二次創作小説(新・総合)

Re: ダンガンロンパ〜ようこそ勝ち組ヶ丘学園〜 ( No.173 )
日時: 2021/07/30 21:23
名前: 紅茶 ◆nByc8bEJCc (ID: nHgoSIOj)

chapter6 「アダムが耕しイヴが紡いだ時誰が負け組だったか」



自分のことが嫌いになったのはいつのことだっただろうか。
勝ち組ヶ丘学園への入学が決まるのは中学3年生になって間もない頃だった。人より優れていた技術をもっていたわけではないし、一般人より華があったわけでもない。そんな僕に届けられた一通の封筒の中に書かれていた文字は「超高校級の自宅警備員」としての入学だった。
小さなころから話すのが苦手だったけど、話すことを拒絶していくうちに友達がいなくなり、学校に行かなくなり、しまいには家に閉じこもっているだけの日々を送っていた。それが才能だとは僕は全く思わない。仮にそれが才能だとしても、家を出た瞬間、その肩書を意味をなくしてしまう。自宅警備員として入学することが、その才能に矛盾する。つまり、才能を認めた時点で結局僕は一般人と同じということになってしまう。それにその話を受けるということは来年からは学校にまた通わなくてはならない。僕にとってはそれが何よりも嫌だった。
きっと僕以外の誰かがこの封筒を受け取っていれば少なくとも僕よりも喜んだと思うと申し訳なさを感じずにはいられなくなる。
だから、断ろう。そう思った。僕の「超自宅警備員」は才能じゃない。ただ怠惰なだけだ。世の中には理由があって学校に行かなくなった人がたくさんいる。いじめられたとか。家庭が貧乏だとか。だけど、僕はそのどれにも当てはまらない。自分から全てを拒絶した。選択肢が僕にはあった。そのうえで今の僕を選択しているんだ。
勝ち組ヶ丘学園。僕が正式な理由で入学することができていたらさぞかし楽しかっただろう。同じ世代の各分野のトップたちが集う場に数年一緒にいることができたらたくさんのことが学べたに違いない。だけど、また僕は放棄する。自らNOの選択肢を選ぶ。

「なるほど、事情はわかりました]
封筒が届いた数日後、僕は自らの足で勝ち組ヶ丘学園に赴いた。入学の辞退を申し出るために。
「それに僕がここにいる時点で、才能と矛盾しています。自宅警備員が才能ならば、今日だってここへは来ずに家で寝ているでしょう」
勝ち組ヶ丘学園の先生と思われる人へ僕が入学したくない理由を一から十まで全てをさらけ出して話した。
しかし、学校に入学する生徒は学校側が決める都合上、18人という数字に1人も欠かすことができないらしくなかなかOKをもらうことができず、交渉は数時間にまで及んだ。
「教育費、生活費、その他費用は全てこちら負担です。もし、ご不満があれば要望をお聞きします」
「お金が問題ではありません」
「では、こちらが用意した部屋から一歩も出ずに学園生活を送れるよう手配いたしましょうか」
「ですから、僕は入学しないと言っているんです」
先生も遂に質問が切れたようで、小さな部屋に無言の状態が少し続いた後重たそうに口を開いた。
「でしたら、こういうことならどうですか?実は今回の勝ち組ヶ丘学園への入学は新しく入学される各分野の代表の皆様がご自身の長所をさらに伸ばしてもらいこれからの社会を担っていく準備をしてもらうことが目的であります。しかし、同時に裏でもう一つの目的がありまして…」
先生の言っていることの意味が何も分からなかった。分からないから黙って最後まで聞いた。
「…ということになります」
結局最後まで聞いても知っている単語はいくつか出てきたものの繋がりが一切分からず脳みそがパンクし何も考えられなくなった僕が誕生していた。
「これ以上の話はこの内容を承諾していただかないと話ができません。もし、話の続きに興味があれば私に声をかけてください。考える時間も必要でしょうから一度席を離れます。この話に興味がなければこのまま帰ってもらって結構です。ですが、これはチャンスだと思いますよ。君は心のどこかでは自分を変えたいと思っているはずだ。それは今のままの君ではきっと無理でしょう。しかし、変えるチャンスが勝ち組ヶ丘学園にはある。君からの良い返事を期待しています」
僕を変えるチャンス…。記憶がどうとか言っていたけど、今の記憶に意味はない。僕が僕でなくなるなんてどうだっていい。本当の意味で生まれかわれるかもしれないチャンス。
結論に至るのはそうかからなかった。僕は扉に手をかけた。
これは自分のことが嫌いな僕が僕を変える物語。



コロシアイ学園生活残り9日

Re: ダンガンロンパ〜ようこそ勝ち組ヶ丘学園〜 ( No.174 )
日時: 2021/08/14 00:15
名前: 紅茶 ◆nByc8bEJCc (ID: HyoQZB6O)

コロシアイ学園生活残り8日


ピンポンパンポーン
「お前たちグッモーニン!朝が来ました。目覚めの時間ですよ。今日から全ての部屋のロックを外していますのでどこでも自由に入ってください」



ー食堂ー
ここにいる一人を除いて全員が時間がないことは分かっていた。食堂が開くと同時に足を踏み入れ、早々に朝食を胃の中に流し込んだ。
案の定、黒薔薇の姿は食堂にはない。自ら黒幕であることを明かしたのだからいないのも納得できるが、何かしらのヒントでも渡しに姿を現すものだとも思っていた。その黒薔薇がいないということはここからは自分で真実を探せということなのだろう。
全てのロックを解除したとは言っても一体どこから調査すべきか。タイムリミットは黒薔薇が待つことに飽きるまで…。いつ終わりを告げられるか分かったもんじゃない。優先順位を決める必要がある。
「全員で協力しよう。タイムリミットを考えても全員で同じ部屋を見るのは効率が悪い。俺たちが確認できていない部屋があと何部屋あるのかも分からない以上、二人一組で行動しよう」
「そんな慌てなくもいいんじゃない?まずは僕の情報を聞いていきなよ」
大きなあくびをしながら、特に急いでいる様子もなくゆっくりとした歩きで華狗也は食堂に入ってきた。
「急ぐ気持ちも分かるけど、まだ大丈夫。僕の予想だとタイムリミットまで3日はあるね」
「そんな根拠もない話。急げばより多くの発見があるだろ。お前みたいにゆっくりしているよりよっぽどいいと思うがな」
第三者から見てもわかるほどギロリと睨みながら司翼は強い口調で華狗也に火花を散らした。司翼の足の動きを見ても相当に焦っていることがわかるが、それをあざ笑うかのように華狗也はまたゆっくり話し出す。
「僕の話を聞いていきなよ。少なくとも君たちの役に立つ」

「君たちの知っての通り僕と天岸は繋がっていたんだ。ちなみに先に言っておくと天岸は僕たちの味方だよ。黒薔薇の言ってた通り負け組へのスパイだったのさ。天岸も僕と同じ目的のためにこの学園生活を裏からコントロールする予定だったんだけど、そこは負け組の方が一枚上手だったみたいだね。僕らが画策するよりも前からこの学園生活を乗っ取る計画をしていたみたい」
「その目的っていうのが誰かを導くことなんだよな?その誰かってのは誰だ?」
「ごめんね。それはまだ言えない…。けど、それも黒薔薇は用意しているだろうね。今から僕たちが行く先には真実が待っているはずだから」


