二次創作小説(新・総合)

Re: ポケットモンスター 救世の姫君 ( No.2 )
日時: 2021/06/27 20:27
名前: 海桜 ◆VYJqzu6hsI (ID: 66mBmKu6)

 その後、ナージャは早々にディアンシーに別れを告げ暗い森の中を進んでいた。追っ手が来る可能性を考慮し、夜の内に少しでもフローナスから遠ざかりたかったからだ。両親に秘密でこっそり入手したランニングシューズで、木の根を跨ぎ、沢を飛び越え。どんどん進むナージャ。だぼだぼのメイド服のせいで動きづらいが、我慢して進む。
 夜の風が、彼女の長い金色の髪を弄んでいた。

「ナージャ!」

 その後をディアンシーが追いかけていた。
 石の身体に力を込めて地面を跳び跳ね、前に進む。かなり力を入れているのか、荒い息を吐きながら跳んでいる。人間で言えば、全速力で走っているのと同じらしい。

「ナージャ、お待ち下さいませ!」

 この言葉を聞くのは、何度目か分からない。
 別れを一方的に告げてから、ディアンシーはナージャの名を呼びながら、ずっと追いかけてきていた。急ぐから、と説明してもディアンシーは追いかけるのを止めない。鬼ごっこは長いこと続いていた。
 しばらくしてこれ以上逃げても無駄だと諦めたナージャは、立ち止まり、ゆっくり振り向いた。

「ナージャ、わたくしを置いて先に行こうとなさるなんてひどいですわ」

 宝石のように透き通った目を吊り上げ、ディアンシーはナージャを睨む。

「え、さっきお別れするって言ったのに」
「いきなりさよならなんて、ひどいですわ」
「うーん。そうね、急すぎたかな? ごめんね」

 とっさに謝ると、ディアンシーは機嫌をよくしたのかニコリと笑う。

「よろしい。では、ナージャ。わたくしと共に森を歩くことを許します」
「はい?」

 何故ディアンシーと共に森を歩くだけで、わざわざ許されないといけないのか。
 意味が分からず、ナージャがぽかんと口を開けるとディアンシーは、慌てて訂正する。

「えっと。わたくしと森を歩いて欲しいのです!」

 ああ、なるほどとナージャは納得する。
 同時にディアンシーは、ダイヤモンド鉱国の中では偉い立場に居るのではないかと推察した。許す、と言う言葉が出るくらいだ。こう見えて、ダイヤモンド鉱国の女王様か自分と同じお姫様もしれない。——まあ、王様や王子と言う可能性がなくもないが。

「この暗闇は、恐いしね」
「ええ。この暗い森はとても恐いですが、二人で歩けば恐くありませんわ」
「いいよ。一緒に行こ」

 快くナージャが快諾すると、ディアンシーは嬉しそうに飛び上がった。

 ナージャはディアンシーを引き連れ、森の中を進んでいた。もうすぐ街が近いのか、木の数はだんだんと減り、木の間から夜空が見えるようになってきた。銀の砂を溢したような満天の星たちがナージャとディアンシーを見下ろしていた。

「ナージャ、見て下さい! 星が綺麗ですわ!」

 星が好きなのか、ディアンシーは目は星より強い輝きを宿し、おおはしゃぎしていた。短い手を伸ばしナージャの手を掴み、反対の手で星を示す。星に興味がないナージャは、ディアンシーの対応に困っていた。

(悪いけど、あの星見慣れてるのよね)

 フローナス王国は、リトス地方でも星がよく見える場所。少し外に出れば星が見える環境で育ったナージャにとっては、ありふれた光景でしかないのだ。
 だが、ディアンシーの意見を無視する訳にもいかず。少しはディアンシーに同意をしようと、空を見上げると、巨大な黒い影が横切るのが見えた。ざわざわと森が騒ぎだす。

