二次創作小説(新・総合)
- #CR08-10 少年は夢から覚める ( No.8 )
- 日時: 2021/03/21 23:00
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: bUOIFFcu)
暗闇の中で、少年は遂に大切なことを思い出す。そして、暗い暗い記憶の海の底から、這い出す。
そこで見つけた、『彼がやるべきこと』とは―――。
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―――ここは、どこなのだろう。
何も見えない。暗い暗い、海の底のようだ。でも、不思議と息は苦しくない。
そもそも、自分に何が起こったのかも定かではない。何故自分がここにいるのかも分からない。
『長い、長い夢を見ているような気がする』
暗闇の中でそう思う。そう。これはきっと夢なのだ。
そうでなければ、自分がこんな穏やかな闇の中にいるなんてありえないのだから。
少しずつ、少しずつ。糸を手繰り寄せていくように記憶を辿っていく。
最初に脳裏に浮かんできたのは、雲の上の世界だった。ああ、あれは確か―――。自分がトラックに轢かれて、痛い思いをした後目覚めた時に見た光景だ。幼い自分の前で、優しそうなお爺さんが自分の頭を撫でていた。『可哀想に。こんな小さい子が神々に狙われていたとは』。自分に向かって、お爺さんはそう言っていた。
―――あぁ、そうだった。あのお爺さんに、神様にしてもらったんだった。『もう、自分のような悲しい人間を増やしてはいけない』そんな思いを胸に。神様になった後は、人々が手を取り合って歩める、音が溢れた楽しい世界にしようと決めて。
―――次に脳裏に浮かんできたのは、今広がっている暗闇とは正反対の『真っ白な世界』だった。少し離れたところで、ふよふよと何かが浮かんでいる。しくしくと、泣いているようにも見える。あぁ……もしかして。この子も自分とと同じ『ひとりぼっち』なのかな?だったら、ひとりぼっち同士で相棒になろう。そして……『ふたり』で、音の溢れる楽しい世界を造ろう。
自分の影を介して、その『ひとりぼっち』を救った。神様としての第一歩を、自分はちゃんと踏めただろうか。
次に脳裏に浮かんできたのは、賑やかな宴が広がっている光景。沢山の『いのち』が1つの場所に集まって、音楽を奏でていた。その誰もが、笑顔だった。そうだ。自分は―――『こんな楽しい世界』を造る為に神様をしてるんだ。
その中で、自分を最初に救ってくれた大切な人との再会も出来た。沢山の出会いも、沢山の別れも。沢山、沢山経験した。ひとりじゃなくて、『みんな』で未来を造っていこう。神様として生きていた自分に、新しい目標が出来たんだっけ。
その後も、数多の風景や思い出が脳裏に浮かんでは消えていく。ポップンワールドが『混ぜられる』なんて不可思議な現象に巻き込まれて、これまた不思議な『別の神様』と出会ったこと。面白そうだから、と手を貸し始めた宴が成功して、沢山の人たちを笑顔に出来たこと。そして―――自分に巣食う『呪い』も、受け入れて生きると選択したこと。
そのどれもが、大事な『思い出』だった。彼を形作る全てだった。
―――最後に脳裏に流れ込んできたのは。自分と隣で笑ってくれたうさぎと猫の少女。彼女達が悲しんでいる光景だった。自分の名前を呼んでいる。悲しそうに呼んでいる。
そこで、少年は気付く。
『(また、あいつらに悲しい思いをさせたのかな)』
自分が守らなきゃいけないのに、その自分が窮地に陥って彼女達をあんな表情にさせているなんて。今まで、何を忘れていたんだろう。とても、とても大事なことだ。
―――目を、覚まさなくては。目覚めなくては。彼女達だけではない。自分を助けてくれたあの道化師も。その部下も。きっと、みんなが大変な目にあっている。
『目覚めなくては』
―――少年は、小さく呟いた。そして……ゆっくりと、ゆっくりと目を開けた。
~???~
MZD「こ……こ、は……」
ぼんやりとした頭を覚醒させ、MZDは起き上がります。まず自分がしっかりあるかを確認する為に、掌を確認。健康的な、肌色の小さな手でした。次に、頬を両手で触ってみます。サングラスは本部に置いてきたままなので裸眼ですが、自分の頬に掌が当たっているのが分かります。―――しっかりと、『自分』はいる。
