二次創作小説(新・総合)
- #CR08-11 その霊力、雷の如し ( No.9 )
- 日時: 2021/03/22 22:26
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: bUOIFFcu)
ごくそつくんが光の道を全速力で辿る中、道を切り開く為大包平は大典太に『とある頼み』をするのですが…。
如何に強い霊力でも、正しく使わねば危険な力であることは変わりません。―――どういう意味かって?それは物語を紐解いていくうちに分かっていくことでしょう。
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~メインサーバ~
ミミ『と、いうことで。これからわたし達、MZDの家に向かってあの紫色のハートをぶっ壊したいと思います!』
サクヤ「そうですか…。しかし、あのメフィストの中には亡霊のミミニャミさんとえむぜさんがいます。そんな状態で壊していいものかどうか」
ごくそつ『普通はそう思うよねぇ~。でもねぇ~、なんか音無町に『ポップンパーティ』の記憶っぽいものがごろっごろ転がってるの。きょひょ!今光を辿ってそれ拾いながら進んでるんだけどさ、光を辿れば辿るほど力が強くなってるんだよねぇ~!』
アクラル「ポップンの記憶…。エムゼが零したかなんかしたものなのかはしんねーけど、それがあればあいつに対抗できる。そう思ってるってわけだよな?」
ニャミ『うん!この光、あたしやミミちゃん、MZDだけじゃない。『今まで出会った、全てのポップンパーティの参加者』の思い出を感じるんだ。だから―――もし全部集めることが出来たら、あいつにだって負けないと思うんだ!』
サクヤ「……成程。音無町だけではない。沢山のポップンの記憶が今1つに集まろうというわけですか。分かりました。その場は皆さんにお任せします。何かご入用があれば連絡をください」
メインサーバでは、音無町にて車で爆速中のごくそつくん達と連絡を取っていました。ヴィルヘルムのペンダントが淡く光っていること。そして、町中に光が漂っていること。今はその光を辿りながらMZDの家―――『メフィストの心臓』を目指していることを話しました。
それを聞いたサクヤは少し考えた後、そんな奇跡が起きているということは、『彼女達に何か追い風が吹いてきている』と判断。その場は彼女達に任せると決断し、自分達は入用の時だけ手助けすることを伝えたのでした。
一旦通信が切れた後、アシッドが何かを見据えたようにサクヤに話しかけてきます。
アシッド「メフィストも、自分の心臓が丸見えになってしまった以上なりふり構っていられないということだね。この拠点に手出しをする余裕はないだろう」
サクヤ「では、警備に当てていた方々を呼び戻しましょう。音無町の方で何かイレギュラーが起きても、すぐに対処できるように体制を整えますよ。前田くん、全館放送を使って皆様をここに呼んでいただけますか?」
前田「かしこまりました。すぐに連絡いたします!」
メフィストの余裕が無くなっている以上、本部への襲撃はもうないだろうと判断したサクヤ。前田に口添えをして、警備に当たっていた面子をメインサーバに呼び戻すよう頼みました。
前田がすぐに部屋の脇にある放送室へ向かうのを見送った直後、サクヤもモニターに向き合います。
大典太「……光。確かに町中に散らばっている。あれの1つ1つが、あいつらの大切な『思い』そのものなのか」
サクヤ「少なくとも、ポップンの世界に関しては……。誰か1人が支配するのではなく。皆で手を取り合って歩んでいく未来が実現できていたようですね。改めてそう感じます」
大典太「……思い、か。…………」
サクヤ「大典太さん、どうかしたのですか?」
大典太「……いや、なんでもない」
ぼそぼそと小さく言葉を漏らす大典太を不思議そうに見つめるサクヤ。ポップンの世界は『思い』を伝え合い、皆で手を取り合って未来を作っている。その言葉を聞き、彼はどこか後ろめたい気持ちを抱いていたのでした。
自分は『サクヤの刀』ではない。しかし―――彼女の近侍として、皆を騙し欺いている。募りに募った罪悪感と、主への申し訳なさが頂点に達しそうになっていたのです。
そんなことを思いつめている間にも、前田が館内放送を終えて戻ってきました。既にこちらに向かっている足音が聞こえている為、そう時間もかからず全員が揃いそうですね。
前田は大典太の表情で何を考えるか察し、サクヤに聞こえないように耳打ちをしてきます。
前田「大典太さん。主君とのことについて考えていたのですか?」
大典太「……そう、だな。俺は……主に思いを伝えず、皆をずっと騙し欺き続けるのだろうか。画面の中で必死に戦っている連中を見ていたら、そう思って……。そうしたら、なんだか罪悪感がでかくなってきてな」
前田「―――大典太さんは優しい方ですから、主君の刀として主命を果たしたい思いをずっとひた隠しにしてきたのでしょう。僕は大典太さんではありませんが、その気持ちは分かります。
……どうでしょう。この事件が解決した後。主君にそのことをお話してみては?」
大典太「……何故、そう思うんだ。拒絶されるのが分かっているのに何故…」
前田「アシッド殿が主君に仰られた言葉。きっと、主君の中でも葛藤がある筈です。そのタイミングだからこそ、主君と大典太さんでしっかり話し合う必要がある、と僕は思うのです。
―――お二人の気持ちがすれ違ったまま、未来に進んでほしくない。僕はそう思っています」
大典太「…………」
どうやら前田、アシッドの言葉がどうにも引っかかっていたようで。サクヤの気持ちも、大典太の気持ちもよく分かっていたからこその言葉。だから、2人で話し合ってほしいと。思いを伝えてほしいと、そう思っていました。
ですが―――。やはり、大典太にまだその覚悟は、出来ていませんでした。主の悲しむ顔が、簡単に思い浮かんでしまうから……。
二振が話し合っている間にも、ぞろぞろとメインサーバの人数は増えていき、現在集まれる人数は全員集まりました。そして、音無町で今起こっていることを説明後、各々待機することになったのでした。
―――20分程待機していたその時でした。念話でしょうか。賑やかな大声がメインサーバ中に響きます。
三日月『あなや。大包平、そんなに大声を出さぬともこちらには聞こえているぞ~。あぁ、じじいの鼓膜は弱弱しいからなぁ。はっはっは』
大包平『軽口を叩くなじじい!!!貴様はまだ完全に顕現していない癖に出来もしないことを言うな!―――違う、貴様と駄弁りに念話を飛ばしたのではない。
大典太光世!!聞こえているんだろう、応答しろ!』
大典太「……喧しいぞ。部屋中に響いて耳が痛い。……何の用だよ」
大包平『フン。貴様にはそれくらいしないと声が届きそうになかったものでな!!時間も惜しいので本題に入るぞ。貴様らも分かっているとは思うが、あの紫色の心臓…。あれを破壊すれば我々の勝利だ。現在は主の運転により、光を辿って現在は家の前にいる。
―――が。そこで問題が起きた。あの道化師、あろうことか入口に霊力で障壁を貼ってな。道が塞がれて先に進めないのだ』
石丸「道が塞がれ先に進めない…。そう簡単に自分の心臓までは辿りつけさせたくないようだな」
