二次創作小説(新・総合)

Ep.03-s4【翡翠の地からの贈り物】 ( No.135 )
日時: 2022/06/05 22:03
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 ―――ここは、シンオウ地方の150年程前の姿と言われている"ヒスイ地方"。ショウとノボリが不思議な旅を終えた三週間後のとある日だった。ショウは珍しくヨネに呼び出され、彼女からとある頼みを聞いていた。
 なんでも、最近発生した"大大大発生"の中で、様子がおかしいものが存在するとのことだった。詳しく話を聞いてみると、大大大発生が起きたと同時に"時空の歪み"も同時に発生しているのだそうだ。基本的に時空の歪みと大大大発生は同時に発生することはない。
 偶然傍を通りかかったノボリもヨネに呼び止められ、彼女の話を一緒に聞くことになったのだった。



「それは…おかしいですね。2つの現象が同時に発生するなど、聞いたことがありません」
「あんた達が巻き込まれたっていう不思議な時空の歪みのこともあるしさ。実際に見てきてほしいんだよね」
「それは別にいいけど…。ギンガ団に直接依頼をすればいいんじゃないの?」
「それも考えたんだけどさ。またデンボクさんがあんたに悪態をつかないとは限らないだろ? それに、今回は2人共一回この世界から消えてしまっている問題もある。いくら世界を救った英雄だとはいえ、一度抱いたわだかまりってのは中々解消できるものではないよ」
「それは、確かにそうだけど…。そもそも私もノボリさんも被害者なんだけど!」



 憤慨するショウをノボリは宥めた。確かにヨネの言うことにも一理ある。そして、各々が所属している団にこの現象が害をもたらすのであれば、早めに対処に動かないとならないと彼はショウに持論を述べた。
 自分と同じ異世界の人間なのに、どこまでも滅私奉公を貫く彼にショウは不貞腐れる。"ノボリさんは自分のことを棚に上げ過ぎです" そう思わず呟くと、彼は"ヒスイの地に助けられたのも事実です"と、冷静に切り返した。
 ヨネのまっすぐと見つめる瞳に遂に折れ、ショウは彼女の頼みを引き受けることにしたのだった。



「分かった。この現象は私が調べてみるよ。危険そうなら、それぞれの団のリーダーに伝えるから」
「ありがとう。セキにもあたしから話しとくよ」
「どうでしょうショウさま。これから出発されるのであれば、わたくしもその調査にご同行してもよろしいでしょうか?」
「え? 全然構いませんけど…訓練場のことはいいんですか?」



 セキへの連絡があるからと一旦ヨネと別れ、ムラから出る彼女を見送る。早速現地へ向かおうとしていたショウを先読みしたのか、ノボリは"自分も同行させてほしい"と申し出てきた。
 ノボリはポケモン勝負がすこぶる強い。更に、ポケモンを手懐け捕獲する才能や技術も非常に高い。ショウは彼のことを心の中で"ポケモンたらし"と呼んでいたり呼んでいなかったりする。そんな彼が同行を申し出てきたのだ。遠慮する理由はないが、1つだけ彼女には心残りがあった。
 彼は出入りしているだけなのだが、最早"師範"といっても差し支えない扱いであろう訓練場のことだった。いつもショウは自分の手持ちと共に時に厳しく、時に優しく目の前の男に特訓を受けていた。質問を投げかけてみると、ノボリはしゅんとした表情になって小さく呟いた。



「この頃、わたくしに挑戦していただける方がショウさましかおられないのです。本日、遂にペリーラさまに無理やり訓練場を追い出されてしまいました」
「あぁ…」



 ノボリの答えを聞いて、ショウは妙に納得をしてしまった。シャンデラがノボリの元に戻って来てからというもの、ノボリの勝負のセンスは更に磨きがかかっていた。戻った一部の記憶を表現するように、挑んできた挑戦者を次々に打破していく。ショウも最近の彼には負け越すことが増えていた。
 その為、ノボリを怖がりショウ以外の人物が誰も彼に挑戦しに来なくなったのだ。しかし、勝負を広める為甲斐甲斐しく訓練場に通う彼に"休暇を与えよう"と、ペリーラとカイで話し合い無理やり訓練場から追い出したのが事の顛末だった。
 ショウは苦笑いをしながらも、それならばと一緒に調査に行くことを承諾した。