ー地下二階ー
ある程度華狗也の話を聞いた俺たちは当初の予定通り二人一組で行動することになった。特に理由があるわけではないが、俺は鍵村と新しく開放された地下二階を調査することになり、早速来てみたのだが、
「予想以上に広いな。部屋も4つ程ありそうだし、俺たち二人じゃ今日だけだと厳しいかもな」
「かなりの量だな。とりあえず本のタイトルで気になるものをピックアップしていくか」
それにしても凄い量だ。図書室ほどではないが、資料室以上の書類の山なのは間違いないだろう。勝ち組ヶ丘学園が関する書籍が棚一面にぎっしり並べられている。全国から才能をもつ高校生だけを集めた学園なだけに注目度はこの本の量を見れば一目瞭然だろう。しかし、気になるのはやはり助けがないことだ。本によると所在地については確かな記述はないものの都会にあるということだけはわかる。もし都会であることに間違いないのなら誰かがこの学園の異常に気付くはずだ。俺たちは一期生なだけに評論家が俺たちを見て勝ち組ヶ丘学園を議論したりもするはずだ。
まさか都会ではなく、実は田舎に存在している?
いやそんなことはない。微かな記憶ではあるが、俺がくぐった勝ち組ヶ丘学園の門は都会の中にあったはずだ。
そう思いながら本を読み進めるが、やはりそんな記述はない。様々な説が考えられるが、俺が考えるどの説も常識の範囲では有り得ないことばかりだ。
「そう言えば校長室のネームプレートには士導源という名前があったのは覚えているか?」
突然の鍵村の声に俺は自分の世界から抜け出した。
「あ、ああ。俺と同じ士導だったな。忘れるわけがない」
「ここには勝ち組ヶ丘学園に関するものが山ほどあるが、私が読んだ本の中に士導源という名前は一切出てこなかった。仮にも校長だぞ。しかも私たちが一期生であるから初代校長だ。そんな人間が本に名前が載っていないなんてことあるか?」
確かに言われてみればそうだった。俺が読んだもの中にも士導源という名前は一切なかった。
「華狗也なら何か知ってるかも。少なくとも俺たちだけで答えに辿り着くことができない」
だけど、一つ引っかかっていることがある。都会にあったはずの学校。消えた校長。一つの仮説が出来上がりつつはある。華狗也の記憶に頼るのは気が引けるが確認してみる価値はある。実は勝ち組ヶ丘学園は…。

Re: ダンガンロンパ〜ようこそ勝ち組ヶ丘学園〜 ( No.175 )
日時: 2022/01/11 00:35
名前: 紅茶 ◆nByc8bEJCc (ID: PR3Fak4z)

「清水なら何か知っていても不自然ではないが、本当のことを話してくれるとは到底思えないな。それに100%信用できるかと言われてもそれができないな。一応前回の学級裁判での発言や態度から察するに黒薔薇と敵対しているようだが」
「だけど、今この状況で華狗也以外に話を進められる人間が存在しない。あとは華狗也の話を聞いて俺たちがどこまで信用するか。それで判断するしかない」
数少ないヒントを探す為に俺と鍵村を話しながらもせっせと本をめくり続けた。
ただ、本の量が凄まじく多いことに変わりはない。気になるタイトルだけをピックアップしているが、どうしても効率が悪い。きっと検索ワードが間違っているんだ。「勝ち組ヶ丘学園」ではなくもっと絞り込まないと時間が無駄に過ぎていくだけだ。
「超高校級の負け組」「黒薔薇琴音」。黒幕自身が自らの情報をそう易々と与えてくれるとは思えない。
「士導源」「勝ち組ヶ丘学園の校長」。この手のワードもヒットしない。
相手のことを直接知ろうとするからフィルターに引っかかるんだ。思い出せ落ち武者や黒薔薇が言っていたこと些細な疑問を。
鍵村は俺がページをめくる手を止めたことに一瞬だけ見つめていたが、すぐにまた自分の作業に取り掛かった。
常に殺伐とした雰囲気が部屋を襲う。こんな状況だが、考え事に集中できる自分が少し不思議になったが、気にせずに思考を続けた。辺りに何もないただ闇が広がっている場所から光を見つけ出す作業。
何分か闇を彷徨って俺はようやく一つ見つけることができた。
「そうか…。記憶か…」
「記憶?」
鍵村も不思議そうにこちらを振り向いた。
「記憶に関してはまだ謎のままだっただろ。例えば俺の記憶とかな」
「そう言えばあったなそんな設定」
「設定じゃない事実だ」
冗談だ、と一言だけ添えると鍵村は話を続けた。
「確かにお前の言う通り落ち武者は私たちの記憶を奪うことが可能だったし、事実として私は一部の記憶は取り戻したが、大部分の記憶を失っている。例外として士導だけは自分の才能すらも記憶をまだなくしたままだったな。そして、新しい情報として清水だけは記憶を失わず学園生活前の記憶を今も持っている」
「その原因はきっと落ち武者だろうな。あいつは俺たちの記憶を出し入れできる力を持っている。だけど、それは神の力じゃない。人為的なものだからこそ俺だけ記憶をなくすことも、華狗也だけ記憶が残すこともできたんだ。問題はなぜ華狗也だけ記憶をなくさなかったのか。それは落ち武者の記憶を奪う手段を知ってたからだ。今から俺たちはそれを探そう。その手段をもし知ることができれば記憶を取り戻すことだってできるはずだ」


ー校長室ー
華狗也と地近は「士導源」と書かれた机の周辺を書類の山を探っていた。一度自分で調査した部屋だが、そういう慢心こそがよくない結果を生んでしまうのだろう。そんなことよりも華狗也にはずっと気にかかっていたことがあった。
「この物語が終わるとき、お前は死ぬ」。黒薔薇の言葉が頭の片隅から離れない。言葉の意図はよく分からないが、考えられることとして最も有力なことは黒薔薇が直接手を下して殺しに来ることだろうか。それとも僕だけを殺すのではなく一人を除いて全員殺すつもりなのか。
「どう?地近さん。何か見つかった?」
地近は背を向けながら何も、と返す。
「逆に清水君は?」
華狗也も同じように返答した。
「それって噓だよね?黒幕の正体も知っていたのにそれに関係ありそうな士導源を知らないなんてそんなことあり得るの?」
「なかなか鋭い指摘だね。だけど、ほとんど知らない。これは本当」
地近が目を細めながら華狗也を見つけるも、華狗也は地近に背を向けた。
「ちょっとは知ってるんだ…。じゃあ一つだけ質問させて?この校長室にネームプレートがある士導源と名乗る人間は敵?それとも味方?」
校長室を沈黙が襲う。
少し間を開けて華狗也は口を開いた。
「それはちょっと難しい質問だなぁ」
「なんで?」
「正直なことを言うと僕も判断できないんだ。敵…なのかな?僕たちからすると」
「前回の学級裁判の時、この人のことについて何も触れなかったのはどうして?仮にも校長なんでしょ?黒薔薇さんは校長を操っているの?」
考えもしない言葉が地近の口から次々と放たれる。ただの会話から派生したとは思えない冷静さ。
「それだけ冷静な分析ができているのにどうして学級裁判ではそれを言わなかったの?それに答えを知っているかのようなその聞き方。地近さん君は何者だい?」
「何者って、清水君も知っての通りコロシアイ学園生活に参加させられたただの短足の高校生だよ」

Re: ダンガンロンパ〜ようこそ勝ち組ヶ丘学園〜 ( No.176 )
日時: 2022/01/12 01:15
名前: 紅茶 ◆nByc8bEJCc (ID: PR3Fak4z)

ー食堂ー
「一応約束の時間だけど華狗也と地近はまだ来ていないのか」
夜時間になる寸前。俺たちは集めた情報を共有しあうために食堂に集まっていた。
俺と鍵村も役に立ちそうな情報を両手いっぱいに抱きかかえそれを雪崩のように机の上に広げた。それと同じように他のみんなも集めてきた情報を机の上に流し込んだ。
しかし、思った通り集められたのは勝ち組ヶ丘学園と書かれただけの書類ばかり。黒薔薇は俺たちを惑わせるためにわざと手がかりに似た中身が空っぽの書類や本を用意したのだろう。今のところ俺たちはやつの思い通りになっていると言える。
これを見つけるまでは。
「これを見てほしいんだ」
食堂にいる全員が覗き込むようにして俺の手元にある本に目を光らせる。
「『記憶操作』?これが何かの手がかりになるのか?」
「ああ。まずはこの本の概要を簡単に説明すると人間の記憶を自由に操ることができるようになる。例えば、入学式で落ち武者が俺たちの記憶を奪ったようにな」
「な!?」
「もちろん、いつでもどこでもできるわけじゃない。何かしらの装置を使うみたいなんだけど、それ自体を見つけることができなかった。だからこの本に書いていることは実践できない。ただ、理論上記憶を操作することが可能だということを証明することはできる」
「じゃあその本を持ってきた理由は?私たちの記憶を戻すことができないなら記憶操作なんてないのと同じだ」
「俺も同じことを思っていた。ただこのページの記述が少し気になってな」
俺は該当するページを全員に見せながら紹介する。