大包平『あれを破壊する前に少年を引っ張り出さねばなるまい。その為には、兎と猫の少女をあの中に連れていき、突入する必要がある。
彼女達の影響を少しでも減らす為、闇を少しでも祓っておきたい』
サクヤ「確かに、あの心臓の中は『闇』そのもの…。ミミニャミさんが生身で突入して、無事で帰って来られる保証はありませんね」
大典太「……あんたの言いたいことは分かった。それで、俺は何をすればいい」
現在、ミミニャミ達はMZDの家の前まで辿り着いていました。光を全て辿った為少し遠回りになってしまいましたが、『心臓』に対抗できる力は充分に溜まっていました。しかし、メフィストがそう簡単に自分の心臓への道を開くわけがありません。
先回りしていたのか、家を取り囲むように障壁が貼られ中に入れません。メフィストの心臓の中にいるMZDを助ける為には、彼の部屋から心臓の中に突入する必要があるのですが―――。家に入れなくては、部屋へも行けませんからね。
大典太が要件を訪ねると、大包平はそのままのテンションで言葉を続けました。
大包平『俺の霊力では流石に負担が多すぎる。天下五剣の力を借りるなど本来ならば断固嫌だが、今はそう言ってられる状況ではない。
―――大典太光世。俺に霊力を貸せ。貴様のその無駄に大量にある霊力の力を借りれば、入口の闇を祓えるだろう』
前田「メフィストの心臓―――。本陣の近くですからね。こちらも強い霊力をぶつけて相殺しなければ前に進めない、ということなのですね」
大典太「……純粋な神より、妖に性質が近い俺達の方が相殺できる可能性が高いのか。―――承知した。すぐに霊力を送る。大包平。あんたの刀を掲げろ」
大包平『言われなくともそうしている!!』
神の力を借りるより、同じ刀剣男士の霊力の方が相性がいいのでしょう。大包平一振ではメフィストの闇を祓うことは出来ない為、大典太の霊力を借りてこの場を切り開こうを考えていました。え?何故三日月ではないのか?……三日月は完全に顕現できていない為、石丸の協力が無ければ霊力を送ることが出来ません。彼の負担を考えたのでしょう。
大典太はすぐに趣旨を理解し、自分の腰に携えていた刀を目の前に掲げ精神を集中させます。―――すると、大包平から感嘆の言葉が。
大包平『―――なんだこれは。貴様、普通の大典太光世にしては霊力が多すぎないか?まぁ、今は寧ろ助かるんだが』
大典太「……政府曰く、俺達は『失敗作』らしいからな。―――あんたが驚くのも無理はない」
石丸「『失敗作』……」
三日月『そう落ち込むな主。霊力が多すぎても、建物を破壊したり、自我が保てず他の刀剣男士を傷つけてしまっては本末転倒だろう?俺達はそれをコントロールする為に作られた、いわば『実験台』という奴なのだ。気にするでない」
石丸「それはそう、だが…。君達の意思を無視して、道具のように扱う政府には好感が持てないと思ってな」
大典太「……それは違う。紛れもなく俺達は『道具』だよ…」
前田「大典太さん…」
そういえば、彼が顕現し三日月が目覚めた辺りでそんなことを言っていましたね。『俺達』と言っていたことから、政府によって鍛刀された五振は霊力が高すぎた故『失敗作』と言われていたようです。その辺についても今後、分かってくることがあるかもしれませんね。
大包平には順調に霊力が届いているようで、彼の刀身が少しずつ輝きを見せているのが周りの反応から見て取れました。
大包平『もう少しだ。もう少しであの闇を斬れるだけの霊力が溜まる―――!』
このままなら行ける―――!誰しもがそう思った、その時でした。
大典太「―――っ?!」
サクヤ「?!」
それは、唐突でした。バチリ、という音と共に大典太に電流が走ります。何が起こったか理解できていない大典太をよそに、三日月は何かを悟ったように声のトーンを落としました。大包平も急に霊力の援助が途切れたのか、焦ったような大きな声でこちらに口を出してきます。
大包平『どういうことだ大典太光世!!貴様、青龍と契約をしていたのではなかったのか!!』
大典太「…………!!」
大包平『何をしている!!このままでは闇が―――。……貴様、まさか『本来の契約をしていない』のでは『大包平。今は問い詰めている暇はないぞ。俺が代理をしよう』』
『本来の契約をしていないのではないか』。大包平が発したその言葉に、全てを理解する大典太。―――霊力の援助は、『主命を果たす』刀でなければ行えない。頭が真っ白になり、大包平の言葉も頭に入ってきません。
大包平の声が怒号に変わっていく寸前でした。三日月が彼の言葉を遮り、自分が代理で霊力を送ると提案してきました。彼はすぐに石丸に刀を掲げてほしいと頼みます。
石丸「これを、掲げればいいのかい?―――僕で大丈夫なのか?」
三日月『主は生身の人間だからな。多少、身体がふわふわとした感触にはなるだろう。だが、主は『質実剛健』が『もっとー』なのだろう?大丈夫、主と俺ならばな』
石丸「そ、そうか。よく分からんが、活路を開けるのならば喜んで協力するぞ!大包平さん、受け取ってくれ!」
石丸が三日月宗近を掲げると、大包平の刀が再び光り輝きます。そして―――1分程経った頃、彼から『もう充分だ。貴様の主を解いてやれじじい』という言葉が響いてきたのでした。
それと同時にぐったりと椅子にもたれかかる彼。罪木が心配そうに駆け寄ります。
罪木「はわわぁ?!だ、大丈夫ですか石丸さぁ~ん?!」
石丸「は、ははは…。少し、疲れただけだ…。座って休めば、大丈夫さ」
三日月『普通は俺が刀を掲げるべきところを、その役目を主に押し付けてしまった形だからな。神の力を身体を通じて送る行為。生身の人間には負担が多い。―――よく頑張ったな主』
大包平は既に念話を切っており、現地での事態解決に向けて集中しているのでしょう。ぐったりとした表情で机に屈服する石丸を、三日月はいたわるように見ていました。
―――その後。大典太に小さく声をかけ、こんなことを告げるのでした。
三日月『……大典太。大丈夫か』
大典太「…………」
三日月『その表情が崩れない、ということは…。余程知られたくなかったように見えるなぁ。―――恐らく、この事態が収まった後。大包平が問い詰めにくるのは間違いない。後で話をしよう』
大典太「…………」
大典太の表情は固まっていました。今まで隠し通していたものが、こんなにもあっさりと崩れ去るとは。これで、主との主従関係も終わりなのか。いくら腕の震えを止めようとも、拳を握りしめても。それが止まることはありませんでした。
―――三日月も薄々悟っていたのかもしれません。『大典太に、近い将来大きな決断を下す場面が来る』ことを。恐怖で打ちひしがれる彼を見ながら、三日月は小さくため息をついたのでした。
- #CR08-12 繋がりの先には何がある ( No.10 )
- 日時: 2021/03/23 22:15
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: bUOIFFcu)
全てに決着をつける為、MZDの家へと乗り込む一同。
不安と恐れが付きまといますが、みんなの力を背負った今ならば大丈夫。さぁ、MZDを救いに行きましょう!
