二次創作小説(新・総合)

Ep.00【舞い戻れ、新たな異世界】 ( No.11 )
日時: 2021/09/10 01:09
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: Z28tGAff)

「どうするんですか?時間が無いんですよね?」
「そうですけど…。何も情報が無いんじゃ動きようもないですよ!」
「そりゃあ分かる。けどさ、俺達がここでじっとしていたら手遅れになる。おじさん、そんな気がするんだよね」



 速報で流れてきたニュースは繰り返し同じ話を続けており、事の重大さを一同に刻み込ませていた。
 『門』のありかを探そう、と彼らが動き出した矢先で速度を上げた白い光。いささか意図的にも見える事象だが、何も情報が集まっていない今の状態でどう動くのが "最善" なのか。ルークには測りかねていた。
 どうすれば全員が助かる道を切り開けるのか。どうすれば誰一人の犠牲もなくこの危機を突破できるのか。
 ……そんな彼の耳元に、小さく聞き覚えのある声が聞こえてきた。周りに気付かれない様、チェズレイが耳打ちをしているのだ。もしかしたら彼が打破する何かを閃いたかもしれない。そう考えたルークは、考えることを一旦辞めて彼の言葉に耳を傾けてみることにしたのだった。



「……ボス。時間が無い、かつ我々が持っている情報が0に等しい。かなり不利な状況ですね?」
「あぁ。それは分かっているよ。だからこそこの危機を打破しようと何かを考えているんだ」
「ならば…。 "過去の事象" をその情報に宛がってみては?」
「過去の…事象?」
「えぇ。丁度そこにいるではありませんか。 "恰好の情報" が、ねェ……?」



 そう言って、チェズレイはちらりと横目でサクヤの方を見やった。
 そこでルークはとある考えに行きついた。現地で情報を集められないのならば、過去の事象から推測を立てればいい。多少事情を知っているサクヤから『門』についての情報を聞き出せれば、突発的な策くらいは思いつくかもしれない。
 ルークはチェズレイに小さく礼を言い、サクヤに向かって話しかけた。



「サクヤさん!あの…『門』の形状は覚えていますか?!時間が無いので手身近に話します。
 門を潜ることで別の世界へ移動が出来るのなら…。白い光が僕達を呑み込むタイミングで、逆に『門』を潜ってしまいたいと今思いついたんです」
「えっ…?!でも、『門』を潜ったからって安全だとは限らないよね?」
「でも、何も対策をせずに白い光に呑まれる方が危険だ。僕はそう思っています。
 時間が無いんです。見た目とか、大きさとか。知っていることがあれば教えてください」
「……成程。承知しました。しかし、ここで話している時間が勿体ありません。何か移動手段があれば、その中で話しましょう」
「ならばすぐに車を用意してこよう。何、地下にプライベート用のものを置いてあるからな。君達はオフィスの入口で待っていてくれ」



 白い光がミカグラを覆い始めている以上、立ち止まって話をする時間はない。サクヤはそう答えた。
 ならば車の中で移動しながら話そうとナデシコは足早に部屋を出ていった。部屋に残っていたルーク達も後れをとるまいと、手荷物だけを用意し部屋から素早く立ち去った。
 ―――この部屋に、再び戻ってこれる日が来ることを祈って。


 ルーク達が入口まで降りてくると、既に藍色のセダンが彼らを待ち構えていた。
 運転席の窓から顔を乗り出し、ナデシコが "乗れ" と催促をする。時間がないのは全員分かっていた為か、無言で車に乗り込む一同。最後に乗り込んだアーロンがドアを閉めた瞬間、セダンはエンジン音を響かせ猛スピードでオフィスを離れていったのだった。


























