二次創作小説(新・総合)
- #CR10-10 -1 ( No.88 )
- 日時: 2021/07/22 22:09
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: Dbh764Xm)
~アンラの根城~
―――現在は邪な魔力が渦巻く場所。元々は神々が自らの力を癒す為に来る憩いの場所でした。それを象徴する女神の像も全て崩れ落ちていました。花壇に咲いていた花々も根から黒く染まり枯れ果てています。
そんな場所で、武器と武器がぶつかる音が響きました。距離を取ったその老人の近くには、彼を追いかけてきたであろう神々の亡骸が横たわっていました。
「貴様…。よくも我が家族を―――!」
「良き断末魔だった。あれほど力のあると謳われたオリュンポス十二神といえど、我の手にかかればこんなものよ」
「くぅっ…!何故皆儂を追ってきたのじゃ…!この神の力は異次元。いくら青龍が門を閉じてくれたとて―――我らが束になって適うかどうかの相手じゃのに…!」
「勇敢と無謀は違う、ということを死に際に学べて良かったではないか。なぁ、全能の神よ?」
「貴様―――!」
ゼウスの目線の先では薄ら笑いをしているアンラが杖を構えていました。その杖の宝玉は様々な色に輝いており、怪しい光を放っています。まるで、命を奪った十二神の力を自分が強奪したかとでも言うように。
見せつけるようにその杖を前に出され、ゼウスは感情のままに斧をアンラに振り下ろします。しかし、彼女目掛けて放たれた一撃は……彼女が創り出した障壁によって弾かれてしまいました。
「ふむ。弱かったとはいえ十二神の守りの力も使えぬわけではない。……懐かしいだろう。これは、貴様を護る為最後まで盾を離さなかったあの女神から賜りし技よ」
「ぬけぬけと言いおって。その口、直ぐに塞いでくれるわ!!」
「貴様こそ。いつものおちゃらけた態度はどうした?貴様のその姿を見て、正妻はどう思うかな?」
感情に支配されているのか、ゼウスはアンラの口車に乗せられるかの如く斧を振り回します。しかし、その一撃一撃を丁寧に弾いていくアンラ。彼らの戦いはアンラに形勢が傾いていました。
力任せに攻撃するだけではアンラは突破できない。ゼウスはようやく冷静さを取り戻し、一旦彼女から距離を置きました。
「……じゃがのうアンラよ。貴様こそ余裕を崩さずにいていいのか?既に『門』は青龍達が破壊してくれた。貴様の軍勢がもうこの世界に浸透することはない!
この世界の『いのち』を、あまりにも見くびりすぎではないかのう?」
「確かに『門』を本当に破壊するとは我も驚いたぞ。想定外だった。少なくとも、あの四神に関しては認識を改めねばならんな。
だが―――『門』から這い出た我が軍勢は既に相当数にまで上っている。天界を……地上もを覆いつくす程にな。地上のいのちだって有数だろう。無数に湧いて出た我が軍勢を全て滅ぼすことが出来るとでも?」
先程ゼウスが言った通り、アンラは『門』を開いてから異常に力を増している。もし門が開かない状態であればゼウス一柱でも何とかなったとは思いますが、今の彼女は彼の理解の上を上り続けています。全知全能の、神の中の神を相手どっても余裕を崩さずにいるのも頷ける話です。
しかし……だからといって太刀打ちできない相手ということではありません。事実、サクヤ達が力を合わせてアンラの生成したものを崩しているのですから。その時に比べれば、力の供給は途絶えている。アンラの力が切れるまで持ちこたえればこちらにも勝機はありそうです。
そう威勢よく言い返しても『幻想だ』と軽く突き返すアンラ。そんな彼女に、ゼウスは口角を上げながら返しました。
「貴様こそ、種族が垣根を超えて紡いだ絆を軽視してはならぬぞ」
「この期に及んで『絆』か?既に貴様の同胞は全て我が取り込んだ……」
ゼウスの口角が下がっていないことにアンラもようやく気付いた。
