二次創作小説(新・総合)
- Ep.02-ex【再度開催!メイドインワリオカップ】 ( No.102 )
- 日時: 2022/05/05 22:01
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)
熱狂が蔓延っていた決勝ステージも落ち着きを取り戻し、優勝者であるマリィへの授与式が行われる。モナに背中を押され、ワリオはステージに立っているマリィに近付く。しかし、その顔は不満気だった。
マリオが優勝しなかったことは良かったが、彼と名前が似ている少女が優勝したのに不服を申し立てていた。態度に現れているのか、中々マリィに信濃を渡そうとしない。
「はやくちょうだい」
「フン!そこのソニックとやらが勝ったのなら素直に渡したのにな!マリオと名前が似ているから渡したくないのだ!」
「でも、あたしマリオさんと正々堂々勝負して、それで勝った。そのナイフはあたしが貰う権利があるよ」
ワリオの屁理屈にもマリィは冷静に切り返していった。流石のワリオの煮え切らなさに、遂にネズも口を挟んだ。
「往生際が悪いですよ主催。物事は公平に審判しやがれ」
「そうだそうだ!」
「一時の感情でルールを覆すなど言語道断!大会は終了宣言までが大会なのです!早く優勝賞品をお渡しなさい!」
「そうだそうだ!」
「そこのピエロ3人!うるさーい!!」
「ノボリさんとクダリさんは何となくそう見えるけど、遂にネズさんまでピエロ扱いされたんだぞ…」
「色合い的にもトランプのジョーカーみたいだよな、ネズは」
「おれは切り札ではありませんよ。道化…ではあるかもしれませんがね」
「いや、そこは否定するんだぞ?!」
ネズとサブマス双子の野次にもワリオはひるむことなく悪態を返す。そのままマリィに信濃を渡したくないとごねるものの、ジミーとモナに説得され遂に渋々彼女に信濃を渡す為に動いた。
マリィは静かに両手を差し出し、掌の上に短刀を置くように言った。当のワリオはそれでも諦めきれない様子であり、信濃をぎゅっと握って離そうとしない。
そんなやり取りが数回続く中、オービュロンはふと残りの決勝進出者の様子を見る。マリオとソニックはマリィとワリオのやり取りを面白そうに見ているものの、彼らの隣にいるクロダの様子がおかしいことに気付いた。彼は表向きは確かに拍手をしているものの、明らかに表情が比例していない。そして、口元が微かに動いていることをオービュロンは察知した。
クロダの目線はマリィだった。彼女に何か悪いことをしようとしているのではないかとオービュロンは咄嗟に判断し、叫んだ。
「まりぃサン!!ソノ短刀に触らないでクダサイ!!!」
「えっ…?」
突然響いたオービュロンの叫び声に、マリィは思わず動揺し彼の方向を振り向いてしまう。それと同時にクロダは邪な笑みを浮かべ、マリィに何かを放った。しかし、オービュロンの声に反応したタイミングが丁度良かったのか、放たれた"何か"はマリィの身体の隙間をすれすれの距離で通っていった。
"何か"はそのままワリオへとぶつかり、彼の身体を弾き闇となって飛散してしまった。唐突なクロダの行動に、マリィもワリオも何事だと彼を見ている。
「……やはり…!」
大典太の嫌な予感は的中した。クロダはやはり"アンラ・マンユの分身"だったのだ。彼は傍から優勝する気では無かったのだ。自分以外の誰かに優勝させ、優勝者を呪詛で殺害した上で信濃を強奪しようと考えていたのだ。
分身だと分かったならば容赦はしなくてもいい。大典太は自らの本体の柄に手を添えた。
ワリオはマリィに信濃を渡すつもりはなく、未だ強く握っている。あわよくばそのまま持ち帰ろうとしていた。分身は彼が信濃を離さないことに気付き、呪詛のターゲットをワリオに固定した。そして、再び彼に向かって黒い針状の闇を放つ。しかし、何度呪詛を放ってもワリオの身体にしみ込むことはおろか、全て弾き飛んで消えてしまっていた。
ネズもノボリも呪詛を一度その身に受けている。明らかに自分達の身に起きたこととは違う現象が起きていることに驚いていた。
「弾きやがった…?!」
「どういうことなのでしょうか。やはり…呪詛を一度受けた者には"呪詛への耐性"が発生する…?」
