二次創作小説(新・総合)
- 「それは愛と純情のセンチエレトリックってことだろSAGA(準 ( No.574 )
- 日時: 2025/06/15 18:01
- 名前: 夢見草(元ユリカ) (ID: JC82K/KY)
「それは愛と純情のセンチエレトリックってことだろSAGA(準備編)」
「前回のあらすじ」
WSTinYへ依頼を持ち込んできた高校生2人、迅と雷那。彼らは迅の母校である「舞ヶ原高校」の音楽祭の再興と、この音楽祭を活用して現在荒れてしまっている雷那の母校「奏坂学園」の生徒たちを勇気付けたいという。この依頼に彼らが挑む!
ここはクロスオーバーワールド。夢見草の想像したありとあらゆる可能性を持つ無限の世界である。この世界を守護する使命を持つWSTinYのメンバーは前回、顔見知りの高校生・緋桐迅と夕立雷那から依頼を受けたのだが…。
桃色のボブショートヘアの少女「……あの、真理子さんにサーニャさん。お2人はとってもゲームが得意なんですよね?なら、そのイベントで雷那さんと一緒に『オンゲキ』をやってみませんか?」
銀髪ポニーテールヘアの女性「うん、私もあかりちゃんに賛成よ!特に『マリーニャ』ならオンゲキに新たな革命を起こしてくれるはず……っ!!」
金髪サイドテールの少女「そうだよ、そうだよー♪お姉さんたち、なんだかぱややや~んって感じだもん!!見てくれるみんながきらきらりーんってなれるかも♪」
真理子「ゑ?」
サーニャ「!?」
雷那「ちょっ、あかり!?柚子!?ヒメ先輩まで、一体何言って……!?」
…早速、騒動に巻き込まれているようだ……。
「それは愛と純情のセンチエレトリックってことだろSAGA(準備編)」
雷那「…だけど、2人ともこれでよかったの?奏坂の最寄り駅を偵察したいって…」
サーニャ「うん。流石に学園に行くのは無理そうでも、実際に生徒さんたちの様子を確認したかったの」
真理子「本当は学園に潜入したかったけどね!千秋ちゃんに相談したら、今の状況だと『皇城セツナの件でリスクが高いからやめろ』って言われた!!だからやめた!!」
雷那「え?いや…?真理子さん、潜入まで考えていたんですか?」
サーニャ「真理子ちゃん……;」
時は遡ること2時間ほど前。仲間のサーニャと依頼人である雷那と合流したゲーマー少女は、雷那の母校である奏坂学園の最寄り駅周辺を探索していた。仮にも歴史ある女子校の周辺ということか治安はよく、ファミレスや喫茶店といった休憩場所はもちろん、食べ歩きのできるテイクアウト専門店や可愛らしい雑貨屋や服屋など女子が好みそうな店舗が多くある。
真理子「……ここの街の設備、夢ヶ丘のより充実してない?」
雷那「いや、いきなりそんなことを言われても……」
サーニャ「あはは…。でも私、夢ヶ丘も好きよ?下町とニュータウンの融合って感じで。お店の人たちもいい人たちばかりだし、夢ヶ丘のゲームセンターも最新機種だけじゃなくて、面白いレトロ機体も少し揃えられてるしね」
雷那「え、マジですか?レトロ機体か…ちょっと気になってきた」
真理子「もし良かったら今度遊びに来なよ?ウチのゲーセンは千秋ちゃんのお墨付きだよ〜……っと、いいとこで通信がきた!!」
〜〜〜♪
七海「2人とも、無事に奏坂学園前駅に到着したみたいだね。……あと、夕立さんはお久しぶりだね。改めて、七海千秋です」
雷那「あ、はい…。どうも」
真理子「千秋ちゃん!待ってたよー!」
サーニャ「今回もよろしくね!頼りにしているわ!」
七海「ありがとう。眠らないように頑張るね。それじゃあ早速、私から伝えられることを伝えようと思うよ。……まずは、真理子さん。サーニャさん。ここの様子を見て、2人はどう思うかな?」
サーニャ「どうって…?治安が良さそうで、いい街だと思うけど……?」
真理子「…………いや、少し違うかも」
サーニャ「え?それってどういう…?」
真理子「……サーニャちゃん。生徒たちをよく見てみて」
通信してきた専属オペレーターの七海が提示したもの。真理子の言葉に改めて街を歩いて行く奏坂の女子生徒たちを観察してみる北国生まれの元ナイトウィッチ。すると……。
サーニャ「……あっ。みんなの表情が少し暗い気がする……」
七海「そうだね。生徒会グループの敗北、そして他の有力グループが、『ASTERISM』以外は全て1人の来訪者によって壊滅させられてしまった動揺。これはオンゲキプレーヤー以外の一般生徒さんたちにも悪影響を及ぼしている……と思うな」
雷那「……っ」
真理子「…まあ、そうならない方がおかしいよね。むしろこれでいつも通りだったらどれだけのメンタルかっての」
いくら街中が平穏でも、行き交う奏坂の生徒たちの不安や不満は全く隠しきれていなかった。もちろん、奏坂学園に通っている生徒全てがオンゲキに関わっている訳ではない。だからこそ、オンゲキによる騒動で学園が大事になってしまっていることにより落ち込んだり、中にはオンゲキなんて無ければ…とピリピリしてしまう生徒が出てくるのは自然なことだろう。特に新生徒会長を決める生徒会総選挙、及びオンゲキバトルに皇城セツナが勝利してしまえば、従来の奏坂の自由な校風が取り戻せなくなってしまうことは明白だった。
七海「夕立さん。完全な部外者の意見だけど、あなたが1人で気負いすぎるのはよくない……と思うな。あなたが依頼として母校のピンチを知らせてくれたから、今こうして私や真理子さん、サーニャさんが動けているんだよ。緋桐くんも自分の母校の活動を繋げようとしてくれているし……。ね?」
雷那「あ…。確かに、そうよね。1人じゃ状況を変えられる訳ないもの。ごめんなさい」
七海「謝る必要は全くないよ。そしてそんな3人に朗報…かな。この周辺に、あなたたちの面白い協力者が得られそう……だと思うよ」
雷那「え?本当に?」
七海「あくまで交渉次第だけど、今真理子さんたちがいるならそこまで交渉には難航しない…と思うな。今いる場所を右に曲がって5分ほど行った先のゲームセンター。そこにいる人がきっとあなたたちのキーマンになるよ。……あ、日向くんがお茶を持って来てくれたから、一旦切るね」
真理子「おおっ!ヒューッ!らーぶらーぶ!らーぶらーぶ!」
サーニャ「こら、真理子ちゃん!」
雷那「いやあ、お2人とも相変わらずお熱いことで…。ところで、七海さんの言っていることってどういう意味かしら…?交渉次第だけど、交渉には、難航しない…?しかもサーニャさんと真理子さんがいるから……?」
感想はしばらくお待ちください
- 「それは愛と純情のセンチエレトリックってことだろSAGA(準 ( No.575 )
- 日時: 2025/06/02 07:59
- 名前: 夢見草(元ユリカ) (ID: LL/fGGq1)
全く心当たりがなく首を傾げる依頼人のツインカラー・ツインテールの少女だったが、素直に七海の情報を受け、真理子・サーニャと共にゲームセンターに入る。すると、そこには…!
銀髪ポニーテールの女性「きょうのぉ、ごはんはぁぁぁぁぁ~…!!!!!うわああああああああああ~…!!!!!」
雷那&真理子&サーニャ「」
そこにはなぜか号泣しながら太鼓の達人の高難易度楽曲のひとつである「さいたま2000」をプレイしている銀髪ポニーテールの女性の姿がありました(爆弾投下)。しかも彼女は号泣しながらなのだが、ゲームの難易度は最高の難易度である「おに」かつバチで太鼓の面やフチを叩くタイミングはきちんとしており、ミスは非常に少なく、高難易度楽曲ながらきちんとノルマクリアを達成した。このあまりにも意味不明の状況に3人も固まるばかりである。他にゲームセンター内にいる客もドン引きしてるぞ。
大人びた顔立ちと体格の彼女だが、よく見ると彼女は雷那や街を行き交う生徒たちと同じ奏坂の制服を着ているので学生のようだ。やがて真理子は彼女の妙な様子がツボに入り、笑い出したが……。
サーニャ「ど、どういう状況なの、これ……!?」
真理子「えっwwwこんな展開ってありなのwww久々に裸族とかカオス展開関係なしで変なのが見られたwwwマジウケるんですけどwwwつかゲーム上手いしwwwファーwww」
雷那「!?…あ、あ、あ……」
サーニャ「?……あ、あれ?雷那ちゃん、どうしたの?」
雷那「ヒメ……いや、柏木咲姫(かしわぎ・さき)先輩!?一体何やってるんですか!?」
銀髪ポニーテールの女性→咲姫「へ?……あ、雷那ちゃん!?」
サーニャ「……知り合いだったー!?」
真理子「え?wwwうわ、マジなの?マジで知り合いなの?www」
雷那と女性…咲姫は知り合いだったのだ!?さらに驚きの事実が続く。
咲姫「……って、その声…!?ま、ま、まさか、『マリーニャ』ぁぁぁぁぁ〜!?」
サーニャ「はい!?あなた、私たちのこと知ってるんですか!?」
雷那「え?ヒメ先輩、『マリーニャ』のことご存知だったんですか!?…これは初耳だわ〜……」
真理子「ひぃっwwwヤバいwwwめちゃくちゃお腹痛いwwwww」
なんと咲姫は偶然真理子とサーニャ……いや、『マリーニャ』のファンだったのだ!?
……
咲姫「は、は、初めまして…!私、柏木咲姫です!奏坂高校3年、オンゲキツインユニット『7DAYS HOLYDAYS』のリーダーをしています!…あの、貴女たちのゲーム配信や生放送は追える範囲で全て追っているわ!特にスマブラSPでの一騎打ちや、Switch2のニ◯ダイ同時視聴のエ◯ライド発表時の真理子さんの狂乱ぶりは私まで嬉しくなるほどで…!!」
真理子「え?あれ観られてたのー?wうわー、恥ずかしーw」
サーニャ「真理子ちゃんってば、配信してるくせに白々しいのやめてってば;……あの、こちらこそ初めまして!サーニャです」
真理子「サーセンwww…んじゃ、あたしも!田名部真理子!ちな、同い年の同学年ね?だから敬語とかいいから。これも縁だし、仲良くしよ?」
咲姫「はい!…じゃなくて、そ、そうね!ぜひ、ぜひ仲良くしましょう!よろしくお願いしますね!……『マリーニャ』、本物だぁ〜……!!」
推しとの対面に噛み締め震えていた咲姫だが、ふと雷那のことを思い出し、彼女に向き直る。
咲姫「あっ、そうだ。2年の夕立雷那ちゃん、で間違いないわよね?」
雷那「はい、そうですよ。…よく覚えてましたね」
咲姫「そりゃツインやグループ前提のオンゲキで、ソロでの活動は奏坂でもかなり珍しいもの、もちろん覚えているわ。…今年のシューターフェス、惜しかったわね」
雷那「……まあ、1人で『ASTERISM』とあそこまでやれたならそれなりに…って、ヒメ先輩はなぜここに……?」
サーニャ「あの、咲姫さん、でいいかしら?…あなたも奏坂の生徒でオンゲキプレーヤーなら、学園で行われている生徒会総選挙の件についてはご存知よね?」
咲姫「そうね。……実は私たちのユニットも、先日皇城セツナに勝負を挑んで、敗北してしまったの。今はその憂さ晴らしでこのゲームセンターにいたのよ……」
真理子「そうだったんだ…」(それであの号泣ぶりか……)
咲姫「でも私、皇城セツナの政策には断固反対よ!なによ、アニメやゲーム、漫画なんて生きるには不要って!絶対あり得ない……って、あれ?でもなんで真理子ちゃんやサーニャちゃんが、それを……?」
首を傾げる咲姫に、ゲーマー少女はここぞとばかりに説明する。
真理子「咲姫ちゃん、オフレコで頼むけど…、実はあたしたち、この世界を守護する特殊ギルドの一員なの。それで皇城セツナに対抗するために、奏坂の生徒から協力者を探してたんだよ!奏坂の生徒が総選挙を乗り切るためのやる気を出すためにね!!」
咲姫「と、特殊ギルド!?いいわね!その響き、本当にゲームの中の出来事みたい…!!」
サーニャ「それで、舞ヶ原高校……別の学校で行われる大型のイベントを活用して、オンゲキの、ええと…『エールシステム』ってあるでしょう?SNSなどの宣伝も使ってあれを利用すれば、妥当皇城セツナの勝機を掴むひとつになると思ったのよ。大型イベントは奏坂の学園関係者だけじゃない人も呼び込む予定だし、あくまでも奏坂がメインのオンゲキのよさを伝えるきっかけにもなると思うわ。何よりそれなら既に敗退してしまったグループの皆さんも、何かできるかなって」
咲姫「なるほどね…!とてもいい案だと思うわ!それに、既に総選挙に敗退した私でも皇城セツナに一矢報いることができるなら…!ぜひ私も協力させて下さい!」
雷那「早っ!?…で、でも、実力者のヒメ先輩が協力してくれるなら素直に有難いわね…」
スムーズに交渉成立。咲姫が元から雷那と顔見知りであったこと、そして真理子とサーニャに対して非常に好意的な感情を持っていたことが幸いした。その勢いのまま、咲姫は雷那へ颯爽と発言する。
咲姫「そうだ、雷那ちゃん。せっかくだし茜ちゃんや楓ちゃんたちにも相談したらどうかしら?」
雷那「え?あの…。茜先輩たち、ですか?」
真理子「それって、雷那が依頼の時に話してた、奏坂の生徒会長たちだよね?」
咲姫「そうね。茜ちゃんと楓ちゃん。そして書記の有栖ちゃん。……奏坂が今あんなことになっているけど、3人が奏坂のために動こうとしているなら、彼女たちにとってこんなに心強いことはないと思うの。特に茜ちゃんは雷那ちゃんの話をよくしていたし、ね?」
雷那「…………」
サーニャ「雷那ちゃん?」
咲姫のこの提案に俯き、口籠もる雷那。
雷那「……茜先輩たちには、言えませんよ」
サーニャ「えっ?何で?」
雷那「……皇城セツナのせいで、生徒会の皆さんは在校生徒や保護者たちの不平不満に総出で対応しているんですよ?しかも学園が閉まるギリギリの時間まで残って…。そんな中で学外のイベントにまで協力しろって、これ以上茜先輩や楓先輩や有栖さんにご迷惑を掛けるのは申し訳ないですよ……」
雷那は混乱している学園の統制のため奔走している茜や楓、有栖たちに別件で迷惑をかけるのが申し訳ないようだ。それに顔を曇らせる咲姫だったが。
咲姫「…確かに、それはそうね。でもあなたたち、さっき言ってくれたじゃない。『舞ヶ原高校の野外フェスを活かすことで、既に敗退したオンゲキプレイヤーも皇城セツナに一矢報えるかもしれない』って。だから私、みんなに協力しようって思えたのよ」
雷那「あ……!」
咲姫「それは茜ちゃんたちだって同じだと思うわ。そりゃルールがルールだから総選挙のステージで皇城セツナに勝つことはもう出来ないけど、それでも活動に参加することで、諦めムードの学園の雰囲気を少しでも良くすることはできるんじゃないかしら?それは私の望むことだし、私以上に茜ちゃんや楓ちゃん、有栖ちゃんの望むことなんじゃないかしらって…。まあ、生徒会のみんなについては、私の勝手な推測だけどね!」
咲姫の言う通り、行き交う奏坂学園の生徒たちからは「このまま学園が皇城セツナのものになってしまうのではないか」という諦めの雰囲気が見られた。そしてそれを1番望まないのは真っ先にセツナへ立ち向かった有栖や茜、楓たち生徒会のメンバーだろう。何より、自分たちも皇城セツナに対して一矢報いたい思いはあるだろう。……咲姫の発言を受け、とうとう雷那は決意する。
雷那「……分かりました。生徒会の皆さんへ、連絡してみます!」
真理子「うんうん!それに『どうしても忙しくて無理〜!』なら仕方ないし!野外フェス前にやれることは全部やってみよー!」
咲姫「あ、あと少しだけいいかしら?私、妹の属しているグループ伝で、まだ敗北していない有力グループ…『ASTERISM』の子たちの連絡先も知っているの。あの子たちにも今回のことを伝えていいかしら?」
サーニャ「そうなの!?『ASTERISM』の子たちも協力してくれるならこの上ないわ!是非お願いします!」
咲姫「ありがとう!早速連絡してみるわね!」
こうして雷那と咲姫はそれぞれ該当者たちへ連絡。結果、彼女たちと落ち合い、駅前のファミリーレストランで話し合いをすることになったのだった。
……
- それは愛と純情のセンチエレトリックってことだろSAGA(準備 ( No.576 )
- 日時: 2025/06/15 17:26
- 名前: 夢見草(元ユリカ) (ID: JC82K/KY)
……
そして、ゲームセンターで咲姫と出会ってから1時間後。奏坂学園駅前のファミリーレストランにて…。
茜「おお、待っていたぞ雷那よ!そしてWSTの戦士たちよ!今回は本校の件についての協力、誠に感謝する!!」
楓「会長に倣い、私からも皆さんへお礼を申し上げます。夕立さん、お久しぶりですね。…あら、柏木さんもいらっしゃったのですね」
有栖「ん。雷那……」
あかり「こんにちは!……雷那さん、お久しぶりです!雷那さんとお話しするのはシューターフェス以来ですね…。そちらのお2人も、初めまして!」
柚子「うわーっ!?お姉さんたち、何だかキラキラだよ!キラキラっていうか、何だかそれを通り越してギラギラだよ!?」
葵「あ、あの…。初めまして。今回はよろしくお願いします……?」
真理子、サーニャ、雷那、咲姫、そして呼び出された6人が集合。大型のテーブルを囲い、総勢10人の女子が集まった。側から見ても只者ではない集団となった一同は軽く自己紹介し合ったしたのち、雷那がひと月後の舞ヶ原の音楽イベントでオンゲキのパフォーマンスをしようと考えていると報告する。
サーニャ「皆さん、初めまして。WSTメンバーのサーニャ・V・リトヴャクと言います。今回はよろしくお願いしますね!」
真理子「どーも皆さん、こーんにっちはー!まりまりまりーここと、田名部真理子でーす!真理子って呼んでね!」
茜「うむ!お前たちも以前から雷那から噂は聞いていたぞ。田名部真理子と、サーニャ…ええと、何だっけか。ともかくサーニャでいいのだな!……私は逢坂茜(おうさか・あかね)だ!奏坂の生徒会長!そして生徒会及び、『R.B.P』のリーダーなのだ!わっはっは!」
奏坂の生徒会長である茜は小柄な体格ながら豪胆不落な少女であり、目が冴えるような赤髪が特徴的だった。例えばつぎドカの烈がもし女子だったら何となくこんな感じなのだろうか、という容姿をしていた。腕組みをしつつ胸を張り堂々とした様子は、確かにいち学園の生徒会長としての懐の大きさを感じさせる。
楓「あらゆる依頼を引き受け、世界を守護する特殊ギルド…。噂には聞いていましたが、まさか本当に実在していたとは…。いえ、失礼しました。久城楓(くじょう・かえで)と申します。奏坂の副会長で、会長と咲姫さんとは同学年ですね」
副会長の楓は眼鏡とストレートの長い黒髪が特徴的であり、いかにも生真面目、という雰囲気が漂う。彼女は少しだけWSTの噂を知っていたようで、実際に該当メンバーを目にしたことで眼鏡の奥の瞳に驚きの色を浮かべていた。
有栖「…ん。珠洲島有栖(すすじま・ありす)。茜と楓と同じ、生徒会のメンバー」
有栖については依頼時に雷那が軽く素性を説明している。将来の奏坂の理事候補の生徒であり、今回奏坂学園を大混乱に追い込んだ皇城セツナと強い因縁を持つ少女だ。本人と対面して特徴的なのは青い髪をお団子とツインテールの融合のように結い上げた非常に個性的な髪型だ。
あかり「改めて、お2人とも初めまして!星咲あかりといいます!今回はよろしくお願いします!……それにしても、WSTって、本当にあったんだ……」
桃色ボブショートの彼女はあかりといい、現在人気トップのオンゲキアイドルグループ「ASTERIUM」のリーダー、そしてもっともオンゲキの伝説的プレイヤーの総称・「プリメラ」に相応しい3人のひとりだという。彼女も楓と同じように、少しだけWSTの噂を知っていたようだ。
柚子「次!……あのねあのね、私は柚子っていうんだよ!よろしくね~!」
金髪サイドテールの彼女はと藤沢柚子(ふじさわ・ゆず)といい、あかりと同じく「ASTERIUM」のメンバーだ。特徴的な語彙や話し方をする彼女は一見普通の可愛らしい少女に思えるが、これはあかりもなのだが、どこか独特のカリスマ性とオーラを放っているように思える。
葵「三角葵(みすみ・あおい)、です。よろしくお願いします。…あの、WSTって凄い組織だけど、同時に敵に回すと凄く恐ろしい組織って聞いているんですけど、本当ですか…?何だか、ギルドに対して不義理を起こした相手をサウナに改造した拷問部屋に閉じ込められるとか……;」
サーニャ「あっ……;だ、大丈夫よ?ペナルティ対象になるのはとんでもないことをしでかしたり、WSTにひどい嘘を吐いたり約束を破ったりとか……。そう、余程のことがない限りだから、あなたはあまり心配しないで?」