「……何を笑っている?」
「―――じきに分かる」
忌々しい。胸に小さく沸き上がった感情を推し潰そうとしたその時でした。
『うおおおおおおおっ!!!!!』
理解の外から鳴り響く、威勢のいい雄たけび。同時に響いて来る自らが呼び出した軍勢の断末魔。
誰だ。目を凝らすも何も見えない。何故我に抵抗する。無感情を貫いてきた邪神に、チリリと小さな苛立ちが募る。
声の正体は―――すぐに分かった。自らを倒す為。『この世界』に住まうもの。
―――やっと 見えた。その『忌々しき姿』が。
「敵はすぐ近くにあり!!皆の者、俺に続けーーーーー!!!!」
「いやいや大包平くん。本能寺に攻め入る訳じゃないんだからさぁ~」
「同じようなものだろう!それに…俺は今斬りたくて斬りたくてたまらない!例え主であろうとそれを邪魔することは許さんぞ!!!」
「はいはい。そんじゃ~、ぼくも今までの鬱憤晴らしちゃいますかねぇ~!きょひょひょひょひょひょ~~~~!!!!!」
軽やかに交わされる会話を皮切りに、続々と人影が増えていく。
皆瞳には光を携えている。自分を倒すのだと、世界を守るのだと、そんな思いが近づいて来る。
「妹が守るつった世界を、お兄ちゃんが守らないわけないからなぁ!!かかって来やがれ雑魚ども。俺の炎で地獄まで落としてやんよ!!!」
「俺がここまで成長できたのは……この世界で。人の姿として。目覚められたからだと思っている…。だから…。俺はこの世界を愛してる。その気持ちを踏みにじるなら……!!邪な気持ちごと凍り付かせてやる。覚悟しろ…」
「私、結構この世界…好きです、わ?何度絶望に阻まれても諦めず、倒れない人間……。それこそ『探索者』にふさわしい行動ですもの。この私を退屈させないこの世界……壊されては私の興が削がれますわ。―――堕ちなさい。外なる神の『深淵なる闇』へと……」
彼らの声が近づいてくる度、邪神は思う。さっさと潰しておけばよかったと。
しかしそこまで考えて思考をやめる。このまま潰してしまえばいいと。
「不当に世界を混ぜられ、明日も分からない状況で我々に手を貸してくださっている…。私はその恩を返したい。だから戦うのです。平和な明日を取り戻すその時まで。未来を我々の手で掴むまで。そんな小さな灯火を―――消すことなど許しません。青龍の名の元に。必ず斬り伏せます」
アンラがはっきりと姿を認識した目線の先には―――自らの軍勢が斬り伏せられ、光が近付いている光景が見えたのだった。
- #CR10-10 -2 ( No.89 )
- 日時: 2021/07/23 22:07
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: Dbh764Xm)
「みんな、テンアゲでトツゲキーっ!!」
「てんあげてんあげーーー!!!」
次々とアンラの軍勢を消滅させていくサクヤ達。各々幻の空間に閉じ込められて色々と成長したのでしょう。振るう刃に迷いが見られません。
しかし…それとは別に。いくら『門』を破壊してアンラの軍勢の増殖を止めたとはいえ、既にコネクトワールドに侵攻を許してしまった軍勢は数知れず。いくら消滅させても、次から次へと湯水のように湧いて出る『かれら』に苦戦を強いられていました。
「こっちだよこっち!ハテナくん次そっち!……んもう!キリがないよー!!」
「邪神さんの軍勢は自己増殖でもするのでしょうか?そうでなければこんなに沢山いる説明がつきませんよーっ!」
「当ったり前でしょー?アンラがもう視界に見えてんだ。敵さんも多くなって当たり前だ……
てなっ!!」
「それにしても…あの理事長と校長、神殿に置いてきちまってよかったのかよ。全員で突撃したからもぬけの殻だぞ今」
「縄で厳重に縛ってあるうえ、彼らを回収して得になる奴がいるとも思えん。故に放置しても問題なかろうかと思ったのだ。……ジャック、まさか私の意見に歯向かう気か?」