「……恐らくそうなんだろう。あいつも一度邪神の呪詛のせいで暴走している。そのお陰で、耐性が生まれたのかもしれん」
ワリオ、ネズ、ノボリ。彼らに共通することは"一度呪詛を身体に受けている"ことである。彼らの身に起きたことはバラバラだが、突き詰めれば最初に呪詛を喰らったからこそ、一度命の危機に瀕したのである。
しかし、想定外のことに驚いていたのは分身も同じだった。まさか自分の呪詛が弾かれるとは思っておらず、どこか動きが鈍っているように感じた。
オービュロンはその隙を逃さなかった。彼は再びワリオに向かって叫ぶ。
「わりおサン!!!ソノ刀を離してクダサイ!!!早く!!!」
「な、ナニーっ?!このオレ様に逆らう気かオービュロン!!」
「ソンナコトを言っている場合デハアリマセン!!!マタ以前のヨウニ暴走シテシマイマス!!!今スグ離してクダサイ!!!」
「("また"…?―――まさか!)」
オービュロンが必死に叫んでいる言葉から、クリケットは過去の事象を思い出す。もしかしたら、彼は以前ワリオがダイヤモンドシティで暴れた原因がこの短刀に潜んでいると気付いたのかもしれない。
そう判断したクリケットの行動は早かった。素早い身のこなしでワリオに近付き、信濃を持っている手に自慢の拳法を浴びせる。
「これがオレのスイッチ拳です!共鳴輪唱破!!!」
「ぐわーっ?!」
クリケットの不意打ちを受け、ワリオは思わず信濃を地面に落としてしまった。それと同時に、クリケットはワリオが再び信濃を拾わないようにと素早く彼の腕を掴み拘束した。
「流石クリケットさま!やるぅ~♪」
「ワリオさん!自分から危ない橋に突っ込んでいかないでください!」
「あぁーー!オレ様の金がーーー!!!」
「やっぱり売ろうとしてたんやな…」
「結局渡そうとしなかったのは自分の儲けにする為だったんですな」
分身もその行動を見て素早く移動を始める。床に落ちた信濃を奪い取ろうと目の前に立っているマリィに再び呪詛を打ち込もうと手を広げた。
―――その、瞬間だった。
『悪使いの女。首を一緒に斬られたくなかったらしゃがめ』
背後から低いテノールの声が聞こえ、マリィは思わず腰を低くする。同時に、背後から鬼丸が分身を斬らんと空中に飛び上がった。思わぬ伏兵に分身は避けることが出来ず、分身の身体に斬撃が入った。
斬り裂かれた箇所からどろどろと泥のようなものが這い出る。クロダが"人間ではない"ということを一気に知らしめた。
「……鬼丸?あんた今までどこで…。大会には参加しないんじゃなかったのか」
「大会には参加していない。朝からダイヤモンドシティ駅に身を潜め、敵が動き出すのを窺っていた。誰にも見つからないようにな」
「そうだったの?気付かなかった」
「雑談をしている暇はない。さっさと分身を片付けるぞ」
会話をする気はないとでも言いたげに、その言葉だけを言い残し鬼丸は分身へと攻撃を始めた。既に分身は自我を失っているようであり、無差別に呪詛を放っている。運悪く呪詛が放たれた方向にいた人物が逃げる前に喰らってしまい、呻き声を上げながら倒れてしまった。
それを見た観客の恐怖が一斉に湧き上がる。熱気にあふれていた会場は、一気に悲鳴の嵐へと変化してしまった。
「観客がパニックに陥っているんだぞ?!」
「ともかく、今は安全な場所まで避難を誘導するのが最優先でございます!スタッフの方……そこの若い奥様!この付近に頑丈な建物はございませんか!」
「この近くなら…博物館があるわ。広いし、一番丈夫に造られているから避難場所にはうってつけのはずよ」
「オッケー。ぼく達が誘導するから、奥さんは博物館まで先導して!」
「ボクちんもスケートボードで案内するやい!」
「ノボリさん。オレ達も手伝おう。流石にこの人数を2人で裁くのには無理があるぜ!指示してくれ」
「ありがとうございます!それでは、ダンデさま、ホップさまは右方向へ逃げられたお客様の誘導をお願いいたします。わたくしとクダリは左方向へ。囲い込むように誘導しながら博物館まで避難を促しましょう!前田さまは背後からの攻撃の防御をお願いいたします。ポケモンのわざがお客様に当たってしまう危険性がございます故、今頼れるのはあなたさましかおりません!」