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~音無町 少年の家前~
大包平「……今回ばかりはじじいに感謝せねばな。お陰で、闇を斬れそうだ」
ミミ「本当?!流石は『刀剣の横綱』!伊達に異名がついてる訳じゃないんだね~」
大包平「もっと褒めてくれてもいいぞ。―――一撃で決める。お前達、少し後ろに下がっていろ」
音無町では、車から降りた一同が立ち止まっていました。念話でもあった通り、少年の家は紫色の靄らしきもので覆われています。入ろうとすると靄が絡みつき、結果的に弾き飛ばされてしまう。これを何とかせねば、メフィストの心臓の元まではたどり着けないのでした。
大包平の刀は、自らの霊力と大典太、三日月双方の霊力で高まりを見せ輝かしいばかりに光っています。彼は悟っていました。斬れるのは一度きり。急所を外せば、全員で乗り込むことは不可能だ、と。覚悟を固める為、周りの人達に少し下がっているように命じます。
ごくそつ「靄、といってもどこかに脆いところはある筈だからね~。そこを狙って斬ればきっと活路は見いだせるはず!きょひょ!」
ニャミ「大包平さんが靄を斬ってくれた後は、すぐに玄関から家に入って―――MZDの部屋を目指せばいいんだよね?」
莉愛「えぇ。恐らく、靄が晴れるのは一時的なもの。すぐにあたし達を追って再生するはずだわ。余談は許されない」
ルキナ「靄もすぐに再生を始めるでしょうから…。時間はないと思った方がいいでしょう」
ミミ「絶対に失敗させられないね…」
集中力を高めている大包平の後ろで、今後のことを話し合う一同。メフィストの性格からして、斬ってどうにかなるものを創り出しているはずがない。彼が活路を開いてくれても、それは一時的だと皆分かっていました。だから―――彼の邪魔はせずに、ただ『その時』をじっと待っていました。
―――そして。
大包平『―――そこかぁッ!!!』
大包平の鋭い一閃―――。光を纏った斬撃は、闇に覆われた家をはっきりと映し出す程までになりました。後ろで見ていた一同も流石、と喉まで出かけますが…今はそんなことで時間を使っている暇はありません。
彼が素早く振り向き、ドアの方向を指さします。早く入れ、と無言で圧をかけてきます。一同も各々反応を見せ、急いで少年の家のドアを開き、中へと突入します。しんがりを務めていた大包平が入った瞬間―――。
再び、靄が家の周りを覆い始めました。もう少しタイミングが遅ければ、誰かしら巻き込まれていましたね。
莉愛「…何とか入れたけど、閉じ込められちゃったわね…。ミミとニャミを待っている間、あたし達は部屋の中で待機ってことでいいのかしら?」
ごくそつ「そうだね~。心臓を内側からぶっ壊した後、ミミちゃんとニャミちゃんがどうなるかなんて予想できないし。待ってた方が得策でしょ。きょひょひょ!」
ジャック「流石に家の中にまでは靄は入ってこないか…。が、あいつの魔力自体に手を出したんだ。気付かれるのも時間の問題だろうな」
大包平「ならば、その場で俺が切り伏せて見せよう。道化師よ。俺に殺されるのを名誉に思いながら逝くがいい」
ルキナ「力不足ですが、私もお手伝いいたします!」
ごくそつ「あのねぇ大包平くん?ルキナちゃん?ぼく達が直接対峙できないのは分かってるよねぇ~?心臓無いから斬れないんだよ~?」
ミミ「あっ!あそこに階段がある!そこからまっすぐMZDの部屋まで行けそうだよ!」
ニャミ「いよいよ本丸に突入って感じだね~。……緊張してきた」
ジャック「緊張するもしないも、お前達はその覚悟を背負ってここまで来たんだろ。なら、その『気持ち』を信じろ。お前らは今までずっとそうしてきた。だからこそ、沢山の奴らがお前らを信じて力を貸してくれてるんだよ」
ミミ「……うん。ごくそつくんが辿ってくれたあの光―――。『ポップンを愛する』みんなの気持ち。わたし達はそれをMZDに届けに行って、一緒に帰ってくるよ。だから……みんなも、わたし達を信じて待ってて」
ニャミ「MZDはあんな姿して結構タフだからね!大丈夫。きっと今頃心臓の中で1人で出ようともがいてるんじゃない?」
莉愛「―――そうね。なんだか、貴方達見てたらこっちまで勇気が湧いてきたかも」
大包平「主から話には聞いていたが…。お前達、素直でまっすぐだ。俺はそういった人間の方が好きだがな!」
階段を昇りながら、各々思いを伝え合います。大丈夫。きっと全ては上手くいく。今までこんなにみんなで頑張って来たのだから。辛いことも、悲しいことも共に乗り越えてきた。だから、大丈夫。
昇り切ったと同時に、ネームプレートがかけられた部屋があるのを見つけました。プレートには『ひすい』と書かれています。ひらがなで書かれており、可愛らしいデザインでした。……家が焼け落ちる前の、『本当に幸せだった』頃の記憶。彼の部屋だけは、それが守られていたのでしょう。
ミミとニャミはそんな思いを抱きながら、彼の部屋のドアを開きます。それと同時に眼前に現れる『メフィストの心臓』。窓から飛び移れば、中に入れそうですね。
ニャミ「うわ、でっか。街から見えてた時も大きいなあとは思ってたけど、これ程とはね…」
ミミ「この中に、MZDと異世界のわたし達がいる…。中に入ったらあの子達、襲ってこないかな?」
莉愛「神様がどうなってるかにもよるんじゃないかしら?あの時は逃げるように小学校から去ったけど……あの後、神様も何か思うことだってあったかもしれないし」
ごくそつ「―――いいかい?ここからあの心臓の中に入れるのはミミちゃん、ニャミちゃん。きみたちだけだよ。だから、あのバカ神を何とかするのはきみたち次第だけど…。きょひょひょ!ぼくは信じてるからね~。なんたって『HELL』共を蹴散らしたとんでもない女の子たちなんだもん!」
大包平「な…なんだと…?!お前達、そんなに凄い輩だったのか…?!」
ジャック「まぁ…。神も悪魔も魔族も関係なしに仲良くなってる時点でとんでもないけどな。―――ミミ、ニャミ。上司が庇うくらい情がお前達にあったってことだ。それくらい信頼されてんだお前達は。
―――だから。お前達の思う通りに動いてこい。……ポップンの未来のこと、お前達に託した。頼んだぞ」
ここからは一緒には行けない。だからこそ、この場で思い思いの言葉を口にする一同。その1つ1つが、彼女達の力となり勇気となる。窓の外に広がっている『闇』を目にしても、屈しない1つの支えとなっていました。
彼女達はお互いを見やります。1人じゃない。2人であそこに乗り込むんだから大丈夫。その気持ちを代弁するかのように、お互いに強く頷き合いました。そして……。
ミミ「それじゃ」
ニャミ「行ってくる!」
その言葉だけを残し、2人は勢いよく目の前に広がる『闇』へと飛び込んでいったのでした。
~???~
―――何もない、暗闇の中。うさぎと猫の少女はそこで目を覚ましました。お互いに無事だということを確認した後、周りを見回します。そこにあったのは、沢山のシャボン玉。その中に、『記憶』でしょうか。まるでフィルムのように出来事が動いています。
この中のどれかにMZDはいる―――。そう確信はしていましたが、その数は膨大。しらみつぶしに探していては時間が足りません。そして……絞ろうにも、無数の記憶をどうやって捌けばいいのか。彼女達にはさっぱり見当もつきませんでした。