「わかりました。そういうことであれば一緒に行きましょう!ノボリさんと一緒なら私も安心できますし!」
「何かご入用ならばすぐにわたくしをお呼びください。超特急でお傍に参ります。では!ヨネさまの情報を元に、現地に出発進行ーッ!!」



 ノボリの威勢のいい言葉に合わせてショウも両手を上げ、早速現場へと向かうことにしたのだった。



















 2人がえた情報の場所は"天冠の山麓"という土地にある、シンオウ神殿の付近だった。しかし、ヨネから聞いた話と自分の知っている情報とは何もかもが一致しない。この付近は普段大大大発生も、時空の歪みが起きることもない場所なのだ。しかし、2人が見たのは明らかに"大大大発生"の状況だった。その場には生息していない筈のポケモン―――ヒスイゾロアークとヒスイゾロアが大量に神殿付近を歩いている。2人であれば大丈夫そうだが、仮に一般人が近くを通りかかってしまった場合、命は無いだろう。
 野生のポケモンに気付かれぬよう木々を隠れ蓑にして神殿の近くまで移動する。そして、ショウとノボリは小さな声で話し合いを始めた。



「おかしいなー?こんなところに時空の歪みも大大大発生も起きることないのに…」
「ですが、ポケモンが大量に発生していることは事実です。ゾロアもゾロアークも普段人里には降りてこないポケモン…。一体何故ここに現れたのでしょう?」
「しかも、この近くにゾロアもゾロアークも出るはずないですよ!今まで体験した何もかもと経験していることが違います!」



 ゾロア達の様子を物陰から見ながら、ショウはそう言う。今まで経験したことのない出来事…。ショウはヒスイ地方に時空の裂け目が開いていた時のことを思い出していた。しかし、今は空に裂け目など開いていない。自分がディアルガをボールに鎮め、裂け目を閉じたからだ。"元の世界に帰る術を潰してごめんなさい"。いつか、ショウはノボリに泣きながらそう言ったことがあった。しかし、彼はそれに対しては首を振り、ただ"よく頑張りましたね。辛かったでしょう"と優しく抱きしめてくれたことは記憶に新しい。ショウがノボリと一緒に元の世界に帰ろうと強く決意したのは、そういう経緯も一因していた。



 ―――過去の思い出に没頭して10分程が経った。ふと空を見た彼女の目に、とんでもないものが映る。ヨネの報告通り、空の様子が急におかしくなったのだった。
 2人も常々経験している"時空の歪み"。見た目はそれに近かったが、ショウには普通の歪みとは違うことを一瞬で看過した。まるで、ポケモンの力で生み出されたような―――。



「時空の歪み…!でも、様子が違います!」



 そのまま歪みが発生するのを待つ。ゾロアとゾロアークは様子のおかしい時空の歪みが発生しているのにもかかわらず、逃げようとせずのんびりと歩いている。そうしているうちにシンオウ神殿を歪みがすっぽりと覆い、歪みが認識できるようになった。タイミングを図り2人で歪みの中に突入しようとするも、走り出したショウの腕を咄嗟にノボリが掴んだ。



「うわっ?!」
「お待ちくださいショウさま。歪みが…閉じていきます…!」
「えっ…。―――あっ!」



 ノボリが空を見るように促す。彼の言葉に従うようにショウも空を見やると、時空の歪みは既に無くなっていた。彼女の瞳に見えているのは、シンオウ神殿の厳かな外観だけである。
 そして、彼女は更にとんでもないことに気付いてしまった。歪みに呑まれた筈のゾロアとゾロアークの姿が全て消えていたのだ。見えているのは、しんしんと降り積もる雪景色だけ。
 ノボリにとっても想定外だったらしく、珍しく表情を崩している。



「ゾロアも、ゾロアークも、いない…?」
「嫌な予感がいたします。即刻コトブキムラに戻り、事の顛末をデンボク団長へとご報告いたしましょう。カイさまは恐らくまだ訓練場にいるかと思われますので、わたくしも同時に連絡を済ませて参ります」
「了解しました。まだ…まだ、何か起こるのかな? アルセウスを私が捕まえられていないから? それとも…別の理由なのかな?」
「ショウさま。あまりご自分を追い詰めてはなりません。いくら周りが大人だと囃し立てたとて、あなたさまはまだ子供です。限界を感じた際は、どうかお一人で解決しようとなさらないで。わたくしでもいい。周りを頼ってくださいませ」
「あはは…。そんなこと言ってくれるの、この時代ではノボリさんくらいですよ。私を…"子供だ"って言ってくれる人…」




