二次創作小説(新・総合)

Ep.03-1【ドルピックタウンにて最高のバカンスを!】 ( No.114 )
日時: 2022/05/14 23:38
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 マリオとルイージがリレイン城下町を訪ねてから一週間が経った。
 花満開だった春の陽気はなりを潜め、初夏の日差しが城下町を照らしている。本日も晴天なり。そんな言葉が似合う程には気持ちのいい朝だった。
 リレイン城下町に点在する議事堂では、町長であるラルゴが議事堂で暮らしているメンバー全員をエントランスに集めていた。

 大典太達がチームBONDと共に王国を解放してから、随分と街に人と活気が戻ってきた。"混ぜられた"世界の人々も積極的に街の為に動き、王国は更なる発展を遂げようとしていた。
 世界も、種族も、年代も違う彼ら。しかし、日々を一生懸命生きる彼らの思いは1つだった。



「みんな、よく集まってくれたわね。調子はどうかしら?」
「ぼちぼちかな。あたしもみんなも元気。これも町長さんが日々頑張ってくれてるお陰やね」
「うふふ、嬉しいこと言ってくれるじゃない♪ 元気なら良かったわ~。アタシもみんなが議事堂のお仕事手伝ってくれてるからすっごく助かっちゃってるのよ」
「回りくどい言い方はいいんで、おれ達をこの場に読んだ理由を早く話してくださいよ」
「あんまり町長さん急かすんじゃねぇの、ネズ」



 ネズが早く本題に入ろうと話を戻したところをキバナに突っ込まれた。"おれは別に余計なことは話していない"と、彼は目で訴える。そんな彼を大典太が宥めている間、ラルゴは目の前にいたクダリにパンフレットを手渡した。
 彼が受け取った書籍には"ドルピックタウン観光のコツ!訪れたならば行くべきはここだ!"とタイトルが綴られていた。
 表紙を見つめながら、クダリはラルゴに問いかけた。



「ドルピックタウン?ここで何するの?」
「ネズちゃんには前にお話したんだけど…。近々、リレイン王国とドルピックタウンが協力提携を結ぶ会議があるのよ。本当はアタシが直接行かなきゃならないんだけど、仕事が山積みでここから動けないの。だから申し訳ないんだけれど、今回アナタ達にはアタシの代理で会議に出席してもらおうと思って呼び出させて貰ったのよ」
「か、会議…ですか?」



 ラルゴが発した言葉にネズと大典太以外の表情が歪む。彼が常々忙しいのは皆分かっていたが、まさかこんな大事な要件まで任せられることになるとは思っていなかったからだ。今の時代、スマホロトムを通じて会議など普通に出来る。高い技術を誇るシュートシティやダイヤモンドシティ、果てはネクストコーポレーションに助力を求めれば、充分ラルゴでも会議が出来るのではないかと一瞬脳内に浮かぶ。
 考えを彼に告げるも、ラルゴは首を横に振った。どうやら、ドルピックタウン側の設備が整っていないらしい。現在の町長は、良くも悪くも伝統を守る……逆説的にいえば"古い考えから抜け出せない"タイプの人間だった。
 あまりにも重要な任務を言い渡されて狼狽えたのか、前田が小さく切り返してきた。



「あの…。確かに町長殿のお手伝いをすることが我々の役目です。しかし、そんな責任のある仕事まで任される立場ではないと思います」
「いくら向こうが技術不足だといっても、こっちの仕事をおれ達に振ればいいだけの話だろ。何故わざわざ自分がこの国に残る選択を取る。不便だったら王にでも姫にでも相談しろ」
「うん。流石の俺も今は前田と鬼丸さんに完全同意、かな」



 刀剣男士三振の意見を聞き、ラルゴはうんうんと頷く。そして、"そんなに固く考えなくてもいい"とマリオに提案されたことを話し始めた。
 依頼したいことは何も"会議"だけではない。いつも手伝ってくれる彼らに送る、ラルゴなりの"プレゼント"なのだ。



「実はね?マリオちゃんが会議の仲介人として一緒に参加してくれるのよ。そして、彼らのご厚意でバカンス旅行にも誘ってくれるみたいなの~!もし会議だけならアタシがどうにかして参加すればいい。でも旅行よ?常夏の街でバカンスよ?これはみんなに行ってもらうしかないじゃない!って思いついて、話を振ってみたって訳」
「マリオさん…って、あたしがこの前参加したゲーム大会で最後まで残ってた人だったよね。超有名人」
「遂に直接お話する機会が訪れた、ということなのですね」
「おれがこの依頼を初めて聞いた時、マリオとルイージとも直接話をしましたね」
「ねえねえ!どんな感じだったの?」



 ノボリとクダリは"双子"という共通点が気になっていたのか、マリオとルイージに深く興味を持っていた。クダリがネズに印象はどんな感じだったかと尋ねる。彼は少し考えた後、こう答えた。



「うーん…。ネジの外れ方はあんた達と同じ感じでしたね。今のところは兄の方がぶっ飛んでる印象です」
「それは対面するのが非常に楽しみでございますね!」
「マリオさん陽気な雰囲気だったし、仲良くなれるといいね。ノボリ!」
「(どっちもどっちだとオレさま思うんだけどなぁ…)」



 わいわいとキノコ王国の双子と直接対面できることを喜ぶサブマス双子を見ながら、キバナは"目の前にいる車掌2人も似たようなものではないか"と頭の中でネズに突っ込んだのだった。
 雰囲気が明るくなってきたのをラルゴも察し、会議のことは二の次で、バカンスを楽しんできてほしいとはっきり彼らに告げた。
 それでも悩む刀剣男士にキバナが言い放つ。



「いいんじゃねぇの?ここの国と連携が出来るってことは、シュートシティにとっても利点がありそうだからな。もしかしたらドルピックタウンとやらにもポケモントレーナーが迷い込んでいるかもしれねぇし」
「確かにね。なら…行く前にダンデにも一応連携しておきますか」
「もしかしたらポケモンも迷い込んでいるかもしれません。事前の連携と準備はしっかりといたしましょう。安全な旅行を開始させるには、綿密な事前準備が重要です」



 キバナ、ネズ、ノボリがシュートシティに関しての話し合いをしている傍ら、クダリとマリィは既にソファに座ってガイドブックをぱらぱらと捲っている。彼らも行く気満々で、ページを見ながら"ここがいい" "ここもいい"と旅行先について楽しそうに話をしていた。
 その場にいる全員が"行く"という方向で話が纏まりかけた中、オービュロンが申し訳なさそうな表情で手を挙げた。



「ゴメンナサイ。行きたいノハ山々ナノデスガ、ソノ日はわりおサンに呼び出しを喰らってオリマシテ…」
「俺もその日は無理かなー。大将の手伝いでダイヤモンドシティに行かなきゃならないもん。多分、あの大会で設けたお金についての話し合いだと思うんだ」
「あら。それは大変重要なお話じゃないの!そっちが優先で大丈夫よ」



 オービュロンは旅行当日、ワリオから呼び出しを喰らって行けないと答えた。ゲーム大会で設けたお金についての大切な会議のようで、すっぽかしたらどうなるかは全員が簡単に分かった。最悪ワリオが全てネコババを決め込む可能性もある。止める人間は多い方がいいだろう。
 信濃もオービュロンの手伝いをする為、ドルピックタウンへの遠征には参加しないことを表明した。


 そんな彼らの様子を見ていたネズはふと頭に1つの考えが浮かんだ。"これだけ大勢が行く気なのだから、自分1人"参加しない"と伝えても大丈夫なのではないか、と。そもそもネズは暑さが大の苦手なのだ。実際嘆いていたところを大典太にいらぬ慰めを貰ったことも記憶に新しい。
 ならば、今のタイミングで口に出すしかない。ネズはおずおずとオービュロンに並ぶように手を挙げ、自分の思っていることを口にしたのだった。



「すみません。実はおれも…」



 申し訳ない表情を作り、必死に常夏の暑さから逃げようとするネズ。しかし、隣に立っていたドラゴンストームには全てお見通しだった。煽る様に彼に声をかける。



「いやいや。言い出しっぺオマエだって聞いてるぞネズ~。敵前逃亡はオマエらしくないんじゃねぇの?」
「は?」
「ぼく、ネズさんとも一緒にバカンス楽しみたい!一緒に行こう!」
「えぇ? あのですね。ラルゴ町長の話を聞いていたんですか。ドルピックタウンは"常夏の街"ですよ。熱気と湿気が合わさったような場所へのバカンスなんて以ての外です!おれ、干からびちまいます…」
「……ネズさま。非常に申し上げにくいのですが…」
「はい?」