ニャミ「1つ2つじゃない。これ全部『誰かの記憶』ってことだよね。この中からMZDの記憶を探さないといけないなんて…」
ミミ「1個1個じっくり調べてる時間もないしなぁ…。どうしようか」
ニャミ「どうにかしなきゃならないんだけど、方法も思いつかないからなぁ。どうしたらいいんだろう」
無数に浮かぶ沢山の記憶を見て、項垂れてしまうミミとニャミ。急いでMZDの元へ向かわねばならないのに、この無数の記憶からどうやって探し当てればいいのか。前例もない為、参考に出来そうな経験もありません。
―――困った。八方塞がりだと思った瞬間、彼女達の耳に『聞き覚えのある音』が聞こえてきました。
ミミ「―――音? ……いや、これ『歌声』かな?」
ニャミ「……ミミちゃん。多分この歌声MZDだよ。多分じゃない。絶対そう!」
それは、まるで自分達に届くように響いているような。そんな感触を彼女達は覚えました。耳を澄ましてもっと歌声をよく聴いてみます。―――同時に『記憶』を見回していると。端の方に1つ。そのシャボン玉の中には『不思議の国』のような風景が広がっていました。歌声は、間違いなくそこから聴こえてきていました。
ミミ「呼んでる。この向こうにMZDがいる」
ニャミ「―――もし間違えてたら後戻りはできないけど…。きっと、大丈夫だよね?」
ミミ「大丈夫!メフィストの執念より、わたし達とMZDの長年の絆の方が強いんだってとこ、見せてやればいいんだよ!」
ニャミ「……そうだね!よーし、決めたなら勢いよく行かなきゃね!」
目の前にある『不思議の国』の記憶に飛び込むことを決意した2人。間違えた場合、後戻りは絶対にできない―――。そう、何となく悟ってはいましたが。ここに飛び込めば間違いなくMZDに会える。そう、確信めいたものが心の中にはありました。
その決断を象徴するように、2人はお互いに手を繋ぎます。
ミミ「行くぞーーー!!!」
ニャミ「突撃ーーー!!!」
少女達は勢いよく、泡の中に飛び込んだのでした。
「あっ あれっ? 地面がないよ?」
「も、もしかして間違えたんじゃ―――」
『う、うわぁぁぁぁぁ!!!!!』
~不思議の国~
ミミ「い、いってて……。あれ、ちゃんと地面がある。生きてるわたし達」
ニャミ「うん。なんかやわっこいような固いような場所に落ちたけど怪我もなさそうだね。うーん…。不思議の国に無事に来れたってことなのかな?」
地面がないと思って焦ったのも束の間。暖かいものを下敷きにして2人は起き上がりました。お互い無事を改めて確認し、不思議の国に辿り着いたことを確認します。
『良かった』と心の中で思ったと同時に。2人の少女の真下から、苦しそうな声が聞こえてきたのでした。
「あのねぇ…。重いんだけど?」
「―――!!」
聞き覚えのあるその声。急いでその場からどき、声の正体を確認しようと顔を向けました。
MZD「ありゃ。どうしたの泣きそうになって。もしかしてオレがいなくて寂しか……おわぁっ?!」
ミミ「バカっ!バカバカバカバカバカーーーっ!!!」
ニャミ「あたし達がどれだけ心配したと思ってるの?!このバカ神!!!少しは反省しなさいっ!!」
MZD「…………。……そう、だよね。今回ばかりはそうだ。―――ごめん」
ずっとずっと会いたかった『少年』との再会。うさぎと猫の少女は、思わず彼に飛びついていたのでした。
やっと、やっと会えた。その幸福感が、3人の心を満たしていたのでした。
- #CR08-13 no name of color ( No.11 )
- 日時: 2021/03/24 22:01
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: bUOIFFcu)
遂に再会を果たしたミミニャミとMZD。幸せそうな3人を見て、異世界の少女達はやっと気付いたのです。
自分達がいるべきは『ここではない』と。その時、奇跡は起きるのです。
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~不思議の国~
『…………』
やっとその手を重ねることが出来た。泣いて喜ぶ自分達と同じ姿をした少女達と、嬉しそうに2人の頭を撫でる少年の姿を見て、不思議の国の少女達はただ呆然としていました。
―――自分達のやろうとしていたことは、彼女達の『笑顔』を奪うことだったんだ。そのことに、ようやく気付いたのです。そして……少女達は、自分達がやってしまったことの重大さに恐怖を抱き始めました。
『ねぇ。もし、あたし達がMZDをここに閉じ込めちゃってたら…。どうなってたんだろう』
『もしかしたら、わたし達ごと破壊されてたのかな』
『あの子達も、あたし達も、どっちも消える未来が待っていた……。あたし達は、とんでもないことをしようとしていたんだ』
ミミ「…………」
恐怖で項垂れる自分と同じ姿をした少女。そんな彼女達に、ミミとニャミは静かに近付きます。そして―――優しい言葉で、彼女達にこう諭したのでした。
ミミ「話は全部聞いたよ。あなた達の世界……『ポップン』が、消えちゃったんだね。だから、自分達の世界のポップンを取り戻して―――また、音のある楽しい世界に戻したかっただけなんだよね?」
『うん。わたし達の世界のMZD…。わたし達を庇って消えちゃった。あの時、あなたの仲間が同じことをしたように。今になって思い出すなんて。―――自分がされて悲しいことは、人にしちゃいけないって知っていたはずだったのに……!』
ニャミ「そっか。キミ達の世界でも…MZDはあたし達と仲が良かったんだね!だから、自分達の身に危険が及んだ時―――。身を呈してキミ達を守った。あたしはそう思う。MZDを失って、辛かったんだね」
『MZDがいなくなったって分かった時、何も考えられなくなった。神様が守れないものにあたし達はどう立ち向かえばいいんだって。ポップンが無くなっちゃうって思ったら、どうもこうもなかったんだよ』
MZD「そういえば…さ。『ポップンが25回目で終わる』って、どういうこと?さっき聞きそびれたし、今聞いちゃうけど。お前さん達の世界では、ポップンパーティは25回目で終わったのか?」
落ち着きを取り戻したのか、ぽつり、ぽつりとゆっくりではありますが思い出したことを少しずつ話し始める異世界のミミとニャミ。恐らく『永久』を少しMZDに放った影響で、封じられていた記憶がほんの少し、元に戻ったのでしょう。
そして、それに続くようにMZDが『ポップンが25回目で終わった』ということについて追及を始めました。この世界では、ポップンパーティは26回目以降も続いている。異世界で少しずつ現実が変わってきているとはいえ、大元が変わることなどあり得ません。
それを聞いた彼女達は、少し考えた後こう答えたのでした。
『わたし達の世界では、元々peaceのパーティで『ポップンは最後』って言われてたんだ。MZDが、言ってたんだ。パーティを楽しんでくれている人が少しずつ減ってきてて…。何とか踏ん張ろうって3人で頑張ってきてたんだけど。―――駄目だった。係の人が申し訳なさそうにわたし達に言ってきたよ。『申し訳ないけれど、ポップンを続けることは出来ない』って』
『それでも、MZDは『最後のパーティ』を忘れられない最高の思い出にしよう、って。テーマを『peace』。あたし達がいつも使っていた言葉にしてくれたんだ。……嬉しかった。あたし達とMZDが歩いてきた道って、こんなに強いものになってたんだって。