 またヒスイに異常が起きようとしている。ショウが"自分がしっかりしていないからだ"とふと思いつめる。図鑑を早く完成させて、アルセウスに会いに行かねば異常は延々と続くのかもしれない。卒倒した表情になったショウの両肩に、ノボリは優しく両手を乗せた。
 彼女は英雄と呼ばれた存在だが、まだうら若き15歳の少女なのだ。ノボリはそれを知っていた。いくら記憶を失いヒスイの地で長年過ごそうとも、その価値観だけは絶対に理解するわけにはいかなかったのだ。
 ノボリの心配そうな顔を見て、ショウは"ありがとうございます"と感謝を告げた。そして、自分の顔を両手でぱちんと叩いた後に気合を入れ直す。"頼ってもいい"と言ってくれた人の前で弱音は吐いていられないと。



「もう大丈夫です。ノボリさん、ありがとうございます。そう言ってくれる人が1人でもいるだけで、私は1人で背負わなくてもいいんだって思えます」
「……そうでございますか。しかし、ご無理は禁物です。さあ、コトブキムラに帰還いたしましょう」
「はいっ!」




 ノボリの言葉にショウは元気よく頷き、コトブキムラへ戻っていったのだった。

Ep.03-s4【翡翠の地からの贈り物】 ( No.136 )
日時: 2022/06/05 22:06
名前: 灯焔 ◆rgdGrJbf0g (ID: jX8tioDf)

 時は現代へと移る。
 すっかり夜も更けたリレイン城下町を歩く2つの人影があった。遅番だったノボリとクダリが帰路についていた。2人の表情は明るいものであり、楽しそうに話をしながら議事堂への道を一歩ずつ踏みしめている。
 ネズ達と出会い少し時間が経った。ギアステーションに就職してからというもの、地下鉄から殆ど出ることの無かった生活。"友と遊ぶ"などという生活を送ってこなかった彼らにとっては、ガラル地方のポケモントレーナーとの日々の触れ合いが新鮮そのものだった。ネズもマリィも、最初に出会った時より随分と自分達に心を開いてくれた。その事実が2人にとってはとても嬉しいものだったのだ。



「ネズさまもマリィさまも、出会った当初より随分と打ち解けられたような気がわたくしいたします」
「うん。よそよそしくなくなった。とってもいいこと!」



 どこか気分が高揚しながらも揃った歩幅で道を歩く2人。今日はネズ、マリィと一緒に夕食を食べる約束をしていたのだ。ポケモンセンターで一旦集合し、ポケモンをジョーイに預けた後ハスノのレストランへ向かおうとしていた。友と一緒に外食など就職してから初めてだ。そんな思いが、2人の歩幅をどんどん軽いものにしていく。


 そのままポケモンセンターへ道なりに進んでいると、ふとノボリは2人の目の前の空間に違和感を感じた。
 "何かある"。そう感じたノボリは、クダリを庇うように後ろに下げ、前に立つ。



「クダリ。お下がりください」
「ノボリ!」



 また兄の悪い癖か。そう思い制止しようとした瞬間だった。ぱりん、と空間が割れる音が2人の耳に入ってきた。
 そこから吐き出されるように飛び出した"白い塊"。ふわふわとした印象のそれは、そのまま目の前に立っていたノボリの顔面にぺたりと貼りつく。想定外の出来事に、ノボリは"ふぉ?!"と、情けない声を上げた。
 クダリが兄を心配する間もなく、視界を奪われたノボリは塊の重みに耐えきれず地面に倒れてしまう。



「ノボリー!!」



 仰向けに倒れた兄を救うべく、クダリは咄嗟に白い塊を掴みノボリの顔から引き剥がす。ばたばたと暴れるそれをなんとか宥め、起き上がるノボリに声をかけた。軽く頭は打ったようだが、大事はない。帽子のお陰で軽症で済んだと彼は言い切ったのだった。
 クダリの手に収まっている白い塊は、ノボリに再び引っ付こうとじたばたと悶えている。そこで2人はやっと、その塊の正体に勘付くのだった。



「塊じゃない。ポケモン。……ゾロア?」
「しかし、白いゾロアなど今まで見たことが……」
「ノボリ? どうしたの?」
「はて。夢の中で…このような色をしたゾロアを拝見したことがあるような…?」
「("ノボリの夢"。ヒスイ地方の夢。この子…どこから来たのかな?)」