 クダリの真っすぐな目に折れ、行きたくない理由を並べ説得にかかるネズだったが、ノボリがしょんぼりとした表情を浮かべながらとある場所を指し示した。ネズにとっては良くない報告だということは彼の顔を見ればすぐに分かった。
 手を差し伸べた方向を見てみると、既にキバナがラルゴに"オービュロンと信濃以外の全員がバカンス兼会議に参加する"ということを丁度伝えた後だったのだ。



「じゃあ、オービュロンと信濃以外の全員が参加…っつーことで。町長さん、ヨロシク!」
「は~い♪ じゃあ、ドルピックタウンにもマリオちゃん達にもそう伝えておくわね!」



 ラルゴはるんるんとステップを踏みながら町長室へと戻っていった。キバナはしてやったりとした表情でこちらを見る。彼が断る隙をつき、ネズの逃げ道を全て封じてしまったのだ。
 町長室のドアが閉まる音が聞こえた直後、彼の顔から表情が消えた。ネズが怒っている。そう確信した大典太は彼を宥めに入る。



「……ネズ。前にも言ったがドルピックタウンに行ったからといって常に外に出ている必要はない。それに、あんたが言い出しっぺだということは言いようもない事実だろう。逃げる訳には行かないのは本当だ…」
「光世…。余計な慰めはいりません…」
「ネズ?」



 普段の彼からは想像もつかないが、彼は元々気性が荒い。キバナにあんなに煽られた上で逃げ道を封じられ、怒りの感情が抑えられない訳がなかった。
 悪気はないとでもいうようにきょとんとするキバナに彼は殴りかかった。






『今日という今日は許しませんよおおお!!!!!キバナぁぁぁぁ!!!!!』
「いけません!猪突猛進はおやめくださいネズさま!!」






 久しぶりに怒りを全身で表すネズを見て、キバナは流石にやり過ぎたとやっと気付いた。しかし、彼の怒りの炎は暴走特急のように止まらない。
 今にも顔面に殴打をしそうな彼を、ノボリは全身で止めていた。ノボリの方が体格差が大きいからこそやっと止められていたことから、キバナは彼の高身長に心の中で感謝をしたのだった。

Ep.03-1【ドルピックタウンにて最高のバカンスを!】 ( No.115 )
日時: 2022/05/15 22:02
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 議事堂でのひと悶着が落ち着いた頃、ラルゴが連絡を終え町長室からエントランスに戻ってきた。何故かキバナが膝をつき蹲っている現場を目撃し、自分がいない間に何があったのだろうと疑問を抱える。
 大丈夫かと声をかけるも、キバナは声すら出ない程の目にあったらしく腹を抱えてその場から動こうとしない。代わりにネズが口を開いた。どこか満足気な彼の表情を見て、ラルゴはそれ以上話を深堀することをやめた。



「大丈夫です。気にしないでください。キバナなら白昼堂々盛大に顔から転んだんですよ。とても痛そうでした」
「そうなの?ならいいけど…。無理はしないでね、キバナちゃん」
「…………」
「あ、そうそう!えーっとね。マリオちゃん達、今日から一週間後に迎えに来るんですって。それまでにみんなしっかり準備をして、バカンス楽しんできてね!」
「本来の目的は会議だった筈です町長殿!目的と手段が入れ替わっていませんか?!」



 そもそもラルゴは"会議だけなら自分が行く"とはっきり告げたばかりである。つまり、この依頼はバカンスで楽しむことが前提。きっとマリオ達もそう思って議事堂のメンバーを招集するように頼んだのだろう。
 彼はそのままひらりと一同に手を振り、再び町長室へ戻っていった。実質解散ということだと理解した彼らは、早速各々行動を始めることにした。



「ソレデハ。皆サン、ばかんす楽しんでキテクダサイネ!」
「お土産話沢山聞かせてねー!」



 オービュロンと信濃も自分の仕事に戻る為、議事堂を出ていった。大典太、鬼丸、前田は今話し合ったことをサクヤに報告する為、神域へと向かって去っていく。
 マリィの方向を向いてみると、既に誰かと連絡をつけたようでネズに近付き、こう口を開いた。



「アニキ。これからモナさん達と買い物行ってくる。バカンスなんて初めてだし、アドバイス貰って色々準備したい」
「気を付けていってらっしゃい。お金が足りなかったらすぐに兄に言うんですよ」
「ありがと。でも多分いらん。自分の分は自分で計算して使うから」



 彼女の話曰く、これからマリィはモナと合流し色々と準備のために買い物をするようだ。確かにモナは流行にも敏感で、行動力のある女子高生だ。きっとマリィの助けになってくれるだろうとネズは判断し、危険なことだけには突っ込まないようにと念押しをした上で彼女を見送った。
 マリィが議事堂から姿が見えなくなったのを見守ったのと同時に蹲っていたキバナが立ち上がる。ようやく痛みから解放されたようだった。
 キバナはネズに納得できないという表情で詰め寄る。流石に突拍子もない行動だった為、ノボリもクダリもキバナのことを心配していた。



「キバナさん、大丈夫?」
「本気で殴ってないので大丈夫です。ノボリの誠意に免じて一発で済ませてやったんです。しかも顔面じゃなくて腹に、です。彼に感謝しなさいよ」
「大丈夫じゃない!オレさま殴られるいわれないんですけど?!」



 口調は丁寧なものに戻っていたが、未だネズの怒りは収まっていないようだった。それ程までに彼は暑さが苦手なのだ。サブマス双子がその場を離れれば、追加で一、二発腹への殴打が発生する可能性が高いことは誰が見ても分かった。
 不貞腐れるネズに、ノボリはフォローをするようにこう告げる。



「ネズさま。わたくしも暑さは苦手な方なのです。あまり不安に思わないでくださいまし」
「そうなんですか?それは意外ですね」
「電車で行う勝負での熱気は平気なのですが、どうも自然が織りなす暑さ、というものに就職しても慣れないまま今日を迎えました。地下鉄業務が長いせいもあるのでしょうね。
 ネズさまもライブやポケモン勝負の熱気は平気なのでしょう?」
「まぁ…それは、そうですね。おれがハイになってる時でもありますし。ノボリが暑さ苦手ってことは、クダリも暑さ苦手なんですか?」



 ノボリも自分は暑さが苦手だと答えた。昔から寒さは平気なのだが、夏になると他の人よりも対策を強めて過ごさなければならないと困ったような表情をして口を開く。ネズはノボリの意外な弱点を知り、意外そうに感心していた。いつもならば苦労している暑さ対策も、もしかしたら彼にアドバイスを貰えるかもしれない。そういう考えも頭に浮かんでいた。
 そして1つ、ふとネズの頭の上に疑問が浮かんだ。ノボリが暑さが苦手なのならばクダリも苦手なのではないか、と。そう問いかけると、クダリは即座に首を横に振って答えた。



「ううん。ぼくはノボリと逆。ノボリとぼく、姿かたちは鏡写し。だけど好みも体質も実は全然違う。ぼくは暑いのが平気で寒いのが苦手。冬とかベッドから出たくない」
「双子でも色々と違うんですね…。勉強になりますよ」
「雨の日や雪の日、クダリの布団を引き剥がすのに毎朝格闘を繰り返しているのです。意外と力強いもので…」
「もう!恥ずかしいこと言わないで、ノボリ!」
「いつかのケーキの仕返しです」
「オレさまも暑いの平気で寒いの苦手だから、クダリの気持ちなーんとなく分かるんだよな~。寒い日絶対布団から出たくない」
「うんうん。ぼくとキバナさん、気が合う。ベッドの中でずっとあったかいままがいい!」
「それで仕事に遅刻したら元も子もありませんでしょう?」
「それとこれとは別!」



 クダリはノボリとは逆で、暑さが平気で寒さが苦手だった。話に乗るように彼の普段の醜態を兄に晒され憤慨するクダリの姿を見て、ネズは思わず噴き出してしまう。鏡写しでロボットのような動きをする、実はアンドロイドなのではないか、とも噂されているサブウェイマスターだが、彼らはしっかり人間なのだと改めて理解することが出来たのだから。
 キバナもその意見に賛同して話がずれ始めた時、ノボリがクダリを何とか制してネズに告げた。