「あ、また来ましたわ」

 気のせいかと思ったが、黒い影は再び上空を横切った。——まるで、何かを探すかのように空を彷徨いている。

「もう。星が見えないではありませんか」

 むくれるディアンシーの横で、ナージャは木の影に隠れじっと上空の様子を窺う。上にいる影は辺りを旋回しているが、あまりにも上空にいるため黒い姿でしか見ることが出来ない。だがここから逃げないといけない、とナージャは直感的に悟った。間違いなく追っ手。

「ディアンシー、いくよ」
「ああ、ナージャ!」

 ディアンシーに声をかけナージャは、ワンピースの裾を持ち上げ、走り出す。なるべく月の光が当たらない暗い場所を選び、森を一気に駆け抜けた。

 それから、どれくらいの時間が過ぎただろうか。ふと気が付けば木々の間から月明かりが差し込み、ナージャの目の前に道が現れる。
 地面の上に木の板で作られた道。それを発見したナージャは、安堵するため息をついた。

(ふう。もうすぐレコンの森を抜けられるわね)

 この木の板は、この森——レコンの森の散策のために作られたものだ。この木の板は、クローロシティ近くの一番道路まで続いている。城を脱走し遠くへ出かけるのが趣味なナージャにとっては、見慣れた物だ。
 空を見れば、影は消えていた。もう安心だ。

「わ、わたくし、こんなに走ったの、初めて」
「うーん。その体力のなさ。ディアンシーは、本当にお姫様みたいね」

 荒い息を吐くディアンシーを見て、ナージャは正直な感想を述べる。
 普段から城の脱走を繰り返すナージャにとっては、大したことがないのだがディアンシーは慣れていないらしい。
 あの喋り方、洗練された仕草、体力のなさ。物語に出てくる本物のお姫様のようだ、と一応はフローナス王国の姫であるはずのナージャは思った。

「ナージャの言う通りわたくしは、ダイヤモンド鉱国の姫ですわ。、照れてしまいます」
「いや、誉めてないし」

 勘違いし、恥ずかしがるディアンシーに対し、ナージャは冷静に突っ込みを入れた。

 ディアンシーが再び歩けるようになったところで、ナージャは進むことにした。

「ディアンシー、この木の道に沿って行けば森を抜けられるよ」

 スカートを持ち上げ、まずはナージャが木の板に乗る。長い裾を引きずったまま歩いたせいで、ワンピースの裾は土が大量に付着していた。

「まあ、そうでございますか」

 ピョン、と飛び上がり板に乗るディアンシー。
 身体の一部が岩であるディアンシーは、体重がかなりありそうでナージャは乗っても大丈夫か不安だった。しかしこの板は、ポケモンが乗ることも考慮されており、かなりの強度がある。そのため、重そうなディアンシーが乗っても穴は開かなかった。

「この森を抜けたら、お別れだね」

 正面から、生暖かい風が吹き付けてくる。風は先程より強いため、出口がもうすぐであることは分かった。
 ナージャはディアンシーと視線を合わせるため、屈んだ。森を抜ける間の短い仲だったが、別れるとなるとそれなりに寂しい。ゲットしたい気持ちが沸いてくる。
 野に生きる、野生ポケモンは、モンスターボールと言う道具を捕まえれば捕獲——この世界ではゲットと呼ぶして、共に旅をすることができる。だが、今、ナージャはモンスターボールを持っていない。それに、ナージャは速く遠くに行く必要がある。城の者が、森にいるかもしれない
 喋っている暇などないと自分を叱咤し、ナージャはディアンシーと別れることを選んだ。
 少し悲しげな表情になるナージャだが、対するディアンシーは何故か満面の笑みであった。上品に口元に手を添え、クスリと声を漏らした。

「まあ、ナージャはとても冗談がお上手でございますわね」
「なんで?」

 ディアンシーの表情から別れる気は、全く感じられない。それどころか何か重大な覚悟を決めた、深刻な顔付きになる。

「わたくし、決めましたわ」

 すう、と息を吸い、ディアンシーはナージャを見据えた。

「ナージャ、わたくしをゲットすることを許します」
「…………は?」

〜序章完〜