真理子「ちょっwそこまで気にしなくて大丈夫だよーwあたしたち、そんなに怖くないよー?」
「ASTERISM」の最後の1人・青髪の少女の葵もWSTの情報を知っていたが、彼女の耳にはあまりよくない噂の方が耳に入ってしまっていたようだ。とりあえず彼女の抱いていた危惧を軽く払拭し、本題に移る。
咲姫「じゃあさっき連絡した通りだけど、改めて説明するわね。実は雷那ちゃんが、ひと月後に『舞ヶ原高校』で行われる音楽イベントでオンゲキを披露して、皇城セツナに対抗するための一般の方々からの支持……『エール』を集めてくれるそうなの。真理子ちゃんとサーニャちゃんはWSTの権限を使って、私たちに協力してくれるんですって!」
雷那「舞ヶ原とは部外者のあたしがいるから、外部グループって形での参加になります。あ、舞ヶ原はあたしが課外活動でコンビを組んでいる人の通っている高校です。あそこは音大付属高校だから、BGMを利用してパフォーマンスするオンゲキも良い方向に…。最低でも悪くない方向に受け入れられるんじゃないかなと思います」
茜「何と!まさか雷那が水面下でこうして動いていたとは…!!」
楓「奏坂以外の学校でのオンゲキの披露、ですか…。そういえば、今までは考えたことがありませんでしたね。奏坂を知る応援してくださるファンの皆さんで十分支持を得られていましたから。……しかしこの現状を打破するならば、そしてオンゲキを支持してくれる人々を増やすということであれば、かなりよい選択なのではと思います。」
有栖「ん。上手くいけば、今後のオンゲキプレーヤーの人口を増やせるかも」
柚子「えっ!?オンゲキをしてくれる人が増えるの!?それって、とってもきらきらり〜んだよ!!」
あかり「わぁっ…!それって本当にとっても素敵なことですね!私、賛成です!」
葵「確かにそれは素敵だと思う。……だけど、そんなにスムーズに行くことなんですか?それに相手の方はきちんとオンゲキを分かっているのかな…?」
雷那「相手もオンゲキについては知っているし、あたしのオンゲキを観て一緒にパフォーマンスをしたことがあるから大丈夫。…えっとね、葵。相方を組む奴がバックのDJミュージックを担当して、あたしがその音楽に合わせて表示された弾幕を撃っていく……って形にしようと思っているんだ」
あかり「ふむふむ、なるほど〜…。つまり、お二方…『マリーニャ』さんは、今回の舞台は裏方を担当されるんですか?」
真理子「ま、そうだねー。あたしたち、ゲームは好きだし得意だし」
柚子「え?お姉さんたち、ゲームが得意なの?」
サーニャ「ちょっと、真理子ちゃん?あはは…。ゲームは好きだけど、あくまでただの趣味なのよ。プロゲーマーほどの腕前ではないけれど……」
柚子「……あの、お姉さんたち!」
突然柚子が立ち上がる。そして…。
柚子「だったら、お姉さんたちも雷那ちゃんと一緒にオンゲキをやってみようよ!」
柚子&葵「え!?あかり(ちゃん)!?」
真理子&サーニャ「へ?」
柚子「どっちもゲームが得意なんだよね?…だったらきっと、だいじょーぶ!私たちが教えてあげるから、オンゲキのステージに立ってみようよ!」
あかり「……なるほど。確かにゲームが得意なら、FPSと音ゲーが元になったオンゲキとは相性が良いかもしれない。あの、私たちも協力しますから、今回は雷那さんと一緒にステージに立ってみませんか!?」
咲姫「なるほどね…!それに配信で話してたけど、2人の得意ジャンルって音ゲーとFPSだったわよね!?それなら…!!」
雷那「ちょっ、ちょっと待ってよあかり!?柚子も、ヒメ先輩もですよ!いきなりそんなこと言ったって、2人とも困るって……」
オンゲキのスタープレイヤー・あかりや柚子からのまさかの勧誘。今回の依頼では裏方に専念しようと思っていたゲーマー少女と元ナイトウィッチからすると、この提案はまさに青天の霹靂だった。慌てる雷那だったが、ここで生徒会長の茜が神妙な面持ちでツインカラー・ツインテールの少女へ話しかける。
茜「……雷那。そして真理子とサーニャ。お前たちのやろうとしていることは我々も素晴らしい取り組みだとは思っている。だが、仮に舞ヶ原で無事に音楽祭が開催されるとして、私たち生徒会はお前を直接手伝うことは出来んのだ。今、皇城セツナの件に対する苦情や問い合わせで学園の対応に追われているからな」
雷那「!!」
真理子&サーニャ「あ……」
茜「それに学園側のルールで、私たちは現在ステージに立つことはできない。今回私たちはお前と共にステージに立ち、お前の味方をしてやれんのだ。お前が助けを求める時に、すまない。……だからこそ、雷那の側にWSTの依頼で経験豊富な真理子とサーニャがいるなら非常に心強いと私は思うが。どうだ?楓?有栖?」
楓「…そうですね。誠に遺憾ですが、先日皇城セツナに敗北した私たちは、生徒会総選挙期間中はステージに立つことは不可能です。これは奏坂の伝統として決まっていることなのです。生徒会として学園の秩序を維持する立場として、破るわけにはいきません。…ですがソロのオンゲキプレイヤーであり、それゆえに皇城セツナからは目をつけられていない雷那さん。そして外部者の真理子さんとサーニャさんには、それは適応されない……ということですね」
有栖「うん。それに総選挙前に『ASTERISM』が必要以上に表に出るのもリスクがある。『ASTERISM』はまだセツナ姉様……皇城セツナとの公式試合で負けてない。だからこそ余計な偵察をされるのはよくないし、変な妨害も受けたら困る。皇城セツナは勝利のためなら何をしてくるか分からない。……君たちは奏坂の、希望だから」
葵「あっ、そうか。私たちへの偵察……」
生徒会グループ「R.B.P」や、咲姫たちのツインユニットを含む他の有力グループは皇城セツナに敗北したため、総選挙中のルールにより、登板不可能。あかりたちの「ASTERISM」は対皇城セツナとの決戦前にコンディションを探られたくはないし、妨害などの万一のことがあってはならない。だからこそソロ活動をしており比較的しがらみに囚われず自由に動ける雷那と、あくまで奏坂外部の者である真理子とサーニャはセツナに目を付けられるリスクが少なく、安全に舞ヶ原でパフォーマンスができるだろう。
有栖「……雷那。それと真理子、サーニャ。私は、奏坂学園は囚われすぎずに自由であることこそが大切だと思っている。セツナ姉様……皇城セツナの掲げる厳格な理想も、統治としてはありだと思うし、それもまたひとつの形だとは思っている。でも、それはあくまでそれが通用するのは自分と対応な能力を持つ大人に対してのこと。彼女のやり方だと奏坂は、奏坂の生徒たちはきっと潰れてしまうと思う。奏坂を守るためにも、皇城セツナを止めるひとつの遠因になるためにも。……お願い、できますか?」
奏坂の騒動の当事者の1人である有栖が粛々と発言し、頭を下げた。茜と楓もそれに倣う。……そして彼女たちを見てこくりと雷那は頷き、マリーニャは彼女たちに手を差し伸べた。
雷那「有栖さん……。任されました。あたしたちが、必ず皇城セツナを止める遠因になってみせます」
真理子「有栖ちゃん。茜ちゃんに楓ちゃんも。顔を上げてよ。……辛気臭いのは勘弁!大丈夫!雷那と『マリーニャ』に任せなさいっ!それに、あたしたちの他にも他にも協力者は多くいるしね!」
サーニャ「WSTの名に懸けて、何よりサーニャ・ウラミジーロウナ・リトヴャクの名に懸けて…!今回の依頼は私たちが必ず成功させます!安心してください!」
有栖「!!……ありがとう」
茜「心得た。……お前たち、頼むぞ!」
楓「会長と同じく、あなたたちに心より感謝します。……そして『R.B.P』がステージに立つことはできませんが、オンゲキで必要不可欠な勝負服……『シュータードレス』の手配については、私たちや奏坂のオンゲキに携わる生徒たちがお世話になった被服会社を紹介できると思います。我々のツテもありますし、特注で格安かつ良質なシュータードレスをご用意できるかと。その件については私たちにお任せくださいね」
真理子「え?そっちでシュータードレスを用意してくれるの?あれ、用意するの結構大変そうなのに」
茜「ああ、もちろん!協力者に何もしないのは『R.B.P』及び生徒会の名が廃るからな!まあ、シュータードレスのデザインはお前たちが決めることになるが」
サーニャ「デザインの件は後で相談するとして…シュータードレスは経費で十分出せる値段になりそうかな。追加の費用申請をしなくて済むかも…。うん、ありがとうございます!」
茜「……それと、お前たちの本番だけは何があっても必ず観に行くぞ!それは譲れん!!」
楓「会長…。あの、お気持ちは分かりますが……。時間を捻出できるでしょうか……?」
有栖「ふふ。あのね、普通のアイドルスタイルのドレスとか、茜や楓みたいな軍服とか、私の着ぐるみとか。シュータードレスは色々あるよ」
茜「デザインの相談はしておけよ〜?さもないと有栖の好みでどちらも着ぐるみになるぞ?www」
サーニャ「いや、あの、ぬいぐるみは、ちょっと困るかな……。あはは……;」
真理子「ちょっwww着ぐるみで激しく動くとかマジの罰ゲーム案件なんだけどwww」
咲姫「ええと、シュータードレスの件については楓ちゃんたちにお任せするとして…。私は裏方として、真理子ちゃんとサーニャちゃんのオンゲキレッスンを担当するわ!こう見えても、それなりに大きな大会での実績はあるのよ?」
あかり「咲姫先輩たち、昨年や一昨年のシューターフェスでも好成績でしたもんね!……よし、これなら不足なしです!皇城セツナには負けないんだから!」
葵「えっと、あの……。お2人とも。オンゲキは未経験と言われていましたけど、音感とか身体能力については一体どんな感じなんですか?ひと月で人前でも披露できるように仕上げなきゃいけないなら、状態に合わせてきちんと段取りやスケジュールを立てないと」
真理子「クロスギルドのギルメン…ギルドメンバーだからねー。ま、それなりには鍛えてる!あたしは音楽ゲームは大好きでガチってるからリズム感は割と自信あるよ!代わりに的を射抜くのはちょっと練習要るかな?……それより、あたしよりサーニャちゃんに注目、注目!サーニャちゃんなんてピアニスト志望で音感あるし、色々あってFPSなんてもうマジで強いから!」
サーニャ「ちょっ、ちょっと!真理子ちゃんったら変なプレッシャーを掛けないでよ!……ええと、的を撃って狙うのは、得意かしら。もしそれ以外の動きがあるなら重点的に練習したいわ」
葵「な、なるほど…。それならギリギリ、いけるかも……?」
あかり「2人とも結構自信あり、ってことですね!でも、オンゲキの道は甘くないよ?びしばし、いくよー!」
柚子「うんうん!お空のてっぺん、目指してゴー♪」
いつの間にか、ワイワイ盛り上がる彼女たちを見ながら、依頼を持ち込んだ張本人である雷那は…。
雷那(すごい。真理子さんとサーニャさんがちょっと関わっただけで、生徒会の3人が。咲姫先輩が。あかりみ柚子も葵が、あんなに明るく笑っている…。WSTの影響力は言うまでもないけど、何よりあの2人の実力と人柄がそうさせているんだ……)
……
- それは愛と純情のセンチエレトリックってことだろSAGA(準備 ( No.577 )
- 日時: 2025/06/02 07:58
- 名前: 夢見草(元ユリカ) (ID: LL/fGGq1)
ーーー
ゲーマー少女と北国の元ナイトウィッチが無事に奏坂側の協力者を見つけることができた、ちょうどその頃。
美園「……ふふ、やっぱり、アップルパイは格別ね♪」
タロー「うーん!これも、これも、これも美味しいね〜!」
美園「タローくん、あの……3個は食べ過ぎじゃない?」
タロー「全然!むしろもっとモリモリいけるぞー!!」
所変わって、舞ヶ原高校の最寄り駅。こちらでは旋律紡ぎし少女とサーファードラマーの「パシフィカ」学生コンビが駅前の公園のベンチに仲良く並んで座っていた。時間がおやつどきということもあり、彼らはあらかじめ用意していたりコンビニなどで購入した簡単に食べられるおやつや菓子パンを頬張っていた。
美園「あっ、ちょっと待ってタローくん。おべんとが付いてるわ。……はい、取れた」
タロー「え、マジ?ありがと!……ねえ、美園ちゃん!迅はまだ来ないのかな?俺、舞ヶ原がどんなところなのか早く知りたい!ワクワクが止まらないよ!」
美園「タローくん、落ち着いて?とっくに6限終了の時間だから、きっともうすぐ……あっ!」
迅「ぜえ、ぜえ……」
噂をすれば、だろうか。依頼者の1人である赤髪のDJ見習いの少年が息を切らしながらこちらへ走って来た。
迅「お2人ともすみません!遅れてしまって!月鈴……ええと、ちょうど皆さんが本日会う『イロドリミドリ』のメンバーに呼び止められていて……!」
美園「落ち着いて。大丈夫よ、迅くん。私たちもついさっき、到着したところだったの」
タロー「そうそう!俺なんて腹減ったからめっちゃおやつ食べてたし!……あ、水飲む?」
迅「頂きます……ぷはっ。タローさん、ありがとうございました。それに遅れて来たのに、お2人にそう言って貰えるとありがたいです……」
タロー「全然だいじょーぶだって!あと、『さん』付けは別にいいよ!だって俺たち同い年なんでしょ?タローでいいよ!!」
迅「……じゃあ、これからは『タローくん』で!それじゃ、舞ヶ原へ行きましょうか。ここからは俺が案内しますね」
こうして世間話をしながら歩みを進め、美園とタローは舞ヶ原高校に到着したのだが…。
美園「うわぁ……」
タロー「うおおおおー!!すげー!!」
私立舞ヶ原高校。さすがにタローの属する超大規模マンモス学校・ポップン学園ほどの大規模こそないものの、本格的な音楽専門高校らしく、校舎の他にも簡易スタジオであろう建物が見受けられた。
何より、特に注目するべきは舞ヶ原の生徒たちだった。前もって説明されていた通り、行き交う生徒たちは元女子校らしく女子生徒たちの割合が多くを占めているようだ。彼女たちはみな白いワンピース・スタイルを基調としたセーラー服を着用している。一方で近年の共学化により完全に女子生徒のみという訳ではないようで、迅のようにちらほらと男子生徒の姿も見られた。
彼らの多くは大きな楽器のケースを持ち運んだり背負ったりと、それぞれ積極的に音楽活動に励んでいるであろうことが伺える。吹奏楽であろう金管楽器のパート練習を行うもの。バンドだろうか、待ち合わせをしていた様子のグループの男子生徒と女子生徒たち。中には少し変わり種なのだろうか。スマートフォンから流すBGMに乗ってダンスを生徒たちの姿もあった。
美園「ふふっ、素敵ね…!」
迅「まあ、一応音楽大学附属の専門高校なんで、発表活動を行うステージなり、音楽活動を行うのに困らない最低限レベルの設備ならありますね。今回の野外フェスの会場となるステージもそのひとつです。もちろんそれぞれの楽器や、自分の使用するようなDJ器具は自費購入になりますが」
美園「なるほど。それに以前聞いていた通り、強い活気も熱気も、感じられるわね……!」
タロー「すごい!すごくすごいってこんなの!学校にたくさんミニスタジオがあるじゃん!ポップン学園でもこんなにはないよ!!すげー!……俺、何だか舞ヶ原のみんなを見ているだけでワクワクしちゃうよ〜!!」
迅「はは、タローくんたちならうちを絶対に気に入ってくれると思ってましたよ。それじゃ……あ」
ふと迅がある方向を見やった。そこには歩行中のとある女子生徒の姿がある。彼女はギターケースを背負い、奏坂指定の女子制服の上にブラウンのカーディガンを羽織り、ウェーブがかかったアッシュグレーのロングヘア。紫色の瞳が特徴的なこの少女に直接会ったことはないが、タローと美園も彼女のことは知っていた。なぜなら、今回の依頼の重要人物として顔写真をファイリングしていたから。パシフィカの旋律紡ぎし少女はDJ見習いの少年へ思わず耳打ちする。
美園「……ねえ、迅くん。あの人って……」
迅「はい…。彼女が、萩原七々瀬(はぎわら・ななせ)さん、ご本人ですね」
萩風七々瀬。かつての舞ヶ原で起こった事件の被害者であり、迅を始めとする学園野外フェスを運営する生徒たちが気にかけている人物だ。彼女を少し観察すると、かつての出来事が未だ尾を引いているのか、七々瀬はどこか他者を寄せ付けない雰囲気を強く放っている。そのため、美園は少し躊躇ってしまう。
迅「実は、俺も七々瀬さんご本人とお話したことは数度くらいしかないんですよね……。学年や年齢が離れているのもありますけど、元から無駄話を嫌うようなのと、先の出来事の件で他者に対する警戒心がかなり強くなってしまっているようで。もちろん悪い方では無いんですよ。ただ、彼女が自分から親しく会話をされているのが所属している『Hanamina』のグループ内の人や3年生の一部の方くらいで。顔見知り程度の俺は芹那先輩や生徒会長たちを通して、といった形でしか会話したことがないですね……」
美園「そうなんだ。ううん、ぜひご挨拶を……と思ったけれど、あの様子じゃそっとしておいた方がいいかな……」
タロー「うーん……。ねえ、俺、ちょっと行ってくるね!」
迅「はい、タローく……はい!?」
美園「タローくん!?」
七々瀬から放たれる冷たい雰囲気に全く臆することなく、彼女と会話しようとタローは勢いよく走り出した。まあ、タローはこういうやつだったな、うん。
いきなり自分の方向へ突撃して来た謎の部外者の少年に眉をしかめる七々瀬。そんな彼女に全く怯むことなく、パシフィカのサーファードラマーは話しかけた。
タロー「こんにちはー!ええっと、キミが七々瀬さん、だよね?初めまして!俺は連太郎!タローって呼んでね!よろしくー!」
七々瀬「…………」
タロー「それでえっと、ひと月後にここ……舞ヶ原で新しく『野外フェス』ってやるじゃん?知らなかったかもだけど!そこに俺と、あそこの……美園ちゃん!俺たちもフェスに出るんだ!だから、よかったら……」
七々瀬「…………だから?」
タロー「…………え?」
かつての騒動に巻き込まれた少女はタローの言葉を遮り、彼を厳しく睨み付けた。
七々瀬「しつこい。うるさい。初対面なのにいきなり話し掛けられてきても、迷惑なだけ」
タロー「え、あ、ごめんなさい……」
七々瀬「それに、外部の人間だか何だか知らないけれど。……これ以上部外者にズカズカ踏み込まれるのは真っ平ごめん。『私』の邪魔をしないでくれる?」
そうタローに言い放つと、七々瀬はそそくさと立ち去ってしまった。その一部始終を呆然と見ていたが、美園が静かにタローへ駆け寄り、迅も慌ててそれに続く。
美園「……いくら何でも、あれは、ちょっと……」
迅「すみません!お2人とも、本当にすみません!!」
タロー「ううん、俺こそごめん…。ちょっと、調子に乗っちゃったみたい……」
美園「確かに、少し調子に乗っちゃったかもしれないね。だからこそ、この経験を次に活かしましょ?ね?」
タロー「うん……」
美園「……それにしても、あの様子じゃ彼女の心を開くにはだいぶ難航しそうね……」
迅「本当に…。七々瀬さん、活動の様子を見ても音楽が好きなのは間違いないんですけど『よー、迅!』……おっ!」
今度は3人の女子生徒たちが美園、タロー、そして迅の元へ走り寄って来た。青いツインテールが特徴的な快活そう、かつ小柄な少女。大きなリボンにロングヘアの大人しそうな少女。そして緑のロングヘアとケープが特徴的な品の良さそうな少女だ。彼女たちは七々瀬とは異なり、それなりに美園たちに友好的な様子だ。
???1「やーっと来たのかよ!あたしら3人とも待ちくたびれたぜ」
???2「はわわわわ…!ほ、本物の、SONOさんとTAROさん……!!」
???3「なるちゃん、しろちゃん、落ち着いて。…………えっと、なにか取り込み中だった?」
迅「大丈夫だ、むしろちょうどいいところに来た!……タローくん、美園さん。紹介しますね。そこの青くて小さいのがベース担当の箱部なる、デカいリボンの物静かなのがキーボード担当の小仏凪、緑のケープをしているのがチェロ担当の月鈴白奈です。それで……」
???1「そうそうあたしが……って、おい、オイコラチビってどういう意味だ、アアン?」
???3→凪「なるちゃんは落ち着いてってば。……ねえ、迅くん。お二方も。ここだと他の人も来るし、移動しない?」
美園「そうね…。よければご案内頂けます?」
