二次創作小説(新・総合)

#CR10-4 -1 ( No.70 )
日時: 2021/07/05 22:20
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: 1lEcCkWN)

~???~



「うぅ~~~ん……?」



 最後に見た景色は少し崩壊しつつも威厳が残る神殿だったはずだ。そう記憶を思い起こしながらミミとニャミは目を覚ましました。しかし、今見ている景色は違います。
 かつて自分達が訪れたことがある場所。だけど―――どこか歪んでいる場所。ぼんやりとした頭が覚醒すると同時に、見えた景色にそういう思いを抱きました。そして。



「ミミちゃんミミちゃん、大変だ!ジャックとジルクさんが倒れてる!」
「えぇーっ?!どこ?!どこどこ?!」



 『ジャックとジルクファイドが倒れている』ニャミの声で頭が完全に覚醒したミミは、思わずきょろきょろと辺りを見回します。そして―――すぐそばの廊下に2人が倒れているのを発見しました。
 すぐに2人に駆け寄り、慌てて起こしにかかりました。



「だ、大丈夫?!死んでないよね?!おーいってば!!」
「……激しく揺らされるほうが死にそうなんだっての。大丈夫だよ俺もジルクも。お前らより丈夫なんだから」
「あっ、起きた。話す元気があるなら大丈夫だね!」
「ここで起きたのはお前達だけなのか?神や幽玄紳士は…」
「MZDもヴィルさんも見てないよ。ここにいるのはあたし達だけ」



 揺らし方が揺らし方なので思わずジャックは『酔う』と一言しかめっ面。ジルクもすぐに起き上がり、お互いの無事を確認します。しっかり動けるなら心配いりませんね。
 そして……姿の見えないボス2人の話をし始めました。片手間に世界をぶっ壊せる2人のことです。そう簡単に消える筈がないとは思いますが。
 心配した矢先、話題の中心にいた2人の声がすぐそばに聞こえてきたのでした。



「おー。起きたか。全員無事ってとこ?」
「何が無事なもの、か。訳の分からん幻の空間に閉じ込められているんだぞ」
「MZD!ヴィルさん!今までどこに行ってたのよー!心配したじゃん!」
「心配しなくともお前らが気絶している間にぐるっと回り偵察してたのー。オレが神様なこと忘れてませんかお前さん達?」
「神でも心配なもんは心配なんですー!もうっ!そう言われるなんて心外だよっ!」
「それにしても…『幻の空間』って、どういうことなんだ?」
「言葉通りの意味だ。この空間―――。見た目はラピストリア学園に似ているが、実際はただ私達を惑わす幻の空間。大方あの邪神の罠にでも引っかかったのだろうな」
「んだよそれ…。まだ近くに誰かいないのか?」



 ヴィルヘルムの発した『ラピストリア学園』という言葉でミミとニャミはハッとします。確かに見た目は似ている、と。起きた時にぼんやり感じていた懐かしさはきっとこれなのだと。
 ですが、彼は即座に『幻の空間』だと言い切りました。アンラが自分達を罠に嵌める為に用意した空間だとも。もしこの場にボス2人が一緒に飛ばされていなければ、この空間を『ラピストリア学園』だと勘違いしたまま彷徨っていたかもしれません。
 ―――そんな彼女達に近付く影がもう2つ。気配を察し構える一部でしたが、それも杞憂に終わりました。



「あら…。私と戦いたいのですか…?私、ポップンバトルはあまり上手くありません、の。いえ…それとも、邪神の力を発揮しても…?」
「おー?やんのかー?やんのかー?やるんだったら信仰しろー」
「戦いませんし信仰しません。信仰するならクソアニメに帰れ」
「ニアさん!旧支配者さん…で、いいんだっけ?」
「うふふ…。また随分と厄介な場所に閉じ込められてしまいましたわ、ね…?本来ならば私が閉じ込める立場ですのに…」
「不穏なことを言わないでくれ…」
「あの邪神、大方オレ達分散させて各個撃破するつもりだったようだなー!まさか神が3体とやべー魔導師1体一緒の場所に飛ばしちまったみたいだけどなー!」
「そんな明るく言う台詞じゃないだろ」
「完全に舐められている。気に喰わん。早いところここから脱出してあの邪神を滅ぼさねばな」
「ちょっとちょっと、勝手にお怒りになるのは勝手だけど飛ばされたからにはやることがあるでしょ?」
「やること?」
「さてミミ、ニャミ。ここで問題です。オレ達がここで目覚める前にアンラはなんて言ってたか覚えてるかな?」