「違う!!気になったから聞いただけだ!ったく…。上司の気分で命の危険に晒されるこっちの身にもなれよ…」
「あはは…。でも、ここさえ凌げば邪神は目の前!多勢に無勢って訳でもないんだし頑張ろうよ!」
ジェイドとジェダイトは現在神殿で縛られた状態で眠らされています。力も失っていることから、縄抜けは不可能と考えたのでしょう。そう呑気に話をしながら着実に敵の数を減らしていく一同。
そうは言っても数が多すぎます。全員で裁いても全て消滅させるのにどれくらい時間がかかるのか…。アンラの視界に入っていることから、気付かれて何かされては困る為派手に大きな魔法は使えませんからね。どうしたものか…。
ミミ達がそのことで悩んでいると同時に、別の場所でも大典太が目の前のアンラの軍勢を見て同じ悩みを抱えていました。
「……斬っても斬っても減った感触がしない。邪神に辿り着けるのはいつになるんだ…」
「そうは言うが、斬らねば先には進めない。口を動かしている暇があったら手を動かせ」
「……動かしても減らないから言ってるんだが。せめて主さえあの場に放り込めればいいんだが…」
別の場所では大典太と鬼丸が敵を蹴散らしながら陰気に会話を繰り返しています。流石は天下五剣の腕力担当と言ったところでしょうか。
大典太はそれに加え、サクヤさえゼウスがいる場所に辿り着ければこの状況を一変できるのではないかと考えていました。現在ゼウスとアンラは一騎打ちをしている。そこにサクヤを紛れ込ませ、奇襲させれば…と、想像していたのです。
その言葉を聞いた鬼丸は少し考えた後、こう大典太に提言してきました。
「おれが一気にこいつらを蹴散らすことで、道を一瞬だけ造ることは出来る。……が、判断を誤ればその道を造った意味が無くなるな」
「……『道を作る』か…」
「―――敵陣に近付くにつれて強さが増していますね…。流石は敵の本丸、というところでしょうか。光世さん、鬼丸さん。大丈夫ですか」
「誰にものを言っている。その言葉は大典太にかけてやれ」
「……どこかの誰かに無理やりおぶられたお陰でいつも以上に元気だよ。……主、まさかあんたも」
「はい。タイミングを見計らってあの二柱の元に向かおうと思っていたのですが―――中々道を開いてはくれないようです」
二振が話し合っていたところにサクヤも合流し、自分の考えを述べました。どうやら彼女も同じ思考だったらしく、鬼丸の声が聞こえてきた為合流しようと考えていたそうなのです。
彼女も彼女なりに道を切り開こうとはしていたようですが、次々に湧き出る軍勢のせいで前に向かえないのが現状。更にアンラの元に近付けば近づく程敵は強くなっている為、ますます二柱の神の元へたどり着くのを難しくしていました。
全知全能の神でありゼウスをも凌駕するアンラ。こんな邪神にコネクトワールドを支配されてしまえばとんでもないことになる。サクヤは改めてそう思い、激しい戦いを繰り広げている神々の方向を見ました。
それと、同時でした。
「(………?)」
突如サクヤは目の前の二柱の神に違和感を覚えます。アンラを倒せば終わりの筈。この世界に平和がもたらされる筈。
その為に自分達はヘラの願いを聞き入れゼウスの軍として戦っている。その筈だった。
しかし、彼女の胸に生まれた違和感は、彼女の思惑とは裏腹に徐々に大きくなっていきます。
「(何でしょうか、この違和感…。アンラを倒せば、全てが元通りに…平和になる筈です)」
頭の中に言葉を浮かべた瞬間でした。サクヤは脳裏に『とある場面』がフラッシュバックする感覚を抱きました。
まるで―――『これから起こること』を見せつけているような―――。
「………!!」
コネクトワールドが謎の白い光に包まれていく。
自らと力を分け合った兄も。同胞として世界を守っていくと決めた四神も。力を貸してくれた神々も。
自分達の暮らす世界を奪われても、自らの未来の為に共に行動をしてくれた仲間達も。
