二次創作小説(新・総合)
- #CR10-8 -3 ( No.86 )
- 日時: 2021/07/20 22:52
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: Dbh764Xm)
先程まで一緒にいたのに、何故。唐突な彼の倒れている景色に驚く一同でしたが、更に目を疑うような出来事が襲い掛かってきます。……いや、気付いてしまったのです。
タナトスの身体が足元から灰になっていく姿を。アカギ、数珠丸、大包平はすぐ理解しました。この消滅のし方―――。鬼丸がベリトの首を斬った時と同じだと。
思わず彼の元に駆け寄る一同でしたが、既にタナトスは手遅れ。ですが、彼はこうなることが分かっていたようで…。ばつの悪い表情をする彼らに、震える声で『気にするな』と言ったのでした。
「言ったであろう。この蔵の邪気に侵されて無事である筈がない、と。そして…やはりあの邪神に気付かれていた。こうなるということは…私ももう用済みなのだろうな」
「酷い…酷過ぎるよ…。折角わかり合えたのに…!」
タナトスの傍で泣きじゃくるクルークの頭を、消えゆく彼は優しく撫でたのでした。
普段は子供らしいことをされると嫌がる彼でしたが、今回ばかりはそんな反論を言っていられる状態ではなく。ただ、彼は助ける為に動いただけなのに。自分が危険であることも承知で自分達に協力してくれたのに。その結末がこれ、だなんて。彼は受け入れたくありませんでした。
タナトスは天井を向いて、静かに自らの過去を話し始めました。―――自分がただの人間だった時に味わった、過去の『後悔』を。
「私は……いや、俺は。人間だった頃…孤児院の職員だったんだ」
「人間の…?お前、まさか―――」
「あぁ。取り戻していたんだよ。人間の頃の記憶を。だからこそお前達に協力した。……あんな邪神の思い通りになってやるかと思えたんだ」
「そう、だったのですか…」
「あ…あれっ?でも、ベリアもベリトもあの殺人事件の被害者で、その後にメフィストに道化師にされたんだったよね。タナトスさんは…子供じゃなかったんですね?」
「俺が道化師にされたのは、ベリアとベリトが道化師にされた数年前。……街に本物の『JOKER』が現れてから2年経った後だ」
「2年後…。ってことは、貴方は神様と同じ―――」
「『音無町』に建てられた孤児院で働いていた。……その、JOKERに唆された少年についても知っている」
タナトスの口から語られた事実。それはとんでもないものでした。
彼が音無町で働いていた、孤児院の職員であったこと。会話の内容から、人間の頃のMZDと会っていたということ。そして…彼の直接的な死の原因も、彼が他の人物との交流を避けていたことも。知って、苦しんでいました。
「孤児院でも、少年についての不吉な噂が広まっていてな。実際に、彼と仲良くしようと近付いた子供や職員が次々と不慮の事故や理不尽な殺人に巻き込まれ命を落としていった。
……少年は自分の心を押し殺していた。自分と関わると命を落とすことを、自分が一番よく分かっていたんだ」
「(確か、邪魔者を排除するとかいう名目で、別の神様が関わった人たちを殺しちゃったんだよね)」
「……そのことを俺は悔やんで、どうにかしようと思ったが…。恐怖で足が前に進まなかった。立ち往生している間に―――2年の時が立った。そして……」
「神様はトラックの事故に巻き込まれて、死んでしまった…」
「孤児院を管理する奴らは、あろうことか俺にその責任を全て押し付けられた。勇気を出せなかった結末が、孤児院を辞めさせられたことさ。その時に抱いた負の感情を…メフィストに運悪く見つかり、利用されてしまったんだ」
小さな声で、しかし確かな言葉で孤児院時代の記憶を彼らに話すタナトス。
クルークは考えていました。身勝手な神々のせいで、MZDの人生は滅茶苦茶になった。だが…彼を助けようとした人間は…想像以上にいたのだと。『ひとりぼっち』ではなかったのだと。