???2→白奈「は、はいっ!もちろんっ!」
案内役の迅に加え、なる、凪、白奈と共にある部屋へ移動する。この部屋は旧校舎にある元軽音部室、現「シンセサイザー同好会」の部屋であり、今は迅の管轄内にあるのだという。中にあった古びた椅子に腰掛けると、なるが口を開いた。
- それは愛と純情のセンチエレトリックってことだろSAGA(準備 ( No.578 )
- 日時: 2025/05/25 15:17
- 名前: 夢見草(元ユリカ) (ID: JC82K/KY)
???1→なる「んじゃ、もう1回いくな!あたしは箱部(はこべ)なる!『イロドリミドリ』の最強無敵のベーシスト様だぜ!白奈からお前たちの噂は聞いてるぜ?だから一緒に動画で観た!……お前らの演奏、結構イカしてたぜ!!」
タロー「え、なるちゃんって俺たちのこと知ってるの!?」
なる「んー、まあ、白奈の見つけた動画でちょっとだけどな!日焼けした、ええと、タローだっけ?お前はそこそこドラムやってるっぽいけど……。あっ、そこの青髪のお前!お前はギターは最近始めたばかりだろ?あとなんかベースやってた金髪のデカい男も!お前らの出す音は経験者とはビミョーに違ったんだけど、なのにあのテクニック…!あとは自分の魅せ方も分かってるし、どっちもただモンじゃねーな!!」
美園「!!……あの、少し聞いただけなのに、それが分かったんですか?」
なる「おう!んでもう1人のギターの女と、キーボードの男はバチバチに経験者だろ?」
美園「うん、うん!正解よ!」
凪「……なるちゃんは、とても耳が良いの。」
タロー「そうなの!?だからちょっと聞いただけで分かるんだ!すっげー!!」
なる「おー、いいぜ?ほら、もっとなる様を褒めろ!もっと、もっと!!」
タローに褒められて気分を良くし、ふんぞりかえるなるを迅が制した。
迅「箱部はその辺にしてくれ、あんまり時間がない。…小仏と月鈴も、改めて自己紹介頼む」
凪「……小仏凪(こほとけ・なぎ)です。『イロドリミドリ』のキーボードをしています。よろしく。……これで、いい?」
タロー「うん、凪ちゃんだね!よろしくー!……キーボードかあ。サユリちゃんとか、まさ…MASAと同じだ!」
凪「そうなの?……しろちゃん、ぼーっとしてないで。ほら」
元気いっぱいで多弁のなるに対して、凪は元から大人しく口数が少ないようだ。彼女は最低限の会話ののち、目をキラキラさせて美園とタローをずっと見つめていた白奈に会話を繋いだ。
白奈「え、あ、はい!……舞ヶ原高校2年、月鈴白奈(つきすず・しろな)と申します!『イロドリミドリ』では主にチェロパートを担当しています。……あの、私、以前のパフォーマンスを拝見してから『パシフィカ』の大ファンで…!今回迅くんから野外フェスで皆さんにお会いできると伺って、本当に感無量なんです…!!」
美園「そうなの?私たちの演奏が貴女に気に入ってもらえたなら嬉しいわ。ありがとう」
タロー「やったー!俺、すっごい嬉しいよ!俺たちこそ、野外フェスではよろしくね!」
白奈「はいっ!…先ほどなるちゃんと凪ちゃんも言ってましたが、SONOさん……美園さんはギターは経験者ではないのですよね?『パシフィカ』の活動のためだけに習得されたのですよね!?それなのにあれほどの正確性とテクニック、周囲を見て落ち着いて演奏できる能力は他にも多くいるギタリストたちに決して劣らないと思っています!そしてTARO…タローくんのドラムのリズムは少し疾ることもありますが、とても力強くエネルギッシュで、何より見ている人々全てを明るくさせる素敵なエネルギーを持っています!舞台だとバックに配置されてしまうドラムであれだけの存在感を出せるのは本当にすごいです!それに他のお三方の織りなす三位一体のメロディが組み合わさればまさにフロアはバイブス最高潮!!嗚呼、風光明媚!!素晴らしきかな『パシフィカ』……!!」
凪「しろちゃん、しろちゃん。落ち着いて」
白奈「はっ!……あ、あの、ごめんなさい!私ったら……」
なる「白奈は好きな音楽を話すといっつもこうなるんだよなー。でもコイツがこうなるって言うのは、そのアーティストがイイもん持ってる証拠なんだぜ?」
美園「な、なるほど……;」
タロー「うーんと…。つまり俺たち、褒められてたんだよね?やったー!」
少し見た程度だというなるや反応の薄い凪とは異なり、白奈は既にガッツリタローや美園たちのパフォーマンスの虜になっているようで、早口で捲し立てていた。それだけ演奏に夢中になっていることにタローは素直に喜び、美園は白奈のあまりの熱意に少し引きつつもありがたく受け止めていた。
美園「じゃあこちらも、改めて自己紹介を…。夢ヶ丘市中、陽光学園3年。伊吹美園(いぶき・みその)、と言います。さっき白奈さんが言っていたけど、パシフィカの活動中はSONOというステージネームで活動しています。担当は…一応、ギターボーカル。タローくんと他3人も含めて、よろしくお願いしますね」
タロー「はいはーい!俺も!連太郎!タローだよ!ステージネームはTAROだよ!担当はドラムボーカル!3人とも、俺たちのこともよろしくねー!」
なる「あ!?SONOってあたしらの先輩だったのかよ!?マジか!?」
迅「そうだって言ってんだろ?……この3人は全員高2。タローくんと自分と同学年なんです。美園さんの1学年下ですね。あと、3人の属する音楽グループ、『イロドリミドリ』も野外フェスへ協力の意思表明をされていますね」
美園「ええ。確か、依頼時に言ってたわね。舞ヶ原の野外音楽フェスへの参加グループは3大グループの『イロドリミドリ』、『S.S.L』、そして『Hanamina』……」
タロー「それに、俺たち『パシフィカ』!あとは迅と雷那ちゃんの『THE NAMELESS』!……だよね!!」
迅「はい、正解!」
凪「ええと…。そういえば今いるあなたたちの他に、バンドメンバーはあと3人いるっていうけど…。その人たちは今どこにいるの?」
白奈「私も気になっていました!ぜひCORIEさんやMASAさん、CHRISさんにもお会いしたかったのですが……!」
美園「あー…。彼らはそれぞれの用事があるから、今日はここには来れないのよ」
なる「ふーん?…もしかして全員留年スレスレのヤベー奴らだったりして!用事って、まさか補修とか?にゃははwww」
美園「あはは……;あんまり彼らについて変なことは考えない方がいいわよ?後が怖いから」(なるさんのコレ、もし聞いたら間違いなく絶エモが飛んでくるわね)
迅(そもそもあとの3人は高校生じゃないしなwwwヤッベェwww)
当人たちの詳しい事情を知らないなるの見解はとりあえず軽く流し、全員の紹介が終わり、とうとう野外フェスの話に移る。
タロー「そうだ!迅からちょっとだけ聞いてるけど、舞ヶ原の野外グラウンドのキャパってどれくらいあるの?」
なる「キャパなあ…。うちのライブ用の野外グラウンドはすげー広いぜ。なんせ、生徒会の奴らが今回の野外フェスのために工事の交渉して、急ピッチで拡充したからな!!あとあの人たちの作ったステージは広いし、なんか色々細工してるみたいだぜ?あたしたちも先週のリハで1回上がったけど、あたしら6人がベースとか、それぞれの楽器を持ったままダンスしようとしても全然問題なかったぜ!!」
凪「あくまでうちの芹那先輩伝なんだけど。生徒会長の芒崎(のけさぎ)先輩によると、今回のステージには特設の専用スピーカーがあるから、少し遠くにいる観客の方にも歌声や音声がしっかり届くようにしたとか何とか…。それはあなたたちも活かせるものなんじゃないかと思うけど」
迅「まー、特設の工事のせいで生徒会の皆さんはめちゃくちゃ大変そうだったけどな。……それなんで、今いる生徒全員の倍くらいが収容できるくらいはありますね。うーん、グラウンドのみだとギリギリ1000人、くらいでしょうか」
美園「あ、いち学校にしては意外と多いわね。うちの学校より広いかも……」
白奈「元から野外ライブは行えそうなくらいの規模はあるんです!最も、実際にグラウンドで音楽のイベントを開催するのは今回が初めてのようなんですけどね」
凪「3大グループの中だと、『S.S.L』…生徒会グループの世間的な知名度が1番あるの。あの人たちはストリーミングに楽曲提供をしているから。宣伝ではあなたたち……外部の情報はサプライズにして、ストリーミングでお馴染みの『S.S.L』のシンセミュージックがライブで聴ける!……というところを1番のウリにするみたい」
なる「やっぱし高校行きながらプロの活動してる奴らは違うよな〜…。ま、本番で1番のパフォーマンスをするのは、あたしら『イロドリミドリ』だけどな!」
迅「それと、例の件のような出来事を防ぐために、今回の外部ゲストは完全に招待制にするらしいです。具体的には今回の野外フェス用の観劇用チケットを所持している人のみが入場できるようにするそうですよ。具体的には事前に舞ヶ原の関係者へ渡す分のチケットを準備して、残りのチケットは生徒会の皆さんが作った学園の特設サイトで抽選制にするそうです。先日ギルドの皆さんが指摘された危険人物の入場制限の件も生徒会長に報告したんですが、これに関してはきちんとイベント運営や生徒会の皆さんが中心に対応されるとのことでした」
白奈「あと、そのことに補足して……。ライブ中は出演パフォーマーの皆さんへの歓迎の手拍子なり軽い掛け声はいいけれど、過度な野次やステージ周辺に押しかけるような真似はご遠慮くださいという方針にするようです。まあ、例の件からの教訓ですね。今回の野外フェスの開催にあたってOB・OGの皆さんにも伺ったのですが、あの時は一部の治安の悪い観客が詰め寄ったり過度な野次が原因で暴動に発展してしまったようなので……」
迅「……ああ、もちろん。もしそちらの方が野外フェス観に来られるようなら、俺の名前であらかじめ希望人数分のチケットをその方々へ配布するのでご安心くださいね?」
タロー「わかった!ナカジやサユリちゃん、烈たちに舞ヶ原に行けるかどうか話してみるね!」
美園「私も用事がないようなら矢島や凛ちゃんや奏ちゃんを…。あれ?ごめんなさい。余計なお世話なのだけど、それで外部用のキャパは埋められる?」
なる「それはあたしも思ったんだけどよ!うちの生徒会長が言うには『野外フェスは初めての試みだから、コレくらいがちょうどいい』……んだとよ」
凪「あまり人数が多くても、混雑やトラブルの元になるから……。そう、前のイベントの時のように」
白奈「こういった事情があるので、正直、外部ゲストは100人程度集まればいい方だということのようです!仮に予想以上に観劇したいという人が殺到してしまったら、そこの対策は次回以降の課題にするみたいですね」
迅「一応抽選に外れたゲストのためにも、運営が作った特設サイトから生放送でライブ配信を行うようです。……ですので、皆さんのライブもそこで配信されますね?しかも全国放送で」
白奈「『パシフィカ』の名を全国区に轟かせるチャンスですよ!!」
美園「生放送か…。直接聴く訳ではないにしても、多くの人の耳にパフォーマンスが留まる、というわけね!」
タロー「おおーっ!何だかワクワク、ゾクゾクしてきたぁ…!めちゃくちゃやる気が出るなあ!よーし、やるぞーー!!」
なる「なんだなんだー、あたしも燃えてきたぜー!!」
舞ヶ原の野外グラウンド、及びそこに設営された特設ステージは集客する上で十分な広さがある。さらに舞ヶ原の生徒会の面々が依頼した特設工事により、スピーカーで少し離れた場所にも音楽が問題なく届くとのこと。特設ステージもイベントパフォーマンスを行う上で問題ない仕様になっていることが確認された。例の体育館ジャック騒動の件でWST側が懸念していた生徒の過剰な興奮、及び外部ゲストに対する対策や配慮もしっかり練り込まれており、運営の熱意と手際にタローと美園は感心するばかりだ。それだけ舞ヶ原のイベントに関わる生徒たちが本気だということだろう。
舞ヶ原の生徒たちと外部ゲストに自分たちの最高のパフォーマンスを見せるため、今から武者震いするサーファードラマー。そんな彼を観てにこにこしていた旋律紡ぎし少女だが、ふとあることを思い出し、イロドリミドリのチェロリストに向き直る。
美園「あ、そうだ。話は変わるけど……。白奈さん。先日の深夜番組で特集されていた『月鈴那智』さんのことだけど。……あの方、あなたのご親戚?」
白奈「!!」
白奈「……っ」
美園「白奈、さん?」
タロー「白奈ちゃん?あれ?どしたの?」
迅「月鈴?」
白奈「あ、ええと、その、ですね……」
音楽や学園についてハキハキと楽しそうに喋っていた先ほどとは異なり、急に歯切れが悪くなった白奈。そんな彼女の呟きに被せるかの如く、凪が口を開いた。
凪「……ねえ、迅くん。2人も。そろそろお開きにしない?もう遅いし、私たちも家に帰らなきゃ」
迅「あ?ああ、そうだな…。タローくん、美園さん、本日はわざわざ俺たちの学園までありがとうございました。駅前まで送りますよ」
美園「そ、そう?ならお言葉に甘えようかしら」
白奈「あっ…。改めて、野外フェスへのご参加、本当にありがとうございます!私たちも本番でお2人と仲間のお3方に負けないパフォーマンスを出来れば、と思います!」
なる「おう!そうだな!……タロー、美園!また野外フェスでな!他の奴らのことも、楽しみにしてるぜー!!」
タロー「うん!またねー!!」
凪「……しろちゃん、大丈夫?」
白奈「どうしよう。私、お2人にひどいこと、しちゃったかな」
なる「ん?まー、でも、仕方ねえよ。白奈。……今の『イロドリミドリ』のチェロリストとヴァイオリニストは、お前なんだぜ?もっと胸を張れよ」
白奈「…………」
その後、駅前で迅と別れ、タローと電車で帰還する旋律紡ぎし少女は……。
美園「……タローくん、気付いた?」
タロー「ふああ…。えっ?何が?」
美園「舞ヶ原の秘密。萩原七々瀬に関するかつてのこと、だけじゃないかも」
タロー「えっ……?」
……
- それは愛と純情のセンチエレトリックってことだろSAGA(準備 ( No.579 )
- 日時: 2025/05/25 15:22
- 名前: 夢見草(元ユリカ) (ID: JC82K/KY)
「幕間」
真理子「おっ、美園たちが帰ってきたね!お疲れー!」
美園「ただいま。あんたとサーニャちゃんもちょうど今帰ってきたのね」
タロー「たっだいまー!サーニャちゃん、真理子ちゃん!そっちはどんな感じだった?」
サーニャ「うん、私たちの方は中々いい感じよ。えっとね……」
現在時刻、18:45。クロスオーバーワールド内、ギルドにて。4人は無事に帰還した。それと同じ頃合いに。
カミュ「……なんだ貴様ら。揃っていたのか」
コリエンテ「こーんばんはー!……よかった、今日は間に合ったー!」
真斗「こんばんは。…お前たち、今日はそれぞれ舞ヶ原高校と奏坂学園へ向かう予定だったのだろう?どうだった?成果はあったか?」
本日はそれぞれ仕事があった伯爵アイドルのベーシストとスイマーギタリストと和風アイドルのキーボーディストがギルドに現れたのだ。3人とも依頼の件の進展が気になっているようで、到着次第、早速その話題を出してきた。
サーニャ「ふふ、3人ともお疲れ様!……こっちは割と順調よ。雷那ちゃん以外の奏坂の生徒さんの中に、協力してくれる人たちを見つけたの。もちろん現役オンゲキプレーヤーの子よ」
真理子「明日からその子たちがオンゲキの動き方やステップについてレッスンしてくれるんだって!ひと月後の野外フェスまでに何とか、形になるようにね!それにシュータードレス……オンゲキの専用の衣装の会社を紹介してくれるってさ!」
コリエンテ「マジで!?1日でそれって、超順調じゃん!?」
真斗「ふむ、専用の衣装か。そういえば今回の舞台ではこちらでも必要なものだな…。せんぱ…いえ、CHRIS。俺たちの方は社長に打診しましょうかね?TAROはCHRISと上背や体格が近いので衣装を用意することは問題ないと思いますが……」
カミュ「ふむ、俺たちと連の分はそれでいいが…。コリエンテと伊吹はどうする。あくまで此方は男性メインの芸能事務所だ。2人の分は用意できんぞ」
真理子「あー、それなら苗木くんか日向くんを通して舞園さやかちゃんに相談したら?舞園ちゃんはバックアップメンバーの中でもめっちゃ協力的な方だし、『依頼関係で必要』っていえば全然大丈夫っしょ」
真斗「!…そうか、なるほど。舞園か…。感謝する。日向伝で相談してみよう」
コリエンテ「んでんで、タローと園っちの方は、どうだったの?2人は舞ヶ原に行ったんでしょ?」
コリエンテの問いに頷き、旋律紡ぎし少女が答える。
美園「そうね、迅くんの案内で。……まず、萩原七々瀬さんは例の件のせいでかなりの人間不信になってしまっているみたい。あの様子だとまず協力は得られそうにないし、それ以上に彼女の心を動かすことはだいぶ難航しそうね。仮に本番でベストパフォーマンスができても、話を聞いてもらえるかどうか……」
タロー「俺、七々瀬さんに話しかけようとしたら怒られちゃった……」
真斗「何と。萩原の人間不信、か…。例の件の詳細から予想はしていたが、お前たちがそれほど言うとなると、本当に厳しそうだな…。」
コリエンテ「タローが話しかけようとしても全然聞いてくれないって、めっちゃヤバくない!?大丈夫かな〜……」
真理子「……ま、だからこそ、やり甲斐もあるってもんじゃない?だってアウェイほど強いのが『パシフィカ』でしょ!でしょ、でしょ!」
美園「……そう、よね」
カミュ「それは事実だが…。何故貴様がそこまで分かりきったような面をしているんだ…。気に食わん」
コリエンテ「どうどう。他には何かあったー?」
タロー「あとはね、迅のクラスメートの子にも会ったよ!なるちゃんと凪ちゃんと白奈ちゃん!特に白奈ちゃんは俺たちのことを結構知ってるみたいだった!」
美園「彼女たちはぜひあなたたち3人にも会いたいと言っていたわ。特に月鈴白奈さんは相当な音楽好きのようだし、まずあなたたちの本職の方も知っている、と捉えて間違いないわね」
カミュ「ほう?つまり、其奴は俺及び俺たちに魅入られた愚民ということか」
コリエンテ「え、マジ?やった!白奈って子、やるね〜!」
真斗「そのような生徒がいたのか。グループだけでなく、俺たち個人についても知っているとは…。何だか照れてしまうな…」
美園「彼女たちは舞ヶ原の3大グループ・『イロドリミドリ』のメンバーなんだけど…。私、その白奈さんについて、少し気になることがあって……」
サーニャ「?……ねえ、美園ちゃん。気になることって、何?」
首を傾げる元ナイトウィッチの問いに、美園は眉を顰めつつ話し始めた。
美園「たまたま名前を知っていたから出したんだけど…。彼女と同じ苗字の『月鈴那智』さんという人のことについて話題に出したら、白奈さんは急に歯切れが悪くなってしまったの」
真理子「えっ?何で?」
タロー「それは俺たちも分かんないよ〜……」
真斗「月鈴?……む、すまない。どこかで聞いたことが、あるような……?」
サーニャ「真斗くんも?実は私も…。どこでかは、忘れちゃったけど……」
美園「那智さんは深夜の音楽番組に出ていたから、それかもしれないね。……それで、突然なんだけど。コリエンテ、真斗くん、カミュさん。3人は『月鈴那智』についてちょっと調べてくれるかしら?」
カミュ「ん?……何故だ。例の如く、七海に調べさせればいい話だろう。あ奴はここの専属オペレーター、対象捜索の実力は申し分ない」
伯爵ベーシストのそのコメントに旋律紡ぎしギタリストはため息をついて被りを振った。
美園「もちろん千秋ちゃんにも頼む予定だけど、本人の評判についてより詳しく聞くなら、現場の音楽関係者と多く知り合いである貴方たちの方が適任だと思ったのよ。こういうケースの場合、当人の性格や評判も関係あると思って。今回は私やタローくんより貴方たちの方が情報を集めやすいでしょう?」
真斗「なるほど。それは確かに、な。……依頼関係ということで、このことはチームメンバーや月宮さんたちと共有してもいいだろうか?」
美園「うん、お願い」
コリエンテ「オッケー!1週間後にMIDICITYの水バンド組の集会があるから、あたしもそこでちょっくら聞いてくるね!」
カミュ「はあ、仕方あるまい……」
美園「カミュさん?ちゃんと、お願いね!」
カミュ「仕方ないと言っているだろう。何故俺にのみ念を押すんだ」