次々と、白い光に―――『虚無』に呑み込まれていく。
その中心。『虚無』を生み出している存在は――――――
『―――主!!』
低い重低音がサクヤの脳裏に響き、彼女は現実に引き戻されました。我に返った彼女の耳にグシャリ、と魔物が斬り裂かれる音が入ってきました。
彼女の目の前では、主を守らんと大典太が太刀を魔物に刺し、引き抜いていました。フラッシュバックに気を取られすぎて、魔物に首を掠め取られそうになっていたところを大典太が阻止していました。
「……どうしたんだ。油断すれば一瞬で首を取られる、そう話していたのはあんただろう」
「申し訳ありません。実は……光世さんに呼び戻されるまで、『幻』が見えていたのです」
「……『幻』?」
「はい。あの二柱を見た瞬間、唐突に胸に違和感を感じ―――。コネクトワールドの何もかもが『虚無』に呑み込まれる幻を見たのです。そして、その『虚無』を生み出している元凶……。アンラの他に、もう1つ力を感じました」
「……そうか。こんな時に幻を見るとは…。誰かが主に伝えたいことでもあるんだろうか。……それで。邪神の他に感じた『もう1つの力』とは何なんだ」
「…………」
大典太が彼女に問いかけます。目尻が下がっている為、純粋にサクヤのことを心配しての言動でした。その問いに彼女は素直に自分の見た幻と、それに関する胸に抱いた違和感についてを話しました。
彼はサクヤの言葉を素直に受け止め、その幻について更に問います。……あの二柱を見た瞬間に幻を見た。コネクトワールドを呑み込んでいる『虚無』を生み出している正体がアンラと『もう1つ』ということは。大典太にはある程度察しがついていましたが、それを確信に変える為。
サクヤは数刻言い淀んでいましたが…彼の純粋な心に動かされ、遂に口を割りました。
「……『ゼウス様』の力を感じたのです。幻の中で虚無を生み出していたのはアンラとゼウス様の二柱。そして…抱いた違和感の正体も今理解が出来ました。
『アンラとゼウス様をこのまま戦わせてしまっていいのか』。違和感の正体は……それです」
「……以前他の奴が言った『異界』での未来をあんたに映し出しているんだろうか…。分からんが、あいつらが関わっているなら直接聞けばいい。あんたの見た幻が『幻なのか、未来を見ている』のか」
「聞けるならとっくに聞いてます。ですが…今の状態では進めませんよ光世さん」
「……なら。『一瞬でも』その道を創り出せばいいという話だ。……鬼丸。あんたの考えに俺も乗る。―――一直線上に敵を一掃できるか」
その言葉と共に、大典太はサクヤをひょいと担いでしまいました。身体が一瞬で浮かび上がり、目線が大典太の真横に来てしまったサクヤ。恥ずかしくて目を逸らす彼女に『……別の担ぎ方の方が良かったか?』と心配そうに大典太は聞いてきました。そういう意味じゃないと思います。
龍の癖に軽いな。ちゃんと食べているのか。見当違いの言動を続ける大典太に流石のサクヤも『今はそんなことを言っている場合ではありません』とツッコミが入ります。そんな1人と一振のやり取りを呆れながら見つつも、握っていた太刀を改めて構える鬼丸。
そして―――。
「道を造れるのは一瞬だ。おれが『鬼』を一掃したら、そのまままっすぐ走れ」
「……あぁ。分かった」
鬼丸がそう発した瞬間でした。彼の姿が消え、彼の一閃である斬撃が見えたと共に、目の前にたむろしていた魔物が跡形もなく消滅しました。
すぐさま鬼丸は造った道の傍に現れ、大典太に叫びました。
『今だ。もたもたしていたらまた道を塞がれる。まっすぐ走れ!!』
鬼丸の言う通り、開けた道には再び魔物が這い出てきていました。
大典太はサクヤを抱えている手と太刀を握っている手を改めて握り直した後、サクヤに告げました。
「……主。しっかり捕まっていてくれ。這い出してきた魔物を蹴散らしながら向こうまで行くからな」
「―――了解しました。光世さん…頼みました」