 やって来たのはニアと旧支配者でした。信仰するならクソアニメのコントでやってくれ。
 相変わらずマイペースなやり取りに空気を持っていかれそうになる一同でしたが、寸のところで踏みとどまり本題に戻します。恐らくこの場所に飛ばされてきているのはこれで全員。そのことから、バラバラの場所に飛ばして潰す魂胆ではないかと旧支配者は推測しました。
 完全に下に見られ、舐められていると怒りをあらわにするヴィルヘルム。これは戻った時に大変なことになりそうな予感。……そんな彼をやんわりと止めた後、MZDはミミとニャミにアンラに何を言われたかを思い出すよう諭しました。
 そう。何を言われたか。彼女達はMZDの言葉通り、記憶を頭の中で整理します。そして……1つの『答え』に辿り着きました。



「『『核』を壊したいのだろう? 出来るか試してやろう。貴様らにも『話をしたい』奴がいるからなあ』って言ってたね。あれ?ってことは……」
「もしかしてこの近くに『核』があるってこと?」
「そう。アンラがわざわざそんなことを言ってまで『核』から遠ざかった場所にオレ達を飛ばすわけがない。確実にオレ達が歩ける範囲に『核』はあるってことだ」
「―――あっ!それなら。相手はこっちのこと完全に下に見てるんだし、『核』なんて壊せないって思ってるはずだよ!その裏を突けばいいんだよ!わたし達がその『核』を見つけて壊しちゃえばいいんだ!」
「幻とはいえラピストリア学園なんだし、怪しい部屋を探っていけば見つかるんじゃない?」
「脱出経路はどうするんだよ。いつまでもここにいるわけにはいかないだろ」
「一緒に探せばいいだけの話だろう。ミミ、ニャミ。怪しい場所と言ったら―――君達はどこを思い浮かべる?」



 幻のラピストリア学園。この場所に『核』があるのだと答えが纏まりました。ならば怪しい場所を探せば見つかる筈。そう思ったヴィルヘルムがミミとニャミに尋ねました。
 ラピストリア学園で怪しい場所といえば―――。6回目の時にもあった、あそこしかありませんよね。



「理事長室が怪しいと思う!」
「6回目の逃走中の時も理事長室でドンパチしてたし、最後ジェイドくんが意味深な言葉残していなくなっちゃったし…。理事長室に行けば何かわかるかも!」
「ならば…早いところ目的地への移動を開始しましょう。この地に長居は禁物。悪影響は免れません、わ」
「悪い気がひしめいてるもんなー。元凶をさっさと潰して戻ろうぜ!ついでに竹○房も破壊して!」



 竹○房は破壊しないでくださーい。……そういえばその会社、本社が解体されたとかされないとか売ったとかそういう話を耳にしましたが…本当なんですかね?
 それはともかく。邪神の力がこの場を巡っている以上、長居は禁物だと忠告するニア。ならとっとと要件を済ませるしかない、と一同は急いで理事長室への道を走り始めたのでした。



















~幻のラピストリア学園 理事長室~



「…彼ら、本当にこっちに来そうだね。くすくす…あの時酷い目に遭わされた分やり返さなくちゃ…♪」
「これが『核』―――。本当にラピストリアの形をしているのだな」
「元々は実態を持たないとか言ってたからね…。この場所に適合する形にでも変わったんじゃない?」



 そう呑気に話を続けているのはジェイドとジェダイト。ミミ達の予測通り、理事長室で何かを企んでいるようですね。そして…ジェイドの手に収まっている小さな宝石。それがあの『門』を生成している『核』でした。
 6回目の時に『バックアップがいる』と話していましたが、そのバックアップはやはり邪神だということがここではっきりしましたね。



「ねぇジェダイト。あの子供の言うこと本当だったね。『会いたい奴にあわせてやる』って」
「あの者を信頼してはいない…が、お前をもう一度『神』と呼べるような存在に昇華したのは他でもないあいつだ。今は―――要望を聞くしかないだろう」
「そうだけど。あいつらも知ってると思うよ。この空間のどこかに『核』があるってことを。……ま、どこにあるか教えてあげるかはあいつらの頼み方次第だけどね…くすくす♪」



 あーあー。明らかに見下してるわ。まぁ6回目、散々煮え湯を飲まされてた2人。表面上は穏やかに話していても内なる怒りが物凄そうです。
 ―――その矢先でした。ジェダイトが何者かが近づいて来る気配を感じます。



「ジェイド。誰かがこちらに近付いているようだ」
「へぇ…。お早いご到着じゃないか。くすくす…♪」



 くすくすと笑みを浮かべながらも、『核』を持っていない手は血が滲み出そうな程強く握られていました。
 それと同時でした。バン、と力強い音と共に扉が開かれ、『会いたかった』人物がここに辿り着くのは。






















