二次創作小説(新・総合)
- #CR10-6 -1 ( No.76 )
- 日時: 2021/07/11 22:53
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: 1lEcCkWN)
~???~
『んん…。随分と長い間気絶させられていたようだが…一体何をされたんだ?主は無事なのか。数珠丸は。大典太は。無事なのか…?』
白い学ランを身に着けた青年が倒れてる横で、三日月は意識を覚ましました。彼も現在床に転がっており、自分が今どこにいるのか見回すことすら出来ません。
まずは主を起こさねば。そう考えた彼は、早速隣で倒れている石丸くんを起こすことにしました。……呼吸音が聴こえてきていることから、眠っているだけのようですね。ひとまずは良かった。
『主。主。起きてくれ。起きてここがどこなのかを確認してくれ』
「……んぅ……?」
三日月の声でむくりと起き上がった石丸くん。寝ぼけ眼で三日月を拾い、辺りを確認。そして―――目を見開きました。
「な、何だねここは?!」
『うーむ…。まるで人間を捌く場のような気もするが…。主にも心当たりはないか』
「いや、あるにはあるのだが…。あれは『遊び』で借りたものだ。こんな場所に閉じ込められているのはあり得ない話なのだが…」
『知っているが、いてはいけない場のようだな。―――ふむ。この場にいるのは俺たちだけのようだなぁ主』
「他にも誰かがいるかもしれない。探してみよう」
石丸くんが見たのは、まるで『学級裁判場』のような場所でした。4回目の大会開催時、ゲーム内の通知で発生した裏切者を暴く為に開催したんでしたね。しかし、今立っている場所とはまるで雰囲気が違いました。そして……近くに誰もいないのか、場はしんと静まり返っています。
他に誰かいないかと探し始めた石丸くんの目線の先に、ふわふわとした髪の毛が。これはもしや。近付いてみると、そこには天海くんが倒れていました。
何回か身体を揺らし、天海くんを起こす石丸くん。そんなに強く揺らすと天海くんが気持ち悪くなっちゃいますよ。
「う…。なんだか自動車に乗ったみたいで気持ち悪いです…」
「はっ!強く揺らしすぎてしまったか。すまない、天海くん!」
「その声は石丸君ですか…って。ここはどこなんです?学級裁判場みたいですが、不気味な雰囲気を感じます」
「僕にもよく分からないのだ。君以外には誰も見つけられなかった」
『(場所を知っているであろう主達でも違和感を感じるのだから、本来の『その場所』そのものではないのだろう。
どういうことだ?)』
「とにかく。いつまでもこんな場所にいる場合ではない。きっと他の人達もはぐれているだろうから探しに行かないとな!」
無人の学級裁判場。場所が場所だけに恐怖を煽ります。石丸くんの言うとおり、こんな不気味な場所にいつまでもいる意味はありません。すぐさまここから立ち去ろうとしたその時でした。
2人の目の前にある大きなモニターが光り、裁判場を照らします。その眩しさに目を伏せる2人でしたが―――。光が落ち着いてきたころ、モニターの方向を見てみると……。そこには、けだるそうに椅子に座るモノクマの姿がありました。
『やぁやぁやっと起きてくれましたね皆さん!ボク待ちくたびれて寝ちゃいそうになってたよ~!夢で知らない連中にコロシアイけしかける夢!いやぁ、ボクってどんだけコロシアイ好きなんだ~ってね!うぷぷぷぷ!』
「モノクマ?!じゃあまさか僕達を閉じ込めたのは……」
「彼で間違いないようですね。…サクヤさん達についてくる選択肢は正解だった、と思いたいんですが…」
「モノクマ!いったい僕達をここに閉じ込めて何を企んでいるんだ!」
『ちなみにね?その夢の内容が妙にリアルでさ。ボクが高級リゾートホテル改造して超高校級の生徒をそこに閉じ込めるんだよ~!ホテルだよホテル。ジャバウォック島みたいにスケールは大きくないけどさ、リゾート気分は充分味わえると思わない?いや~、ボクって夢の中でも天才だよね~!ぷひゃひゃひゃ!』
『2人共。こちらの声は伝わっていないみたいだぞ』
「なら、いくら説得したって望む答えは返ってきませんね…。録画したものを流しているんでしょうか?」
「罪木くん達の居場所を聞き出したかったが。無念だ…」
『問うたとして、教えてくれそうにはないがな。……話が進みそうだ。黙って聞こう、主』
モニターの中のモノクマにはこちらの声が届いていないようで、ひたすら自分の見た夢の話をしています。え?夢の内容どこかで見たって?どこなんでしょうね~。
石丸くんは未だ見つかっていない残りの3人の居場所を聞き出そうとしていましたが、この調子では実際に受け答えが出来たとしてもはぐらかされて答えられなさそうです。
そうしている間にも、モノクマはこちらに続けざまに話を続けてきます。
『あっ。そうだ。夢の話をし過ぎて本題を忘れそうになっていたよ!