サクヤが大典太の服の襟を握りしめた瞬間。彼の背後に、晴れているのに稲妻が鳴り響きました。
それと同時に、大典太は一瞬で鬼丸が開いてくれた道の移動を始めました。普段のっそりとしている彼。天下五剣の中でも一番瞬発力が無かったはずですが、どこにそんな力が秘められているのでしょうか。
這い出た魔物は彼らをアンラの元へ通さまいと大典太の足にしがみつこうとしてきます。しかし、彼はそれにも瞬時に反応し一太刀を浴びせます。戦は好きじゃないが、と言いつつも一振刀を振るえば恐ろしい力を発揮するこの太刀。蔵に封印されていたのもよく分かります。
「光世さん…。貴方、こんな秘めた力を…」
「……『普通の』俺じゃ絶対に無理だ。……『失敗作』と言われるくらいに強い霊力でも、これくらいの役には立ってもらわんとな」
「…………。力の使い方さえ誤らなければ、貴方達も『普通の天下五剣』と早々変わりはしないと思いますが」
「……さて、どうだろう。―――あと少しだ主。速度を上げる。舌を噛み切らない様に黙っていた方がいいぞ…」
戦いの音が遠くなっていく。大典太に掴まりながらサクヤは前を見ていました。二柱の神が戦っている光景が近付いて来る。魔物が目の前にいる為よく見えませんでしたが、二柱の強い神の力はひしひしと感じていました。
しばらく前を見続けていた後、魔物の列が途切れるのが見えました。遮っていた群れの終わりにそろそろ辿り着きそうですね。
最後に目の前に現れた魔物を斬り捨て、大典太は立ち止まります。遠いところで鬼丸が更に強い一閃を出したのが分かりました。背後に迫っていた魔物は一瞬で塵と化しました。
思わず振り返ってみましたが、再び這い出た魔物は鬼丸をターゲットにして襲い掛かっている模様。こちらに近付きはしませんでした。
それを確認した後、大典太はサクヤを降ろします。
「ありがとうございます、光世さん。……この先にゼウス様とアンラがいる筈です」
「……あぁ。―――だが、おかしいな。戦いの音が聞こえない…」
「え?」
「……近くで戦闘を続けているのならば、武器と武器がぶつかる音が聴こえてきてもおかしくない。だが…それすら、ない。鍔迫り合いの音が聴こえてきているのは……俺達が来た道の向こうだ」
「何が起こっているのでしょうか…」
大典太はしかめっ面をしながらそう口にしました。確かに彼の言う通り、二柱が戦いを続けているのならば戦いの音が聴こえてきてもおかしくはないはず。しかし、大典太はそれすら聞こえないと言います。彼の言葉にサクヤも耳を澄まして周りの音と聞き取りますが―――。彼の言う通り、音が聞こえません。
もしかして決着がついてしまった?言われようのない不安を抱いた1人と一振は、急いでゼウスの元まで向かうのでした。
「―――ゼウス様!! ………え?」
「…………!」
やっとの思いでゼウスのいる場所まで辿り着いたサクヤ達でしたが…。その光景を見て、言葉が出てきませんでした。
彼女とその近侍が見たものは、あまりにも『呆気ない終わり』だったのです。
『……おお!青龍にその近侍か。儂を心配してここまで来てくれた様じゃがのう。その努力も無駄に終わってしまったな。ほっほっほ』
「ゼウス、様…?」
「……あんた、苦戦してたんじゃなかったのか…?」
サクヤと大典太が見たものは。
こちらを見ながら軽快に笑うゼウスと、宝玉が粉々に砕け武器としての役割と鎖した邪神の杖が転がっている光景でした。
- #CR10-11 ( No.90 )
- 日時: 2021/07/24 22:08
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: Dbh764Xm)
~本部 メインサーバ~
「前田殿!そっちの様子はどうだい?」
「こちらも粗方殲滅が終了いたしました。本部にも軍勢が侵入してくるとは思っていましたが…まさかこれ程までとは」