過去を語っている間にタナトスの灰化は進み、既に残っているのは顔と首だけになっていました。それでも、タナトスは安らかな表情を変えません。……最後の最後に、自分のやりたいことをやれた。その満足感からなのでしょうか。
「それ以上は充分です。貴方も、既に自らを思い出していた。だからこそ…我々に協力してくださった。感謝いたします。
……せめて安らかにお眠りください。貴方の魂が正しく導かれることを、私も祈りましょう」
1人の子供に躊躇したことへの後悔。そこからのどん底の人生。感じた負の感情をメフィストに利用されたと話し、やはり彼も被害者なのだと改めて思い直した一同。
それ以上はいい、と数珠丸は口止めをします。その代わり、彼は静かに持っていた数珠を顔の前に持ってきて、せめて安らかに魂が天に昇れるようにと法を唱えたのでした。
彼の言葉を聞いたタナトスは、満足したように灰となって消えていったのでした。
「……貴方の魂が、次の人生の幸せを掴むように。私も祈っております」
「数珠丸殿。貴方の気持ちはきっと届いている。もういいだろう。……そろそろ下にある刀剣の回収をせねばな」
「だけど…。今いる人数で全部持ち出せるんですか?ざっと見て90本くらいはあったような…」
「そんなもの、時間と気力さえあれば持ち出せるだろう!」
「大包平はそうでも力自慢が少ない今は無理に等しいだろ…」
そう。彼らがここに来た目的を果たさなくては、ですね。いくら蔵の邪気を祓えたとはいっても、恨みの言葉を表面上に出すくらいには蔵の中の刀剣は負の気に侵されています。念の為、本部に持ち帰って手入をした方がいいのは明白です。
しかし、今いる人数はごく僅か。さらに力に自慢のある面子が少ない為、一度に多くの刀剣を蔵から持ち出せるとは思えません。ならばどうすればいいのか。アカギが考え始めたその時でした。
……彼らの耳に瓦の落ちる音が聞こえてくるのは。
「瓦の…音?まさか…もう…!?」
「―――! いけません、すぐにこの蔵を脱出いたしましょう!刀剣を回収している時間はありません」
「チッ!…あの忌々しい邪神め。こうまでして刀剣を侮辱するとは……!」
「怒ってる場合じゃないよ大包平さん!悔しいけど……今は仕方ない!!」
音と同時に、屋根が少しずつ崩れていく光景を目の当たりにしました。蔵を形作る邪気が全て祓われたことで、支えるものが全て無くなったのでしょう。
急いでここを脱出せねば皆無事では済みません。刀剣の回収は急がなければならない事案ですが、今はそんなことをやっていては崩壊に巻き込まれてしまいます。
―――アンラとの決着がついた後、刀剣を別途回収することになりそうですね。
「行くぞ!幸い階段の辺りは崩れ始めていないようだ。今のうちに!!」
「…………」
「少年殿。貴方の気持ちはきっと届いています。だから…今は生き残ることを考えて行動しましょう。貴方の信じた友と―――また、再会したいのでしょう」
「……うん!」
タナトスが消えた場所をじっと見つめるクルーク。そんな彼に数珠丸は優しく声をかけます。気持ちは充分届いたからきっと大丈夫だ、と。そして、本の中の友と再会する為にも今は生き延びることだけを考えろ、と。
数珠丸の言葉に背中を押してもらったクルークは零れた涙を裾で拭った後、戦闘を走る大包平の後ろを追って行ったのでした。
~天界 『蔵』前~
「オイオイ待ってくれ蔵が崩れてんじゃねーか?!大丈夫なんだろうな?!」
「刀ぶっ壊れてないから大丈夫っしょ~。大包平くん達を信じてもうちょっと待とうか」
蔵の前で待機していたアクラルとごくそつくんでしたが、突如蔵が崩壊を始めたことに焦り始めていました。中で何かがあったのは確実ですが、そう考えている間にも蔵は徐々に形を失っていきます。今できることは、蔵の中に突入した面子が無事に戻ってくることを祈るのみ―――。
不安な表情で待っていると、扉の向こうから人影が見えてきました。何とか間に合いそうです!