”超高校級の勝ち組は我らの希望。負け組に居場所を知られるわけにはいかない。屈辱的だが、我らの未来を救うためこの力を使う”

「なるほど。これは確かに興味深いな。超高校級の勝ち組。少なくともこの文章から読み取れることは勝ち組は負け組と敵対しているってことだな。それに居場所を知られるわけにはいかないという言葉。そのままの意味なら誰かを記憶を操作して誰かを匿っている…?」
そうこの文章は誰かのための文章であることは間違いない。そして、その誰かの正体というのも俺は薄々勘づいていた。
「この超高校級の勝ち組。こいつは華狗也なんじゃないかと俺は思ってる」
俺たちを救うための希望と読み取るのなら唯一記憶が残っている華狗也以外にいない。
「どういうことだよ。じゃあ清水は記憶を戻す方法を知っていてこの学校のどこかで記憶を取り戻したっていうのかよ。そんなことができるはずがない。記憶を管理できる装置があったとしても黒薔薇がそこを見張らないわけがない。もし、黒薔薇がそれを知ったうえで清水に記憶を戻させたのなら黒薔薇と清水は手を組んでるってことだぞ」
「それは今議論しても仕方ない。この本からは清水のことを記載していると読み取れなくもない。また次の手がかりを見つかった時それと今回の手がかりを照合させてより正確な手がかりに近づけていけばいい。だが、手がかりの見つけ方は工夫したな、士導。私たちは勝ち組ヶ丘学園というワードに固執しすぎていたのかもしれない」
「今日はもう夜時間が来る。もはや夜時間なんて関係ないかもしれないけど疲れを癒そう。また明日同じペアで共有の時間は今日と同じ時間にしよう」
俺の一声でみんなが部屋に戻っていった。時には団欒も必要かもしれないが、今は一秒も無駄にできないってことをみんな理解している。明日からはきっとより効率よく手がかり探せるはずだ。本音を言えば今日記憶操作について華狗也の意見も聞きたかったんだけど。
記憶に関してもまだ情報が不十分だ。俺の記憶にだってまだ取り戻せていない。黒薔薇や落ち武者がここまで頑なに与えなかった俺の記憶。何かの手がかりになるに間違いない。
この学園で起こったことが本当に全て現実ならば、確かめなければならない。落ち武者からのあのメッセージを。
俺は真っ暗な廊下をただ自分の部屋に向かって歩き続けた。
何も見えないがもう歩き疲れた道。ずっと同じことの繰り返しでは前に進むことができない。
俺がこの廊下を自分の部屋に向かって迷いもなく進めているようにこの最後の学級裁判は俺たちの、
いや俺の手で終わらせてやる。

Re: ダンガンロンパ〜ようこそ勝ち組ヶ丘学園〜 ( No.177 )
日時: 2022/01/13 00:32
名前: 紅茶 ◆nByc8bEJCc (ID: PR3Fak4z)

コロシアイ学園生活残り7日
コロシアイ学園生活残り6日
コロシアイ学園生活残り5日
コロシアイ学園生活残り4日
コロシアイ学園生活残り3日


ピンポンパンポーン
「お前たちグッモーニン!朝が来ました。目覚めの時間ですよ。さて、残り日数も少なくなってきましたので、時間を有効に使いましょう」


気が付けば、もうすでに5日も経過していた。この期間も俺たちは遊んでいたわけではない。相変わらず膨大な量の本や書類を相手に日々奮闘していたが、記憶のことはおろか他のヒントになりそうなことも何一つ見つからない。救いがあるとすればまだ目を通していない部屋が数か所あるということだ。
「まずは朝ごはんを食べないと…」

ー食堂ー
目の前の料理には手を付けずに神妙な表情の司翼がそこにはいた。俺が食堂に入ってきたことにも気づかずただ空を見つめている。
「考えことか?」
ゆっくりとした動きで首だけこちらの方に曲げると小さく頷いた。
「そうなんだよな。考え事というか喉に小骨が引っかかったような感覚。お前も何か可笑しいとは思わないか?」
「…正直心当たりはないな」
天井に向かってふぅーと大きな息を吐きだすと次の呼吸と同時に俺に顔を向けた。
「疑問に思ってることは2つある。1つは士導と鍵村が記憶に関する情報を共有してくれてからやけに次の手がかりが見つからない。黒薔薇は全ての部屋のロックを解除するとは言ったが、全ての手がかりを与えるとも言ってない。黒薔薇の手のひらの上で遊ばれているようなな気分なんだよな。そしてもう1つは…」
「コロシアイ学園生活の残り日数だろ?」
そこに鍵村が食堂の入り口から食い気味に割り込んでくる。
そのまま、俺たちのテーブルまで歩を進めると対面の椅子に腰をおろした。
「ああそうだ。いつもアナウンスだと思って聞き流していたが今日それを聞いてふと思ったんだ」
「残り日数がどうしたっていうんだよ」
「忘れたのか?残り日数のルールはそれまでにこの学校を出ないといけないわけではなく、0になるまでに俺たちの中にいる内通者を見つけ出すことだったはずだ。内通者の正体が18人目の高校生の天岸だったことも割れているのに毎日カウントダウンする理由が見当たらない」
「それに最後の学級裁判に関してはタイムリミットは黒薔薇が待つことに飽きるまでと決めているからもう日数なんて関係ない。それなのにまだカウントダウンが生きているということは天岸ではない本物の内通者が私たちの中にいる…」
歯切れ悪そうにそう言うと俺たちはお互いの顔を見つめあった。
「悪い冗談だが、そういうことになるな。ただ、その先もあると俺は思ってる」
「その先…?」
「黒薔薇は黒幕なわけだしもちろん全ての答えを知っている。だけど、これまでも一気に情報を俺たちには寄越さなかった。黒薔薇は自分が決めたルート通りに俺たちが進むように常に調整しているということだ。つまり、ここ最近俺たちが手がかりを見つけられなかったのは黒薔薇が考えるルートから外れていたわけだ」
「なるほど。自分が出したヒントを1つずつ答えていくことで次のヒントを出すように黒薔薇が調整していると。そして、今黒薔薇が私たちに出している問題は毎朝流れるアナウンスの正体に気が付けるか?ということか」
「可能性の話だからな。必ずとは言い切れない。それに…」
突然、俺たちにも聞こえるか聞こえないくらいの小さな声で呟いた。
「今の話は全て俺の勘違いでも構わない。黒薔薇を飽きさせないことが重要だ」


ー植物庭園ー
「静流君、丁度いいところに」
古ぼけた数枚の紙切れを華狗也から受け取ると読み取れる単語をいくつか声に出してみた。
「負け組、記憶、そして殺害。これは誰が見つけたんだ?」
華狗也の指先には俺の視界には存在しなかった地近がいた。
「さっき清水君と植物庭園を歩いてたら偶然見つけたんだ。いつからあったのか分からないくらいボロボロになっているけどね」
確かに紙切れはもう破れてしまいそうなくらいボロボロだ。だが、不自然なくらいほとんどの文字は読める。ずっと昔から置いてあったように見せかけて落ち武者が用意したっていう罠だ。
俺はもう一度紙切れに目を通す。
紙切れは3枚に分かれておりいずれも内容は異なるようだ。