あのさぁ、オマエラ起きた時『人数が少ないな』って思わなかった?大正解!だって他の3人はボクが別の場所に案内したからね!』
「3人はここにはいないんですね」
『あっ!ついでに『真実』を思い出せるよう手助けもしてあげたんだよ~。ボクって凄いでしょ!褒めて褒めて~』
「『真実』だと…?」
『…………』
どうやら罪木さん達3人はこの場にはいないようです。モノクマのことですから、何か細工をしている可能性が高いのでしょうが…その表情が妙に満足気。その『細工』が厄介なものだと三日月はすぐに気付きました。
何が何だか理解が追いついていない2人に、モノクマは言い放ちます。
『いい機会だからオマエラにも思い出させてやるよ!えいっ!』
そう言って、モノクマがぱちんと指を鳴らしたその時でした。
……2人を強い頭痛が襲ったのは。
「―――っ?!」
「……な…なんですかっ…これっ……!!」
『主?!』
頭が割れるような痛みのそれは、徐々に強さを増していきます。次第に経っていられなくなり、思わず膝をついてしまう石丸くん。そんな様子の2人を見て、慌てて声をかける三日月。しかし、その声も届いていないようです。
―――痛みの奥に、ふと『見えてはいけないもの』が見えた気がしました。ぼやけているが、思い出さなくてはならないもの。石丸くんは痛みに耐えながら、その光景をしっかりと見やります。
そこには。
鉄で出来た球体の中で、バイクに乗った兄弟が驚異的なスピードで振り回されている光景。
兄弟はいつの間にか姿を消し、その場に残ったのは倒れたバイクだけ。
―――チン。そんな音と共に現れたのは……彼の顔がプリントされたバターだった。
……自分が『兄弟』だと認めている彼の、無惨な死に様が写っていたのでした。
その光景をはっきりと思い出した瞬間、あんなに感じていた頭の痛みがすっと収まったのです。
「兄弟…何故、兄弟が……?僕は何か過去に兄弟の命を奪ってしまうようなことを……?」
『(ん…?主の様子がおかしいな。動揺…では、ないな。これは…『思い出してはいけない』ことを思い出してしまいそうになっているのか?)』
彼の封じられていた記憶がはっきりと蘇るごとに、石丸くんの表情は氷のように冷たくなっていきます。三日月はその様子を見ながら、『このままでは彼が壊れてしまう』そう判断しました。
そして、彼に刀から霊力を送りました。刀の状態の自分でも。『失敗作』と呼ばれた自分でも。何かが出来ると今は確信していたから。
『主。俺を手放さないでくれ。強く自分を保ってくれ』
「みかづきくん…ぼく、は…」
『駄目だ。過去に呑み込まれてはお前が壊れてしまうぞ、主。俺を強く握って、ゆっくりと深呼吸をしてくれないか』
「…………」
脳内に響いてきた三日月の声に従うかの如く、石丸くんはゆっくりと深呼吸をしました。するとどうでしょう。あんなに後悔と懺悔の気持ちに支配されていた気持ちが、すっと薄れていくではありませんか。そのまま深呼吸を続けた後、石丸くんは我に返りました。
―――もし、三日月がこの場にいなければ彼はどうなっていたでしょうか。もしかしたら、原作のように…。いや、これ以上の話はよしましょう。
「すまない、三日月くん。取り乱してしまったようだ」
『いや。俺も肝が冷えたが、自分を保ってくれてよかったぞ主。さて、蘭太郎殿も助けねばな』
「君の本体を触らせればいいのかい?」
『そうだな。…だが、くれぐれも君が離すようなことは絶対にしないでくれ。離したが最後―――。主が主で無くなってしまいそうで俺は怖いのだ』
「三日月くん…」
天海くんは未だに強い頭痛が治まっていないようです。自分の刀を握らせれば石丸くんのように自分を取り戻せるのではないかと思い至った三日月は、自分の刀を触れさせるよう石丸くんに頼みました。……その際、絶対に石丸くんは三日月を離さないという条件付きで。
当の石丸くんはその意図があまり汲み取れませんでしたが、彼が相当焦っているのは理解していました。その勢いのまま苦しんでいる天海くんの前に立ち、右手を拝借して三日月の本体に触れさせます。
すると、どうでしょう。先程の石丸くんと同じように、あんなに酷かった頭痛がスッと消えて無くなってしまいました。
「あれ?凄く、痛かったのに…」
「天海くん。大丈夫かい?」
「あっ、はい。もしかして石丸君が助けてくれたんですか?ありがとうございました」
『(……やはり、俺も。大典太と同じく…。いや、俺や大典太だけじゃない。恐らく数珠丸も、鬼丸も、果ては童子切も―――)』
天海くんが正気を取り戻したタイミングを見計らったように、モニターのモノクマは再び口を開きます。あまりにもタイミングが良すぎるそれ。録画だとしてもこちらが見えているのではないでしょうか。
『うぷぷ…。これがこの世界の神々によって隠されてた君達の『真実』さ!今からオマエラにはお友達を迎えに行って貰おうと考えているんだけど…。無事に帰れるかな?無事に帰れたらいいね!バイバ~イ!』
その言葉を最後に、モニターはぷつりと音を立てて切れてしまいました。残ったのは真っ黒になった画面と静寂だけ。
……『真実』という言葉が引っかかったのか、天海くんが口を開きます。
「モノクマの言っていた『真実』。頭痛が起きていた時に感じた、砲丸で頭を殴られる感覚が関係しているんでしょうか?」
「そんなことがあったのか?!な、何も当たっていないよな…?」