真理子「うーん。日頃の行い……ってやつじゃない?(笑)」
カミュ「…………骨の髄まで凍てつかせるぞ貴様」
サーニャ「ちょっと、真理子ちゃんってば!……あの、落ち着いて下さいね?」
こうして、彼らの夜は更けて行く……。
……
- それは愛と純情のセンチエレトリックってことだろSAGA(準備 ( No.580 )
- 日時: 2025/05/25 16:20
- 名前: 夢見草(元ユリカ) (ID: JC82K/KY)
野外フェス開催まで、あと2週間…。
コリエンテ「こーんにっちはー!」
キンタ「ああ、こんにちは。コリエンテちゃんはいつも元気だね」
リックス「コリエンテ、おっつかれー!リーたちも会いたかったよー♪」
ミックス「お姉ちゃん、落ち着けだし。相変わらずアンタもハイテンションだし。……あれ、他の3人はどうしたし?」
コリエンテ「ウエンディたち?今日はみーんな美味しすぎる水のバイトを入れちゃってたんだって!だからあたしが代表で来ました!どうよ?」(ドヤァ)
リックス「なるほどねー!でもウエンディたちにも会いたかったな」
コリエンテ「次は多分タートルくんたちが行くよ!……あれ?他の……アルカレのみんなとかは?」
キンタ「ああ。アルカレのみんなはオリオンくんのご自宅で彼のお爺さんの記念パーティがあるみたいで、そちらに出席するから、今日の集会への参加は辞退するとのことだよ。ミトミトンさんたちも、ちょうどボックスカーのツアー中だから集会には来れないと話されていた」
コリエンテ「なるほどなるほどー。じゃあ、今日はこの4人だけかな?……あ」
スイマーギタリストはこの日、MIDICITYのしぶバレー、BBR事務所近辺にいた。先日彼女自身が話していた通り、この日はしぶバレーの居酒屋で、水属性バンドキャラの集会兼それぞれのバンドの近況報告があるのだ。今回集会の場にいるのはコリエンテの他に、料理対決でも顔を見せたコリエンテの憧れの先輩アーティストであるガウガストライクスのギターボーカリスト。同じく料理対決で司会を務めたラペッジオートの双子ボーカリスト。そして。
コリエンテ「あっ、リカオくんじゃん!珍しい!今回は来れたんだねー!」
リカオ「ああ、コリエンテさん。お疲れさまっす。……先日はすみませんでした。うちの抱える案件の佳境で、合同イベントの参加を放棄してしまって」
コリエンテ「全然問題ないよ!むしろ、次はカオスな出来事がもっと起こる時に来てねwww」
リックス「そうそう!普通に賑やかなのとカオスなのは楽しいしねー!www」
リカオ「……いや、あの、すみません。遠慮しておくっす……」
キンタ「あー…。まあ、クロスオーバーワールドで起こることは大体カオスなことになるからね;」
ミックス「多少のおかしいことならMIDICITYでもよくあるから目はつむるけど、アレと同じくらいの破壊騒動なり異臭騒動は絶対にごめんだし;」
1人、今までのクロスオーバーワールドのイベントで全く姿を見かけていないミューモンがいた。彼の名前はリカオ。「Yokazenohorizon」というバンドのギターボーカリストであり、本物の弁護士だ。彼のバンドのメンバーは全員バンド業の他にそれぞれ本業を抱えている。そのためかなり多忙であり、MIDICITY全土が盛り上がる大型音楽イベントはまだしも、通常のイベントや集会に顔を出すことは珍しい。今回はたまたま抱えていた仕事が落ち着いていたため、会合に出席しているようだ。彼の存在を捉えたスイマーギタリストはポンと手を叩き、あの話題を出した。
コリエンテ「あっ、そうだ!リカオくんってさ、弁護士なんでしょ?人の情報って調べられる?」
リカオ「はい?人探しっすか?……ええ、まあ。一応はできますよ。それも含めて本職っすから」
キンタ「ん?コリエンテちゃん、リカオくんに調べて欲しい人がいるのかい?」
コリエンテ「うん!……んじゃ、今からちょっくら交渉しようよ!あんたに人探しを依頼しまーす!報酬はWSTから出す依頼金に、水属性の属性宝石にサファイアとアクアマリンとラピスラズリの宝石花!特に宝石花はMIDICITYだと珍しいから友だちや仲間やガールフレンドへのプレゼントにもいいし、もし売ったら結構いい値になるよ!どうよ?」
リカオ「え?ああ、まあ、構わないっすけど…。俺、WSTについてはあまり詳しくないんすけど、確かそういうのを調べる専門の人もいたはずじゃ?」
コリエンテ「それなんだけど、今探してる人はあたし達みたいな、そう!音楽関係者の意見を聞いた方がいいんだってさ。しかも今回の案件はWSTも関わる大きな急ぎの案件のやつなの!……んでさ、受けてくれるよね?」
リカオ「……はあ。承諾しました。雫の皆さんにはまあ、それ相応にお世話になってますから。急ぎならこの集会の間でできるだけ調べるんで。ただ、短時間なんで成果にはそこまで期待しないでくださいね」
コリエンテ「やったー!調べるのは『月鈴那智』っていう女の子でお願い!!なんかヴァイオリニストなんだって!あと、お礼にアンタの食べたいもの、全部あたしが頼んであげるよ!!」
リカオ「すみません。なら烏龍茶と煮物と枝豆サラダを。……んじゃ皆さん、俺はPCで色々やってますけど、気にしないでください。」
リックス「オッケー!じゃ、早速始めよっか!あたし、グレープフルーツサワーと唐揚げとお刺身でお願いしまーす!」
コリエンテ「あたしはとりあえずビールとたこわさでー!!」
キンタ「こ、コリエンテちゃん。リカオくんにリックスちゃんも、それを全部払うの、俺なんだけどな……?;」
ミックス「みんなめちゃくちゃ調子がいいし。いつものことだけど」
こうして、5人の集会が始まった。まず、キンタウルスが指定した居酒屋はやや古いが、接客と腕は確かだった。安価かつ良質なお酒やおつまみ、ご飯ものをかき込みながらの会話は非常に楽しく、全員が笑顔を浮かべる。飲酒を控えて調べ物をしているリカオですら、時々相槌を打ちながら気に入った話題には微かに笑顔を浮かべていた。
音楽好きなミューモンの彼らが話題に出すのはもちろん、MIDICITYやクロスオーバーワールド内で大活躍するトップグループ。1番は相変わらず著名プロデューサーでもあるユーリが率いるカリスマV系アイドルバンドグループ「Deuil」。他の多数の有力グループがそれに食らいつき、下剋上を狙っている……という構図はいまだに変化していないようだ。キンタウルスたち「ガウガストライクス」は彼らとは少し違った路線ではあるが、現状自分たちは彼らの後塵を拝してしまっている……と穏やかな彼にしては珍しく少し悔しさを滲ませながら語っていた。女性ユニットはまた毛色が異なる。こちらは絶対的強者が不在のより混沌とした戦国時代であり、「プラズマジカ」や「クリティクリスタ」、「徒然なる操り無限庵」、「BAD VIRGIN LOGIC」などといった著名グループが月末チャートでトップを奪い合っている。女性オンリーグループといえば、学生ながらもMZDによって認められてポップンワールドに招待され、ちくパ中毒者と熱心なファンを共に増やしながら躍進している「日向美ビタースイーツ♪」の動向も見逃せない。彼らの他にも、舞園さやかやニア、澪田唯吹といったソロでも目覚ましく活躍する期待のアーティストなどの話題でも盛り上がり、話題に出る人物はさまざまだった……。
そんな楽しい飲み会が3時間ほど続き、縁もたけなわ……となったところでPCに向かい合っていたリカオがコリエンテに話しかけてきた。
リカオ「あの、コリエンテさん。そろそろいいっすか?俺が調べられた範囲ですが、『月鈴那智』についてはおおよそ情報が出てきました」
コリエンテ「え?……ええっ、マジで!?」
リカオ「マジです。それであの、これからお伝えしても?」
コリエンテ「もっちろん!あっ、パソコンの写メ撮ってもいい!?ボイスレコーダーも!!」
リカオ「まあ、いいっすけど…。使うのはWSTのその案件のみにしてくださいね。俺の声と私物なんで」
協力者に許可を取り、スイマーギタリストはパソコンの画面へ携帯カメラを向ける。キンタウルスとリミックス姉妹も注目する中、コリエンテが準備できた様子を確認し、リカオは話し始めた。
リカオ「まず、『月鈴那智』は、舞ヶ原高校という音大付属高校の卒業生です。ここは高校としては珍しい……大学のような単位制の授業スタイルを取ってます。さらにバンド活動はもちろん、吹奏楽や声楽やシンセミュージック。マニアックなところだと各国の伝統音楽など、音楽のことなら自由に学べる少し変わった高風の学校っすね。現にここの在校生の一部が既に、ストリーミングでシンセサイザーのオリジナル楽曲を提供しています。このように活動的な生徒は本当に活動的で、彼らのような精力的な生徒は卒業後にプロとしても成果を出す確率が高いそうです」
コリエンテ「あー、その子たちは知ってる!『S.S.L』だね!前に迅がちょっと話してた!」
キンタ「つまり彼らは学生活動中に既にプロに近い活動をしているんだね。凄いな…。俺も学生時代にギターの練習はしていたけど、そこまでではなかったよ」
リックス「学生でも活動してるってのはウワサのしばりんたちやDOSのタツヤくんとかもそうだけど、実際に事務所にまで入ってるのは、それこそロージアちゃんたちクリクリ…MIDI女の生徒会の子たちくらいじゃなかった?」
リカオ「っすね。……んで、コリエンテさんの調べたがってる『月鈴那智』は1年前にこの学校を卒業してます。彼女は在学中には『イロドリミドリ』というガールズバンドのヴァイオリンパートを担当してました」
ミックス「え?バンドなのにヴァイオリン?あれ、結構珍しいし」
リックス「ねー!MIDICITYの著名グループでも……えっと、1個くらいしかないよ」
リカオ「それは俺も思ったんすけど、このバンド、楽器の他にも構成が結構変わってて…。かなり特徴的なんです。MIDICITYの著名バンドだと、構成メンバーが4人組とか5人組、少なくても3人組とかが多いでしょう?まず、ここは元は7人組なんです」
ミックス「うわあ。それは確かに多いし……。バンドグループじゃなくてアイドルグループかと思ったし」
リカオ「このバンドのリーダーであり、現3年生の『明坂芹那』という女子生徒がドラムパート。同じく現3年、『御形アリシアナ』と『天王洲なずな』がギターパート。現2年の『箱部なる』がベースパート。現2年の『小仏凪』がキーボードパートっすね。そこに前述のOG…元3年だった『月鈴那智』がヴァイオリニストとして加わり、7人組のバンドとして活動していました。軽音楽の側面が強いバンドミュージックにヴァイオリンなどの吹奏楽で使われるような弦楽器で本格的な音色が加わり、バンドミュージックとしては新感覚ながらオーケストラを聴きに行ったような特別な感覚が受けて、学内のイベントでは大の人気を博していたようです。」
キンタウルス「なるほどね。確かに軽音楽と吹奏楽の弦楽器の融合は珍しいな。他の競合グループとの個性も出るし、その音楽学校のイベントでは引っ張りだこだったんだろうね」
リックス「え?……あれ?ちょっと待って!7人って言ってたけど、今のだと1人足りないじゃん!」
ミックス「お姉ちゃんの言っていた通りだし。……まさか、仲間割れしたし?」
リカオ「違うっすよリックスさん、ミックスさん。確かにこのバンドは現在は6人組ですが、それは卒業とその後の海外留学で月鈴那智が脱退したからです。……俺はまだこのバンドに関係しているもう1人の名前を出してません。コリエンテさん、もう気付いてるんじゃないっすか?」
コリエンテ「…………そうだね。これはあたしでも分かるよ」
リカオ「…………そういや、那智さんの名前。少し変わってるっすよね。なぜなら……」
そこから続くリカオのコメントにコリエンテは確かに、と納得する。そして、リカオが敢えて言及しなかった人物が今回の依頼の根底の問題にあることを悟った。いつも賑やかなスイマーギタリストが突然静かになったことに何事かとキンタウルスやリミックス姉妹は驚いたが、コリエンテが彼らに「MIDICITYの著名バンド関係者たちへぜひ舞ヶ原の野外フェスの宣伝をしてくれ。生放送もあるようだから」とニッコリと説明したのち、今回の水バンド組の会合は幕を閉じた。
- それは愛と純情のセンチエレトリックってことだろSAGA(準備 ( No.581 )
- 日時: 2025/05/25 15:33
- 名前: 夢見草(元ユリカ) (ID: JC82K/KY)
……
音也&那月「『月鈴那智』?」
真斗「ああ。今回の依頼に関わる重要人物とのことだ。もし2人が彼女について何か知っていることがあるなら、ぜひ教えてくれ」
那月「えっと…。まず、翔ちゃんやトキヤくん、レンくんにセシルくんたちには聞きましたか?特にトキヤくんは物知りさんですから、何か知ってるかも」
音也「そうそう!あ、嶺ちゃんとか、蘭丸先輩とか、藍先輩も!」
真斗「ああ。俺もそう思って一応聞いたのだが、4人とも月鈴那智については知らないと言っていた。先輩方3人の方にはカミュ先輩がお聞きになられたのだが、彼らも知らない、とのことだった」
また別日。クロスオーバーギルドにはST☆RISHの中でも早乙女学園時代の元クラスメートの仲良し3人組の姿があった。この日はたまたま3人ともオフであり、それを思い出した和風アイドルが親友兼チームメイトの2人に情報収集を、と思い付いたのだった。
音也「つきすず……?うーん。マサ、ごめん!俺は知らないや!那月はどう?」
那月「……あの、真斗くんたちが探してるのって間違いなく『月鈴那智』さん、ですよね?」
真斗「ああ。その名前で間違いない」
那月「そうですよね!……確か僕、彼女のインタビュー記事の載っている雑誌を購入したから、知っていますよ〜!」
真斗「!?……それは本当か、四ノ宮!?」
那月「はいっ!那智さんは僕と同い年なのに、遠くの国で1人で頑張っているのはすごいなあって、それで覚えていたんです!真斗くんが今取り組んでいる依頼で必要なんでしょう?僕で知っている事でよかったら何でも教えますね!だから、僕のお部屋でお話しましょう?」
真斗「ああ!四ノ宮、心から感謝する!ありがとう!」
音也「おお、さっすが那月〜!あ、せっかくだし俺も付いてっていい?那月の部屋にある紅茶、美味しいからさ!」
那月「もちろんどうぞ〜♪せっかくだしお紅茶を飲みながら、久々に3人でお話ししましょう!」
音也「やったー!俺、買い置きのクッキー持っていくね!」
何と真斗の所属グループの仲間であり親友の1人でもある四ノ宮那月がたまたま那智の情報を所持していたのだ。嬉しい誤算に思わず大きな声をあげる真斗だったが、那月はいつものマイペースぶりを発揮しつつ、音也も連れたお茶会も兼ねようと、彼らをギルドの自室に案内した。
那月「えっと…。あっ、そうそう!これでした〜!真斗くん、どうぞ!」
可愛いもの好きな那月らしいさまざまな著名なキャラクターやマイナーキャラクターのぬいぐるみやセンスのいい家具や飾り物、綺麗なオーナメントに埋め尽くされた部屋の中。朗らかな天才は本棚から1冊の雑誌を取り出した。
その雑誌は1年前のものであり、中には「天才高校生ヴァイオリニスト!月鈴那智の秘密に迫る!」という記事があった。
音也「あっ、この雑誌が出たのは1年前だから、那智さん?は高校生なのか。……ほえ〜…。にしても天才ヴァイオリニスト、だって!すごいね……」
真斗「ああ。四ノ宮と同い年、ということは、俺たちともそこまで年齢が変わらないのだろう?にも関わらず、海外遠征で実績を上げているとは……」
那月「それより、那智さんが1番すごいのは海外遠征の不安や孤独に負けなかったことだと思います…。僕ならみんなと離れる不安のせいで、海外遠征なんて挑戦できないと思いますから」
単身で外国からも評価される那智に感嘆しつつも、彼らは雑誌を開き、那智についての情報を確認する。
那月「えっと、この記事からの引用になりますけど…。那智さんは近年の中学・高校クラシック界を牽引したすごーい演奏家さんだったようです。実際に3年前、彼女が高校1年生の頃にはヴァイオリンの全国大会で優勝されてますね」
真斗「ふむ。3年前、か」(確か、先の暴動の件で舞ヶ原の体育館ジャックが廃止された年だな……)
音也「へー!3年前っていうと…。俺たち、ギリギリ早乙女学園に通ってた頃だね!あー、懐かしいな。……学園の課題はめちゃくちゃ大変だったけど、あの下積の時間があったからこそ今があるからね!」
那月「そうですね!……あと、彼女は個人の活動だけでなく、『イロドリミドリ』っていうガールズインディーズバンドにも属していたようです。確か、メンバーの皆さんは舞ヶ原高校、だったかな…?そこの学生さんです。……この学校、この間、タローくんと美園ちゃんが行っていましたよね?つまり、依頼に関係する学校なんですよね?」
真斗「舞ヶ原…!ああ!そこで間違いない!」
那月「そこでも、那智さんは得意のヴァイオリンでバンドの演奏を支えていたようですよ。ただこの記事だともう卒業が近いからか、あと少しでそのバンドのヴァイオリニストは引退するって、書いてありますね……」
音也「あれ?OBだっけ?何だっけ…?その人はそれで活動する方法は選ばなかったのかな?」
真斗「一十木、今回の場合はOGだ」
那月「えーっとですね…。記事によると、那智さんはどうやら、自身のレベルアップのために以前から海外での活動を考えていたようです。中学、いや、小学校の頃からかな?それでも彼女にぜひうちの学校に来て欲しいって、舞ヶ原高校の附属の音楽大学や他の日本の音楽大学から推薦をうけていたようですけど、それらを全て断った上で渡欧する、と宣言していますね」
真斗「なるほど。それだと高校卒業後にOGとして『イロドリミドリ』の活動をすることはできないな」
那月「……それに加えて、那智さんは必要以上の束縛や干渉を嫌うタイプのようですね。彼女の演奏に目を留めていた海外の一部の人たちからもスカウトされているんですけど、自分が活動・所属する場所は自分で選びたいって、それらのスカウトは全て断ってますね」
音也「えっ、マジ?俺だったら素直にスカウトされちゃうかも」
那月「ええっと、それで、最後の質問は…。『残していく『イロドリミドリ』のメンバーと日本のファンに、何か伝えることはありますか?』でしたね。それで、那智さんの答えは……」
真斗「『問題ない。どうせ私がいなくなっても、あ奴らの取り組むべきことは変わらんじゃろう。それに、『イロドリミドリ』のヴァイオリニストのポジションは、私の他にも可能だ。事実、あ奴に託してきたからな』……ううん、那智さんは俺たちが思っていた以上に、中々に独創的な人物のようだな」
音也「え?『あ奴』?……マサ、今色々と調べてるんでしょ?その子のこと、分かる?」
真斗「……ああ。確証はないが…………」
……
- それは愛と純情のセンチエレトリックってことだろSAGA(準備 ( No.582 )
- 日時: 2025/06/02 08:05
- 名前: 夢見草(元ユリカ) (ID: LL/fGGq1)
一方、また別日。
カミュ「おい、今戻ったぞ」
龍也「おう、お疲れ。今回のロケはどうだった?」
カミュ「問題ない。誇り高き俺に出来ぬことはない」
林檎「あら〜♪さっすがカミュちゃん、いつでも自信満々ね♪」
カミュ「ふん。……ああ、あと貴様らに話がある。これはWSTの関係で必要な情報だ。何か知っているなら全て俺に話せ」
龍也「へぇ…。ってことは正式な依頼なのか?すっかり一人前のギルドメンバーになりやがって。ちょっと前まで特訓なり訓練漬けだったお前らにも依頼が回るようになったんだな……」
カミュ「そういうことだ。ほら、この写真を見ろ。……この女は『月鈴那智』というそうだ。貴様ら、此奴について何か知っていることはあるか?」
龍也「えっ?女の子?誰だ……?少なくとも俺は知らねえな。林檎、お前は知ってるか?」
林檎「……あれ?それって『あの』那智ちゃん?私、その子については知ってるわよ!前にテレビのインタビューを観て気になっていたから!」
カミュ「!!……本当か、月宮!?」
林檎「ええ。たまたまテレビで少し見たくらいでとっても詳しいというわけじゃないけど、うろ覚えで良かったら教えてあげるわよ?」
カミュ「ああ、それで構わん!教えろ!」