『ジェイドくん!!!』
「やはりお前達…邪神と手を組んでいたのか!」



 やってきたミミニャミ一同を目の当たりにしても表情を崩さないジェイド。微笑みを保ったままジルクの言葉にこう返します。



「心外だなぁ?言っただろう?彼らとは手を組んでるんじゃなくて、『利害の一致』で共に行動しているだけなんだって。
 くすくす…お前らもつくづくアホだよねぇ。わざわざ僕に殺されにくるなんてさ」
「ジェイドくん。『核』を渡して。このままじゃわたし達もあなたも大変なことになっちゃうの!」
「ジェイドくんだって死にたくないでしょ?!元の無邪気なジェイドくんに戻ってよ!」
「『核』?あぁ、大方あの全知全能の神に『壊せ』って言われでもしたんでしょ?MZDに聞かれたなら隠し通そうとしたけど……君達になら特別に教えてあげようかな」



 あくまでもジェイドを、ジェダイトを助けたい。ミミとニャミからはその気持ちが一際強く感じられました。元々教えるかは決めていなかった彼でしたが、彼女達のそのまっすぐな言葉に『特別に』教えてあげることにしたようです。
 警戒を緩めない一同に見せつけるように、自分の持っている『ラピス』を見せるジェイド。そして、告げたのでした。このラピスが『核』だと。



「君達が探している『核』はこれさ。このラピストリアの幻影を造っているのもこれだよ」
「つまり、その宝石をぶっ壊せば俺達は元の世界に帰れるってことだな」
「でも、さ。そんな易々と話したとして……簡単にお前達に渡すと思う?」
「……えっ?」



 だから甘いんだよ、と彼はぼそりと口走ります。ジェイドは『核』を浮かせたと思ったらそのまま指パッチンでどこかに消し去ってしまいました。
 そして―――一同に向き直ります。怒りの矛先をぶつけるように。



「こうして穏やかに話している訳だけどもさぁ…。僕、今凄くはらわたが煮えくり返ってるんだよね。―――あの時散々コケにしてくれたこと。忘れてないよ」
「あらそう。洗脳も溶けてない反省もしてない、ってことね。厄介な子供だこと」
「どの口が言う」
「言ってる場合か!『核』さえ壊しちまえばこっちの勝ちなんだ。さっさと片をつけるぞ」
「簡単に行くと思うなよ。ここでお前達を倒し、戦力を削ぐ。それが我々の最優先事項だ」



 そう言うと、ジェダイトはジェイドの前に立ち、戦闘態勢を取りました。それに反応するかのように各々武器や魔力を用意し構える男性陣。ミミとニャミを隠すように槍を構え、MZDはこっそりと彼女達に告げます。



「ミミ。ニャミ。さっきジャックの言った通り、『核』さえ壊しちまえば後はどうとでもなる。お前さん達にはそれを探し出して壊してほしい。重要なこと任せちゃうけど、お前らなら大丈夫だよね?」
「うん。誰に物を言ってんの?このミミちゃんにまっかせなさーい!」
「MZDが悔しがるような活躍しちゃうんだから」
「ふっふー、言うじゃないの。……あいつらはオレ達がひきつける。お前らには絶対に指一本触れさせないから。安心して探しておいで!」



 『核』の破壊。それが自分達の勝つ条件だとMZDは言いました。それをミミニャミに任せたいとも。確かに戦闘をしながら探すのではあまりにも労力がかかりすぎます。なら、戦闘が出来ないミミとニャミに探索を任せて戦うことに集中した方がいいですもんね。
 その言葉を聞いたミミニャミは、絶対に探し出すと彼に約束して彼から少し離れたのでした。



「……何話してるのか知らないけど。煩いんだよお前達。神である僕の前で生意気にそんなことしないでくれるかなぁ?」
「神様は慈悲深い存在なんですけど。勘違いしないでいただけます?」
「あっははははははは!!!!!」



 やはり僕とMZDは相いれない存在だ、そう言ってジェイドは狂ったように笑います。
 そして―――身体半分を鉱物のように変えてしまいました。……かつて、ラピスに浸食されてしまった時のように。
 あいつは本気なのだ。少年はそう悟り、構える槍をぎゅっと握り直します。



「MZDは直々にこの僕が消してあげる。前のように上手くいくとは思わないことだね…♪」
「では、私はあの暗殺上司と部下を相手どればいいのだな?」
「うん。あんな雑魚、ジェダイト1人で充分でしょ」
「『雑魚』だってよクソ上司。……どんだけ力ため込んでるか知らねぇが、腹立つなぁ」
「そうか、『雑魚』か。―――徹底的に滅ぼしてやろう」
「ジルクはオレと一緒にいてねー。ミミニャミに攻撃通しちゃったらやばいし」
「承知した。彼女達の身は俺が守る」