「『感覚』ですからね。そういう石丸君も顔色が悪そうですけれど」
「まぁ…僕は…兄弟が何やら変な装置に入れられる光景がフラッシュバックしたのだ。まるで、見てはいけないものを見てしまったような…」
『ふむ。そういうことか。―――主。やはり俺の見立ては正しかったようだ』
「三日月くん?」
頭痛が治まった後も、2人は見せられた『真実』を覚えていました。思い当たる節は全くありませんでしたが、どこか『これは実際に感じた、見たことだ』と確信してしまう程の鮮明なもの。
そんな2人の言葉を聞いて、三日月は確信します。石丸くんがそのことを問いかけると、三日月は推論を述べたのでした。
『この空間に来てから感じるのだ。この場の霊気は淀んでいる―――。恐らく、主の友人もあの熊に何か唆されて正気を保っていられない状態になっている筈だ。主達が正気を保っていられるのも、俺の霊力が相殺しているからだろう。……一時は恨んだこの強大な霊力に、よもや助けられる時が来るとはな』
「つまり、三日月くんのお陰で僕達はこの場で正気を保っていられるという訳だな!」
「確かに、この空間の空気…なんだか気持ち悪いですね。長居をしてしまえば…それこそ狂気に染まってしまいそうです」
『普通の三日月宗近であれば、これほどの強大な邪気に耐えても…自分を守るので精一杯だろう。主を守って自分が折れるか、主を諦めるか。どちらかだろうな』
「僕が三日月くんを手放さなければいいだけの話だな!はっはっは!」
「石丸くんから離れないようにすれば、三日月さんの霊力を俺も受けることが出来る、ということですね」
『あぁ。……おや。何か音が聞こえるな』
監禁されるほどの強い霊力だからこそ2人を守ることが出来た。そんな皮肉に三日月は複雑な思いを抱きます。しかし、今はそんな思いに浸っている暇はありません。この空間のどこかにいる罪木さん、田中くん、東条さんを見つけて連れ帰らねばなりません。
……そんな話をしているうちに、ギギギ、と扉の開く音が。その場所に顔を向けてみると、学級裁判場の出入口であろう扉が開いていました。モノクマに『先に進め』とでも言われているように。
「この先に…罪木くん達がいるのか」
『主や蘭太郎殿は受けた影響が少なかったから俺でもどうにかなったが、他の3人は状況が違う。……やってみなければ分からんが、元に戻せるかもしれない』
「ならば、なおのこと早く3人を見つけて正気に戻し、モノクマを見つけ出しませんと。この空間がモノクマの創り出した物であれば、俺達が正気を保っていられることを不審に思って…俺達を再度嵌めに来る可能性も否めません」
「……そうだな。三日月くん。天海くん。早く3人を助けに行こう。きっと苦しんでいるはずだ」
『こんな姿ではあるが…。主。お前のことは必ず俺が守る。共に美しい世界を見ると、約束したからな。それに―――こんなところで他の天下五剣とさよならは俺も嫌だからなぁ。はっはっは』
「三日月くんは相変わらずマイペースだな…。だが、僕も三日月くんの願いを叶えてやりたい。その為には、罪木くん達を助け出さねばな!なぁ、天海くん!」
「はい。行きましょう」
三日月の笑い声に心に余裕を持てた2人は、罪木さん達を助けに開かれた扉の向こうへと進んでいきました。
果たして、罪木さん達はどこにいるのでしょう。彼女達を無事助けることは出来るのでしょうか…。
- #CR10-6 -2 ( No.77 )
- 日時: 2021/07/12 22:06
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: 1lEcCkWN)
扉の向こうには、廊下が1本長く続いていました。壁が白と黒で目に悪い。そして―――2人は、この場に入った瞬間言われようのない懐かしさを覚えました。
……まるで『希望ヶ峰学園』のような造りだ。しかし、あの場から続いている気持ち悪さは止まっていません。そもそも今ある希望ヶ峰学園の配色はこんなにどぎつい色ではありません。
長く続く廊下を歩きながら、天海くんは石丸くんに気になったことを話しました。
「石丸君。もしかしなくてもこの空間、モノクマが創り出したものですよね。なら…道中、あいつが襲い掛かってきたりはしないんでしょうか」
『ふーむ…。確かにそれも気になるが、道は一本。この先に邪悪な気配を感じる。そもそも、あの熊は積極的にお前達を襲うような奴なのか?』
「いや…。仲間内でいたぶるのを見る方が性に合っていると僕は思うぞ。……とにもかくにも、僕達には進む選択肢しか残されていないのだ。進むしかあるまい」
「わざわざこの場所に罪木さん達がいることを教えるような奴ですし、邪魔はしないと思いますが…。そう、ですよね。急がなければ」
そんな会話を繰り返していると、目線の先に1つの扉が見えました。近くにあるプレートには『保健室』と書かれています。
保健室…。いかにも罪木さんがいそうな場所です。中にいるならば早く助けませんと。
「『保健室』…。中に罪木くんがいるのだろうか」
「入ってみなければ分かりません。行きましょう」
モノクマの言葉通りに受け取ると、罪木は何かをされて様子がおかしくなっている可能性が高い。もしかしたら扉を開けた瞬間に襲ってくる可能性もあります。