「オイ!こっちだこっち!!」
アクラルの声に導かれるがままアカギ達は蔵の出入口に飛び出します。それと同時に、建物は一気に崩壊し跡形もなく消えてしまったのでした。
間一髪間に合った彼らにすかさず合流し、無事を確かめ合う一同。そんな彼らの元に、もう2つ別の声が聞こえてきました。
「兄貴!アカギ!」
「サクヤ?!」
「無事…な感じじゃないみたいだな…」
声の正体―――サクヤと鬼丸が到着。彼女が無事だと安心した2人でしたが、鬼丸におぶられている血塗れの大典太を見てしかめっ面。そりゃこいつらついさっきまで命の奪い合いしてましたからね。
蔵の惨状を見て複雑な表情を浮かべたサクヤでしたが、今は心を痛めている時間はありません。目的を果たす為、鬼丸に手入場への案内を頼みます。その道中大包平と数珠丸とも合流。鬼丸がサクヤに付き従っていることと、大典太の様子を見た大包平が声を荒げました。
「鬼丸国綱。説明しろ、これはどういうことだ。何故貴様が大典太光世をおぶっている。何故貴様が青龍に従っている!」
「煩い。今は黙れ。大典太の傷が開いたらどうする。……主、手入場はこの近くだ」
「大包平さん、申し訳ございません…。今は一刻を争っていますので、後でお話しましょう」
サクヤも丁寧に会釈をした後、鬼丸に続いて崩れた蔵の隣の建物に消えてしまいました。その様子を見て眉間にしわを寄せた大包平でしたが、数珠丸がそれを宥めていました。鬼丸から感じた霊力で、サクヤと契約したことを彼は見抜いたのでしょう。
「大包平殿。落ち着いてください。……鬼丸殿は青龍殿と契約なさったのです」
「な…!あの鬼丸国綱が…!し、信じられん!」
「……それが、彼の出した答えということなのでしょう。彼女の意見に素直に従っていることからも見て取れます」
「そうか…。サクヤ、鬼丸とも契約したんだな…」
大典太からの契約をも突っぱねていた以前のサクヤとは思えない行動に彼らは驚きを隠せません。しかし…彼女も成長した、ということなのでしょうね。覚悟を受け止め、共に歩むことを許した。自らの力と感情を受け入れた、今の彼女だからこそ出来たこと。
―――消えた建物の扉を見て、アカギは何となく安心感を彼女に覚えたのでした。
~天界 手入場~
手入場に到着したサクヤ達は、早速大典太の手入をすることにしました。傍らには資材が充分に入った壺と、その近くに刀を入れる低い棚のようなものがありました。鬼丸がサクヤを案内し棚の前に立つと、物陰からひょっこり小さな和服を着た妖精が現れました。
鬼丸も大典太を横たわらせ、サクヤに指示をします。
「主。一度大典太を刀に戻せ。そして、本体をこいつに渡せば手入が始まる筈だ」
「了解しました。さほど手順は違っていないように思いますね」
「……ある、じ…」
彼女と離れるのが不安なのか、震える手でサクヤの着物の裾を掴んでくる大典太。そんな彼の行動に、サクヤは優しく自分の手を添えながら『大丈夫だ』と伝えます。
「大丈夫です。今手入を致しますから」
「…………」
その言葉に安心したのか、薄く開いていた大典太の深紅の目が静かに閉じました。それを機とし、サクヤは大典太を刀に戻しました。本体を腰から外し、妖精に渡します。
妖精は刀のひび割れの酷さに急いで棚の中に大典太光世の本体を入れますが……その顔はあまり芳しくないようで。資材は充分揃っているのに何故なのでしょう。
妖精から伝えられた修復時間を聞いた1人と一振も、すぐさま彼と同じ表情をしたのでした。
「損傷が想像以上に酷かったらしい。やはり時間がかかるか。一刻も無駄には出来ないんだがな」
「しかし…光世さんをここに放置して大神殿に戻る訳にもいきません。かといってここで20時間以上待っている訳にも…」
困り果てていた彼女達の耳元に、手入場の扉が開く音が聞こえてきました。音の方向を向いてみると……そこには心配そうにこちらを見つめるクルークの姿がありました。
