだろうと不思議に思っていると、ごくそつくんが目の前を見て口走ります。



ごくそつ「まるで道しるべみたいに光が続いてるねぇ。行先は―――」

大包平「少年の家、だな。あの道しるべの通りに進めば、危害なく目的地に辿り着けるということか?」

ミミ「……うん。きっと、そう。多分この光は、わたし達が今まで経験してきた『ポップンミュージック』の思い出そのものなんだよ。みんなが、みんなの思いが、力を貸してくれてる。そんな気がするんだ」

ニャミ「もしかしたら、あの光を辿って行けば―――。MZDにも思い出してもらうことが出来るかもしれない。今までのポップンを。これからのポップンを。だから……」

ごくそつ「言われなくても分かってるよ~~~。あの光、ぼくたちが通って来た『ポップン』そのものだもんね」



 まるで自分達を導いてくれているように、光は少年の家へと続いていました。この光は『ポップン』の全ての思い出が詰まっている。この道を辿ることで、過去に縛られているMZDを救い、そしてポップンの『未来』へと繋げることが出来るかもしれない……。道に伸びる一本の光を見て、彼女達はそう思ったのでした。



ごくそつ「―――それじゃあ。ミミちゃんとニャミちゃんの案に乗ってみよっか~~~。全速力でとばすけどぉ~~~???大包平く~ん。あのクソ道化師の攻撃はどうなってるんだ~い?きょひょ!」

大包平「頻度は減ってきているが、なくなった訳ではない。―――言わずとも分かる。あの家にたどり着くまで、この車には弾1つぶつけさせやせん。
    俺を誰だと思っている。俺は池田輝政に見いだされた『刀剣の横綱』だぞ!!」

ごくそつ「さっすがぼくの刀!!よ~~~し、それじゃあ全速力で目的地まで走っちゃうよ~~~ん!!!!!きょひょひょひょひょひょ~~~~~!!!」




 目的地はただ1つ!それが分かったのならばやることは1つ。希望を胸に、車は全速力で少年の家までの道を進んでいったのでした。
 ―――ポップンの未来を守る為。そして、これからの未来を創っていく為に……。