次に確認すべきことは……。身体をゆっくり起こし、辺りを見回します。そこに広がっていたのは―――。まるで遊園地のような、不思議の国のような。そんな場所の入口で倒れていたのでした。
MZD「ここに居続けたら、またきっと記憶が薄れてしまう。だから―――どうにかしてここを出ないと…」
そう決断し出口を探そうと動き始めたと同時でした。自分の背後で、聞き覚えのある悲しい声が聞こえてきます。
『MZD!あなたが行くべきはそっちじゃない!こっちに戻ってきて!』
『そうだよ!そっちに行っても暗闇しかない。あたし達と一緒に、こっちに帰ってきて!』
MZD「…………」
MZDには既に分かっていました。背後から聞こえてきているのは、自分の知っているミミとニャミではない。全てを思い出した今、もうその手は通用しませんでした。
彼はゆっくりと彼女達に向き合い、しっかりと目を見ます。そこでやっと、少女達が『既にMZDを自分の世界には連れていけない』ことを悟ったのでした。―――その、赤と緑のオッドアイを見て。
MZD「―――『オレ』をそっちに連れて行ってどうするつもりだったの?」
『……お、『オレ』? まさか―――全部思い出して……』
『―――嘘だ嘘だ、ここはあたし達が造った『不思議の国』なんだよ?!全部あたし達の思い通り。MZDの記憶だって戻らないはずなのに…!!』
MZD「寸のところで思い出せたんだよ。忘れちゃいけない、大事な大事な思い出。―――っ」
まっすぐと見つめる目に、遂に彼女達の膝が崩れ落ちます。『もう、駄目だ』と悟ったのでしょう。
『不思議の国』―――。そういえば、現のお話になりますがかつて計画倒れしたポップンの作品が過去にあったような。その作品のモチーフが『不思議の国』だったような。―――もしかしたら、彼女達が造ってしまった世界は……。
項垂れる少女達を見ていたMZDの脳裏に、唐突に自分のものではない記憶が流れ込んできます。
―――彼女達が『禁忌』に触れたことの悲しみ。そして、彼女達を人ならざる者にしてしまったこと、彼女達を救えなかったことの『後悔』。……MZDはすぐに悟りました。この記憶と感情は、目の前の彼女達がいた世界の『MZD』のものなのだと。
……異世界の自分は、ポップンミュージックの世界が蘇ることは望んでいなかった。ただ、彼女達が手を出してしまった危険な力に呑まれるのを憂いていた。そして……彼女達を助けてほしいと、そう願っていた。
MZD「……そっか。お前さん達、自分の世界の『ポップン』を、守ろうとしてただけなんだな」
『うう、ううう……』
MZD「この世界は不思議なところでな?『存在の共存』は出来ない代わりに、何故か『記憶の共存』ってのが出来る状態にある。だから―――今、お前さん達の世界のオレがどう思っていたのか。しっかりと伝わって来たよ。
―――『異世界のオレ』は、自分の世界が蘇ることなんか望んじゃあいない。届いたのは……ただ、お前さん達を心配する感情だけだったよ」
そう言って、彼はゆっくりと彼女達に歩み寄ります。そして―――『いままで辛かったな。守ってやれなくてごめんな』と、彼女達の頭をぽんぽんと優しく撫でたのでした。左手はミミ。右手はニャミ。自分の知っている存在とよく似た、ただ『選択を間違えてしまった』純粋な彼女達を。優しく抱きとめたのでした。
やっと感じられた暖かな温もり。それを感じて、彼女達も大切なことを思い出したように……ぽろぽろと涙を流し、『ごめんなさい、ごめんなさい』とひたすらに零していました。
―――しばらく経った後。泣きたいだけ泣いたのか、目の前の少女達の涙はすっかり止まっていました。それを見計らって、MZDは優しく自分の気持ちを口にします。
MZD「お前さん達の気持ちはよーく分かった。どの世界線のミミニャミも『ポップンを愛している』ことには違いない。……でもな?オレにも守る世界ってものがある。守らなきゃいけない奴らがいる。だから…一緒には行けない」
『うん…』
『ようやくわかったよ。あたし達は、MZDの思いまで忘れてとんでもないことをしでかしちゃったんだって』