「承知しました。前田藤四郎、参ります!」
「分かったぞ!ネズさんは?」
「おれはマリィとオービュロンを迎えに行きますよ。いつあいつの攻撃が飛んできてもおかしくありません。ワリオに起こったことが本当なら、2人の盾くらいにはなれると思うんで」
「自分を犠牲にするの禁止!ネズさんもちゃんと戻って来て!大典太さんは怪我人の治療?」
「……そうだな。既に呪詛を喰らってしまっている参加者が何人かいる。現状俺にしか出来ないことだ。治癒に集中させてくれ」
観客がバラバラの方向へ逃げ出し収集がつかなくなってきた為、ノボリの指示にて近くに見える博物館へ避難を誘導することにした。ダンデとホップは右へ。ノボリとクダリは左へ。前田は後ろから分身の攻撃を防ぐ役目を担った。
ネズはマリィとオービュロンを助けに。大典太は呪詛を喰らってしまった観客の治療に当たることになった。早速行動を開始しようとした最中、背後から決勝進出者の声が聞こえてきた。
「さっきの話、聞いてました。俺達にも避難誘導を手伝わせてください!」
「……ほうきで浮かべば 何とかなるわ。あたしがソニックと一緒にバラバラになった観客を誘導する…」
「わたしの発明品も是非役立ててください!ソニックさんの勇気に感服です!」
「ボクにも出来ることはあるかい?人手が足りなかったら協力するよ!」
「みんな。ありがとう。じゃあ、赤い服の子とソニックさんでダンデさん達の避難誘導を手伝って!マリオさんはぼく達と一緒!」
「ご協力、誠に感謝いたします。お客様を安心して最後まで送り届けるのが我々サブウェイマスターの役目!ではっ、出発進行ーッ!!」
手伝うと申し出てきた3人の勇気ある者に拍手を送りつつも、クダリは素早く行う役割の分担を始めた。自分のやるべきことがすぐに明確化し、各々観客を助ける為に動き出す。
走り出すタイミングを見計らっていたネズも、ノボリ達が避難誘導を開始したと同時に2人に向かって走り始めた。
「光世。マリィとオービュロンを助けた後、あいつに加勢してもいいですか」
「……寧ろ加勢してやらんと倒せるかどうか怪しい。分身とはいえ、相手は神なる存在だ。鬼丸一振で何とか出来る程の弱い神じゃない」
「分かりました。なんとかあんたの方向に攻撃向けないよう調節もするんで…。頼みましたよ。観客のこと」
「……あぁ」
ネズが走り出した時には、既に十数単位の観客がもがき苦しんでいた。既に意識を失い始めている者もいた為、彼は倒れてしまった観客の呪いを優先的に解く為、苦しんでいる客の近くまで駆け寄るのだった。
- Ep.02-ex【再度開催!メイドインワリオカップ】 ( No.103 )
- 日時: 2022/05/06 22:00
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)
鬼丸と分身が戦いを繰り広げている中。ネズは分身に気付かれないように動き、マリィとオービュロンの元へ辿り着いた。
幸いどちらも怪我をしておらず、分身の攻撃を喰らった気配もない。まずは一安心だと安堵のため息をつくが、ここにいては危険なことに変わりは無かった。
「大丈夫ですか」
「うん。オービュロンさんのお陰で何ともないよ」
「あいつ、マリィを狙っていましたね。……許せません。とっちめねぇと」
「ねずサン!ワタシ達を助けに来てクダサッタノハ嬉しいデスガ、ココカラ逃げねばねずサンも攻撃に巻き込まれてシマイマス!」
「それはお互い様でしょう。ですが…おれはあんたを逃がす為にここに来たんです。だから、逃げるのはあんただけですよオービュロン」
「ヘ?」
「マリィ。モルペコの調子はどうですか」
「ばっちし。いつでもバトルできるってモルペコも言っとる」
「うら!」
「OK。おれとマリィで鬼丸の加勢をします。その間にあんたは逃げなさい、オービュロン」
そう言うと、ネズはボールホルダーからモンスターボールを取り出した。どこからともなく取り出したスタンドマイクと共にアンダースローで投げられたボールから出てきたのは、ストリンダーだった。ストリンダーの姿は2種類あり、ネズが手持ちにしているのは"ロー"の姿である。