「戦える人達で各ポイントの軍勢を各個撃破してもらっているから大丈夫だ。彼らは実力があるからね、心配いらないよ」
一方。メインサーバではマルスと前田が地上に降り立ったアンラの軍勢を倒していました。天界を覆いつくす程に侵攻を許してしまっていた訳ですから、そりゃあ地上にも次々と這い出てくるのは当然です。サクヤ達の本拠地であるここもアンラにとっては邪魔だったのか、優先的に軍勢の突撃を指示していたようです。
しかし、そんなことでへこたれる彼らではありません。指揮に優れたマルスとサクヤに統括を託された前田がメインサーバに残り、その他の面子は各個湧き出たポイントに向かい魔物の殲滅を続けていました。
お陰で本部中に魔物が覆いつくすことは今のところはありません。各々の行動の成果ですね。
「各支部とも連携を取っていますが…やはり、本部と蜜に連携を取っている場所が優先的に狙われているようです」
「そりゃあ、邪神にとってこの世界を守る存在である四神は一番邪魔な存在だ。そんな彼らがたむろする本拠地ならば、相手からしてみれば早く叩いておきたいところだよね」
「……主君は。大典太さんは。無事なのでしょうか。今でも心苦しいです」
「君が信じてあげなきゃ駄目だよ、前田殿。彼女達の強さは君が一番よく分かっているはずだ。心配しなくてとも、2人はやってくれるさ」
「…………」
前田は未だに心が痛んでいました。何せ相手取っているのは、この世界を片手で壊せるほどの力を持った『神』。いくら力を合わせたとしても主君が、大典太が傷付いてしまえば意味がない。そんな彼をマルスは励まします。『彼女達を信じてあげることが、彼女達への何よりの手向け』だと。
マルスも完全にこの戦を生き残れるかは確信が持てていませんでした。しかし、この世界にいる『守るべき人達』。彼らの為に戦うと決めたのならば、彼らと共に平和を取り戻す。マルスは一度決めたら揺るがない男でした。
「……前田殿。お喋りはここまでにした方が良さそうだ。―――背後から迫ってきているみたいだね」
「承知しました。主君と大典太さんのことは不安ではありますが…それで僕が倒れてしまっていては意味がありませんからね。僕も精一杯、お二人の帰る場所を守ります」
「その意気だ。……来るよ!」
背後から這い出てくる魔物の気配を察し、マルスと前田は武器を構えます。それと同時にメインサーバの入口から数匹の魔物が飛び掛かってきました。彼らを獲物と定め、首を引きちぎらんと襲い掛かってきます。
各々魔物を倒さんと武器を振るおうとした、その時でした。
魔物を斬りつける感覚がありません。身体のバランスを崩し思わず床に倒れてしまった前田。すぐさま彼に駆け寄りマルスは前田を起き上がらせましたが―――。そこで気付きます。
襲ってきていた筈の魔物の姿はありません。どこかへ身を隠したのかと辺りを見回しても―――気配がぱったりと消えてしまったのです。
「あれ?魔物は…」
「消えてしまったようだね。大丈夫かい、前田殿?」
「はい。僕は大丈夫です。それにしても…どういう…ことなんでしょうか?」
「うーん…。敵の将を彼らが撃破した、というには随分とあっさり過ぎるような気がするけど…」
突如消えてしまった魔物について話をする1人と一振。いくら理由を考えてみても納得できる答えが導き出せません。例えアンラをサクヤ達が倒したとしても、一斉に魔物が消えるなんてことは考えられないことでした。
話を続けていると、メインサーバに近付いて来る足音が2つ。思わず武器を構える彼らでしたが、入って来た人影を見てその必要はないと武器を仕舞いました。
「オイ。コッチは大丈夫なんだろうなァ?」
「コハク殿。キョウカ殿!確かきみ達はエントランスの魔物を倒していたんじゃ…」
「あぁ。そうなのだが…戦っていた魔物が急に全て霧のように消滅してしまってな。ノアやヴィオラ、アイラ達と戦っていた魔物も同じように消えてしまったから…後処理はあいつらに任せて、何かあったのかとここまで走ってきたんだ」