噂が広がったのか、本当に沢山の人がパーティに来てくれたよ。―――これがいつまでも続けばいいなぁ、って。ありもしないことを思い浮かべたりもした』
ミミ「…………」
ニャミ「……あたし達が今ポップンを続けていられるのは『奇跡』。そう、なんだね」
MZD「まぁねぇ。世界の情勢って、結構時代で変わるもんだし。どこにどんな需要があるかなんてわかりゃしないのさ。
―――で、その『最後のパーティ』の途中で……。竜に襲われて、世界そのものが終焉を迎えたってワケか」
『うん。そう。その後はあなた達も知ってるとは思うけど……。わたし達は、偶然『永久』っていう力を見つけて、使ってしまった。そのせいで―――。ポップンワールドだけじゃない。わたし達がお世話になっていた世界丸ごと、闇に呑まれちゃったんだ』
『あたし達の選択を間違えたせいで、MZDはいなくなっちゃった。それが悲しくて悲しくて。強い力にすがるしかなかった。どんどん自分が何者なのか分からなくなっても、『MZDを助けたい』。その気持ちだけは残った。……いつからだろう。『助けたい』が『代わりを探さなきゃ』になったのは』
MZD「―――うーん。『永久』を普通の人間が使った影響が記憶に出ちゃった、って感じかな。記憶が無くなっても『感情』はそこに残り続ける。それをメフィストに利用されちゃった、ってことか…」
ミミ「異世界のわたし達も、わたし達の世界を滅ぼそうとしていたわけじゃなかったんだ。―――みんな、運命に翻弄された被害者だったんだ」
『ごめんなさい…』
異世界の事実を知って、何とも言えない顔になる2人。冷静に状況を分析し、やはり『感情』を何とかしない限り彼女達を救うことはできない、そうMZDは判断したのでした。
―――やはりメフィストは自分達に協力するつもりなんて端から無かった。それが確実性を富んだものになり、改めて自分達のやらかしたことの重大さを思い知る2人。そんな彼女達に、ニャミは手を差し伸べます。
ニャミ「……キミ達の悲しい気持ちも、全部あたし達が背負っていく。だって同じ『ミミニャミ』なんだもん。だから―――もう、苦しまなくていいんだよ。もう、悲しい思いをしなくていい」
『…………!!』
ニャミのその言葉に、どこか救われたような気持ちになる少女達。それを象徴するように、身体が少しずつ透け始めているのが分かりました。
―――『悲しい』気持ちと決別した。そういうことなのでしょう。もう、彼女達をこの世界に縛り付ける呪いはありません。それと同時に、ミミとニャミの掌から沢山の光が蛍のようにふわふわと浮き始めました。
ミミ「わ、わ、わわわーーー?!」
ニャミ「なにこれ?!なにこれ!!」
光は徐々に音符のような形に変化していき、空に溶け込むように消えていきます。その光が増えていくごとに、音の旋律が少しずつ増えていきます。
彼女達が持ってきた『ポップンミュージックの記憶』が、この忌まわしき世界を浄化しているのでしょうか。沢山の音は楽しい音楽となり―――。不気味な世界を包み込みました。その光が解けた時に広がっていたのは……。
―――沢山の、黄色い花。太陽を象徴する花。ひまわり畑だったのでした。そして。異世界の少女達は、そのひまわり畑の向こうに懐かしい気配を覚えます。
その正体を悟った時―――。少女達の目からは、涙がぽろぽろと流れていました。
MZD「大丈夫。お前さん達が行く道は…向こうだ。もう、苦しまなくていい。―――やっと、会えるな」
『…………!!』
あぁ。そこにいたんだ。もしかして、ずっと見守ってくれていたのかな。MZDに背中を押され、少女達は走り出します。―――沢山の後悔と、沢山の悲しみを捨てて。今、懐かしい『少年』の元へ。
気配の先では、まるで星のように優しく輝いていた少年が……。手を広げて、彼女達を待っていたのでした。
『―――MZD!!!』
『自分達の知っているMZD』に向かって、少女達は抱擁を交わしました。やっと、やっと。長く、苦しく、重い夢から覚めることが出来た。―――だから、泣かないでよ。
折角また会えたのに。会いたかった相手が泣いていたら、意味がないじゃん。3人の泣き笑いはひまわり畑に溶け込むように、まるで夢から目覚めるように。
―――綺麗さっぱりと。ひまわり畑と共に、消えていったのでした。
ニャミ「……無くなっちゃった。ひまわり畑も、不思議の国も…」
MZD「そりゃそうじゃん。あの国を創り出していたのはあのミミニャミなんだから。感情に決着つけて、自分の世界のオレに会えて。心残りはなんもなくなった。だったら消えちゃうでしょ?」
ミミ「まぁね…。―――異世界のわたし達、これから幸せに過ごせるといいね。今まで、ずっとずっと苦しんで来たんだからさ。その分も……あぁっ!!」
MZD「ん?急に大声出してどうしたんだよ」
何もなくなった暗闇の中で、取り残された3人は話をします。MZDから『心残りが無くなった』という言葉を聞き、どこか救われた気持ちになるミミとニャミ…なのでしたが、『消えちゃう』という言葉でミミが大事なことを思い出します。
MZDがさり気に問いかけてみると、彼女は焦ったような表情でこう切り返してきたのでした。
ミミ「そうだ、そうだよ!!大変なの!ヴィルさんがわたし達を庇って……消えちゃって……。そ、その、ど、どうしようMZD~~~!!!」
ニャミ「そうだった!怒涛の展開に忘れかけてた!ヴィルさん消えちゃったんだよ!これからどうしよう~~~!!!」
MZD「とりあえず落ち着けお前ら。―――心配しなくてもヴィルは死んでないよ。身体は無くなったかもしれないけど、無事だとオレは思いますけど?」
ニャミ「なんでそんなことハッキリと言えるの~~~!!!目の前でヴィルさんが『オレの呪縛』 ……えっ?」
思い出したようにヴィルヘルムの安否をどうすればいいのかを問うミミとニャミ。あまりの焦りっぷりに呆れた表情で『彼は死んでない』と返す彼。あっさりと返された為、信じられない表情で問い返すニャミに、彼は言葉を遮るようにこう続けたのでした。
MZD「幸いメフィストのヤツに『呪縛』を消されなかった。―――前に言ったろ?オレとヴィルはオレの呪縛が解かれない限り『この世界に縛られてる』って。だから無事。大丈夫だよ」
ミミ「そ、そうなの……?う、うわ~~~~~!!!そう思ったら今までくよくよしてたの恥ずかしくなってきた~~~!!!」
ニャミ「じゃあ、ヴィルさんは今どこで何をしてるんだろう?」
MZD「さてね。敵味方みーんな騙しやがるくらい大きく動いたんだから、今相当おかんむりだと思うんだよね。―――これ以上は深く突き詰めないのが身の為、かな?」
ミミ「なんで突き詰めちゃ駄目なの?」
MZD「今度こそお前らの無事が保証できなくなるから。―――あいつの本質を知らないメフィストも哀れなもんだねぇ。『あいつの真意』。もしこの世界が選択を間違えた時……。『JOKER』は世界に牙を向くだろうし」
ニャミ「???」
MZD「さて。ヴィルのことはもういいでしょ?オレ達もそろそろこんな不気味な場所からおさらばしないとね。中身が解決しちまったんだから、心臓が砕けて無くなるのも時間の問題だよ」
ミミ「げげっ。もたもたしてたら…」
MZD「取り残されるうえに一緒に粉々になりまーす」
ニャミ「不気味なことをさらっと通さない!!ど、どうすればいいの?!」