マリィも兄の動きに合わせ、モルペコに動くように指示し彼に加勢をする。戸惑うオービュロンだったが、背中から響くほどの大声が聞こえた。
「何ボーっと突っ立ってやがるオービュロン!わざに巻き込まれたくないならすぐにここから消えな!」
「ポケモンのわざ、普通の人なら絶対に耐えられない程強いものもあるから。対応出来ない人が近くにいると危険。ここから離れて、オービュロンさん!」
「ハ、ハイッ!」
スパイク兄妹の背中を再びちらりと見やった後、オービュロンはワリオの落とした信濃の本体を手に取り、観客席の方まで走り始めた。
その瞬間だった。信濃の短刀の中で燻っていた邪気が一気にオービュロンへと流れ込んできた。必死に逃げる彼の思考、記憶が全て黒く塗りつぶされ、押し潰されるような息苦しさ。今まで邪気に侵されてきた人物は皆こういう思いをしてきたのか、と一瞬オービュロンは悟る。しかし、その思考もすぐに塗りつぶされ、何も考えることが出来なくなる。
それでも彼は理性を保ち、大典太の元まで信濃を持って行かなければならなかった。苦しみと共に、この短刀の付喪神であろう声がオービュロンに聞こえてきたからだった。
『たすけて』
「(―――コノ、声ハ…?)」
『たすけて くるしい』
「(助けを、求めてイルノデスカ?)」
『くるしい せまい くらい いたい いたい たすけて』
「(ワタシが感じるコノ苦しみハ…しなのサンの思いナノデスカ?デアレバ…ワタシがココデ踏ん張らなければ、彼が助けを呼んでいるノデス!立ち止まってイルワケニハイキマセン…!)」
正直、声を張り上げることすら辛い。息苦しさで走ることすら厳しいのだ。しかし、脳内には"助けて" "苦しい"と繰り返し響いて来る。いつしか大典太は言っていた。"天界の蔵にある刀は、ずっとその中で邪気を注がれていた"と。どのくらいの期間かは想像が出来なかったが、それ程までに苦しい思いを長年してきたのだ。
信濃を苦しみから解放させる為には、大典太の元まで頑張って走らなければならない。彼は気を引き締め、苦しみを我慢しながら必死に彼の元まで走ったのだった。
―――一方。大典太がいる観客席では、倒れている全ての観客の呪詛を祓い終えていた。鬼丸に攻撃が一本化し範囲が客席まで届かなかったこと。そして、観客は皆呪詛を喰らってから時間が経っていなかった為すぐに解呪が完了したのだ。
最後に解呪した客をブルーシートの上に乗せ、大典太は一息をついた。それと同時に、満身創痍のオービュロンが大典太の元へ辿り着いたのだった。
「みつよ、サン…!」
「ん?―――あんた、何故信濃を…!」
振り向いた大典太は目を見開いた。信濃の本体に巡っている邪気がオービュロンに移り始めていたからだ。ワリオに起こった出来事から、ネズは恐らく分身を何とかした後に自分で信濃を拾おうと考え2人の元まで向かったのだろう。実際、大典太も同じ考えを抱いていた。
しかし、信濃を実際に彼の元へ持ってきたのはオービュロンである。明らかに苦しんでいる表情と、邪気の流れがオービュロンの方向に変わっている為このままでは危険だということはすぐに分かった。
「……信濃の回収はネズに任せればよかった。俺もそう考えて行かせたんだからな。何故…持ってきた?」
「デスガ…!"助けて"ッテ声が聞こえてキタンデス!放ってはオケナカッタノデス!」
「…………」
息を切らしながらも必死に大典太に叫ぶオービュロンの姿を見て、彼はオービュロンの心の中に"光"が生まれていることを悟った。だからこそ、迫りくる闇に対抗できているのだと。
―――更に。付喪神の声は、刀の状態であれば"霊力がある者"にしか聞こえない。三日月が顕現出来ていなかった時も、主である石丸以外には聞こえていなかった程だった。それが聞こえている、ということは。
そう判断した大典太の行動は早かった。オービュロンにじっとしているように伝え、信濃の本体に自分の手を添える。
「……信濃から呪詛を消す。纏めてあんたのやつもすぐに消してやる」
「みつよサン…」