「いやー…。相変わらずナデシコちゃんの運転はワイルドだねぇ~」
「慣れたものだろう。だが、これでも安全運転は遵守しているつもりなんだがな?前とは違って、今は公に警察のトップなのだから」
「そうですね…。それでサクヤさん、『門』の外見を教えてくれませんか?分かることだけでいいので」
「『門』…。皆様が聖堂や教会の入口や通路で見るような門だと思っていただいて構いません。基本的に陶器で出来ている為、遠くから見てもそれが分かるデザインをしているはずです。
 大きさですが…。これは門によって様々なので何とも言えませんが、人が通れる大きさで、先程私が申し上げた特徴と一致するならば『門』と思っていただいて構わないと思います」
「つまり、陶器の柱を見つけりゃいいんだな?」
「お、アーロン!僕の考えを読んでくれたんだな?!」
「気持ちの悪ぃこと言ってんじゃねぇ」
「つまり…。ルークはこう考えている訳だ。サクヤちゃんから門の大体の見た目を聞き出して、それをアーロンの並外れた視力で探してもらう。そして、白い光がこっちに迫って来た時にその門に車をダイブさせる…って寸法かい」
「はい。随分な賭けになりますし、もし門がなければ策自体がおじゃんになってしまいますけど…」
「……サクヤ嬢は『一定の間隔で門が発生する』と仰られていました。そこから推測すれば、ブロッサムのどこかに門があってもなんらおかしくはありません。
 ―――それが、我々の通るルートにあるかどうかはそれこそ賭け、ですがね。……悪くない考えだと思いますよ、ボス」



 セダンが街中を走る中、ルークはサクヤに先程の話の続きを促していた。
 彼女曰く、門は陶器で出来ている。しかし、大きさはまちまちで一定ではない。しかし、人間が一人通れるサイズが少なくともある。以上のことが分かった。
 彼の考えを読んだのか、アーロンが "その門を見つけりゃいいんだな" と口を挟んで来た。ルークもそう思っていたようで、心なしか彼の表情が明るくなったような気がした。
 彼らの連携の速さにサクヤが関心をしていると、運転していたナデシコが静かに語りかけてきた。



『頼もしいだろう?私のかつての駒、は』



 と。
 彼女の言葉を聞いたサクヤは、改めてナデシコが恐ろしい存在なのだと思ったのだった。






 見晴らしのいい噴水広場でアーロンは天窓を開け、ブロッサムの様子を伺う。
 聴こえてくるのは静かな水の音と、夜風が木々を揺らすそよそよとした草木の音だけだった。特に違和感があるとは思えたが、彼はもう一度目を凝らし周囲を見回してみる。



「(…………。―――ん?)」



 噴水広場の右の林の奥。一瞬だったが、夜を彩る光にはふさわしくない『白』が彼の目に映った。
 間違いない。ニュースで流れていた白い光そのものだ。
 アーロンはすぐにセダンの天窓を閉め、ナデシコに話す。『終わり』が近付いてきていることを。



「おい。白いのがこっちに向かって来てやがる!!」
「えっ、流石に速すぎない?!もうブロッサムを呑み込み始めてんの?!」
「陸地に降り立ってからのスピードが更に上昇しているのでしょう。怪盗殿、門は見つかったのですか?」
「いいや、まだだ。だが…もう少し迫れば見えるかもしれねぇ」
「分かった。そのポイントを教えてくれ。移動しよう」



 アーロンが見える位置まで移動する為、ナデシコは再びセダンのエンジンをかけた。
 噴水広場を離れ出した途端、ルーク達にも遠目に見えてしまった。飛空船で小さく見えた、あの白い光が。ブロッサムの街を次々に呑み込んでいく光景が。


 ナデシコが車を走らせた先は、街中から少し離れた丘だった。ビルなどが立ち並んでいない方が、アーロンの視界の妨げにならないと考えたのだろう。
 アーロンは再び車のボンネットを開き、そこから辺りを見回す。光は勢いを増していた。先程までいた噴水広場も、もう数秒で呑まれるところまで来ていた。
 そこを中心に、じっと広範囲を見続けていると―――。アッカルド劇場の付近の道路に少しずつ迫っている光に、陶器のような何かが見えた。



