二次創作小説(新・総合)
- Re: ポケットモンスター 夢幻の勇者たち ( No.5 )
- 日時: 2021/06/16 23:33
- 名前: ゆり ◆GU/3ByX.m. (ID: 66mBmKu6)
ポケットモンスター
通称ポケモン。この世界に生きる不思議な生き物。陸に生きるもの、海に生きるもの、空に生きるもの。姿形も様々である。
※
少女が目を開けるとそこは大空、だった。辺りには目に痛いほどの青が果てしなく続き、眼下には白い雲が綿を敷き詰めたように広がる。その大空を少女は、両手足を広げ縦横無尽に飛び回っていた。さながら、宙を泳いでいるかのごとく。——しかし、感覚はない。暑さも、寒さもない。ここは少女の夢の世界。感じることはできなかった。
気が向くままに空を泳いでいると、どこからか鳴き声が聞こえた。遥か向こう——太陽から、大量の黒い影が沸いた。影は自由に踊りながら、姿を変える。小さかった影は徐々に輪郭を現して、ついに姿を見せる。それは、空を埋め尽くす程の大量の鳥たち。赤い鳥、ツバメ、ムクドリ。あるいは鷹。また、あるものはフクロウのよう。彼らは敵意を顕にした警戒音を発しながら、一斉に襲いかかってきた。大量の敵意が塊となり、少女を飲み尽くそうとしていた。
敵意に気付いた少女は、大慌てでその場から逃げ出す。太陽に背を向け、上空に一瞬舞ったかと思うと、急降下した。雲海に飛び込み、雲に紛れて姿を消す考えだ。その後を多くの鳥達が追おうとした。人間と鳥では飛行スピードに差があり、当然鳥の方が速い。ほんの僅かの間に鳥達は少女に追い付き、奇襲を行う。
鳥達の総攻撃を受けた少女の身体はバランスを崩し、翼を奪われたように落下していく。鳥達が視界から消え、雲が上に見えて。少女が覚えているのはそこまでだ。気がつけば自宅の屋根が見えてきた。ああ、ぶつかる。と少女は他人事のように思い、そして——
「きゃっ!」
そして身体に伝わる衝撃で、少女——チカは跳ね起きる。本当に空から落ちたかと思ったが、ここは他ならぬ自分の部屋だ。カーテンが閉まっていて、室内は薄暗い。
夢か、と安堵するが変な衝撃はまだ続く。膝の辺りが痛いのでそこへ視線を向けると、膝の上に乗った生物と目があった。茶色の四肢。長い耳と尻尾。首の周りには、襟巻きのような白い毛。
チカのポケモンである、イーブイ——ニックネームはミーティア、が地団駄を踏むようにチカの膝を何度も踏みつけていた。膝を震源とした痛みは、ミーティアが原因だったらしい。
怒りを込めてチカが睨むと、ミーティアは顔色を変えずチカの身体を遠慮なく踏みつけながら、枕元までやって来た。右前足で枕元にある、時計を示し短く鳴いた。
「ブイ」
「え、時間を見ろって?」
枕元にある白いデジタル時計を手繰り寄せると、時刻は既に八時を過ぎていた。
そろそろ起きるのに丁度いい時間だ。チカは重い身体をゆっくりと持ち上げ、ベッドから出した足を床に付ける。
「チカ、起きたかしら? ミーちゃんはとっくに起きてるわよ!」
ドアの向こうから母親の声が聞こえる。
「もう起きてるわよ!」
半ば怒鳴るように返答し、チカはミーティアと共に部屋から飛び出た。
この世界には、アルバ地方と呼ばれる場があった。
周囲を海に囲まれた島国。自然が豊かで様々な種類の生態系や美しい風景の存在は有名だ。特に手付かずの自然が多く残るこの土地は、ポケモンの種類の多さでは他地方の追随を許さない。
アルバ地方、キララタウン。アルバの南に位置する町に、チカは住んでいた。
その後階段で母親と出くわしたチカは、着替えるようにと叱られた。仕方が無いので、素直に着替える。白いTシャツに、フードがついた黄土色のパーカー、黄土色の長ズボン。長旅に備えるならこの格好、と両親が決めてくれたものだ。
この世界では、10歳になるとポケモンと共に旅をすることが法律で許される。
本来ならチカも10歳で旅に出る予定だったがチカは学校——ポケモン・トレーナーズスクールにに通っていたため、すぐには旅に行けなかった。