「……わざわざ理由を先に聞くんじゃなかったな。あんたが目の前で苦しんでいるのに…先に解呪をすべきだった」
大典太が信濃の本体に触れた途端、信濃の本体とオービュロンの身体から紫色の靄が空中へ浮かび上がる。それは即座に霧となり、空へと飛散して消えた。何回か繰り返しているうちに、オービュロンの息苦しさ…そして、信濃から感じる違和感も完全に消え去ったのだった。
邪気が完全に祓えたことを確認した大典太は、信濃の本体から手を離した。
「……終わったぞ。気分はどうだ」
「清々しい、気分デス。重苦しい気持ちも全部無くなりマシタ」
「……そうか。なら、良かった」
信濃の解呪も完了した。短刀も事情を知っているオービュロンの手の中にある。大典太はそう考えると共に、戦っている鬼丸達の方向を向いた。
分身は2人のポケモンと一振の連携で徐々に小さくなっているが、その分ダメージを追っているのも事実。今戦っている2人と一振でイーブン。大典太が加勢することでやっと優勢に持っていけるのだろうと彼は分析していた。
「……一対三。人数的にはこちらが有理だが…人外と戦っているからな。しかも邪神の分身…。今は良くても、徐々に押し返されるだろう。若干分身の方の力が有り余っている」
「エッ?ソレッテ大丈夫ナノデスカ?」
「……正直大丈夫じゃない。だから、俺もこれから鬼丸達に加勢をしにいく。オービュロン、あんたは―――」
分身は信濃の本体を強奪しようとしていた。つまり、オービュロンをあの戦いの場に近付ける訳にはいかないということである。大典太はオービュロンにこの場から離れることを伝え、鞘から刀を抜き去った。
それと同時に、背後に誰かが走ってくる音が聞こえてくる。振り向いてみると、そこにはモンスターボールを持って全速力で走るノボリの姿があった。大方、避難が終わった為単身加勢に来たのだろうと大典太は判断した。
「お客様の非難は皆無事に終了いたしましたので、加勢に参りました!現在の戦況はどうなっておりますでしょうか!」
「……そうか。避難は無事に終わったか。怪我人は?」
「今のところ0でございます。あの場に関しては、クダリやワリオカンパニーの社員の皆様にお任せしております。戦況次第ではわたくしも加勢した方がいいと判断し、全速前進で会場の方へ戻って参りました」
「……そうだな。今のところイーブンだが…。俺も治療は全員終わったんでな。鬼丸が攻撃をひきつけておいてくれたお陰で、こちらに攻撃が向くことはない。
ノボリ…あんたに頼みがある。オービュロンと一緒に物陰に隠れていてくれ」
「…………。成程!信濃さまの本体をお持ちなのですね。確かに彼は本体を狙っておりました。ならば、目立つ場所にいるのは得策ではありません。本体が見つかったが最後、優先的に狙われてしまいます。
かしこまりました!不肖ノボリ、大典太さまのサポートを全力で行います故!さあオービュロンさま、わたくしの肩にお乗りください!」
「ハイッ!」
大典太も丁度手が空いたことを話し、ノボリにはオービュロンと共に物陰に隠れているように指示をした。ノボリは首を傾げかけたが、オービュロンの手に持っている短刀を見てすぐに状況を判断した。今狙われたら一番不味いのは、信濃の本体を持っているオービュロンである。であれば、単独でいるのは最も危険な行為。"お客様の安全を守る"のもサブウェイマスターの仕事だと豪語するノボリにとっては、今のお客様はオービュロンに他ならなかった。
ノボリは大典太の考えをすぐに察知し、オービュロンを肩に乗せ早歩きでその場から離れた。
「……やけに丁度いいタイミングだったな。車掌はみんなああなのか?いや、そんなことを考えている暇はなかったな。
折角作ってくれたチャンス…無駄にするわけにはいかんからな」
大典太はそう呟いて、鬼丸達が戦っている場所まで加勢しに走ったのだった。
- Ep.02-ex【再度開催!メイドインワリオカップ】 ( No.104 )
- 日時: 2022/05/07 22:30
- 名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)
「ストリンダー!ほうでん!!」
「モルペコ!オーラぐるま!!」