「そこか…!」
「アーロン!どこにあるのか分かったのか?!」
「あぁ。あの劇場の近くだ!!急げ!!」
「劇場って…アッカルド劇場?」
「そうだよ!あの一番デケェ劇場だ!」
「少し距離があるが…。行こう。到着する頃にどうなっているかは知らんがな」
「劇場…。門がそこに上手く辿り着いてくれればいいんだけど…」



 場所を伝えると、アーロンがボンネットのロックを掛け終わる前にナデシコは丘を出発した。言葉通り、ここからでは少し距離があるのだろう。
 バランスを崩しモクマの膝の上に頭を一瞬乗せてしまったが、持ち前の身体能力で席に座り直す。そんな彼を無視し、セダンは劇場の方まで走って行った。










 劇場付近に車が到着した頃には、辺りが白く覆われていた。ナデシコの予測とは打って変わって、劇場を覆うまでには行かなかったようだ。
 彼女は劇場の近くに止め、アーロンに再び門の場所を探る様に頼む。賑やかだったはずの街並みは夜の暗闇に溶け込んでしまっていた。
 ボンネットを外し、天井から頭をアーロンは覗かせる。目の前に迫る白い光に臆さず目を凝らす。すると―――。



「(……そこか。交差点のど真ん中だった場所につっこみゃ丁度門にぶつかる頃合いだな)」



 無言で車の中に戻り、再びアーロンはボンネットを閉めた。様子を聞いたナデシコに、彼は結果だけを叫んだ。






『交差点のど真ん中に門が見えた。真っすぐつっこみゃ潜れる!!!』






「……随分と分かりやすい場所に現れたもんだな。だが、助かった。感謝するよアーロン」



 アーロンの声を聴いたナデシコは、アクセルに足を乗せた。そして、助手席に座っているスイと後ろに座っている残りの面子に改めて確認を促した。



「今からアーロンの指定した場所に車を動かす。皆、覚悟は出来ているか?」
「いや、覚悟はとうの昔にできちょるけども。ナデシコちゃん…。これ、もし『門』とやらを潜れなかったらどうなるのさ?」
「モクマ。失敗することを考えるとはお前らしくないな。サクヤも言っていただろう?どうなるか分からない、と。目の前にそれを回避できる術があるのならば、成功する道に進むことだけを考えろ。
 まさか、アーロンの視力を信用していないわけではあるまい?」
「…………」



 そう言いつつ、彼女はエンジンを思いっきり踏んだ。セダンが猛スピードで前進する。
 振動で後部座席に座っていた5人の身体が揺れるも、お互いを掴んでいたお陰で飛ばされることはなかった。そんな中、サクヤは二振の太刀をぎゅうと緩く握る。縋っているのかもしれないが、彼らからの反応はない。
 今はただ、門を上手く潜れることを祈るしか出来なかった。


 全速力でセダンは白い光に突っ込んでいく。それに応えるかのように、地面を走る光も道路を白く染め続けていた。
 ぐんぐんと速度を上げた車は、丁度交差点のど真ん中に差し掛かったところで白い光に呑まれた。































 自分達を包み込む光に思わず目を強く瞑ってしまう一同。
 駄目だったのだろうか。しかし、横目に陶器の柱が見えた。これは門の内側なのか、外側なのか。それは誰にも分からなかった。
 そのまま―――彼らは意識を閉ざしてしまった。まるで眠りにつくかのように…。




 彼らを乗せた車は、『門』に呑み込まれるように消えていった。
 車の最後方が門を完全に潜った後、それは最初から無かったかのように跡形もなく消滅してしまった。
 そのまま、白い光はブロッサムを―――強いては、彼らの住んでいた穏やかな世界を白く染め上げたのだった。