そう。問題はまだ残っていました。異世界のミミニャミの問題が解決した為、心臓が魔力を保てなくなりました。つまり。『心臓はもうじき崩れて消える』とMZDはあっさりと言いのけてしまいました。
このまま残っていると、その崩壊に巻き込まれて自分達も一緒に粉々に……。1つ解決したと思ったらまた一難が襲ってくることに憤慨するミミとニャミ。
焦る彼女達を宥め、3人で円を描くように手を繋ぐように指示するMZD。行動を始めたと同時に、暗闇の1つにヒビが入ります。もう、猶予は残されていません。
ミミ「わーーっ?!世界が崩れてきてるーーー?!」
ニャミ「手を!手を繋ごう!それで!手を繋いだらどうすればいいの?!」
MZD「そのまま目を瞑っててくれるか?5秒くらいしたらあっちに戻れると思うから」
ニャミ「そんなあっさり?!でも今はMZDしか頼れないし―――。よ、よーし!」
ミミ「目を瞑ればいいんだよね!」
3人で手を繋ぎます。そして、目を瞑っててほしいと言葉を続けるMZD。恐る恐る、目を閉じます。すると―――。
『う、うわぁぁぁぁぁ?!!』
目を瞑った瞬間。床が抜けて、落下するような感覚に襲われるミミとニャミ。本当にMZDの言うことを信じて良かったのか。今になって不安がよぎる彼女達でしたが、きっと目を開けたら自分達も粉々になってしまう。
今はそう心に強く留め、ひたすら目を瞑って流されるままになっていたのでした。
- #CR08-14 道を違えし時、それは――― -1 ( No.12 )
- 日時: 2021/03/25 22:02
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: bUOIFFcu)
全ての決着がつき、街は元通りになっていく。また、1つの未来が守られました。
そして―――邪神になり損ねた愚かな道化師にも、また終焉の時が。
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~音無町~
莉愛「ふぅ。やっぱり外の空気は気持ちがいいわ」
ごくそつ「突然家を取り囲んでいた靄が消えちゃったもんねぇ~?これは、もしかしなくてもミミちゃんたちがやってくれたってことなのかな~?」
ジャック「だとしても、だ。無事に戻ってくりゃいいんだが…」
ルキナ「きっと神様と一緒です。大丈夫ですよ!」
一方の音無町。少年の家を取り囲む靄が晴れたのに気付き、残っていた4人と一振は家の外へ脱出していました。そして、窓の外に浮かぶ心臓を見やります。突入する前はドクン、ドクンと気持ち悪く鼓動を繰り返していた心臓も。今は勢いを無くし、置物のように宙に浮かんでいるだけ。
その様子を見て、『ミミ達がやってくれたのだ』と安堵の表情を浮かべるのでした。そのまま彼女達の帰りを待っていると―――。ふと、大包平が何かに気付いたのか心臓を指さしました。
大包平「見ろ。心臓が……!」
ごくそつ「砕けて、いくねぇ」
宙に浮かんでいた心臓の中心から淡い光が漏れ出し、中心から粉々に砕け散っていくのが分かりました。もしかして、彼女達も一緒に砕けてしまったのではないか。一瞬だけ不安がよぎりましたが、それはすぐに払拭されることになるのでした。
心臓の中から落ちてくる3つの影。それは、紛れもなく自分達が待ち望んでいた存在でした。
ルキナ「無事だったのですね…!」
ジャック「っておい、このままだと3人共地面に落ちるぞ?!神はどうでもいいとしてミミとニャミが最後の最後で怪我したらまずいだろ!
そこの刀!ニャミをキャッチしろ今すぐにだ!」
大包平「命じられなくとも分かっている!主でもないのに指図をするな人口生命体!」
ごくそつ「(似た者同士かなぁ~?)」
2階くらいの高さからとはいえ、地面に落ちてしまえば怪我をするのは目に見えています。ジャックは大包平にニャミをキャッチするように頼み、自分はミミが落ちてくるであろう場所へ急ぎます。
主以外の人物に命令されたのが気に入らなかったのか、彼はぶつぶつと言いながらもニャミが落ちてくる場所まで素早く移動。頼られること自体は嬉しかったりするんですかね。
そして―――。影がはっきりと姿を捉えた時。明るい悲鳴と共に、少女達が落ちてきたのでした。
ミミ「うわあっ?!」
ジャック「―――大丈夫か?怪我は」
ミミ「うん、ありがと……あわわ、あわわわわわ?!大丈夫、大丈夫だから顔を近づけないでーーー!!」
ジャック「? 熱でもあるのかお前」
ニャミ「ひぇっ?!」
大包平「五体満足、無事のようだな。主も喜んでいたぞ猫の少女よ」
ニャミ「大包平さんったら力持ち~!キャッチしてくれてありがと!」
大包平「ところで、お前の友の顔が赤くなっているが…あれは大丈夫なのか?」
ニャミ「あー、うん。あれは気にしなくていいよ。若気の至り、『青春』ってやつだから」
ごくそつ「きょひょひょ~!薄々感付いてはいたけどミミちゃんがねぇ。あの上司の反応見たいったらありゃしないよぉ~!」
大包平「………???」
莉愛「神様。大丈夫なの?」
MZD「だいじょーぶだいじょーぶ。神パワー使って着地したし、怪我はなし。ちゃんと五体満足で戻って来たよ」
ルキナ「皆さん、本当に心配なされていましたし…。全員無事で帰ってこれて何よりです。私も嬉しいです!」
ジャックがミミを、大包平がニャミを抱え。MZDは神の力を少しだけ開放し、地面へ綺麗に着地を果たしました。各々無事を喜び、再会を分かち合います。……しばらく余興に浸っていたその後、MZDは静かにこちらに向かってこう口を開いたのでした。
MZD「みんな。今回ばっかりは心配かけてごめん。……判断を誤った。目先の幻に、隙を突かれた」
ごくそつ「きょひょひょ!ま、ぼくは1ミリもおまえのことなんて助けてやりたかったつもりで動いたわけじゃないからねぇ~。ミミちゃんとニャミちゃんが泣いてる顔見たくなかったし、ぼくが消えちゃったら『せかいせいふく』できなくなっちゃうからねぇ~!」
ニャミ「とか何とか言って、ごくそつくんも率先して手助けしてくれてたよね!大包平さんと一緒に!」
大包平「あの場での瞬時の判断力。流石は今の俺の主。恐れ入ったぞ」
莉愛「でも…。本当に。みんな、無事でよかった。今はそれに尽きるわ」
みんなが無事でよかった。一同がそう確信していました。彼らが話し合っている間―――。徐々に、街に変化が訪れているのに気付きました。つぎはぎだらけの記憶で造られていた『音無町』が、音もたてず霞がかって崩れていきます。
―――元に、戻ろうとしているのでしょう。本来の歴史の街に。今を彩る、あの街に。その様子を見ていると、一同の元に通信が。すぐに無線を繋ぐと、そこから安堵したような声が響いてきました。
サクヤ『皆様。こちらでも心臓の破壊を確認できました。―――皆様、ご無事で何よりです。えむぜさんも』
MZD「うん。すっごい迷惑かけた。ごめん」
アクラル『こっちも大方仕事は片づけた。もう少し立てば元通りのトリコロシティに戻る筈だぜ』
ミミ「本当?!それじゃあ……何もかも、元通りなんだね!やったやった!」
ルキナ「また1つ、未来を守ることが出来たんですね…」
前田『状況が落ち着いたら戻ってきてくださいとのことです。本部一同、皆様の帰還をお待ちしております』
大包平「承知した。……それと、前田。戻ったら大典太光世と話をしたいと伝えてくれ。聞きたいことが山ほどあるのでな」
前田『……分かりました。大典太さんには必ずお伝えいたします』