「えっ?お二人も、ですか?」
「『お二人も』っつーことは…テメーらも同じ現象を目の当たりにした、ってことなンだな?」
「はい。僕達も同じなのです。斬っても斬っても蘇るそれは『屍』のようでしたが…。急に消えてしまったのです。まるで最初からいなかったかのように」
「恐らく他のポイントで戦っている人達も同じ現象に見舞われているだろうね。……なんだか、不気味だなぁ」
どうやら13班が戦っていたエントランスでもマルスと前田が目の当たりにした現象と同じものを見たらしく、確認をする為に2人が急いでメインサーバまでやってきたようです。
2人の話を聞いて、『恐らく他の面子も同じように魔物が消滅している』とマルスは確信がつきました。唐突に戦っていた魔物が霧のように消える。本部自体から邪神の力が消えたのはいいのですが、あまりにも呆気ない終わりにマルスは不気味さを感じていました。
「この様子だと、確実に天界の方でも何かしら起こったのだろうな。……しっかりと、『終わり』を迎えられてればいいのだがな」
「なンか引っかかってンのかァ?キョウカさんよ」
「そういう訳ではないが…。胸騒ぎがするのだ」
「胸騒ぎ、か…」
「主君…大典太さん…」
前田は上空を見上げます。そこにあるのはコンクリートの天井だけでしたが…彼の胸に抱いた不安は留まることを知らず、ちくちくと彼の心を痛めつけていたのでした。
~天界 アンラ・マンユの根城~
ゼウスがアンラを断ち切ったことにより、彼女の軍勢である魔物も全て消滅してしまいました。遠くで鳴り響いていた戦の音も成りを潜めます。
サクヤと大典太はとりあえず彼に話を聞こうと近づきました。辺りを見回してみると、アンラ側に寝返っていたであろう神々がサクヤ達を見て怯える姿を見せていました。……全知全能の神を裏切った以上、自分達に被害が被る。それを恐れているのでしょう。
人間も、魔の者も、神々も。結局情を持つとそうなるのだ。サクヤは改めて感情を持つことの難しさをひしひしと感じたのでした。
「……ゼウス様」
「そんなに怖い顔をするでないぞ青龍。この戦の元凶である邪神はこの手で倒した。なーんの問題も無いじゃろう?」
「それは、そうなのですが…」
軽快に言葉を告げるゼウスでしたが、サクヤはその表情に恐れを抱いていました。―――普段彼から感じる暖かさを感じない。寧ろ、彼から感じるのは…氷のように冷たい感情。笑顔を取り繕っていても、それが本心からではない。
背中に悪寒が走ります。そんな彼女に大典太は小さく耳打ちをしました。
「……主。先程の違和感…聞かない方がいいかもしれん。口にしてしまったが最後―――あんたの首が跳ね飛ばされるような気がした。……あんたが斬られたら意味がない」
「まさか…光世さんも?」
「……そう、だな。今の創造神からは違和感しか感じない。実際に会ったことはないが…元々の暖かさを感じられない」
「…………」
ひそひそと話し合っている彼女達が気になったのか、ゼウスが声をかけます。思わずサクヤはビクリと肩を震えさせますが、ゼウスはそんな彼女の反応を軽快に笑い飛ばしたのでした。
……冷たい小さな違和感を発したまま。
「なんじゃなんじゃ。惚れた者同士でひそひそ話か?儂の前では関心せんのう」
「違います。決してそういうつもりで話していた訳ではありません。……立場が上の神に対しての無礼、お許しください」
「……すまない」
「ほっほっほ。気にしておらんよ。それともなんじゃ青龍よ。納得しておらんのか」
「―――納得している、と言えば嘘になります。あまりにも呆気ない幕引きだと感じましたので…」
「何を申しておる。儂を誰だと思っているのじゃ。『全知全能の神』ゼウスじゃぞ?本気を出せばあんな邪神など一捻り、じゃ。