とにもかくにも、この先に進みたければ保健室に入る以外の道は残されてなさそうです。石丸くんは改めて三日月宗近をぎゅっと握りしめ、天海くんに遠くに離れないようにいった後、保健室の扉を開けたのでした。
―――最初に感じたのはつん、というアルコールの匂い。あぁ、保健室なのだなと一同は思う。
ですが…明らかに様子がおかしい人物が1人、椅子に座っていました。その人物は扉が開いた音に気付いたのかこちらに顔を向けます。正体は察した通り、罪木さんでした。
しかし…彼らがいつも見ている内気な彼女ではない。その顔は何かに恍惚しているような表情でした。
「つ、罪木くん…?」
「あれあれあれぇ?どうしたんですかぁ?そんなに驚いた顔をしてぇ…。びっくりしたのはお互い様なんですからぁ、そんなにオーバーリアクションしなくてもいいじゃありませんかぁ」
「ど、どうしちゃったんですか罪木さん?!」
『ふむ…』
彼女の目の焦点が合っていない。はぁはぁと息を荒げ、まるで危ない薬に手を出してしまったかのように2人と一振には見えました。
完全に何かがおかしい彼女に勇気を出して『どうしたんだ』と問いかけても、彼女は『そんなに警戒する必要はありませぇん』としらばっくれるばかり。話は平行線を辿ります。
「えへへぇ、やっと思い出せたんですよぉ。『あの人』のこと…今の今までずっと…思い出せないように記憶を弄られていたんですねぇ。お二人もそうなんでしょう?だから、そんなに思いつめた表情をしているんですよねぇ?!」
「………!」
「『思い出せた』…。罪木さんも俺達と同じようにモノクマに『記憶』を蘇らせられた、とか?」
『その可能性が高いな。……主も最悪こんな風になっていたということか…』
「一緒にしないでくれたまえ?!だが…いくら記憶を取り戻したとはいえ、このまま彼女を放置しておくわけにも…」
原作のネタバレになるのでそれ以上はおやめください。
罪木さんに痛いところを突かれ、思わず先程の映像が脳裏にフラッシュバックする石丸くん。三日月がいたからこそ、事態は好転へと傾いているのでしょうが…。
その様子を見ていた三日月が、『主と同じような状況なら、自分にも治せるかもしれない』と彼に伝え始めました。
『主。俺には主達に何が起きたのかを知ることはできない。だが…思い出さなくていい記憶まであの熊は弄ったように俺には思える。……そうか。主と同じ状態なら…!』
「三日月くん?」
『あの裁判場のような場で言ったことを覚えているか、主。―――蜜柑殿も俺に触れさせることで元には戻らないだろうか?
大典太が幻の世界だったとはいえ、他の刀剣男士の邪気を祓ったことは俺も話を聞いている。―――さっきも言った通り、普通の刀剣男士ならば絶対に出来ない芸当だ。……主の気持ちを落ち着かせたように、一か八か、やってみようと思ってな』
「なるほど…。確かに俺も石丸君も、この空間にいてもなんらおかしくならないのは三日月さんの霊力のお陰っぽそうですからね」
「やってみる価値はある、か…」
罪木さんを救う為、自分の本体を彼女に触れさせてほしいと三日月は言いました。先程天海くんにやったように。彼らとは違い、罪木さんはモノクマに記憶を弄られてから少々時間が経ちすぎている気はするものの…。可能性が1ミリでもあるのならやってみるのは悪い選択肢ではないと思いますよね。
石丸くんは彼の言葉を最後まで聞いた後、静かに罪木さんの近くに陣取りました。
「あれぇ?どうしたんですかぁ?怖い顔をしていますよぉ?」
「あまり女性に手荒な真似はしたくないのだが…すまない罪木くん。お手を拝借するぞ!」
「わざわざ言葉にするあたりが石丸君らしいですよね」
『『れでぃふぁーすと』という奴だな。はっはっは』
出来るだけ乱暴にしないように優しく罪木の手を取って、三日月宗近に近付けます。当の罪木さんは抵抗するでもなく、ただ彼のされるがまま。
……彼女の指先が三日月宗近の本体に触れたその時でした。罪木さんの身体から紫色の靄が発生しました。その靄は次第にバチバチと光を放った後消えてしまいました。
石丸くんはその光景に固まりましたが、三日月の声で我に返りました。罪木さんがどうなったか慌てて確認すると、彼女はぼんやりと何もない空間を見つめていたのでした。
「……はわわ?私は一体何を…」
「だっ 大丈夫か罪木くん!気分が悪いなど不調があったら言いたまえよ!」
「い、石丸さん?私は何を……」
そこまで言ったところで罪木さん、固まる。石丸くんが自分の腕を掴んでいたことに気付いたからです。
そのままぱちくりと何回か瞬きをした後。
『……ひゃぁあぁあぁ~~~~~~~?!?!?!!?!?!』
女子高生とは思えない悲鳴を響かせたのでした…。
石丸くんも悲鳴の原因が自分にあるとやっと気づき、ぎょっとしながら手を離したのでした。
「し、失礼したッ!」
「わ、わだじのぜいでいじまるざんがふげづになっでじまいまじだぁ~…ゆるじでぇ~…」
「不潔になっていないから泣くんじゃない!そもそも先に腕を掴んだのは僕なのだからな!正気を失っていたとはいえ、君に勝手に触れてしまったことは今もすまないと思っている」
『緊急事態なのだから別にいいだろう。結果的に蜜柑殿も元通りになったようだしなぁ』
「確かに…。先程まで感じていた不気味な印象がすっかり消えましたね」
「どういうことですか?」
