二次創作小説(新・総合)

Ep.03-s2【六つの色が揃う時】 ( No.132 )
日時: 2022/06/02 22:06
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 リレイン城下町にポケモンセンターが設立した3日後のことだった。客のかきこみ時も大分落ち着いた未の刻の頃、ネズ達はハスノが経営しているレストランにてのんびりとしたひと時を過ごしていた。
 なお、現在彼女の店にいる面子はネズを始め、ノボリ、クダリ、オービュロン、大典太、信濃といった顔ぶれだった。彼ら以外の客は出払っており、今は所謂"貸切"と言われる状態だった。


 皆思い思いのデザートを頼み、仕事で疲れた頭を癒している。ネズはレアチーズケーキと"ヒュプノスブレンド"と呼ばれる茶葉を使用した紅茶、ノボリはフレンチトーストにブラックコーヒー。クダリは如何にも甘そうな果物が沢山乗ったパンケーキにココア。オービュロンと信濃は以前燭台切に取ってもらっていた冷やしスコーンとアイスティー、信濃はそれに加えて緑茶がテーブルの上に並んでいた。大典太も信濃に習い、緑茶をゆっくりと啜っていた。



「すこーんッテコンナニ美味しい食べ物ダッタノデスネ!初めての感覚デス!」
「洋風なお店だけど和食も食べられるのはいいよね。今度食べに来ようね、大将!」
「とっても贅沢。ぼくすっごい幸せ。おかわりほしい」
「こらクダリ。あなたは普段から甘いものばかり忍ばせているんですから…。もう少し加減なさい。また健康診断でギリギリの数値を出してしまいますよ」
「ノボリは心配性だなあ。ぼく、甘い物食べないと元気が出ないの!」
「ふふふ。そんなに美味しそうに食べてもらえると僕も嬉しいな!」
「すっごい美味しい!毎日食べたいくらい!」
「クダリは甘いものが大好きなんですね。嬉しそうな顔を見るとこっちまで笑みが移っちまいますよ」
「ぼく、甘いもの大好き!いくらでも食べられちゃう!」



 クダリがそう言い、幸せそうにパンケーキを一口頬張る。まるでリスみたいだなという表情でネズは彼の様子を見ていた。バカンスの時から薄々感じてはいたが、クダリは相当な甘党である。ホテルでの美味しい食事よりも、隅に置かれているデザートの方に先に目が行っていたことも記憶に新しい。そのことをノボリにやんわり話してみると、彼は"甘いものが好みなのは結構なのですが…"と、毎年の健康診断に引っかからないようにコントロールするのが大変だということを話してくれた。


 しかし、テーブルを囲むように出されたデザートは全てハスノの奢りである。いくら城下町の人間だとはいえ、料金を払わずに食べるのは如何なものかとネズは思っていた。丁度ハスノがお茶のおかわりを持ってきた為、意を決して聞いてみることにした。



「本当に良かったんですか?ちゃんと正規の値段払いたいんですが。タダでこんな美味しいデザートいただいちまって」
「良いんですよ~!皆さんには午前中、客寄せのお手伝いをしていただきましたし~。そのお礼と思っていただければ~!」
「単におれが歌って広場に住民集めてたのを、みんなでレストランに誘導しただけのような気も。というか、いつの間におれの歌が国中に広がってたんですか? 別に悪い気はしませんが」
「……ここだけじゃない。ダイヤモンドシティでも、果てはドルピックタウンやキノコ王国でも流行り始めているぞ。あんたの新曲…」
「ネズさんの歌、とってもいい歌。流行るの当然」
「新曲も早速拝聴させていただきました!さりげなく背中を押していただける応援歌。わたくし、とても好みです!」
「そりゃどうも」



 実は彼らは午前中、レストランの客寄せを手伝っていた。その実、ネズが広場でストリートライブを開催していたのを、通りがかったノボリが"レストランに誘導すれば客寄せということになるのでは?"と思いつき、その場にいた議事堂のメンバー総出でライブ終了後にレストランへ誘導、宣伝を行っていたのだ。
 お昼時だということもあり、店は大繁盛。そのことを知ったハスノにお礼がてら店を貸切にした上でデザートを御馳走になっていた、というのが事の顛末である。


 他愛ない話をしながらものんびりと過ごしている最中だった。誰もいない筈の店の扉がからからとなる音がした。思わず音がした方向を向いてみると、顔つきの非常に似た2人の男性がドア越しに倒れているのが見えた。服はボロボロだが、紫色と桃色のパーカーだということが見てとれた。
 傷だらけの2人を見て一同は驚き、思わず席を立って彼らの介抱にあたる。よくよく見てみると、まるで双子のように瓜二つ。彼らの顔を見て、思わずノボリとクダリは"世界は狭い"と思ったのだった。