「実はわたくしもどういうベクトルの暑さなのか想像が出来ず困っているのです。ですので、日よけグッズや暑さ対策を今からしておきたいと考えております。もしネズさまがよろしければ、これからご一緒に買い物などいかがでしょう?
 暑さが苦手な者同士、お互い助言もしやすいとわたくし思うのです」
「そういうことなら構いませんよ。おれも丁度あんたにアドバイスを貰おうと考えていたところだったからね。ついでに服とかも色々買い揃えちまいましょう。クダリも来ます?」
「ぼくも行く。キバナさんは?」
「オレさまはいーよ。これからちょっと別の用事あるし」



 なんとノボリもネズと同じ考えをしていた。暑さ対策は早めにしておいた方がいい。だから暑さが苦手な者同士、助言をしあいながら買い物をしたいと申し出てきた。まさに望んでいた誘いを受け、ネズは即座に賛同の答えを返す。拒否する理由が全くなかったからだ。ついでに服なども買い揃えておきたいと考え、クダリも一緒に引き連れ街へ出かけることにしたのだった。
 キバナはこれからダンデの仕事に付き合う用事があった為、クダリからの誘いは断り同行はしないことになった。


 早速出発進行、と議事堂から出ていく3人をキバナは見守りつつ、1つおかしな点が増えたことにも気付いた。3人の距離感が出会った当初と比べ、急速に縮んでいるような気がするのだ。双子からのスキンシップが明らかに増えているが、ネズは満更でもない表情で手を払いのけることもしない。あの人混みを嫌い、人の好き嫌いがはっきりしているネズが、だ。
 元々性格の相性がいいのかもしれないが、キバナはそこまで考えて一抹の不安を覚えた。



「(あれ?これもしかして結果的にオレさま色々と丸投げされる気が……)」



 彼の考えが本当になるか否かは、キバナ自身にもきっとわからないことなのだろう。
 ネズから面倒なことを引き受けない未来を祈りながら、キバナも用事を済ませに議事堂を後にした。




 こうして、バカンス当日まで時間は過ぎていったのだった。

Ep.03-1【ドルピックタウンにて最高のバカンスを!】 ( No.116 )
日時: 2022/05/16 22:01
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 遂にドルピックタウンへと旅立つ日がやってきた。マリオ達から城下町の郊外にいると連絡を受け、一同は荷物を手に目的地まで向かった。まだワリオから言われた集合時間には早い為、オービュロンと信濃も見送りについていくことを決めた。
 目的地へとたどり着くと、鮮やかな桃色が生える大きなジェット機を背後に、スーパースター4人が一同を待ち受けていた。
 互いに自己紹介を終えた後、マリオはマリィににこやかに語りかけた。



「やぁマリィちゃん!元気そうで良かったよー。今日からしばらくよろしくね!」
「こっちこそお誘いありがとう。ドルピックタウン、どんなところかあたし今から楽しみやけん。思い出沢山作って帰る!」
「その節はお世話になりました。マリィのこと色々世話になると思いますが、どうかよろしくお願いします」
「そんなかしこまらなくてもいいよ~!キミ達のことはゲーム大会の一件でいい人だってのはボク達分かってるし、固くならないで一緒に楽しもう!」



 キノコ王国の双子と話し合う傍ら、田舎者4人は後ろに滞在する巨大なジェット機を再び見つめる。自分達が住んでいる世界にはこういう空路を必要とする機械は基本的にない。目的地に移動する際は、列車や船、空を飛べるひこうタイプのポケモンに頼ることが殆どだったからだ。ポケモンの力を借りれば大体のことが出来てしまう為、機体自体を見るのが初めてだったのだ。
 言葉を失う田舎者達。沈黙が続く中、マリィがぼそりと感想を漏らした。



「こんな大きな飛行機、ガラルでも中々見ないよね」
「ガラルは基本列車移動かそらとぶタクシーの二択ですからね。それに、こんな大きなジェット機があれば目立ちますよ」
「イッシュでも基本そう。列車か、船か、みずタイプのポケモンやひこうタイプのポケモンの力を貸してもらう。ぼく、飛行機なんて見るの生まれて初めて」
「ハッハー!ピーチ姫所有の凄い豪華なプライベートジェット機だからね!中も快適だし、ドルピックタウンまでくつろいでいくと良いよ!」



 マリオは彼らの感想にそう言葉を添えつつ、今回の依頼を承諾してくれたことの礼を改めてした。"スーパースター"という肩書からどんな人間なのか正直慄いていた一同だったが、意外と気軽で陽気な性格だということが少し話しただけで露見し、上手くやっていけそうだと胸を撫でおろす。
 ルイージはネズ、マリィの後ろにいるサブマス双子にも目を向け、挨拶をした。



「あ!キミ達だね、マスターハンドが言ってた"超強いポケモントレーナーの双子"!改めてボクルイージ、よろしくね!マリオ兄さんとは双子で、ボクが弟なんだ!」
「え。ぼく達の話、そんな凄いところまで届いてるの。マスターハンドって…あのおおきな手だよね。闘技大会を開催している"そうぞうしん"って、ぼく聞いてる」
「うん。あいつは強い奴に目が無いからね。ポケモントレーナーだって著名な人ならしっかり覚えてる筈だよ。勿論、ネズさんやマリィちゃんの名前もね!」
「それにしてもそっくりだねキミ達!ますます親近感湧いちゃうよ!」
「うんうん。ここまでお互いがそっくりな双子、珍しい。でも世界は狭い。今ぼくはそれをひしひしと感じてる」



 クダリとルイージは既に打ち解けたようで、笑顔で握手を交わしている。お互い明るい性格なのも尾を引いてなのか、常に笑顔に努めていることが余程印象良かったのか、かなりシンパシーを感じていたのだろう。
 その一方、クダリの隣ではノボリが震えている。ちらりと様子を見たネズがそれに気付き、ノボリに"どうしたのか"と声をかける。表情はいつものように仏頂面を貫いていたが、目が明らかに泳いでいた。表情を変えない双子の表情を見分ける為には、目を見るのが一番だ、と彼らも言っていた。



「どうしたんですかノボリ。目が泳いでいますよ」
「あの…。空の便でドルピックタウンまで向かわれる、という解釈でよろしいのでしょうか?」



 いつも堂々と大きな声で発するノボリにしては、やけに小さく震えた声色だった。何かに怯えているのだろうか、それとも恐怖しているのだろうか。こんなに委縮しているノボリを見るのは初めてだった。
 そんな彼にデイジーがあっけらかんとした表情で答える。



「そうよ。刀剣男士さんも一緒に行くんだから、公共の乗り物なんて使ったら大変なことになっちゃう。だって金属探知機に引っかかっちゃうんですもの!」
「……俺達は刀だからな…」
「こうして普通に話してても、本質は武器なんだから不思議だよな~」



 デイジーの言葉を聞き、前田は納得したように掌をポン、と叩いた。確かに刀剣男士は本体が"刀"である為、いくら人間の姿に顕現したとしても金属探知機に引っかかってしまうのは当たり前に想像が出来た。
 マリオ達はそこも配慮して、プライベートジェット機を動かすことを決めたのだろう。彼らの配慮に、刀剣男士は改めて感謝を告げるのだった。


 そんな中、震えの止まらないノボリが絞り出すように口にする。それは"得体の知れない完璧超人"だと噂されがちな双子の"小さな弱点"だった。



「実は…わたくし、空中に浮かんでいる状態が大の苦手なのです…」
「えっ?!そうなの?意外…」
「あー、うん。そういやそうだった。ノボリ、空中に浮かんでるのてんで駄目」
「幼い頃にクダリと共に庭を駆け回っていたところ、鳥ポケモンに木の上まで案内されてしまったのです。そのまま丸一日、木の上に取り残され…救助されたのは夜が明けた翌日の朝でした。あれからわたくし、宙に浮かぶ経験をするとその光景がフラッシュバックしてしまい…ああ、恐ろしい!」
「あー。成程…。飛行機が駄目なタイプなんですね」



 ノボリは"空中に浮かんでいる状態が大の苦手"だったのだ。幼い頃、鳥ポケモンに木の上まで連れ去られ、丸一日放置されたのが相当トラウマになっているらしい。今もそのことを想像してしまったのか、頭を抱えて震えていた。
 飛行機はおろか、気球や観覧車も駄目。ポケモンの"そらをとぶ"での移動など以ての外だった。クダリが思い出すように言葉を羅列すると、ノボリは恐怖のあまり叫んだ。






『それ以上はご勘弁くださいましぃ!! ああ、想像するだに恐ろしい!!』






 ノボリの ハイパーボイス !
 クダリとネズに 効果はないようだ…。
 キバナのスマホロトムに 効果は抜群だ!