 互いに沈黙の時間が続く。



 ―――それを打ち破ったのは……。鉱物が弾ける小さな音でした。




















「神!前方―――来る!!」
「よーし!お前らー!ミミニャミが探し出してくれるまで足止め開始ぃー!!」




 MZDの号令と共に、戦いの火ぶたが落とされる。
 それと同時に、重要な任務を任された少女達は物陰に身を潜めたのでした。

#CR10-4 -2 ( No.71 )
日時: 2021/07/06 22:24
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: 1lEcCkWN)

「―――せあっ!!!」
「ふんっ!!!」



 体術の打ち合いを繰り返しているジャックとジェダイト。現役暗殺者であるジャックはともかく、ジェダイトが殴る、蹴るイメージなんてありません。彼を図らずも囮にしながら陰に身を潜め様子を窺っていたヴィルヘルムは、1つ重要なことに気付きます。



「あの子供だけではない。校長の方も邪神から何か力を得ているのか…。厄介だな」



 そう。ジェダイトもまた邪神から力を貰ってラピスの力を増幅させていました。だからジャックの連続攻撃に対応できていたんですね。そのまま観察を続ける中―――彼は『この空間が、ジェイドとジェダイトに有利になる様に魔力が循環している』ことにも気付きました。
 ニアの言った通り、長期戦になればなるほどこちらが不利になる。しかし、何か奇襲をかけなければそうなってしまう可能性が高いのは目に見えていました。



「……あまり気は進まんが、『永久』でこの空間自体を拘束することも視野に入れればならんか…」



 そうぼそりと呟いた瞬間。彼の脳裏に何か光るものが。



「―――! 『拘束』…。そうか。その手がある…!だが、あの子に協力を仰がねばならんな。どうにか私の思いを汲み取って貰えればいいのだが……。
 ふむ。―――ここまで生きてきて 初めて『呪縛』というものに感謝をせねばならんようだな。ククク……」



 そう不敵に笑みを浮かべるヴィルヘルム。どうやら何かいい考えを思いついた様子。上手くいくといいんですが…。おやおや。今まで散々苦しめられて来たものを遂に利用する時が来ようとは。人生何が起こるか分かりませんねぇ。
 そのまま彼は闇に溶け込んで、『準備』に取り掛かるのでした。
















「―――ふっ!!」
「僕の邪魔をするなぁッ!!!」



 一方。理事長室の奥まった方でジェイドとMZD、ジルクファイドが激闘を繰り広げていました。ジェイドの方はMZDに狙いを定めて攻撃しにかかりますが、ジルクファイドが盾になって攻撃を止めています。その行動に彼は憤慨していました。
 そして、攻撃を受け止め続けたからなのでしょうが…。ジルクファイドもとあることに気付いていました。こっそり念話でMZDに連携をします。



『神。あいつ、力が常に上がり続けているぞ』
「この空間がそうしているんでしょうよ。それ止めるには、さっきも言った通りミミニャミが『核』を見つけ出して止めてくれることを祈るしかない」
『そうか…。あいつ、俺じゃなくて神を狙ってる。お前に相当憎悪が募ってるみたいだぞ』
「まぁねぇ。神様になりたかった人間が実際に神様の手でそれ止められてんだもの。くすぶる思いを邪神に利用されるってのもまぁ筋は通ってるよな」
「よそ見をしてる場合かぁッ!!!」



 人のものとは思えないような笑い声を響かせ、ジェイドはジルクファイドの隙を突きMZDに奇襲を仕掛けようとします。しかしそこは古代兵器。そう易々と彼への道を譲る筈がありません。
 ジェイドの鉱石が身体を侵食する速度は徐々に早まっています。早く彼の暴走を止めなくては、彼が完全にラピスに呑まれてしまいます。ジェイド本来の自我も、邪気に呑まれ始めていました。



「……ちょっとまずいな。前はまだ間に合ったけど、今回戦いが長引いちまえばジェイド、ジェダイト2人にも悪影響が及ぶ。―――最悪、2人を助けられなくなる」
『それもアンラの与えた『邪気』のせいなのか?』
「あぁ。強大な力を与える代わりに自我を失わせ駒にする…。そうとう厄介な『毒』だな」
『『毒』…』



 短期決戦を決め込まないとジェイド達も助けられなくなると気付いたMZD。その為には、いち早くミミとニャミに『核』を破壊してもらう必要があるのですが…。
 ―――そんなことを考えている折でした。ジェイドの放った鉱石が、自分の帽子を掠めます。もしそれに気付くのが1秒でも遅ければ―――。彼の一撃をMZDが喰らっていたのは明白です。