 空いているソファー席に2人を寝かせた後、彼らが目覚めるのを待つ。ボロボロだったが、致命傷になりかねない怪我はしていない為まずは話を聞こうという判断になったのだ。
 10分ほど様子を見ていると、2人同時に閉じていた眼が開くのが確認できた。きょろきょろと見回し、見覚えのある栗色のポニーテールを発見し彼らは縋りついた。



「お、オーナーっ?! どこに行ってたんですか?!」
「オーナーだ。おれは夢でも見てんのか…?」
「やっぱり一松さんとトド松さんだったんですね~!お久しぶりです~。色々聞きたいことはありますが、まずはご無事で良かったです~!」
「一松…トド松…。どっかで聞いたような…」
「……そうか。前の世界では燭台切は顕現していなかったんだな。……ハスノがこの店を構える前にいた世界で開いていたカフェで雇っていた2人だ」
「―――あぁ!思い出したよ。そういえば心配そうに彼らの名前を言っていたなぁ。名前が似ているから兄弟だとは思ってたけど、まさか双子だっただなんて…」
「……違う。あいつらは六つ子だ…」
「む、六つ子でございますか?!」
「あと4人兄弟がいるの?!」
「ガラルのジムリーダーにも兄弟が多い奴はいますけど…。そいつら全員同い年ってのは初めて聞きましたよ」



 知っている存在が目の前に現れて思わずぐずりだす2人。そんな彼らをハスノは優しく抱きしめ、よしよしと宥めたのだった。そして、彼らを落ち着かせた後まずは事情聴取を行うことにした。
 何故彼らがこんなにボロボロの状態で店に現れたのか。誰かに襲われたのが筋であろうが、詳しく話を聞かねばならないと彼らは判断していた。
 そのことを尋ねると、トド松は再び焦燥する。ここに来るまでに相当酷い目に遭ったということは表情から感じ取れた。



「知らない場所で目を覚まして…かなり南の方なんだけどさ。匿って貰ってたんだけど…急に襲われて…。怖い…怖い…!」
「ボク達無関係なのに!刀を持った連中に襲われて命からがら逃げてきたんだよ!」
「……刀を持った連中だと? 何者か名乗っていなかったのか…?」
「逃げるのに必死だったから記憶が正しいかはわからないけど…。確か"時の政府"って言ってた」
「…………!」



 トド松が発した"時の政府"という言葉に大典太は反応した。何故、彼らの口からその言葉が出てきたのだろうか。彼らは刀剣男士と関わったことも無ければ、彼らに触れたりした過去もない。六つ子だというのなら、誰かに間違われて追われていてもおかしくはないが、そもそも"時の政府に襲われる理由"が彼らには微塵もなかった。
 信濃もトド松の言葉に何か心当たりがあるようで、顔をしかめながら大典太にこう言う。



「そういえば…。時の政府については俺も何も知らないや。大典太さんを"時の狭間"って場所に一回捨てたことくらいしか…」
「……何故そのことを?」
「僕も話には聞いているよ。確か、全部の本丸にその時連携があった筈だ。"危険な霊力を持つ天下五剣を時の政府が処理した。だから安心してほしい"って。思い出せたのはそこまでだから僕も何とも言えないけど、多分どの本丸の天下五剣のみんなもいい気はしなかっただろうね」
「酷い話だね。力が強すぎるがゆえに捨てる、だなんて…」
「……俺達の霊力は、"在る"だけで世界を歪ませていくものらしい。時の政府は俺達の霊力で、自身の尊厳や居場所が無くなることを恐れたんだろう…。……真意は知らないし、俺達は幸せを全部奪われたんだがな…」



 時の政府には天下五剣にはいい思い出が無い。彼らに捨てられた過去があるからだ。しかも、信濃と燭台切の証言から時の政府はそれを"良いこと"のように触れ回っていたことが明らかになった。彼らの真意は分からないが、自分達の威厳が大事なのだということは改めて大典太の中で結論がついた。
 "今の"時の政府がどうなっているかは彼らにも分からない。しかし、トド松達を襲うような行動に出たということは放置するわけにはいかなかった。



「……世界にばら撒かれた刀剣のこともある。時の政府の動きについて何かしら知りたいが…」
「うーん。今の時の政府がどうなっているかなんて、僕達には知る由もないからねぇ。何か、きっかけがあるといいんだけど…」
「それも大事ですが、今はこの2人をどうするかを先に話し合った方がいいんじゃないですか? 襲われたことは事実ですが、今はこいつらをどうにかするのが先決です」
「それに関しては問題ありません~。アシッド社長にもお話して、わたしが改めてお二人を従業員として雇いますから!」