 ピシ、という鈍い音がキバナの持っているスマホロトムから響いた。嫌な予感がし、思わずポケットに仕舞っていたスマホロトムを取り出すと、カバーをかけているのにも関わらず左端にヒビが入っていた。十中八九、ノボリの大声でひび割れたものである。
 声がこんなに破壊力のあるものなのだとキバナは一瞬感心したものの、すぐに我に返る。もう移動の時間も迫っている。スマホロトムを修理に出す時間も残されていない。
 バカンス中はこのままだと肩を落とすキバナをよそに、ノボリは未だ恐怖が拭えないのか頭を抱えてしゃがみこんでいた。
 彼の背中をネズが擦りながら、マリオにこれしか移動方法はないのかと一応確認を促す。マリオも申し訳なさそうにしながらも口を開いた。



「ごめんね。ジェット機しか移動手段用意してないんだ…。ボクのオデッセイ号を準備するでもいいんだけど、あれは少人数用だし…そもそも"空を飛ぶ"という用途にしては同じだし…。申し訳ないけれど、他の方法を使ってられない。
 多分向こうも待ってると思うし、遅れないうちに出発しよう!」



 マリオの声を皮切りに、ジェット機に一同は乗り込んだ。当のマリオも暫く待っていたが、ノボリが立ち上がる気配を見せない為傍にいる2人に任せ、先に乗り込んでしまった。
 ノボリも皆を待たせてはいけないという鉄道員の根性で立ち上がるものの、その表情は魂が抜けたように虚ろだった。きっと記憶を全て奪われたらこうなるのだろう、と一瞬クダリとネズは頭に考えが浮かぶ。すぐにぶんぶんと頭を横に振り、考えを散らした。
 しかし、皆を待たせていることは同じである。どうにかしてノボリをジェット機の中に入れないことには何も動かないのだ。



「腹くくって行きましょう。乗っちまえば全部同じです」
「嫌でございます!!!」
「ノボリ、みんな迷惑してる!早く乗ろう!」
「ご勘弁くださいましぃ!! 嫌です!! 嫌でございます!!」

































『―――ましぃぃぃぃぃ!!!!!』




 情けない大声を出し抵抗するノボリを、クダリとネズはぐいぐいと無理やり動かしてジェット機の中へ放り込む。
 自分達も素早く乗り込み、ドアが閉まるのを待った。そして……ジェット機は、ドルピックタウンへ向けて飛び立ったのだった。

Ep.03-1【ドルピックタウンにて最高のバカンスを!】 ( No.117 )
日時: 2022/05/18 00:29
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 広がる青空と、流れる白い雲。心が洗われるような美麗な空の景色が窓から見える。マリィ、クダリ、キバナ、前田は窓から見える空の絶景に感動していた。
 早速キバナがスマホロトムで空の景色を撮影し、自身のSNSにアップをした。現状、事情が事情の為ジムチャレンジは全面中止となっている。その為、いつもの使い方とは別に"美味しい食べ物"や"綺麗な景色"と共に彼の目線を共に追う、インフルエンサーのような行動も彼は並行して行っていた。
 色んな意味でキバナのファンは非常に多い。彼の投稿した空の景色は、瞬く間にコメントで溢れかえりネットニュースに載った。



「うわぁ…!綺麗…!」
「でしょー?アタシ、飛行機から見える青空大好きなのよね!今まで考えたことがパーッと空に飛んでく感じがするから!」
「僕も写真に残しておきましょう。帰ったら信濃と共有です」
「到着までしばらく時間がかかりますわ。景色を楽しんで、美味しい食事を楽しんで。優雅なひと時にいたしましょう」



 景色に感動している一同にピーチは優しく伝え、マリオの座っている席まで移動した。いくらジェット機が一番速度が早いとはいえ、リレイン王国とドルピックタウンの距離は相当にある。朝から出発しても、夕方までかかる見込みだ。
 道中にしかできないことも沢山ある。時間を有効に活用しようと、一同もピーチの言葉に従い各々楽しみ方を見つけることにしたのだった。






 ―――一方、彼らが景色を楽しんでいる反対側の席ではわいわいと楽しんでいる一同を残りの面子が見守っていた。席の端ではノボリがぐったりとした様子で机に屈服している。顔を上げたら叫んでしまいそうだ、となけなしの理性で必死に抑え込んでいる状態だった。
 そんな彼をネズは案じる。流石に無理やり機体に引きずり込んだのには罪悪感を覚えていたようだった。



「ノボリ…。無理やり乗せちまってすみませんね」
「いいのです…。わたくしが乗らなければ…出発できなかったのは事実でございます…。ですが…わたくしのことは…今はいないものとして扱ってくださいまし…」
「寝てていいですからね。起きた時にはきっと目的地に到着しています」
「……叫び声、外からでも機体の中にしっかり響いてきてたな」
「こいつの大声は防音も貫通するのか」



 ネズの言葉に安堵したのか、そのままノボリはすやすやと寝息を立て始めた。しばらく様子を見ていると、すぐに震えていた身体はゆっくりと深呼吸をする動きへと変化する。これならしばらく起きないだろう、そう判断したネズはほっと一息吐き、大典太に改めてラルゴから受けた依頼の件について話し合うことにした。
 しかし、大典太は人と話すのが苦手な刀だ。交渉術に関しても長けている訳ではない。確認をするにしても、自分に出来ることは限られていた。



「……町同士の連携の話だろう?依頼はされたが…正直、交渉事には自信がないんでな…。どうせ俺が話したって相手はろくに聞きやしない。陰気な奴がぶつぶつ呟いているだけだと笑われるだけさ…」
「どうして確認を促しただけでそこまで卑屈になれるのか、がおれには気になりますね。まぁ、おれも交渉事が得意という訳ではないですし。あのスーパースター達の助力を最大限受けましょうよ」
「そのことも大事だが…。もう1つ、気になることがある」



 大典太も鬼丸も交渉事は得意ではない。天下五剣で括っても、きっと言いくるめを上手く使いこなせられるのは三日月くらいのものだろう。彼らはマリオ達が積極的に協力してくれることに改めて心の中で感謝をした。
 それもあるが、と話を遮るように黙っていた鬼丸が口を開いた。どうやら気になることがあるらしい。話を促すと、鬼丸は眉間にしわを寄せたまま言葉を吐いた。



「今回依頼を受けた街。そこから刀の気配がする」
「気配?具体的に何、とか分かるんですかそれ?」
「いや、そこまでは分からん。だが…大典太に似た霊力だとは思う」
「……そうだな。それに関しては俺も気になっていた。もし可能であれば、回収も同時に試みたい」



 ドルピックタウンの方角から刀剣の気配がする、と鬼丸は言った。大典太も同じような気配を察知していたことから、街のどこかに刀があることは本当なのだろう。彼らは議事堂の頼みの他に、"本来の目的の1つ"として刀剣の回収も行っている。ゲーム大会に顔を出すと言ったのも、信濃が関わっているからが一番大きな理由だった。
 そうであれば、今回の件も会議に参加しつつ、刀剣を回収し邪気を祓わなければならない。その旨をネズに伝えると、彼はうーんと唸り自分の考えを述べた。



「でも、あんた達が探している刀って…信濃みたいに呪いがかかっているんでしたよね?」
「あぁ。あの悪神が世界中にばら撒いた刀だからな。邪気を纏っているのは確実だろうな」
「うーん…。あんた達が回収できればいいんですが、その前に誰かが触れてこの前みたいに大惨事になったりしませんかね」
「……気配を察知は出来ても、どこにあるかを具体的に察知することは出来ないからな…。俺の兄弟刀ならば、そういうことが得意だから任せられたんだが…」
「光世にも兄弟がいるんですか?」
「……まぁ。俺と正反対の、太陽みたいな奴だよ」