未だに泣き続ける罪木さんを宥めつつ、この空間の正体と自分達に何が起こったのかをかいつまんで説明。すると、彼女はしばらく首を傾げていた後小さく首を縦に振り、『そういうことでしたかぁ』と漏らしたのでした。
「石丸さん達と再会してからなんだか頭がぽわぽわしてたのはそれが原因だったんですねぇ。ご迷惑をおかけして申し訳ございませぇん…」
「いやいや、罪木さんが気にすることじゃないんで。悪いのは俺達をここに閉じ込めたモノクマ、ひいては邪神です」
「そうだな!罪木くんもこうして無事だったのだし、後は田中くんと東条くんを見つけ出すだけだ」
『もしかしたら既に熊の渦中に落ちているやもしれん。気を付けて進むのだぞ主』
ふと閉ざされていた扉の方を見てみると、いつのまにか開いていました。その先に進め、ということなのでしょうか。
この先に残りの2人がいる。そう確信した一同は、先に進むことにしたのでした。
再び不気味な雰囲気が纏う廊下を歩いていると……向こうから足音が聞こえてくるのが分かりました。
しかもかなりの速度。……何かから逃げているのでしょうか?警戒しながら歩みを進めていると、遠目にこちらに全速力で走ってくる女性の姿が見えました。
『どけぇぇぇぇぇ!!!!!』
「……あれって、東条さんではないですか?」
「って、こっちに向かって走って来てますよ?!」
「逃してしまえば大変なことになりかねん!捕まえるぞ!」
なんと、女性の正体は東条さん。何かから逃げているような、焦燥した表情でこちらに向かって駆けていました。いつもの気品あふれる彼女はどこに行ってしまったのでしょう。
しかし、このまま彼女を逃がしてしまえば何が起こるか分かりません。最悪彼女が死んでしまう恐れも…。何とかして止めなくてはなりませんが、相手は『超高校級のメイド』。正気を失っているとはいえ、3人がかりで止められるかは分かりません。
「走ってくる方向を予測して左右両方から腕を掴みましょう。罪木さん、もう片方お願いできますか?」
「はい、分かりましたぁ!石丸さんは三日月さんを手放せませんから…。東条さんを抑えた瞬間に、東条さんにも本体を触れさせてあげてくださぁい」
「了解した。本来ならば捕まえる役目を僕がやらねばならんのだろうが…すまないな罪木くん」
「いいえ!お役に立てて嬉しいですぅ!」
『……呑気にお喋りをしている場合ではないみたいだぞ。もう数刻でここを通り抜けるだろう』
廊下にあった物に身を潜め、東条さんを待ち伏せる3人。そのままタイミングを見計らい―――。罪木さんと天海くんが両腕を掴みました!避けられるかと一瞬思いましたが、思考が通常の状態ではなかった為上手くいったのでしょう。
その隙を狙い、天海くんに手助けをしてもらう形で東条さんに三日月宗近を触れさせます。すると、先程の罪木さんと同じように紫色の靄が身体から出た後、ぱちぱちと光を放って消えてしまいました。
東条さんはというと…腕をだらりと落とした後、はっとした表情をして周りを見ています。どうやら正気を取り戻したみたいですね。
「…恥ずかしい姿を見られてしまったようね。メイドがまさか助けられるなんて…」
「無事でよかったですよぉ…!ふぇ~ん!!」
「東条さん。どうして逃げていたんですか?あの先にモノクマが…?」
「いえ、違うわ。確かにモノクマに何かをされたのは覚えているわ。でも…逃げていたのは彼ではないの。『沢山の人』から逃げていたわ」
「『沢山の人』だと?」
「……そこまでは思い出せるんだけど…。駄目ね、頭がもやもやとしててはっきりと思い出すことが出来ないのよ」
『それでいい。無理に思い出せないのならそのままでもいいではないか。―――思い出したことで、悪い方向に転がってしまうのならば猶更、な』
「三日月くん…」
『さーて。残りは眼蛇夢殿だけだったか。斬美殿、この廊下の先に熊がいたのだな?』
「そうね。この先も一本道。一番奥の扉に―――モノクマと、田中君が閉じ込められているはずよ」
「だったら早く行きましょうよぉ!もしかしたら四天王さんも一緒に酷い目に遭っているかもしれません…!」
東条さんの言っていることが分からない?とりあえずV3をやりましょう。話はそれからだ。
まぁそんなことはさておき、残りは田中くんただ1人。東条さんの話によると、モノクマも一緒にいるようですね。……遂に、終わりが見えてきたというところですかね。
『必ず全員で帰る』。そんなことを思いながら、4人と一振はひたすら奥に続いている廊下を進んでいったのでした。
―――またしばらく進んでいると、行き止まりが見えてきます。そこには校長室のような豪華なデザインの扉がありました。恐らくこの奥に、モノクマと田中くんが…。
徐々に迫りくる恐怖に思わず罪木さんは東条さんのスカートの裾を掴んでしまいます。そんな彼女を宥めながら先に進んでいった後―――その『行き止まり』に辿り着きました。
「この奥に、田中君が…。2人のように変なことをされていなければいいのだが」
「モノクマも一緒にいるのなら、助けてから問いただせばいいですよ。行きましょう」
「そうだな。―――行くぞ」
意を決して重厚な扉を開く。この先に何があっても必ず仲間を助け、一緒に帰ると。そう胸に誓って。
扉の先にあったのは―――。
けだるそうに校長室の椅子に座ったモノクマと、ちゅうちゅうとハムスターに心配されながら床に倒れている田中くんの姿でした。
- #CR10-6 -3 ( No.78 )
- 日時: 2021/07/13 22:00