声の主はサクヤからでした。本部の方でもメフィストの心臓が砕け散るのを確認できたようで、街が元に戻っているのを見守っていました。各々安堵の表情を浮かべたり、互いに喜びを分かち合ったり。『世界を守れた』その事実が、また1つ運営本部を成長させていたのでした。
状況が落ち着き次第戻ってきてほしいとの前田の言葉に続けるように、大包平は大典太に話をしたいことを告げました。―――もしかしなくとも、霊力関連でしょう。前田もそれは分かっていました。必ず伝えるとだけ答え、その場の通信を切ったのでした。
―――それと同時にもう1つ通信が。聞こえてきた声に、ミミとニャミが素早く反応を返します。
『……聞こえるか。全て、片付いたようだな』
MZD「―――! ヴィル。無事なのは分かってたけど…。声が聞けて嬉しいよ」
ミミ「ヴィルさん!!んもうーー!!自分の身体犠牲にしてわたし達を騙すなんて酷いよっ!!本当に死んじゃったかと思って…わたし……わたし……!!」
ニャミ「MZDにヴィルさんは死んでないよって言われるまで気が気じゃなかったんだからー!!」
ごくそつ「あ~あ。あいつがそう簡単に消滅するとは思ってなかったけどぉ~。生きてたか~。ま、ぼくの手でくたばってくれなきゃ『せいふく』なんて夢のまた夢だからねぇ~。きょひょひょ!」
ジャック「……余計な心配かけさせやがって…」
ヴィル『それに関しては本当にすまなかった。だが―――『敵を欺くにまず味方から』という言葉があるだろう?街ごと入れ替える程の犠牲と魔力を用いているのだから、私とて真正面から立ち向かっていれば無事では済まない。そう思っただけさ』
MZD「欺きすぎだっての。ちゃんと戻ったらみんなに謝って回るからなー?ミミニャミだけじゃない。気が気じゃなった連中なんてきっとごまんといる筈だよ?」
ヴィル『―――ふふっ』
MZD「で。今どこにいるの?もうトリコロシティに戻るのも時間の問題だし、お前拾って帰ってもいいけど」
優し気な道化師の声が耳に届き、ミミとニャミは自分がどれだけ心配していたかを伝えたのでした。そんな彼に少しすまなさそうに声のトーンを落としながらも、そこまでやらなくてはメフィストを潰せなかった、とも話す彼。何はともあれ、ヴィルヘルムの無事が確認できただけでも儲けものです。
この街にいる理由もないので本部に一緒に帰ろうと提案するMZD。しかし……返ってきた答えは、意外なものでした。
ヴィル『すまん。そうしたいのは山々なのだが…。まだ残している『仕事』があるのでな。それを片したらすぐに帰還する。サクヤにはそう伝えてくれ』
ミミ「またそうやって目的をはぐらかすー!ヴィルさん、残ってる仕事ってなんなの?」
ヴィル『……君達が知ってはいけないことだ。このままはぐらかしてはくれないか?すぐに終わる。日が高く昇るまでには帰れるさ』
ニャミ「余程言いたくないことなんだろうね。だったらあたし達も邪魔はしないけど…。ちゃんと帰ってきてよね。ヴィルさんもあたし達と同じ、『家族』なんだから」
ジャック「『家族』だとよ。そこまで思われてるんだからもう無茶すんなクソ上司」
MZD「星を割る程の破壊力を持った『JOKER』が、今やただの少女達に『家族』扱いされてるってね。……面白いじゃん。これこそ、オレの目指してた『未来』そのものなんだからさ」
ヴィル『……『家族』。君達はそう言ってくれるのか。―――心が温かい。君達にはいつも救われるな。……分かった。必ず帰還することを約束しよう』
ヴィルヘルムは『まだやることがある』とのことで、本部に帰ってくるのが遅れるとのこと。また単独で危険な行動をしないかと心配するミミとニャミでしたが、大がかりなことではないとすぐに返したのでした。―――本人が分かりやすくはぐらかすので、『深く突っ込んではいけない』と判断したMZDが彼女の言葉を宥め、そのまま通信は切れました。
ごくそつ「さ~て。あの魔族に従う義理はないけど、みんな心配してるだろうしそろそろかえろっか~?」
大包平「そうだな。これだけ大掛かりでの作戦を遂行したのだから、疲れも溜まっていることだろう。帰還したら、すぐに休まないとな」
莉愛「えぇ。これで……道化師達も、メフィストの支配から逃れられるといいけれど」
MZD「どうだろうな~。メフィストが子供達を道化師に変えて、支配していた時間はあまりにも長い。かつて道化師だったお前さんなら分かるんじゃない?元の人格まで消え失せて、最早誰なのかまで忘れてしまっているとか」
莉愛「まぁ…。そう、だけど。あたしは奇跡的に人格を取り戻せたようなものだし…」
ルキナ「道化師の皆さんも、結果的には皆被害者なのですから…。今後、幸せな未来を歩めるといいのですが」
ごくそつ「それはそいつらの行動次第なんじゃな~い?ぼくらが気に掛けることなんてないよ、ルキナちゃん。―――それにねぇ。大包平くんは、青龍の刀に聞きたいことがあるんでしょ?……ちゃんと話してきなよ。ぼくも一緒にいってあげるから」
大包平「……感謝する」
メフィストの心臓が破壊された。つまり、メフィスト自体の命が終焉を迎えた。残された道化師がどう行動するかが気になったルキナでしたが、そこは気にすることではないとその場を諭したごくそつくん。恐らく、メフィストの元に集っていた輩も自然解消するのでしょうね。
徐々に元の姿を取り戻していくトリコロシティを背に、一同は車に乗り込みます。そして―――。穏やかな日差しを浴びながら、本部への道を走っていくのでした。
- #CR08-14 道を違えし時、それは――― -2 ( No.13 )
- 日時: 2021/03/26 22:00
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: n1enhNEv)
~トリコロシティ 外れ~
車の音がトリコロシティから消え去った頃。すっかり元通りの景色を取り戻した街の隅で、パキリと音を立てて崩れ去る紫色の欠片が転がっていました。その近くに―――。少しずつ塵と化しているメフィストの姿があったのでした。
かつて運営本部に見せていた醜悪な表情は無く、今は『何故』と信じられない表情で地面を這いつくばっています。かつて自分の心臓であった『それ』に必死に手を伸ばしますが、指先と欠片が触れた瞬間にそれは灰となって消えていきます。
メフィスト「何で…なんで…!! 俺は、神の力を……神に、なったんだぞ?!なのに……!!」
何故、あんな人間どもに負けるのだ。零しかけた言葉は塵となって空へと溶けます。そう。手に入れた『つもり』でした。確かに自分はプレロマで、アンラに神の世界に連れていかれた。そして、他の道化師に見られるまま『邪神』になった。人の先へ行った。筈だった。
なのに。なのに。何故。何故……。男は消えかかっている指先を見つめ、その言葉をひたすら頭の中で繰り返していた。
だから、気付いていなかった。
自分を覆うものが、『街』ではない。『暗闇』だったということに。
メフィスト「……?!」
やっと自分で気付いた時にはもう遅かった。自分は街にいたのではないか。そして、塵になっていくのではなかったのか―――。
頭の中が混乱している中、どこからともなく声が聞こえてきた。
『気分はどうだ。『邪神』となり損ねた魂よ』
その声は、怒りに満ちていた。まるで自分を完璧に潰さんと追い詰める獣そのものだった。だが、声の主が現れる気配はない。どこにいる?どこから聞こえている?