それにのう。お主らが『扉』を破壊してくれたからこそ。儂はあの邪神と単騎決戦を決意することが出来たのじゃ。アンラ・マンユを討ち取れたのも、お主らの協力があったからじゃ。助太刀感謝するぞ」
「は、はい…」
ゼウスはそう話しますが、サクヤの中では腑に落ちませんでした。まるで表面を取り繕っているだけのような言葉。―――死んでも口には出来ませんが、1人と一振が抱いた違和感が消えることはありませんでした。
そんな彼女達の背後に気配を感じます。思わず振り返ってみると、そこにいたのはアクラルと鬼丸でした。急に魔物が消えたので彼女達を追ってきたのでしょう。
「急に魔物が全部霧みてーに消えちまってよ。ジジイ…もしかしてあのクソ邪神倒したのか?」
「そうらしいです。私達が辿り着いた時にはもう彼女の姿はありませんでした」
「それにしてはそこの神の力が『……あんた、頬に傷がついてるぞ』……はひをふるおおれんは。ほほをつへるは」
「(……光世のヤローが鬼丸の口封じする程なのか?俺が抱いてるジジイへの違和感を…サクヤも感じ取ってるってことか?)」
鬼丸の頬を大典太がつねることで口封じをしたことから、アクラルはこの違和感が『ゼウスに伝えてはいけないもの』だと察しました。そして、サクヤも同じ感情を抱いているのではないかということも。
恐らく遠回しに言ってもゼウスにはぐらかされてしまうだろう。彼は元々そういう神でした。アクラルは胸に抱いた違和感を、静かに内にしまい込んだのでした。
「いつまでもここで駄弁っている訳にも参りませんし…。崩壊した蔵に残してきた刀剣達の回収も急がねばなりません。アンラの邪気が感じられない今ならば、安全に刀剣を回収することが出来るでしょう」
「それに関してはアカギと数珠丸先導で残れるやつ全員で持ち運んでる。祓ったとはいえ、内に残る邪気がどんくらいあるかわかんねーから…耐えられねーと判断した奴は先に本部に戻ってもらってるよ」
「儂も手伝おう。蔵の跡地は…確かあの場所じゃったな。早速向かおうではないか」
「私もすぐに向かいます。兄貴も先に行ってください」
「おう。遅れるんじゃねーぞ」
どうやら現在蔵の下敷きになった刀剣の回収を総出で行っているようです。いくらどこも折れていない可能性が強いとはいえ、あの崩壊に巻き込まれたのですから傷がついていないとは限りません。更に、蔵の邪気が祓われたからといって刀剣自体の邪気が祓われるという訳ではありませんからね。
すぐに追いつくとアクラルに伝え、彼とゼウスが姿を消すのを見守った後…。大典太は鬼丸をつねっていた手を離しました。
「何をする。痛いじゃないか」
「……すまんな。あんたの口を封じるにはこれしか思いつかなかった」
「深堀しちゃいけないことなんだろうが…聞かなきゃ分からないこともあるだろ。何故口封じするような真似をした」
「……あんたが口出ししたところで斬られるのは主だ。きっと、深堀したら主の命がないと思った。……俺だって本当は聞きたかったさ。根掘り葉掘り…な」
「鬼丸さん。貴方の純粋な気持ちは察するに余りあります。私も喉まで出かけていた違和感ですから」
「あの心の底に感じる冷たい感触。『鬼』でもそんな感情は持たない。あれは…なんなんだ」
「分かりません…が、聞けない以上深堀しても意味がありません。……とりあえず蔵に向かいましょう。あまり兄貴達を待たせても心配させてしまいます」
「あの邪神…余程刀剣に執着があったように見えるな。自分の傀儡にでもしたかったか」
「……目の前が見えない、冷たく孤独な暗闇…。早くあいつらも解放してやらないとな」
「はい。刀剣達の回収を行い次第本部に戻りましょう。アンラが消滅したのは事実。世界を揺るがす脅威は―――終わりを告げたのですから」
自分に言い聞かせるように言葉にし、サクヤは二振を連れて蔵への道を戻り始めました。
心の中に残った違和感。それを覆い隠すようにしながら、足を進めるごとに『見てはいけない』と自分に暗示をかけたのでした。