都内某所、シャイニング事務所にて。こちらではロケ帰りのカミュがダメ元で聞き込みを行なっていたが、見事ヒットした。真斗とカミュの事務所の先輩であり、早乙女学園の教官であり、事務所の幹部格である月宮林檎がたまたま那智についての情報を知っていた。どうやら彼は偶然美園と同じ深夜の音楽番組を観ており、その際の那智へのインタビューの記憶が強く印象に残っていたらしい。林檎は少し首をひねりながらも、自分の知っている範囲でクロスオーバーギルドの伯爵アイドルに情報を伝える。
林檎「確かあの子、元々は『イロドリミドリ』、だったかしら?……インディーズの高校生ガールズバンドバンドのメンバーじゃなかったかしら?中でもかなりの実力派の元高校生ヴァイオリニストだったって評判だったわ」
カミュ「『イロドリミドリ』…!確か、あの愚民どもの学校のバンドだな……!」
林檎「確か那智ちゃん、高校生部門のヴァイオリンの全国コンクールでも優勝経験があったんですって。それでええっと、彼女は通っていた学校を卒業したあとに渡欧してるんじゃなかったっけ?今は音楽の都・ウィーンの本場で活躍しているらしいわよ?確かその子、那月ちゃんやレンちゃんたちと同い年じゃなかった?まだとっても若いのに偉いわよね〜♪」
龍也「なるほどな。それだとカミュ、彼女はお前と少し似た境遇だな。お前もわざわざシルクパレスから来日してこっちに来てるだろ?ははは」
カミュ「ふん、今は俺のことは聞いていないだろう。……して月宮。他は?」
林檎「あとはそうね。先日のテレビニュースで那智ちゃん本人がお話していたけど。彼女の妹さんも、確かヴァイオリニストだったっけ?それとも…えっと、何だったかしら?とにかく一緒に音楽をやっているそうよ?妹さんの方の名前は、分からないけど。……やーん!もしかしてカミュちゃん、那智ちゃんのことが気になっているの?www」
カミュ「安心しろ、少なくともそれは絶対に有り得ん」
林檎「やだもう、そんなに怖い顔しないで!冗談よ!www」
龍也「おいカミュ、その真顔はやめろ;……にしても、彼女たちはきょうだい揃って音楽やってるのか。那智って子がそれほどなら、妹さんはプレッシャーを感じなかったのか?」
林檎「さあ……。流石に私も当人たちじゃないから詳しくは分からないけれどね?でも、昔から表彰されたり、海外からスカウトされている子が身内にいて、それでも続けているなら、妹さんの方もかなりのガッツの持ち主だと思うわ!林檎、そういうの大好きよ♪」
カミュ「…………」
そして事務所からの帰り道、伯爵アイドルはWSTの専属オペレーターへ通信を掛けた。
〜〜〜♪♪♪
七海「はい、七海です。……あれ。カミュさんからって、中々珍しいね。一体どうしたのかな?」
カミュ「……おい、七海。依頼関係だ。今から俺の言うものを探せるか?」
七海「……ものによるかな。確実に探せるとは言い切れないけれど」
カミュ「そうか。では、貴様に依頼する。『月鈴那智とその妹が同時に映っている』……そう、その証拠を見つけてくれ。写真でも動画でも文章の記事でも何でもいい。出来れば音楽関係のものが共に映っているといい」
七海「……中々、難しそうなお題が来たね」
カミュ「貴様は数多くの依頼を遂行してきた専属オペレーターなのだろう。故に、この程度のことは造作でもないのではないか。俺たちに貴様の実力を示せ」
七海「…………うん。分かった。見つけたら報告するね。流石に学校の時間は探すことが出来ないから、少し時間が掛かるけど、頑張るね。あと探している途中に寝ないようには頑張るね」
カミュ「相変わらずだな貴様は……」
この数日後。それぞれの学校生活や仕事の合間を縫い、「パシフィカ」のメンバーはギルド地下の簡易音楽スタジオに集合していた。この日はある程度セッションしたところで、練習に一区切り付け、「パシフィカ」プロトリオがそれぞれ調べていた月鈴那智の件について待機していた仲間たちへ報告し合うことに。
彼ら3人の聞き込みの回答に共通していたのは、那智は昨年舞ヶ原高校を卒業したばかりという若年ながら一流のプロヴァイオリニストであり、国内に留まらず既に海外の音楽評論家たちからも高い評価を受けていること。彼女は舞ヶ原に通っていた頃は「イロドリミドリ」のヴァイオリンパートを演奏する正式なバンドメンバーだったということ。そして彼女には同じように音楽をやっている妹がいるようだが、那智の知名度に反して妹についての詳しい情報はなかった、ということ……。
コリエンテ「にしても那智って子、あたしたちとそんなに歳も変わらないのに、海外で1人で活動してるんだって!偉いじゃん!!」
真斗「……そうだな」
コリエンテ「え?どうしたの、真斗?お腹痛いの?」
真斗「いや、そうではなく…。月鈴那智の妹さんについて考えていた。」
タロー「那智さんの妹さん?」
真斗「ああ。……ここだけの話だが。同チームに在籍し、かつ学生時代からの友人である俺ですら、四ノ宮の圧倒的な歌唱力や表現力、歌に乗せる迫力など……。そう、あいつの天賦の才にはごく稀に恐怖心を覚えるのだ」
美園「あっ……」
真斗「故に、その四ノ宮と似た人物が……、『ヴァイオリンの若き天才』と言われるほどの実力者を実姉に持つ、妹さんの重圧と心境は…。俺たちでは計り知れないものなのだろうな」
カミュ「…………」
那智は関係者の全てから「若き天才ヴァイオリニスト」として語られるほどの傑物だと言うことが軽く調べただけでも分かった。そしてそれは真斗の仲間の1人にも当てはまる特徴だった。那月が那智の過去のインタビュー記事に興味を持ち購入していたのも、自分と似た存在へのシンパシーかもしれない。……だが、彼を親しい友人かつ頼れる仲間と認識している真斗ですら、那月の圧倒的な歌唱力や音楽センスには思わず畏怖してしまうことがある。だからこそ、よりによって姉妹という非常に近しい存在にそのような「音楽の天才」を持つ「那智の妹」に対して、和風アイドルはそれなりに入れ込んでしまっているようだった。またそれを聞く伯爵アイドルもいつも以上に眉間に皺を寄せ、渋い表情を浮かべている。常に強気に振る舞うカミュだが、彼もなにか思うところがあったのだろうか……。
と、その時。
〜〜〜♪♪♪
七海「……よかった、音楽室にみんな揃っていたんだね。お疲れ様。七海千秋です」
美園「お疲れ様、千秋ちゃん。そっちはどう?」
七海「うん。少し苦労したけど、何とかね。……それで、報告、かな。先日カミュさんから頼まれていたものを発見したよ」
カミュ「!……来たか」
タロー「あれ?カミュさん、七海ちゃんに何か頼み事してたの?」
カミュ「少しな。……して七海。証拠品は」
七海「写真と動画がひとつずつあるよ。今からアップするね。……5人とも、きちんと確認してね」
同時に全員のWST用の通信端末に、WSTの専属オペレーターからファイル付きのメールが添付された。そのファイル内を確認し、証拠品の動画と写真に映っている人物を捉えた途端、5人全員が驚く。それと同時に、証拠はないが「パシフィカ」メンバーが「そうではないか」と思っていたものが明確に確信に変わる。中でも七海へ探し物を依頼していた伯爵アイドルは勢いよく立ち上がり、旋律紡ぎし少女へ宣言した。それに続き、残りのメンバーも次々と席から立ち上がる。
カミュ「……おい、伊吹!今すぐあの愚民に連絡しろ!野外フェス前に俺たちも1度舞ヶ原高校に向かうと伝え、奴に案内役をさせるのだ!」
コリエンテ「……そうだね?これを確かめておくことは、結構、いやかなーりアリだよね!」
真斗「音楽の力で全てを変えることは不可能だ。それは歌や音楽の力を使う俺たちが1番よく知っている。……だが、音楽の力でこそ解き放てるものもあると。そしてそれは今回の案件だと、俺は確信している……!」
美園「本当にいきなりね…!でも、これに関しては間違いなく、『彼女』に直接聞いた方が良いと思う!分かったわ、改めて5人で舞ヶ原に行くこと、迅くんに伝えます!!」
タロー「うん!もう1度みんなで舞ヶ原へ行こう!!」
……
- それは愛と純情のセンチエレトリックってことだろSAGA(準備 ( No.583 )
- 日時: 2025/05/25 15:42
- 名前: 夢見草(元ユリカ) (ID: JC82K/KY)
野外フェス開催まで、残り1週間。
某日、舞ヶ原高校の生徒たちはみんな、戸惑いとどよめきに包まれていた…。場にいる音楽を愛する活気ある生徒たちが、全員顔に困惑の色を浮かべ、冷や汗をかきながらいち方向を向いている。
舞ヶ原の生徒A「……なあ、あれって……」
舞ヶ原の生徒B「まさか……。いや、でも……?」
舞ヶ原の生徒C「え?あの人たち、ウチが母校って訳でもないよな……?」
舞ヶ原の生徒D「だよね……?それだったら、そっくりさんのタレントや芸人さん?」
舞ヶ原の生徒E「それにしては、ちょっと似過ぎてない……?」
舞ヶ原の生徒たち「…………;」
そんな彼らの困惑の原因は、もちろん。
コリエンテ「おおーっ!ここが舞ヶ原なんだね!歌を歌ったり楽器を演奏するための設備も揃ってるっぽいし、結構いい学校じゃん!」
タロー「うんうん!コリエンテちゃんもそう思うでしょ?俺も前来た時にいいとこだなって思ってたんだー!」
コリエンテ「そうだね!あとヴェニシリンの音楽学校より広いし大きいしwww」
真斗「おいおい、あそこもいい雰囲気だったがな?だが、舞ヶ原も生徒たちの活気がありとてもいい場所だな。……それにしても、俺たちは生徒たちから注目されているような気がするのだが……?何故だ?」
カミュ「フッ、愚問だぞ聖川。こ奴らはこの俺たちのマジェスティックパワーに圧倒されているのだろう。……おい愚民、疾くと待ち合わせの場所とやらへ案内しろ」
美園&迅「…………」
はい、言うまでもないとはおもいますが、WSTのスイマーギタリストと和風アイドルと伯爵アイドルのせいでした(笑)。
彼らは舞ヶ原へ来訪するにあたり、一応、必要以上に目立ち過ぎないように少し髪型を変えたりメガネなり帽子を装備したりとで軽い変装はしているのだが、彼らの内面から溢れるオーラが色々な意味でその努力虚しく細工を掻き消してしまっているようだった……。
カミュ「?……おい、どうした愚民。伊吹もだ。何か言いたいことがあるなら言ってみろ」
美園「……みんな、気付いてないの?」
真斗「む?おい伊吹、一体どういうことだ?何が……?」
美園「も う 色 々 と 濃 い の よ、あ ん た た ち」
タロー「え?濃い?……美園ちゃん、俺たち今は何も食べてないよ?」
美園「タローくん、そういうことじゃないから!!」
コリエンテ「なーんだwww園っちったら、そんなの今更じゃんwww他はともかく、キャラが濃くない奴なんてうちのWSTにいないよwww」
迅「いやぁ……。改めて驚かされました。別にキャラを作っている訳でもなく、これが完全に素ってwww皆さんって本当に凄いですねwww」
コリエンテ「えー?でもカミュは随分前はキャラ作ってるって、言ってたよねー?www」
カミュ「……アレは早乙女、ああ、所属事務所の社長の指示だ。そもそも今とその話題は関係なかろう」
迅「えっ、そうだったんですかwwwカミュさんの前のキャラも気になるんですがwww」
カミュ「骨髄まで凍らせるぞ愚民」
コリエンテ「ファーwwwww」
真斗「……すまない。何故だろうか。今回は緋桐からあまり褒められている気がしないのだが」
迅「すみませんwwwいやでも、皆さんのことを尊敬していることは本当ですってwww……じゃ、旧校舎に行きましょうか!そろそろ待ち合わせの人物も揃うはずですよ」
真斗「ああ、頼む!」
こうしてシンセサイザー同好会の部屋がある旧校舎へ向かう迅と「パシフィカ」の面々だったが、そんな彼らを密かに見ている者がいることには気付かない……。
七々瀬「…………?何でまた、彼らが?それより、『あの人』たちって本人?いや、まさか…………」
迅の案内で、彼の管轄内であるシンセサイザー研究会の部室へ。美園とタローは以前も訪れた場所であるので特に驚かないが、他の3人は思わず部屋を見渡す。
コリエンテ「ここ、何だか隠れ家って感じでワクワクするね!」
カミュ「……ほう。庶民の通う施設の割には、それなりに設備が整っているではないか」
迅「実は舞ヶ原は少し前に校舎内を改装したんですよ。お陰で旧校舎でもそこそこ綺麗になったんです」
真斗「なるほど。……そういえば以前に依頼の話を聞いてから少し気になっていたのだが。緋桐、お前の属する同好会には緋桐の他に部員はいるのか?」
迅「あー…。一応、在籍者はいますが。無類の音楽好きたちが集う舞ヶ原の中で、こんな寂れたところにいるのは…。以前までの俺と同じように『S.S.L』のレベルの高さと自分を比べて失望や挫折してしまった奴なり、シンセやDTM(デスクトップミュージック)やDJミュージックに飽きて退部した奴なり、名前だけは研究会に籍を置いている幽霊部員なりで。同好会で今、精力的に活動しているのは俺だけです」
真斗「何と…。これほど良い設備や環境が揃っているのに……」
迅「…….まあ、俺が立ち直れたのも、雷那と出会ってコンビを組んだりでクロスオーバーの力のお陰ですから。それに、こんな辺鄙な場所にもわざわざ立ち入るのは、部員の俺や社交的な先輩たちや生徒会の皆さん、他だと同級生の……『迅ー!』……おっ、来た。あとは同級生のあいつらくらいですね。いいぞ、入ってくれ!」
コリエンテ「どぞどぞー!あたしたちは大歓迎だよー!」
迅とコリエンテの呼びかけになる、凪、白奈が入室してきた。彼女たちはサーファードラマーと旋律紡ぎし少女との再会に笑顔を浮かべていたが、同時にいるプロの音楽家3人の姿を捉え、ぎょっと飛び退いた。
なる「よー!タロー、美園、久しぶり……って、おい!?お前ら、テレビでも見るアイドルの奴らじゃねえか!?おいおい、本物かよ……!?」
凪「それに、『雫シークレットマインド』の、コリエンテさん……!?」
白奈「はわわ…!!はわわわわ…!!」
コリエンテ「こーんにっちはー!みんな大好き!コリエンテちゃんでーす!あ、今は『パシフィカ』のCORIEでーすwww」
真斗「お前たちが箱部に、小仏に、月鈴だな?緋桐から話は聞いているぞ。初めまして。『パシフィカ』のMASAこと聖川だ。今回はどうぞよろしく頼む」
カミュ「ほう?貴様らが俺たちの輝きに魅入られし新たな愚民だな?……俺はQUARTET NIGHT及び『パシフィカ』の誇り高き伯爵、カミュ。ステージネームは…CHRISだ。愚民ならば俺のことを知らぬなどあり得んが、一応な」
白奈「ほ、本物のCORIEさんに、MASAさんに、CHRISさん…!!はっ、はっ、初めまして!!私、月鈴白奈です!!あの、皆さん!!良ければまず、サインを頂けますか!?」
コリエンテ「いいよーwww」
凪「……最近、迅くんがやたら意味深だなあと思っていたけど。この皆さんが揃ってバックにいたからなのね」
迅「おいおい小仏、やたら意味深ってどういう意味だよ?www」
なる「マジかよ…!?本物ならガチの大物じゃねーか!?……前に来られなかったから、タローと美園の仲間は補修中の留年生かと思ってたぜ……;」
カミュ「……おい、不敬だぞ貴様」
なる「ご、ごめんってー!まさか本人だとは思ってなかったんだよ!よく似た別人だと思ってんだよー!!」
美園「だから言ったじゃない、この人たちに関して変なことは考えない方がいいって;」
目をキラキラ輝かせて3人にサインを求める白奈。ただただ愕然としている凪。まさかある程度著名な人物がタローと美園の仲間だとは思わず特に驚愕するなる。三者三様の彼らと互いに軽く自己紹介をしたあと、本題に移る。
なる「……で?アンタらは今回なんでウチに来たんだよ?アンタらもステージに立つなら、その下見か?」
凪「皆さん、きっとそれぞれのお仕事で多忙なのに……?」
美園「会場の下見もあるけど……ね?」
タロー「3人とも、白奈ちゃんに聞きたいことがあるんだって!」
白奈「え?私に……!?」
コリエンテ「ほらほら真斗、カミュ!あれを!」
スイマーギタリストの呼びかけに、和風アイドルは持参していたカバンから1冊の雑誌を取り出した。それは先日那月の所持していた音楽雑誌。彼は雑誌のページをペラペラめくり、「月鈴那智」の特集記事を開く。記事の中の写真には、真紅のドレスに身を包み、スポットライトに照らされ、悠々とヴァイオリンを弾く那智の姿があった。
白奈「!!」
真斗「……月鈴。お前は彼女に見覚えがあるのではないか?」
白奈「え、えっと……」
カミュ「……単刀直入に言う。此奴は貴様の姉なのだろう?」
白奈「…………」
コリエンテ「……そういや、うちの知り合いの弁護士が言ってたんだけどさ?『月鈴』ってかなーり珍しい苗字なんだってね?」
白奈「…………」
カミュ「沈黙は肯定と受け取るぞ」
那智の記事を見て一瞬肩が跳ねる白奈。彼女はしばしの間黙り込んだが、「パシフィカ」の5人が真っ直ぐ自分を捉えており、その視線からは逃れられない。白奈は視線を右往左往とさせたのち、観念したように頷いた。
白奈「…………はい。この写真の、『月鈴那智』は、私の実姉……お姉ちゃんです」
コリエンテ「よかった、合ってたー!那智はあんたと髪色も違うし、ぱっと見じゃ気付かなかったよ!」
真斗「その、初対面でこんな話題を出すのは申し訳ないのだが。……お前はお姉さんと折り合いが良くないのか?」
白奈「え?」
美園「だって前に会った時、那智さんの話題を出した時に、あなた、あまり嬉しくなさそうにしていたじゃない…。だから少し気になっちゃって」
白奈「あ、そうでしたね…。あの時はごめんなさい。変な雰囲気にしてしまって。……先に言いますけど、私とお姉ちゃんとの仲は悪くないですよ。むしろ姉妹仲は良い方だと思います!それに舞ヶ原を卒業したあとも世界で活躍しているお姉ちゃんは私の憧れですし、とっても尊敬しています」
タロー「そ、そうなんだね?ケンカしたりはしてないんだね?それならとりあえず、よかった!」
カミュ「……だが、仮に姉との関係が悪くないのなら。貴様がわざわざ姉と担当楽器を変える必要はなかったのではないか?」
白奈「!!」
伯爵アイドルのその言葉にイロドリミドリのチェロリストの肩が再び大きく震えた。そんな彼女の様子を見つつ、カミュは己のスマホを操作してある映像を映し出す。そして横から真斗のスマホを受け取り、そこに表示されていたある動画も見せながら、静かに白奈に問いかける。
カミュ「……貴様は、元はチェロリストではなく、ヴァイオリニストだったのだろう。俺たちは見つけたぞ。『期待の幼きヴァイオリニスト姉妹・月鈴那智/月鈴白奈』という写真と動画が。あれは貴様と貴様の姉の幼少期に撮られた、ヴァイオリンの大会の写真と動画だな」
白奈「わ、私とお姉ちゃん の、小さい頃の写真と動画が…!?」
カミュ「そうだ。……姉単身や貴様ら『イロドリミドリ』の知名度に反し、見つけるのには、かなり苦労したがな」
カミュがこの場で見せたもの。それはかつて、幼き日の那智と白奈がヴァイオリンをそれぞれ手に持ち、笑顔で映る古い写真だった。これは専属オペレーターの七海千秋がインターネットの大海からやっとのことで見つけ出した希少な1枚だった。
そして同じく、七海が見つけ出した動画の中ではニコニコと笑顔の幼い那智と、彼女に教えられながらえっちらおっちらヴァイオリンを弾く幼い白奈、そんな幼少期の月鈴姉妹が映っていた。最後に幼い白奈が「わたし、おおきくなったらすてきなゔぁいおりんをひくひとになります!それで、いつかわたしも、おねえちゃんといっしょにおおきなぶたいでえんそうしたいです!」と、カメラに向かって宣言する場面で映像は終了した……。
なる「……だ、だったら何なんだよ?白奈が担当楽器を変えるのがそんなに悪いことなのかよ!?」
凪「そうです…!あなたたちに、しろちゃんの何が分かるっていうんですか……?」
コリエンテ「なる、凪!怒らないでよー!あたしたちの話を聞いてくれる?」
真斗「そうだ。怒らないでくれ、箱部。小仏も。…俺たちは月鈴を責めるつもりは毛頭ない。ただ、俺たちの推測が正しかった場合の『あること』が引っかかってしまってな……」
迅「はい?皆さんの、推測が……?」
凪「あなたたち、一体何を……」
白奈「…………」