「戦っているのにお喋りかい?そういうところが気に入らないんだよ!!」
「あっぶね!うわー、今のはヒヤヒヤしたー」
「すまん。俺も気を取られていた」
「だいじょーぶだいじょーぶ。お前が守ってくれてるから、避けるのに専念出来てるよ。サンキュ」
「だったらその減らず口から鎖してあげよう!!」



 そう言うと、ジェイドは自分の腕を刃物のように変形させ、狙いをジルクファイドに変えました。いつまで経っても目の前の障害が消えないのなら、障害を消してからゆっくりと標的をいたぶろう。そう考えたのでしょう。
 しかし、近接戦闘に関してはジルクファイドの方が上。刃物の攻撃も全て受け流してしまいました。―――攻防を続けていた矢先。再びMZDから念話が届きます。



『おーい。聞こえてるジルク。戦闘中申し訳ないけどさ、ちょっとお願い聞いてくれない?』
「お願い…だと?集中を切らせば攻撃を受けてしまう。手身近に頼むぞ」
『分かってるよ。……これから、出来るだけジェイドをジェダイトの方向まで誘導できる?ちょっと考えがあって。協力してほしいんだよね』
「考え?何か策を思いついたのか」
『うん。ついさっきからヴィルが煩い程に呪縛通して何か伝えたがってんだよね。多分考えてることは一緒だから―――ジャックも同じことしてるんだと思う。ジルクもそれに合わせて、動きを変えて誘導してほしい』



 おや。ヴィルヘルムの思いが届いた様子。呪縛ってこんなことにも使えるんですねぇ。
 余談は置いておいて、MZDはジルクファイドに『ジェイドの誘導』を頼みました。MZDへの攻撃がジルクファイドに逸れている今、彼が動けばそれをジェイドが追う。動きを利用して、とある場所まで誘導してほしいと頼みました。
 その言葉にジルクファイドは『MZDに何か策がある』と判断し、頼みを受けることにしたのでした。



『ジャックも動き始めてる。あいつと念話でもいいから連携取って。オレはこれから『準備』すっから』
「分かった。―――くれぐれも気を付けてくれよ。お前が倒れたらポップンが全て消えるんだからな」
『あーもう!それはミミニャミに口酸っぱく言われてるから分かってるよ!それじゃあ…頼んだぜ』



 その言葉を最後に、念話が途切れます。それと同時に背中の羽を展開し、空へと舞い上がるジルクファイド。それを追うように空中へと浮かび上がるジェイド。ラピスに呑まれると浮けるのか…。
 ジャックの様子をちらりと見やった後、彼も『頼み』に応じるように空中を舞い始めたのでした。















 ―――一方。『核』を探しているミミとニャミは、ニア、旧支配者と合流し陰に身を潜めていました。少しだけ顔を乗り出すと、鈍い鋼の音や割れる鉱石の音。魔力が爆発する音。『戦いの音』が耳に入ってきます。
 気付かれないように少しずつ移動を始めました―――が。ふと、ミミは『あ』と声を出しました。



「どうしたのミミちゃん?変な声出しちゃってさ」
「そういえば、『核』ってどのあたりにあるんだろうって思って。目星付けないままこの広い理事長室を探すのはちょっと気が引けるよ~…」
「確かに。隠し場所っぽいところを集中して探さないと、MZD達にも負担をかけちゃうよね」
「まぁ…。彼らを囮にしらみつぶしに探さない選択を取るとは…。流石は勇気のある探索者達ですわ、ね?」
「時が時だったらSAN削ってもいいんだけどな!」
「削るな!クトゥ○フで遊んでんじゃないんだから!」
「あの…ニアさん。そういえば、あなたって『玄武』だけど『邪神』なんだよね?」



 だだっ広い理事長室をヒントもなく『核』を探す。頼まれたとはいえ割と無理難題でした。邪神共が何か言っていますが今は放置しておきましょう。
 しょうもないボケとツッコミを繰り返している矢先、ミミがニアに質問を投げかけます。彼女は黙って首を縦に1回コクリ。そして、『それがどうかしたのか』と口を開きました。