”あのお方は純粋な負け組のはず。両親を殺害してまで負け組を脱走する理由がどこにあったのだ”

”記憶を操作して自ら全てを忘れたと聞く。記憶がなければ容姿が同じだけ別人だ。見つけ次第殺害を遂行する”

”やつだけは違った。今でもあいつを尊敬している。勝ち組を尊敬するなど言語道断。やつも殺害対象だ”

俺が3枚の紙切れを声に出して読み終えた時だった。
隣にいた華狗也が突如としてその場に倒れこんだ。過呼吸の症状に、さらに胸を抑えている。ただの眩暈などではないことは俺にもすぐ分かった。
「どうした華狗也!華狗也!」
俺の声も届かない。華狗也の激しい呼吸音だけが静かな植物庭園に鳴り響いた。
「とりあえず、保健室に連れて行こう!」

Re: ダンガンロンパ〜ようこそ勝ち組ヶ丘学園〜 ( No.178 )
日時: 2022/01/16 23:59
名前: 紅茶 ◆nByc8bEJCc (ID: PR3Fak4z)

ー保健室ー
華狗也を保健室に連れていってから数十分後、ようやく起き上がった。
呼吸はだいぶ安定したように思えるが、顔色はまだいつもの華狗也からは想像できないくらい青ざめていた。
「ありがとう。だいぶよくなったよ」
とても良くなったとは思えない力のない声が俺たちの耳を通り過ぎる。
「まだ安静にした方がいい。俺たちがいたからここまで連れてこられたけど、また倒れられたらその時に俺たちが隣にいるとも限らない。ただ、お前を寝かすのも惜しいからちょっと知恵を貸してくれ」
「どうぞ」
「お前には聞きたいことがいくつもあるんだ。とりあえず、さっき見つけた紙切れだな」
俺はポケットから今にも破れてしまいそうな紙切れを慎重に取り出すと華狗也の目の前に置いた。
紙切れを置いた瞬間、また少し華狗也が喉元を抑えたように見えた。体調は余程良くないらしい。
「改めて読んでみても気になる言葉ばかりだな。文章をそのまま読めば、ある負け組の人間が負け組を脱走、そして記憶を全てなくした。問題は3枚目だ。最初の2枚は1人しか登場人物がいないのに対し3枚目だけは登場人物が2人いる。そもそもこの3枚が繋がっているのかすらも分からないが、1つのストーリーとして考えると脱走した人間は3枚目の『やつ』なのか、『あいつ』なのか…」
「鍵村の言う通り繋がっているストーリーなら、脱走したのは『あいつ』の方じゃないか?ただ、脱走したにも関わらずまだ『あいつ』ことを尊敬し続ける人間が負け組にはいると。それが『やつ』と読み取れる」
でもだから何だというんだ。誰が誰を尊敬しているとか俺たちには関係のない話だ。そもそも俺たちは負け組の人間を黒薔薇しか知らない。黒薔薇以外にも負け組が存在するのかすらも分からない。だからこそ、この紙切れの負け組の人間を黒薔薇と仮定するしかない。
「その『やつ』ってのが黒薔薇だとすると黒薔薇は誰を尊敬してるってことになるんだ?華狗也なら何か知ってるんじゃないか?」
「何人か心当たりのある人はいるけど、今の段階では何とも言えないなぁ」
「なら記憶を操作したって記述の方はどうなの?清水君は記憶が残ってるんだよね?この記述にも心当たりあるんじゃない?」
「記憶に関しては僕もよく分かってないんだ。記憶があるとは言ったけど何故記憶があるのかその仕組みは僕ですらも分からない。僕に細工したのは確かみたいなんだけど」
「先に可能性を一つ潰しておきたい。この紙切れの『あいつ』というのは清水ではないのか?」
「黒薔薇さんの反応を見てたよね。見ただけで分かる僕への圧倒的殺意をさ」
華狗也じゃない…?
心の隅にあった希望の種が割れる音が脳内に響き渡る。
俺は確信していたことがあった。華狗也こそが俺たちの希望だと。この紙切れを見た瞬間こそ気が付かなかったが、先日のことと照らし合わせるとパズルがぴったりとはまったような気がしていた。
華狗也は勝ち組の関係者であることは黒薔薇との会話から間違いはないはずだ。華狗也がこの件を何も知っていないのは違和感だ。
清水華狗也、お前は何者なんだ。




学校の外ってどうなっているんだろう?
ベッドで横になりながらふとそんなことを思っていた。
記憶がないままだけど、このまま外に出たとして本当にその記憶は元に戻るのだろうか?
外に出たら楽しいだろうな。こんな閉鎖された空間じゃなくて開放された世界でコロシアイだってしなくていいただただ平和がそこにあるんだ。
今は奪われている記憶だってきっと元に戻るはずだ。そしたら…



記憶が元に戻る…?



もし記憶が元通りになったらどうなるんだ。
もう人の真似事では生きていけなくなる。存在価値がなくなる。
今のままだからこそ輝けるんだ。役割がなくなるなんて想像したら。



嫌だ。
失いたくはない。やっと手に入れた生きる意味。
才能に自信を持てるようになったんだ。




嫌だ…
この記憶を戻しくない。





僕はこの記憶を戻したくない!!!!!

Re: ダンガンロンパ〜ようこそ勝ち組ヶ丘学園〜 ( No.179 )
日時: 2022/02/21 00:47
名前: 紅茶 ◆nByc8bEJCc (ID: O35iT4Hf)

コロシアイ学園生活残り2日

ピンポンパンポーン
「お前たちグッモーニン!朝が来ました。目覚めの時間ですよ。終わりの日も近づいていますので、色々なことを気にかけながら今日も張り切っていきましょう」