カミュ「貴様はこの頃から、そして今もなお、『ヴァイオリンの天才』といわれる姉の幻影に囚われ続けているのではないのか?そして『天才ヴァイオリニスト・月鈴那智』がいたから、貴様はヴァイオリニストからチェロリストに転向したのではないか?」
なる&凪「今も!?」
迅「あ……!?」
白奈「…っ!!」
伯爵アイドルから出た白奈の現在の心境に対する決定的な言葉に、白奈はとうとう何も言い返せず俯く。これには彼女のバンドメンバーであり親友のなると凪、そしてクラスメートかつ友人の迅もこの推測はできていなかったようで、カミュの発したコメントに思わず目を見開いた。
- それは愛と純情のセンチエレトリックってことだろSAGA ( No.584 )
- 日時: 2025/05/25 15:46
- 名前: 夢見草(元ユリカ) (ID: JC82K/KY)
白奈「…………」
カミュ「…………やはり、な。貴様のような輩は、ステージ裏で本当に多く見る」
白奈「…………確かに、確かにお姉ちゃんは、月鈴那智は、天才ヴァイオリニストの名に相応しい、音楽の天才です。彼女の演奏技術は文句の付けようがない。何でも上手く弾けるのは言うまでもないし、お姉ちゃんの手にしたヴァイオリンは「弾かれている」のではなく、本当に歌っているみたい…。お姉ちゃんは演奏の技術だけじゃない、天才の演奏を『魅せる』才能まで持ってるんです。今の私じゃ逆立ちしたって、到底お姉ちゃんの領域には届かない……」
凪「しろちゃん……」
白奈「…でも、私だって、音楽でみんなを幸せにしたい思いも、音楽が大好きな気持ちも、お姉ちゃんと同じはずなのに。…ううん、同じどころじゃない!お姉ちゃんにも、なるちゃんにも凪ちゃんにも、明菜先輩たち『イロドリミドリ』の上級生の皆さんにも、あなたたちにも…!誰にも負けないはずなのに!!」
なる「白奈……」
白奈「私の音楽への情熱は、お姉ちゃんはもちろん、『イロドリミドリ』のみんなやライバルグループの皆さんも認めてくれています。……でも、部外者の周囲の人たちは演奏者の『音楽への情熱』なんて見ません。演奏の技術だけで全てを判断します。小学校の頃の、まだヴァイオリンをメインで弾いていた頃の私は……。私がヴァイオリンを持ってコンクールステージに上がるたびに、『あの天才ヴァイオリニスト・月鈴那智の妹』という肩書きでいつも見られてきました。彼女の妹なのだからきっと優秀だろう、という肩書きや色眼鏡で……。私の演奏のための工夫や私なりの努力なんて、誰も見てはくれませんでした」
迅「……」
白奈「……私が演奏した後の雰囲気はいつもお姉ちゃんと比べての失望や、『それなりには上手いけど、月鈴那智と比べたら……』といった空気に包まれていたんです。それ耐えきれなくなった私は大好きだったはずの音楽が楽しくなくなり、どんどん無気力になっていきました。そしてそのうちヴァイオリンのレッスンをお休みするようになったり、コンクールに出場しなくなりました。そして家族との話し合いの末に、中学の頃から、私は姉の専門だったヴァイオリンとは違うチェロを手に取るようになりました。担当楽器を変更したことで評価がリセットされたこともあり、周囲の私に対する肩書きを重視した視線や失望の視線はなくなり、とても楽になりました。それでもう1度、私はやっと、音楽への情熱を素直に向けられるようになったんです……」
美園「…………あなたは、那智さんを恨まなかったの?ヴァイオリン演奏であなたが輝けるかもしれなかった場所を奪っていった、お姉さんを……」
白奈「恨めるわけがないです。確かに複雑な気持ちはあります。もし、もしもお姉ちゃんが音楽をやっていなかったら、私が人から失望の目で見られることはなかったのかもしれない。…でもお姉ちゃんは私の憧れの音楽家の1人で、お姉ちゃんがいたからこそ私は音楽を好きになったんです。それに……。私の実力不足の問題は私の問題で、お姉ちゃんは、何も悪くないんだから」
なる&凪「…………」
「パシフィカ」のメンバーが推測していた通り。いや、彼女と姉・那智を取り巻く環境は想像以上に複雑なものだった。姉が音楽家として非常に優秀ゆえに「妹は姉と同等、いやそれ以上だろう」という周囲の音楽家や批評家たちからの心ないプレッシャーを常に掛けられ続けた過去の白奈は、大好きな音楽に取り組めば取り組むほど、彼女1人ではどうすることもできないノイローゼを発症していたのだ。姉妹仲は決して悪くないこと、何より姉・那智はこの件については何も悪くないことが、白奈をより苦しませた……。幸いにも演奏楽器の変更や、なる・凪らをはじめとする「イロドリミドリ」のメンバーとの出会いでヴァイオリン演奏に対する嫌な思いやノイローゼはある程度回復したようだが、当時のトラウマはまだ白奈の中で燻ってしまっていた。
過去の、いや、今もなお続く苦しみを打ち明ける自分を静かに自分を見つめている「パシフィカ」の5人に対して、白奈は自嘲気味に笑ってみせた。
白奈「……それにしても、よく気が付きましたね?私が演奏楽器を変更していた、なんて…。『イロドリミドリ』のみんなも、ライバルグループの皆さんも、それこそ元からお姉ちゃんを知る人以外は、私がお姉ちゃんの影響で楽器を変えたことはみんな知りませんでした。……それに、依頼があったと言っても、皆さんが私たちについて知ったのはつい最近のことでしょう?『イロドリミドリ』の活動を除けば、私はお姉ちゃんと比べたら知名度なんて全くないはずです。それなのに……」
コリエンテ「ふふーん。それはね、あたしたちが白奈のことについてたっくさん調べたからだよ!」
白奈「わ、私のことについて?」
美園「うん。白奈さん……。いえ、白奈。私たちはみんな、あなたのことが知りたくて、理解したくて、調べたの」
白奈「へ?」
凪「しろちゃんの……?」
なる「わっかんねえ…。どういうことだよ?」
真斗「……お前の悩み事や葛藤は、月鈴。何もお前だけに当て嵌まるものではない。音楽を愛し、音楽と共に生きようとしている全ての者に共通するものなんだ」
迅「!!」
白奈「全ての、者に……!?」
なる&凪「え……?」
白奈「あ、あの、それって一体どういうことですか…!?」
真斗「……俺たちは、俺とコリエンテとカミュ先輩は。芸事を生業にする道を選んだが、それでも楽しさや心地よさだけではない。こんなはずじゃない、思っていた通りに上手くいかないと苦しみ悩む日も多くあるんだ」
なる「えっ?そうなのか?だってアンタ、テレビや動画だとあんなに楽しそうに……」
真斗「お前たちからそう見えているなら何より。……希少な時間を使ってわざわざ俺たちと時間を共有し、視聴し、応援してくれるファンのために己の負の側面を見せないのは、プロとしての俺の矜持だ」
迅&なる&凪「!!」
真斗「俺は、俺は……きっと。グループの仲間たちのような、それぞれの得意分野のような、天性の音楽の才はないのだと思う。お姉さんに対するお前と同じように、友愛の感情を抱き信頼しているはずの仲間たちに少し羨望や嫉妬の感情を抱くこともある。思うように上手く歌えない日もある。歌詞やリズムに乗せた想いを表現しきれない日もある。当時は上手く行ったと思っていたことだが、後に決定的な反省点が見つかることもある。……だが、どんなに苦しくとも。時に休養を取り心機一転を図ることこそあれ、停滞ばかりはできない。好きで始めてその道を選んだことだから、いや、だからこそ弱音ばかりを吐いてはいられんのだ。……そして月鈴。ノイローゼを発症してしまった当時から、ここまでよく立ち直ったな。俺は月鈴を尊敬する」
白奈「……っ!」
迅「真斗さん……」
実際にプロのアーティストとして活動する和風アイドルの本音に白奈は真剣に聞き入っている。それは彼女と同じように音楽が大好きななる、凪、迅も同様だ。特に舞ヶ原という音楽学校に進学したにも関わらず、かつて有力シンセサイザーグループ「S.S.L」との実力差に打ちひしがれた結果として燻っていたという迅には、より彼の言葉が染み渡っているようだった。
- それは愛と純情のセンチエレトリックってことだろSAGA(準備 ( No.585 )
- 日時: 2025/05/25 15:50
- 名前: 夢見草(元ユリカ) (ID: JC82K/KY)
真斗の己に対する真摯なコメントに、秘密を暴かれた時とは別の感情か。瞳を潤ませ、何かを堪えながら肩を震わせている白奈に対し、再び伯爵アイドルが問いかけた。
カミュ「……おい。悩める愚民。貴様は、永遠にこのまま姉の幻影に囚われ続けたまま一生を終える気なのか?」
白奈「へ?」
カミュ「今のままだと貴様は、このままプロになった時に同じ悩みに衝突することになるだろう。例え担当楽器を変更したとしても、だ。プロになってしまったら最後、先ほどのような泣き言を表で言うことは許されん。同じ音楽の道を歩む以上、『月鈴那智』とステージで共演する日もくるだろう。彼女と実の姉妹という事実が発覚するならなおさらだ。……こうなれば絶対に姉との比較は避けられんぞ」
白奈&なる&凪&迅「…………」
カミュ「……仮に貴様が音楽を生業にする道を諦めて、アマチュアとして嗜む程度に止めれば、『天才の姉との比較』という呪縛からは完全に解放される。何も演奏家として生きることが全てではないぞ。比較される道から外れて平穏に生き、たまの趣味としてチェロやヴァイオリンを嗜む道もあるだろう」
白奈「!!……それは、それだけは嫌です……!!プロのアーティストのあなたにとってはこれはただの学生のワガママだって、呆れられると思います!!でも、音楽は、音楽だけは……!!他が大したことのない、何も取り柄のない!そんな私の1番の生き甲斐なんです!!それだけは奪われたくない!!例えお姉ちゃんにだって!!絶対に誰にも奪わせない!!」
伯爵アイドルのその言葉に思わず立ち上がり、叫ぶように訴えるイロドリミドリのチェロリスト。プロとアマチュアという違いはあれど、チェロを嗜む者同士の視線が一瞬バチっと交わされる。このカミュと白奈の衝突に周囲の者たちは誰も口出しできず、息を飲んで彼らのやりとりを見守るのみだ。
そのまま、お互いたっぷり黙り込み、5秒。
カミュ「…………また、自ら、地獄の道を進むというのか?過去に姉との比較で挫折した経験もあるのにか?」
白奈「ぐっ…!そ、それは、確かに、そうですけど……」
カミュ「『だけど』?」
白奈「……それでも!私は、音楽と一緒に、生きていきたいんです……!!」
その白奈の言葉を聞いたカミュはふうっとため息を吐き、再び彼女を静かに見据えた。
カミュ「…………貴様のような人間を見ていると、あいつの顔が浮かんでくる」
白奈「え?」
美園「……」
カミュ「こちらの話だ。…………分かった。貴様がその覚悟を持つのなら、持ち続けるのならば。俺たちが手を貸してやる」
なる「えっ?あ、アンタ、白奈のこと、反対するんじゃないのかよ…?」
凪「あなた…。この流れ、しろちゃんにプロの道を諦めろって、言うつもりだったんじゃ……?」
カミュ「馬鹿者どもめ、俺もそこまで根が腐ってはおらんぞ。……仮にこの女があの心意気のままで中途半端に音楽の道に進むつもりだったら、俺は阻止していた。だが、そうではないのだろう?」
白奈「……はい!」
カミュ「俺の前で誓ったその言葉、違えるなよ?……おい。コリエンテ、連、伊吹、聖川。今ので此奴の本音は『理解』できたな?」
真斗「……はい。しかと、理解できました!」
タロー「あっ…!う、うん!分かった!!」
美園「あー…。えっと、白奈。なるさんに凪さんも。ちょっと嫌な思いをさせちゃったのならごめんなさいね。この人は悪い人じゃないんだけど……。いつもこういう口調しかできないのよ」
凪「あ、え、えっと……」
コリエンテ「……へー。いきなり因縁付け始めたから、まさか白奈をいじめるつもりなのかってヒヤヒヤしてたけど…。なんだ、結構優しいじゃーんwww」
カミュ「骨の髄まで凍らせるぞ貴様」
コリエンテ「サーセンwww……ねえ!白奈!迅!なると凪も!野外フェスの本番のあたしたちのステージ!ちゃんと観ててよね!!」
タロー「俺たち、きっとすごいステージを作り上げてみせるからさ!舞ヶ原のみんなも、ゲストの人たちも、生放送で観ている人たちも、俺たちの仲間だって驚くようなやつをね!!」
美園「……白奈。きっと、あなたがお姉さんと長らく比較されて苦しんだ呪縛は、最後にはあなた自身で解くしかできないと思うわ。だから、野外フェスで私たちができるのは、あくまで『解放のための手助け』になる……」
真斗「恐らく野外フェスの本番は多くの舞ヶ原の生徒や外部からの観覧ゲストが会場となるグラウンドに集うだろうが……。もちろんステージに立つ以上、彼らの全てに届くようなパフォーマンスをする。だが、今回は。俺たちはまず、お前たちのために歌ってみせよう。俺たちの音色に乗せる想いが、お前たちの背を押せるように」
白奈「み、皆さんが、私たちの、ために……!?」
カミュ「貴様がプロの道を進むとすれば、それは荊の道だ。仮に演奏技術に問題がなかったとしても、姉の件以外の、あらゆる非難の的になる可能性もあるだろう」
迅「カミュさん?あの、それって……?」
カミュ「今はCHRISだ。…………俺は、仕事のためならば、平気で嘘も吐ける。ファンのため、という建前や名目で本来の己とは全く断る偽りのキャラクターをも演じられる。だから、かつて、実際に事務所の社長から命じられたキャラクターから脱却することを決意し、『本来の俺の姿』をアイドル業の表に出すようになってから……。俺は多くの批判を受けた。中には俺を『本当のことなど何もない、偽りだらけのアイドル』と揶揄し、誹謗中傷する声もあった。そしてそれは、ごく少数だが今もなお続いている」
コリエンテ&タロー&美園「!」
なる&凪「……!!」
迅「そんな……」
白奈「わ、私はCHRISさんが、カミュさんがそうだとは思いませんよ!だって、あなたは……!」
カミュ「だが。例え俺の生き様に真実がなかったとしても。人生に偽りを抱え続けようとも。俺は約束を違える男ではない。……月鈴白奈。緋桐迅。そしてそこの2人。野外フェスで俺たちのパフォーマンス、そしてそれによる飛翔をとくと見ているがいい。そこで貴様らの飛翔の糧が、そしてこれから歩むべき道が見えてくるだろう。『パシフィカ』の舞台はかならず成功し、貴様らは俺たちの輝きに平伏することになるだろうよ」
言葉の演出の仕方、包み方というそれぞれのカラーの違いはあれど、5人の白奈を想う言葉は真実だ。その事実にとうとうイロドリミドリのチェロリストは感極まってボロボロ大粒の涙を流し始めた。そんな彼女の手を白奈の隣に座っていたなるがぎゅっと握り、同じく黙って隣に座っていた凪がさする。それは今まで座っていた席から立ち上がり、白奈の側に行った旋律紡ぎし少女も同じだ。数分後に白奈の涙が収まったあと、彼女が「野外フェスの際はどうぞよろしくお願いします」と頭を下げ、「パシフィカ」メンバー5人総出での舞ヶ原への突然訪問兼顔合わせは終了した。
その後、シンセミュージック研究会の部室を後にする彼らの元へ、白奈の仲間であるなると凪が慌てて追いかけてきた。
なる「えっと、カミュさんだっけ!?……ごめん!あたしたち、さっきアンタが『白奈のお姉ちゃん』……那智さんと比べて才能がない』とかなんとかで、白奈を否定するんじゃないかって思ってた!でも、そうじゃなかった…。アンタ、結構いい奴だな!もし他のやつがウダウダ言ってても、あたしはアンタのことを応援するぜ!!」
カミュ「…………フッ。気付くのが遅いぞ、愚民」
凪「私も、なるちゃんと同じ。あなたたちを、『パシフィカ』の皆さんを誤解していました。ごめんなさい。……あの、しろちゃんは、とてもいい子なんです。優しくて、音楽が大好きで、とてもエネルギッシュで情熱的。しろちゃん製作の新曲のデモテープからは、いつも彼女が音楽を、そして『イロドリミドリ』の楽曲を愛していることが伝わってくる。私たちはしろちゃんのチェロもヴァイオリンも大好きなの。あの子は「イロドリミドリ」にとって欠かせない大切なメンバーなの」
美園「……うん、そうね」
凪「……だからこそ、これ以上自分を責めて、苦しむしろちゃんは見たくない。『お姉ちゃんさん』……那智さんとの違いに苦しむばかりのしろちゃんはもう見たくない。だから、もしあなたたちがさっき発言した通りの輝きを示せるというのなら。それでしろちゃんの道を灯してください。しろちゃんを助けて、導いてください」
カミュ「……ああ。あ奴らの道も貴様らの道も、俺たちが照らすと誓おう」
コリエンテ「大丈夫!あたしたちにまっかせなさい!!いつものあたしたちがパフォーマンスするのは自己表現で自己満足!でも、今回の『パシフィカ』はみんなにエールを送るために、歌って演奏するんだから!!」
片手を上げ、彼なりに白奈を想う友人たちの言葉に応えてみせる伯爵ベーシスト。その隣で飛び跳ねながら2人に可動域いっぱいに腕を振るスイマーギタリスト。彼らと同じようになると凪へ手を振る仲間3人…ドラマー、キーボーディスト、もうひとりのギタリストを連れて今度こそ、と立ち去る「パシフィカ」の面々。そんな彼らに対して、イロドリミドリのベーシストは大きく手を振り返し、イロドリミドリのキーボーディストは彼らの姿が見えなくなるまで深々と頭を下げていた……。
……
- それは愛と純情のセンチエレトリックってことだろSAGA ( No.586 )
- 日時: 2025/05/25 16:23
- 名前: 夢見草(元ユリカ) (ID: JC82K/KY)
野外フェスまで、あと5日。
野外フェスまでの準備期間は残りわずかとなった。この日は咲姫もあかりも柚子も葵もそれぞれの諸用でギルドへ来訪できないとのことであり、ゲーマー少女とナイトウィッチの「マリーニャ」2人は地下のダンスホールで個人練習に励んでいた。と、そこへ。
美園「真理子ー?サーニャちゃんー?迅くんたちが来たわよ!」
迅「真理子師匠、サーニャさん。こんにちは。皆さんへ芹那先輩のご実家のカレーパンとクロックムッシュの差し入れを持ってきました。……それで、せっかくですのでお2人の今日の練習を見学してもいいですか?」
コリエンテ「あとあたしたちも!せっかくだし、本番までに1回オンゲキステップを見学してもいい!?」
真理子「おけまる水産〜!!本番の振り付けはまだナイショだけど!あと差し入れはありがと!」
サーニャ「私はクロックムッシュの方をいただくわね!そうね…。今日やるのは主に基礎のステップの確認だけど、それでもよかったら!」
タロー「本当に?やったー!!」
カミュ「『おけまる水産』とは何だ、おけまる水産とは……。ハッ。あの阿呆め、まさか水中にでも潜る気か?」
真斗「おけ、桶……。む!?まさか田名部たちは本番のステージに水槽をセットする気なのか…!?もしやそれが本番の振り付けのひとつなのか!?」
コリエンテ「ファーwwwww」
雷那「あの、お2人とも…。真理子さんが言ってるのって、多分そういうことじゃないと思いますけど……;」
迅と雷那、そして真理子の幼馴染をはじめとする「パシフィカ」の5人がダンスホールに現れた。放課後の時間帯であるので旋律紡ぎし少女とサーファードラマーにゲスト2名は言うまでもないが、他の3人もこの日はたまたまオフだったらしい。真理子の適当な返答に謎の推測をするシャイニング事務所所属アイドル2人に雷那が呆れながらも、彼らはそれぞれパイプ椅子を取り出し、オンゲキ練習の見学の姿勢に入る。
彼らが全員着席したことを確認して、ゲーマー少女はオンゲキで使用される特殊なプロジェクトマッピング装置を作動させる。スイッチを入れた途端にダンスホールいっぱいにオンゲキで使用する「弾幕」が可視化され、浮かび上がった。カラフルでポップな弾幕が空間にたくさん打ち出されていくことを確認すると、ナイトウィッチがダンスホール内にセットしてあるスピーカーから音楽を流し始める。そして、その場に集う7人の目の前で「マリーニャ」による公開練習が始まった。
BGM:Flower(ASTRISM)
サーニャがセットしたのは「ASTRISM」の楽曲のひとつであり、それに合わせて少女2人は舞う。この楽曲はオンゲキのデモミュージックのひとつであり、BGMに合わせてプロジェクトマッピングから大量の弾幕が「マリーニャ」に襲い掛かる。だが、2人はそれぞれ咲姫やあかりたちから教わったサイドステップやバックステップを多用しながら華麗に弾幕を撃ち抜いていく…!