 ネズが危惧していたのは"大典太達が刀を回収する前に、他の誰かの手に渡る"ことだった。信濃の時も、未遂に終わったが何も知らないマリィが受け取りかけた事実がある。刀の気配がドルピックタウンのどこかにある、という情報しか分からない今、住民の誰かが手に取ってしまう可能性も充分考えられた。しかし、大典太や鬼丸にはそれ以上の察知は不得手だった。兄弟刀がいれば、と大典太はぼやくがない物ねだりをしても仕方がない。
 彼らの話を聞いていたのか、後ろに座っていたルイージが席を乗り出し彼らに話しかけてきた。



「刀でしょ?なら、目立つと思うんだよね。普段ドルピックタウンで武器なんて扱わないし。誰か回収してないか、バカンス中に聞いてみるよ!」
「……感謝する。仮に回収していた輩がいたら、一緒に解呪もするから連れてきてくれるとありがたい…」
「うん、オッケー!それに、キミ達がいい人達だって向こうが思ってくれるチャンスかもしれないからさ。そういうことなら是非協力させてよ!」



 大典太が小さく礼を残すと、ルイージは満足そうに笑みを浮かべた後顔をひっこめた。自分の席に座り直したのだろう。人の親切のお陰で今が生きられる、と大典太は改めて感慨深い思いを抱く。そんな彼を見て、鬼丸は再び不機嫌そうな顔をした。やはり彼はまだ"人間"というものを許してはいないようだった。
 大典太がここまでお人好しに変わってしまったのは周りにいる人間のせいだ。それは紛れもない事実だが、鬼丸の中で納得が出来ていなかったのだ。



「どこに向かってもお人好しはいるんだな」
「世の中そういうもんだと思って生きた方が気が楽ですよ鬼丸。何も冷たい人間ばかりで溢れている訳ではありませんし」
「(……そういう自分が一番のお人好しなのには突っ込まないんだな…)」



 しれっと自分のことをスルーするネズに、大典太は心の中でそう突っ込んだのだった。






 ―――粗方大事な話も終え、彼らも窓からの景色を眺めていた矢先だった。ガラガラと台車が転がる音が聞こえてくる。キノピオが昼食を用意してやって来たのだ。
 台車の上に置かれている食事から漂う香りに、思わず景色を楽しんでいた一同の目は惹きつけられた。



「みなさーん!昼食はいかがでしょうかー!」
「オー!待ってました!今日の昼食は何だい?」
「キノコ王国産の食材をふんだんに使用した、山の幸のコースです。どうぞご賞味ください!」



 そう言ってキノピオ達は席への配膳を始める。弁当箱の中に、山菜をふんだんに使った炊き込みご飯やキノコのあんかけがかかったふわふわの和風ハンバーグ。いい塩梅に蒸しあげられた野菜の煮物等食欲をそそるメニューばかりが詰め込まれていた。
 作りたてなのか、ハンバーグからは湯気が出ている。感動したクダリが思わず声を上げる。



「うわ。見てるだけでお腹が余計空いてきた」
「これは冷める前に食べないと失礼やね。いただきまーす」
「オレさまは食べる前に一枚…。よし、これもSNSにアップOK…」



 クダリは料理の数々に目移りしながらも、うつぶせているノボリの方をちらりと見やった。表情は腕で隠されており見えなかったが、どうやら熟睡しているのだろうということはすぐに分かった。彼は食事に手を付ける前に、反対側のテーブルの方に顔を出した。
 双子の兄のことを任せてしまって申し訳ないと頭を下げると、ネズはこれくらいいいと首を横に振った。



「ノボリ、寝てる。起こさない方がいい」
「下手に起こして叫ばれても困るんで、到着までこのままでいいと思いますよ。ノボリのことはおれ見てますんで、クダリは早く昼飯食べなさい。折角の上手い飯も冷めちまえば意味がありません」
「本当ならぼくがノボリの傍にいてあげなきゃならない。ネズさん、押し付けたみたいになってごめんね」
「いいんですよ。変なこと考えねぇでください。あんたには景色を堪能する権利も、食事を美味しく楽しむ権利もしっかりあるんです。今しか見れないんだから、全力で楽しみなさいよ。何事も真剣勝負があんたのモットーなんでしょう?」
「―――やっぱりネズさん、とってもいい人。ありがと!」



 クダリはネズの言葉を聞いた後、自分の席に戻って昼食に手を付け始めたのだった。いい塩梅に焼かれたふわふわのハンバーグの味に、思わず頬を抱える。例えだが、本当に落ちてしまいそうだと考えたからだった。
 モルペコは食べ足りないらしく、反対側の机に置いてあるノボリの分の弁当に手を出そうとしていた。気付いたマリィが制止をかける。



「モルペコ、いくら美味しいからって他の人のお昼ご飯取っちゃ駄目だからね。今、ノボリさんの弁当食べようとしたやろ」
「うら…」
「いいよ。ノボリ寝てる。起こしたら大変なことになる。ノボリの分、モルペコ食べてあげて」
「クダリさん…。ありがと。気を遣ってくれたんだよね」
「うらら♪」




 モルペコも美味しい昼食に舌鼓し、彼の満足そうな鳴き声が機体の中に木霊した。
 その後、一同は談笑を続けながらジェット機でのひと時を楽しんだのだった。

Ep.03-1【ドルピックタウンにて最高のバカンスを!】 ( No.118 )
日時: 2022/05/18 22:00
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 窓から見える夕焼けの景色が眩しい。そんな思いを胸に抱えながら、ジェット機はドルピックタウンのエアポートへと着陸した。
 そよそよとなびく潮風を受け、一同はキノピオの案内に従いジェット機を降りた。彼らの目の前に最初に見えたのは、笑顔で一同を迎え入れるモンテ族の姿だった。
 マリオも彼らの出迎えに笑顔で応じる。



「やあ!久しぶり!」
「ようこそドルピックタウンへ!今日は我々の招集に応じていただいてありがとうございます、マリオさん。私、副町長を務めております。よろしくお願いいたします」
「ううん。ボク達も久しぶりにドルピックタウンでバカンスできるって楽しみにしてたんだ!あ、紹介しておかなきゃね。後ろにいる賑やかな髪の毛をしている人達が、今回会議に参加してくれるリレイン王国の方々だよ!」
「そんな雑な説明でいいんですか」
「皆手練れのポケモントレーナーだと聞いております。ドルピックタウンはスマブラの闘技大会のステージとしても提供しています故、ポケモントレーナーの方々は存じておりますよ。今回はどうぞよろしくお願いいたします!」
「こっちこそよろしくお願いします」



 副町長と名乗ったモンテ族が前に出て、一同に挨拶をした。とても穏やかで口調も柔らかい。話に聞いていた町長とは正反対の人物だと真っ先に思った。疑問に思ったのか、町長はどこにいるのかとルイージが問いかける。その言葉を受けた副町長は曇った表情で"王国の人間などと会いたくない"と部屋に閉じ籠っているという答えが返ってきた。どうやら、王国の悪いイメージを未だに引き摺っているらしい。
 彼の言葉を受け、デイジーは憤慨したのかぷんぷんと怒っている。ピーチも少し表情が歪んだ。



「そんなに嫌悪しているとは思いませんでしたわ。わたくしの記憶が正しければ、町長さんはとても素晴らしい方ですのに…」
「直接会いもしないで偏見で物事を決めつけるなんて最低ね!腹が立って仕方がないわ!」
「噂についてはオレさま達が合流する前の話だから何とも言えねぇけど…。そんなに酷い噂が流れていたのか?」
「……あの分身が流していた噂だ。帝国の人間を信じ込ませる程の影響はあったんだろう。大帝国は向こうの大陸で一番大きな国だ。その影響が未だに蔓延っていても…まぁ、あり得る話ではある」



 デイジーの様子を見て、副町長は"お気持ち痛み入ります"と頭を下げた。謝ってほしいのは彼ではないのに、とピーチは申し訳ない気持ちを抱いた。顔を上げるように伝えた後、副町長はジェット機での長旅は疲れただろうと早速ホテルへと案内をしてくれることになった。
 どうしたらあの町長からこの副町長が生まれるのか。考えながら歩いていると、ふと右手に他とは雰囲気の違う豪華なホテルが点在しているのが見えた。自分達は今そこに向かっているのだと確信した時、田舎者4人は再び言葉を失ったのだった。


 間もないうちに高級ホテルへの入口に辿り着く。今まで外泊をしたことはあろうとも、これだけ大きく豪華なホテルに泊まった経験は無かった。唖然として黙り込むことしか出来なかった田舎者4人に、ピーチはきょとんとした表情で口を開いた。