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: 1lEcCkWN)
「田中さぁん?!」
田中くんを見つけた一同が慌てて彼の名前を呼んでいる中、モノクマは退屈そうにその様子を見ていました。もしかして、他の2人とは違って直接殺されてしまったのではないか…。室内が賑やかになっても起き上がらない彼の姿を見て、ふと石丸くんはそう思ったそうな。
耐えられなかったのか『モノクマがやったんですか?!』と珍しく感情を荒げて言葉をぶつける天海くんに、モノクマは返します。『そうだけど半分不正解かな~』と。
「あーあ、遅かったじゃないか。コイツ、抵抗した挙句意識失って倒れちゃったんだよ」
「田中君はあのお2人のようになっていない…?!」
「うん。強靭なメンタルでボクびっくりしちゃった。身体が拒否反応を示したんじゃない?だから気絶しちゃったんだよ」
「た、田中さぁん!」
「意識を失っているからって、これ以上好き勝手はさせないわよ」
罪木さんと東条さんがすかさず彼の前に陣取ります。これ以上彼を傷付けることは許さない、そう言葉も添えて。
自分達もそうされたからなんでしょうね。最後まで抵抗した彼に、自分達のように他人に迷惑をかけてほしくなかったのでしょう。
その様子を見ていたモノクマ。そもそも辿り着いた時から田中くんには興味が薄かった様子。気絶した時点で興が冷めたんですかね。彼女達の行動にもつんとした表情でこう言葉を返します。
「やだなぁ、抵抗しないヤツには何もしないって。そもそもボクがそのつもりなら、田中クンはもう既にこの場にはいない筈だからね!うぷぷぷぷ…」
「2人共。田中くんのことを頼む。―――やはりモノクマを何とかせねばここからは出られないようだな」
「はい。どっちにしろこの部屋がこの空間の最奥。何とか脱出の手立てを見つけねばなりません」
「はぁ~あ。正義の味方気取りですか~?どいつもこいつもやんなっちゃうよ全く。さーて。そろそろ本題に移っちゃいますかね!」
モノクマはそんなことを告げると、ぴょいとその場から立ち上がり石丸くんの元に近付いてきました。しかし、目線の先は彼ではなく―――彼の持っている刀。三日月宗近でした。
そして…彼は石丸くんにとんでもない提案をしてきたのです。
「石丸クン。交換条件しよっか!」
「交換条件…だと?」
「うん。オマエラ、ここから出たいんでしょ?だったら出してあげる。でもタダでは出してやらない。ボクからの条件を呑んでくれるなら、ね」
「交換条件…。もしかして、この場で俺達を殺し合わせたり…」
「何考えてんだよ。そんなことしないって!全く同じネタを2つの小説で跨ぐわけないだろ!」
「君は何を言っているんだ…?」
「コホン。これ以上オマエラに勘違いさせるのも面倒だし、ボクからの交換条件。オマエラがここから脱出するかわりに……」
モノクマからの条件は『石丸達をここから出してあげるから、ボクの条件を呑んでくれ』というものでした。彼の反応からして物騒なことを強要するようではないみたいですが…。いや、物騒な方は別で既にやってますからね。ダンガンロンパF2、是非見てください。
ダイマはこれくらいにして、これ以上話を引き延ばすのも面倒だとモノクマはその『交換条件』を口にしたのでした。
『石丸クン。その手に持っている『三日月宗近』、ボクに渡してくれるかな?』
「………何?!」
モノクマは刀を指さしそう言います。その刀を寄越せば、石丸くん達を全員ここから出してやると。しかし…彼の考えに乗ってはならないと頭の中で分かっていました。渡したとして、三日月が碌な目に遭わないのが目に見えて分かっていたからです。
石丸くんははっきりと口にします。『嫌だ。渡さない』と。三日月を握る手を強めながら。
「断る。三日月くんを渡すわけにはいかない」
「……はぁ~。刀のままだから放置したボクがバカだったよ。分かってるんだよ石丸クン。オマエラみたいなただの人間が、全員こんな空間の中で正気を保っていられる理由。オマエが今握っている刀のせいなんだよね?
いくらオマエラの邪魔や精神の汚染を進めようったって、全部コイツが間に入って邪魔して妨害してくんの。イラつくったらありゃしない!」
「全部分かってたんですか~?!」
「まるっと全部お見通しなのです!それに…聞いたよ?天下五剣、見つかっていない一振以外。オマエ以外は全振顕現を果たしてるんでしょ?ねぇねぇ。なんで一振だけ顕現出来ないのかなぁ?
まぁ、もしボクに渡してくれたらそれも解決するよ!顕現させてあげるしね!」
三日月をターゲットに定めたモノクマは、彼が未だに顕現出来ない理由を告げます。彼の心の傷を抉るように。自分のイラつきを全て三日月にぶつけるかの如く。
それでも石丸クンは固く刀を握りしめ、渡す姿勢は見せません。彼が『自分を守る』と言ってくれたのだから、危機が迫った時には自分が彼の背中を守る。そう、誓いを立てていました。
堂々巡りが続き、モノクマはついにイライラが頂点に達します。『聞き分けのないヤツだ!』と彼のことを言い飛ばしたのでした。
『…………』
「知ってるんだよボク。こいつが顕現できていない理由。『人間を未だに信じ切れていない』んでしょ?いくら石丸クン達のことを信用してるって言葉で伝えたって、それが形にならなきゃ意味がないよね~!