真理子「あーぁ、プル・ダウン教本!結果、シュート・ダスでNo-No!!弾幕Pan!気分上々!堕落少女のWIN!WIN!WIN!」
サーニャ「ピントOK!フリーガ・ハマー!YouからIへの布告宣戦?雨天晴天曇天雪天……全てGet Down!!Yo!!」
真理子&サーニャ「Foooo〜!!」
可愛らしい「ASTRISM」のBGMに反して、〆にオリジナルの激しめのリリックを軽やかに紡ぎながら全ての弾幕を貫いた少女2人。その姿はもはや、元はオンゲキど素人だったとは思えないほどだった。今回の彼女たちは華やかなシュータードレスではない、シンプルなTシャツにスパッツという練習着姿でのオンゲキステップ、オンゲキダンスだったが、それでも場にいた7人を魅了するには十分だった。
タロー「うわぁ……!!すごい!!すごい!!すっごーい!!」
コリエンテ「すっごーい!イカちゃんじゃないけど、コレはバチバチにイカしてんじゃん!!」
真斗「そうだな!あのこなれた様子、どちらもひと月での習得速度とは思えない…!!」
美園「真理子はまだしも、サーニャちゃんは確かに元は少女軍人だったとは聞いていたけど…!これには旧知の仲の芳佳ちゃんたちも、ガンナー組のみんなも目を丸くするでしょうね……!」
カミュ「……まあ、即席の習得の割には悪くはないのではないか?リトヴャクはともかく、田名部の阿呆はいつもこの通りに真面目であればよいものを」
迅「いやあ、『パシフィカ』の皆さんもですが、真理子師匠とサーニャさんにも非常に驚かされました!これは利用できそ……いえ!そちら方にも私たちにも、双方ともに利益がありそうです。俺たち『THE NAMELESS』のステージにもぜひ登板していただきたいですね!な、雷那?」
雷那「……っ!」
隣にいるパートナーの少年や、夢見草サイドの者たちと同じく、ツインカラー・ツインテールの少女は確かに練習段階の「マリーニャ」のオンゲキパフォーマンスに魅了された。そして、「魅了されてしまったことがどうしようもなく悔しかった」。
迅「……雷那?」
雷那「……ね、ねえ!2人とも!せっかく迅や皆さんも見ているんだもの。今からあたしと、練習試合、やらない……?」
夢見草サイドのキャラ全員「練習試合?」
雷那「あたし、今日は自分のシュータードレスを持って来ているんです。2人が今まで教わってきたのって、あくまでステップや動き方だけだったでしょう?だから、シュータードレスを着た相手との実践形式の練習も悪くないんじゃないかなって」
サーニャ「…………」
真理子「……うーん、まあ、悪くはないんじゃない?やろっか。練習試合」
……
- それは愛と純情のセンチエレトリックってことだろSAGA(準備 ( No.587 )
- 日時: 2025/05/25 15:57
- 名前: 夢見草(元ユリカ) (ID: JC82K/KY)
コリエンテ「ふーん?……あ。今更だけど、あたしめちゃくちゃ気になってた。そういやオンゲキバトルってどうやって勝ち負けを決めてるの?」
雷那「そうですね…。基本はポイントゲージを元にしたHP制で、相手により大きなダメージを与えてゲージを削れるか。そしてオンゲキ自体が音楽ゲームを元にした競技なので、どれだけリズムに乗りながら自分のところに来た弾幕を正確に打ち抜けるかの判定で決まります。一応、競技設立当初のハンデのようなものとして、人数が多いグループ……『ASTRISM』や『R.B.P』などのトリオグループにはより多くの弾幕が打ち出されるんですが、トップ層のユニットにとってはそれはもうハンデですらないですね。トップ層のユニットだと流れるような大量の弾幕を撃てるのは当たり前ですし、実際、連携して弾幕を撃ち抜いた分のボーナスポイントもあるので」
美園「つまり、音ゲーでよくあるよくある『コンボボーナス』ってことね。この間サーニャちゃんが『公式試合で1vs3で1側が勝利するのは極めて難しい』といったのはこのためかしら。……ね?」
サーニャ「あ……うん、そうなの!それに、単純にチームの人数が多い方が出来ることが増えるわ。コンビネーションアクションとか。例えば弾幕を……かの名大名だった、織田信長さんがやったような『三段撃ち』でリズムに合わせて弾幕を撃ち抜くパフォーマンスを見せたグループもいて!確かそれが、一昨年のシューターフェスでの『R.B.P』の見せた最高評価のパフォーマンスだったわね」
真理子「うんうん。確かあのパフォーマンスが決め手になって、一昨年のシューターフェスの優勝は茜ちゃんたち『R.B.P』になったんだよね〜!」
真斗「なるほど。要約すると正確に己のチームのところにきた弾幕を全て撃てるか、そしてそれによりどれだけ相手にプレッシャーとダメージを与えられるか……という点が勝負を決める焦点になるのか。そして演出の仕様上、どうしても人数の多いトリオユニットの方が有利だと……」
なにせ夢見草の世界のキャラクターでオンゲキバトルについてある程度以上知っているのがゲーマー少女と元ナイトウィッチのみであり、他の5人は練習試合の前に説明を求める。そのため、ツインカラー・ツインテールのオンゲキプレイヤーは細かにオンゲキバトルの詳細を説明することに。ここでも雷那のようなソロプレイヤーは演出上取れる手段が少なく、公式試合では不利になってしまうことがわかった。
カミュ「…….おい、女の愚民。そういや依頼時に貴様は『希望のオンゲキ』だの、『負のオンゲキ』だの言っていたな?それに奏坂学園に致命的な被害を出した皇城セツナなる不敬な女は『負のオンゲキ』使いだとも。この違いは何だ?貴様は部外者の俺たちにも分かりやすいように説明する義務がある。話せ」
雷那「あ、そうでしたね。これは確かに分かりづらかったわ。ごめんなさい。……オンゲキは確かに音楽ゲームの技術やセンスが色濃い競技なんですが、このオンゲキに使う武器……モデルガンなどを扱うためには心のエネルギーが必要なんです。なぜかというと、奏坂のOGの方が開発したオンゲキ用の武器がそういう仕様になっていて…。『希望のオンゲキ』に使われる『希望のエネルギー』は嬉しい、楽しい、安らぎ、気持ちいい、ときめいている……そんなプラスで前向きな気持ちです。これを武器に乗せて、弾幕に向かって放つんです」
コリエンテ「へー、そうなんだ!いい感じだね!」
雷那「それで、基本的には前述したようなプラスの感情を活かした『希望のオンゲキ』が奏坂のスタンダードでした。……ですが、皇城セツナの使ってきた戦法は今まであたしたちの使っていたものとはまるで異なるものでした。それが彼女の使用する『自分に逆らうもの全てを屠る負のオンゲキ』です」
タロー「え?えーと……、それってどういうこと?」
雷那「えっとね…。彼女は怒りや悲しみ、さらに己に向けられる恐怖や妬みの感情……あらゆる負の感情を利用して、それをオンゲキバトルに活用してきたの。実際に皇城セツナの利用してきた負の感情……特に周囲が皇城セツナに対して向ける恐怖や怒り、不満の感情は非常に強いパワーを持ったもので、『R.B.P』をはじめとする有力オンゲキグループの皆さんも敵わなかったわ……」
カミュ「……ふむ。つまり、このオンゲキバトルにおいて歓喜や安堵の感情などよりも、憤怒や哀愁などの感情の方が攻撃力が高いということになるのか?しかしこの理屈だと、今まで次期理事候補と言われてきた珠洲島有栖ら、及び他の生徒会の愚民どもなどの、トップ層のオンゲキプレイヤーたちの掲げてきたものが無駄になりかねないが……?」
雷那「……で、でも!負の感情はパワーが強い分、プレイヤー側のコントロールが効かなくて扱うのはとても難しいと言われているの!実際に昔、相手選手に負の感情を利用したオンゲキのせいで過剰なケガを負わせてしまって問題に発展した例もあるわ!その危険性から、今まで奏坂のみんなは安全な希望のオンゲキをメインにしようね、ということになっていたんだけど……」
コリエンテ「はえ〜…。そんな事情もあって、皇城セツナは『今までの奏坂学園の全てを壊しにきた』ってことかぁ〜……;」
タロー「もしセツナって人が奏坂のリーダーになっちゃったら、奏坂の雰囲気だけじゃなくて、みんなのやってきたオンゲキが今までとは全く違うものになっちゃうかもしれないんだね……」
ここで伯爵アイドルの提示した疑問から、改めて「希望のオンゲキ」とオンゲキの違いについても説明された。
希望のオンゲキはプラスの感情を活かした、出力も安定している危険性の少ない華やかなエネルギー。現在の奏坂学園のオンゲキパフォーマンスの主流派だ。一方で負のオンゲキはマイナスの感情を利用しており、コントロールが難しく暴走の危険があるものの、出力そのものは希望のエネルギーよりもより高いということだった。そして皇城セツナは「己に向けられる負の感情」をも利用して、有栖ら有力プレイヤーたちを次々に屠っていったのだという。
雷那「……と。皆さん。これでオンゲキの公式試合のルールについて、ある程度は分かりましたか?」
美園「ええ、分かったわ」
雷那「迅、アンタ、少しオンゲキのルールは分かるでしょ。簡単でいいから審判役をお願い。あたしは着替えてくるから」
迅「お、おう……。人遣いが荒いことで」
10分後、己のシュータードレスに着替えた雷那が登場した。彼女のシュータードレスはサバゲーをプレイしていた過去からか、迷彩柄の軍服をモチーフにしたものであり、少女らしい華やかさや可愛らしさというよりかは、クールな印象が引き立つものだった。オンゲキでも使用可能なライトボウガンを持ち、練習着姿の「マリーニャ」と対峙する雷那。こうして、彼女たちの「練習試合」が始まったのだが……。
BGM:破滅の純情(「マクロス△」より)
雷那「……ッ!」
サーニャ「……!!」
真理子「!?」
パシフィカの5人「はあっ!?」
迅「ら、雷那……!?」
夕立雷那が繰り出したのは、先ほど自分が語っていた「コントロールは難しいが出力は非常に高い」、「負のエネルギーによる弾幕」だったのだ!?
- それは愛と純情のセンチエレトリックってことだろSAGA ( No.588 )
- 日時: 2025/05/25 16:25
- 名前: 夢見草(元ユリカ) (ID: JC82K/KY)
雷那「……ッ!!」
激しいBGMに乗せリズム良く、高出力の負のエネルギーをゲーマー少女と元ナイトウィッチにひたすら撃ち込むツインカラー・ツインテールの少女。目の前の相手の態度が急変したことによる動揺もあるからか、「マリーニャ」コンビは彼女の織りなす弾幕を避けられずに数発食らってしまう!
サーニャ「……っ!」
真理子「うぐっ!?」
タロー「あばばばばば……」
真斗「おい、緋桐…!一体これは、どういうことだ…!?」
迅「し、知りません!俺は何も知りません!!…雷那、一体、どうして……!?」
美園「迅くん!今すぐ練習試合を中止させなさい!!これじゃもう練習どころじゃないわよ!!」
迅「はい、はい!!……落ち着け、雷那!!今すぐ止まれ!!」
雷那「……、これで……ッ!!」
パートナーの声は彼女に届かず。ツインカラー・ツインテールの少女は弾幕を食らって体勢を崩した真理子とサーニャに向かって、より強い攻撃を放とうとする。たとえ熟練の音楽ゲームプレイヤーでも、いきなり目の前に出されたらタイミングよく反応するのが難しい、長いトリル(音ゲーの長押しのところ)と多量の弾幕を放とうとしたツインカラー・ツインテールの少女だったが……。
コリエンテ「『ユニコーンブルー!!』」
カミュ「『Melting of Snow』!!」
外野の攻撃が彼女を阻んだ。スイマーギタリストが愛用しているギターの第2形態であるシャワー型の武器『シークレットドロップ』で彼女へ水を放ち、ツインカラー・ツインテールの少女の周囲は水浸しに。そしてその水が顔面に当たったことで雷那は一瞬怯む。間髪入れずに伯爵アイドルがレイピア型武器「コンジェラシオン」でコリエンテの放った水に反応する氷属性の攻撃を放ち、雷那の足場はあっという間に凍り付いた。急に足元が氷の足場となったことで雷那はバランスが取れなくなり、そのまま彼女は大きく体勢を崩して転ぶ。その結果として雷那が放ったトリルと多量の弾幕は「マリーニャ」へ直撃する前にかき消えた。
雷那の動きと攻撃が完全に止まったことを確認して、和風アイドルと旋律紡ぎし少女はゲーマー少女と元ナイトウィッチの元へ慌てて駆け寄る。サーファードラマーはアワアワと狼狽ながらも、先ほどからいきなり豹変した少女を見つめている。そして雷那の課外活動のパートナーである見習いDJの少年はパートナーが突然起こした出来事に焦りと困惑を隠せないながらも、座り込む雷那の元へ静かに歩みを進めた。
タロー「ね、ねえ、雷那ちゃん。何でさっき、あんな攻撃をしたの……?」
美園「あんた…。今、一体何をしたか分かっているの!?」
真斗「もし当たりどころが悪ければ、リトヴャクと田名部は大怪我を負うところだったんだぞ……!?」
雷那「……」
コリエンテ「……あのさ。ホントにコレ、一体どういうこと?」
カミュ「……貴様、この行いは完全にレッドカードだ。愚かにも程がある。もはや愚民未満の振る舞いだぞ」
迅「……なあ、雷那。教えてくれよ。何で、こんなことをしたんだよ……?」
雷那「…………」
雷那「…………どうして、」
真理子「え?」
雷那「どうして…!あなたたち2人は、あっという間に、あたしの手に入れられなかったものを手に入れられたの……!?」
サーニャ以外の夢見草サイドのキャラ「……?」
迅「は……?」
サーニャ「!」
震えながらツインカラー・ツインテールの少女が絞り出した言葉はそれだった。思わぬ言葉に迅を含む場にいたほぼ全員が呆気に取られるが、元ナイトウィッチだけは彼女の言いたかったことを何となく予測していたようで、彼女に目線を合わせ、雷那の問いかけを促した。
サーニャ「……雷那ちゃんの、欲しかったものって、何?」
雷那「2人は、あたしの欲しかったものを、全部持ってるのよ……!」
真理子「全部?」
雷那「……あなたたち2人は、パートナー同士のコンビネーションも、体力も、身体能力も、音楽センスも。オンゲキに必要な才能を全て持ち合わせている逸材よ」
タロー「いつざい……?」
雷那「……あなたたちは、本当に恵まれているのよ。例えオンゲキ推進校と言われていても、奏坂はオンゲキに対して興味のない生徒も多い。1年の頃のあたしは一緒にオンゲキをやるパートナーや仲間を探したけど、オンゲキをやりたいという人には誰にも巡り会えなかったわ」
サーニャ「そうだったんだ……」
雷那「それに、例えオンゲキに興味を持っていて、運良く仲間を見つけられたとしても、オンゲキは才能……プレイヤーセンスもある程度は求められる競技。体力と運動神経。弾幕を撃ち抜くための動体視力やリズム感、音楽センスとかね。たとえ奏坂の有名オンゲキプレイヤーに憧れて入学しても、上手に体力作りができなかったり、リズムに合わせて弾幕に反応できずに上手く動けなくてオンゲキを辞めていく新入生も多くいるわ。もちろん、最初はウマが合っていたけどそれらの焦りが原因で解散したりケンカ別れしてしまうユニットもある……」
サーニャ「そうなのね。カラフルな弾幕とBGMとダンスで華やかに見えても、実際は体力勝負で厳しい世界でもある……」
雷那「……それらの関門を乗り越えてきたとしても。先輩であるオンゲキのトッププレイヤーたちが高く厚い壁となって立ち塞がるわ。特に近年は『オンゲキ黄金期』と言われるくらいに有力グループや選手たちが多く集まっていた世代。『ASTRISM』や「R.B.P」をはじめ、ヒメ先輩たちの『7DAYS HOLYDAYS』や『⊿TRiEDGE(トライエッジ)』や『Bitter Fraver』。中等部の子たちの有力グループ『マーチングポケッツ』。決勝グループの常連は大体彼女たち。新人オンゲキプレイヤーやオンゲキユニットが大会で結果を残すどころか、1回戦の突破すら非常に厳しいオンゲキ大戦争時代よ……」
サーニャ「うん…。あなた、確かに言っていたわね。……その有力グループの中でも、よりによって最上位のトップ層のユニット。さらに多くのファンの人々から支持を得ているアイドル的存在・プリメラである『ASTRISM』と今年のシューターフェスの1回戦で当たってしまったって」
雷那「……もし、もしも。あたしにあかりにとっての柚子や葵。有栖さんにとっての茜先輩や楓先輩。ヒメ先輩にとっての小星先輩。……そして、あなたにとっての真理子さん。もし、そんな人たちが、その人たちのような『オンゲキを一緒にやる同志』があたしの元にいれば!あたしはもしかしたら、今年のシューターフェスで初戦負けしなかったかもしれない……!それか、皇城セツナのような独りでも戦えるような絶対的な力があったのなら……!!」
ここで、今までずっと俯いていた雷那が顔を上げた。彼女の瞳には大量の涙が溜まっており、精神的に追い詰められているであろうことが窺えた。
迅「で、でも雷那!お前、シューターフェスのそれは!負けたことは、もう吹っ切れたって、前に言ってただろ…!?それで今後はオンゲキをやめて、俺との音楽活動をメインでやるって……!」
雷那「……アンタ、策士ぶってるくせに意外と単純なのね。数ヶ月やそこいらでそう簡単に振り切れるわけ、ないじゃない……」
迅「……っ!」
真斗「…………夕立。もしやお前が羨んでいたのは、そして焦っているのは、リトヴャクと田名部の絆とコンビネーション。そして彼女たちの音楽センスをはじめとしたオンゲキに必要な素質だけではないな?」
雷那「……」
先ほどまでの怒りを隠しきれていなかった反応から一転、和風アイドルから静かに問いかけられた言葉に、ツインカラー・ツインテールの少女は反応する。
雷那「……あたしは、オンゲキで、あたしならではの存在証明がしたかったの」
コリエンテ「『存在証明』?」
雷那「あかりたちでも、有栖さんでも、ヒメ先輩でも、他の有力グループの人たちでも。ましてや、皇城セツナでもない。彼女たちでは絶対にできない、『あたし=夕立雷那』にしかできないことを。コレしかないって定めた、あたしの特技やセンスを活かせる、大好きなオンゲキでやりたかった……」
美園「…………」
雷那「……でも、現実はこのザマよ。あたしと一緒にオンゲキをやってくれる同志は誰も現れない。たとえ1人で頑張ったって、あかりたちみたいに才能もチームワークもある有力グループには絶対に敵わない。そもそも個人の実力だって、皇城セツナみたいな圧倒的な実力者には及ばなかった。……茜先輩たちだって今頃、あたしみたいなひとりでずっとパッとしないやつより、元から才気あるサーニャさんたちみたいな子たちに注目した方がって、思ってるはずよ……!!」