ー食堂ー
この日の俺たちは食堂に集まってこれまでに見つけた手がかりを共有しあうことにした。華狗也だけはまだ万全な状態ではないということで自室に閉じこもっているみたいだが、俺たちに残された時間が多くない。華狗也抜きでも進まなければならない。
数日前にも見たことのある光景がまた俺の目に映し出される。各々が集めた書類を机の上に広げる作業だ。
しかし、その中には前回では見られなかった類のものあった。俺は目の前に置かれた紙切れと本を手に取る。「勝ち組ヶ丘学園名簿」と書かれた本、以前図書館で俺が見かけた時は士導静流の文字がなく隠されたように18人目の高校生が隠されて書かれていた。そして、この本には俺たち一人一人の紹介のページが存在する。当時俺たちは俺の名前がないことばかりに気を取られていたが、今考えればもう一つ可笑しいことがあったじゃないか。天岸死恋のプロフィールがない。
俺の右手に握られた紙切れ。誰かが天岸死恋のプロフィールを抜いたんだ。
「その天岸死恋のプロフィール、私が見つけたのだが特にこれといったヒントを見つけ出すことができなかった。だから、お前に一回見てほしいんだ。もしかしたら、お前なら何かに気付くかもしれない」
確かに捕鷹の言う通りぱっと目を通しただけで手がかりになりそうな記述はない。華狗也や黒薔薇なら天岸について俺たちより知ってはいるだろうが、おそらく教えてくれないだろう。華狗也とは仲間で黒薔薇のスパイとして潜り込んでいる情報から味方と考えて良いと思う。誰が送り込んだスパイなのかという疑問は残るが…。
それにまだ内通者問題が残る。今日も相変わらずカウントダウンは進んでいた。司翼の予想通り内通者は天岸ではなく少なくとももう一人この学園に潜んでいる。落ち武者の言うことが本当ならばこの学園に存在したのは天岸含め18人のみ。つまりこれ以上俺たちが知らない人間出てくることはない。
考え込む俺にトントンと司翼が肩をたたく。
「この前の内通者の件で、進展があった。一度内通者として疑われているお前が本当の内通者であることはおそらくない」
「当たり前だろ!」
「だからこそ、お前にだけは言っておこうと思ってな。これは校長室にあった本の一部のメモなんだが内通者についての手がかりになるかもしれない」
そう言って数文字だけが書かれたメモを俺だけに見せる。
微山麗奈。
「この微山麗奈と名乗る者。こいつが黒薔薇琴音の側近的存在みたいだ」
頭が殴られたように痛む。
やっと一つ問題が解消したと思ったらまたこれだ。聞いたことがない新しい名前。
「黒薔薇の側近?だがもうこの学園には俺たち以外いないんだぞ。名前以外に他の情報ないのか?」
「なぜ負け組が超高校級の才能を語っているのかは分からないが、黒薔薇が超高校級のキャプテンを名乗っていたように微山も超高校級のスモールと自称していたみたいだ。すまない、全て断定できる話ではなくてな。その本を持ち帰ろうとしたんだが、落ち武者の妨害にあってな。途中までしか読めていないんだ」
申し訳なさそうな顔を見せる司翼だが、全く新しい情報だ。名前と才能だけを持ち帰っただけでも十分な成果と言える。
微山麗奈。もちろん俺たちの中にそんな名前の人間はいないし、そんな才能をもつ者もいない。だとすると天岸の時のように死んだと思われている人間の中に実は生きて内通者として暗躍している人間がいるのか?
皆の姿を順番に頭のスクリーンに思い浮かべていく。
同じ手口だと仮定すると落ち武者に殺された人間が候補にあたる。最初は中田、次に春ヶ咲、憩崎、海土、最後に天岸。皆俺たちの前で確実に死んでいた。
「清水なら知っているんだろうな…」
司翼の誰に向かってもいない台詞が虚空を貫いた。
しかし、華狗也に聞いたところであいつはそう多くは語らない。俺たちで正体を暴くしかない。
「本当に黒薔薇の側近ならば、落ち武者とも組んでいるということだよな。ここまで来た仲間を疑いたくはないがその繋がりがあるかを俺たちでしっかり見張ろう、司翼。もうこの件に関しては俺たちだけで何とかするしかない。他のやつがどんな言い訳をしようと俺たちが自分の目で見た光景だけが正義だ」

Re: ダンガンロンパ〜ようこそ勝ち組ヶ丘学園〜 ( No.180 )
日時: 2022/03/21 17:17
名前: 紅茶 ◆nByc8bEJCc (ID: O35iT4Hf)

「この中に微山麗奈が紛れ込んでいるのはほぼ間違いないんだろうな。落ち武者が俺の邪魔をしてきたということは続きを読まれれば正体が明らかになったということだろうからな」
落ち武者にしてはあからさますぎる気もするが、本当に司翼の言う通りなんだろうか…。
俺の脳裏にこれまでの落ち武者の言動の数々がフラッシュバックされる。
落ち武者は最初から俺たちに内通者を意識させていたが、このゲームを通して俺たちに何をさせるつもりでいるんだ。才能を持つ人間を殺したいだけなら入学した時点で全員皆殺しにすればいい。なのにこんなにも手間のかかる殺し方を選択したのはなぜなのか。
その時、全身に電撃が走ったような感覚が俺を襲う。
目的は殺すことではないってこと…?殺すではなくコロシアイをさせることに意味があったんだ。
そして黒薔薇からの最終決戦の予告、つまりもう目的は達成の寸前まで進んでいるということだ。
「だが、紛れ込んでいるのは微山麗奈だけなのか?」
司翼の疑問に思わず首をかしげる。落ち武者の話によると学園には俺たち以外の人間がいない。
「確かに落ち武者は俺たち以外の人間は存在しないと言った。だが、コロシアイのスケールを考えてみろ。一つの学校を使い、丁寧なルールを定めて、そのうえ落ち武者まで管理しないといけない。微山麗奈が内通者として黒薔薇側にいたとしても2人でどうにかなるもんなのか?超高校級の負け組という存在が既に2名以上存在している。例えば超高校級の負け組がそういった組織だったとして、そこに属する人間全員が超高校級の負け組ならば他にも超高校級の負け組がいても可笑しくないはずだ」
司翼の言う通りだった。仮に負け組が他にも存在する場合、一番怪しいのは校長か。俺たちの目の前には決して姿を現さない校長。落ち武者の言うことが本当なら校長は学園内にはいないことになる。
「ただ可能性が一番ある校長、士導源は今ここにはおらず、ここにある本を読んでもその存在については全くの不明なままだ」
「その士導源だが、やっぱり士導の親という線を俺はまだ捨てきれていない。まだお前の才能が明らかになっていない。それは士導源と士導静流が親子だからなんじゃないのか?」
「ちょっと聞きたいんだが、司翼は今自分の親について記憶が残っているのか?」
俺には今両親の記憶はないが、それは落ち武者に記憶を奪われていることの弊害かもしれない。
一瞬そう願ったが、俺の願いは無慈悲にも破り捨てられ、地面に叩きつけられた。
「悪いがしっかり記憶がある。だからこそ、なお親子の説が浮かび上がるんだ。けど、悪いことばかりじゃない。2パターンあると思っている。一つはお前の考えの通り士導源が負け組の一員だった時だ。その時はお前も負け組と何らかの形で繋がっている存在になっているということになる。だが、もう一つのパターンだった時は俺たちにとっては明るい材料になる」
「もう一つのパターン?」
俺はやまびこのように繰り返す。
「ああ。それは士導源が負け組と敵対する組織の一員だった時だ。黒薔薇の発言から敵対する何かがあるのは間違いない。もし、士導源がそこに属していたら?その息子である士導静流も記憶が俺たち他の生徒よりも深く消されているのにも説明がつく。ただその場合、士導源はもう…」
そこで司翼は口を閉ざした。
黒薔薇と敵対していれば士導源はきっと…、もう死んでいる。それならば黒薔薇がこの学園を乗っ取ったことも校長室が空きなことのどちらも辻褄があう。それにどの本からも士導源の正体が隠されているのは負け組が士導源を殺したから。それに天岸死恋の超高校級の秘書という才能。校長の秘書だったという可能性もある。そして、もし天岸死恋が士導源の秘書だったならば天岸と繋がっていた華狗也も士導源について多少なりとも何かを知っているはずだ。
繋がりのなかったパズルのピースが次々と繋がりだしていく。四方を囲まれながらもどのピースも当てはまらなかったパズル。前提を変えるだけでそのパズルは全く別の絵を映し出した。

Re: ダンガンロンパ〜ようこそ勝ち組ヶ丘学園〜 ( No.181 )
日時: 2022/04/11 01:09
名前: 紅茶 ◆nByc8bEJCc (ID: O35iT4Hf)

食堂での情報共有会も終盤に差し掛かっていた。俺たちは用意した情報の大方を共有し合い一旦は議論が落ち着いた。カウントダウンが0になるまでまだ一日残されている。黒薔薇も明日には何らかのアクションを起こしてくるはずだ。目先の優先順位は内通者として暗躍する微山麗奈を明日何としても見つけ出さなければならない。
「明日はどうする?今日出た手がかりについてさらに煮詰めても良いし、同じ場所にはなるが校長室やらもう一回探索しても良いし皆の意見が聞きたい」
結局今日の話し合いでは新たな謎はいくらか出てきたが、解決した謎はほぼなかったと言える。明日同じことをしてもおそらく時間が無駄に過ぎていくだけの可能性の方が高い。それに皆が同じ場所にいると内通者も変な動きをすることができない。微山麗奈のしっぽを掴むためにも一か所に固定させておくよりもある程度自由に行動させた方が良さそうだ。
「俺は新しい手がかりを探しに行く方が良いと思う。ただ情報の共有も必要なのは間違いない。例えばだけど15時まで探索でそれからまた食堂に集まるとか」
「私も士導に賛成だな。朝から集まったところで意味がないだろうしな。足を動かそう」