ストリンダーの身体からほとばしる電気の濁流により、分身がまた少しずつ小さくなっていく。最初に鬼丸が斬りかかった時より、現在の分身の大きさは小さくなっていた。あともう少し攻撃を与えれば倒せるかもしれない。そんなところまで来ていた。
しかし、対峙する鬼丸達の体力も徐々に奪われている。特に、後ろに控えるネズとマリィを護りながら戦っている鬼丸のダメージは計り知れないものだった。
「これが…分身の本当の姿なの?あの男の人の、本当の姿…」
「あぁ。分身は元々特別な個体を持たない。だからこそ様々な姿に擬態が出来る。おまえの友人や、あの車掌共の言っている少女を攫った奴も違う姿だったんだろう」
「イリュージョン?魔術師のように姿変えるってか!」
「アニキ!ハイテンションに分析しないで!」
しかし会話が出来る余裕はある。それもこれも、ネズとマリィが勇気を出して加勢してくれたおかげだった。分身とはいえ神を相手取ることに関して、最初は鬼丸も一振で何とかしようと思っていた。しかし、一太刀いれたところで彼も気付いたのだ。"一振ではどうあがいても倒すことは不可能"だということに。
そんな彼の元に分身からの攻撃が襲い掛かる。刀で受け止めようとした矢先、自分とは違う太刀が目の前に見えた。思わず鬼丸はその刀剣男士の名前を口にする。
「―――大典太」
「……少し遅くなったか?だが、もう少しみたいだな」
「そっちはどうなんだ」
「……あんたのお陰で予定より早く解呪が終わったよ。だから加勢に来た。オービュロンは今ノボリと一緒に避難している。信濃はオービュロンが持っているから…ここにはない」
「そっか。あの短剣、オービュロンさんが持っててくれてるんだ」
「……あぁ。あんた達も加勢助かる。鬼丸の負担が減ったし…これなら何とか倒せそうだな」
「だがまだ曲は終わってねぇ。ネズのラストライブは、相手に刻み付けるまでは終わらないのだ!!」
「(……ハイテンションになるとああなるんだな…)」
背後でポケモンに指示を出しているネズとマリィにも声をかけている。ライブではないのにネズは何故かハイテンションになっていた。恐らくノボリと同じような感じなのだろうと大典太は最終的には解釈し、分身の方向を向き刀を構えた。
同時に、会話をしている暇など無いとでも言うように分身から黒い塊が物凄い速度で飛んでくる。しかし、大典太は素早く太刀で受け止め逆に切り裂いてしまった。連動するように分身も小さくなっていく。
「大典太。連携して切り刻むぞ。粉々にして、あのトゲ頭の持っているポケモンの雷で焦がす」
「……トゲ頭じゃない、ネズだ。ちゃんと名前で呼べ」
「いまはどうでもいい話だろ」
「……だが、作戦に関しては理解したぞ。随分と力業じゃないか」
「そっちの方が手っ取り早い。戦いを長引かせても意味がないからな」
鬼丸と大典太の話し声が聞こえていることを祈り、後ろのネズを見る。彼は足でリズムを取りながらも、顔をくいくいと分身に向けて動かしていた。しっかりと二振の作戦は耳に届いていた。最後のとどめはきっちりやってやると。だから思いっきり切り刻んで来いと。ネズは目でそう訴えていた。
彼の瞳を再度確認した大典太は、鬼丸と同時に分身へと飛び掛かる。
「―――斬る」
「……斬るッ!」
―――力強く、鋭い斬撃。大典太と鬼丸の連携を見ていたネズが最初に抱いた感想はそれだった。一寸の狂いもない、互いを信頼しているからこその切り裂かれる音のハーモニー。彼らだけにしかできない連携攻撃。その前に、倒すべき敵も成す術がなかった。
分身の身体は二振の刀剣男士によって切り刻まれ、粉々になっていく。しかし、相手も神なるものである。すぐに再生しようと、切り刻まれたところから這い寄ってくっつこうともがく。
―――大典太はその隙を見逃していなかった。
『……今だ!ネズ!』
『ストリンダー!オーバードライブ!!』
―――刹那。
ストリンダーが奏でる雷の旋律に分身は全身を焦がされる。再生能力をも全て黒く焦がすように。
分身は黒く焼かれ、灰になった身体はさらさらと空中へ浮遊し消滅したのだった。
「終わったの、デショウカ…?」
「―――終わったようですね。我々も合流いたしましょう」