MZD「まさか異世界では『永久』を別の人間が使えるようになってるとは思わなかったけどねー。作った本人ですら取り扱いには充分注意している力なのに、それを別の存在が簡単に使ったら……。コントロール出来ずに被害が甚大になる。そりゃ大騒ぎになるよな…。
……で、もう1つ問題なのは。ミミニャミをこの世界に縛ってるのが『お前さん達の悲しみ』だってこと。負の感情を利用して、メフィストがこの世界に魂を手繰り寄せ、縛ったんだろうな」
『そうだよ。わたし達はあのひとに『叶えたい願いがあるのなら、自分に手を貸せ』って。そう言われて、この世界に来た。
……利用されたことが分かって、じゃあ逆に利用してやろうって思って…。あのひとの心臓に、不思議の国を造ったんだ』
MZD「メフィストぶっ潰すのも必要だけど…。お前さん達の悲しみを解消しないことには、ここから出られないってワケか。成程ね」
この不思議の国は目の前のミミニャミが創り出したもの。そして、彼女達の言葉からここが『メフィストの心臓の中』だということがはっきりと分かりました。
抜け出す為には『メフィストの撃破』そして、『この世界を創り出しているミミニャミの気持ちの解消』の2つが必要です。撃破は自分には出来ないので周りに頼るとして、自分に出来ることといえば……。
MZD「―――お前さん達。ちょいと手を貸してくれない?」
『いいけど…。何を手伝えばいいの?』
MZD「この世界のミミニャミに、オレの居場所を伝えたいんだけど―――。異世界だとはいえ、『永久』はこの世の理をひっくり返すとんでもない魔法だ。だから、ここから放ち続ければ届くんじゃないかなって思ってさ」
『…………。MZD。『永久』が使えるの?』
MZD「…………」
猫の少女にそう言われハッとします。今までヴィルヘルムと協力して使ったことは幾度もあれど、単独で『永久』を使ったことはありませんでした。―――ですが、今は悠長なことは言ってられません。彼女達の『永久』を借りなければ、自分がここにいることは伝わりません。
MZDは少し考えた後、自分の服の中を覗き見ます。―――それを見て確信しました。『使える』と。
MZD「……呪縛は幸い消されなかったな。なら、使えると思う。お前さん達の持ってる『永久』の力、少しオレに分けてくれない?―――この世の理を覆す力なら、奇跡だって起きると思うんだよね」
『―――わかった。あなたには酷いことしちゃったし、断る理由もないよ。助けてくれるつもりなんでしょ?あたし達も…』
MZD「当ったり前じゃん。オレは『ポップンワールド』を創り出した音の神様なんだぜ~?迷える子羊が救いを求めていたら、手を差し伸べてあげるのがポリシー、ってね」
『……何それ!おかしなこと言うなぁ』
MZD「―――やぁーっと笑った。異世界の存在でもさ。ミミニャミは笑ってた方がオレも安心すんだよね」
『…………』
その言葉を聞いて決意が固まったのでしょう。2人はMZDに手を出すように頼み、彼の掌に禍々しい闇を創り出します。それが、自分達の世界で得た『永久』の一部だと。それに触れた瞬間、確かにいわれのない不快感に襲われるMZD。恐らく彼女達は、それに呑まれて『大切なこと』まで忘れてしまったのだとすぐに察しました。
―――『闇』を手の中に包み、自分の中に閉じ込める彼。それと同時に身体中が拒否反応を示します。神の力が『永久』を追い出そうと反発しているのでしょう。ポーカーフェイスで耐えてはいるものの、明らかに苦しそうな表情をする彼に、分けた側の少女達も心配そうに顔を歪ませます。
『大丈夫…?』
MZD「これくらい…どうってことないよ。今まで味わってきた苦しみに比べれば……。―――『永久』。オレの居場所を……この場所の外へ。あいつらに届くように……」
目を瞑りながら、両手を前に出し黒い光を飛ばし続けるMZD。思考が徐々に『永久』に呑み込まれていきます。ですが、外で動いている人達に自分の居場所を分かってもらえるなら。この事件を解決に導けるのなら。なんだってやってやろうと。今の彼はその気持ちでいっぱいでした。
MZD「届け……届いてくれ……ッ!!」
後ろで座り込んでいる少女達も、ひたすらに彼の無事を祈ります。
さぁ。全ての決着をつける為―――。勇気を出して一歩前に進みましょう。きっと未来は、明るいですよ。