何事かとサクヤが取り次ぐと、彼は『刀のことは詳しく調べ切れてないけど』と前置きをして、懐から1枚の札を出しました。
「前に書庫の本で読んだんだ。刀の手入を手助けする道具…。1枚、蔵の中に落ちてた。使えるかどうかは分からないけど…これ、使ってほしい」
「『手伝い札』か。なんでそんなものが蔵の中に…いや、蔵の中だからあって当たり前か」
「クルークくん…。ありがとうございます。すぐに渡してきますね」
「大典太さんの言ったこと…今なら少し理解できるかもしれないから。多分…ボクが助けたいヤツと、大典太さんは同じ。―――これで助かるなら、助けてほしい」
「分かったような口を。大典太のような陰気な奴は他に類を見ないぞ」
「違うよっ!ネガティブなところじゃなくて、えーっと…ほら、長年封印されていたところとかさ!」
クルークが取り出したその板には『手伝い札』と書かれていました。そう、原作にもあるあれです。蔵から脱出する際、近くに落ちていたものを偶然拾っていたのですね。なんとラッキー。
彼から札を受け取ったサクヤは、すぐに妖精にそれを渡しました。複雑な表情をしていた妖精はその札を見た瞬間、ぱぁっと明るい表情をした後札を大典太光世が仕舞ってある棚に投げ込みました。すると……棚は淡い光を放ち、しばらくした後収まりました。手入が終わったようですね。
妖精から傷が修復され、真新しくなった大典太光世を受け取るサクヤ。それを腰に帯刀し、意識を集中させると……再び大典太がその場に現れました。血塗れだったその身体もすっかり治っています。
「……主、鬼丸。助かった。ありがとう」
「礼を言われる筋合いはない。もう二度とあんなことはするな」
「……主やあんたの命が天秤にかけられたら、するか『二度とするな』…………」
「光世さん。やっとですね。やっと…貴方の願いが成就する。あともう少しというところまで来ています」
「……そう、だな。俺の願いも、あんたの願いも…無事叶うよう最大限動くとするさ」
改めてサクヤが大典太に話をすると、彼は目を細めて『そうだな』と答えました。陰気なあいつを前向きに変えた主……。彼女達が話している様子を見ながら、改めて自分の選択は間違っていなかったのだと思い直す鬼丸なのでした。
手入場を去る直前、大典太はクルークに向き直ります。そして―――。
「……俺がすぐに動けるようになったのはあんたのお陰だと主から聞いた。ありがとう。―――礼は、改めてさせてくれ。俺の霊力が役に立つかは分からんがな…」
「大典太さん…」
彼はクルークに小さく、ですが強い気持ちで声でお礼を言ったのでした。
それと同時に聞こえてくる手入場の扉の音。後はアクラル達と合流し、神殿に戻ればいい話ですが……。その『扉から見えたもの』に、一同は絶句するのでした。
「サクヤ。アカギ。あれ……!」
アクラルが指さした方向。目線を向けてみると、そこには―――。
巨大な門。『邪神』の世界と繋がった門が、ガラガラと大きな音を立てて崩れていく光景が見えました。
「『門』が崩れていく―――!」
「つまり…『核』が全部壊れたってことだよな…?」
「えぇ。……戻りましょう。アンラに飛ばされた皆様も戻っている頃合いかと思われます」
「刀剣達はどうすんだよ?蔵の下敷きだぞ」
「わざわざアンラがその中から全て掘り起こすとも思えません。……事が終わり次第、総出で回収し本部に持ち帰ります。それでいいですね?」
「……承知した。今やるべきことは…悪の根源を叩くことだからな…」
門が崩れた。それすなわち、『核』が全て破壊されたことに繋がる。そう判断したサクヤは、急いで戻ることを提案。アクラルから蔵の下敷きになっている刀剣はどうするか聞かれて一瞬迷いましたが、今は回収している時間はないと結論付け、神殿に戻ることを促しました。
事が終わったら必ず刀剣の回収に来る。そう、言葉を付け加えて。
その言葉を最後に、サクヤ達はその場を素早く去ったのでした。無事に仲間と再会出来ることを祈って…。