「わたくし達がバカンスで止まったホテルですのよ。今回、モンテ族の方々がおもてなししてくださるんですって」
「王様の考えていることは全然わからん」
「分からないの当然。だってぼく達田舎者」
「恐れ多すぎて足が動きません」
「同感でございます…!」



 唖然としている4人をよそに、副町長は会議についての伝言を彼らに告げた。会議は明日の8時30分より、ホテルの中にある大会議室で行われるということ。モンテ族の重役が揃って顔を出す為、服装には気を付けてほしいということ。そして、副町長も一同のフォローに入れる時は入ると約束をしてくれた。
 それまではホテルでゆっくり身体を休めてほしいと伝え、副町長はその場を去った。



「副町長はいい人なんだけどねぇ…」
「どうしちゃったのかな、町長さん」



 副町長が帰っていく背中を見守りながら、マリオとルイージは小さくそう言い合った。









 ホテルのチェックインを済ませ、早速一同は部屋割りを決めることにした。係員からホテルのフロアマップを受け取ったルイージがにらめっこを続けている。一同が宿泊するのはホテルの3階。モンテ族が気を利かせて一番いい"プレミアムルーム"を人数分、予め準備しておいてくれたのだ。3階からは屋上テラスへの直通のエレベーターが存在している。屋上でゆったりと夜空を見るのも一興だと一瞬頭に浮かぶも、まずやらなくてはいけないのは部屋割りである。
 流石に1人で1部屋ずつ使う訳にはいかないと、彼は数人で一部屋を使うことを提案した。すると、ピーチがその声に割り込むように言った。



「3人部屋と4人部屋があるみたいだね」
「でしたら、わたくしと、デイジー姫と、マリィさんで女性陣で一部屋いただきたいのですけれど…よろしいかしら?」
「いいんじゃないですか?あなた達なら安心してマリィのことを任せられますし」
「言ってくれるじゃない?でも責任を持ってマリィちゃんの面倒見るから、どーんと任せてちょうだい!」



 ピーチは女性陣で一部屋貰いたいと提案をしてきた。勿論それに異を唱える者はおらず、すんなりと女性陣が角部屋を使うことに決まった。ネズはピーチとデイジーの様子を今まで見てきて、彼女達ならば安心してマリィを任せられると思ったのだろう。改めて"よろしくお願いします"と彼女達に頭を下げた。
 当のマリィは子ども扱いされたことに不服そうに頬を膨らませている。そんなマリィをルイージは慰めながら、男性陣の部屋割りも早く決めようと催促してきた。



「後は男性陣の部屋割りだけど…。使えそうなのはこの3部屋だね」
「では、わたくし共とネズさま、キバナさまで一部屋。大典太さま、鬼丸さま、前田さまで一部屋。そしてマリオさま、ルイージさま、キノピオさまで一部屋でよろしいかと思います」
「まぁ、それが一番安牌ですしね。キバナも構いませんか?」
「いいよ。ポケモンの不調とかもトレーナー同士ならすぐに分かると思うしな~」



 ノボリの提案に皆同意し、男性陣の部屋割りも決まった。マリオが既に部屋の鍵を受け取っていたようで、各々大典太とネズに鍵が渡る。しっかりと受け取ったのを確認し、その日は一旦解散することにした。夕食の時間が近付いてきたら、モンテ族がレストランエリアに案内をしてくれるらしい。
 一同は荷物を置きに、早速部屋の中へと入っていったのだった。




















 部屋に入った途端、ボフンという音が3人の耳に入ってきた。クダリがふかふかのベッドの前で抑えきれず、身体をダイブさせたのだ。程よい沈み方をするマットレスに、思わず頬ずりをするクダリ。そんな彼の背中をぽんぽんとノボリは軽く叩き、まずは荷物を置くことが先決だと告げた。



「お行儀が悪いですよ、クダリ。荷解きの方が先決です」
「疲れたの!10分くらいこうさせて。ちゃんと荷解きはやるから」



 仲睦まじい双子の日常を隣で見守りつつも、キバナはスマホロトムを改めて取り出す。ヒビが割れてしまったことは夢ではない、真実だということがありありに彼の目に映っていた。
 キバナの表情が少し曇ったことにノボリも気付き、キバナの方を見る。そして、彼のスマホロトムの端にヒビが入ったことに気付き、彼は直角に頭を下げたのだった。十中八九、自分の声でひび割れたことを自覚していたからだ。



「キバナさま!申し訳ございません!」
「お、おう?どうしたんだよノボリさん」
「そのひび、わたくしの声のせいで入ってしまったものなのですよね…?本当に申し訳ございません!」
「あはは…。声でスマホが割れるのはオレさま初めての経験だな~」



 故意ではなかったにせよ、他人のスマホロトムにひびを入れてしまったのは事実。ノボリは誠心誠意頭を下げた。キバナはスマホロトム自体は普通に使えるし、ヒビも端に少し入ったくらいだから気にしないでほしい、と頭を上げるように言ったのだった。
 そんな彼らの様子を見て、ネズが思わず口を開いた。



「声量のコントロールは歌う時にも必須です。今度レクチャーが必要ですかね」
「すっごくお願いしたい。ノボリ、興奮するとすぐ大声出す」
「わたくしも自覚してから気を付けるようには努めているのですが…。やはり感情が昂ってしまうとどうしても声量が大きくなってしまうのです。わたくしからも、是非!お願いしたい所存でございます」
「まずは声で他人のスマホを割らないことを目標にしましょう」



 大して気にしていないという風に答えるネズに、キバナはふと疑問を持った。ノボリは元々声が大きい。ネズは普段、人混みや騒がしい場所を嫌う。それなのに、双子とは普通に接し以前に至ってはスキンシップも満更ではない様子で受けていたのも彼は知っている。
 キバナは浮かんだ疑問をネズにぶつけてみることにした。



「なぁネズ。オマエ、結構ノボリさんと一緒にいること多いだろ?その…声の大きさとか気にしたことないのかよ?オマエのことだから"ノイジーです"とか嫌がりそうだと思ってた」
「…………」



 キバナの疑問が放たれた瞬間、ノボリの表情も曇った。ネズが無駄に騒ぐことを嫌う性格なのは、今までの交流で分かっている。彼にも近くで結構な声量を浴びせていることの自覚があった。もしかしたら表面上仲良くしてくれているだけで、本当は迷惑がっているかもしれないと一瞬でも思ってしまったからだ。
 しかし、そんな彼の不安は一瞬で払われることとなる。ネズが即座に首を横に振ったからだった。



「思ったこと一度もありませんよ。考えてもみてください。普段から駅…しかも地下で働いている人間なのだから、声量が大きくなっちまうのは仕方のないことなんですよ。駅ってそれくらい雑音がすげぇ場所なんです。
 キバナだって試合中は声デカくなるでしょう? それと同じです。開催しているライブの方が音が大きいんで、大して気にしていませんよ」
「成程な。ネズなりの理由があったって訳か」
「それに…。ノボリの声量にはおれ、正直感心しているんです。腹から自然に声を出せるということは、"歌うコツを1つマスターしている"ということですから。寧ろおれがご教授願いたいくらいだね。
 クダリもおれの歌に興味を持ってくれているみたいですし、いつかあんた達と一緒にセッションしたいと思っています」



 ネズの答えに、3人は茫然として言葉を失っていた。沈黙が続く中、ネズがジト目になってキバナに詰め寄った。人に疑問をぶつけておいてその態度は何だと。言葉には出さずとも瞳がそう物語っていた。
 キバナはネズの機嫌がこれ以上損なわれる前に、自分の思ったことを口にすることにした。



「いや、オマエの答えが意外過ぎてなんといえばいいか…」
「意外ってなんですか意外って。おれがどんな思いを抱いていたって別にいいでしょう。アーティスト目線からはこう見えることもあるんです」
「ネズさん、褒め上手でフォロー上手。それで前ぼくも助けられたからすっごい知ってる。でも、ノボリの大声そんな風に評価してる人は初めて」
「わたくしっ…嫌われてなくて…良かったっ…!」



 クダリの答えから、ノボリの大声はギアステーションの中以外では割と迷惑がられていることも少なくなかったらしい。それがノボリの表情にも現れていたのだ。ノボリの声について肯定的な評価を下す人間がこの世にいたのだと、クダリは思わず感心していた。
 ノボリに至っては自分が嫌われていないのと、声をそんな風に思ってくれていたことへの安堵で顔を覆って号泣している。