「なら、『核』のありかについて調べることって出来る?だって、この空間を創り出した元凶って元を辿れば邪神なんだし…『核』も邪神の力ってことになるよね?」
「あ、そっか!同じ邪神同士なら分かるかもしれないもんね!出来たらで良いので、どうか探してくれませんかニアさん!」
「あらあら。神遣いが荒いとは音神様にお聞きしておりましたが…本当のようですわ、ね?しかし…私とアンラ・マンユの力は似ているようで違うもの。『邪神』にも様々な存在がいるものです」
「俺とこいつも違う神だからな!」
「そんなぁ~…。じゃあ無理ってこと?」
「いいえ?―――やってみる価値はあるかもしれません、わ。面白そうですし…やってみましょう。それに、これが上手く行けば…今後人間共を『非日常』に堕とす為に色々と使えそうですもの…。
 うふ、うふふ、うふふふ……!!」
「ねぇねぇニャミちゃん、わたし何か変なこと頼んじゃったのかな?行ってはいけない領域に足を踏み込んだような」
「それ以上考えちゃ駄目だよミミちゃん。あたし達のSAN値が削れちゃう」
「SAN値!ピンチ!SAN値!ピンチ!」



 ミミの『ニアの力で『核』のありかを探せないか』という頼みに、最初は首を傾げていた彼女。しかし……自分でも考えつかなかったその新鮮な方法に感服し、結果『やってみる』ことを承諾してくれました。―――その理由が未来でとんでもない犠牲を生みそうな気はしますが、今は考えないでおきましょう。知ってしまったらまずい。
 そう判断したニアは『善は急げ』とばかりに意識を理事長室全体に集中させます。そして―――『アンラの邪気』を辿り始めました。



「あの忌々しい邪神の邪気…3つ…。1つは黒い男に。1つは白い少年に」
「ジェダイトさんとジェイドくんのことかな。やっぱり邪神の影響を受けていたんだ…」
「そしてもう1つ…。―――眩しい。熱い。これは……『人工的な光』。ここが一番邪気が濃いところです、わ」
「邪気が濃い……ってことはおい、ウサギにネコ!もしかして!」
「熱い、眩しい『人工的な光』―――。何かで照らしている…?」



 そう、ニャミは天井を見ました。天井には大きなシャンデリアが中央にぶら下がっており、眩しい程に光を放っています。そこで……彼女は気付きます。
 『核』はそこにあるのではないかと。シャンデリアには無数の宝石がちりばめられています。その中の1つが『核』なのかもしれないと。



「みんな!分かった!『核』のある場所!」
「えっ どこどこ?!」
「シャンデリアだよ!熱くて眩しい人工的な光!あの天井にある奴!」
「……成程。確かに宝石に紛れ込ませれば……普通は気付きませんわ、ね?」
「旧支配者さん!MZDと連絡取りたいんだけど!」
「おう!任せろ!」



 確信が出来たなら後は破壊するだけ。方法をどうするかMZDに相談する為、旧支配者に念話を繋ぐよう頼みました。
 彼はサムズアップをしながら連絡を繋げてくれています。これがクソ顔のあいつでなければとっても頼もしかったのですが。いや今も頼もしいんですが。
 ―――数刻たった後、聞きなれた少年の声が。それに割り込むようにニャミは要件を話しました。



『ちっす』
「MZD!分かった!分かったよ『核』の場所!」
『うんうん、分かった。分かったから一旦落ち着け。―――で?どこだって?』
「シャンデリアの宝石だよ!その中のどれかが『核』だ!」
『ふーん、成程ね? それなら……呪縛で縛った後にシャンデリアを落とせば一気に『核』ごと破壊できそうだな』
「ちょっと。物騒なこと考えてないでしょうね?声がニヤニヤしてるんだけど」
『いや~?我ながらいい考え思いついたと思ってさ。で、旧支配者。あいつらが罠にかかったタイミングでシャンデリアにお前の銃弾ぶっぱなしてほしいんだけど。落ちるまで』
「お?俺でいいのかよ?ここにニアもいるぜ?」
『いーや。ニアの力使うとどっちかに勘付かれて逃げられる可能性がある。ここは物理的に解決した方が良いこともあるのさ』
「あら…。私の力を随分と見くびっておられるのですわ、ね…?」
「そうじゃない、そうじゃない」
「ニアさん、とりあえず背中の触手仕舞おうか。うねうねしてて気持ち悪い!」
「触手は貴方様がたと仲良くしたい、と仰っております、わ…?」
「わたし達は出来れば仲良くしたくないです!!」



 ニャミから『核』の位置を聞いたMZDは、すぐさま旧支配者にある『頼み事』をしました。その内容が、『ジェイドとジェダイトが罠にかかったタイミングでシャンデリアを落としてほしい』というもの。この神……2人相手にするのが面倒になって一気に片を付けようとしてませんかね?
 そんなことはともかく、『終わり』を迎えられるチャンスならば逃さない手はありません。旧支配者は乗り気で『俺様がとどめ指してやるよ!』と頼み事を引き受けてくれたのでした。