ようやく去年卒業し、親と話を説得すること半年。苦労に苦労を重ね、チカはようやく両親旅の許可が出た。
「なに、これ……」
着替えを済まし、旅への期待で浮かれていたチカ。リビングに広がる光景に絶句する。
リビングは荒らされていた。棚や食器棚は全て倒れ、色々な物が床に散乱している。窓は割れ、涼しい風がカーテンを踊られながら入っていた。ガラスは母親が片付けたのか、既に見当たらない。
「朝起きたらこんな状態よ。泥棒が入ったみたいでね。あれこれ家探しされたみたい。あ、ガラスが危ないから、この部屋には入らないで」
「何か盗まれたの?」
キッチンに立ち、こちらを振り向き母親は言った。
足元に用心しながら、チカは唯一無事であるテーブルとイスに近づく。こんな惨事の中、母親は朝食を作ってくれたらしい。テーブルの上にはスクランブルエッグとトースト、湯気の立つ紅茶があった。
ミーティアも母親から何かご飯をもらったらしく、皿に顔を突っ込んでいた。
「何も盗まれてないけど、チカの荷物が特に荒れてたわ。リュックが開いてて、モンスターボールや着替えが床に全部出てたの」
「変な泥棒」
食べる手を止め、チカは首を傾げる。
チカの荷物に高級なものは何ひとつない。全てその辺りの店で買える安物であり、売ったところで大した額にはならないだろう。
「数を確認したら、荒らされる前と同じだったから大丈夫よ。それに足あともないなんて、何か怖いわ」
「何がしたかったのかしら」
部屋を荒らすだけで帰ったらしい泥棒。
母親曰くチカが起きると二時間前に警察を呼び、あれこれ調べたが何も出なかったと言う。大したモノがないので諦めたと言うのが、警察の見解らしい。
その話をカフェのBGMのように流して聞き、食器を流しに置いく。
「あたしも片付けする」
「何言ってるの。急がないと、ポケモンセンターに遅刻するわよ」
そう言って、母親はチカの提案を却下した。
時計を見れば、八時五十分だった。ポケモンセンターに行く時間は九時半である。まだまだ余裕はあるはずだ。
「これから、フレンドリーショップで買い物もするんでしょ? 片付けはお父さんとやっておくから。チカは安心して、旅に行ってきなさい」
「でも、それ二人で片付く?」
一階の荒れ具合からして、二人では中々手のかかる作業だろう。人では欲しいはずだ。しかし、母親は首を横に振る。
「あなたの性格からして、片付け途中で切り上げられないでしょ? だったら、最初から手伝ってくれない方がジョーイさんに迷惑かからないわ。さあ、身だしなみ整えて」
チカは一度作業を始めると集中してしまい、中途半端に切り上げるのが苦手。その性格をよく分かっている母親は速く家から送り出そうとしているのだ。
その意図を理解したチカは頷き、洗面台に行った。短い赤みがかかった茶色の髪をくしで梳かし、顔を洗う。シャツや上着を整えてリビングに戻り、リュックを背負う。五分ほどで仕度は終わった。
玄関に行くと、母親とミーティアがドアにいた。母親は真剣な顔付きで、ミーティアに話しかけている。
「でね、ミーちゃん、チカをよろしくね。ほんとはね、私はチカの旅に反対なのよ。あの子もシュウヤのようになるんじゃないかって……」
母親の脳裏にあの事があるのは間違いない。強い不安と恐怖が顔に現れ、服の裾を掴んだ手は震えている。
ミーティアは、母親を心配そうに見上げていた。何を言われているのか分からないらしく、戸惑いも混じっていたが。
(ミーティアは、シュウ兄のこと分からないって。……あたしもだけどね)
旅立ちの日にしては暗い雰囲気を払拭するため、チカは気づかない振りをして玄関に近づく。足音でチカに気付いたのか、ミーティアが右の耳をぴくりと動かし、チカの方を見る。ミーティアの視線を追った
母親は、チカの存在にようやく気が付いた。
「あら、早いわね」
悲しみを消し、母親はにこやかに笑う。
その顔にかける言葉が見つからず、チカは笑顔で
「行ってきます」
「身体に気をつけてね」
これ以上いると、また旅を反対される。
それを避けるため、チカは短い会話を済ませると靴を履き、ミーティアと共に表へと出た。