鍵村が俺の意見に賛成してくれたおかげでそういう雰囲気になり、俺の案が採用された。
早めの夕食を済ませ各自自分の部屋に戻っていった。今日は謎が多かったため、まずは一人で情報を整理しようと部屋に辿り着くやいなや用意されていたホワイトボードに向かった時だった。
「どうした?そんなに慌てて」
俺の部屋にある唯一の椅子に深く腰を掛ける黒薔薇がそこにいた。唐突の対面に俺の鼓動が早くなる。
数日前までならこんなに焦ることもなかっただろう。黒幕だと判明してからの黒薔薇はやはり恐怖に満ちあふれていた。
「俺の部屋に何の用だ?」
「別に大した用はない。ちょっと世間話をしに来ただけ」
笑っているのか笑っていないのか言葉にできない表情で淡々と語る。
ちょっとした世間話なんかで黒薔薇が動くわけがない。何をするつもりだ。
不思議と勝手に体が黒薔薇の次の動きに備えて身構える。周りからするとこの状況で最善の手を打っているようにも見えるが、現実はただ恐怖に耐えられないだけだ。その証拠に口以外身体のどの部分も全く動かない。
「貴方の意見を聞きたいのだけど、このコロシアイは何故行われていると思う?」
「えっ…?」
それが分からないから俺たちはずっと途方のない迷路をずっと彷徨っているんだ、と黒薔薇に対して怒りがこみあげてきた。
「俺たちを殺すためか?」
とりあえず黒薔薇の様子を見るために言ってみた。この意見は今日の話合いでは有り得ないという結論になったが、せっかくの機会だ。間違いは本当に間違いだったと確定させておきたい。ただ返ってきたのは思っていたものとは違っていた。
「まぁ過程としては半分正解かな」
「半分正解?俺たちを殺すことが目的ならば、お前ならもっと手っ取り早くできたんじゃないのか?」
「だから、それは過程なの。過程であって目的ではない。結果的には全員殺すつもりだけど、目的はそれでない。貴方が言った通り殺そうと思えば全員瞬殺。今までに散っていた人たちのように簡単に殺すことができるわ。だけど、どうしてそれをしないのか?例えば、子供に足し算を教えるとするでしょ?理屈をだけを文字で語るのと、理屈を黒板に書いて教えるのとどちらが鮮明に記憶に残ると思う?」
黒薔薇の質問の意味が分からず、俺はただその場に立ち尽くしていた。
「早く答えなさい!」
「こ、後者だ」
俺が答えると黒薔薇は拍手しながら、
「正解。そう人は最初に物事を覚える時、視覚で得た情報を強く記憶するの。だから教科書があり黒板がある。じゃあ、足し算を覚えたとしてそれを今後も使っていくためには?」
「問題で足し算を実践し、身につけていくとか?」
「正解。人は一回きりでは覚えられないから、実践する。反復して行うことでより強く記憶できる。だから、問題集がある。それは何事においても同じ。勉強も仕事もまずは視覚により状況や方法を目に焼き付けなければならない。最初から問題集を解いても何もできないようにね。じゃあ最後の質問。今貴方が直面している状況と今私が言ったことを照らし合わせてみて。このコロシアイは視覚なのか実践なのかどっちだと思う?」
どういうことだ。俺たちはずっとコロシアイをさせられてきた。実践の段階に入ったとも言えるが、視覚の段階を踏んでいない。じゃあ、答えは視覚…?
「視覚…なのか?」
黒薔薇は椅子から立ち上がり入り口の方へ向かっていった。黒薔薇の足音が響き渡る。
最後にこちらに振り返り今までにないくらいの笑顔を見せながらこう言った。
「正解。じゃあ本当に最後の質問。このコロシアイ学園生活を”誰”に視覚させていると思う?」

Re: ダンガンロンパ〜ようこそ勝ち組ヶ丘学園〜 ( No.182 )
日時: 2022/04/14 01:00
名前: 紅茶 ◆nByc8bEJCc (ID: O35iT4Hf)

コロシアイ学園生活残り1日

ピンポンパンポーン
「………」


眠れなかった。昨夜の黒薔薇の言葉が頭から離れない。このコロシアイ学園生活を誰かに見せている。一体何のために?一体誰に?
そもそも何故黒薔薇は俺にそれを言ったんだ?あの後全員に言って回ったのか?黒薔薇の行動に謎しか生まれない。
俺は芋虫のようにベッドから降りると鏡に映る自分を見つめた。
「カウントダウンは今日が最終日。時間はない」
俺は手早く準備を済ませると食堂に向かった。

可笑しい。華狗也の体調はまだ良くならないのか?いや、仮にまだ体調が悪いままだとしてもカウントダウン最終日の今日は流石の奴でも顔を出すはずだ。それなのに顔も出さないなんて。
食堂に入ったが、俺は進路を華狗也の部屋に向けた。俺たち与えられた部屋は防音が完備されていたため、外部に音が漏れることは一切ないが、一応華狗也の部屋のドアに耳をあててみる。
案の定、音は全く聞こえない。
一応インターホンも押してみるが反応がない。
「非協力的な奴…」
まぁいつものように学級裁判までは知らないふりを貫き通して裁判途中から議論に参加するパターンだろう。それでいつも振り回される俺たちの身になって欲しいものだ。自分だけ全部知っているからって好き放題しやがって。
食堂に戻った俺は朝食を手短にとるとすぐに立ち上がり食堂を後にした。
さて、まず探索しなければならない場所は…。そう言えば黒薔薇は全ての部屋のロックを解除したと言っていた。それが本当ならまだ見ていない部屋があるはずだ。


ー黒薔薇の部屋ー
「本当に開いてる」
黒薔薇の部屋のドアノブに手をかけるとそれは何の躊躇いもなく回転した。いや、本来ならばそれで合っているのだがあまりにも不気味だった。
部屋の間取りは俺たちと一緒だ。ベッドが合って机と椅子が合ってトイレにシャワールーム。不思議なところは何もない。だが、何もないわけがない。黒薔薇は裏でコロシアイをコントロールしてたんだ。黒薔薇が部屋にいた間、何もせずに休んでいたとは思えない。
俺は引き出しやベッドの下などを隈なく探したが、証拠どころか塵一つすら見当たらないくらい何もなかった。
「士導君、傍から見るとその行為変態ですよ。女の子の部屋に勝手に入って引き出しやベッドの下も漁って。これを見たら女子たちは幻滅するでしょうね」
「落ち武者!!というかこいつもお前が操作しているんだろ。どこにいるんだ?入れる部屋は一通り入ったはず。だけど黒薔薇の拠点は見つけられなかった。他の皆からもそんな部屋を見たという声すら聞いていない。お前は普段どこの部屋にいたんだよ」
落ち武者からは反応がない。都合が悪い時だけ狸寝入りしやがって。だが、反応がないということは落ち武者からしても嫌なところを突かれたといったところだろうか。何かが妙に引っかかるが。
ともかく黒薔薇の部屋には何もないことが分かった。つまり、普段の黒薔薇は自分の部屋ではなく別の場所にいたというわけだ。まだ俺たちが見つけることができていない新しい場所に。
動かない落ち武者を放っておいて俺は黒薔薇の部屋を出た。
黒薔薇はおそらく別の場所で俺たちを監視している。だが、最初は俺たちと同じように学園生活を送っていた。ならばいざという時にすぐに自分の部屋に戻ることができる場所にいたはずだ。きっとそう遠くない。
隠し扉のようなものが近くにないか俺は黒薔薇の部屋の周辺の壁を押してみたがどこも普通の壁だ。
隠し扉が違うとなれば一番近い部屋は…。俺は周囲に目を向ける。
食堂だ。確かに食堂は夜時間になると立ち入り禁止になる。誰も入って来ないから姿を隠すにはもってこいの場所だ。
今日幾度目かの食堂に俺は入室したその時だった。
「士導君!!」
突如地近が声を荒げながら食堂にいる俺に向かってきた。
「どうした?そんなに慌てて」
息切れをなくすため一度立ち止まって深呼吸するとまた慌てて、
「今すぐ植物庭園に来て!!」
「植物庭園?」
「説明は後!いいから早く清水君が!」
地近に引っ張られるように俺は足早に階段を駆け上がった。地近のこの慌てよう、華狗也が一体どうしたってんだ。
植物庭園の入り口が見えてくると既に入り口にいた鍵村と同じタイミングで植物庭園に着いた司翼、捕鷹と合流して俺たちはその中に駆け込んだ。