オマエラ天下五剣が時の政府から受けた仕打ちは身に染みている訳だ。そう簡単に払拭できるわけないよね~!だってトラウマモンの傷だもんね~!」
「それでも…それでも、だ。お前にそう言われる筋合いはないぞモノクマ!!三日月くん達には未来を選ぶ権利がある。三日月くんだけじゃない。大典太さん。数珠丸さん。鬼丸さんとも会って、話をして、僕はそう結論付けた。それは誰にも邪魔できないものだ。
お前が勝手に決めつけていい代物ではない!!三日月くんが僕達を信じてくれると言ってくれたのだから、僕はそれを信じると決めたのだ。それは何がどうあれ変わらない!
三日月くんが人間を信じることが出来るようになるその日まで。僕は彼を手放すことは絶対にしない。
三日月くんをお前などに渡すものか!!!」
石丸クンは屈しません。三日月に出会ったあの日から。自分を信じると、『主』と言ってくれたあの時から。彼の苦しみも一緒に背負っていく覚悟を決めていました。
そんな彼にはモノクマの言葉なんて屁でもありません。声高々にそう叫ぶ石丸クンに、思い通りにいかないのかモノクマは更にイライラ。地団太を踏み始めました。
「カッチーン!石丸クンはもっと素直で優秀な子だと思っていましたよ全く!なら交渉決裂だ。オマエラはここで死になさい!」
「天海くん。僕から離れてくれ。嫌な予感がする―――!」
「石丸君!」
モノクマは懐からボタンを取り出しました。あっ、これはやばいやつや。
身の危険を感じた石丸くんは天海くんをその場から無理やり突き飛ばします。そうでなければ彼が巻き込まれると判断した上での行動でした。
その行動にも腹を立てたモノクマ。『勇気と無謀は違うんだよ石丸クン!それを後悔しながら死ぬことだね!』そう告げながら、ボタンを高々と天に掲げました。
そして。
『出でよ、グングニルの槍―――』
「石丸さぁん!!!」
ポチッ。軽快に響いたその音と同時に、どこからともなく槍が青年を貫かんと飛んだ。
「(すまない。すまない、三日月くん…。僕は…こんなところで死ぬのか―――!)」
少女が叫ぶも、届かない。槍の迫る速度は驚異的であり、青年は避けることができない。あの時友を無理やりこの場からどかしたことは正解だったのか、そんなことを頭に思い浮かべながら彼は目を伏せた。
青年から―――いや、正確には彼の持っている刀から。眩い光が放たれた。
何が起こっているのだろう。思わず腕で目を覆う青年。それと同時に小さく聞こえてくる声。
『すまんなぁ主。俺が顕現出来ていなかった理由―――。今ようやく理解が出来た。俺には『覚悟が足りなかった』。ただそれだけのことだったのだ』
「(誰の、声だ…?)」
誰だ。自分に話しかけてくるのは誰だ。それと同時に鳴り響く金属の音。
そうだ。自分は槍に貫かれていなければおかしいはず。なのに…痛くもなんともない。もしかしてこれは走馬灯?
眩しさがゆっくりと和らいだ頃。青年―――石丸清多夏は目を開けた。目の前には―――。
『主。遅くなってすまんな。―――天下五剣が一振、三日月宗近。この地で主の主命を果たす。やっとその決意が固まった』
平安貴族のような装束を身に纏った、気品あふれる美しい男性が刀を持って立っていた。
「な、な、何が起こってるんですか?!これは夢なんですかぁ?!夢でも酷いことされちゃうんですかぁ?許して、許して許して許してよぉ…!」
「落ち着いて罪木さん。大丈夫よ、夢じゃない。足もちゃんとあるわ」
急に現れた貴族のような男性に夢なのかと自分の頬を叩き始めた罪木さん。そんな彼女を宥めている東条さんを尻目に、石丸くんは改めて唐突に現れた男性の方を見ます。男性の足元には、彼が刀で弾いたであろう槍が全て床に落ちています。
当のモノクマは三日月が顕現出来たことにただただ驚いていました。
「本当に…三日月くん、なのか?」
「そうだぞ主。俺が『三日月宗近』。随分と大変な思いをさせてしまってすまんな」
「なんで…オマエ…顕現しないんじゃ…!」
「ふむ。主達の記憶を弄ったのはお前で間違いなさそうだな」
「僕は信じていたぞ三日月くん!やはり刀に違わぬ美しさだな!」
「はっはっは。もっと褒めてくれてもいいのだぞ…と言いたいところだが、お喋りはここまでにしておいたほうが良いだろうな。何せ目の前に『核』があるのだからなぁ。
主。すまぬが蘭太郎殿と共に蜜柑殿のところで待っていてはくれないか」
「あ、あぁ。分かった。僕がここにいても君の足を引っ張ってしまうことになるからな!」
モノクマが動けていない間に、三日月は石丸くんと天海くんを罪木さん達がいる場所まで避難させました。そして―――改めてモノクマに刀を向けます。どうやら彼、この空間を創り出している正体にも勘付いている様子。いつもの『じじいの勘』なんですかね。
そして、やっと我に返ったモノクマは三日月の言葉を『見当違いだ』と突っぱねます。
「ボク自体が『核』だって?面白いこと言ってくれるね!何か証拠でもあるの~?」
「お前の中に、この空間と同じ…いや、それよりも『濃い』邪気が詰まっている。つまり、お前がこの空間を創り出しているということに他ならない証拠になるのだ。