 話が取っ散らかって来たとキバナはスマホロトムの話題にレールを戻すことにした。最初に脱線させたのはおまえでしょう、というネズの突っ込みを聞かなかったことにし、スマホロトムは帰ったら修理に出すことを3人に伝えた。
 流石に今回は自分に責任があると、修理費は全部ノボリが立て替えることを約束した。



「そこまでしなくていいのに」
「わたくしの気が収まらないのでございます!修理費、わたくしに建て替えさせてくださいませ」
「ノボリ、一度言い出したら止まらない。大人しく好意を受け取っておいた方がいいよ、キバナさん」
「じゃあ…お言葉に甘えちゃおうかな」



 キバナのスマホロトムについての話題が一通り落ち着いた矢先、扉のノック音が4人の耳に入ってきた。向こうからモンテ族の声が聞こえる。どうやら夕食の準備が出来たようだ。
 4人は貴重品だけを手に持ち、早速レストランエリアへの案内を頼むことにした。



「夜ご飯何だろうね、ノボリ」
「お口にあうといいですね、クダリ」
「南国テイストたっぷりの…ってガイドブックには誘い文句がありましたが、正直想像出来ませんね」
「ガイドブックに載るくらいの料理なんだから美味いんじゃねえの~?ま、行ってみてからのお楽しみだな!」




 他愛ない話を繰り広げながら、4人はレストランエリアまで向かったのだった。
 こうして、長旅の1日目は無事に幕を下ろしたのである。

Ep.03-1【ドルピックタウンにて最高のバカンスを!】 ( No.119 )
日時: 2022/05/19 22:11
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 一同がドルピックタウンに降り立って1日が経過した。朝日が窓から差し込む中、各々準備を進め今日の会議に備えていた。既に準備を終えた面子はロビーで待ち合わせることにしている。
 最後に出てきたピーチを出迎え、早速本題の会議に参加しにモンテ族の案内に従いついて行ったのだった。


 大会議室への扉を開くと、そこには彼らを取り囲むように沢山のモンテ族が座って会議の開始を待っていた。彼らの中央に、髭を生やした厳格な雰囲気のモンテ族がいる。
 恐らく彼が町長なのだろう。一応、確認の為にマリィがモンテ族に質問を投げた。



「彼が町長さん?」
「はい、そうです。我々が住む町ドルピックタウンを仕切る町長さんです。本当はとっても優しく穏やかな方なんですが…。ちょっと頭が固いところがありまして」
「ちょっとどころじゃないと思うけどね…」



 最初に聞いた話とどこか違う。そんな感想を持ったが、雑談をしている時間はなかった。モンテ族は皆早く会議を始めたそうな空気を醸し出している。
 左側にある空いている席に急いで移動し、案内係のモンテ族に感謝を告げた後彼らは椅子に座った。それを皮切りに、リレイン王国とドルピックタウンとの協力提携に関しての会議が幕を開けたのだった。



「それでは、これよりドルピックタウン、リレイン王国両国の協力提携に関しての会議を開廷いたします。本日議長を務めさせていただきます、"ココナ"と申します。どうぞよろしくお願いいたします」
「丁寧なごあいさつありがとうございます。ボクはマリオ。今回はリレイン王国と、ドルピックタウンとの協力提携の仲介人として参上しました。リレイン王国はとても良い国だ。だから、ボクとしてはドルピックタウンと連携することでもっと魅力が跳ね上がると考えているんだよ。
 ボクが聞いた話によると、町のみんなはボクと同じ考えを持ってくれているみたいだけど…」



 自分から"フォローをする"と言ってのけたからなのか、リレイン王国側はマリオを軸として話を進めていた。申し訳ない気持ちを胸に抱えながら、堂々とした口調でモンテ族と話を進めているマリオに心の中で感謝をした。
 マリオの言葉に、会議に参加していた大抵のモンテ族が頷く。彼が事前にドルピックタウンに赴き声を聞いた訳ではないのだが、彼らはリレイン王国という国に興味を持っていた。更に、自分達の街を一度救ってくれたヒーローであるマリオのお墨付きである。そう来れば、協力提携を結んでも問題ないと考えるのが普通だろう。
 モンテ族の答えは概ね"リレイン王国との提携に賛同する"というものだった。その言葉を聞き、マリオもほっと胸を撫でおろす。
 しかし、そんな答えを一蹴する怒号が響いた。案の定、町長のものだった。



「いかん!連携してはならん!!こんな余所者風情が集まった余所者の国など、どんな悪事を企んでいるか分からん!」
「ですが町長、マリオさんもああいっていることですし…」
「マリオはたぶらかされておるのだ!リレイン王国は過去に一度、大帝国の侵攻に負け無人だった時期があるというではないか!余所者を受け入れ絆を結ぶ、と言っておきながら、実のところ自分のいいように操り、性格を捻じ曲げていたのではないか?!町民に暴力を振っていたという噂もあったではないか!!」
「何ですかそれ…。光世、この噂全部流れてたんですか?」
「……俺もリレイン王国に降り立ったのは無人になった"後"なんでな…。ただ、王と姫の様子を思い出すに…相当酷い悪評を長い間流されていたらしい…」
「何それ。酷い」
「人間というものは、悪意に染まりやすい生物ですからね…。わたくしとしても心が痛みます」



 気付かれないようにネズ達は大典太にその時の様子を訪ねていた。しかし、大典太達がこの世界に来た当初、王国は既に無人になっていた。しかし、近くの村の村長や再起を図ると伝えた時の城下町の住民の戻ってくるスピードなどを鑑みると、悪評が真実だったという云われはない。事実無根なのである。
 前田も納得できなかったのか、マリオに加勢するように口を開いた。



「それに関しては、皇帝陛下自らが事実無根だと公表した筈です。その言葉をも貴方は"嘘"だと仰るのですか?」
「そうではない!しかし、いくら風の噂だったとしても"火のない所に煙は立たぬ"と言うだろう!つまり、何かやましいことがあったからこそ王国の悪評は広まり、一時無人となったのだ!」
「そんなの決めつけよ!悪魔の照明じゃない!」
「静粛に。席に座ってください」
「デイジー姫、怒る気持ちも分かりますわ。ですが、一旦落ち着いて」
「むぅ…!納得いかないわー!」



 町長のあからさまな決めつけに一同は頭を抱えていた。偏見や色眼鏡がどれだけ国に悪影響を与えるかは、今までの経験から痛い程に知っていた。だからこそ、彼らは色眼鏡を出来るだけ付けないように努めているのだ。
 憤慨するデイジーをピーチが宥め、会議は進む。流石に町長の独裁的な言葉には副町長も難色を示し、"秘密兵器"として住民に事前に募ったアンケートの結果を公表することにした。



「町長。ですが、住民の殆どが"王国のことをもっと知りたい。提携に賛成する"という意見です。街の総意としては、リレイン王国との提携を正式に行う方向として意見が固まっております」
「フン!いくら住民風情が束になって意見を一本化しようとも、結局最終決定権は私にあるのだ。私が提携しないと言ったらしない!それが答えなのだよ」
「町長!流石にそれは横暴が過ぎます!」
「我々もリレイン王国の住民と協力し合いたいです!」
「黙れ住民風情が!!貴様らは黙って私の言うことを聞いていればいいのだ!!」
「うわぁ…。町長さんどうしちゃんだろ…」
「随分と雰囲気違うね~」



 いくら副町長や住民が町長を説得しようとも、町長が意見を変えることはない。最終決定権は自分にあるのだと横暴に言葉を連ねている。更には住民すら罵倒をし始めていた。流石の彼の言動に、今まで笑顔を作っていたマリオとルイージも苦笑いをする。
 そんな彼らにも攻撃の矛先は向いた。町長は一同を指さしながら叫ぶ。



「それに!そのトゲトゲ頭に変なモミアゲ、おかしな髪型の男、陰気な奴らに子供まで引き連れて!奴らがリレイン城下町の町長の代理だと?常人のやることとは思えぬ!」
「失礼にも程がありますね」
「僕は子供ではありません!れっきとした刀剣男士です!」
「こいつと一緒に陰気扱いされるのは勘弁してほしいものだな」
「……いや、言葉自体は合って……いひゃいぞおにまゆ」
「これ以上被害を被りたくなかったら口を閉じろ」