物陰から分身との戦いを見届けていたノボリとオービュロンは小さくそんなことを口にし、物陰から出て一同と合流を果たした。オービュロンは、ノボリが武者震いを無意識にしていたことに気付いていた。彼は本当にポケモン勝負が。他人の役に立つことが生きがいなのだと改めて感じた。
ネズもマリィもポケモンをボールに戻し、"お疲れ様"と声をかけている。勝負が終わった途端、ネズはいつものように陰気な顔で大典太と鬼丸に顔を向けたのだった。
「お疲れ様でございます。皆様無事に…任務を果たされたようで。本当ならばわたくしも加勢したかったのですが…」
「いいんですよ。オービュロンを一人にしなかった。それがあんたの今回の仕事です。来てくれて助かりましたよ」
「肝が冷えマシタ。激しい戦いデシタ…」
「……俺はあんたの行動に背中が冷えたがな」
「オービュロンさん、短剣持ってっちゃうんだもん。そのまま置いておけば良かったのに」
「あー…。いや、それはおれの責任です。マリィとオービュロンと合流した時にそのまま回収しておけば良かったんですよね。すみません」
「……いや。結果的に信濃の邪気の解呪も出来た。"終わり良ければ総て良し"だ」
「素晴らしいニポン語デス!」
「はて?夢の中でそんな言葉を聞いたことがあるような…」
「思い出さなくていいんですよノボリ」
無事に一同が合流し、無事を確かめ合う。信濃の解呪も無事完了したことも告げると、皆安心したような表情になった。
それと同時に、ネズのスマホロトムが懐からふよふよと浮かび上がる。"ダンデから通信ロト~!"という声に繋げるよう指示すると、画面にぱっとダンデの顔が映った。
『おお!皆無事みたいだな!いやー、良かった良かった。これで無事に表彰式を続けられそうだぜ』
『アニキは呑気だな…。会場滅茶苦茶だし、直すまで少し時間かかるんじゃないのか?……あ。あとノボリさん。クダリさん怒ってたぞ!』
「えっ」
『観客みんなの避難が終わったと思ったら、"ノボリが飛び出していった!"って慌てた様子でオレに話しかけてきてさ。凄く心配していたぞ』
「……クダリに了承を取って来たんじゃないのか?」
『取ってない!勝手にぼくの名前使わないで!』
「あの時は緊急事態だったのです!お許しくださいまし!」
『ノボリが給湯室に隠してる、最近買った紅茶味のカステラくれたら許す』
「なっ…!クダリ、どこからそれを!」
「うちにはとんでもなく口が軽いお喋りなジムリーダーがいますからねぇ。大方そこなんじゃないんですか?おれもダンデに過去を晒された腹いせがあるんでね。殴りに行くので…もしよければ1発から2発に増やしておきますよ」
「ぼ、暴力は良くありませんよネズさま?!」
「スキンシップの一種です」
「……あんたのあれもスキンシップか?」
「殴ってやろうか」
「……何でもない」
クダリが通信が繋がったことに気付き、ノボリに対して言いたいことを言った。どうやら了承を得たのではなく、皆が大変なことになっていると予感がした為単身暴走特急のように走っていったのが真実だった。
ノボリはクダリの名前を勝手に使ったことを謝罪し、紅茶味のカステラもちゃんと分けることを約束した。
観客の方はどうかと進捗を訪ねると、ダンデは笑顔でこう答えた。
『大典太さんが治療を担当してくれた観客以外の無事は全員確認済みだ。怪我人もいないぜ!』
「そっか。本当に良かった…」
『……ねえ。それ繋がってるの?』
『ん?うん。そうだけど、どうしたの?』
『……いいたいことがあるわ』
ダンデとそのまま進捗の確認をしていると、ぬっと画面に割り込んでくる黒髪のツインテールの少女が見えた。彼女は確か"アシュリー"と呼ばれていたはずだ。
何事かと尋ねると、彼女は淡々とした口調でこう口を開いた。
『ソニックっていう参加者も…みんなの為に率先して動いてくれていたわ。それを伝えたくて…。……今は、ありがとうと言っておくわ』
『アシュリーが素直に感謝するなんて滅多にないことなんやで~!胸に刻み付けないとな!』
『……レッド』
『そんな怒らんでもええやんてアシュリー!別に悪口言ったわけじゃないんやし!』
『……チッ』