「そんじゃ一旦念話切るぞ!」
『はいはーい。オレもジルクに連携するわー。そんじゃ、作戦の成功を願って。頼んだぜ!』




 ぷつり。小さな音と共に念話は切れました。そして、いつでも銃を放てるように旧支配者はどこからかハンカチを取り出し、得物を丁寧に磨き始めたのでした。
 さて。ミミニャミ達は無事に『核』を破壊し、幻のラピストリア学園から脱出することが出来るのでしょうか…。

#CR10-4 -3 ( No.72 )
日時: 2021/07/07 22:06
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: 1lEcCkWN)

 MZDから特定の場所までの誘導を頼まれていたジルクファイド。つい先ほどMZDから念話があり、その『特定の場所』が提示されました。……あの大きなシャンデリアの真下。そこが誘導先でした。
 それはジェダイトを誘導しているジャックも一緒。まぁ彼の場合は詳細を知らされず『黙ってやれ』と上司に命じられているはずです。そういう関係ですから彼ら。

 ジルクファイドは、それに応じる返事代わりに後ろから追ってきているジェイドの身体に一発、レーザービームを撃ち込みました。気が立っているのか撃たれたジェイドは避けることもせず、当てた場所から鉱物が崩れ落ちる音だけが聞こえてきました。それも束の間。一瞬目を離した隙に撃った筈の箇所は元通りになっており、ラピスの厄介さを物語っています。



「そんな子供騙しで僕を倒そうとしても無駄だよ、無駄!MZDを倒す前にお前から潰してやる!!」
「(あともう少しだ。耐えきるぞ!)」



 シャンデリアの真下で彼を床に投げ飛ばす。その算段で再び移動を始めるジルクファイド。―――上手く行きますように!





 一方、地上からジェダイトを誘導しているジャック。かつてラピストリア学園でミミとニャミを襲った黒い矢が、今度は彼を四方八方から追いかけていました。しかし彼だって暗殺者。身のこなしには自信があります。
 最後の一矢を避け切った後、目的地―――『シャンデリアの真下』まで再び移動を始めます。



「上司に『ジェダイトをシャンデリアの真下まで誘導しろ』って命令が来たけどよ…。あいつ、また何か企んでやがんのか。はぁ…」



 今まで散々上司に煮え湯を飲まされ続けてきたので、本当なら聞きたくないと突っぱねたいところでしたが―――。ジルクファイドも同じような指令を下されているらしく、その手前逃げ出すわけには行きませんでした。彼が任務をほっぽった場合、ジェダイトの攻撃の矛先がミミやニャミに向くかも分かりませんからね。
 この戦いを早く終わらせて、さっさとこんな訳の分からない場所から脱出できるならなんだっていい。今のジャックはその思いで任務を果たそうとしていました。

 そして。ジャックを追いかけていたジェダイトでしたが…ふと、彼の動きがおかしいことに気付きます。



「先程から避けることしかしていない…。こちらに攻撃する素振りを見せていない。―――まさか。私達を貶めようと算段している訳ではあるまいな」



 敵側が何か自分達を罠に嵌めようとしているのか。そんな分かりやすい惑わしに引っかかるか。抵抗しようと別の場所にラピスの力を放とうとしましたが―――。
 彼は、そこで気付いてしまいました。



 その判断が『一足遅かった』ことに。




















『ぐあぁっ!!!』
「―――っ?!」



 上から落ちてくる鉱物の雨。ジェイドが何者かに地面へと落とされたのです。誰がやったのかと天井を見ますが、シャンデリアの光が邪魔し犯人を見定めること出来ませんでした。
 彼らがシャンデリアの光に照らされた瞬間―――その周りをバチバチと白と黒の光が覆い始めます。それは―――2人に迫っていました。自分達を捕まえんとばかりに。



「ジャック!ジルク!その場から離れて!!!」
「ぐっ―――!貴様ら……!!」



 白と黒の光はすぐさまジェイド、ジェダイトの身体を拘束。その場から動けなくしてしまいます。そう。2回目の時に操られたジルクファイドを拘束する為に『呪縛』を唱えていましたね。あれと同じものを、シャンデリアの真下に罠として仕掛けていたのです。
 なんとか拘束を抜け出そうともがきますが、強力な魔力でがんじがらめにされては思う様に動くことが出来ません。
 ―――その隙を、『彼』は逃しませんでした。