 クダリが兄に白いゾロアをそっと渡すと、彼の腕の中でゾロアは大人しくなった。どうやらノボリに相当懐いているようだ。しかし、イッシュには白いゾロアなど生息していない。ゾロアの色違いは青みがかった黒色だったはずだ。
 とにもかくにも、この道の先にポケモンセンターがある。センターにはソニアとホップが常駐している為、どちらかに会うことが出来ればこのゾロアの正体も分かるかもしれない。
 双子は互いを見やった後、ポケモンセンターへと急いで駆けていったのだった。



















 ポケモンセンターでは既にネズとマリィが双子を待っていた。ソニアもその場に居合わせ、彼らと話をしている。扉が開く音と共に目的の人物が現れ、ネズはほっと胸を撫でおろした。この双子ならば余計なことに首を突っ込みかねない性格なのをネズは最近理解し始めたからだった。
 ちなみに、ホップは"もう遅い時間だから"とネズに無理やり部屋へと戻されている。それくらい遅い時間だった。



「少し遅かったですね。……腕に抱えているその子が原因ですか?」
「遅れてしまい申し訳ございません。実は…」



 まずは2人に謝罪をした後、ノボリは帰路で起きたことについて彼らに説明をした。話をしている間も、白いゾロアはノボリの腕の中で大人しくしている。彼の腕の中が随分と気に入っているのか、かなり安らいだ表情をしていた。
 ノボリの言葉を聞いたソニアはふとはっとした表情をする。どうやら、ノボリの話に引っかかるものがある様子だった。



「何それ!アローラ地方で起きてる"ウルトラホール"って現象に似てるけど…。急に開いた穴からこの子が現れたんだよね?」
「そうなのでございます。どうやらイッシュには生息していないゾロアのようでして」
「しかも、多分この子野生ですよね? それなのにこんなにノボリに懐いているなんて…不思議です」
「アニキの時もそうだったけど、この子ノボリさんにべったりだね」
「べったりなのは何となくわかる。ノボリ、生来のポケモンたらし」
「あ、それアニキも。アニキの歌、ポケモンの心にも響くよ」



 ソニアは抱えているゾロアをじーっと見る。ガラルにも生息していないゾロアのようで、彼女は頭を抱えているようだった。しばらく考えた後、ふと何かを思い出したようにスマホロトムを漁り始めた。どうしたのかと問うと、前博士同士の研究発表会にてナナカマド博士から不思議な話を聞いたのだとソニアは話し始めた。



「そういえば、なんだけど!前にナナカマド博士にお会いした時に、"ヒスイ地方のポケモン図鑑"をちょっとだけ見せてもらったことがあるの!」
「ヒスイ、地方…」
「あれ? ネズさん、険しい顔してるけど…どうしたの? クダリさんも」
「ううん。何でもない。その図鑑が何?」
「それでね? ナナカマド博士によると、昔凄腕の調査隊の子がいたらしくて、その子が完成させた図鑑が博士の時代まで残ってるんだって。確か、その図鑑の中にこの子と似た記述があった気がする!」



 そこまで言って、ソニアは"ほら!"と1枚の写真を見せた。ナナカマド博士の図鑑のページが写真に収まっていた。確かにその図鑑の記述は、今ノボリが抱えている白いゾロアに瓜二つだった。
 つまり、このゾロアは"ヒスイ地方に生息しているゾロア"ということになる。ヒスイ地方はシンオウ地方の昔の呼び名だ。ならばシンオウ地方に生息しているのではないかと推測されるが、そうではない。時代の流れについていけず、現代には生息していないのだ。



「ノボリさんの話と合わせて考えてみると―――。もしかしたら、時空を超えて現代に飛んできちゃったのかも。シンオウ地方にはゾロアなんていないはずだし…」
「そう、なのですか。あなたさまは大冒険をしてここまでいらしたのですね」
「きゅう…」



 ノボリが優しい眼差しでゾロアと目を合わせながら、優しく頭を撫でてやる。彼は大人しく撫でられながらも、抱えている側の彼の手袋をぺろぺろと舐めていた。
 野生なのに随分とノボリに懐いている。彼がポケモンたらしで手懐けるのが非常に上手いということを除いても、初対面のポケモンにこうしてまで擦り寄られるのは傍から見て異常だった。
 とにかく、このゾロアをどうにかしないといけない。時代が違う存在の為、野生に返すという選択は出来ればしたくなかった。