確かに今まで顕現出来なかったのは…お前の言う通りだ。人間を信じ切れていなかった。この世界で『生きていく』覚悟が足りなかった。それに…主達の言葉で気付くことが出来た。だから、この世界に顕現を果たせた、という訳だ」
「石丸さんの純粋なお心が、刀剣男士さんの過去に抱いてしまった冷たい気持ちを溶かしたんですねぇ。うふふ…!」
「よく分からんが…三日月くんが無事顕現出来て僕も嬉しく思うぞ!」
「フン!余裕面していられるもの今のうちだからね!すぐオマエラを絶望に染めてやるよ。出でよ、グングニルの槍―――!」
三日月が顕現したことに納得のいっていないモノクマ。すぐに刀に戻してやると再びボタンを押し、四方八方から槍を召喚します。彼に迫る多数の槍―――でしたが。先程全て床に叩き落した三日月には造作もないことだったようで。
「給料分は働くとするか。……俺も天下五剣なのでなぁ。甘く見られてもらっても困る」
そう、余裕たっぷりな感想まで漏らして片っ端から床に槍を落としていく三日月。モノクマも対抗して次々と槍を召喚しますが、先を全て読まれているのか全て弾き飛ばされてしまいました。
三日月は優雅な動きでモノクマに近付き、彼をまっすぐ見つめます。
「お遊びはここまでだな。そろそろ…終わりにするか」
その言葉と同時に―――。
ぬいぐるみは、真っ二つに割かれたのでした。
『天下五剣』と呼ばれる通りの強さ。それを、生徒達は思い知ったのでした。
モノクマだったものは斬られたところから紫色の靄が現れ、消えてしまいました。残ったのは人形の残骸だけ。やはり三日月の言った通り、モノクマ自体が『核』だったということで間違いないのでしょうね。
それは辺りを覆う淀んだ空気が祓われたことで、石丸くん達も気付くことが出来ました。
「あら。ちょっと気分が良くなったみたい」
「悪い空気が無くなったからですかね?……今回ばかりは本当に死ぬかと思いましたけれど」
「うぅ……」
「はっ!田中くん、大丈夫かね田中くん!!」
「石丸さぁん!そんなに大きく揺らすと死んじゃいますからやめてくださぁい!」
「最初にやったやり取りと同じことを主はしているな」
「それだけ必死なんでしょうけれど、あの時は一瞬三途の川が見えました」
田中くん泡吹きかけてるのでそろそろやめてあげてくださーい。罪木さんに指摘され、はっとして身体を離す石丸くん。手加減を学びましょう。
しばらく様子を見ていた後、ゆっくりと彼の眼が開いたのでした。
「地獄への門が開いた気がしたが…ここは…。現世なのか…」
「現世よ。お帰りなさい田中君」
「いやいや乗らなくて大丈夫ですから!……あの、ご気分は大丈夫でしょうか?」
「モノクマにこの部屋に閉じ込められてからの記憶が奪われているようだ。俺様は一体ここで何を…」
混乱している田中くんに、天海くんが一部始終を説明。自分がモノクマの誘惑に打ち勝ったのだと解釈した田中くんは唐突に笑い始めたのでした。
「フ……フハハハハ!!あの邪悪な人形よ。この俺様の魔力には敵わなかったということだな!!」
「何はともあれ、田中くんに変な影響が出ていなくてよかったぞ」
「あぁ、本当に…だな。5人共。俺がこうしてお前達の元に顕現できたのも…皆のお陰だと思っている。本当にありがとうな」
「い、いえいえ!私じゃなくて!石丸さんと、三日月さんが『覚悟』を決めたから顕現出来たんですよぉ!」
「そうだぞ三日月くん!君が顕現出来たのは、君の意思が固まったからだ。それ以外の何者でもないさ」
5人に改めてお礼を言う三日月に、皆はそんな風に返したのでした。何はともあれ三日月も顕現出来たことですし、これで戦力もアップ。早く数珠丸達と合流したいところです。
―――そんな戦いの余興に浸っていたその時でした。ピッ、ピッ、と、何かを刻む音が部屋中に響き始めました。音の方向は―――人形の残骸がある場所。ま、まさか。
「モノクマの残骸から聞こえているみたいね。もしかして…爆弾か何かを仕込んでいるんじゃないのかしら」
「に、逃げないと巻き込まれてしまいますぅ~~~~~!!!」
「あのア熊め…!この俺様に置き土産を残していくとはな!」
「そんなことを言っている場合か!アラームを刻む速度が速くなっているぞ!」
「爆発が近い、ということなんでしょうね…。急いでこの部屋から出ましょう!」
この部屋にいたら爆発に巻き込まれてしまいます!急いで脱出しないと、と扉に向かって走り始める5人と一振。その間にも音を刻む感覚は短くなっていきます。
何とか扉まで辿り着き、素早く部屋の外に出て扉を固く閉めた瞬間でした。
―――扉の向こうから、轟音と共に部屋が木っ端微塵に爆発してしまいます。
爆風は扉の近くにいた石丸くん達も遅い、彼らは一緒に吹き飛ばされてしまいました。
「主。手を」
「あぁ。離すものか!」
風の勢いと耳に響く音で、意識を失ってしまった生徒達。
しかし―――石丸くんと三日月が固く繋いだ手は、決して離れはしないのでした。