『今だよ旧支配者さん!!!』
『任せとけ!!!オラオラオラオラーっ!!!!』



 バン、バンと鉛が発射される音が横切った。
 それは戦いを終わらせる『鐘』のようで。真上に感じる暖かい光が迫っているような気がする。



『あと2発くらいで落とせるぜーーー!!!オラオラぁ!!!』
『やっちゃえーーー!!!』



 あぁ。迫っている。『終わり』が、近づいている。
 ―――そういえば僕は…なんで『神』になろうとしていたんだっけ。神になって、人々を支配したいから。それだけじゃ、無かったような気がする。























『駄目だなぁ… 何も思い出せないや。『この世界』での僕の役割は終わりってことだね…』



 白い少年がポツリと零したその言葉は―――巨大なシャンデリアが落ち、宝石が次々に割れる音にかき消されたのだった。

















 ―――シャンデリアの落下音が落ち着いてきた頃。こちらに手招きをしてくるニアについてミミとニャミは物陰から姿を表しました。彼女達の目の前に広がっていたのは―――。理事長室の真ん中に落ちた、大きなシャンデリアの残骸。宝石は全部落下の衝撃で割れちゃってますね。
 そこでは、今まで囮を引き受けてくれていた4人がジェイドとジェダイトをシャンデリアの残骸から引っ張り上げている光景が見えました。



「思いっきり落下させちゃったけど…2人共生きてるよね?大丈夫だよね?」
「ラピスと邪神の力で色々増幅してたのが幸いだった。生傷は酷いけど、命に別状はないよ」
「そ、そっか~~~。良かったぁ…!」
「つーか、こいつら助ける義理ないだろ!なんで助けるんだよ!」
「彼女達が『助ける』と言ったからな。それに、こいつらからは色々話を聞かねばならん。……滅ぼすならばその後でもいいだろう?」
「物騒!物騒だから今はその話止めよ!ね!」
「折角面白い提案でしたのに…。やらないのは少々勿体なく思います、わ?」



 あんな巨大な落下物を直に受けたのに、2人に致命傷はありませんでした。幸か不幸か、アンラの力が影響していたのでしょう。眠ったように気を失っている今の2人にそんな力は感じられません。彼らが持っていたラピスも、シャンデリアの落下の衝撃で粉々になってしまいましたからね。今の2人はただの少年と、ただの男性です。
 物騒な会話をしている闇の者達は置いといて、そろそろこの幻からおさらばしないといけませんね。



「さーて。さっさとこの空間から出ちまうぞー。『核』が壊れたんだ。この空間も一緒に消えると考えた方がいいかもねー?」
「だから!そんな深刻そうな情報をサラッと言わないの!で、どこに出口はあるの?!」
「……玄関の方からサクヤの力を感じます、わ。もしかしたら…消えた私達を探してくださっている可能性も…!」
「とにかく!今は理事長室出よう!こんなところに長居をしている場合じゃないし!」
「ジェダイトは俺が担ぐ。少年の方はジャック、お前がおぶってくれ」
「チッ。しゃーねぇな…」



 急がねばいつ崩れるか分からない幻に閉じ込められ、永遠に帰れなくなってしまいます。『サクヤの力を感じる』と気配を辿るニアを先頭に、一同は理事長室を後にしました。
 と、同時でした。彼女達の背後からガラガラと建物が崩れ落ちる音が聞こえてきます。―――学園の崩壊が始まったのです!



「うわわ、おしゃべりしてる時間はなさそうだね?!」
「よそ見しないで玄関まで真っすぐ走れ!!ニア、先頭でミミニャミ達引っ張ってくれ!しんがりはオレとヴィルで務めるから。さ、行け!」



 崩壊する学園から脱出する為、玄関までの道をひた走る一同。その間にも、崩壊する音は徐々に近付いてきています。彼女達を呑み込まんと迫っていました。一度でも道を間違えれば、確実に幻のラピストリア学園と共に闇に葬り去れられることでしょう。
 必死に走る一同。しかし、中々玄関は見えてきません。



「おい。玄関まであとどのくらいなんだよ!もうそこまで迫って来てるぞ!!」
「もうちょっと!あとちょっとだから頑張ってみんな!」



 そう励まし合いながら走り続けた目線の先に―――一筋の光が見えました。サクヤの気配はそこから感じるのだとニアが発したと同時に、MZDがそこに飛び込むよう指示します。
 急いで!光まで辿り着ければ、絶対に大神殿に戻れるはずです!



「立ち止まるな。走れ。生きたかったらあの光に飛び込めーーーッ!!!」




 わき目もふらず、玄関から外に飛び出しました。それと同時に襲い来る眩しい光。目など開けていられませんでした。しかし、心の中は希望で満ち溢れていました。











































『―――うわぁぁぁぁっ!!!!!』




 その光の先で仲間と再会出来ることを祈りながら。彼らは意識を失ったのでした。