 なんと、町長は一同に対して罵倒をしたのだった。常々トゲ頭と言われているネズや陰気だと告げられている大典太はともかく、全員に対して言われたことにネズは眉間にしわが寄った。どれだけこの町長は余所者を嫌っているのだと。見た目だけで判断したら大損することを常々諭している側からしてみれば、町長の発言はとんだ地雷原である。
 この発言には流石に副町長も黙ってはいられず、"それは偏見だ"と言い返す。しかし、町長は思ったことを言って何が悪い、といった表情で彼らを見ていた。マリオも黙っている訳にはいかず、町長に言い返すことにした。



「正直に意見を話すのは別に構わないけどさ。キミ、一度その勘違いのせいでボクのこと誤認逮捕したの忘れた訳じゃないよね?」
「むぐぐ…!」
「そうなの?」
「そうらしいよ。ボクは一緒に行けなかったから、兄さんの話でしか聞けてないけど…」



 マリオも初めてドルピックタウンに来た際、町を汚した犯人と決めつけられ一時的に逮捕されていた過去があった。その時もピーチが弁解をしようとしたものの裁判長が聞き入れず、彼は即刻有罪になってしまったのだ。その経験がある為、今の発言がマリオとしても許せなかったのだろう。
 彼の言葉に場の空気が変わるのを感じた。やはり、マリオを誤認逮捕した事実は尾を引いていたようだった。しかし、町長はまだ何か言うことがあるのか口を開こうと動く。


 それを、まっすぐ伸びる黒いコートが遮った。






『お話し中申し訳ございません。わたくしから今回の件に関し提案がございますので、発言を許してはいただけませんでしょうか』






 部屋によく響く凛とした声。ノボリのものだった。モンテ族がマイクをノボリに渡そうとするも、寸前でクダリが阻止した。"ノボリは地声でみんなに聞こえるくらいだから大丈夫"だと。過去の会合でもマイクを渡され、悪意無しに何度他の駅員の耳を潰したかは数え切れない。いつの間にかノボリが発言をする時はマイクを渡さないのが暗黙の了解になっていたほどだった。
 ノボリはモンテ族がマイクを持ったまま席に戻ったのを確認し、すっと立ち上がりモンテ族に提言を始めたのだった。



「わたくし、サブウェイマスターのノボリと申します。現在はリレイン王国にて、手伝いという形で在籍を許していただいております。今日は、発言の場を設けていただき誠にありがとうございます。

 確かに噂というものは真実にせよ、そうでないにせよ流れるものです。しかし、それだけを擦っていては時代は何も変わりません。ポケモンと人間が歩み寄ってきた歴史があるように、国と街同士が連携をしてこそ見えてくる未来、というものもあるのではないでしょうか?

 もし我々が信用できぬのであれば、我々が"悪人ではない"ことを、我々がこの街に滞在している間にご自分の目で判断してはいただけませんでしょうか。それでもし、我々を信用出来ないと結論を出したならばそう答えを出していただければいい。
 どうか、先走った判断はお控えいただければと、わたくしご提案の方をさせていただきます

 わたくしからの意見は以上になります。ご清聴、ありがとうございました」



 はっきりと言い切った後、ノボリは素早く椅子に座る。彼の真っすぐな意見にモンテ族はうんうんと頷いて納得している。口を開こうとしていた町長も、ノボリも言葉の圧に押し流され開いていた口を閉じ紡いでしまった。
 その様子を見ていたネズは思わずノボリに関心をしていた。飛行機に怯えていたあの男と本当に同一人物なのだろうか。クダリはネズにこっそりと耳打ちをした。



「ノボリ、こういう交渉事すっごい得意。どんな人も納得させる」
「言葉遣いも至極丁寧ですし、説明も具体的。そりゃ誰もが納得しちまう訳ですね…。見習わねぇと」



 2人が耳打ちをしている最中、町長はノボリの言葉に難しい顔でどう返すべきか考えていた。しかし、表情はやはり納得していないように見える。
 悩む仕草を暫く取った後、一同に聞こえるくらいの小さな声でこう答えたのだった。



「貴様らが帰る前日までに最終判断をする。そう言ったのなら、それに相応しい行動を取るのだな!!」



 吐き捨てるように言葉を残し、町長は会議室を出ていってしまった。慌てるモンテ族だったが、一応会議は"保留"という結論に行きつき、一応の閉廷となった。
 解散するモンテ族に遅れぬように、一同も会議室を後にしたのだった。
















 会議室前でマリオはノボリに向かって頭を掻いた。本来ならば自分がフォローすべき立場なのに、結果的には彼に頼ってしまった形になったと思っていたからだった。
 そのことを告げると、ノボリは首を横に振り"自分にできることをしただけ"とまっすぐに答えたのだった。



「恐るべき程に真っすぐな兄とそれをサポートする弟。だからこそ輝かしく見えるのかもねぇ。うん、ボク気に入った!これからも仲良くしてよ!」
「いやいや兄さん。兄さんも真っすぐすぎて暴走することよくあるからね?そろそろ自覚してね?」
「え?ルイージさんもお兄さんがそうなの?」
「そうなんだよ~!兄さん、かなり好奇心旺盛でさ!気になったものにすぐ突っかかるから、止めるのに一苦労で…」
「クダリとは正反対でございますね!クダリはわたくしの案も、何とかして実現させようと場を整えてくれるのですよ」
「ノボリが楽しいとぼくも楽しい。だから、ノボリが出した案はぼくが叶える!それがぼくの役目」
「えっ…? (もしかして、この双子どっちも"常識"がどこかに飛んでいっちゃってる…?)」



 サブマス双子に一瞬恐れを抱いたルイージだったが、ぶんぶんとその考えを飛ばすように首を振った。
 何とか町長に猶予を貰ったことにまずは安堵した。もしノボリの横やりが入っていなければ、恐らくそのまま強制的に会議を終わらせられ"協力提携をしない"と無理やり事案を進められていたことだろう。



「あのままだったら町長さん、絶対リレイン王国と提携取ってくれなさそうだった。猶予が出来ただけまだよしと考えるべきじゃないかな?」
「それでもあの町長、本当にムカつくー!何よあの態度!マリィちゃんを"子供"だなんて表現しちゃって!」
「まだ子供なのは事実でしょうに…」
「アニキ!だから子ども扱いしないでって言っとるやん!」
「とにかく。まだ結論はついておりませんわ。バカンスを楽しみながらも堂々としていましょう。きっと、わたくし達の気持ちも伝わりますわ」



 ピーチの言葉に各々反応を返し、これからどうしようかという話に移る矢先だった。副町長が申し訳なさそうな顔で一同に謝罪にやって来たのだった。
 彼は一同の前に立ち、町長が無礼を働いたことに対し頭を下げて謝った。本来ならばそうしなければならないのは町長本人であり、彼ではない。顔を上げてほしいと伝えると、曇った表情のまま副町長は顔を上げた。



「お前が謝る必要はないだろ。謝るべきはあの町長だ」
「実は…町長は元々、考え方は少し古い方ですが協力提携には乗り気だったんです。しかし、二週間前から急に人が変わったように"リレイン王国の悪口を言い始めた"のです。一応、伝えておこうと思いまして…」
「……急に、か。それは気になるな」



 副町長は続ける。大典太達がこの世界に到着する以前のリレイン王国を彼は知っていた。人と人との繋がりが暖かく、優しさに溢れた街だという思いを抱いていた。それもこれも、全て王国の王と姫が尽力して街を盛り上げていたからである。そんなリレイン王国に悪評が広まったなど、副町長も端から信じていなかったのだ。



「得体の知れないおれ達をも快く受け入れてくれたんですよ? その時点で悪い国な訳ないじゃねぇですか」
「どうか、ドルピックタウンのことを悪く思わないでほしい。そして…バカンスをめいっぱい楽しんでください。何かあれば、私が代理で要望にもお答えしますので」
「そこまでやって貰わなくてもいいですよ!副町長殿の誠意は充分に伝わりました。僕はそれでいいです。気を遣ってくださってありがとうございます」




 前田が代表して感謝の言葉を告げると、副町長は再び深く頭を下げホテルから出ていった。
 彼が見えなくなったころ、デイジーが気を取り直して、と手をぱちんと叩く。その顔には"早く遊びに行きたい"とありありに書いてあった。
 一同は早速バカンスを楽しむ為、各々準備をしに部屋に戻ったのだった。