ピンポンパンポーン


「死体が発見されました」

Re: ダンガンロンパ〜ようこそ勝ち組ヶ丘学園〜 ( No.183 )
日時: 2023/02/06 00:17
名前: 紅茶 ◆nByc8bEJCc (ID: VOI/GMTL)

「ようこそ清水華狗也君、よくぞ来てくれた」
扉を開けたその先に待っていたのは想像よりも遥かに普通の場所だった。
漫画ですらもあるかないか微妙な話だったからもっと意味不明な機械とか薬が置いてある部屋かと思った…。
周りをキョロキョロしながら部屋に入ってくる僕を見て奥にいる男は笑いながら声をかけてくる。
「どうした緊張しているのか?」
「これが緊張に見えますか?」
緊張という言葉は間違っている。理解不能、半信半疑、興味本位。どれも合っているようで合っていない。それほどこの話は意味が分からない。
「まぁ緊張ではないか。何せほとんど考える時間もなく扉を叩いたのだから。実際はどっちなんですか?覚悟は決まっているのか、それとも興味本位なのか」
「僕は…」
一瞬言葉につまる。
「僕は自分を変えたい。そのためにここに来た」
「ありがとう。本来であれば君の行動は誰からも称賛されることではあるんだが、この世界のためにその一歩を踏み出してくれたことに感謝する。だが、”現在”の君とは今ここでお別れをしなければならない。自分を捨てる覚悟ができたら次の扉を開けてくれ。私はそこで…」
僕は男が言い終える前に次の扉に向かって足を進めた。
「ほう、そんなにも自分であることが惜しくないとはな。逆に興味が出てきたよ。計画が上手くいけば今度は是非君のことを聞かせてくれ」
自分のことが大切ならばわざわざこんなとこに出向いたりしない。もう僕のことなんてどうでもいい。さぁ新しい世界を見せてくれ。
希望に満ち溢れる自分へ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「死体が発見されました」
植物庭園に足を踏み入れた途端それは俺の眼前に現れた。巨大な花の茎、そこに吊るされている。
「華狗也!!」
俺は一目散にそこに向かって走り出した。
植物の傍に着いた俺は改めて上を見上げた。緑の植物に所々赤色が目立つ。その発信源は、
胸をレイピアで突かれた挙句植物に磔になっている華狗也だ。
「華狗也!!」
俺は再度呼びかけてみる。もちろん返事はない。いつもだったら笑っていただろう華狗也の顔がどことなく悲しそうな顔に感じた。
「無駄だ。死体発見アナウンスはその名の通り生体では発令されない。つまり清水華狗也は死んだということだ。あっはっはは!残念だったな!」
黒薔薇の笑い声が静かな植物庭園に響き渡る。
「さぁ、そんなに暗い顔してないで。死人が出たらどうするの?そう、学級裁判でしょ?」
「ふっざけんな。お前が殺したんだろうが!!学級裁判なんてする必要なんかない。犯人はお前で決定だろうが!」
「お前は忘れてるんじゃないか?次の学級裁判では学園の謎を全て解き明かすって言ってたよな?清水君の死なんてどっちでもいいんだよ。どっちみち学級裁判は開かれてたんだしさ。あ、でもそういう意味では学級裁判を開くタイミングを与えてくれた清水君には感謝だね、あはは」
黒薔薇はもう一言付け加える。
「もちろん清水華狗也を殺した犯人も学級裁判で議論して投票してもらう。決めつけるのは勝手だが私の盤上にいるのを忘れるな。皆殺しになりたくなければ」
黒薔薇は俺たちに背を向け、手を振りながら植物庭園を後にした。
残された俺たちは数分間何も話さずただ磔にされている華狗也を見つめていた。
華狗也と接触する機会はあったはずだ。体調を崩してからずっとだ。今日の朝だってそう。俺がもっと華狗也の心配していればあいつはまだ生きていたかもしれないのに。
自分の無力さに腹が立つ。俺だけじゃないきっとみんなも同じ気持ちだろう。どこかでみんな華狗也を敬遠していたんだ。
「ねぇ、ずっとこのままじゃ清水君だって辛いんじゃないかな」
最初に口を開いたのは地近だった。
「学級裁判が開かれるなら清水君を殺した犯人を見つけないと」
「お前、俺たちの中に犯人がいるっているのか。犯人なんか黒薔薇で決まりだろ」
「私だってそう思う!だけど、黒薔薇さんが殺したならあの自信はなんなの?」
「俺たちの中に犯人はいない俺は信じてる。だから、俺たちがするべきことは黒薔薇が犯人だという証拠を探すことなんだ。いくら黒幕だからといって一切の証拠を残さないなんてきっと不可能だ。前回の学級裁判を思い出せ、黒幕だろうと手がかりはきっとある!」
「士導の言う通りだな。だが、手がかりは各々で探そう。これは疑っているからじゃない。信じているからだ」
鍵村の言う通りだ。華狗也の死因だけじゃない。他にも探さないといけないことが山ほどある。猶予はないだろう。そんな時間の中で一つでも多くの手がかりを見つけるには分散するのが最適解だ。
俺は拳を握りしめた。華狗也を殺した犯人、そしてこの学園の謎全て解き明かして見せる。

Re: ダンガンロンパ〜ようこそ勝ち組ヶ丘学園〜 ( No.184 )
日時: 2023/05/06 02:18
名前: 紅茶 ◆nByc8bEJCc (ID: 4Xxn38pL)

今にも笑い出しそうな華狗也の死体を前に改めて立つ。正直今でも理解が追いついていない。あの華狗也がそうあっさり殺されるとは思えないからだ。いくら相手が黒薔薇とは言え…。
華狗也の死で言えば疑問点は他にもある。体調不良だった華狗也が植物庭園にいることもよく分からない。あいつのことだから俺たちに嘘をついていた可能性もなくはないが、仮に元気だったとしても今更植物庭園に来る理由がない。
ただまぁ、華狗也の行動に関しては考えるだけ時間の無駄だな。どうせ俺たちに隠している何かを知っていただけだろうし。それならば死体を調査する方が情報の入手が確実だ。
まずは全体的に見ると目を引くのはやっぱり胸に突き刺さっているレイピアだな。他に凶器になりそうなものは辺りに見当たらないし、一旦はレイピアを凶器と仮定するのが無難だな。一つだけ気になっている点をあげるならレイピアが落ち武者から支給された殺人用具の中には確か無かったような…。それに過去訪れた部屋にレイピアが飾られていた部屋も無かったはずだ。凶器は一体どこから持ち出されたんだ。