カミュ「……おい。そこの愚民……緋桐迅は貴様の言う『同志』とは違うというのか?それに貴様の存在証明は、あくまでオンゲキ競技でないといけないのか?」
雷那「もちろん、迅は、あたしにとって大切な存在です。魑魅魍魎の課外活動を共に戦う、大事なパートナー。……でも、迅とは一緒にオンゲキのフィールドには、立てないじゃないですか!迅はオンゲキプレイヤーじゃない!真理子さんにとってのサーニャさんでも、サーニャさんにとっての真理子さんでもないじゃないですか!!それなら、オンゲキのステージであたしが独りぼっちのままなのは変わらない!!あたしと一緒に一緒に音楽に乗ってくれる人はいない!!あたしの撃つ弾幕に合わせてくれる人は誰もいない!!小さな練習試合でも、シューターフェスのような大きな大会でも、喜びや悲しみを分け合うことはできない……!!」
夢見草のキャラクター「…………」
雷那「真理子さんやサーニャさんは、それに『パシフィカ』の皆さんも。例えオンゲキやバンド活動でなくても、どこでも素晴らしい『存在証明』ができると思う…。あなたたちならではの輝きで。……でも、あたしはどんな風に足掻いたってそんな風には、絶対になれやしないんだ……。ずっと独りぼっちの、オンゲキプレイヤー未満の何かのままで、消えていくんだ…………」
ツインカラー・ツインテールの少女は最後はもはや会話というより、己に対して刻むかのように言葉を吐き、顔を覆いながら地下フロアのダンスホールを、クロスオーバーギルドを飛び出していってしまった……。それはまるで、彼女自身が「夕立雷那」に呪いを掛けるかのようだった……。
迅「……師匠、サーニャさん、皆さん。ご迷惑をお掛けして本当にごめんなさい。これはパートナーの精神状態を把握しきれなかった俺の失態です……」
真理子「……とりあえず、今はいいから。当日までにちゃんとさせな」
カミュ「余計な御託はいい。さっさとあ奴を追いかけんか、愚民」
タロー「雷那ちゃん、全然前を見ないで出ていったでしょ?あのまま事故に遭っちゃうよ!」
迅「そ、そうですね…!すみません、土産はここに置いておきます!皆さん、本日は本当に申し訳ありませんでした!!」
DJ見習いの少年は一堂に向かって深く一礼したのち、土産物のカレーパンとクロックムッシュの入った袋をテーブルに置き、代わりに雷那が置き忘れた荷物を掴み、慌ててパートナーを追い掛けていった……。ゲストキャラクターたちが立ち去ったことで、ダンスホールは先ほどまでとは違う、不気味なまでの静寂に包まれる。
- それは愛と純情のセンチエレトリックってことだろSAGA(準備 ( No.589 )
- 日時: 2025/05/25 16:04
- 名前: 夢見草(元ユリカ) (ID: JC82K/KY)
美園「真理子。サーニャちゃんも、大丈夫?」
真斗「田名部、リトヴャク……。その、平気か?」
真理子「へーき。…………はぁ。まさか、ああ思われていたとはね」
サーニャ「…………ごめんね、真理子ちゃん。みんな」
真理子「ん?何が?」
サーニャ「……私、雷那ちゃんの様子が何となくおかしいことには何となく気付いていたんだ」
コリエンテ「ええっ!?」
カミュ「おい、いつからだ。あの愚民の様子が変化したのは」
サーニャ「ちょうど、数週間前くらいからです。彼女の……私たちを見る視線が、少し変わったような気がしたのは」
タロー「ええっ…?な、何で……?」
サーファードラマーの呆然とした呟きに重ねるように、元ナイトウィッチは己の見解をはっきりと語り出した。
サーニャ「……….恐らく、雷那ちゃんは私と真理子ちゃんに強いコンプレックスを持ったんだと思います。自分のメインフィールドであるはずのオンゲキなのに、元は部外者でオンゲキど素人の私たちが急激にプレイスキルを上達させたことで混乱したのと、それと同時に私たちへ強い嫉妬心を持ったんじゃないかと思います。『どうしてたったひと月で、こんなにオンゲキスキルが上達したのか』って……。それが、さっき彼女が言っていた『オンゲキの才能』ってことなんじゃないかしら」
タロー「才能…。嫉妬心……」
コリエンテ「そういえば、確かさっき言ってたよね?オンゲキはやろうと思ってパッとできるものじゃないって。オンゲキをやるための体力とか、動体視力とか、音感とか……。素人だったはずなのに、最初からそれができてたから、何で!?って思ったのかな?」
サーニャ「うん。あと、練習の最初からツインユニットのような形になった私たちや、あかりちゃんたちや有栖ちゃんたちと違って、一緒にオンゲキユニットを組む仲間たちを見つけることができなかったのも、ずっと雷那ちゃんのストレスになっていたんだと思う。……そして、その上で、奏坂学園を蹂躙しにやって来た皇城セツナの実力の目の当たりにしてしまったこと。そして彼女の『負のオンゲキ』を見てしまったことが、彼女の心の平穏や均一が崩れる決定的な原因になった……」
真斗「なるほど…。もともとソロプレイヤーとしてはある程度の結果を残していた夕立だったが、本当はひとりではなく、仲間と共に課外活動を楽しみたかった。だがそれを押し殺し、『ひとりでもそれなりに結果を残せたから』『もうすぐオンゲキはやめるから』と自分の中で折り合いを付けようと思っていたが…。それと同時期に皇城セツナから同じソロプレイヤーとしても格の違いを見せつけられてしまったから……」
カミュ「かの生徒会役員の実姉……皇城セツナは人格的には有り余る問題を抱えているようだが、あいつが慕っていた生徒会のトリオグループや指導役の女のグループをはじめとした、多くの実力者を屠っていった。……あ奴も馬鹿ではない。『本当の実力者なら自分の実力程度では終わらない。このようなことができる』と認識した愚民の女は絶望したのだな」
美園「彼女には1番の理解者ともいっていい迅くんがいたけど、彼はあくまでシンセサイザーやDJミュージック、DTMの専門であって、オンゲキはやったことがないし、出来ない。だからあの子は『迅くんとは一緒にステージに立つことができない』と言った。……それで、この間の真理子の話を参考にするなら、恐らく他にはオンゲキ推進校があるわけでもない。オンゲキは奏坂学園のみを中心に行われている。それなら、外部の友人や相談相手も出来ない……」
真理子「そうだね。それに、多分雷那は今の自分の悩みを誰にも相談できてなかったんだろうね。……今の奏坂学園は皇城セツナの襲来のせいでめちゃくちゃ。尊敬していて大好きな茜ちゃんたちも皇城セツナの試合の敗北の動揺と、それで大混乱している生徒たちをまとめなきゃいけないから必要以上に迷惑は掛けられない。他の有力プレイヤーの生徒たちも下手に声を掛けられる状態じゃないし、雷那の他の友だちは別にオンゲキプレイヤーじゃないから、オンゲキに関する専門的な話や相談はできない。ワンチャンあるとしたら迅くんだったけど……。さっきの発言的にシューターフェスで負けた悔しさは話していたとしても、それをずっと引きずってたことは言えなかったんだろうね」
今までWSTメンバー…真理子とサーニャに対して協力的だった雷那が急に豹変した理由が、同じソロプレイヤーである皇城セツナとの実力差を認識してしまったことと、元はオンゲキ素人だったはずの真理子とサーニャが予想外の躍進を見せたことを目撃してしまったこと。これらの要因が重なったことにより、本人が以前から抱えていた心の問題が爆発してしまったことだと共有した7人。
タロー「そ、それで、真理子ちゃんたちはこれからどうするんだよ?」
コリエンテ「そうだよね…。真理子、サーニャ。今回の依頼を下りるの?」
カミュ「愚民、ああ、緋桐迅はまだしも…。愚民の女は契約者である俺たちに対して無礼を働いた。貴様らの処罰感情次第では契約違反で奴にペナルティを与えることも、考える必要があるが」
美園「野外フェスは私たちが盛り上げる。仮に真理子やサーニャちゃんたちが登板せずとも、私たちが必ず成功させる。……だから、2人が必ずしも出るべき案件ではなくなったのよ」
真斗「田名部。リトヴャク。……どう、するんだ?」
真理子「え?依頼?下りないよ?」
サーニャ「私も真理子ちゃんも、今回の依頼は最後までやり遂げるつもりよ。それに雷那ちゃんに対するペナルティも必要ありません」
パシフィカの5人「へ?」
「マリーニャ」の2人は今回の依頼を下りることも、雷那に対してペナルティを与えることも望まなかった。これに「パシフィカ」の5人は全員困惑するが……。
真理子「みんな混乱してるね〜?……んじゃ、あたしたちの考えを話そっか?ね?」
サーニャ「うん!……まずひとつ目の理由。これは私たちのオンゲキの練習を監督してくれた咲姫ちゃんやあかりちゃんたち、シュータードレスの被服会社について教えてくれた楓ちゃんたちに対して申し訳ないこと。仮にトラブルがあったとしても、5日前でいきなり『イベントに出ることはやめます』なんて言う方が失礼だし、彼女たちも混乱してしまうでしょう?」
コリエンテ「あ、そっか。今回は雷那の他にも奏坂の協力者の子がいるんだっけ」
タロー「たしかに、約束をドタキャンする方が迷惑だよね……」
真斗「そしてシュータードレス…オンゲキの専用の衣装は、仮にその者たちの伝で格安で用意できるとしても費用が掛かるのだろう?その上で唐突にイベントへの登板を中止するとなると…。動いてくれた生徒会のものたちに対して不義理を働くことになるだろうな……」
真理子「そういうこと。次にふたつ目!1回限りの付き合いならまだしも、今までにもそれなり交流があるキャラに対して変な接し方をしたら、あっちのキャラとのやり取りにも影響が出るじゃん。交流がこれきりになるかもしれないよ?クロスオーバーワールドの発展的にもそれはよくないじゃん。……それに雷那自身に負の感情の自覚や罪悪感はあるっぽいし、これ以上追い詰めるのはあんまりよくない判断なんじゃないの?あたしたちはただのギルドメンバー。別に警察でも裁判官でもないんだからさ」
カミュ「…………それでも、甘いと思うが?契約違反に連なる行動を、奴がしたのは事実だろう。」
真理子「まー、さすがにちょっと言いたいことはあるから、それは言わせてもらう予定だけどね」
美園「ふぅん。……それで、向こうが話を聞いてくれるかどうかの策はあるの?」
真理子「あるよ!…あー、上手くいくかは多分1/3くらいだけど」
美園「1/3ってどうなのよ……。それで、理由はまだあるの?」
サーニャ「うん…。最後にひとつ!この依頼は『舞ヶ原の生徒と奏坂の生徒、そして関わる人々の全てにエールを送ること』が目的のはず!だから、七々瀬さんや白奈ちゃん、『R.B.P』などの有力オンゲキグループの子たちはもちろん。そもそも依頼を持ち込んできた迅くんや雷那ちゃんも、この対象者たちのひとりなのよ!」
タロー「……ああっ、そういうことか!!」
コリエンテ「他の学園のみんなだけじゃない!!迅や雷那も元気をもらって、初めて成功ってことだね!誰かひとりでも沈んだままなら、あたしたちの今回の依頼は成功っていえなくなる!!」
カミュ「……ふん。それならなおさらあの状態で女の愚民を放置するのは愚策、ということか」
真理子「うん!それにさっきも言ったけど、もしここの対応を間違ったら、今後色々とやりにくくなる……。ま、終わりよければ全てよしってことで、ここは丸く収めた方がいいでしょ!」
サーニャ「雷那ちゃんのことは私たちが何とかするわ。これは依頼を受けた私たちの責任です。だから、5人はまず自分たちのパフォーマンスと演奏に専念してください。……心配してくれて、ありがとう」
真斗「なるほど、承知した。……頼むぞ、2人とも」
美園「野外フェスのパフォーマンスを成功させて、生徒の皆さんに活力を与える…。私たちの本分は、きちんとこなさないと……」
……
- それは愛と純情のセンチエレトリックってことだろSAGA ( No.590 )
- 日時: 2025/05/25 16:13
- 名前: 夢見草(元ユリカ) (ID: JC82K/KY)
「幕合」
野外フェス開始まで、あと2日。
あの出来事から3日後。依頼に参加する彼らは、ギルドの地下フロアで野外フェスに向けての最終調整を行なっていた。ダンスホールで最後のオンゲキのステップの確認を終えたゲーマー少女とナイトウィッチの元へ、これまたバンドの合同演奏の練習を終えた5人がダンスホールへ入室してきた。
真理子「美園!みんなもお疲れ!そっちはどう?」
美園「うん、そうね。まあ順調……といっていいかしら」
真理子「良かった!あとさ、いい加減みんなの担当曲教えてよ!担当曲〜!」
美園「それはダメ。ぜひ当日のお楽しみに?」
真理子「ちえーっ、ケチ!」
美園「そのセリフ、シュータードレスについてずっと黙ってるアンタには言われたくないわよ?」
真理子「へへ〜♪」
幼馴染2人がそんな気の置けないやり取りをしたあと。集合した彼らは今回の依頼に関する人物について振り返る。まず、手始めにスイマーギタリストが口火を切る。
コリエンテ「ねー、みんな。……今回の依頼さ、関わってる人たち、結構色々と『囚われちゃってる』よね」
コリエンテが室内にあるカーテンタイプの投影プロジェクトを一気に下ろす。そのスイッチを付けると、プロジェクトに今回の関連人物たちの顔写真が映し出された。その人物たちの中でも、特に「囚われている」者たちを、タローとカミュが小型のライトで照らす。
タロー「……例えば、舞ヶ原高校の関連人物の人たち!昔の『体育館ジャック』で起こった暴動に巻き込まれた萩原七々瀬さんは、そのトラウマのせいで心を閉ざしちゃった…。『Hanamina』のバンドのメンバーになったあとでも必要以上に他の人とは関わろうとしていないみたいだし、俺たちみたいな外部の人間には特に心を許していないみたい。そりゃ七々瀬さんのやられたことからしたら当然だと思うけど、ずっとこのままじゃ、やっぱり悲しいよね……」
カミュ「同じく、舞ヶ原高校の愚民の1人。『イロドリミドリ』の月鈴白奈。奴も類い稀な才能と非常に高い実力を持つ姉との周囲の比較やそれによる失望感から、自ら作り上げた姉の幻影に囚われた。奴が真摯に音楽に取り組み、相応の実力を持ち、そして音楽を愛しているのは真実のようだが…。かつてのトラウマとこの幻影のせいで奴は研鑽を積んでも『月鈴白奈ならではの音楽面の飛躍』にまで至っていない。…箱部なる、小仏凪らといった信頼できる人物が周囲にいてもなお、己が作り上げた姉の幻影を打破するまでには至らなかった」
彼らの言葉に続き、他のギルドメンバーたちも、投影プロジェクトに向けて小型のライトを照らす。
美園「姉、といえば……、奏坂学園の珠洲島有栖さん。彼女は実のお姉さんである皇城セツナのせいで、今、愛している学園を真正面から壊されるかもしれない大ピンチに追い込まれている。なぜ皇城セツナが奏坂学園の改革を急進しようとしているのかは分からないけれど。それには彼女なりの考えや思うことがあるのかもしれないけれど。……それでも、現場の生徒たちのことを一切何も知らないで、自分勝手に進めようとしているこの横暴は決して許されるべきことではないわ。例えいくら自分が優れているからって、自分の力だけで全てができると思わないで欲しい。ましてや実妹に対してあれだけの暴言……。幸い彼女は逢坂茜さんや久城楓さんらといった信頼できる人たちや協力してくれる人たちのおかげで孤独ではないし、この中ではまだ冷静さを保っていられているようだけど……。ともかく、『R.B.P』は皇城セツナに真っ先に敗北した以上、今回の総選挙に対するフォローは必要といえるでしょう」
サーニャ「……それで、先日の夕立雷那ちゃん。彼女は有栖ちゃんたちの生徒会オンゲキグループ『R.B.P』に憧れながらも、一緒にオンゲキをやる仲間とは出会えずにずっとソロでオンゲキをやってきた。それこそ星咲あかりちゃんたち『ASTRISM』といったトップクラスの実力を持つユニットとも、1人でそれ相応に張り合えるくらいには。……だけど、彼女の心の中ではあかりちゃんたちに対する嫉妬心や己への孤独からなる寂しさや怒り、悲しみが常に渦巻いていた。『何故自分だけが、オンゲキをやる仲間、環境に恵まれなかったんだ』……そんな感情がね。それは迅くんという一緒に課外活動に取り組むパートナーに巡り会えたとしても変わらなかった。いえ、変われなかった。……そして1年弱もの時間、独りで抱えていた思いが、皇城セツナによる奏坂学園の侵寇と、オンゲキど素人の私たち、サーニャ・V・リトヴャクと田名部真理子を見たことで爆発してしまった……」
真斗「……だから、夕立雷那は奏坂学園が提唱してきた前向きな感情を元にした『希望のオンゲキ』ではなくマイナス感情を元にした、『負のオンゲキ』に覚醒した。なにせ彼女が深層心理や己の心のうちの根底で強く抱いていたものが『嫉妬心、憤怒、寂寥』だからな…。こうなるのは当然だ。先日、彼女がいきなりリトヴャクや田名部にオンゲキを撃ち込んできた時は流石に衝撃や怒りが先に浮かんでしまった。……だが夕立も今まで長らく、この感情の行き先をどこに、誰に向けかねるか。そしてどう昇華するかで悩んできたのだろう。何より伊吹が前述した通り、今までの負のオンゲキの見本は奏坂学園の破壊者・皇城セツナによる全てを蹂躙するもの。仮に彼女がオンゲキのプレイスタイルを変更するとして、今後負のオンゲキを使い続けて、自分がそのような怪物になってしまわないかと恐れる思いもあるのかもしれんな……」
このように今回の依頼の関連人物を振り返ったところで、一同は改めて振り返る。
真理子「今回の関係者たちにはそれぞれ内心に抱える問題や事情がある。でも、それが今回の野外フェスのライブだけで解決できる……とは、みんな思ってないよね?」
カミュ「わざわざ愚問を言うな。仮にそれだけで解決する問題なら、誰しも苦労はしない。」
コリエンテ「……でもでも!きっと、『きっかけ』にはできるよね!?」
美園「そうね……。己の悩みを振り返り、解決しようとするきっかけになら、出来るはず」
タロー「だよね、だよね!俺たち、みんなを勇気付けることだったら出来るよね!よーし!!」
サーニャ「そうだね!......部外者の私たちがこう言うのは勝手だと思うけど。それでも、少しでもお手伝いができるなら、私は助けたいな...。ずっと囚われ続けるのは苦しいもの」
真斗「……ああ、そうだな。今回は俺たちで彼らの、そして観客の皆の解放の手助けになるパフォーマンスをしよう!」
真理子「そうと決まれば!野外フェス、全力でやるぞー!!!!!」
コリエンテ&タロー「おー!!」
次回。野外フェス、遂にオンステージ。
今回はここまでです。 ここまでで何か感想があるようでしたら、是非コメントからどうぞ。
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