「ノボリ、どうするんですかこの子」
「わたくしのことを随分と気に入ってくださったようですし、この子を手持ちに加えたいと思っております」
「うんうん、それがいい!ちゃんとしたポケモンだってわかった以上、ノボリの傍にいるのが一番!ね、ゾロア」
「きゅ?」
「困っとる。か、可愛い…」



 何かを決意したノボリは、ゾロアを一旦机の上に置いた。今まで撫でてくれた手が離れてしまい、どこかゾロアは寂しそうな表情をする。そして、彼は懐から空のモンスターボールを取り出し掌の上に乗せ、ゾロアに見せた。
 調査隊が使用していたものとは違う、鉄製のモンスターボール。見たことのない代物に、ゾロアは思わずくんくんと匂いを嗅ぐ。危険な物ではないと判断し、ゾロアは再びノボリの目を見た。



「あなたさまがいた世界では馴染みのないものかもしれません。しかし、わたくし共の世界ではこのボールを通じて、あなたさまとわたくしとの気持ちの意思疎通を行います。
 ……もし、わたくしと同じ目線に立ってくださるならば。一緒に来てはいただけませんか?」



 ポケモンを怯えさせない様、目線を合わせ優しく諭すようにノボリはゾロアに話しかけた。既に彼の気持ちは決まっていたのだろう。ゾロアはそっと額でモンスターボールのボタンをかちりと押した。ボールの中へと入り、数回揺れた後大人しくなる。ゾロアはノボリについていくことを決めたのだ。
 安堵した表情を浮かべた後、彼はゾロアをボールから出してあげた。



「きゅう」
「良かったね、ゾロア。ノボリ、とっても優しい。だから安心して。きみはひとりぼっちじゃない。ぼく、クダリも一緒!」
「見れば見る程不思議なゾロアですよね。きみもそう思うでしょう?」
「こきゅん!」
「わ。アニキがいつの間にかゾロアを出してると」
「出たがってたんで」



 いつの間にかネズもゾロアをボールから出していたようで、彼の近くまで抱っこして連れていった。そのままヒスイのゾロアの近くに下ろすと、彼らはくんくんと互いの匂いを確認した後、寄り添って寝てしまった。どうやらお互い落ち着く匂いがしたらしい。



「気が合ったんですかね。良かったです」
「同じゾロアということもあるのでしょう。ふふ…実に微笑ましい。
 ソニアさま。後ほど先程のゾロアの写真をわたくしのスマホロトムに送信してはいただけませんでしょうか? これだけ姿形が違うとなると、やはりポケモンとしてのタイプも違ったものになってくるとわたくし思っているのです」
「ガラルにもリージョンフォームのポケモンがいるし、そうなのかも。分かった、後でポケラインで送っておくね!」
「お心遣い、感謝いたします」



 そこまで話を終えたと同時に、スマホロトムを再び弄り始めたソニアのお腹が大きく鳴った。現在ポケモンセンターのフロントにはジョーイと彼らしかいない。恥ずかしい音を出してしまったとソニアの顔が真っ赤になった。
 そういえば、と双子は本題を思い出す。彼らの夕食はこれからなのだ。



「こちらの用事に巻き込んでしまい申し訳ございません…」
「ううん、いいのいいの!あたしも研究に夢中で夜ご飯食べそこねてたの今思い出したし」
「いいんですかそれ。まぁ、これからおれ達一緒に夕食食べにレストランまで行く予定なんです。ソニアも来ます?」
「え? いいの?」
「ソニアさんなら大歓迎。あたし、反対の大陸にいた時の話も聞きたい」



 どうやらソニアは研究に没頭した結果、夕食を食べずにネズ達と話をしていたらしい。腹の虫が鳴ったことで、彼女はやっと食事を取っていなかったことを思い出した。
 1人増えたところで変わりない。ネズはそう思っていたのか、何の遠慮もなくソニアを夕食に誘ったのだった。



「レストラン、まだ開いてるかな?」
「こういう時に顔パスというものを利かせるんですよクダリ。それに、今日の席は予約してあるんで大丈夫です。1人増えるくらいなら問題ないと思います」
「そう? じゃあ、お邪魔しちゃおうかな!」




 マリィがソニアの背中を押し、早速レストランまでの道を進みだした。遅れないようにクダリも歩み始める。そんな彼らの様子を見守りながら、ネズとノボリは寝ているゾロアをボールに戻し、彼女達を追いかけたのだった。




 Ep.03s-4 【翡翠の地からの贈り物】 END.