混乱している様をさぞ愉しそうな声色でくすくすと笑う声。メフィストは気に入らなかったのか、怒号を返す。
メフィスト「テメェ……!!どこの誰だか知らないが、この俺様を嘲笑うなど許されたもんじゃねぇぞ?!」
『そうか?今の今まで散々我々を弄んできた癖に、その人間達に反逆を許せばすぐにこうだ。『弱い犬程よく吠える』とは、正にこのことを指すのだったな。あの風紀委員もいい言葉を教えてくれたものだ』
メフィスト「『風紀委員』…?―――テメェ、まさか」
そうだ。この自分を軽んじる声色。自分を今まで散々弄んだあの憎き『JOKER』ではないのか。だが……あいつはあの兎と猫に殺されたんじゃなかったのか。だから、呪縛を消す必要もなくあの餓鬼を消せると思っていた。―――その呪縛を消す方法が、結局分からなかったのだが。
しかし、メフィストのそんな思いも見透かされたように声は降り続く。
『やはりな。貴様は我が消滅したと思って本格的に動き出したようだが……。残念だったな。その焦りを逆に利用されてこの様だ。どうだ?今まで散々罵って来た人間どもにやり返される気分は?』
メフィスト「テメェ…なんで…なんで生きてやがる……『JOKER』……!!」
『貴様も分かっていたことだろう。我の魂は『あの子供の呪縛』と繋がっている。あの子供の呪縛が消されない限り、いくら身体を吹き飛ばされたところで魂が消えることはない。そういう、厄介な呪いなのだ。
―――だが、今回ばかりはその呪縛に助けられたと言わなければならんな。そのお陰で―――こうして貴様とゆっくり話が出来ているのだからな』
メフィスト「……ハハッ 全部お見通しってことかよ…」
『魂さえ残っていれば、入れ物さえあれば彼らの元に帰ることが出来る。このまま本部そのものにとり憑いて、彼奴等の道が間違った方向へ向かわぬか監視しようかと思っていたが―――。彼女達と『約束』してしまったのでな』
メフィスト「は……?」
そこで、メフィストは気付く。自分の足が闇に沈み始めていることに。いくら這い出ようとしても、足を動かすごとにその沈む速度は早くなっていく。
どういうことだと慌てもがく彼を滑稽にあしらい、今まで自分を嘲笑うように話していた声のトーンが無機質になる。沈みゆく身体全身で、メフィストは初めて『恐怖』を覚えた。
『貴様は以前『心を持って堕ちた』とほざいていたが―――。それは違う。我はこの世界の行く末を監視してるだけ。確かにあの子供らに情があるのは事実。だが……。正直、この世界も彼らが『守っていく』と決めているからその意見に乗っているだけ。我の感情等そこにはない』
この男を敵に回してはいけなかった。それほどまでに危険な存在だと、今気付いたのだ。
『あの神々が道を違えた時―――。世界が『歪んだ』と判断した時。我は片手間にこの世界を破壊することも、喰うことも出来る。だが身勝手にそうしてしまってはあの子達が悲しむだろう?……彼らの存在は、いわば我を制御する為の『枷』そのもの。
―――貴様は、その道を『違えた』罪人。ただ消滅するだけで我の気が済むと思うのか』
この男は、ただ『JOKER』と呼ばれていた道化師ではない。―――『化け物』だ。おとぎ話にあった時より、ずっと、ずっと。力も、知識も、魔力も―――その内に秘めた『野心』も。
世界にとって『真に邪魔だと思った』者は容赦なく排除する。徹底的に世界から消滅させる。そういう男だ。この男は、1つの『魂』として存在するような代物じゃない。
メフィスト「ぁ……嫌だ……いや、だぁ……!!」
『そういえば貴様、気にしていたな。我が今どこにいるのかと。冥土の土産に教えてやろう』
この 男は。
「いやだ……いやだ……いやだぁ……!!」
沈みゆくメフィストを見つめる大量の目。その全てから声が聞こえた。既に身体は肩まで沈んでいた。下半身の感覚がない。
あぁ、喰われるのだ。自分は。この男に―――いや。
『この闇 全てだ』
―――『闇』そのものに。
「嫌だぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
トリコロシティの一部を覆っていた禍々しいどろどろとした闇。そこから、1人の青年が這い出るように現れ出でた。
その姿は、かつて少年に与えられたものを模倣していた。彼から貰った『器』は異世界の永久に消されてしまったが、何百年も持っただけいいだろう。それに、あの姿を『闇』は気に入っていた。
男が完全に人型の形成を終わると、どろどろとした闇は彼の影に吸い込まれるように消えていったのだった。
「……随分と骨が折れたが、これで魔界の連中も大人しくなるだろう。あの男の身体を変形させるのには少々遺憾だが、利用できるものは利用させてもらおう。醜い魂ではあったが……異世界の神の力が混じっているのなら研究材料にはなるだろう。
―――恐らく、私も『魔族』とは言ってられん時が来るのも時間の問題か。……世界がどんな選択を取るのか。『永久』に見守らせてもらうぞ」
そう言葉を残し。マゼンタの髪の毛をなびかせながら、黒づくめの男は静かに街を去って行ったのだった。