『レイピア』
華狗也の胸に突き刺さっている。凶器と思われるが、落ち武者から支給された殺人用具には入っていない。

レイピアを凶器に選び、華狗也を刺したうえで、磔にまでする。俺たちに見つからずにそこまでできる人間なんて黒薔薇以外にいるのか?それとも司翼の言ったように超高校級の負け組が他にも潜んでいるのか?
華狗也に刺さっているレイピアにそっと手をかける。確かに金属製の重量感を感じる。犯人が用意したダミーではなさそうだ。
続けて華狗也の腕に触れてみる。殺害からある程度の時間は経っているのだろう。完全に冷え切っているわけではないが、温もりを感じることはできなかった。華狗也の死亡時刻は昨日の夜あたりだろうか。少なくとも朝食堂に来なかった時には既に殺されていたに違いない。
「士導ちょっと見てくれないか?」
「どうした?」
司翼の呼びかけに指さす箇所を目で追ってみる。
「レイピアじゃないか。何か変わったところあるか?」
「レイピアじゃない。清水の出血量だよ。犯人が清水を一突きで殺したんだとしたら流血しすぎじゃないか?それにあれを見ろ」
司翼は磔にされた華狗也から少し離れた場所を指さす。赤い水たまりが緑の中に意味深に浮かび上がっていた。
「あそこにも血がこぼれている。清水を刺した時にいくらかは周りに飛び散っただろうが、流石にこの距離飛散したとは思えない。清水はあの血の位置で一度刺された後、今の位置まで連れて来られてもう一度刺されたと考えるのが妥当だと思うんだが」
「なるほど、確かに刺した後抜きさえしなければここまで酷い出血になることもないか。だが、一度目の突きで心臓を刺しているということはそれ以上刺す必要もないんじゃないか。ここまで連れてくる意味が無さすぎるな」
意味は確かに無いが、心臓を二突きした意味は確かに気になるな。気になるが、死体周辺で気になることはそれくらいか。
念のためポケットにも手を入れてみるがもちろん中には何もない。基本的にはルールに従順だったにも関わらず学生証すら携帯していない。余程慌てて部屋を飛び出してきたということか。華狗也が慌てるなんてこと想像できないが。
植物庭園からは徐々に人数が減っていった。人に踏みつぶされていた草木は人数が少なくなるにつれより一層青々としていた。その中で唯一の遺産だけが深紅に佇んでいた。

植物庭園を後にした俺は華狗也の部屋を次の目的地に設定していた。華狗也が慌てて部屋を出ていったんだとしたら部屋の中は整理されていないはずだ。そうなると直前まで何をしていたのかが明らかになってくる。
思えばここ数日顔も合わせていなかった。死ぬ直前についてはおそらく黒薔薇以外は誰も知らない。天岸の処刑以降確かに様子は可笑しかったけど、それでも人の前では普通を装っていたようにも感じた。俺たちは清水華狗也という人間のことをおそらくほとんど理解できていない。俺たちの中で唯一記憶を保持しているだけじゃなく、裏方の天岸死恋の存在にも最初から気づいていた。
俺は「清水」と書かれたネームプレートが掛けられた部屋の前まで訪れた。

教えてくれ。清水華狗也。お前は何者なんだ。

Re: ダンガンロンパ〜ようこそ勝ち組ヶ丘学園〜 ( No.185 )
日時: 2024/02/13 00:56
名前: 紅茶 ◆nByc8bEJCc (ID: 3OoKbooX)

俺は「清水」と書かれたネームプレートの部屋を力強く開いた。扉は反発するようなことはなく自然の摂理のまま無気力にキィという音を立てて俺を出迎えた。
これが清水華狗也の部屋か…と思うこともなくただただ普通の部屋だった。ベッドのシーツが乱れていたり、椅子が倒れたりしているがそれ以外は至って普通の部屋だ。不気味な液体や難しい言葉が書かれたホワイトボードとかそういったのを期待していたわけでないが、少し拍子抜けなのが正直な感想でもある。
俺は引き出しの取っ手に手をかけた。
「何だこれ…」
引き出しの中から現れたのは無数のメモだった。綺麗に纏められておらず、破れているもの、折れているもの、文字が読めないもの、本当に自分だけが読むことができれば大丈夫を体現したようなものばかりだ。
ただし、理解できれば無益ではないものであるのも確からしい。様々なメモに勝ち組や負け組といった文字が書かれている。その中の一つに「士導」と書かれたメモもあった。この散らかったメモの群の中では比較的新しいものに見える。
箇条書きの単語の羅列の中に一際目立つ文章が書かれている。それは現代文の問題のように下線が引かれてる。
「僕は士導静流」
そう書かれた文は他の単語とは違い明らかに力の籠った手で綴られていた。華狗也としても何かに気づいたということだろう。
何故俺の名前が華狗也のメモから出てくるんだ?それも華狗也自身が士導静流かのような書き方で。

『華狗也のメモ』
「僕は士導静流」と書かれたメモ。何故か下線が引かれている。

俺はメモを手に取り目を閉じて思考する。ただ、数秒も持たずして前が見えるようになった。
これについて今何かを考えても無駄だ。俺一人の力では回答なんて何時間考えたって出ない。華狗也がいれば一旦聞いてみたと思うが…。
それよりもこのメモの山を一つ一つに目を通している時間はあるだろうか。華狗也の遺産だ、できる限りこれに時間を割きたい。だが、自分の目で確認したい部屋もある。
悩んだ末俺はメモの山を近くにあった袋に詰め込んだ。

そもそもだ。華狗也はどうして部屋を出た?犯行時間はおそらく夜時間。不自然な血痕から推察するに誰かに呼び出された?筆頭は黒薔薇だが、華狗也も黒薔薇に呼び出されてノコノコ行くような奴ではないはずだ。だとすれば味方だと思い込んでいた人間に呼び出されたのか。俺たちの中の誰かが弱っている華狗也を呼び出した?
夜時間というリスクを冒してまで呼び出しに応じたのだとしたらそれこそ天岸のような隠れた人物でないと説明がつかない。だが、天岸はもう死んだ。学園内にいる人間も落ち武者の言うことを信じればこれ以上いない。
俺は部屋を出ようとした足を止め、再び袋の中を探り始めた。間違いなくヒントはこの中にある。そう確信した。いやそう願った。
そう言えば華狗也は目的がどうとか言っていた。誰かを導くためだとか。何日か前に聞いた時はまだ達成していないような素振りだった。華狗也はその目的を果たして死んだという説はないか。目的が分からないから断言はできないが、黒薔薇が今更華狗也を殺す理由が無さすぎる。
その時だった。俺の目にあるワードが映る。「士導源」この学園の校長の名だ。
士導源と俺の関係性もまだ明らかになっていない。しかし、メモにはかなりの殴り書きがされている。士導源の並びに父親だとか毒殺だとか関連性のある語群だとは到底思えない。それらの下に更なる言葉が書かれていた。
「負け組…」
一際大きく書かれたそれは士導源が負け組だと示唆するような書き方だ。少なくとも初見でこれを見た人は誰しもがそう思うだろう。
勝ち組ヶ丘学園の創設者が負け組なわけがない。が、毒殺という言葉がそれとリンクしていく。
華狗也のメモが本当だとするなら負け組の士導源を誰かが毒殺したんだ。
華狗也はどこから毒殺という言葉を導き出した?校長室の中にそれらしい手がかりはなかったかのように思える。それに手がかりがあったとしてもそれが正しいとは到底言えないはずだ。それなのにも関わらずメモ書きを残しているのは華狗也なりに根拠があったということだ。その根拠とは…。
「信じるしかないよな、華狗也の記憶を」

『士導源の死因』
華狗也のメモに書かれていた。士導源は毒殺されていた。


ー校長室ー
士導源は毒殺だった。それが正だったとして士導源の目的が判明したわけではない。何故士導源は俺たちを集めたのか、黒薔薇とは最初からグルだったのか。今だからこそ見えてくる手がかりもきっとあるはずだ。
「よう士導、お前もここに目星を付けたか」
「ああ、ここにある手がかりが天岸のプロフィールだけとは流石に思えなくて」
捕鷹が先客として校長室に訪れていた。
「手に持っているものは?」
捕鷹は俺の手の袋に視線を向ける。
「華狗也の部屋にあったメモだ。全部目を通す時間がなくてな」
「それでここに来たってことは校長に関わることがメモに書いてあったってことか」
流石に鋭いな。
「そういうこと。このコロシアイの意味を知りたくてな」
「なるほど。そういうことならこれを見せてやる」
そういって捕鷹は俺に一冊のファイルを差し出した。