 時の政府がどういう行動を行っているかも気になるが、まずは一松、トド松両二名をどうするかを決める方が先だとネズが話を戻した。それに続くようにハスノが"問題ない"と告げる。彼らを再び従業員として雇うことを既に決めていたからだった。
 その言葉にトド松も一松も口をあんぐり開けている。突拍子もない発言に何も言葉が出てこなかった。



「……いいの?」
「いいんですいいんです~!城下町にも少しずつ観光客の方や来訪される方、住人も増えておりますし~。正直燭台切さんと2人で回すのは限界がき始めていまして~。ここで従業員を募集しようかなと考えていたところなんですよ~。
 ですから、もしお二人が良ければまた従業員として一緒に頑張っていきたいです~!」
「オーナー…!」
「それに、アシッド社長も安心させなければなりませんし~。ご兄弟が見つかったことは早くおそ松さんに連絡して差し上げないと~」
「えっ。兄さん今アシッド社長のところにいるの?!」
「とっくの昔に秘書業やめて逃げ出してるかと思ってた…」
「……相変わらず兄への暴言は止まないな」



 ハスノのまっすぐな目に、トド松も一松も"断る"という選択肢を選ぶわけが無かった。そもそも、自分の殻を抜け出そうとした際に手を差し伸べてくれたのが彼女なのである。そんな彼女からのスカウトを誰が断ろうものか。願いを聞き入れることを返すと、ハスノは嬉しそうに顔を綻ばせた。
 "これでもっと店も繁盛しそうだ"と喜ぶ彼女を尻目に、彼らは隣に立っているホスト風の男性を見やった。刀剣男士のことは、カラ松達を通じてかろうじて知っている程度だ。大典太とは顔を見合わせたくらいはあるが、やはり雰囲気が怖いのだろう。未だまともに話せた試しがない。


 勇気を出してトド松が男性について確認をすると、ハスノは笑顔で燭台切について話を始めた。



「この世界で目を覚ましてから、ずっとお店のお手伝いをしてくださっているんですよ~。今後一緒に働く同僚ということになりますね~!」
「"燭台切光忠"だよ。これからよろしくね、トド松さん。一松さん!」
「…………」



 笑顔で手を差し伸べられた表情を一松とトド松は見やる。自分達よりも美形なのは明らかである。そんな彼が同僚と説明され、彼らには微かな嫉妬心が生まれていた。自分達が従業員として働いたとて、花形で女性に人気を博すのは明らかに彼であろう。
 そして、彼らにはもう1つ気になる点があった。自分達を背負ってソファーまで連れて来てくれたという双子。黒と白の、対照的な車掌服を着用している彼らのことも気になっていた。彼らについても話を聞くと、ハスノは"議事堂でラルゴ町長のお手伝いをしてくださっている双子だ"と答えた。この街に常駐していることを知り、"同い年の兄弟"というアイデンティティも吸われているような感触がしていた。更に付け加えると、彼らは"美形の双子"。隣に並んだ時、周りに群がるのがどちらなのかは明白だった。



「一松兄さん。ボク達このままじゃいずれ埋もれちゃうよ。燭台切さんは同僚だしオーナーからかなり信頼されているみたいだから仕方ないけど、あの車掌っぽい双子はいつか始末しないと」
「今のうちに排除しとかないとおれ達の存在意義が無くなる…。いやおれ元々ゴミみたいなもんだけどさ」



 流石に燭台切にターゲットを向けるとハスノに何をされるか分からない為、まずは車掌の方から引き摺り下ろそうと醜い会話を繰り広げる。久々の松野家のクズ発言だった。
 そんな視線を背後から向けられているのも露知らず、当のサブマス双子は優雅にティータイムと洒落込んでいる。向かいに座っているネズには全て見えていた。後ろのパーカーの男達がノボリとクダリに嫉妬心を抱いていることを。
 ジト目で双子を見ていることに気付き、不思議そうに双子はネズに尋ねる。



「ネズさま。どうかなさいましたか? お顔が険しく見えます」
「美味しいデザートいただいてるのに、そんな顔駄目!スマイルだよ、ネズさん!」
「……後ろから物凄い嫉妬のオーラがこっちに向かってきているんですが。あんた達、何かやりました?」
「……今までいなかったものが急に現れたから焦っているんだろう…」
「あはは…。仲良くなれるかなぁ」




 燭台切も双子の背後からの嫉妬オーラに気付いており、思わず苦笑いをしていた。心配そうに自分達を見るネズに、ノボリとクダリは不思議そうに首を傾げていたのだった。




  Ep.03s-1 【六つの色が揃う時】 END.