「……その参加者にも改めて礼を伝えておいてくれ。落ち着いたら会場に戻って来てもらっていい」
『分かった。改めて全員の無事を確認した後、徐々に会場に戻ってもらうようにするぜ。それじゃ、一旦切るぞ!』
「はい。気を付けて戻ってきてください」
どうやら観客はもう少ししたら戻ってくるらしい。ネズはダンデの通信が切れるのを確認し、一同の方を向き直った。
会話が落ち着いた後、ノボリが気になったことがあるのか口を開く。
「あの。皆様が戦闘していらっしゃった液体のようなものが…ネズさまとわたくしに呪いをかけたという"分身"なのでございますか?」
「あぁ。ああいった奴らが世界中に散らばっている。擬態までしてな。もしかしたらおれ達の知り得ない世界にも蔓延っている可能性がある」
「知り得ない世界…。それって、この世界にまだ混ぜられてない"異世界"ってことになるのかな」
「ソウダト、思いマス。コノ世界ダケデ問題が解決シテイナイノガ問題ナノデス」
「今はその散らばっている分身を少しずつ削って、力を削いでいきながら本体を探すことしかできない。相手が雲隠れしているんだから探しようがないだろ」
「探している存在が"同じ世界" "同じ時代"にいるとは限らない…。ポケモン勝負も、探し物も。視野を広げねばそこまでの景色となってしまうのでございますね」
「ノボリがそれを言うと違う意味に聞こえてくるんでそこまでにしましょう。ね?クダリが泣いちまいますよ」
「は、はぁ…」
鬼丸が渋い表情をしながら淡々と事実を語る。一同のやり取りに、薄々兄が隠し事をしていると悟っていたマリィも全てを納得した。兄が隠していた事実は"このこと"なのだと。ユウリ達を探す協力をしてもらう代わりに、兄はこんな危険な事柄を協力すると言ったのだと。
ネズも議事堂に世話になる以上、いずれこの話が耳に入ることは覚悟していた。しかし、自立しているとはいえ兄として妹は守らねばならない。ノボリに茶々を入れつつも、内心彼は悲しんでいた。
しかし、その不安を取り払うようにマリィは拳をぎゅっと握り、口を開いた。
「みんな、大変なことに向かってぶつかってるんだ」
「マリィ?」
「アニキ。たぶん、あたしを巻き込まないようにこのことずっと隠してたんだよね?」
「う…。確かにそうです。命が散るかもしれないって物事に妹を巻き込みたくはないですよ。兄として当然の気持ちです」
「ネズ…」
「アニキならそう言うと思っとったよ。でも…あたし、このまま守られてるだけじゃ駄目。あたしにも出来ることが何かある筈。
あたし…今回みんなに助けられた。だから、こうして無事でいるんだと思ってる。あたしもみんなの為に出来ることをしたい。遠慮しないでマリィの力も頼ってよ。これでもジムリーダーやけん、あたし」
「……無理しなくてもいいんだぞ?あんたはまだ子供だ」
「前田くんだって子供!ホップだってまだ子供!」
「あのですね妹よ。ホップはともかく前田はあんな見た目ですが、おれ達よりずっと年上ですよ」
「えっ…そうなの?」
「実はそうなのでございます…。わたくしも最初は驚きました。彼らは物に宿る"付喪神"と呼ばれているのです」
「世の中、不思議なこともあるもんやねぇ…」
「……俺達のことならまだまだ序の口だ。この前会った茶髪のもみあげが目立つの少年なんて…小学生くらいに見えるが、俺と大体タメだった筈だ」
「みつよサンは確か1000歳クライダト聞いてイマシタノデ…。エッ、同い年?!」
「なんと!」
「見た目で物事を判断したら痛い目を見るといういい教訓になりましたね」
「……何か過去にあったのか?」
「戦闘中に『トゲ頭』という言葉が聞こえて来たもんで。言われ慣れてるんで気にしてませんがね」
「…………」
「何をおっしゃいますか!ネズさまの髪型は大変前衛的でブラボーでございます!わたくし、非常に好ましく思っておりますよ!」
「ちょっと黙りんしゃい天然暴走特急列車」
「(……ネズも方言使うんだな)」
結局おかしな話に転がってしまったのを聞きつつ、マリィは改めて皆に協力することを誓った。
もう兄だけに背負わせることはしない。自分に出来ることは、ちゃんと自分でやろうと思ったのだった。